『卒業の頃』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約14.54枚
風が生ぬるく吹く、春の一歩手前。
さわさわと木々が揺れている。
いつもより少し綺麗に髪を結ったり、とかしてきたクラスメイト達。
いつも大人っぽいりっちゃん。
男っぽいミサト。
優しいサヤカ。
そして私は、教室の窓際の席に座って昨日と変わらなく過ごしていた。
昨日と違うのは今日が卒業式ってこと。

まだ時間があるから、思い出話でもしよっか?

4月
桜は舞う。大人っぽいりっちゃんのリップの色に似た花びら。
たくさんの花びらの真ん中で、私たちは空を見上げてた。

そうそう、あの頃はまだ、マナもいたから、
私、りっちゃん、ミサト、サヤカ、マナの仲良し5人組だったね。
仲良くなったきっかけはなんだっけ?
中1からの付き合いだから忘れちゃった。
でも5人、みんな同じクラスになったのははじめてだったよね?
中でもサヤカと同じクラスになったのは初めてで、
いつも一緒にいたのに、はじめてゆっくり話した気がする。
サヤカは最初、とっつきにくいなってゆうイメージがあったんだけど、
実はすごく優しくて可愛い子だった。

私とミサトは同じバスケ部だったね。春の大会ボロボロだったの覚えてる。
ミス連発の私のせいで負けた試合のあと、泣いてる私の肩に手をあてて
「夏に復讐だ!」って言ったよね。
男っぽいミサトのミサトらしい言い方に笑った。
でもすごく元気もらったよ。

5月
葉桜になった桜の木。ヒラヒラと舞う蝶。
教室の窓を開けるとカーテンがなびいて、5月独特の青いにおいがした。

放課後、部活がないときはトランプにはまったね。
5時くらいまで夢中になった。
マナ、トランプならなんでも強かったね。中でも7並べは最強だった。
1回だけマナに聞いたことがあるんだ。トランプのコツ。
マナ、なんでそんなにトランプ強いの?って。
そしたら何て答えたと思う?
「私はトランプ3級だから」だよ。そんな級ないよ。
マナはいつでも面白い。
そうそう、中2の冬、コンビニであんまん買ったマナが
「おすもうさんのほっぺたみたい」って言ったの覚えてる。
なぜかすごく印象に残ってるんだ。不思議と納得したから。

6月
色とりどり開く傘という名の花。
ぼんやり教室から見下ろすのが好きだった。

すっかり熱の冷めたトランプの次に、
りっちゃんとマナとサヤカは放課後のサッカー部観察にはまってたね。
「雨の中ボールを追いかける男子の姿はカッコイイ」が理由。
私が「バスケじゃだめなの?」って聞いたら、
りっちゃんは「わかってないな、ノゾは」って言った。
マナも「うん、ノゾはまだ子どもだわー」
って窓際で肘をついて校庭を見ていた。
「なにそれ!」私はすねたような声を出す。
サヤカは笑っていた。ねぇ、サヤカ、
あのとき、サヤカは本当にサッカー部観察楽しかった?
きっとサヤカはみんなといるのが楽しかったんだよね。
サヤカはそうゆう子だもん。

7月
中途半端な暑さに、長袖まくる。期末の結果に凹む人、膨らむ人。
そんな中、はじめてりっちゃんとミサトがケンカした。
りっちゃんから貸してもらった物理のノートに
ミサトが落書きをして返したのが原因。
そのとき、5人グループが3対2で分かれたよね。
りっちゃん、マナ、サヤカってゆうグループと、ミサトと私のグループ。
いつも一緒に食べていたお弁当も別々になって食べてた。
すごくつまらなかった。
りっちゃん、あの頃ミサトね無理して笑ってたんだよ。
本当はりっちゃんと仲直りしたくて仕方なかったんだよ。
いつもチラッって、りっちゃんを見てたもん。
りっちゃんもミサトを見てたよね。
私、知ってたよ。

しばらくして、またりっちゃんとミサトが話すようになった。
私とマナとサヤカは嬉しくて仕方なかったんだ。
「なにニコニコしてるの?」
りっちゃんは私たち3人に向かって眉間にしわを寄せ気持ち悪そうに言う。
「おまえら、ちょっと変だぞ」
ミサトもコンビニおにぎりを口にほおばりながら笑った。
5人で食べるお弁当はやっぱりおいしい。
そのときは仲直りの理由、聞かせてくれなかったけど
9月にその理由を聞いたときはビックリした。

8月
すっかり暑くなり始めた頃。ミンミンミンと蝉は鳴く。
見上げた空にヒコウキ雲。空はやたらと高かった。

やってきた夏休みと「夏の復讐!」
私とミサトは春の大会の借りを返すために東二高と当たるまで勝ち続けた。
そして3回戦であたったんだ。
そうそう、りっちゃんとマナとサヤカも応援に来てくれたよね。
必死で声だしてる姿、コートから見えたよ。
私とミサトの手の平にはマナが書いてくれた
「辛いときこそチャンスはめぐる」の文字。
残り2分で4点負けてるとき、
私とミサトは消えかかってるその文字に勇気をもらったよ。
そして残り30秒同点での私の逆転シュート。
たくさんの歓声が聞こえた。やがて試合終了を告げるブザー。
3年、みんなで抱き合って喜んだね。
なかでもミサトちゃんを強く抱きしめたの覚えてる。
私とミサトちゃんは、観客席の3人に向かって笑顔でピースした。

9月
黒く焼けたクラスメイト達、思い出話に花は咲く。色々な色の花が咲く。

そうそう、月の最初にあの日のりっちゃんとミサトの
喧嘩の仲直りの理由をマナが思いきって聞いた。
「あぁー…あれね、」
ミサトがイヒヒヒと笑うようにしてりっちゃんを見る。
りっちゃんは顔を少し赤らめて目をつぶりいった。
「駅でナンパされたんだ」
「えぇっ?!」私とマナとサヤカは、りっちゃんに詰め寄る
「どんなふうに?!」
「どんな顔?!」
「そのあとどうしたの?!」
その質問にはミサトが答えた。
「こいつね、顔真っ赤にしてね、モゴモゴしてんの」
「真っ赤にはなったけどモゴモゴはしてないっ!!」
りっちゃんは慌てて訂正する。
「してた!!そこをあたしが助けてやったんだ」

りっちゃん美人だしなぁ。友人が「ナンパ」された。
それはなんだか大人の仲間入りって感じがしてドキドキした。

10月
落ち葉を踏んでカサカサ音鳴った。
ミサトの足はみんなより大きい。そんなこと言いながら笑いあった10月。

この月は私たちが5人から4人になった月。
マナの旅立ちの日。
「じゃぁ、私行くね」
私たちはオレンジ色の空のしたマナのマンションの前に立っていたね。
マナが家庭の事情でこの時期に転校することになった。
家庭の事情ってゆうのは、マナのお母さんとお父さんが離婚して、
マナはお母さんの実家に帰ることになった。
「あんたはどこ行っても笑ってなよ」とミサト。
「ミサトもね」
「マナちゃんのこと忘れないからね」と笑顔でサヤカ。
「サヤカはその笑顔を大切にしててね」
「またね」とりっちゃん。
「ありがとね。りっちゃん」
私は号泣で、何も言えなかった。
「泣き虫、ノゾがはじまった」ミサトがからかう。
ミサトちゃんの声も震えていた。
私はマナの手に、ペンで文字を書く。

辛いときこそチャンスはめぐる

「マ、マナにはぁーどこ行ってもぉ、ど、どんな遠くにいてもぉ、
私たちがついてるからね」
泣きしゃっくりの交じった声は、
弱弱しくてポトリポトリと地面に落ちてゆく感じがして、
マナの心に届いたか心配になった。
「ありがと。ノゾ」そういってマナは私の頭をポンポンと優しく叩いた。
私はまた号泣した。

遠ざかってゆくマナを乗せた車をいつもでも見送って
私たちは夕日に照らされていた。

マナ、今頃何してる?そっちでも卒業式かなぁ。
私たち、ずっと友達だよ。

11月
冷たくなり始めた風たちに身をかがめ歩く人たち。
空はすっかり低くて夕焼けが綺麗な午後4時。

そうそう、サヤカが恋をした!
相手は意外にもB組のボッチャン。
ボッチャンってゆうのは、「どんな奴?!」って調査に行った
私と、りっちゃんが勝手につけたあだ名。
メガネをかけていて坊ちゃん刈りで読書が好きで…。
イメージがボッチャンだから。

お昼休みの教室でミサトは言った。
「告れ!」私とりっちゃんもうなずく、。
「ムリムリムリムリ」そういってサヤカは首と手を激しく振った。
「サヤカ、言わなきゃ付き合うことも無理なんだよ」私は言った。
「でも…」
「でもじゃない!!当たって砕けろ!
砕けたら拾い集めてまた元の形に戻してやる」
ミサトは座ってた机からピョンと降りて
「とっておきの言葉を教えてあげる!」
そういって、サヤカに耳打ちする。

「ミサト、人に教えるほど恋愛経験豊富だったけ?」
りっちゃんが私の横で不安そうに聞く。
「初恋もまだじゃなかった?ミサトは」
私も一気に不安になった。

次の週の放課後、図書委員の当番終わりのボッチャンを
サヤカは校門の前でまちぶせしたね。
私たちは少しはなれた桜の木から、それを眺めていた。
「あのー…鈴木君ですよね。」
「は?」ボッチャンはビックリしている。
「あのですねー…」

言え!言え!りっちゃんと私とミサトは小声で何度も言っていた。
「あ。ミサト…」りっちゃんがミサトのほうを見る
「あんた、あのときサヤカに何教えたの?」
そう聞かれてミサトはニーッと笑う。

「鈴木君にですねー」
「なに?」ボッチャンはメガネをクイッとあげる。
「メロメロなんですッ!」そういってサヤカは深くおじぎする。

私とりっちゃんは唖然としていた。
ミサトだけが計画通りって顔をしていた。

ねぇ、ミサト。メロメロはとっくのとうに死語だよ。
あのあと「ごめん」と言ったぼっちゃんのとこに
一番最初に怒りながら走っていったのはミサトちゃん。
ミサトちゃんはいつでも私たちの味方だ。

このあと、サヤカは失恋をバネに(?)ミサトは根性で(?)
推薦入試、第一志望合格した。私も絵の専門学校行きが決まった。
その知らせを聞いて私たちは飛び跳ねて喜んだ。

12月
お化粧し始めた街。キラキラひかる色とりどりの豆電球が
なぜだか私たちをあたたかくさせる。

街で偶然、りっちゃんと会って缶の紅茶を買って公園で語ったよね。
あのときりっちゃんは、はじめて
「東京に行って美容師になりたい」って打ち明けてくれたね。
でも両親が反対しててなかなか難しいって、りっちゃんはちょっと笑った。
私はりっちゃんが切った女の子達をすごく見てみたかった。
だってりっちゃんはいつもオシャレでセンスよくて…だから見たかった。

そんなことを精一杯、りっちゃんに伝えたら
「なんじゃそりゃ」なんてお腹を抱えて爆笑された。

でもすっかり缶の紅茶もなくなって、あたりが暗くなり始める頃
りっちゃんは少し照れながら
「ノゾを一番に切ってあげるね」って言ってくれたね。
本当に嬉しかった。がんばれ、りっちゃん。

1月
シンシンと降る雪を子どもの頃「神様のフケ」だなんて言った。
でも君たちといれば、素敵な思い出を彩るアクセサリーになる。

授業中、窓を見ると雪が降り始めていた。
私は前の席に座っているサヤカの背中をツンツンと突いて
「サヤカ、雪。雪。」と窓を指差した。
「ホントだぁ」サヤカは嬉しそうに外を見つめて
「ミサトとりっちゃんにも教えてあげよう」と言った。
私とサヤカはまずミサトに知らせようと思ったんだけど、
ミサトはいつもみたいに寝ていたから
少し遠くのりっちゃんの席に
消しゴムのカスを投げたり、ジャスチャーしたりしたんだけど、
りっちゃんも気づかない。
気づいてしまったのは先生で
「鈴木と坂下!」
私とサヤカは二人同時にハイッって返事したね。
サヤカ曰く「先生にはじめて注意された」とか。

この月、両親を説得したりっちゃんの東京行きが決まった。

2月
卒業を来月に控えて、みんなそわそわ。
終わり始める授業たちも、この月だけは名残惜しくて…。

私たちは4人で浜辺に行った。
しばらく、冷たい波打ち際で遊んでたけど
「卒業だね」のサヤカの一言に私たちの心臓は、トクンと鳴った。
「ノゾは専門。ミサトは地元の大学。サヤカは関西。
私は東京。みんなバラバラになるね」
りっちゃんは砂浜に座りながら言った。
「ならねーよ」とミサト。
「うん、ならない」とサヤカ。
「ずっと友達だもん」私も言った。
「そだね」りっちゃんの髪は風に揺れた。

その日、私たちはいつまでも砂浜で笑いあった。

そして今日、3月6日。

「3年生はまもなく入場になるので廊下に並んでください」
腕に「生徒会」とはいった腕章をつけた後輩の声。
私たちは今日、高校を卒業する。
「ほら、ノゾ!早くしないとみんな行っちゃうよ!!」
いつも大人っぽいりっちゃんの声。
「ノゾは泣き虫だからな、もう泣いてんじゃねーの?」
いつもの男勝りのミサト。
「ノゾ、はやく、はやく」
ミサトのとなりで、サヤカが手招きしている。
「うん、今行く。」私はそういってバックから白いハンカチを取り出して
私たちは廊下へ走った。

私たち、離れ離れになるけどずっと友達だよ。
どこかで頑張ってるだろう君たちを想うと、
私も頑張ろうって気になれるんだ。
今日で高校は終わる。
それはそれぞれの旅立ち。
さみしくなんてないよ。
また逢おうよ。ヒマなときはこの街で。
またくだらない話で笑いあおうよ。

「卒業証書、授与」
しばらくして「鈴木のぞみ」と私の名前が呼ばれる。
「はいっ」
大きな返事をして、私は壇上にあがった。
2004-01-08 17:47:45公開 / 作者:律
■この作品の著作権は律さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
友情をテーマに淡々と書いてみました♪
少し長いので読んでくれた方
ありがとうございます☆
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして。題名に惹かれて読ませていただきましたが、なんか…いいですね。こちらの勝手な期待は、全く裏切られませんでした。それから、長さは感じさせません。各月の描写も綺麗でしたし。これからも綺麗な作品、書いてください。
2004-01-08 18:34:44【★★★★☆】藤崎
すごいですぅうう!!(大興奮)なんか卒業って悲しいんですね・・小学校の卒業式・・そうでもなかったんで・・・(オィ
2004-01-08 21:15:02【★★★★☆】はるか
藤崎さん、はるかさんレスありがとう♪この作品を評価してくれて嬉しいです♪はるかさん、小学校の卒業式はそうでもなかったですか^^?卒業って急に友達が愛しくなってしまいますよね☆
2004-01-08 22:33:50【☆☆☆☆☆】律
卒業は切ないですね…。私も今年卒業ですが、中高一貫校なのでメンバー変わらず。切なさのカケラもないです笑 すごい綺麗な描写に惹かれました。男っぽいミサトちゃんにも惹かれました笑
2004-01-09 15:54:04【★★★★☆】輝
完璧に読み入ってしまいました。すごくよかったです!!
2004-01-25 13:32:41【★★★★☆】RYO
RYOさん、ありがとうございます♪そういってもらえて嬉しいです^^
2004-01-25 15:09:56【☆☆☆☆☆】律
計:16点
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