『僕らは雑草 1〜4』作者:月城里菜 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角16548文字
容量33096 bytes
原稿用紙約41.37枚
 
 ―1― my way 


 空を見上げた。
 冬の空はどこか寂しい。眺めていると、どこまでも続くその空に、思わず身を委ねたくなる。

 Gパンにカットソー一枚という薄手の格好だというのに、少しも寒くなかった。
 きっと風が吹いていないからだろう。雲の流れも緩やかだ。
 わたしには、どうしても雲の上には乗れるというような気がしてならない。
 雲が小さな氷の結晶からなるというのは、ずいぶん前に理科の授業で習ったから知っているけれど、それでも下から見上げる雲はふわふわとしているようで、綿飴を連想させた。
 雲が何で出来ているかを知らなかった昔の人たちも、同じような気持ちで雲を眺めていたのだろうか。



「お嬢様! そんな格好では風邪を引きますよ!」

 玄関の扉が開いたと思うと、お手伝いのマリコさんが慌ててこちらへと駆けてくるのが見えた。
 物心付く前から、マリコさんはこの家にいた。
 お手伝いさんというよりも、第二の母といったほうがしっくりくる。ううん、実の母より母らしいかもしれない。
 幼稚園の発表会から、高校の運動会にいたるまで、イベントと呼ばれる類のもの全てに、必ずマリコさんは来てくれた。
 母が来てくれた事は一度だってない。
 入学式も、卒業式も。
 仕方のないことだ、この年にもなれば頭では十分理解できる。
 来てほしい、とも自分から言ったこともなかった。
 毎晩夜中まで、家に帰ってからも仕事しているのを知っているから。
 そんな事を口に出すのははばかられた。
 実の親にそんな遠慮して、と誰かが聞いたら笑い飛ばすかもしれないが、とにかく母に向かって我侭を言うことなど、わたしの記憶が正しければ今まで一度だって無いはずだ。
 母は某化粧品会社の社長を務める、バリバリのキャリアウーマンだ。
 どんなに忙しくたって疲れていたって、お肌の手入れは欠かさない。
 もうすぐ45になるというのに、母の肌年齢は現役女子高生のわたしにも劣らないのでは、と思わせるほどだった。

 
 頬をわずかに上気させ、マリコさんは息を切らせてやってきた。
 わたしなんかのために走ってこなくたっていいのに、と心の中で思う。
 いつだって優しくて、可愛がってくれて。
 血はつながっていないけど、マリコさんになら甘えられる、そんな気がする。

 いつも車でしか通らないこの庭に、二人で立っていることをどこか奇妙に感じた。
 17年間住んでいるというのに、ゴルフ場が作れそうなほどただっ広いこの庭で遊んだことなど一度もなかった。

 入ろうか、と呟きマリコさんと肩を並べて玄関までの道を歩く。

 足元の芝生は触ったらカサカサしていそうで、みずみずしさというものがまるで感じられなかった。
 表面は綺麗に刈られてはいるけれども、生気を失ったかのように静かにそこに横たわっていた。
 春になれば。
 春になれば、また青々と茂ってくるのは分かっているんだけれども。

 同じだ、と思った。
 色を失ったこの芝生と、わたしは同じ。
 一つ違うのは、この芝生は春になったら生き返るけどわたしは永遠に生き返らないだろうってこと。
 少なくともこれからの一年は。

 お嬢様も大きくなられましたねえ、とマリコさんが言う。
 小学校の時は六年間ずっと一番前をキープしていたわたしは、中学に入ってから誰かに上へと引っ張られているかのように、あれよあれよという間に身長が伸びた。
 マリコさんだって決して小さくはないのに、今では見下ろすような形になってしまう。
 高校に入ってから、速度はだいぶ衰えたといえまだ成長は続いているようだった。
 もうそろそろ止まって欲しいとも思う。これ以上伸びたら、つりあう男を探すのが大変だから。


 靴を脱ぎ、階段を上がり、自分の部屋に入る。
 女の子の部屋にしては、自分で言うのもなんだけど色気の全くない部屋だ。
 寝るためのベッドと、あまり近づきたくない勉強机、そして物があんまり入っていないクローゼット。
 それらは全て白で統一されていて、病院の一室を思い起こす。
 ぬいぐるみだとか、可愛いを連想させるようなものは何一つなかった。
 高校生にもなって、ぬいぐるみだらけの部屋もどうかと思うけど。
 そんな事をぽろっと漏らしたら、アキラはわたしを野次ってきたっけ。
 可愛くない女、だって。
 部屋の内装ごときで『可愛さ』を求めれたって困る。


 机の上に立てかけられた写真たてを、気が付けば手に取っていた。
 写真の中のわたしは、今じゃ到底作れそうもない満面の笑みをこちらに向けている。
 まぶしかった。
 同じ人間なのに、この写真の中のわたしと今のわたしは肉体的にはどこも違っていないのに。
 
 ゆっくりと隣に視線をずらす。
 アキラもまた、白い歯を見せて笑っていた。
 坊主頭が決して似合わないわけじゃないけれど、あの髪型は彼をよりいっそうサル化させていたと思う。
 サルよりもアキラの方が断然カッコいいとは言ったって。

 そこまで考えて、わたしはため息をついた。
 未練がましくて嫌になる。こんな自分は嫌いだ。

 少しためらった後、その写真を写真立てごとゴミ箱に葬り去った。
 もう何も乗っかってない机の引き出しを開ける。
 きちんと整理整頓されて出番をじっと待っているレターセットやらペン類を無視して、さらに奥へと捜し求める。
 形だけ確認し、ろくに見もせずにゴミ箱行き。
 だって分かるから。
 飽きるほど見慣れたものだから。

 初めて撮ったプリクラ。嫌がるアキラに頼み込んで撮った、最初で最後のプリクラ。
 もったいなくて、誰かにあげることなんて出来なかった。
 それは丸々半シート、今はゴミ箱の奥で眠っている。

 嫌でも浮かんでくる過去の情景に、わたしは蓋をした。
 思い出にすがって泣くだなんて、そんなみっともない真似したくない。

 
 いつからだろう。
 こんなに意地っ張りになってしまったのは。

 元々人前で泣くのは嫌いだった。
 自分の弱い面を全てさらけ出してしまうようで怖かった。
 悲しいことがあれば、すぐどこでも泣けちゃう友達を羨ましくも思う反面、心の片隅のほうには蔑んでいる自分もいた。

 
 かっこ悪い。


 泣く=かっこ悪いという方程式が、わたしの頭の中で出来上がっていたのである。
 涙を流して何になる?
 それって気持ちいい?
 しんどいだけじゃないの?

 実際、泣く人々の顔はどれも苦痛に歪んでいた。
 一筋だけ流れる涙は綺麗かもしれないが、そんな風に泣く人はいないし、泣けば次第に嗚咽は漏れる。鼻水はたれる。
 一体人は何故泣くのだろう。


 電気スタンドのスイッチをONにし、学生鞄からファイルを取り出す。
 休日課題として、数学のプリントが一枚出されていたのを思い出したからだ。
 プリントと一緒に、もう一枚別の紙がひらりと舞い落ちる。
 手にした瞬間、何のプリントか嫌でも分かってしまった。
 進路の紙だ。
 そういえば、月曜までによく親と話し合って決めなさいと、HRで教師がつばを飛ばしながらしゃべっていたっけ。
 そのプリントを、とりあえず開いてみる。
 上半分には、教師から保護者への挨拶とも説明文とも取れるような言葉がつらつらと並べ立てられており、その下に希望大学の名を書く欄が三つも設けられていた。
 一番下には、自分の名前と保護者のサイン、ハンコを押すスペースがある。
 
 わたしは頭を抱えた。
 この広い世の中で、自分の歩く先がきちんと見える人はどれくらいいるのだろう。
 皆が皆、しっかりと前を見据えて前進しているとは思えなかった。
 少なくとも、わたしは見えない。
 やりたいことも、よく分からない。
 教師との進路の面談のときに、そんな事をちらっと言ったら、とりあえず勉強しなさいという返事が返ってきた。
 がむしゃらに勉強して、成績が上がって、例えば模試の判定でAとか出ちゃったりしたら、自然とそこの大学へ行きたい、と思えるのだそうだ。
 そんなわけあるか、心の中で小さな反抗をする。
 一応今までの模試は全てAを貰ったけれど、全然そこの大学へ行きたいといった希望、欲は沸いてこない。
 わたしが変なんだろうか。

 何度目か分からないため息をつく。
 ため息を一つつけば、幸せが一つ逃げるというけれど、本当にその通りだと思う。
 だって最近、いい事なんて一つも起こりゃしないんだから。

 進路の紙をファイルに閉まった。
 今日はもう寝よう。
 数学はまた明日の朝にでも、誰かに見せてもらえばいい。

 ベッドに入ってもう一度、本日最後のため息をついた。



 ―2― AM8:11


 AM6:30。
 がらんとした部屋の中に、電子音が鳴り響く。
 携帯のカメラは必要ないと思うけれど、アラーム機能は便利だ。
 自分の好きな曲を、何度でも設定しておく事が出来るから。
 朝の苦手なわたしにとって、携帯は敬うべき存在だ。
 何の変哲もない音しか出さず、一回止めればわたしが二度寝しようとしても、しらんぷりな目覚まし時計はいらない。
 AM6:45。
 制服に着替えて下に降りる。寝ぼけ眼をこすり、おはようと言って席に着く。
 母と顔を合わすのはこの時だけだ。
 一日15分程度の母と子の会話は、いつも天気の話から始まる。
 二言三言、言葉を交わすと母はそれっきり仏像のようにだんまりを決め込んだ。
 カチャカチャと食器の擦れあう音が響く。
 最近、母はいつもこうだ。なんでかはさっぱり見当も付かないけれど、聞いてみようとも思わなかった。
 やけに重苦しい空気の中、朝日がさんさんと注ぐその情景は、なんだかひどく滑稽に思える。
 AM7:00。
 マリコさんの、おいしいけれどひどく手の込んだ朝食を食べ終え、洗面所に向かった。
 はねている所にくしを通す。
 どれだけひどい寝癖でも、すぐに直ってしまうから楽だった。
 この髪質だけは、自分の数少ない好きなところでもある。
 トイレに行き、歯を磨く。
 大人用の歯磨き粉は嫌いだった。
 むやみやたらに辛いか何にも味がしないかのどちらかだから。
 マリコさんは笑うけれど、わたしの歯磨き粉は何年も前から子供用のイチゴ味。お世辞にも本物のイチゴの味とは程遠いけれど、どこか甘ったるい味で口の中が満たされる。
 AM7:20。
 詰め込むようにして時間割を終え、わたしは黒のベンツに乗り込む。
 自転車でだって平気なのに、毎朝わたしはタケさんという中年のおじさんが運転する車で駅まで向かう。
 最初、母は学校まで送らせるつもりだったようだけれど、恥ずかしいので断った。
 書く言う母は、毎朝もう一台のマイカーってやつで通勤する。母のほうこそ、お抱え運転手に送り迎えしてもらえばいいと思う。
 AM7:45。
 車は駅に着く。
 毎日変化のない朝。
 これがわたしの日常。
 何もないのが一番幸せ、そうかもしれない。
 だけどわたしは変化を求めてる。早くも受験勉強からの逃避ってやつだろうか。
 後一年もあるというのに。
 間違えた。学校の教師風に言うと、後一年しかない、だ。
 
 お嬢様いってらっしゃいませ、という妙にかしこまったタケさんに行って来ますと返事を返した。
 お嬢様、お嬢様。
 あの家に、わたしの名前を呼んでくれる者はいない。
 母に『ねぇ』とか『ちょっと』と呼ばれるようになって、一体何年経つのだろう。
 
 定期を出そうとして、スカートのポケットの中をまさぐる。
 ない。
 もう一度丹念に調べる。
 ない。
 後ろを振り返り、目で床を探すが定期らしきものはどこにも無かった。
 大方、家の中か車の中にでも忘れてきたのだろう。
 鞄の中から、財布を取り出す。
 千円札が二枚。百円玉が一つ。そして十円玉が四つと一円玉が七つ。
 電車賃くらいのお金は持ち合わせているが、わざわざお金を払ってまで学校へ行くということに嫌気がさした。
 わたしが通う高校は、県内でもトップを誇る進学校のくせにコンビニのコの字も見えないようなド田舎にあるという、何とも不便な学校だった。
 片道だけで千円はかかる。往復すれば二千円もかかるのだ。
 もたもたしている間にも、時計の針は容赦なく進む。ようやく切符を買おうとした時、時刻はすでに七時五十分を回っていた。
 発射時刻は七時五十一分。
 走ったって間に合いっこない。時刻表で次の電車の時間を確認する。三十分はゆうにあった。
 切符の自動販売機へと向けていた足を、180度回転させる。
 目的地は地下のコンビニ。
 雑誌や漫画を適当に読み漁っていれば、三十分なんていう時間はあっという間だ。
 
 いやにタバコ臭い会社員や香水臭い学生でごったがえするコンビニの中で、何とかわたしは自分の立ち場所を確保した。
 本日発売のジャンプを手に取る。
 女の子がこうして少年漫画を読むことに対して特に何の違和感も抱かない人がほとんどだろうが、男子が逆に少女漫画を読んでいるのを見ると変な感じがするのは何でだろう。
 ふとそんなことを考える。
 もしわたしが男だったら、果たして少女漫画を読んだだろうか。
 目で漫画のコマを追いつつ、きっと読まなかっただろうなって思った。
 三回ほど手に持っている雑誌を変えた後、携帯を開く。
 AM8:10。
 そろそろホームに向かっても良い頃だろう。
 元の場所へ雑誌を戻そうとした時、ちょうど隣の人もそこに戻そうとしたらしく、腕と腕とがぶつかった。
 反射的に謝ると、相手は小さく声を上げた。
 わたしも一瞬顔がこわばる。
 隣にいたその人は、同じクラスの『紺野さん』と言う人だった。
 年が明けてから、彼女を見たのは今日が初めてだ。
 それくらい彼女は、学校に来ない。
 エンコウをやっているだの、クスリをやっているだの、元チーマーのリーダーだの。
 たまに学校に来たかと思えば気が付いたら帰ってるし、来たら来たでしょっちゅう職員室でお説教をくらっているのもよく見かけた。
 所謂、進学校には珍しい問題児である。
 
 紺野さんの制服はだいぶ改造されていて、胸元のリボンは他校のスカーフ、規定の靴下ではなくまっピンクのハイソックス、腕にはじゃらじゃらとアクセが重ね付けされていた。
 膝丈と決まっているスカートも、パンツが見えそうなほど短い。
 けれどもその格好は彼女によく似合っていた。
 
 垢抜けたいという願望はあっても、真面目なやつって結局どこまでも真面目なんだと思う。
 風紀検査で引っかかるなんてことと無縁なわたしは、ジャケットの下のセーターでさえ学校指定のやつだ。

 まじまじと見つめるわたしの視線を交わし、紺野さんは何も言わずに雑誌を他の場所へ置き、シャンプーの香りをそこに残して逃げるように立ち去った。
 追いかけるようにして、わたしもコンビニから退出する。
 紺野さんは駅の改札口とはまるっきり正反対の方向へ、颯爽と歩いていく。
 てっきり電車に乗るものと思っていたわたしは、思わず彼女の後ろ姿を目で追った。
 興味があった。彼女がどこへ行くのか。学校に来ないで何をしているのか。
 彼女についていけば、何かが変わるかもしれない。
 そう思った。
 
 えーい、と覚悟を決め後をつけるようにして歩き出す。
 彼女は、まさかわたしが付いてきているなど微塵も思いはしないのだろう、軽い足取りで地下街を抜け、地上へと顔を出した。
 気づかれないように、遅れないように、注意を払いながら足を進める。
 思えば、車でなくて、自分の生身の足で街を歩くなんていうことは初めてだった。
 どこへ行くにも、タケさんのベンツがついてきたから。
 なんだかいけない事をしているようで、心臓がどきどきと弾む。
 車が行き交う大通りを抜け、見たことも無い住宅地を通り抜け、紺野さんはこじんまりとした公園に入った。
 時間が時間なだけか、辺りには人っ子一人もおらず、時折遠くで車の音が聞こえる以外には小鳥の囀りが耳に入るくらいだった。
 木の陰から、彼女の様子を観察する。これじゃあ、変質者だよ、と心の中で呟いた。
 彼女はしばらくしゃがんで手で何かもぞもぞしていたと思うと、いきなり立ち上がった。
 手には一輪のタンポポ。
 意外だった。花を摘むという動作が。

 そして紺野さんは何かに取り付かれたかのように再び歩き出した。
 静かな住宅街を横断するように突っ切っていくその道は、だんだんと傾斜面になってゆき、わたしの足をヒィヒィと言わせる。
 運動不足の証拠だ。
 
 染めているわけじゃないとは思うけれど、彼女はとても綺麗な髪の色をしていた。
 太陽の光がキラキラと反射し、髪の艶がいっそう際立つ。
 自分のカラスのように真っ黒な髪の色と見比べ、憧れの気持ちが浮かぶ。
 染めれば真っ黒ではなくなるけれど、校則で禁止されていたし、それより何より頭皮に悪いから染めたくなかった。
 将来自分の赤ちゃんが奇形児で生まれてきてしまったら、それはとても悲しいことだと思うから。
 
 まだまだ寒さの厳しい季節だというのに、額にはうっすらと汗をかき始めた。
 ピンク色のバーバリーのマフラーを剥ぎ取り、鞄の中へとしまう。
 
 やっと終わりかと思えた坂道の後は、神社の石段なみに急な階段が続いていた。
 誰もいないのにもかかわらず、紺野さんは鞄でスカートの後ろ辺りを抑え、息を切らすことも無くあがっていく。
 どうやらずいぶんと体力はあるらしい。
 クスリをやっている、という噂はデマだなと確信した。
 彼女みたく軽々とは上がっていけないけれど、手すりに手をかけ、わたしもまた登っていく。
 彼女はどこへ行こうとしているのだろう。この先に一体何があるというのだろう。
 好奇心がわたしの足を動かした。
 鞄の重みも気にならなかった。

 途中でなんとなく後ろを向いてみると、そこから見える景色に思わず言葉を失った。
 別世界だ。
 眼下にわたしたちの住む街が広がり、まるで宙に浮いているような錯覚をおこす。
 太陽もだいぶ高く上り、駅が米粒のように小さく見えた。
 彼女はいつも、これだけの距離を歩いているのだろうか。
 冷たい風が頬に吹き付けると、涼しく感じられた。
 
 しばし景色に見とれていたが、はっと我に返り紺野さんの後を追いかける。
 最後の段を、力強く踏み込んだ。



 ―3― gap


 そこには何もなかった。
 たくさんの名前を掲げた墓石が、これでもかと言うくらいぴったりと敷き詰められている。
 神社らしきものも見当たらない。
 足元の雑草は色あせているのにもかかわらず、まるで自己主張でもするかのように石の間から元気良く飛び出している。

 砂利道を少し進んだ所に、彼女はいた。
 つるつるとした墓石ではなく、無造作に積み上げられただけのような石に『紺野』と刻まれているのが薄っすらと見える。
 年季が入っているとは思えないが、そこ一帯だけ他のものより浮いて見えた。
 猫の額ほどの広さの、お供え物を置くのであろう台には、先ほど摘まれたタンポポが飾ってあった。
 時間が経てば、じきタンポポも枯れる。
 死の世界へと踏みこんでゆくのだ。
 彼女からも、生気というものが感じられない。
 そしてきっと、わたしからも。

 何をするでもなく黙って見ていると、拝むようなポーズをしていた彼女が突然振り返った。
 わたしの心臓が小さく跳ぶ。

「何でついてきたの」

 その声は淡々としていて、怒っているのかさえよくわから無い。
 もっとも、怒りをあらわにしそうなタイプではなかったけれど。

 ごめんなさい。
 思っていたよりも大きな声が出て、自分で自分にびっくりする。
 勝手に人の後を付けたりして、本当に失礼な話しだ。
 ピカピカに磨き上げられた床に、土足で踏み込んでいった時のような気まずさを感じた。
 いつから彼女は気づいていたのだろう。
 見てみぬフリをしていたという事実も、いっそうわたしを辱める。
 途中で咎めなかったという事は、ついてきてもいいという事だったのだろうか?
 都合の良い解釈が頭の中に浮かぶ。

「松本さんもガッコさぼったりするんだね」
 沈黙を破ったのは彼女が先だった。表情は先ほどと何ら変わりは無い。
 頷いてから、何を言おうかと頭の中の辞書を開く。
 誰か亡くなったの? と聞こうとしてやめた。
 そんなの見れば分かる。それも、おそらく身内の人なのであろうということも。
「わたしの名前知ってるんだね」
 しきりに考えたあげく、飛び出してきた言葉がこれ。
 元々人と話す事は得意な方じゃないけれど、わたしの辞書は今どこのページをめくってみても真っ白だった。
「一応女子の名前くらいはね。それにあなた有名だもん」
 いぶかしげな目線を送ると、彼女は取って付けたように付け加えた。
「テストはいつも上位だし、松本化粧品会社の社長令嬢でしょ。コスメ松本ってゆったら持ってない人はいないってくらい有名じゃん」

 こういう事は一体どこから知れ渡るのだろう。
 化粧品が有名だからって、娘のわたしにまで影響を及ぼさないで欲しい。
 友達と呼べるほど親しい人もいないはずで、クラス、ううん学校自体ともあまりかかわろうとしない彼女が、なぜ?

 相変わらず口元のパーツ以外を動かさないまま、彼女は続けた。
「これから、どうするの?」
 幾分茶色がかった、黒めがちな瞳がわたしをとらえる。
 背が高いというわけでもないし色白でマツゲが長いという、オンナノコなら誰しもが羨むような宝物がたくさんあるのに、彼女はそこにいるだけで迫力があった。
 こうやって見据えられてしまうと、蛇に睨まれた蛙のようにわたしは萎縮してしまう。
 
「ヒマならついてきて」
 答えあぐねていると、彼女が再び唇を動かした。
 
 別にヒマじゃない。全然ヒマじゃない。
 時刻はやっと10時半を回った所。
 今から真っ直ぐ学校に向かえば、少なくとも午後の授業は受けられる。
 だなんて、ここまで来てまだ学校の事を気にしている自分にほとほと嫌気が指す。
 もう一度それらの事を頭の奥へと押しやり、わたしはこくんと頷いた。

 長い髪を風になびかせ、紺野さんは歩き出した。
 気持ち良さそうに伸びをしながら、階段を降りていく。
 どこに行くの、と問いかけると、いい所! という返事が返ってきた。
 そんなんじゃ答えになって無いよ、と心の中でぼやく。
 ついて行ってもいいものなのだろうか。
 もし彼女が噂通りの人物なら?
 絶対についていかない方がいいに決まってる。
 それでも彼女の後姿を見ている限り、どうもそんな人には思えなかった。

 先ほどと同じように、彼女の後ろを辿る。ただし、二人の間の距離は1メートルもないけれど。
 会話はなかった。
 彼女は一度たりとも後ろを振り向かなかったし、わたしもなんだか気後れして声をかける事が出来なかった。
 この後の行き先を想像しながら、ただ、ついて歩くだけ。
 
 住宅街を抜け、街のざわめきの中へと戻ってゆく。
 駅につくまでの間に、バスに乗り込んだ。車内でも、わたし達の口から歯がこぼれる事はなかった。
 途中、オバさん連中の何あの子達とでも言いたげな視線を感じた。
 マリコさんや母が、わたしが学校をサボったと知ったらどんな反応を示すだろう。
 あれこれと考え、しばらく妄想を楽しんだ。
 
 10分ほどバスに揺られた後は、再び静けさがわたし達を包みこむ。
 独りでいる時の静寂は好きだけれど、こうして他人と音の無い世界を共有する事は嫌いだ。
 重たくて重たくて、実際はそんな事無いだろうのに、酸素が薄く感じられて息苦しい。
 
 距離を縮め、隣に立つ。
 その事にも気づかないのか、彼女の目はどこか遠くへと向けられていた。
 所詮わたしがすがっても、彼女はわたしを必要として無いんだ。
 今更ながらに、その事実に気づく。
 後悔の念が、わたしを襲う。

 周りを見渡せば、いつしか住宅は一つも無くいかがわしいホテルだの開店準備中の居酒屋だのが並んでいた。
 属に言う、ホテル街。
 人気こそ無いものの、思わず鞄を握り締める力が強くなる。
 まさか、女のわたしとホテルに入るなんて事は無いだろう。
 だけれど、あっちの趣味の人だったら?!
 そんなバカな考えが頭の中をよぎる。
 どこか危ない所に入るんじゃないかという疑惑が、波紋が広がるように心の中の面積を占めていく。
 暴力団やらと知り合いになるのはゴメンだし、クスリなんかはもっとゴメンだ。
 この若さで廃人になんてなりたくない。

 どうやってこの場を去ろうかと思案していると、彼女の頭はこちらを向けた。
 
「ここ」
「・・・へ?」

 彼女が指し示す先を見て、素っ頓狂な声が漏れる。
 
 そそり立つホテルの間に、それはあった。
 見た目は、小さな街のお菓子やさんとでも言おうか。
 その店は明らかに場違いで、ぽつんとメルヘンチックな雰囲気を漂わせていた。
 所どころペンキが剥げ落ち、その下のコンクリートやらが通行人の目に触れている。
 キィ・・・と軋む音をたて、紺野さんは店の中に入った。
 一瞬躊躇はしたが、甘い香りに誘われてわたしも入る。

「シズちゃんやないの。久しぶりねぇ」
 この店の常連なのか、カウンター越しに優しそうなお婆さんが、多少関西交じりで紺野さんに話しかけた。
 てっきり無表情で言葉を交わすもんだと思っていたのに、彼女は学校では一度だって見せた事も無いような笑顔を向けた。
 無論、『シズちゃん』だなんて気軽に呼ぶ人もいない。
 そういえば、紺野シズカって名前だったっけ・・・
 ぼんやりと記憶の引き出しを開ける。

 戸惑うわたしを尻目に、彼女は次々と注文していく。
 シックな雰囲気のガトーショコラ、ケーキの王道とも言えるイチゴショート、幾層もの生地を重ねたアップルパイ・・・
 その店にあるのはどれも変わっているとは言えないけれども、心をこめて作られているのが手に取るように分かった。
 
「また全種類? 太らないのが羨ましいねぇ」
 お婆さんは紺野さんに笑いかけ、次にわたしにも話しをふった。
「シズちゃんがお友達を連れてくるなんて初めてね」
 どう答えていいか分からず、曖昧にうなずく。
 
 計10個のケーキを二つの箱に入れ、また来てねというお婆さんの声を背にわたし達は店を出た。

「半分持って」
 紺野さんは、腕に抱えていた箱のうち一つをわたしの方に突き出してきた。
 別に重いものでも無いし、素直に受け取る。
 元来た道を肩を並べて歩き出すが、再び沈黙が続く。
 店内で見せたような明るさは、微塵も感じられない。
 
 何さ。
 口に出してまでは言えないので、心の中で悪態をつく。
 もう少し、会話をしようとは思わないのだろうか。
 そんな言葉が、喉の奥で出番を待ち構えている。

 臆病だ。
 わたしは臆病だ。
 いつだって他人の目を、気持ちをうかがっている。
 相手の気に触る事を言いやしないかと恐れている。
 相づちを打つ事に慣れて、自分の言いたいことは何も言えず、大勢のなかに埋もれてしまうわたし。
 そんなのイヤなのに、頭では分かっているのにどうしようも出来ない。
 恐怖を取り除く事は出来ない。
 やっと心を許せる人が見つかったと思ったのに、その人はわたしから離れていってしまった。
 何が悪かったのかも分からない。
 本当の自分を曝け出していたつもりだったのに、仮面をかぶるな! と罵倒したアキラ。
 どれが嘘の自分で、どれが本当の自分?
 問いかけたって、答えは返って来ない。

 高台のお墓を目指し、わたし達はまたバスに揺られ住宅街を歩く。
 一時間半ほど前の静けさが嘘のように、辺りは子供の甲高い声で溢れかえっていた。
 午前中で授業が終わってしまう、小学校低学年くらいだろうか。
 自分の体よりも大きく重たそうなランドセルを背負い、よちよち歩きで道いっぱいに広がって小さな足を動かしていた。
 生憎、ここはほとんど車が通らないようだから親も安心というわけか。

 南中を果たした太陽が、ぎらぎらとわたし達を照らす。
 冬だというのに、やけに日差しがキツイ。
 ケーキの箱ですら、重たく感じる。
 同じ道なのに、朝よりも急な坂道のように思われる。

 こんなにたくさんのケーキをお備えする為だけにわたしは体力を費やしているのだと思うと、急に自分の行動がアホらしく感じられた。
 紺野さんとは何の繋がりも無いわけで、実際向こうもあんまりわたしを相手にしていない。
 なんのために、赤の他人のお墓へと戻らなければならない?

「わたし、帰る」
 
 紺野さんは振り向かない。
 聞こえなかったのかと思い、少し声を大きくしてもう一度いう。
 まだ振り向かない。
 声を出すのももどかしくなり、肩をつかむ。
「何?!」
 悲鳴にも近い声をあげられ、わたしはその場に凍りついた。
 言ったってこっち向かないから気づかせようと思って、ただそれだけじゃないか。
 もう一度わたしは、帰ると告げた。
 理由も問わず、ただふぅんとしか言わない彼女の態度に、むくむくと怒りの芽が顔を出す。

「ばいばい」
 それだけ言うと、わたしはくるりと方向転換し坂道を駆け下りた。
 小学生の間を抜けるようにして、ただひたすらに太ももをあげる。
 足が壊れるんじゃないかと思った。
 関節が外れるんじゃないかと思った。
 それでもわたしは走った。
 なりふり構わず、走って走って走りつづける。

 紺野さんの無表情が頭の中にちらつく。
 振りきるように、腕を動かす。

 考えたくなかった。
 鞄の中のノートやらが互いに体をぶつける音が聞こえる。
 よろけそうになりながらも、ただひたすら街の中心部の駅を目指した。

 そこにタケさんの運転するベンツが来るには大分時間が早いと知っていても。



―4― mail

「お嬢様! 大丈夫ですか?」
 開口一番、タケさんはこう言った。
 学校をサボった事は伏せて、早退したのと連絡したからだ。
 こんなわたしを本気で心配してくれることに対して全く良心が咎めないという訳ではないけれど、タケさんはすごく正義感が強くて根が真面目な人だから、いくらわたしが『お嬢様』という立場とは言えその場で即説教が飛んでくるだろう。融通が利かない所がたまに傷とも言える。
 もちろんそれは悪いことじゃないけれど、今ここで叱っては欲しくなかった。
 
 PM1:00。
 ベンツは滑らかにすべるような音を立て、手入れの行き届いた駐車場に到着した。
 車で送ってもらっているせいか、いつまで経っても磨り減らない革靴を脱ぎ、ひんやりと冷たいフローリングの床に足をつける。
 ただいま、と声を出すが返事は無い。
 どうやらマリコさんは買い物にでも行っているようだ。
 大の大人でもゆうに足を伸ばせそうなほど広いソファーに身を任せる。
 静かな部屋に、空腹感を訴える音が響いた。
 そういえば、お昼をまだ食べていなかったっけ。
 台所に行き、冷蔵庫の中を開ける。生野菜の匂いが鼻をつく。
 賞味期限が迫っている牛乳パックに、昨日の晩御飯の残り物、まだ泥がついたままのジャガイモに、すでに水洗いされている真っ赤なトマトたち。
 なるほどこれじゃあ何も作れないわな、と一人で相槌を打つ。
 棚からコップを取り出し、真っ白の液体を注ぐがこれじゃあ腹の虫はおさまらない。
 リビングに戻ったわたしの目に、無造作に置かれたケーキの箱が目に入った。
 お金は後で払えばいい。
 そう思うよりも早く、飢えた手は箱のシールを剥がしにかかる。
 爽快な音を立て、箱の表面を少し削りながらケーキは顔を出した。
 ガトーショコラは今や生クリームで飾り立てられた瓦礫の塔へと変わり果て、ショートケーキのイチゴは事故にあった車のように隣のアップルパイへとしなだれかかり、当のアップルパイも髪の壁へと体当たりしている。
 ミルフィーユは器用にも真っ二つの層に決別し、てかてかと光る栗が乗っかった抹茶のムースへと上層部がパンチを食らわせている。
 あれだけ走ったのだ、無理は無いかもしれない。
 それでもなぜか、どうしようもない惨めさがじわりじわりと心の中に広がってゆく。
 失礼なのはどっちだ。
 自分勝手なのはどっちだ。
 わたしじゃないか。
 紺野さんが何も口に出さなかったからって、何の罪がある?
 一人で勝手に腹を立て、挙句の果てにあんな形で別れてくるなんて、なんて思いやりに欠けているんだろう。
 思いつく限りの言葉で自分を罵る。
 せっかく友達になれたかもしれないのに。
 謝ろう。
 わたしの腕が、受話器へと伸びる。
 クラス名簿を取り出し、いざ番号をプッシュしようとして別の考えが頭の中に浮かんできた。
 彼女のことだ。
 謝ったからって別段何も変わりはしないだろう。
 むしろ全く気にしてなくて、わたしがこんなに狼狽しているのを知って返って変な子だと思うかもしれない。
 何熱くなってんの、と鼻で笑うかもしれない。
 テストの時にこんなに早く回転してくれればいいのにと思うほど、頭の中で色んな予想が駆け巡る。
 そんなわたしをあざ笑うかのように、手の中の受話器は命を得た。
 無機質な音楽が鳴り渡る。
 突然の事だったからか、心臓がかすかにヒートアップする。
 時刻はちょうど1時15分。学校の昼休みが終わろうかおわらまいかとする頃だ。
 アキラだろうか?
 首を横に振り、そんな考えはすぐに打ち消す。
 わたしたちは終わったのだ。あんなに淡白な彼が、そんな未練がましいことをするわけが無い。
 何だか取りづらくて、相手が鳴り止むのを待ってみたが相当しつこい性格らしい。
 『ただ今留守にしています』というアナウンスが流れ、切れたかと思うと狂ったようにまた受話器は命を吹き返した。
 おそらく同一人物だろう。
 仕方なしに通話ボタンを押す。
「松本さんのお宅でしょうか」
 名乗らなくとも、いつもとは打って変わって丁寧な口調でも、誰なのかはすぐに分かった。
 眉毛が太いことを除けば、どこにでもいそうな中年オヤジの姿がまぶたの裏に浮かぶ。
 わたしだと分かった途端、声色まで変えてぶっきらぼうな口調になる。
 そこまで怒っているようではなかったけれども、相変わらず威勢だけはいい。
 これでは学校の電話がかわいそうだ。今頃彼の唾をたくさん浴びているに違いない。
 体調が悪かったものでと言うと、これからはちゃんと連絡するようにと念押しして声は途絶えた。
 母に連絡がいかないといいなと思いつつ、受話器を元あったところに戻す。
 紺野さんに謝罪の電話を入れようと言う気はもう無くなっていた。
 また明日本人に言えばいいじゃないか。
 学校には来ないかもしれないという考えが一瞬頭の中をよぎったが、すぐに隅へと押しやる。
 きっと来る。そんな気がした。
 ソファーへと戻り、ぐちゃぐちゃになったケーキ達を見つめる。
 そのまま捨ててしまおうかとも思ったが、何だか勿体無くてやめた。
 一緒に箱に入っていたクリームまみれのプラスチックのフォークを、お菓子の山に突き刺した時玄関のドアが開く音がした。

 嫌な予感はしたのだ。
 姿形は変わったといえども量に変化は無いわけで、つまるところ昨日わたしは五個のケーキを食べた。
 生クリーム等は好きではない。
 どっちかというと嫌いな部類。
 だけれど残すことに気が引けて、全部食べてしまったという次第である。
「お嬢様・・・学校はどうなされますか?」
 マリコさんの声が少しくぐもって、ドアの外から聞こえる。
 便器に座ったまま、わたしは言葉を出すことも出来ない。
 起きてから約10分ほど。
 朝の貴重な時間を、トイレの中でわたしは潰していた。
 後三分も入っていれば完全に遅刻だ。
「休みでいいんじゃない」
 聞いているこっちがだらけたくなるほど間延びした声を出しているのは母だろう。
 続いておそらくマリコさんが受話器を取る音、電話番号を押す音、二年三組の松本の母ですけれども腹痛のため学校を休ませていただきますとしゃべる音が聞こえてきた。
 言っているのはマリコさんだろうけれど、都合上母と名乗っているのだろう。
 思いがけなく休めることが分かった途端、有難いことにおなかの痛みはどんどん引いていった。
 これで学校の先生も、昨日のが実はサボりだとは思いもしないだろう。
 くだらないことに安堵を覚える。
 母を送り出した後、マリコさんは食卓の片づけをしだした。
 まさか突っ立ったまま見ているわけにもいかないので、そそくさと部屋にあがる。
 平日の今に、自分の部屋にいることがなんだか奇妙に思えた。
 本当なら、今頃電車の中で必死に友達の宿題を写していることだろう。
 携帯を開く。
 朝見た時に一通のメールも無かったのだから、今までの間に新しく来ているとは思えないけれども一応センター問い合わせをする。
 無慈悲にも、0通受信完了という文字が画面に映し出された。
 昨日だって学校行ってないのにも関わらず、友達からの大丈夫メールが来てない事を寂しく思った。
 怒りをぶつけるのは間違っているかもしれないけれど、わたしはいつも送ってやっているのにと思わずにはいられない。
 アキラと付き合っていた時は、朝のおはようから始まり夜のおやすみで終わるというメール付けの日々だった。
 その分パケ代は一万を余裕で越すという事になりさすがに母に小言を言われたけれども、こうして一通も無いというのは寂しくて仕方が無い。
 何をするでもなく、今月のDL曲を探していると急に画面はメール受信中へと切り替わった。
 音楽もならないうちに真ん中のボタンを押し、受信トレイを開く。
 名前は表示されず、見たこともない番号がわたしの目を引いた。
 登録し忘れだろうかと、たいした疑問も持たずメールを開く。
 そこには、期待していたようなわたしの身を案じる言葉は無く、ただ『こんにちは』という文字が表示された。
 いわゆる迷惑メールってやつ。
 しかもアドレスじゃなくて番号だから同じドコモの機種だということが分かる。
 人との関わりに飢えていたからかもしれない。
 予想外に出来てしまった暇な時間を持て余していたからかもしれない。
 右手の親指を13回上下に動かし、同じく『こんにちは』という文章を打ってわたしは送信ボタンを押した。
 
 誓って言える。
 普段の自分なら、絶対こんなことはしなかった。
2004-02-12 00:39:25公開 / 作者:月城里菜
■この作品の著作権は月城里菜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして、こんばんは。
月城里菜と申します。
つたない文章ですが、指摘、感想等いただけると嬉しいです。

松本さんがどんどんいやな女の子になってゆく・・・(苦笑
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして。小説読ませて頂きました。この物語の主人公は私と同い年のような感じで、親近感を持ちながら読んでいました。。けれども、考え方とかは大分違うので、別の意味で参考になったというか(説明が下手;)なんとなく、スチューデント・アパシーとかいう言葉を思い出しました。これからこの女の子がどういう風に成長したり、考えていったりするのか楽しみです★
2004-01-26 15:45:48【★★★★☆】黒子
黒子さん、コメントをどうもありがとうございます! すごく嬉しいです。親近感ですか☆ そうおっしゃって頂けるとやる気がむくむくと湧いてきます(笑)。あっと思わせるような展開を目指して頑張ります!
2004-01-26 18:52:57【☆☆☆☆☆】月城里菜
かんどうちた・・・・
2004-01-26 19:39:03【☆☆☆☆☆】ぴこ
↓すいません! 妹が勝手に打ち込みました(汗
2004-01-26 19:43:09【☆☆☆☆☆】月城里菜
初めまして。小説を拝見させていただきました。 [ため息を一つつけば、幸せが一つ逃げるという
2004-01-26 22:12:45【★★★★☆】KUNIMITSU
えっと、すいません↓は書きかけでミスってしまいました。「ため息を一つつけば、幸せが一つ逃げるという」このフレーズを見て、そう言う事もあったか、思い出しました。私も小説を書いて見たりしているので、よろしければ読んでみて下さい。
2004-01-26 22:15:52【☆☆☆☆☆】KUNIMITSU
私って言うか、僕ですけど。
2004-01-26 22:44:36【☆☆☆☆☆】KUNIMITSU
コメントどうもありがとうございます! ため息のフレーズ、昔々どこかで聞いたことがあって使ってみたのですが果たしてどこで聞いたのやら・・・。KUNIMITSUさまの、読ませていただきますね(^^)今時間を見つけては他の方の作品も読み進めている次第です。
2004-01-27 00:51:20【☆☆☆☆☆】月城里菜
全体の様子が分かりやすくてよかったです〜 年齢も近いので、主人公の視点から共感できるところもあり、いろんな箇所で、主人公の境遇と日常がわかるので、読みやすかったです。。続き楽しみにしています!!
2004-01-27 16:45:26【★★★★☆】葉瀬 潤
とても読みやすかったです!文章にそった風景が次々と頭の中でてくるし、主人公の感情がとてもリアルに感じました!
2004-01-27 17:48:26【★★★★☆】朱色
葉瀬潤さま、朱色さま、コメントありがとうございます! 嬉しいです! 主人公の感情をリアルに表すこと、読み手に分かりやすいとおっしゃってもらえる事は本当に嬉しいです。目指しているものですんでw 続きも頑張ります! わたしも年齢そのまんまなんで書きやすいですw やっぱり主人公の年齢は自分位置開放が書きやすい・・・と思ってしまいます。
2004-01-28 00:22:01【☆☆☆☆☆】月城里菜
私の小説にはじめて感想いただいて、どんな小説を書いているのか気になってよましてもらいました。評論するのも場違いな私ですが、なんかすごいですね。特に情景の描写が見習いたいです。話の続きも気になりますw期待してます!
2004-01-28 01:22:04【★★★★☆】鈴原
とても面白かったです。続き頑張ってください☆
2004-01-29 22:31:39【★★★★☆】ナグ
紺野さんに対しての新しい発見、街に対しての新しい発見、主人公の好奇心が伝わってきておもしろかったです!!その前のまんねり生活から抜けたい、という描写の効果絶大に。ってか、すげーココロ小さい人間みたいですが、途中の発射時刻、って発車ですよね?小さなコトですみません…
2004-01-30 04:11:28【★★★★☆】白桜
鈴原様、ナグさま、白桜さま、コメントありがとうございます。誉めて頂けて嬉しいです。そうですね・・・主人公は心狭き乙女(違)ですねぇw 成長していく過程を見届けていただけたら幸いです。
2004-02-01 17:50:06【☆☆☆☆☆】月城里菜
これからどうなるのですか〜!あと、松本さん学校さぼって怒られたりとかしないのって、ちょっと心配してみたり。続き楽しみです!
2004-02-01 19:01:48【★★★★☆】黒子
すごくいい感じのお話ですね〜。私の中では軽く切ない(?)感じのするお話だなと思うのですが(意味不明で申し訳ないです(汗))、これがまたいい意味で心に残ります。描写も特に気になるところはなかったように思います。むしろお上手ですよね。最初は一話完結のお話だと思ったのですが、私の勝手な勘違いでした(^_^;)。続き楽しみにしておりますので、頑張って書いていってください。
2004-02-01 19:47:01【☆☆☆☆☆】エテナ
コメントありがとうございます! >黒子さま 怒られるつもりですw 言われてしまいましたねぇw 本当に毎回読んで下さってありがとうございます! >エテナさま 切ない雰囲気が伝わっていたなんて! 文章力ですか・・・もう、首がちぎれるほど『いえいえ!』と横に振りたいです(苦笑)。全然まだ未熟者です。でもそうおっしゃっていただけると、すっごく励みになります。どうもありがとうございます!
2004-02-02 18:31:48【☆☆☆☆☆】月城里菜
初めまして。小説、読ませていただきました。とても分かりやすくて、主人公の気持ちもなんとなく分かるなって思いました。情景もとてもきれいで読みやすかったです。続きがとっても気になります。これからも頑張ってくださいね!!
2004-02-02 19:48:57【★★★★☆】綾瀬
読ませていただきました!情景描写が上手で読んでいてすごくイメージが沸きました♪続きが気になります!がんばってくださいね^^
2004-02-02 21:54:58【☆☆☆☆☆】律
↓点数を入れ忘れました!!^^;
2004-02-03 00:42:41【★★★★☆】律
読んでいたら、ふとしたきっかけでいつもの日常をそれると、こんなにも不思議なストーリーが始まってしまうんだ〜とすごく感心しています!!
2004-02-05 22:04:55【★★★★☆】葉瀬 潤
綾瀬さん、律さんどうもありがとうございます! そして葉瀬潤さんいつもありがとうございます! これからも下手なりに続きが気になるとおっしゃっていただけるような小説を書いていけたらと思います!
2004-02-12 00:44:31【☆☆☆☆☆】月城里菜
いつもの日常に戻っての松本さんの物足りなさ。そして当たり前にきておかしくないメールがこない落胆感が伝わってきます。。とてもその場の様子が書けているので、主人公のリアルな気持ちが感じられます!
2004-02-12 16:37:37【★★★★☆】葉瀬 潤
とても読みやすくスラスラと最後まで読めました。かんどうちたw
2004-02-13 16:06:45【☆☆☆☆☆】風
点数いれるの忘れました。次回もがんばってください
2004-02-13 16:07:16【☆☆☆☆☆】風
何度もすいません(滝汗)間違えてエンター押してしまいました。それでは
2004-02-13 16:07:52【★★★★☆】風
計:52点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。