『かえる、ということ』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角8467文字
容量16934 bytes
原稿用紙約21.17枚



一.

 僕は今、実家へ帰ってきている。滞在期間は、わずか3日。一応、帰ってきた今日を入れれば4日になる訳だが。今している仕事の関係上であるが、そんなに長く休みはとれないわけだ。ただこれも、仕方の無いこと。普段の僕なら、交通費の捻出を懸念し、帰るのを面倒くさがる所だろう。ただ今年は、どうしても帰りたい理由がいくつかあった。

 実は帰省の途で、僕は携帯電話を紛失している。飛行機に乗る前、空港までは電車だったわけだが・・・どうもその中に落としてしまったらしい。親には散々馬鹿にされたが、全く以てその通りだろう。折角帰省したというのに、「戻ってきたよ」という事実すら友人に伝えることが出来ない。如何に今の生活が、携帯電話の上に成り立っていたかを思い知らされる。「無ければ無いで別に構わない」と言っていた高校時代が懐かしい。
 ただ、不思議と焦りは無かった。滞在時間が短いとはいえ、本気で連絡をとろうと思えばとれるものだろう。息子はそんな感じでのほほんとしていた訳だが、母としてはどうも、携帯の所在が気になるらしい。
「誰かが拾ってて、もう使われてるんじゃないの」
 まあ、そんな事もあるかもしれない。と言うよりは、その可能性を一番懸念すべきだ。だが、実家に帰ってきてからというもの、何度も自分の携帯に電話をかけてみたのだが、一向に繋がらない。全部留守番電話サービスになってしまう。
「まあ、なんとかなるんでないかい」
 僕はそう言って煙草を呑んだ。
 母はそんな息子の姿を見て、しばし呆れ顔であった。


二.

「飲るか」
 父が車庫から顔を出してきた。車庫から出てきたということは、また鉢に植えられたエビネでも見ていたのだろう。
 父はエビネという植物が好きで、僕が小学生くらいの頃からずっと世話をしている。簡単に言うと盆栽である。いい時期になると綺麗な花をつけるもの だから、僕もそれを見るのは好きであった。
 ただ、散り方が心苦しい。枯れるころになると、花の根元からぽろりと落ちてしまうのだ。首がもげるように、ぽろりと。
「皺だらけになって朽ちるよりは、よっぽど潔いだろう」
 父はそんなことを言っていた。成るほど一理あるかもしれない。ただやはり僕としては、その「首もげ」の様はあまり良いとは思えない。唐突な命の事切れを、少なからずイメージしてしまうせいもあるのだろう。

 まず缶ビールを一本あおる。酒はあまり強い方ではないが、いったん「飲もう」という胆を決めるとしぶとくなる。
友人とぶっちゃけた話をする時や、相手の悩みを聞きながら飲む時はそうすることが多い。
 父が日本酒を持ってきた。
「飲め飲め」
 そう言って僕に勧めてくる。
「氷を入れるといいぞ」
 一瞬「えっ」と思ったが、どうも酒自体があまりよく冷えていないらしい。本当は器のほうをギリギリに冷やすと良いのだが、あまり気にしない事にした。薄まって、少しは飲みやすくなるかもしれない。
 僕はそうやって日本酒を飲んでいたのだが、父は一向に手をつけようとしない。どうしたの、と聞いて見たところ、
「最近はこれなんだ」
 と言いながら、テーブルの下から焼酎を取り出してきた。肝機能の低下とやらで、医者に日本酒は止められたらしい。いや、それでも飲んでる分には変わらないんじゃ・・・等と考えていたら、今度は自分の目を疑うものを出してきた。
「・・・何そのスポーツドリンクは」
 父は一瞬キョトンとした表情で、
「何って、これで焼酎割って飲むんだろ」
 と返してきた。
 ・・・いや、有り得ない。酒にスポーツドリンクは、かなり危ない取り合わせなのだ。
 スポーツドリンクはその名の通り、運動などをした後でよく飲まれる。液体の中にはイオンが入っており、体に水分や栄養素がよく行き渡るような組成をしている。
 僕が大学に入りたての頃、焼酎をポカリで割ったやつを一気飲みして倒れた奴がいた。当然だ。ポカリに入っている電解質イオンが、体のすみずみまでアルコールを行き渡らせたのだから。倒れた当の本人は、味的に美味しい選択と思ってやったのだろうが・・・飲み慣れていない僕らは、あまりに無知であった。まあ、一気飲みという所作そのものがまずかったという話もあるわけだが。
 そんな訳で、僕の中で「酒の席でのスポーツドリンク」は禁じ手となっている。それを、眼の前の父があおっている。
「・・・大丈夫なんかい」
「これ飲むと、次の日すっきり目覚められる」
 それを聞いて、もう深くは突っ込むまいと思った。そういえば、早く酔っ払うためにわざとスポーツドリンクを併用する人もいるという。少量で酔えるのなら、体への負担も少ないだろうと考えることにした。


三.

「叔父さんが死んだ事は、もう聞いたな」
 父は突然切り出してきた。
「うん」
 僕はその事実を、帰省の2日前に聞いていた。事故や病気ではない。叔父は、自殺した。
 借金で首が回らなくなったとか色々聞いてはいたが、まさか自殺するとは考えもしないことであった。正に親戚中に衝撃が走ったという。僕は通夜に行くことができなかったから、仏前に赴こうとしたのが今回帰省した理由の一つである。
 僕と父は、叔父さんが死んだという事実を一つ取り交わしたあとは、その話題について触れることをしなかった。意識した訳ではない。ただ、自然とそうなっただけだ。
 その後は、くだらない話をする。やれ学校の方は大丈夫なのかとか、女とはうまくやっているのかだとか。それは本当に他愛のない、酒の肴だ。
「まあまあだよ・・・」
 そう返しながら、僕は日本酒をあおり続ける・・・二人とも母に怒られるまで。昨年帰って来たときは、「飲みすぎで怒られるタイミング」をはっきり計ったはずだったのだが。
 悪いねえ、とか言いながら。酒が美味いと感じられたのは、久しぶりだ。


四.

 次の日。丁度お盆時期であったから、祖父母の墓参りへ先に行くことにする。
「今年も、帰ってきたよ」
 墓前に話しかける。
「来年は忙しいから、どうなるかわからんけど」
「なるべく、戻ってくるよ」

 その後、叔父の家へ行って香典をあげる。家の中は何か暗く、陰鬱な雰囲気で、長居しようとはとてもじゃないが思えない。叔父の母にあたるおばあさんには、幼少の頃からかなりお世話になった。当然ながら元気は無く、怖いくらいにその体は小さく見える。もっと話をしようと思っていたのに、いい具合の言葉が見つからない。
「また来ますね・・・」
 そう言って僕は、家をあとにする。去り際、おばあさんがあまりに深々と礼をするので、随分と恐縮してしまった。この感覚・・・何処かで体験したような・・・

 一旦自宅へ戻ってから、また僕は外へと踵を返す。通っていた小学校へ向かうためである。何でまた小学校なのかと言うと、今日はその同窓会があるからだ。なんとなく、母校を見ておきたい気分である。
 自転車を使えば早いのだろうが、何故か歩きたい気分だ。通学路を、あのころと同じように歩く。使っていた道は、農道。昔に比べて随分と舗装がなされていて、歩き易くなっている。
 ただ、今視界に広がっているのは、一面の、田。日はまだ高く、空は青々としている。田に生える稲の緑も、一層映える様相だ。
「何も・・・変わってない」
 この風景は、何も変わっていない。ざあ、と風が通りすぎる。稲も、それに合わせなびく。僕はそんな中で、ある種の固定された時間を想像した。ただそれは、漠然とした不確かな印象である。
「違う所も、あるじゃないか・・・」
 僕はそう呟いて、煙草に火をつけ始める。

 そうするうちに、小学校へとたどり着く。この校庭はこんなに狭かったかしら? まともにここを訪ねたのは、もう何年ぶりなのだろう。僕の体躯も大きくなった。全力で走れば、すぐに反対側へたどり着いてしまう・・・
 車が停まっている。中に職員がいるようである。僕はずうずうしくも、中にお邪魔しようとする。
「失礼します」
 あの頃と変わらぬ風に、言う。
「どうしましたか?」
 職員さんが応じる。僕は、今日は小学校の同窓会があって・・・10年前のここの卒業生です、などという事を話す。アルバム等を校長室から引っ張りだしてきて、眺めてみる。若い、若すぎる。なんか頬が赤いしなあ、この写真。よし、今日のネタにしてやろう。
「ここも変わってませんね」
 そんな事を職員さんに向かってふと漏らす。木造の校舎、体育館・・・本当に何気なく、口から出た言葉であった。
「いや、随分と生徒数が減りましてね・・・」
 よくよく聞けば、僕が在校生であったときよりも、はるかに少なくなっている。各学年が一クラスしかないのは変わっていないとして、どのクラスも20人をきっている。3年生など、7人しかいない。
「10年以内には、廃校になるかもしれませんね・・・」
 僕は、そうですか、としか答えられない。とりあえず、校舎をあとにする。

 固定された時間はやはり有り得なくて、確実に流れていた。同じに見える風景も、時間が経てば「同じもの」とは言えない。少しセンチメンタルになりながら、やはり煙草をふかすことにする。あの頃は、煙草なんて吸ってなかったんだ。当たり前の事を考えながら、煙を肺に染み渡らせる。少し、むせてしまった。


五.

 同窓会の会場は、スナックを貸しきって行われるようだ。詳しい情報は何も聞かされていなかったし、今はもう携帯も所持していないものだから、同窓会については何も知りようが無い。近くに住んでいる同級生に何とか連絡をとって、一緒に行くことにする。
「あれっ、こんなトコにコンビニなんて・・・」
 言いかけて、止めておく。昔は無くても今はあるかもしれないという、当然の可能性。戻ってくる言葉は予想できるだろう。
「何?」
 そう友達は聞き返してきたが、
「いや、何でもない」
 僕は結局そう答えただけだった。


六.

 同窓会、会場。場所がスナックなものだから、中は薄暗い・・・
「居酒屋は、もう予約で一杯だったんだ」
 同窓会幹事が、そんなことをいう。流石にお盆だからな。唯でさえ地元には飲み屋が少ない。
 予約を取るのが少し遅かったことが原因だったのだろうが・・・スナック、というのもどうだかなあと感じている自分が居る。周りの人も、少なからずそう思っているんでないかい? 口には出さないけれども。
 それにしても、懐かしい顔ぶれ。皆大人っぽくなった。女などもう、皆化粧をしている。まてまて、それはファンデーション塗りすぎだろう。男は、髭をはやしていたり。・・・僕も、皆からは「前とは変わった」という風に見られているだろうか。
「よ、やっぱり来たね」
 一人の女に話しかけられる。
「あ、うん・・・」
 僕は曖昧な返事をする。
 彼女とは、僕が関東の方に言ってからも、結構マメに連絡をとっていた。今回の同窓会の報せをしてくれたのも、彼女である。帰省については、結構ぎりぎりの所まで(帰省2日前まで)するかどうか迷っていたせいもあって、ひょっとしたら帰れないかも、などと伝えていた。
「悪いね、なんか携帯に連絡してくれてた?」
 携帯を紛失してから、二日が経過している。
「うーん・・・返事返ってこないから、もうわかってるもんだと思ってほっといたよ」
 あっけらかんと彼女はいう。僕は電車の中に携帯を落としたらしい、という経緯を伝えておくことにする。
「うわー、そりゃ残念だね。ご愁傷様」
 僕の前で手を合わせるポーズをする。ちっとも同情している様には見えない。
 彼女は性格的には非常にさっぱりしている。あまり物事に忖度しない。さばさばしているものだから、男から見たら好みが別れるのだろうが、僕は彼女のことが非常に好きだ。久しぶりに直に顔を見たいと思ったのが、また帰省の理由の一つとなっている。なにぶん、携帯で連絡はとっているものの、顔を合わせるのは5年ぶりくらいにはなるだろうから。
「なーにさ。顔になんかついてんの?」
 思わず見つめてしまっている僕に対し、彼女は言う。いや、お世辞じゃなく、彼女は綺麗になっていた。普通に街を歩いていれば、男が十人居れば八人くらいは振り返るんじゃないか? そんでそのうち三人くらいは声をかける。
「いや、なんもしないよ」
 僕はそう返して、
「変わってないねえ、お前も」
 一つ嘘をつく。間違っても本人を前にして、「綺麗になった」などという歯の浮くような台詞を口にすることはできない。
 僕は彼女に一度告白して、敗れ去ったことがある。もともとが小学校からの付き合いだから、幼馴染の様な関係であったが・・・高校までは一緒だったので。懐かしい思い出だ。
振られはしたものの、それからは今の様な関係になれた。その前よりは会話も多くなり、本当に「よき友」という印象を持っている。
「こっちも、何も変わってないよ。あたしも、相変わらずだしね」
 そう言って彼女はウーロンハイに手をつけ始める。
「変わってない・・・ということは」
 彼女は彼女で、うまくやっているようだ。現在彼女には、年上の彼氏がいる。
 以前、「あんまりおおっぴらに、広められないんだけどね。この話」と言っていたことから想像して、あまり世間的には良くない関係なんだろうと考える。何気なく探りを入れてみたら、言葉を濁していたものの、どうやら僕の予想は的中しているようであった。
「ふむ・・・」
 僕もビールをあおって、
「まあ・・・勧めないよ、僕は」
 そう、一言だけいう。彼女もそれで悟ったらしく、
「うん、まあ・・・自分なりに頑張ってみるよ。ありがと」
 と、何故か礼を言った。
 僕はけっこうのほほんとしているのだが、投げかける言葉はたまに辛辣になる。思ったことが、そのまま口に出ていることが多い。それで怒る人もたまにいるのだが、割かしその言葉自体が虚言ではなく「事実」であることが多いため、微妙に納得してくれる人もいる。今現在、僕の友人として周りにいるのは後者の人が多い。彼女もそのうちの一人に入るのだろうか。
「んー、なんと言うか」
「実りがない恋愛っていうか」
「色々責任とか取らないといけないかもしれないし・・・少なくとも」
 そこでビールをぐっと飲み干す。
「僕は応援しないよ」
「じゃあさ、」「生暖かく、見守ってくれるんでしょ?」
 彼女は少しだけ笑って、言う。くそ、次の自分の言を取られちゃあ堪らない。やはり僕の考えは読まれているようだ。
「・・・・・・」
 僕も静かに笑みを浮かべながら、煙草に火をつける。
「おーい、幹事ー、おしぼり持ってきてー」
「はいはーい、ちょっと待ってー」
 彼女はこの会の幹事の一人なものだから、やはり忙しいようだ。
「それじゃ、また」
 そう言って手を振り、彼女は僕の席から離れていった。


七.

 僕は今、友達と二人で明け方の道を歩いている。

 同窓会は結局、人数も結構集まったこともあり、それなりの盛り上がりを見せた。ご丁寧に卒業アルバムを持ってきた女がいて、馬鹿みたく皆笑っていた。
 二次会でまた飲み屋、三次会でカラオケに行って、そこで皆解散という事になった。僕は友人の一人に―――それはもうかなりの親友なのだが ―――歩いて帰らないか、と持ちかけた。色々話したいこともあった。彼はそれを承諾してくれた。

 そんな訳で、今に至る。2次会の時点で少し飲みすぎたせいか、軽く頭が痛い。だがそれも、涼しい朝の風に当たることで、少しは紛れるような気がする。
 友人とはもう、色んな話をする。近況報告が多かったが、何故か恋愛話に傾いていく。
「いやだから、あの女がさ・・・」
 僕らは下らない話をしながら、家への途を歩いている。
 何時から、親友と呼べる間柄になったのだろうか。関東に出てから交友関係が広まった今も、親友として一番最初に顔が浮かぶのはこいつだ。

 彼には、父親がいない。高校の時、急逝してしまった。僕は以前より彼を友達だと思っていたから、通夜に出席することにした。高校の同級生で通夜に出たのは、僕だけであった。
 通夜で彼に会ったら、励ましの言葉をかけようと思っていた。だが、いざ彼の後姿を確認すると、声を掛けることができない。

 何を言っても、軽い。

 そう直感した。そう思ったあとは、堰を切ったかの様に涙があふれてきた。もう、止められない程に。
 あの時、何故僕は泣いたのだろう? 父親を失った親友が、可哀想だったからか。それとも、悲しむ親友を眼の前にしながら、何もしてあげられない自分に不甲斐なさを感じていたからか。「他人のために涙は流せない」と、何処かで聞いたことはある。身内が死んで悲しいのは、それを失ってしまった自分が可哀想で泣くのだ、と。なんの漫画だったかな・・・
 ただ僕は、人が涙を流すのは、理屈じゃないと思っている。
「喜びと涙と悲しみの涙では、その化学組成が異なっている」なんていうの は結構有名な科学的事実らしいが、そんなことはどうでもいい。
 彼は、僕の祖父が他界した時、やはり同級生ではただ一人通夜へやってきて、同じ様に泣いた。僕は彼が友人で良かったと、その時心底思ったものだ。僕が彼の父親の通夜へ行ったとき、ひょっとしたら彼は、あの時の僕と同じことを考えたのだろうか。

「今度はいつ戻ってこれんの?」
 ぽつりと、彼は呟く。
「今年は、もう無理かなあ」
 そう返した僕に彼は、そっか、とだけ言う。
「でもまあ」
「随分と変わったんでない? ここもさ」
 彼が言いかけた言葉を遮る形になる。昼間に行った小学校から引っかかっている、印象。懐かしむべき地元、その「懐かしむ」という行為自体が、変わった今を認めているのだ。
「んーん」
「そりゃあ、そうだね」
「だって、俺等はもう小学生じゃないんだし」
「煙草だって吸う年頃になっちまったさ」
 そう言って、二人して煙草を呑み出す。意味もなく、くくく、という笑いがこぼれる。
「でもまあ」
 彼がぐぐっと、背を伸ばす。
「ここがやっぱり、俺等の地元だろうよ」
「どうしても、帰ってくる場所なんだろうさ」
「いつも通りの仲間がいて」
「あんまり発展しそーもないこの辺りが、さ」
 そう言う彼は少し照れた様に、
「やっぱり、気に入ってるからね」
 僕に目線を合わせず、言う。
「人間、いつ死ぬかわからんし」
「まあそっちも、色々大変だろうけど」
「地元はいつでもお前を歓迎するぜ」
 僕はあまり深くは考えず、そーだなあ、とだけ返す。
 そうこうしてるうちに、僕の家へ辿り着く。
「じゃあな」
「うん、またね」
 そう言って、別れる。彼の家は、僕の家よりもう少し先に行ったところにあるのだ。

 なんとなくそのまま家へ入ってしまうのが惜しくて、暫く玄関の外で佇みながら、また煙草を呑み始める。
 そうか・・・ここが僕の帰ってくる場所か。
 田の遥か向こうにある隙間から、朝日が昇り始めている。緑が、また、映える。

 この辺りも、変わってしまった。
 道路は歩き易くなるし、
 コンビニが出来て便利になったりもしている。
 あの娘は綺麗になってるし、
 僕は煙草を吸っているし。

 死んでしまったら二度と会えない。
 それは唐突で、いつやってくるかもわからない。
 当たり前の、事実。
 はっきりとした、事実。
 だから僕は、皆が生きているうちに、
 きっと此処へ帰ってくる。
 いや、どうしても、「還って」きてしまうのだろう。

 それが何時になるのかはわからないが、まあやっぱり。

 ・・・
「やっぱり、気に入ってるからなあ」
 いつの間にか煙草もきれたので、僕は中に入って、休むことにする。

 はっきりとした事実って物を、いくらか心の中で反芻しながら。

「そういえば、携帯はどうなったかな」
 思っては見たものの、何だかどうでもいい事だった。

 少なくとも、今の僕にとっては。



2004-01-17 13:26:04公開 / 作者:新
■この作品の著作権は新さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
申し訳ございません。作業の手違いにより一度消去してしまいました・・・
感想を頂くことができて、とても嬉しかったです。描写の詳しさや、内容のもりあがりなどについて、今後念頭にいれながら書きたいと思います。
リアル、という印象も頂きましたが、確かに実体験も一部含まれています。「半私小説」という感じでしょうか。
お読みいただいてありがとうございました。
この作品に対する感想 - 昇順
この同一作品の再投稿については、ただ今管理人様にメールで可否を確認中です・・・お手数をおかけします・・・
2004-01-17 14:00:29【☆☆☆☆☆】新
えーと、ミスで作品を消してしまったのであれば、再投稿OKですよ〜。/同内容が過去ログにもある、というのであればそれはどちらかを削除する事になりますが。
2004-01-17 15:15:10【☆☆☆☆☆】紅堂幹人【EDP】
了解です、お手数をおかけして申し訳ございませんでした。
2004-01-18 00:00:56【☆☆☆☆☆】新
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。