『CHEERS!〜#3→#8〜』作者:カヲル / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角10493文字
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原稿用紙約26.23枚
#3

 泣いた。言葉より先に涙が出た。みんな揃って野球の応援が出来ないなんてショック以外の何ものでもない。
「どうしても?どうしてもカナとちぃは出れないの?」
涙声で聞くミク。
「しょうがないでしょ!?先生だって出してあげたいけど、それだけ白栄(カナ)と奥山(ちぃ)がしたことは大きいことなの!!」
先生は怒鳴るというより悲しみに満ちた声で叫んだ。絶望的だった。でも、諦めたくなくて、あたしは何度も自分に問いかけた。どうしてもだめなの?何とか出来ないの?
「・・・とりあえず、奥山と白栄は自分たちが今出来ることを考えてやりなさい。しばらくは、練習にも出せないと思うから」
練習にまで出してもらえないなんて・・・。落ち込むカナとちぃを見ているのが辛かった。何にも言えない。
 先生が出ていった部室は静かすぎた。誰も何も言わないまま、帰ることになった。

 翌朝、朝練のためにいつもの時間に行くと、カナとちぃが一生懸命玄関や購買の掃除をしていた。
「何してるの!?」
「あ。なな、おはよう!あたしたち今日から学校の掃除することにしたの。みんなの練習の間」
思わず、すごいなぁって感心した。あたしには応援することしかできないけど、きっとこれなら先生たちも許してくれるって思った。
 でも、昨日の事件を知らない後輩たちは不思議そうな目で2人を見ていた。まいが全員に集合をかけて、事情を話した。
「・・・というわけで・・・あたしたちががんばろうって言っておいてこんな事になってごめんね・・・」
謝ることしかできなかった。まいに続いて、あたしも、ミクもゆきもさとこも、みんな謝った。涙が出た。
「先輩たちが出れないなら・・・あたしたち出ません!!」
2年生はみんな泣いてしまって、みんな口々にそう言った。それを見たカナとちぃは涙まじりに何度も何度も謝った。
「これからあたしたち、がんばるから・・・みんなも化粧とかしないで、野球の応援がんばろう・・・!!」
 みんなうなずいた。その日からみんなの団結がより強くなって練習の時に出る声も、振りの一つ一つも力がこもっていた。そして、練習に出れないカナたちがいつ戻ってもいいように、合間をぬってカナとちぃに振りを教えたりした。

 カナとちぃは1日も掃除を怠らなかった。先生たちはカナとちぃの姿を見て、少しづつではあったけど見直してくれているみたいだった。あたしたちもカナとちぃの力になりたくて、出来ることをそれぞれがするようになった。
「白栄と奥山を今日から練習に戻します。」
先生からその言葉を聞いたのは、野球の大会まで3週間をきった時だった。それでも、あたしたちはめちゃくちゃ嬉しかった。
 それからは毎日全員揃って練習をした。2人が加わったことで全員でそろえるところや、時間差の振りをきれいにやれるまで踊り続けた。朝は7時から、放課後はその部活よりも遅くまで頑張り続けた。どんなに疲れても、すごく楽しかった。きつくても、笑顔が絶えなかった。

 野球の大会1週間前、あたしたちの気持ちは野球に向けて高ぶっていた。野球部への気持ちを伝えられる何かをしたい・・・。そんなとき、先生とあたしたちの間で同じ提案が出た。千羽鶴を折ること。でも、すでに野球好きのゆきのクラスでは二千羽もの鶴を折っていたから、それ以上のものを作りたいという思いがあった。
「そうだ!!ナインにちなんで九千羽折ろうよ!!」
いい意見だね、とみんなが賛成したし、後輩たちも同意してくれた。でも、九千羽の道のりは想像以上だった。
 休み時間も、自習時間も鶴を折り続けた。何てったってあと1週間しかなかったし、延ばせなかったから。クラスの子たちも手伝ってくれた。折り紙1枚1枚に選手の名前や部員の名前、メッセージなどを書いて折る。毎日毎日その繰り返し。放課後は応援の練習をして、鶴を折って・・・。朝から晩までチアづくしだった。
 まだ半分も折り終わったか終わっていないかというある日、1年生の文那のケータイが鳴った。K高はもちろんケータイ持ち込み禁止。みんなこっそり持ってはいるけど。そこで文那は堂々と電話しだした。この大事なときに。1年生はみんな、あたしたちや2年生がむかついているのを感じて苦笑いするしかなかった。文那は、カナとちぃの事件があった後もひとりだけ化粧をやめなかった。スカート丈も、チアはうるさく言われるから、と注意したのに、短いままで、チアの練習に至っては、あたしたち3年がいないと2年生の言うことをあまり聞かない、という悪態ぶりだった。だから、あたしたちは文那にはいい印象を持ってなかった。それがここに来て爆発しそうだった。話し終わった文那は、
「あ、すいません・・・」
と、軽く会釈した。でも、誰もがシカトした。いつもは穏やかな2年生の顔がこわばっていた。
「木村さん(文那)、ここは部室だけど、そういうことしないで」
まいがぴしゃりと言ってのけた。 

 文那と他のみんなの溝が深まる一方、鶴は徐々に完成に近づいていた。そしてついに・・・
「やったぁ!!九千羽ぁ!!!」
その声が響いたのも束の間・・・・折り方の汚いもの、おかしいものを折り治すという作業が待っていた。そして色別に分ける作業・・・。あと3日で試合、というところになっても、鶴は束ねられていなかった。


#4
 試合まであと2日。明日の放課後に野球部に手渡すことになっているのに、まだあたしたちは折り直し作業に追われていた。ここまで来ると、休み時間になれば走って部室に集まり、出来る限りの時間を鶴に費やすしかなかった。やっと折り直しが終わり、鶴を束ねる作業に移った。
「明日までに出来るかなぁ・・・心配だよ」
ちぃが不安そうに言った。
「何とかなるよ、絶対!!」
「たった1週間で本当に九千羽完成できたら甲子園行けそうじゃない!?」
ゆきの言葉にみんな盛り上がった。1週間で九千羽。限られた時間の中で達成できれば、奇跡みたいだ。甲子園行けそうな気がした。あたしたちチアはいつでも強気でいることを先輩たちから受け継いでいたから、本気でそう思っていた。
 放課後になって、練習は早めに切り上げてひたすら鶴を束ね続けた。
「千羽出来たぁ!!」
初めにその声を上げたのは2年生だった。あたしたちは記念の写メを撮って喜んだ。それをかわきりにあと二千羽完成した。気が付けば外は暗くなっていて、残りは明日に持ち越された。

 次の日、朝練返上で鶴を束ねた。もう少し、もう少し。そして、あたしの束ねていた鶴が完成した。本当に嬉しかった。指先はかさかさになってしまっていた。そして続々完成していく鶴。約束の放課後までに全ての鶴が完成し、手渡すのをまつだけになった。この1週間、鶴に全てを集中してきたから、あたしたちは鶴にかなりの愛着を覚えていた。手放すのは少し寂しかったけど、この想いが伝わってくれたら、って思いが強かった。
 約束の時間になって、あたしたちは鶴を抱え野球部と対面した。話し合った結果、あたしたち3年生と2年生2人が選手に千羽づつ手渡すことになった。選手の中には、カナが憧れる西村がいた。そして、ミクの元恋人のぴよもいた。西村に鶴を渡すことになっていたカナは頬を赤らめていた。
「わたしたちはK高ナインにかけて、1週間で九千羽の鶴を作りました。今までの練習の成果を出して、仲間を信じて、甲子園出場の夢を叶えて下さい」
まいが挨拶し終わって、鶴は野球部の手に託された。あたしたちの誰もが九千羽の鶴に想いを乗せていた。野球部と同じ、甲子園に行くという夢を見ていた。これからあたしたちが出来るのは精一杯の応援だった。

 試合当日になった。あたしたちチアはこの試合に応援に行けなかった。1,3年は球技大会、2年生は映画鑑賞で、試合の時間と行事の時間が見事にかぶっていた。あたしたちは試合の行方が気になってしょうがなかった。今すぐにでも試合の応援に行きたかった。そして、その気持ちを煽るようなニュースが入った。
「今5回の裏、3対0で負けてるって!!」 


#5
 「えぇっ!?」
あたしは耳を疑った。球技大会は運動場と体育館の2か所でやっていたから、チアの誰かを求めて、あたしは運動場に走った。ミクを見つけた。
「ミク!!」
「あっ、なな!!ねぇ聞いた!?K高負けてるって!!」
「うん、聞いた!!どうしよう・・・。ていうか、他のみんなは!?」
「探そう!」
あたしたちはまい、カナ、ちぃ、さとこ、ゆきを探した。カナを見つけたとき、すでにカナは泣いてしまっていた。
「カナ!!」
「どうしよう・・・負けてるって・・・今すぐ応援に行きたいよ・・・」
こんなに頑張って練習してきたのに、野球部を応援する前に終わっちゃうなんて。この目で野球部の頑張る姿を見る前に終わっちゃうなんて、そんなのやだ!!!カナを囲んでいると、他のみんながあたしたちを見つけて集まってきた。ちぃも、ゆきも泣いていた。どうにか出来ないのかな・・・。そこに、試合の続報が流れ込んだ。3対0というのは間違いで、2対0だったらしい。けど、今もまだ苦戦をしいられているみたいだった。相手の高校は強い、というわけでないだけに、怖かった。
「ねぇ、教頭先生に頼みに行ってみよう?球技大会はあと少しで終わる、って球技大会運営委員のひとが言ってたし・・・ダメ元で行ってみない?」
まいの提案にみんなうなづいた。教頭先生のいる部屋までの廊下が長く感じた。その間中カナとちぃは泣いていて、ミクもゆきも泣き出してしまった。さとこがたった1人、
「大丈夫だよ!!絶対大丈夫だって!!」
と強く言い張っていた。

 教頭先生の部屋をノックして扉を開けると、いすにどーんと座り、テレビでK高の試合の中継を見ていた。その中継の画面に映る野球部の姿に、あたしたちの気持ちは一層高ぶった。
「先生、あたしたちを、応援に行かせて下さい!!お願いします!!」
教頭先生は校内で怖がられている厳しい先生だった。みんな頭を下げた。怖くても、ひるんではいれない。
「駄目だ、駄目だ!!まだ球技大会は終わってないんだぞ!」
低く、重い声が部屋に響いた。
「でも、このままじゃ・・・」
何か言いかけたまいを遮るように先生は続けた。
「お前たちは野球部を応援するために毎日練習してきたんだろう?K高野球部がこんなもんじゃないだろう?それにまだ試合は終わっていない。信じて祈ってろ」

 あたしたちは泣きながら部屋をでた。教頭先生がそういう以上、待つしかなかった。球技大会が終わったのはその数十分後のことだった。あたしたちは制服に急いで着替えようと更衣室に走った。
「ななちゃん!!」
呼び止める声に振り向くと、そこには同じクラスでK高野球部の監督の娘である園美ちゃんがいた。
「今、試合見に行ってるママに聞いたら、3対2で逆転したって!!」
信じられなかった。あたしは園美ちゃんと抱き合って喜んだ。その声はみんなに聞こえていて、ミクもゆきも、みんな飛び跳ねて喜んだ。
 その後はとんとん拍子で点を重ね、8回の裏の時点で5対2と優勢になった。あたしたちより早く学校行事の終わった2年生は、試合の応援に行くことが出来て、あたしたちに試合の経過をメールしてきてくれた。泣いていたあたしたちを見ていた先生の1人が、試合場所まで車で送ってくれるといってくれた。
 その車の中で、2年生から電話がかかってきた。
「先輩、勝ちました!!K高勝ちましたよ!!」
その声で、車の中は歓声に包まれた。電話越しに聞こえるK高の校歌と野球部の歌声。あたしたちは先生の車の中ということも忘れて、校歌を大きな声で歌った。


#6
 あたしたちが球技大会で泣いてしまったことは、野球部の選手たちに伝わってしまっていた。
「今日ミク、枡田くん(野球部選手)に『球技大会で泣いたんだろ?』って言われたんだよ!!」
ミクは恥ずかしそうに言った。それにカナが続けた。
「そうそう!それで、負けちゃうと思ったからって応えたら、枡田何て言ったと思う!?」
「えっ、何て!?」
「『おれたちの事、もっと信じろよ』って!!!」
「きゃぁ〜〜!!信じるぅ〜!」
あたしたちも、この場にたまたま居合わせた2年生までも枡田くんの言葉にやられてしまっていた。本当に、かっこよすぎる!
 
 第1試合に勝ったK高は、第2試合に駒を進めた。第2試合の対戦相手は、K高と並んで強豪と言われるR高だった。野球部はもちろん、あたしたちも緊張感に満ちていた。R高は、最近下降線の学校だけど、気は抜けない。そう思っていた矢先、R高戦は雨で順延になった。そこであたしたちのテンションは少し下がったけど、試合当日は元通りのはりきりようだった。会場に着いたあたしたちは、客席にいる人の数に驚いた。第2試合で、この人の入り様は異様だった。空きの席を見つけることの方が大変だった。
「すごい人!!これ、みんなK高の応援だよねっ!?」
ゆきが、いつもの調子で言った。
「やっぱり、R高戦だけあって注目されてるんだよ、きっと」
 
 そんな異様な熱気の中で、試合開始のサイレンが鳴った。1回は両者無得点だったけど、2回表にR高のバットがボールを打ち返し、1塁に走った。そのチャンスを行かすように次の打者はバントでランナーを2塁へ運んだ。さすがR高、そこで失敗はしなかった。きちんと球を繋ぎ、1点を先制した。その様子を見守るしかないあたしたち。でも、不思議と不安はなかった。枡田くんの言葉が胸の奥でこだまする。『おれたちの事、もっと信じろよ』
 その後は両者激しい攻防で、K高はまだ先制されたままだった。そのまま5回まで来てしまった。5回の裏、K高の攻撃、打者はナインたった1人の2年生、山本くんだった。山本くんは、チャンスに強く、第1試合で逆転の幕を切って落としたのも彼だった。あたしたちの応援にも一層熱がこもる。
「かせかせ!!まさのり!!(山本くんの名前)」
そして、山本くんは期待を裏切らなかった。左中間を深く破る3ベースヒット。R高の送球のスピードに負けぬ足の速さで3塁に滑り込み、大きなチャンスを作った。あたしたちはスタンドからめいっぱいの歓声を送る。その声は、次の打者の庄田くんにも送られた。でも、庄田くんはストライクを2球とられてしまい、ここで打たなきゃ1アウトになるところだった。その場面で庄田くんは粘りを見せた。ピッチャーの横を抜けるセンター前ヒット。3塁から山本くんがガッツポーズをしながら笑顔でホームに戻ってきた。1対1の同点に追いついた。あたしたちはボンボンを高らかにあげ、手を振った。K高の応援スタンドは喜びの声でいっぱいになった。
「やっぱり山本くんからだったね!!」
あたしの前で踊っているゆきが、満面の笑みで言った。
「うん!!やっぱK高最高だよ!!」
あたしも笑顔で答えた。
 勢いに乗り始めたK高。それに焦りを感じたのか、R高はピッチャーを次々と替えてきた。
「えっ!?また交代?どういうつもりなのかなぁ?これで3人目だよ?」
「攪乱させる作戦なんですかねぇ?」
2年生の後輩も首を傾げた。でも、勢いに乗ったK高は止まらなかった。1回で打者が10人出塁する猛攻で、R高を5対1と一気に引き離した。応援しているあたしたちはその攻撃に大興奮し、選手の名前を呼ぶ声がどんどん大きくなった。スタンドがひとつの波のように感じた。R高のスタンドはこの猛攻に圧巻されていた。それでも、選手に届くように一生懸命声を張り上げている。
 そのままK高は独走し、9回には8対2にまでなっていた。このまま逃げ切れるんじゃないか、と思った。でも、そこはさすがに強豪校。一気に点を返し、3点差まで迫ってきた。気を抜けば、すぐに取られてしまうような点差だった。あたしの中で少しだけ不安がよぎる。
「大丈夫だよね!?」
不安になってきいたあたしに、ゆきは答えた。
「もちろん!!大丈夫だよ!!」
K高エースの小出くんがR高の攻撃をしっかり抑え、反撃も及ばず、K高は勝利を手に入れた。サイレンが鳴り、両ナインの礼が終わると、K高の校歌が球場に流れた。あたしたちは丁寧に踊りながら、大きな声で校歌を歌った。この日を、この夏を待っていた。勝って校歌を歌う。それは野球部にとって何より嬉しいことであるのと同じで、あたしたちにとっても何より嬉しいことだった。
 校歌が鳴り終わると、ナインはスタンドの前に走ってきた。スタンドはめいっぱいの拍手と歓声で迎える。
「ありがとうございました!!」

 その日の夕方のニュースで、この試合の模様は報道され、嬉しいジンクスのようなものを聞いた。
「ちなみに、この10年間、決勝戦以外でK高とR高の試合が行われたのは4回ですが、なんと、その試合に勝った方が甲子園出場の切符を手に入れてきました!今年の夏はどうなるでしょうか・・・・」
思わず、テレビを食い入るように見つめてしまった。


#7
 第3試合に当たるだろうと言われていたのは、春の大会で勢いに乗っていたT高だった。T高のエースは、県内でプロにも注目されている選手の一人で、そのひとを中心にチームは大きな盛り上がりを見せていた。でも・・・・T高の第3試合進出を賭けた戦いには、プロのスカウト陣が観戦しに来ていたせいか、T高のエースは力を出し切れず、第2試合敗北に終わった。
「こんな事ってあり得る!?絶対T高と当たると思ってた!」
さとこが言った。
「だよね〜!」
「きっと、スカウト来てたから緊張してたんじゃない?最後の夏なのに、なんかかわいそうだね・・・・」
「うん・・・テレビのインタビューにも泣きながら答えてたし・・・」
「そうだね・・・。そういえばT高に勝ったF高って、強いの?」
ちぃの素朴な疑問に、野球部の彼氏を持つゆきが答えた。
「そんな強くないと思うけど・・・っていうかK高が1番強いけどねっ!!」

 第3試合、F高戦はあいにくの雨だった。マウンドがどろどろなのがスタンドからもわかった。あたしたちも雨に濡れて、前髪の先から雨の滴が頬を伝う。不思議と寒くはなかった。冷たさもあまり感じなかった。
 1回、2回にK高はチャンスを逃してしまった。雨のせいかなぁ・・・。でも、3回の裏、2アウトで主将の沢村くんが打ち、得点圏にランナーを進めた。チャンスを逃してしまっていただけに、この当たりにスタンドからは大きな歓声が湧いた。次の打者は、大活躍の2年生・山本くんだった。山本くんの当たりは内野安打で、その送球の間にランナーがホームに帰り、1点先制。ここから少し勢いに乗ったK高は2塁、3塁と次々に攻め立て、そこで庄田くんがレフトオーバーの大きな当たりで2点タイムリー2ベース!!
「いいぞ!いいぞ!!K高!!」
雨の中での応援に熱が入る。続く4回、川端くんが2ベースヒットを放ち、また主将の沢村くんが3ベースヒット。この回にK高は3点を追加して、F高をつきはなした。
 でも、ここでF高は粘りを見せる。今までK高エースに攻撃を抑えられてきたF高打線が初めて当たりを出した。その当たりを無駄にするわけにいかない、と言わんばかりにF高主将が意地の3ベースヒット。1点を返した。雨で思うように投げられなくなってきたK高エース・小出くん。小さなミスが続く。
「小出くん、大丈夫かなぁ・・・」
そんな小出くんを気遣って、キャッチャーのぴよ、主将の沢村くんが小出くんの元にかけよった。その後、小出くんはいつもの調子を取り戻し、しっかり抑えた投球をする。今までの2戦、逆転勝ちをおさめてきたK高はF高との点差を保ったまま、試合を終えた。これでベスト8進出。甲子園という夢が一気に近づいた瞬間だった。

 K高がベスト8を決めた頃、去年の夏の優勝校で、K高のライバルのY高もベスト8に駒を進めていた。


#8
 「次の試合、青南中対決なんだよ!!」
ミクが嬉しそうに言った。次に当たるN高のエース・浦くんはK高エースの小出くんと同じ青南中学校だった。そして、リトルシニアと呼ばれるチームのチームメイトでもあった。青南中学校には浦くん、小出くんの他にもミクを始め、キャッチャーのぴよ、他にも何人かK高野球部の人が通っていた。リトルシニアには現K高主将の沢村くんも入っていて、その当時は沢村くんがエースだったらしい。
「じゃあ楽しみだね」
「でも、もちろんK高が勝つけどねっ!!」

 サイレンが鳴ってK高対N高の試合が始まった。N高エース・浦くんも、K高エース・小出くんも闘志がみなぎっている中にも楽しんでいるように見える。お互い1歩も譲らずに4回まで両者無得点だった。お互いチャンスはあるものの、活かすことが出来なかった。
 そして5回の表、N高の攻撃。初球から打ったN高打者。その球はセンターの頭を越えて、落ちた。送球の間に打者は3塁まで猛ダッシュし、セーフ。ノーアウト・3塁のチャンスに小出くんも引き締まって投げる。そんなN高打線にプレッシャーをかけようと、前の方で守備位置に着いていたK高選手。打者が打った球はその間を抜ける左中間の当たりで1点を先制された。スタンドで見ているあたしたちに不安はなかった。今までも逆転勝利をおさめてきた。K高はこれからだ、そんな思いがあった。その後、小出くんは冷静にストライクをとり続け、追加点を許さなかった。
 5回の裏・K高の攻撃。バッターはぴよからだったけど、ぴよは1アウトを取られ、次は西村だった。西村は初球から打っていった。点を取られた後の攻撃だけに、スタンドは湧いた。西村とあたしは同じ中学だった。西村は昔から足が速くて、運動神経が万能だった。その足を活かして、2塁まで走り込んだ。あと1本打てれば、西村はホームに帰ってくる!追いつける!あたしたちの応援により熱が入る。この大事な場面にバッターボックスに立ったのは、枡田くんだった。N高エース・浦くんも、ここで点を入れるわけには行かないというばかりに、バッターが手を出せないところに投げてくる。おかげで枡田くんはアウトを取られてしまって、2アウト2塁。後がない。次のバッターは川端くん。浦くんが深呼吸をするのがスタンドからもわかった。そして、初球を川端くんのバットがとらえた!打った瞬間に川端くんは走った。西村もホームに向かって走る。川端くんは2塁へ。西村がホームを踏んで1点を返した。スタンドがわぁっと歓声に包まれた。
 その後も小出くん・浦くんの意地の対決が続く。互いに得点を許さずに8回表・N高の攻撃。1アウト・1塁2塁から小出くんがN高の4番打者に勝ち越しの当たりを許してしまった。その後は意地で抑えたものの、8回なだけに、少しドキドキしてしまう。その裏、K高は川端くんの当たりで3塁にいたランナーが帰り、再び同点になった。
 K高は9回の裏にチャンスを活かせず、延長戦にもつれこんだ。K高にとって初の延長戦だった。11回の表・N高の攻撃、4ボールなどで1アウト満塁の大ピンチ。そこで小出くんの投球は冴えまくり、ダブルプレーをとり、無得点に終わった。あたしたちの期待は膨らむ。裏・K高の攻撃。浦くんの投球が少し乱れ、K高唯一の2年生選手・山本くんが1アウト・3塁の大チャンス。そこでバッターボックスに入ったのはノっている川端くん。大きな歓声が川端くんに注がれる。浦くんの投げたボールをスクイズ。N高のキャッチャーが急いでボールを拾いに駆け出す。そこへ、山本くんがホームを目指して走り込んでくる。K高の応援スタンドはひとつになった。わぁっと山本くんの名前を呼ぶ声が波のようだった。山本くんの手だけが伸び、ホームをタッチしている。キャッチャーの手が山本くんにボールをタッチしているように見えた。その判断は、審判にゆだねられた。

 審判の手は真っ直ぐ横に振られた。セーフだ!

 山本くんは手を高らかに上げ、満面の笑みで叫んだ。山本くんの元に選手たちが駆け寄って抱き合った。あたしたちも抱き合って勝利を喜んだ。跳びはね、声を上げた。
「K高最高!!」
 N高エース・浦くんはその場に膝を落とし、頭を抱え込んでいた。スタンドからその姿が見えた。守備の選手も、涙を拭きながら挨拶に戻ってくる。浦くんの手を取り、立たせるキャッチャー。あたしたちK高はN高の分までがんばらなきゃならない。そう思った瞬間だった。

 挨拶が終わって、しばらくすると、浦くんとキャッチャーが小出くんとぴよのところに行って、何か話しているのが見えた。
「何話してるのかなぁ」
「きっと、お前らがんばれよ、って言われてるんじゃない?絶対甲子園行かなくちゃ!ね!」

 その夕方のテレビで、この試合の模様が放送されていた。インタビューで、『試合後、小出くんには何と声をかけていたんですか?』と、浦くんが聞かれていた。
「頑張って甲子園行けよ。Y高に負けるな。お前らなら行けるよ、って言いました。彼らなら行けると思います」
浦くんのその言葉に、あたしが試合に出ているわけでもないのに、異様にやる気になった。涙が止まらなかった。
2004-02-06 17:25:58公開 / 作者:カヲル
■この作品の著作権はカヲルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
#8は、N高とK高の選手たちの間にある友情を描きたいって思ったんですけど・・・やっぱ難しかったです泣
この作品に対する感想 - 昇順
拝読させて頂きました。話が唐突すぎではありませんか? 無駄な改行がありますね。直した方がいいですね。中黒は三点リーダーの方が望ましいです。それと文体がおかしいので、正直読みにくかったのが本音です。あと、個人的な意見ですがこの物語は典型的すぎではありませんか? ですから大体の話の予想はついてしまいました(^^;) でも続き頑張って下さい。
2004-01-25 13:13:37【☆☆☆☆☆】楊影楓
レスありがとうございます☆自分で書きながら、典型的だなぁって思ったんですけど、実際にあったことを結構いれてるので、なかなか曲げれなくなってしまって↓↓でもなんとか工夫してがんばってみます!!
2004-01-25 13:22:23【☆☆☆☆☆】カヲル
こんばんは。ちょっと話の展開が早すぎたように思います。九千羽鶴を折りあげていくところなんかは特に唐突なのではないかなと思いました。突然提案し、そのわずか五行後に九千羽が揃う。九千羽を折り上げるまでにも、ちょっとしたエピソードがあれば読者のみなさんはもっと九千羽鶴に感情移入できるのではないのでしょうか。それから、恋愛の部分ですね。カナと西村や、ミクとぴよの関係もまた突然だなと思いました。何だか物語ではなく、あったことをただつらつらと書き連ねていっているだけのような感じがします。実際の話を元にしているからでしょうか。ですが、読んでいて、登場人物のみんなの熱心な様子がよく伝わってきたと思います。続きも楽しみにしています。
2004-01-31 23:22:29【☆☆☆☆☆】エテナ
感想ありがとうございます☆☆かっなり展開早いですよね、やっぱり泣 ごめんなさいっ!!ちょっと訂正いれつつまたがんばりまっす☆☆
2004-02-01 13:50:16【☆☆☆☆☆】カヲル
なんか、熱い感じでした。熱血というか、青春してるって感じでした。。こういうシチュは現実にありそうなのに、なぜだか現実味がないような気も。。これからの展開に期待します。。
2004-02-01 14:55:55【☆☆☆☆☆】黒子
計:0点
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