『か弱きヴァンパイア  こっくりさん編』作者:君影草 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約11.36枚
             序曲 

真っ暗な闇の山の森に、激しく雨が降りかかる。
「まじやべぇって、さみぃし、真っ暗で何もみえねぇし」
「アキ、こんな時弱音吐くなよ、とりあえず下に下にいってりゃその
 うちふもとまで出るって」
「ユウスケがそういってからもう何分たったと思ってんだよ!」
「・・・。」

こんな悪天候の中、山で遭難しているのは、大学生のアキとユウスケである。
彼らはサークル仲間で、学部は同じではなく、アキが心理学部、ユウスケが工学部である。お互いレポート提出の期限もなんとかクリアして、二人で登山するというわけでとある山に来ていたのだが・・・。

「あーだめ、もう動けねーわ。ユウスケおぶってくれぇ」
「情けねぇな。おれだって辛いんだよ。一人でやってろ!」
「ムムゥ・・・。あれ?」
「どうかしたか?」
「あそこなんか光ってねぇ?」
「ぇ?あ、ほんとだ」
「なんだかわかんねぇけど、とりあえずいってもよーぜ」
そういってさっきまでへこたれてたアキがイキイキと歩きだした。
それに続いてユウスケも足をすべらさないように慎重に光の方へ歩いていく。

以外に遠かったらしく、おそらく歩き出してから10分くらいたってやっと光の元へたどりついた。そこには洋画にでも出てきそうな立派で気品漂う屋敷があった。

「デカッ・・・」

雨の降りしきる中二人の声がはもる。

ドンドン、ユウスケがドアをノックする。
・・・。

「あれ?聞こえてねぇのかな」

そういってユウスケがもう一度ドアをノックしようとした時
ピンポーン・・・。ベルのなる音がした。アキがとなりでベルのボタンを押していたのだ。普段なら、ベルあるなら先にいえよ!とかツッコミをいれるのがユウスケの役割だが、心身ともに疲れ果てていたユウスケにとってそんなことはどうでも良かった。
しばらく待つと、ガチャとドアが開き、中から40歳くらいの女性と、13歳くらいの少女が現れた。どちらも髪が真っ黒で、体は細く、黒いヒラヒラのついた洋服を着ている。40歳くらいの女性の方は白く美しく、少女の方は美しいというよりは可愛らしいといったほうが適切な感じだが、どこか大人びている。二人ともとてもよく似ていて、誰が見ても親子だとわかるほどだ・・・。

「こんな悪天候の中どうなさいましたのですか?」

しばらくボーっとしていた青年二人だったが、女性の第一声で目が覚めた。

「あ、あの僕たち登山していて、途中で遭難してしまったんですが、
 一晩雨宿りさせてもらえないでしょうか?」

ユウスケが即座に対応した。

「まぁそうでしたの。それはさぞ大変だったでしょう。
 どうぞお上がりになってください」

女性はそういって二人を屋敷の中に招き入れてくれた。
少女は横で黙って青年の顔を見つめている。

屋敷に入ると、目の前に大きな階段があり、真上には大きなシャンデリアが飾られている。女性は夕食の用意をしてくるといってそのままどこかに消えてしまった。少女もトコトコとそれに続く。



夕食ができ、それを円形のテーブルにおき、囲むように四人が座る。
豪華な食事をほおばりながらアキが尋ねる。

「あの、お二人はお名前なんていうんですか?あ、僕はアキで
 、こっちがサークル仲間のユウスケです」
「申し遅れました。私がミナコで、この子がミオです」

軽く会釈をして、今度はユウスケが尋ねる。

「このお屋敷には他に誰か住んでないんですか?」

一瞬女性が悲しそうな顔を見せて答えた。

「昔は主人も一緒に住んでいたのですが、今では私とミオだけです」
「あ、すいません・・・」

そのまま夕食が終わり、アキとユウスケは2階の部屋に案内され、二人部屋に泊まることにした。

一度眠りについたのだが、アキはどうしてもトイレにいきたくなってドアをあけ、大きな階段を降りていった。
ふと1階のある部屋に明かりがあるのが目に映った。
不思議に思い、こそこそと歩き、部屋をドアの隙間から覗く。
あまりにも不可思議な光景にアキは息を飲んだ。
先ほどの少女が母親(女性)の腕に噛み付き、生き血を吸っているのだ。

「わぁぁあ!」

思わず叫んでしまった。
少女と女性はすぐさまこちらに気づき、腰を抜かしたアキに近づいてくる。





アキは一晩眠ることができなかった。ずっと昨晩のことを考えていた。

女性がいうには、少女と女性はいわゆるヴァンパイアらしく、普通の食べ物も口にするが、生き血がどうしても飲みたくなるらしい・・・。わかったのはそれだけだが、アキはその不可思議な現実を目の当たりにして一種の興奮状態に陥っていた。

ユウスケが目覚め、昨日の一部始終を告げる。




話を聞いた後、不思議そうにユウスケが尋ねた。

「じゃあなんでアキのこと殺さなかったんだ?
 アキを殺せば口封じもでき、生き血も手に入り
 一石二鳥じゃないか」
「そりゃどうだけど、まさかおれのこと信用してないわけじゃないよな?」
「なんともいえないな・・・」
「じゃあ、実際に聞いてみろよ!」
「・・・だってさ、普通、生き血をすするとか信じられるか?
 それに加えて自分のことをヴァンパイアなんて普通いわないだろ?」

当然の意見だか、それに対しての返答はすでにアキの中にあった。

「一晩考えて、たどり着いたことなんだが、決してありえない話じゃないんだ」
「は?なんでだよ?」
「おそらくあの親子は重度の精神病だ」
「精神病?」
「複数の精神病にかかっている可能性が高いが、生き血をすすることについては
 『異食病』で説明できる。異食病っていうのは、普通人間が食べたり飲んだり
 しないものを口にする病気のことで、例をあげれば、金属や土、ガラスなど種類
 はいろいろある。その中に人間の血液が含まれていてもおかしくないはずだ」

突然の熱演に少々圧倒されぎみなユウスケだったが、すぐに反撃にでた。

「さすが、心理学部。でもそりゃ確率の話だろ?親子そろって生き血をすする
 異食病なんて都合よすぎるだろ?」
「そうでもない。そもそも精神病ってのは感染する可能性がある。
 それが家族みたいな、親密な関係であるほど」
「精神病が感染する?そんな話聞いたことないぞ」
「実例もある。強い妄想を持つ婦人を介護していたはずの夫が、
 婦人と妄想を共有するようになった・・・とかな」

しばらく沈黙が続いた・・・。
そして半信半疑のユウスケの腕をつかみアキが沈黙を破った。

「とりあえずこんなとこにいちゃだめだ!早く帰ろう!!」

ユウスケはいわれるまま、荷物をまとめ、服を着替えた。
二人は大急ぎで玄関に行き、ドアをあけようとした。
が、ドアが開かない。
あわてふためいているアキの後ろで声がした。

「もうお帰りですか?あいにく外はまだ大雨ですし、
 もう少し休んではどうですか?」

逃げられない。アキは直感した。
心理学で解決されたと思ってはいたが、どこか異質な空気がこの屋敷に充満しているように感じていたアキは、はい・・・と小さく答えた。

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              第2曲

午後2時、雨は一向に止む気配を見せない。
アキとユウスケは2階の二人部屋に戻って静かに時をすごしていた。
ユウスケもすでにミナコに昨夜の事を打ち明けられて静まり返っている。

「アキ・・・おれたちどうなっちゃうんだろな」

ふいにユウスケらしくない言葉が響く。

「心配すんなよ。ヴァンパイアなんて実在するはずないだろ?
 どうせおれのいった通りの精神病にかかった親子だろ・・・」
「だといいんだけどな・・・」

雨は未だ止む気配を見せない・・・。
沈黙になるのが怖かったのか、少しの間をおいてユウスケが語り掛ける。

「そういやさ、アキが心理学やってる理由ってなんかあんの?」

アキは静かにユウスケの方を見つめている・・・。

「なんだよ、聞いちゃまずかったか?」
「・・・いや。そういやまだこればっかりは話してなかったっけ。
 なぁ、こっくりさんって知ってるか?」
「え、あぁ。そりゃ有名だからな。つっても心理学部の
 アキが信じてるわけねぇよな?」

しばし沈黙が続く。アキは真剣な眼差しでユウスケを凝視する。

「おれはさ・・・こっくりさん事件の生き残りなんだ」
「え、なんだよこっくりさん事件って。
 それに生き残りって、まさか死人が出たのか?」

心なしか、雨がいっそう激しくなったように感じる。

「ユウスケ、これからいうことは全部本当にあったことだ。
 あれ以来誰にも話したことはなかったけど、
 お前を信頼して話す」

ゆっくりとユウスケがうなずく。

「中2ん時さ、クラスに友達がいてさ。
 ユウコとチヨとカズっていうんだけど、本当に仲良かったんだ。
 それで夏休み前におれたちは夜の学校に忍び込んで
 こっくりさんをやろうってことになってさ、最初みんな
 乗り気だったんだけど、いざ夜の学校に来たらユウコが
 急に怖がりだしちゃってさ・・・。
 それでもなんとか接得して、2階のおれたちのクラスでやりはじめたんだ」

ユウスケは真剣に話を聴いている。さらにアキは語る。

「やってる最中、急にユウコが泣き出したんだ。
 最初は怖がってたからしょうがないとも思ったけど
 急に席をたって机にぶつかりながらあたりを走り回りだして・・・。
 そこでおれたちもただ事じゃないって思った。
 でももうそのときには元に戻れないとこまで来ちゃってたんだ。
 となり見るとさ、チヨは声をひきつらせながら泣いて、カズは自分の頭を
 机にぶつけて血吹いてて、それでも机にうちつづけて
 何度も何度も。
 おれはただ怖くて隅っこで震えてたんだ」

そこでアキが黙る。心配そうにユウスケが尋ねる。

「それで・・・それからどうなったんだ?」
「気がつけば病院のベットだった。
 学校の警備員の人が気づいて救急車を呼んだらしい」
「友達は・・・どうなったんだ?」
「ユウコとチヨはベランダから飛び降り自殺、
 カズは頭が割れて出血多量で死んだらしくてさ」

アキの瞳から今にも涙が溢れてきそうである。
ユウスケが見守る中さらにアキが続ける。

「事件はそれで終わってなかったんだ。
 これからがこの事件の本当の恐ろしい核の部分・・・」

雨は未だ降りつづけている・・・。

 
2004-02-06 00:52:48公開 / 作者:君影草
■この作品の著作権は君影草さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
序曲より第2曲のほうが短くなってしまいました。なんかだんだんシリアス化しているような気がします(汗
よければ感想とかお願いします。
お待ちしてます。
この作品に対する感想 - 昇順
ヴァンパイアの話の中に心理学が織り交ぜられており、興味深いストーリーになっていると思います。君影草さんは心理学を専攻なさっているのですか?とにかく続きが気になります。応援しているので頑張ってください!
2004-02-05 13:10:54【★★☆☆☆】都瑚
点数をつけるの、間違えました。ゴメンナサイ!!もう一度採点させていただきます。
2004-02-05 13:11:47【★★★★☆】都瑚
心理学専攻してはいないんですが、興味は大変あります。精神医学のトピックスなどいろいろ読んで勉強してますw感想ありがとうございます。
2004-02-05 13:19:02【☆☆☆☆☆】君影草
↑の読んで今気づきましたけど、話唐突すぎますかね・・・。あと会話多すぎですね(反省
2004-02-06 00:57:26【☆☆☆☆☆】君影草
今まで読んできた小説の中で一番まともな作品に出会えたといったところでしょうか。楽しく読めた、とまではいきませんが不愉快にはならずに読めました。貴方は私がいろいろ指摘するよりも自分で学び取る能力があると思うので敢えて指摘はしません。その方が力もつきますしね。次回さらなる飛躍に期待しています
2004-02-06 10:26:02【★★★★☆】シグマ
もったいないお言葉ありがとうございます。続きもがんばっていきたいともうのでよろしくお願いします。
2004-02-06 18:51:05【☆☆☆☆☆】君影草
はじめまして。。ストーリーの内容がすっきりしていて読みやすかったです!こっくりさん事件がどうなったかすごく気になります!
2004-02-06 23:52:03【★★★★☆】葉瀬 潤
心理学とヴァンパイア・・・相反する部分は多いと思います。それを組み合わせることに驚きです。両方を互いにうち消すのではなく、両方を互いに強調させるようになっているので大変興味深いと思います。続き、気になります。
2004-02-17 12:22:44【☆☆☆☆☆】Mad hatter
すみません。点数を入れるのを忘れていました・・・・・。
2004-02-17 12:24:00【★★★★☆】Mad hatter
計:18点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。