『超能力少年1〜4』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 僕は、ネット回線上に住む亡霊といわれる存在だ。でも、元々生きた人間だった。そして僕は多分そのうち蘇る。だけど今はここでその時をじっと待っている。
 何故ここにいるのかっていうと、コンピューターのデータの中に自分の意識を閉じ込められたからだ。僕はネット回線上をさまよいつづけて、このホームページにやってきた。
 元々のパソコンの中だと別の凶悪な意識がさまよっている。僕はそいつに殺されてしまうから逃げつづけている。
 え?言ってることが分からない?そもそもなんでそんな状況になってしまったか?う〜〜ん、最初から話せばもの凄く長くなるんだよ。聞く覚悟のある人だけ聞いてくれ。それじゃあ、話そうか。
 
 
 1

 この世界は、狭い。現実は、醜い。
 魔法や大冒険、まか不思議な現象。そんなものは、物語の世界で、現実は違う。学校に行きながら、平凡な日々を送る。これが現実なんだ。
 いくら小説や物語にはまっても、それはありえない話だ。現実ではない。大体、理屈では説明がつかない。どうやったらあんな魔法が使えるっていうんだ?誰か、答えられる?……そら見ろ。無理だろう?僕はおはらいとか占いとか、そういうの大嫌いなんだよ。

 14歳のある日までは、ずっとこう思ってた。周りから見れば僕、おかしいよね?子供の頃はずっと信じていなかったことを、14歳になってから信じるなんて。でも、僕は体験した。理屈では説明不可能の現象は、あった。
 いや、一応理屈では説明がつくのかもしれない。ただ、その力がどこから来るのかが分からないだけで、何故起こるのかということは分かっている。あの日のことは一時とも忘れたことがない。

 その日の朝、僕は目を覚ました。奇妙な夢だった。誰かが何か訳の分からないことを語っていたっけ……。
 僕はしばらくぼーっとしていたが、母さんの声でふっと我に返った。(いつまでぼーっとしてるの!)
「朝ご飯できてるよ!」階下から母さんの声が轟いた。これ以上うるさいことを言われたくはない。僕はさっさと着替えて下に降りた。
 朝食はご飯とおひたしと納豆だけだった。恐ろしいことに納豆と野菜は僕の大嫌いなものワースト3に入る。
「これ、いやがらせ?」僕はイライラした口調で言った。
「ごちゃごちゃ言わないの。あんたは、ちゃんと食べないからチビでやせてるんだよ。ついでにその寝癖もちゃんとのしていきなよ」
「もう時間ないんだよ」朝ご飯の大半を残して、僕は眼鏡を探した。
「僕の眼鏡どこ!?」
「そんなもんしらないよ。あ、あれだよあれ」母さんが指差したテレビの上に、僕の眼鏡が乗っていた。
「忘れ物ない!?」
「ない」僕は確認もしないでそう答えた。
「歯磨きは?顔洗ったの?」
「洗ったよ」僕はすぐに嘘をついた。今日の母さんはいつもに増してうるさい。早くこの場から離れたほうがよさそうだ。
「じゃあ、行って来る」

 家の前にはもう親友の平井英康が待っていた。
「遅いぞ」英康がからかうように言った。
「うるさいな」
 これが僕達のいつもどおりの朝だった。どんな時でもいつもと変わらない朝はやってくるけど、その日がいつもと同じとは限らない。
「お前、馬鹿だな」英康が突然言った。
「何?なんだよいきなり」あまりに唐突に言われたので僕は言い返すことも出来なかった。
「寝癖」英康が僕の髪の毛を指差した。
「え?ああ、母さんに続いてお前までそんなこというわけ?僕の寝癖なんていつものことじゃ――」
「違う。お前、今日の一時間目の授業、なんだか分かってるのか?」
「知らない。何?」僕はすぐに尋ねた。英康は半ば呆れたように僕を見た。
「社会。地理だよ」英康が絶望的な声を出した。
 僕はその場で立ち尽くした。そこで鳴いている鳩の声が辺りに響いた。
「え……嘘……?」
「嘘言ってどうすんだ。上田(先生)の奴……お前を集中攻撃するぜ」
「やばい……」僕は呟いた。その時僕の顔からは血の気が引いていたと思う。
 何故そんな顔にならなければならないかというと、上田は生徒指導担当のため、寝癖、名札なし、シャツ出しなどといっただらしのない格好を許さないのだ。彼の授業をそんな格好で受けたらその人物は質問攻めになってしまう。質問に一問でも答えられなかったら即お説教だ。しかも奴はそのお説教をかなり楽しんでいる。そしてその犠牲者は僕になりつつあるのだ。
 いやだ。そんなこと、絶対にいやだ。
「ヒデ、どうしよう……」僕は名札も忘れていた。寝癖を解決しても名札はどうにもならない。
「名札とりに戻れば?」英康が無責任なことを言った。そんなことをすれば遅刻する。そして門番は上田だ。遅刻なんてしたら名札忘れよりもひどいことになりそうな気がする。「この際、学校を休んじまえ!」またまた無責任。僕の母さんがそんなことを許すわけがない。
「いいよ、僕、今日はもう覚悟する……」僕はこの世の終わりという顔をしてみせた。

学校に着いた。もう上田のことは考えたくない。なのに上田の授業のある日は皆いつも上田の話ばかりするのだ。それはいつも決まっていた。
 しかし、今日は珍しいことに違った。皆、他のことに夢中になって話していた。
「何話してんだ?」英康が話の一団に向かって尋ねた。
「透明人間だよ」
「透明人間!?」僕は思わず叫んだ。
「そうさ。お前、こんな大ニュース見逃したのかよ」坂本が今朝の朝刊を見せた。僕はすぐにそれをひったくって読み始めた。

 天野教授、透明人間の薬を開発
 昨夜の某学会にて、某大学の天野博教授が、透明人間になる薬を発明した。これは、人体の色素を全て分解することによって、色素を消す方法を見出したことによって作られた薬である。始めは学会の教授たちも信じていなかったが、助手の大神薫さんがその薬を飲んで数分後、体の色が薄くなり、ついには無色になったのを見て、人々は歓声をあげた。写真がこの時のじょうきょうである。洋服だけが浮いているように見えるので、我々の言っていることが真実だということが理解できるであろう。
 天野教授はノーベル賞確実と……。

「すげえ!」僕が叫んだ。もう上田のことなど頭から吹っ飛んでしまっていた。
「でも、この薬、何に使うのかな?」
「あれだろ、警察の尾行の時とかに使えると思うよ」坂本が言った。
「俺達も一回飲んでみたいな……」
「そりゃ、多分無理だよ」英康が言った。
「犯罪に使われたらアウトじゃん」

 その後、この話題のお陰で、上田のことが吹っ飛んだと思っていたら、一時間目はすぐに始まってしまった。

 上田が入ってきた。威張り腐ったその態度。教室の空気が一気に重苦しいものに変化した。
「えーー……号令は?」上田が言った。日直が慌てて号令をした。
 僕は自分の寝癖を思い出し、なんとか髪をなでようとしたが、遅かった。既に上田の目は意地悪くギラリと光っていた。
「はい、じゃあ、それでは5問ほど問題を出そうか?いわゆるミニテストだ。そうだな……君に頼もうか?そこの寝癖の名無しくん」上田がこちらを指差して言った。わざと僕の名前を言わないんだ……。馬鹿にしようとしてる……。
「コートジボワールの特色を述べてみろ」上田がニヤリと笑った。
 え?何?教室中がそんなムードに包まれ、ざわめきが起こった。
「静かに」皆シーンとなった。
「名無し君の答えが聞こえない」
「え……と、あの……その……」僕はもごもご言った。
「答える時には立って答えろ」上田の目は相変わらずギラギラしている。僕はゆっくり立ち上がった。
「ん?聞こえないな」上田が言った。誰かの鉛筆が落ちた音がした。
 僕は各語を決めた。
「分かりません」
「前に来い」上田がすぐに言った。
 僕はおそるおそる前に進んだ。周りの視線が痛い……。
「ここの範囲を今日の授業でやるということは、前の授業で言っておいたはずだ。予習はしなかったわけだな?え?名無し君」
 ……なんで僕はここで怒られているんだ?髪をとかさず、名札をつけず、質問に答えられないだけのことがそんなに悪いことであろうか?
「名札はない。髪もとかさない。質問にも答えられない。平井君。君のような優等生がこんなだらしのない奴と一緒にいると頭がおかしくなるぞ。いや、こいつと付き合ってる時点で既におかしいがな」
 僕は体のそこから怒りを感じた。何も英康にまでふることはないじゃないか……。怒りのあまりからだが熱くなってきた……。知ってるよ。生徒が先生に抵抗しちゃいけないことくらい……!くそ……!その時、僕の怒りは極限を超えた。
 目の前が真っ赤だ。目の前の風景が赤い透明のガラスがかかったように見える……。
 僕はその時見た。恐ろしく奇妙なことが起こっているのを。皆の教科書が浮いていた。透明な赤のガラスがかかっていても分かる。皆の教科書が浮いている……!いや、教科書ばかりではない。ペンや筆箱もだ……。上田も、クラスの皆も、恐怖そのものという顔をしていた。
 次の瞬間、浮いていた物体が全て勢いよく上田に直撃した。上田が悲鳴をあげた。床に落ちた物体もまるで磁石のように上田にぶつかっていく……。しかも、別の教室からも教科書やらペンやらが廊下を通じて上田に直撃している……。ついには、学校の敷地内にあるイチョウの木の葉までもが勢いよく上田に突進していた。
 上田は耳をつんざくほどの悲鳴をあげて、教室から飛び出した。しかし、磁石と化した物体は上田を追いかけつづけていた。
 僕はその場で床に倒れた。……疲れた……。こんなに疲れたのは、生まれて初めてかもしれない……全身が、痛い……なんだろ、これ……。周りの風景が……ぼやけて……。
 僕はそのまま気を失った。 


 2

 僕はガバッと飛び起きた。何分眠っていたんだろう……10分……いや、15分か……? 僕は保健室のベッドの上にいた。記憶はハッキリしていた。よくあることのように、目覚めたらしばらくぼーっとしているなんてことはかけらもありはしなかった。
 怒り……赤いガラス……そして――僕は吹き出した――あの悲鳴をあげていた上田の馬鹿馬鹿しい姿!
 全てが鮮明に思い出される。きっとまだそんなに時間は経っていない。上田はまだ逃げているだろうか?
 僕は時計を見てみた。そして呆然とした。驚いた事にもう午後の6時。あれから9時間は経っていた。
「なんで?」僕は思わず呟いた。その時、誰かがこっちに近づいて来た。
「おや、起きました?」保健の大船先生だった。
「ただ気を失ったように見えましたけど、あまり起きないから、病院に連れて行こうと思ったところでしたよ……。お母さんに電話しても誰も出ないし……」
「僕、なんともないですよ」僕は立ち上がって見せた。
「そうみたいですね。上田先生がぎゃあぎゃあ騒いでましたよ。『どうしたの』って聞いても皆、変なこと言って……。『教科書が浮いた』とか……」大船先生はぶつぶつ言った。
 僕は慌ててバッグを取った。
「それじゃあ、僕、帰ります」
「そうですね、もうおそいし……」
 保健室から逃げるようにして出て行きながら、僕は考えた。
 ――一体、なんだったんだ?教科書が浮いて、上田に当たって……。僕も含めた皆がおかしな幻でも見ていただけであろうか?それとも――。そこまで考えて、僕は頭を振った。
 そんな馬鹿な話があるもんか。魔法やおかしなことなんて全然信じないはずの僕がこんなことを思うなんて、どうかしている。
「おい!」背後から声がした。英康が駆け寄ってきていた。
「部活終わったの?」僕はなるべく普通の調子で尋ねた。
「部活?おい、違うだろ。そんな話題よりもっとすごいことがあるだろ」
「何?」僕はとぼけた。
「今朝のお前だよ!一体何をしたんだ?お前の顔ときたら凄かったぜ。目が真っ赤になって、ものすごい形相でさ……」英康は興奮していた。目が輝いている。僕はこれ以上とぼけるのは無理だと感じた。この現実と向き合うしかなさそうだ。
「僕は何もしてないよ。何が起こったのか、僕が知りたいよ。とにかく、変てこなんだ。目が覚めたら、なんか数分間しか寝てないような感じでさ……」
「寝ていることにも気が付かなかったんじゃないか?疲れすぎの時はそうなるんだ。つまり、だ。あのお前の力には、そういう何かがあったんだよ……いや、俺もよく分からないけど……」
「僕、何もしてないってば!」だんだん腹が立ってきた。
「なんかやったんだって。いいかげん認めろよ。お前がキレたのと、あんな魔法みたいなことが同時に起こったなんて、そうとしか考えられないだろ?」
 英康の話に筋があるのは分かっていた。ただ、認めたくなかった。
「……第一、理屈で説明できないじゃないか……」
「まあ、こんなことは二度とないかもな。時間が経てば、皆忘れるかもよ」英康が適当に言った。途端に、僕の舌が一気に回りだした。
「そうだ!皆!皆、なんて言ってた?俺のこと気味悪がってなかった?」
「ん、いや、その逆だ」英康はニヤリと笑った。
「皆、爆笑してたぜ。上田のあの様子を見てな。そりゃ、何が起こったのか、不思議に思ってはいたさ。でも、お前が変な力を使ったからってお前のこと嫌ったりしないさ。別にお前は狂った非行少年ってわけじゃないだろ」
 ここで、タイミングよく僕の家が見えたので、英康から目をそらせるチャンスができた。
「じゃあ、また明日」僕は言った。
「おう。じゃあな」英康はそう言うとさっさと自分のうちに帰っていった。

 その日は、とてつもなく変な一日だった。これでこの日のお話しは終わり……かと思いきや、まだ変なことが残っていた。

 居間のテーブルに今日の夕刊が置いてあった。ぼくは何気なく新聞を見た。すると、とんでもない文字が目に飛び込んできた。

 「天野博士。何者かに殺される」

「えーー!?」僕は思わず叫んだ。そして記事をもっと詳しく読んだ。
「今朝の朝刊で透明人間の薬を開発したとして一躍脚光を浴びた天野博士が今日殺された。遺体は博士の研究室にあった。博士が研究を重ねた透明人間の薬の調合の仕方が書いたレポート、試薬、その他が消え去っていたことから、警察はこれを強盗殺人と断定した。また、昨夜某学会で博士の助手を務めた大神薫さんも失踪した。警察は大神さんも遺体こそ見つかっていないものの、殺された可能性が高いと見ている。遺体が見つかっていないのは、大神さんが透明人間の薬を飲んだまま殺されたか、殺されてから透明人間の薬を飲まされたかのどちらかだからであろう。いずれにせよ、透明人間の薬の効果が消え次第、大神さんの遺体は見つかるはず……」
 僕は新聞を置いた。馬鹿な……どうして……?
「母さん!このニュース聞いた?」
「あたりまえじゃない。母さんはね、そういうことに敏感なの。もうご近所の皆さんとそれについて議論してきたところよ」
 それで今日大船先生が電話してもうちにいなかったわけか……そう思ったが、僕は口には出さずに、母さんの話を聞く事にした。
「……それで、向かいの寺山さんね。あの人、変な人に見えるけど、実は大学の教授で天野博士の親友だったんだって。寺山さん、めちゃくちゃに大声で泣いてたわ。『復讐してやる!』だとか、『この研究が成功すれば、奴を殺す事ができる!』とか狂ったように叫んで……気の毒ね……」そう言いながらも、母さんの目は輝いていた。ご近所の詮索が趣味なのだ。
 とは言ったものの、僕は寺山さんの話が聞きたくてしょうがなかった。何故かって?ただの好奇心だよ。
「ちょっと、出かけてくる」
「また立ち読み?」母さんは呆れたように言った。
「うん、まあ」僕は曖昧に答えた。そして、すぐに家を出た。
 
 寺山さんの家の前に来て、やはりやめようかと思った。そこは気味が悪い西洋風の建物だった。小さい時に英康と一緒に肝試しでここに忍び込み、寺山さんに怒鳴られた記憶がある。
 その時、英康が僕の肩をぽんと叩いた。僕は飛び上がった。
「考えることは一緒みたいだな」英康はニヤリと笑った。
「さあ、行こうぜ」
 僕の気持ちも知らず、英康はインターホンの前までずんずん進んで行った。
「ちょっと、ヒデ……」と僕が言いかけたが、おそかった。既にヒデはチャイムを押していた。
「誰だ」気味の悪い、しわがれた声がスピーカーから響いた。
「えーと、寺山さんの研究の内容を聞きにきたんですけれど……」英康が嘘をついた。そんなことを言って、あの偏屈じいさんが僕らを入れてくれるわけがない……と思ったが、次の瞬間「入れ」という声とともに扉が開いた。
「おふくろに聞いたんだよ。寺山さんが『この研究を警察に聞いてもらえば、すぐに犯人を逮捕できる』って言ってたのを。だから話し相手が欲しいんじゃないかって思ったんだ」僕の当惑した顔を見たのか、英康はそう説明した。

 屋敷の中は意外と普通だった。中に入ると、寺山さんがそこにいた。やせ細った体つき。そして、涙もかれたような顔だった。
「ガキか。まあいい。俺の研究を聞きにきたんだな?まあ、そこに座れ」
 僕らはおずおずとソファーに腰掛けた。
「俺の研究は、不思議な力ということだ。研究の理論は大体出来上がっている。あとはサンプル、つまり、不思議な力を使うものを探すだけだ」
「え?」僕の口から思わず声がもれ出た。今日あんなことがあったんだから、それも当然だろう。
「……どうかしたか?」寺山さんの眉が不信そうに動いた。
「いや、別に」僕はすぐに嘘をついた。
「それより、その理論というものを、聞かせてください」英康がうまく話題を変えてくれた。
「いいだろう。不思議な力だ……。俺は一度そういう力を使う人間に出会ったことがあってな……今は死んじまったが……。その不思議な力って奴は……俺がそいつを見ながら考えた上でいうと、これは『超能力』だ。人間には、生まれた時から『潜在能力』って奴を持っている。これは火事場の馬鹿力とかいうように、焦り、恐怖、不安、怒り、悲しみ……といった急激な感情の変化によって起こるんだ。しかし、ごく稀に、一部の人間はその『馬鹿力』を超えた力を発揮することがある。これが超能力だ。自分の持っている潜在能力が爆発すると共に、誰にも説明がつかないような不思議な現象が起きる。分かるか。分かるな?つまり『超能力』って奴は、『潜在能力』を越えた力というわけさ……」
 僕は呆然としていた。今朝の僕のあの不思議なことと理屈がピッタリ当てはまる……。寺山さんの話は続いた。
「しかし、その代償も大きい。潜在能力を超えた能力だから、その反動で体には極度の疲労とダメージが襲い掛かる。俺が見た超能力を使う人間は、その反動で、死んだ」
 僕の体はがたがたと震え出した……。
「同じだ……何もかも……」
「同じって?何がだ」
「今日起こったことと、同じなんだ……」 
 恐ろしい……不気味だ……恐いほどにピッタリなんだ……!しかも寺山さんの話どおりなら、いずれ僕は……。
「一体どうした小僧?顔が真っ青だぞ」
 僕は、ゆっくり、今朝の出来事を話し始めた。


 3

 寺山さんは驚いたかもしれない。しかし、それは全く顔に出ていなかった。
「こんな身近にいたとはな……」寺山さんは僕をじっと見据えていた。
「さて、小僧、知らせがあるぞ」
「え?」僕はきょとんとした。
「お前は俺の実験台になる」寺山さんが何事もなく言った。
 僕は言葉を失った。どう反応すればいいんだろう……。
「やだよ」敬語も忘れた本音が口からぽろっと出た。僕は慌てて口をふさいだ。
「ん?今、何といった?」
「実験台なんて、冗談じゃないですよ」僕は心底そう思っていた。
「ああ、言い方が悪かったのかもしれねえな。実験台といっても、お前は自分の超能力をよ強くするために、正しい使い方を知るだけでいい。俺はその成長過程を記録し、今後の研究に生かす」
「いやだ!」僕は椅子から立ち上がった。怒りと恐怖で我を忘れそうだった。
「僕はこんなこと二度とごめんだ!超能力なんかいらない!僕は普通の中学生だ!」
 寺山さんは僕を睨みつけた。
「座れ。話を聞け」鋭い口調だ。僕は座らなかったが、黙り込んだ。
「お前の能力は天性の素質だ。一度超能力を使った人間は、二度目からは自分の意志で超能力を発動できる。だがお前がその意志をもたねば、天性の素質は無駄になる。豚に真珠、猫に小判。まあ好きなように言え。そういうことだ」
「うるさい。使う使わないは僕が決めるんだ」僕ははき捨てるように言った。
 この人は自分の研究が成功すればいいんだ。たとえ、僕が死のうと……。それに、その研究は、自分の親友を殺した犯人を殺すためにやっている。そんなとんでもない人間のために、死の危険を冒してまで協力してなるものか。
「使え」寺山もがんとして受け付けなかった。
「そのために、こいつは死ぬかもしれないんですよ?」英康が言った。目には先ほどのような輝きはなかった。強いて言うならば、目には炎が燃えていた。
「お前が死のうが関係はない。お前一人の死で、この国全体が死の恐怖から救われるんだぞ?」
「一体何の話だ?」僕は激しい口調で尋ねた。
「……透明人間だ」寺山はあの新聞をテーブルに叩きつけた。
「これがどうしたっていうんですか?」英康が新聞を手にとって見た。
「違う、他の面の記事だ。3面を見てみろ」
 英康が新聞のページをめくった。僕もそれを覗き込んでみた。

 殺人事件、相次ぐ
 今日の正午すぎ、神奈川県X市の公園で、5名の遺体が発見された。遺体の身元は……で……だった。また、隣のY市でも3名の女性が遺体で発見された。いずれの遺体も首で締めたあとがあり、それは絞殺であった。警察はこれを同一犯の可能性が高いと見て、捜査を行っている……。

「これがなんだっていうんだ?」僕は新聞記事から顔をあげて言った。
「これを見ろ」寺山は神奈川県の地図を取り出して見せた。
「ここがX市。そして、Y市だ。さてお二人に聞こうか?昨夜、天野の透明人間薬の発表のあった学会と、天野の研究室は同じ町にある。さて、そこはどこだ?」
「知るわけないじゃないですか」英康が言った。
「正解は、ここだ」寺山が指差した所は、X市から2つ離れたところだった。県は静岡県になっているが、X市からは近い。
「分かるか?分かるな。何が言いたいかっていうと、この二つの事件は、あいつが……やったんだ。研究所から薬やレポートを盗み出し、天野を殺したあいつがな……」
「あいつって……誰だか分かって……」
「大神薫だ」寺山がきっぱりそう言いきった。あの、天野博士の助手で、学会で実際に透明人間の薬を飲んだ大神さんだ。
「そんな馬鹿な」英康が呟くように言った。
「根拠がないし、証拠もない。それに、彼は死んだんだ!殺されたんだ!」僕が言った。
「これだから日本人はだめなんだ。情報にすぐに踊らされる。警察も新聞も駄目だ。見ろ。『大神薫の遺体が見つかっていないのは、透明人間のまま殺されたか、殺されてから薬を飲まされたかのどっちかだろう』だと?馬鹿馬鹿しいことに気づかないか?」寺山が新聞記事を突き出した。
「何がおかしいって……」僕はそこではっとした。
「そうだ。まず前文からだ。『透明人間のまま殺されたか……』馬鹿をいえ。透明なのにどうやって殺すことが出来る?そして後の文だ。『殺されてから薬を飲まされたか……』だったら何故、天野には薬を飲まさなかったんだ?『遺体は薬の効き目が切れ次第見つかるだろう……』あの薬は効き目が自然に切れるようには出来ていない。別物の特殊な薬を使って初めてその効果が切れる」
「だからって、なんで大神さんだって分かるんですか」英康が尋ねた。
「つまり、大神は死んでいないということだ。そして、付近の町で何人か死んでいる……!」「だからなんでそれで大神だって分かるんだ?」
「これは天野が俺にファックスで送ってくれた透明人間薬の材料と調合方法だ。それを見て俺は『すごいぞ!いける!』と天野に言った。しかし、それには大きな穴があった。
 透明人間薬の中に含まれている物質の中には、バイラガーという物質が含まれている。これは天野がこの薬の原料として生み出した物質だが、さっき俺が調べたら、バイラガーには、精神を高ぶらせる成分が含まれていることが分かった。ようするに『闘争本能を目覚めさせる物質』だ。天野はそうと知らずにこの薬の材料のひとつにそれを設定したんだ。」
「ということは……?」僕の声はまた震えだした。
「闘争本能に目覚めた大神が天野を殺し、残りの薬と解毒剤、レポートを奪った。そして何の関係もない人間までも無差別に殺し始めたんだ。当然ナイフなどを使ったら、いろんな人間が浮いているナイフを見て不審に思う。だから絞殺なんだ。俺の推測はそう外れちゃいないだろ。
 いずれ奴はここにもやってくる。そしてここの住人を殺し始める。だが、誰にも止められない。相手は透明人間だ。誰にも見えはしない」
 僕は恐怖に顔をゆがめた。最悪だ。今日ほど最悪な日はない……。
「目には目を。特別な力には特別な力を、だ。お前の超能力を鍛える。もしそれでお前が死んでも、俺の研究が日本を救うはずだ。さあ、どうする?お前が動かなかったら、この町も、お前の友達も、学校も、いずれ崩壊するぞ……?」
 ただ震えるしかなかった。そんな、昨日まではただの中学生だった僕が、そんなことをしなければならないのか……?
 正直、やりたくなかった。僕はがたがた震えているだけだった。でも……寺山の話が本当なら……いや、かなり本当みたいだ……どちらにせよ皆死ぬんだ……。
 沈黙。誰も話そうとしなかった。寺山は、ただただ僕の答えを待っている。そして、ついに僕は沈黙を破った。
「あ、明日、ふんぎりを、つける」
 僕はそういうと一直線に寺山挺から抜け出した。




 ……死んでしまいたい。本気でそう思った。いや、死ななくてもいい。家出でもして、この生活から逃げ出すのだ。何故、僕だけが……?そんな考えばかりが頭の中を駆け巡った。
 その日を僕がどうやって終えたのか、全く記憶にない。気がついたらもう夜が明けていた。ふんぎりはついた。なんといわれようが、僕はこの考えで行く。

 いろんなことを考えていたので、学校はすぐに終わった。帰り道で、英康は僕に話し掛けた。
「やるのか?お前。あの寺山さんが言っていたことを」緊張した面持ちだ。
「やるよ」僕が震え声で言った。
「誰かがやらなきゃ。警察とかだってそうだろ?誰かやらなきゃいけないんだよ。今回はたまたまその役目が僕になっただけ……」
 英康は突然立ち止まった。突然のことで、僕はしゃべるのをやめた。次の瞬間、英康は言い放った。
「お前は警察でもなんでもないだろ……お前はただの中学生だろ!」
 沈黙が続いた。
「僕がやらなきゃ……」
「やめてくれ……」英康は静かに言った。
「死んだら……お前が……死んだら……」

 僕は英康の次の言葉を聞かないうちに、一直線に寺山の家へ走った。寺山は家の外で立って、僕を待っていた。
「来たな」寺山はニヤリと笑った。
「さあ、特訓だ」
「いやだ」僕はきっぱりと言った。寺山博士は目を大きく見開いて僕を見た。信じられないという顔だった。
「そうか。もう一度一から頭に叩き込まないと分からないみたいだな。いいか……?」
「うるさい!」僕が叫んだ。
「気がおかしくなったか。透明人間を止めないと、この町も、お前の友達も……」
「僕は普通の中学生だ。僕は一昨日までなんともなかったんだ。一昨日に何もなければ、あんたも僕に何も言わなかったはずなんだ!」
「恐いのか?それで、逃げ出したくなったわけか」寺山は僕を睨みつけた。
「黙れ!」僕は寺山の顔面を勢いよく殴った。寺山はよろめきながらも、叫んだ。
「逃げろ!逃げたいなら逃げろ!その程度の人間に、能力は使いこなせん!俺の目の前から消えろ!臆病者め!」
 辺りは静まり返った。何の音もない。静寂そのものだった。しばらくしてから、僕は踵を返した。
 悔しかった。このろくでもない人間に『臆病者』と思われることが。だけど……。
「あんたに何がわかるっていうんだ……」僕は呟くように言った。寺山は黙っていた。
「……友達が、英康が、僕を止めた。僕はあんたに協力するつもりだったけど、英康は止めた。英康は僕の死なんか望んじゃいない……」僕は、振り返った。
「僕も、死にたくない。僕の生死は、僕が決める」
 そして、僕は寺山の家から出て行った。

 そこへ、英康が走ってきた。
「おい!どうして行っちゃったんだよ?話を最後まで聞いていけ!」そこで、英康は寺山挺を見、言葉に詰まった。
「まさか、お前、もう……」
「違うよ。断った。あんなろくでもない奴のいうことなんか、聞かないよ」
 英康はじっと僕を見た。黙っていたが、嬉しそうに見えた。
「マジ?」しばらくして英康が言った。
「マジ。二度と超能力なんか使わない。僕は、生きるよ」
 英康の顔にいつもの笑顔が戻った。
「そう来なきゃな!」


 ここでこの話はおしまいでよかった。透明人間は警察が苦もなく逮捕。僕は結局何もしなかった。それでよかった。
 ここで終わってれば、僕もネット回線上にすまなくてすんだろうし、この世界に何も関わらなくて済んだだろう。
 だけど、これは現実だ。現実は、甘くない。


 あれから一週間が経過した。以前と変わらない、ありふれた日常が、すでに戻ってきていた。透明人間もこの町にやってくる気配は全くない。
 朝、目覚めた。朝飯を食べた。着替えた。歯磨きをした。英康がやってきた。いつもどおりだ。いつもどおり。
「そういえばさ、今日は体育あるぞ」英康が言った。僕は焦りだした。
「え?ジャージ持ってきたかな……」

 一日、一日が過ぎて行った。変化のない生活……退屈なものは、貴重な時間だ。僕はこの間からずっとそう思うようになってきていた。何も変わらない。何も……。
 ところが、その何事もない一日はあまりにも突然に終わった。これまでのどの日よりも、一番最悪な日となったことは間違いなかった。

 その日、朝、目覚めた。母さんに起こされて目が覚めたのだった。いつもの時間より30分は早い。
「早すぎだよ。もうちょっと寝るから……」僕は眠ろうとした。いつものように、母さんの怒鳴り声が飛ぶかと思って、布団をすっぽりかぶった。
 しかし、怒鳴り声は聞こえなかった。代わりに聞こえたのは、枯れながら震えているというなんとも奇妙な声だった。
「起きなさい……起きて……起きて、聞きなさい」
 いつもの母さんとは違う。どこかおかしい。僕は黙って起きる事にした。
「……何か、何かあったの?」僕はどもりながら尋ねた。
 母さんは深く深呼吸をした。母さんは声を出そうとした。しかし、声は出てこない。やっと出てきたその声は、あまりにも衝撃的なことだった。
「平井さん……の家族が……亡く……亡くなった……」
「え?」
 何の冗談だろう。最初に思ったことがそれだった。
「嘘だ……」
「本当よ……」
「どうして!」
「殺されたの……パトカーが、平井さんの……家の前に……」

 信じられない。信じたくなかった。英康も、死んだ……?僕はよろよろとベッドに倒れた。

 あとで分かったことがある。彼等の死因だ。
 『絞殺』だった。
2004-02-25 19:41:35公開 / 作者:霧
■この作品の著作権は霧さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品に対する感想 - 昇順
話の内容はおもしろいなと思いました。ですが、セリフと描写はきちんと改行して区別をお付けになった方がよろしいかと思います。今のままだと私的には読み難いので(^_^;)。それでは、続きも頑張って書いていってください。
2004-02-11 23:52:37【☆☆☆☆☆】エテナ
面白かったです! 内容に惹きこまれました! 憧れますよね。普段の生活が幸せなのだと分かっていても、非日常な世界って(*^^*)♪
2004-02-12 01:04:05【★★★★☆】月城里菜
非現実過ぎることもなく、内容的にも構成的にも面白いと思います。続きが早く読みたいです♪
2004-02-13 19:57:07【★★★★☆】夢幻花彩
地の文よりも台詞の方が多いトコが気になりますね。内容は面白かったですv 犯人逮捕に協力することになるのでしょうか? 
2004-02-14 21:13:34【★★★★☆】月城里菜
内容に惹きこまれました!面白い!今後の展開が気になります!続きを楽しみにしています!
2004-02-14 23:57:00【★★★★☆】葉瀬 潤
透明人間との全面対決になるのでしょうか?? 寺山氏の秘策とは?!とすごく気になる展開です!
2004-02-15 21:44:52【★★★★☆】葉瀬 潤
計:20点
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