『“泣けない目”〜目と暮らそう編〜 第一話〜第三話』作者:白桜 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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第一話 『テロップは守りましょう』

小学校の頃、オレは男なのに先輩の女子に泣かされた。
ホントに小さな口ゲンカで、先輩も目の前で泣き出したオレを見てとても困っていた。
次の日学校に行くと、みんなは口々にオレに言った。

「ねぇ、昨日泣かされたらしいじゃん?なんで?どしたの?」

…それからだ。オレは人前では泣けなくなった。
中学生くらいまでは一人で泣いたりもした。
けれど、高校から大学に入った今まで、一度たりとも泣けなかった。
映画を観てもドラマを観ても音楽を聴いても、例えどんな不幸があろうとも。
正直、それが嫌で嫌で仕方なかった。
自分が、感情なく生きている気がしたからだ。
言ってしまえば、この泣けない目が憎かった。

***

「なぁ浩二、このビデオ観ろって!!クールキャラなお前でも絶対泣くから!!」
レンタルビデオショップで清が話しかけてきた。
その手には“泣けない目”というビデオが持たれていた。
「え、“泣けない目”なのに泣けるの?」
「お前ホント、冷静なヤツだな。いや、これはマジでおもしろい。
 なんつーか、“泣けない目”っつーミステリーなんだケド」
…何となく、自分の目をミステリーと言われた気分になった。
「お前、オレのコトはいいケドオレを創った親まで悪く言うなよ」
「はぁ?何わけわかんねぇコト言ってんだよ。とにかく借りてみろって!!」
今更ビデオごときがオレを泣かせるコトなんかできるはずがない。
そう思いつつもオレは清のオシに負け、そのビデオを借りて帰った。

***

「あー、ぜってぇつまんねぇよコレ」
コタツに入りながらオレはとりあえずビデオの再生ボタンを押した。
どれも同じような宣伝も終わり、本編が始まった。
「…ん?なんだコレ?」
最初の真っ暗な画面にテロップでこう書かれていた。

『本当に泣くコトを忘れた方は、この映画を観ないでください』

「…泣ける目を持つヤツが、泣けないヤツを侮辱する映画なのか?」
あんまり気にせず本編を観た。
正直、ありきたりなストーリーだった。
幼児期、虐待により親の顔色ばかりを伺っていた少年が、いつの間にか泣くコトを忘れてしまう。
そして大人になり、度重なる不幸があり、それでも泣けない自分。
けれど、最終的に手にした自分の家族に本当の家族愛を覚え、最後涙を流す。
「…いや、ただ泣くために学生結婚はできねぇよ」
それがオレの結論だった。

***

次の日、うきうき顔で清が話しかけてきた。
「浩二、どーだったよ?あの映画は」
「あぁ、お前の感動のない人生と涙腺のもろさがよくわかった」
「うっせーよ。でもほら、最初のテロップとか意味深でさー」
「あれね、泣けない人を追い出して観た人は全員涙…とかじゃねぇの?」
「はぁ?そんなコトじゃねぇだろ」
『あぁ、そんなコトじゃねぇよ』
「ん?お前なんで2回言うんだよ?」
「何が?オレなんか2回言った?」
『いや、彼は1回しか言ってないよ。オレだよ、オレ』
思わず後ろを振り返った。
…誰もいない。
「どした浩二?だいじょぶか?」
「いや、オレオレ詐欺がな…」
「はぁ?まぁいいや。授業始まっから行くな」
清は若干冷たい目でオレを見て行ってしまった。
「なんだよ、これ…」
『いや、勝手にオレを詐欺にすんなよ。わかんねーかなぁ、お前の目だよ』
「…目?目がしゃべってんの?」
『あぁ、あの映画は泣かない目を起こす力があんだよ』
「いや…起こす、っつーか、覚醒じゃん…。
 なんでこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ…」
『お、うまいねぇ。目に会うと目に遭うか。
 理由を簡単に言うとテロップの約束破ったからだな。
 まぁさ、とりあえずお前が泣くまではこうして一緒にいるから』
「…マジで?夢なら覚めてくれよ…」
『何言ってんだよ、寝るか決めるのはこのオレの仕事だぜ?』
「ですよね…」

…こうして“泣かない目”との暮らしが始まった。


第二話 “泣きたい目”

『あんな子に目送るなんて…趣味合わねぇなー』
今日はひさびさの休みだったので一人買い物に来た…はずだった。
「だまれっつの。そーいやお前、オレが声出さないと聞こえないの?」
『そーだよ。わかりやすく言うとケータイの骨伝導と同じ方法。
 振動で聞いてんだよね。オレの声もね揺らして出してる感じかな』
「あ、それで長いコトお前と話してると酔うのか…。微妙に揺れてんだもんね。
 じゃあさ、お前が勝手にオレを泣かせるコトはできないの?」
『いや、涙腺は別モノでさ。でもまぶたはシャッターみたいなもんでオレが自由に動かせるんだわ。
 それにしても休みの日に一人も寂しいな。オレがナンパしてやるよ』
「お、おい!!」
向かいを歩いていた今風な女の子に目が勝手にウインクをした。
「お前今の時代ウインクなんて…あれ?」
なんと向かいの子もウインクを返してきた。
『あの子も“泣かない目”の子だよ。目同士はわかるんだケド。あの子どう?』
「…いや、チェンジで。ってか、そんなコトわかるんだ。そーいや他にもビデオあるの?」
『あー、あるよ。“止まらない血”とか“叶わない夢”とか』
「いや、やっぱいいや。って、テロップは?」
『出血中の方禁止、と夢が叶わない方禁止…かな。それよりあの子は?』
目の送る先には清楚で可愛らしい女の子がいた。
「…是非、お願いします」

***

目のおかげでその子と一緒にカフェに入るコトになった。
「えっと…はじめまして。梢と言います」
「あ…浩二です…はじめまして…」
緊張でふと目をそらすと、人生が終わったかの様なおじさんが目に入った。
『あの人…“叶わない夢”見ちゃったんだ…。
 あ、簡単に説明すると、夢叶わない人が見るとその人の夢を絶望の中終わらせるんだよね。
 まぁ結果的に叶わない夢だし早くわかっていいんじゃね?
 それよりよ、こんないい目の子いないぜ!まぶた閉じて目くっつけてくれよ!』
「こわっ…って何?目くっつけるって初対面なのに?」
『言ったろ、骨伝導だから目くっつけりゃオレたち目も話せるってんだよ』
「え…お前、そんなコト言えねぇよ」
『だいじょぶだって、お前が言えば向こうの目が解説してくれるって』
ふと向かいを見ると、やはり梢も独り言の様に何やら話している。
「あの…梢サン…目、くっつけてもいいですか?」
口に出すとやけに恥ずかしいコトバだった。
「あ…はい。私たちも今その話をしていたトコロで…」

***

帰り道、オレと目はとても上機嫌だった。
『いやー、いい目だとは思ったケドまさか視力2.0で乱視ナシだなんてなー』
「最初は緊張したケド目つけて4人で話せるんだもんなー。そりゃすぐ仲良くなれるよなー。
 …お、梢からメールきちゃったー」
『なに!?おい見せろよ!!』
「ヤダよ、何言って…見せるしかねぇじゃん!」
『そういうコト。秘密は絶対作れない仲だぜ。
 なー、それよりお前このまま泣かないでいようぜ。そーすりゃオレも水死しなくて済むし』
「…は?水死?」
『そーだよ。言ったろ?涙腺は別モノで、オレが消えるときはオレが涙で水死するときなんだよ。
 あ、でも言っておくと、失明とかはしないぜ。覚醒前に戻る、って感じかな』
「そっか…そりゃなんか…可哀想だな」
泣かなくてもいっか、と、今までの悩みが消えていく感じがした。
しかし、楽しいコトはいつまでも続かないものである。
オレはきていたメールを読んでみた。

「私は浩二さんのコトをとても気にいったのですが…。
 私の目がどうも浩二さんの目を気に入らなかったらしくて…もう見たくもないそうです…」

「…おい、目」
『だまってくれ、泣きたいのはオレの方なんだ』


第三話 「“笑った顔” 前編」

「なぁ、浩二、最近大丈夫か?」
清が急に話しかけてきた。そういえば、清と話すのは何日ぶりだろう。
「え、全然平気だよ。体調もいいぜ」
「そうか?ならいいんだケドさ。
 ほら、最近お前急にひとりで笑い出したり独り言言ったりすんじゃん?
 正直、みんなひいてるぜ」
オレは目と話すのが当たり前になり、まわりのコトなどすっかり忘れていた。
「あ、あれは、ほら、巨人の桑田がよくボールに話しかけてんじゃん?あれだよアレ」
「いや、自信たっぷりに言うケドそれ充分ヤバイだろ。
 でも最近お前表情は明るくなったよな。なんつーか、目が輝いてんだよ」
「なんだよ、目じゃなくてオレを褒めろよ」
「…はぁ?まぁ、とにかく気をつけろよ」
清が視界から外れたのを見届けて目に話しかけた。
「どう…思うよ?」
『まぁ間違えなく明日からお前のあだ名は桑田だな』
「いや…そこじゃなくってさ」
『別にオレのコトは隠さなくていいケド、普通誰も信じないもんね』
「そういや、なんで“泣かない目”なんてビデオ作られたんだ?」
『目を覚醒させるのは、作った側じゃなくて、それを大量生産してる会社なんだ。
 だから“泣かない目”っていうタイトルと内容が利用されただけで…』
「その効果に近い映画を使ってビデオを作ってんのか…何のために?」
『その昔、意識もない遺伝子がやがて生物になったワケで…。
 大きくはぶくと、様々な身体の部分に意識を持たせるコトが目的…かな』
「へー…それは何のために?」
『今人類は大きな肉体的進化はなくなっただろ?
 そこで、違う力を与えてさらなる進化を遂げさせるため…かな。
 で、それには合う合わないがあって、合わない場合その進化をその人から簡単に消せるように…』
「あー、それでオレの場合は泣ければいい、って条件なのか」
『そう、ある意味合ってたんだよ、オレとお前は。
 お前、最近泣かなくてもいっか、と思ってるだろ?
 つまり、ポジティブにコトが進んだ…。
 例えば“叶わない夢”だって、失敗が早くわかる、って考え方によってはポジティブだ』
「え…でもそうしたら最初のテロップの忠告とか矛盾してこないか?
 それに“止まらない血”なんて進化とは遠いだろ?」
『最初のテロップに当てはまる人じゃないと、その能力を開花させても無意味だろ?
 ただ問題は“止まらない血”とか、要はマイナスを生むビデオの方なんだ。
 あれは人口爆発を抑える、って理由があるらしく…死を招くとも言われてる。 
 …ごめんな、目の前真っ暗な話して………』
それ以降、目は黙っていた。
「…いや、黙るのはいいからとりあえずまぶた閉じるのやめろよ」

***

次の日、清が満面の笑みで話しかけてきた。
「おい桑田」
「いや、桑田って呼ぶなよ」『ぷっ』「笑うなよ」
「あのな桑田、オレちょっと話したいコトがあるんだ」
「…どした?」
「オレ昨日、ビデオ見たんだわ。“笑った顔”っていう…」
『!!…そりゃやっかいなビデオ見たな』
「清…それ簡単に言うと、その満面の笑みが…」
「…そうなんだ。顔の表情もまともに出せないし、どっからか声も聞こえて…。
 で、お前を思い出したんだよ桑田。
 お前これ…お前と一緒なんだろ?どうにかならないのか?」
「え…どうなんだよ目」
『“笑った顔”は、一度真顔に戻れば消えるんだケド…顔が邪魔するからな。
 なんつーか、今まで“笑った顔”が消えたって例は聞いたコトがない。
 笑ったコトない人間なんていないし、顔だって自分を消さないために必死だ。
 ちょっと、顔に目くっつけてくれるか?話せるはずだ』
「よし、清、悪いケド顔に目、くっつけさせてもらうぞ」
「え…こんなときに気持ち悪いコト言うなよ!!」
清は怒ったような満面の笑みという気持ち悪い顔をした。
『顔がオレと話すの拒んで何も言わないみたいだな。
 よし、強行的にくっつけろ』
「清!!」
ムリヤリ清の顔に目をくっつけた。これで清も目の声が聞こえる。
『おい、言いたいコトあるんじゃねぇのか?』
向こうの顔は何も返してこない。
『お前と話がしたい…同類じゃねぇか…』
清はふと顔を離し叫んだ。
「だから気持ち悪いコト言うな!!もういいよ!!お前やっぱ桑田だよ!!」
清はさっきよりももっと気持ち悪い顔を見せ消えていった。
『話してくれなかったな、交渉失敗だ』
「あんな気持ち悪い顔するだなんて…最悪だ。
 どうでもいいケドそろそろ桑田に失礼だろ。オレ桑田好きなのに」
『仕方ない、解決方法としたらオレらで“笑った顔”を見るコトだな。
 性格的なタイプも一緒になるはずだ。解決案も見つかるだろう』
「え…でもそしたらオレ…一生その顔かも知れないし、ひとりに2つって…」
『そんなコト言うな。清はたったひとりの友達じゃねぇか…。
 友達がいなくなる中、唯一見捨てず残ってくれてるじゃねぇか!!』
結局オレらはビデオ屋で“笑った顔”を借りた。
息を呑んでビデオデッキにビデオを通す。
「これでいいんだよな…オレにはもう友達は清しかいねぇんだ…。
 桑田の友達は、キヨしかいねぇ運命なんだ…」
『お前…やっぱ桑田ってあだ名気にして…』

投げやりな決意とともに、ビデオが始まった。
2004-03-14 04:55:28公開 / 作者:白桜
■この作品の著作権は白桜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ひさびさの更新です。無事卒業も決まりまして。
今回はちょっとややこしいですが、この物語の背景的なものです。
次回はすっきりシンプルな話になるので…
こんなぐだぐだ作品でも温かく見守ってください。
この作品に対する感想 - 昇順
な、なんだこれー!(笑)発想が面白くってかなり好きです!これからどうなるのかしら。。目と浩二くんのかけあいが好きです。。
2004-02-05 14:54:09【★★★★☆】黒子
始まりからすごい展開ですね!黒子さんと同じように、発想がすごいです!次の更新を楽しみにしています!
2004-02-06 15:47:28【★★★★☆】葉瀬 潤
なんか…予想とは違う高得点が2つも(笑)黒子サマ、確かになんだこれ、ですよね(笑)これからはイロイロ考えてますよー。案がいっぱい。また読んでくださいね♪葉瀬さん、毎回読んでいただいてありがとうございます♪3作品目にして最高の点数いただきまして(笑)でも散りゆく花に〜よりコンセプトないのに点数高いと…複雑。あとレスではないのですが、散りゆく〜が私は更新してないのに更新したコトになってて怖くなって消しました。内容やらは一切手つけられてなかったんですケドね。
2004-02-07 10:50:19【☆☆☆☆☆】白桜
面白いvvデス!!!速く続きが見たいナ☆頑張って下さい!!!
2004-02-08 09:20:08【★★★★☆】琴葉
琴葉サン、レス遅れてすみません!!ホントもぅ、更新まで遅れてしまって…。ちょっと今回は今まで得点をつけてくれた方の期待とは違う感じに話が流れているかも知れませんが、バックグランドストーリーを書かないと嫌なタチで…。ちなみにバックグランドストーリーってコトバでオレが元ディズニー店員と気付いた人がいたらその人、マニア。
2004-03-14 05:03:52【☆☆☆☆☆】白桜
おもしろいです!目と話せるなんて面白い発想だと感心しちゃいます。
2004-03-14 18:12:32【★★★★☆】百瀬茗
いや〜、目との会話に笑ってしまいます〜 早く続きが読みたいですね〜!次はどんなビデオがでてくるのかとかと・・・ 卒業おめでとうございます。。
2004-03-14 23:05:34【★★★★☆】葉瀬 潤
計:20点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。