『桃花源伝 第一話』作者:千村虹子 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 広大な国・桃花源(とうかげん)。そこには一人の王が存在した。

 王はこの世の全てを知るという聖石の守り人だった。

 その為、王は多くの人間から命を狙われた。

 聖石を手に入れようとする者。王を憎む者。新たな王の座を狙う者。

 これは第五十四代目に当たる王の物語である。

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 第一話 「雨龍という旅人」

 首都・燕里(えんり)。ここは様々な人間が集まる、国中で最も栄えている街である。大通りを歩くと、一日に一度は誰かとぶつかる。そのくらい人通りが激しいのだ。
 その中に、一人の男が混じっていた。彼の名は雨龍(うりゅう)。ついこの間山から下りてきたばかりだった。所々擦り切れた黒っぽくて長いフードを目深に被り、そこから下の身体もすっぽりと覆っている。そのせいで彼の服装は見ることは出来ないが、歩く度に腰の両脇に下げた一対の刀だけは垣間見ることが出来た。

 こんななりをしてはいたが、彼には野心があった。それはとても果たせそうにない、大それた事だったが、彼はその為だけに生きてきたようなものだった。わざわざ遠い都まで出向いたのもその為だ。

 彼は少し歩くと、土埃のたつ道を横切って一軒の飲み屋に入って行き、ビールを注文した。そしてその時、ようやくフードを取った。
 雨龍はまだ少年と言える顔つきだった。年の頃は十六、七だろうか。短い漆黒の髪に、切れ長の目の瞳の色は燃えるような赤だった。
 ふと、雨龍は胸元に手を持っていき、服の下から何かを取り出した。それは彼の服装にはおよそ似つかわしくない、美麗な指輪だった。
 細い輪の側面に細かな金の龍の細工がしてある。雨龍はそれを少し錆びた鎖に通して首にかけていたのだ。彼が指輪を少し傾けると、指輪は光に反射してきらりと光った。
 その時、一瞬だけ雨龍の紅蓮の瞳に悲しげな光が生まれた。が、それは注文したビールを運んで来た店員によって遮られる。
 ビールをテーブルに置き、去っていこうとした店員を雨龍は引き止めた。
「何でしょうか?」
「一つ聞きたいんだが・・・王宮に行くにはどの道を行けばいい?」
 それを聞いた店員は何かに納得したようにああ、と手を叩いた。
「お客様、さては王様を垣間見ようとなさっているくちですね?」
 雨龍はいや、と言いかけたが、口を噤んだ。話がややこしくなるのを避けたのだ。まあそんなものだ、と適当に誤魔化した。
「王宮ならこの大通りを真っ直ぐ歩いていけば正門に着きますよ。いい時期にいらっしゃいましたね。もう少しで鎮魂祭(ちんこんさい)ですから、本当に王様に会えるかもしれませんよ。」
 愛想良く笑みを浮かべながら話す店員を見ながら、雨龍はもし彼が自分の本当の目的を知ったらどう思うだろう、と考えた。きっと腰を抜かすに違いない。
 しかし、いくら相手の反応を見たいからと言って、本当の事を話しては元も子もない。雨龍は簡単に礼を言うと、代金を払って店を出た。

 外に出ると同時に、再びフードを目深に被る。季節はもう直ぐ冬。こんなボロ布でも、多少は肌寒さから雨龍を守ってくれた。

 雨龍は歩き出した。

 店員に教えられた王宮への道。

 もしかしたら、今日が自分の最後の日になるかもしれない。そんな事を頭の隅で考えながら。

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2004-03-01 14:20:42公開 / 作者:千村虹子
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初投稿です。皆様の素敵小説に触発されて書きました。感想、厳しいご意見、どんどんお待ちしています!
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初めましてー。こういったところの小説は言ってみればたくさん小説が並んでいる商品棚みたいなものでいかにして読んでもらうかがかなり重要です。で、タイトルがすごく重要で「あ、面白そうだなぁ」と思えるようなタイトルにするととりあえずはクリックしてもらえますwで、次に最初の5行くらいでさらに面白そうだな、続きが気になるな。などと思わせられたらこっちのものですwと、これはできるだけ多くの人に読んでもらいたいという人のための技なので千村さんは別にたくさんの人に読んでもらわなくてもいいです。というのならば今のアドバイスはなかったことに。それでは頑張っていってください
2004-02-29 10:25:07【★★★★☆】風
計:4点
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