- 『続繰夢』作者:磔宮罪 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角2534.5文字ピ、ピ、ピ、ピ
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原稿用紙約6.34枚
その人が、まだ生きていることを証明する電子音が鳴り響く。
ピ、ピ、ピ、ピ
この人は、今夢を見ているのだろうか。見ているのならどういう夢を見ているのだろう。
「谷崎先生。」
僕の名前を呼ぶ声がする。振り向いた先には白衣の天使が立っていた。
「何でしょう。」
「どうしましたか?なんか、思いつめたような顔していましたから。」
僕のことを心配してくれてるようだ。
「大丈夫ですよ。ただね・・・」
「ただ?」
「この人は、今どんな夢見てるのかって思っていたんです。」
「ああ、この前アパートから飛び降りた患者さんですか。」
「うん。」
先日、あるアパートから彼は飛び降りた。幸い雪がクッションとなり一命は取り留めたのだが、意識がもどらず昏睡状態のままだ。
現場には遺書も見つからず、計画的な自殺ではなく、突発的な自殺と推定され警察は去っていった。
僕にはそうは思えない。なぜだろう。わからない。
「では、私は帰ります。」
「ああ、お疲れ様。」
看護婦は帰っていった。
ピ、ピ、ピ、ピ
電子音はなり続ける。
なぜ起きないんだ。どこも異常は見当たらなかったんだ。なのに何で目を覚まさない。なぜなんだ。
「教えてあげようか?」
!誰だ。この部屋には、ぼくと患者しかいないはずなのに。
「誰だどこにいる。」
「目の前にいるじゃないか。」
目の前には、今まで昏睡状態だった彼が、ベットの上に座っていた。
「意識が戻ったのか。よかった。いま看護婦さんを呼んでくるよ。」
「その必要はないよ。」
彼が僕の行動を遮った。
「だって今、この病院、いや、この世界にはぼくらしかいないんだから。」
「何を言っているんだ?現にさっきまで看護婦が僕の横にいた。」
彼は、頭を強く打ったのだろうか?
「まだ、分からないのかい?」
僕はだんだん今まで感じたことのない恐怖を感じていた。まるで自分の存在自体を否定されてるような・・・僕のすべての意思を拒絶されたような感じだ。
「周りを見てごらん」
ここは病室ではなくなっていた。ただの白い空間だった。どこまでも・・・果てしない無の空間。いや、虚無というべきか。
!
「夢の世界へようこそ。いや、それとも『狂気の世界』と言った方がいいかな。」
なんだここは・・・ぼくは夢を見ているのか。
「夢なんだよ。」
ぼくの心の中を見たように彼は答える。
「問題。」
彼は、この状況に困惑している僕に構わずいきなり問題を出しはじめた。
「僕の名前は?」
「そんなの簡単だ。君の名前は・・・」
あれ、分からない。何で・・・
「分からないでしょう。」
何でだ・・・
「問題2」
僕の困惑した顔を満足そうに見て二つ目の問題を出題する。
「君の名前は?」
「そんなの聞いてどうする、わかるに決まってるじゃないか。僕の名は・・・」
あれ、分からない。どうして・・・僕の名前だぞ。忘れたでは済まされないぞ。ではなぜ分からないのだ。 なぜだ・・・・・・
なぜだ、何故だ、ナゼダ、なぜだ、nazeda、何故だ、ナ、ゼ、ダ・・・
僕は今まで感じていた恐怖が狂気になるのを感じた。
「どんなに、考えても思い出せないよ。」
彼はそれが当たり前のように言う。
「だって、僕は君だから。」
「?」
「正確に言うと、君は、ぼくの虚映だ。」
どういうことだ・・・
「鏡を見てごらん」
いつからあったのかそこには鏡があった。その鏡で自分の顔を写す。
そこには僕の顔ではなく僕の患者であった彼の顔が写っていた。
「ぼくが君で君がぼく・・・」
彼が歌うようにささやく。
医者の僕が診ている患者が僕で、患者である僕が診てもらっているのが医師の僕・・・
理解した。すべてのピースが噛み合った。そういうことか・・・アパートの屋上から飛び降りたのは・・・
僕だ。
なんだそういうことだったのか。なんだか難しい数式が解けたようなさわやかさだ。
なんだ、まだ夢の続きだったのか。
ふふふふふふふふふふふふふふ
まだ、ぼくは目が覚めないのか。いいや、このまま夢の住人になるのもいいかもしれない。
フ ザ
フ ア
フ ア
フ ア
フ ァ
フ ァ
フ ・
フ ・
フ ・
気づいたら、ぼくの体が砂のように崩れていっていた。でも怖くはない。また、夢を見るだけなのだから。
ふふふふふふふふふふふふふふ
もう、体は完全に崩れ去り意識だけの存在となった。
彼がにこやかな笑顔でぼくの消え去るのを見守っている。
おやすみ・・・僕。
僕の意識が完全に消え去る時に最後に聞いた彼の言葉は
「おやすみ、ぼく。」
だった。
すべてが消え去り、残ったのは入院患者の格好をしたぼくと、ベットだけだった。
「起きれなかったか・・・死ねもしなかったか・・・」
夢はいつまでぼくを狂気の世界に閉じ込めとくつもりだろう・・・ぼくが衰弱死するまでかもしれないな。
まあそれも一興、気長にまとう。本当に目覚められる日を。それまで、いい夢でも、怖い夢でもこの狂気の世界を存分に楽しんでいよう。
「寝よ。」
ぼくは布団にもぐりこんだ。
本当の朝を迎えるために
fin
- 2004-03-18 12:25:43公開 / 作者:磔宮罪
■この作品の著作権は磔宮罪さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
・・・修正しながらも一回ちゃんとした話にします。
てなわけで、『繰夢』の続編です。途中から話がおかしくなってきましたね。修行不足でしゅ。がんばります。
前回の話で二人の人が読んでくれました。感謝。(あえて名前は控えさせてもらいます。プライバシーとかあるでしょ。)その人たちの感想を読んでへこんだり元気になったりしました。ありがとうございました。謝謝。これからももっと多くの人に読んでもらえるようがんばりまっす。
てなわけで、磔宮罪でした!
- この作品に対する感想 - 昇順
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初めまして。不思議な感じの世界感がとても素敵です。主人公が自分に語り掛けるところも素敵だと思いました。
2004-02-29 13:41:42【★★★★☆】蒼矢計:4点
- お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。