『ージンクスー 第一章 出会い・・そして・・・』作者:HANA / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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人間は地球の中でもっとも脳が発達した生き物。物を作ることを学び、火を生み出すことに成功し、電気を発明し、科学の力が強くなっていった。今は科学の力で夏なのに熱いと感じることもない。部屋に入ればクーラーをかけて快適に過ごせる。また生き物の中でもっとも長寿なのも人間だ。発展した医学が少々の病気なら治してしまう。一昔まえでは盲腸も死に至る病気だったのに、今は盲腸といったら軽い病気と判断され、手術も簡単なほうから数えられる。現代の地球を生きる人間がもっとも発展を望んでいるのは、このふたつ。

「科学」と「医学」だと私は思う。

私の父は医学会の頂点に立つ人で、治せないとされていた病気の治療方法を数多く考えて成功例を挙げた。また患者の負担になる手術を取り上げ、いかに負担をかけないかという方法についても日々研究している。母親もまた科学界のエリート学者だ。数々の発明を生み特許権を多く持っている。現在はロボット工学を研究しているらしく人型アンドロイドコンピュータの開発をしているらしい。詳しくは知らない。ただ、学者の中で高樋という名は知らないものはないというくらい有名だった。私はその両親の三人目の子供で、高樋星来(たかとう せいら)という。星来というのは変わった字を書くのだが、いつでも希望の星が私の前に来るようにという願いを込めて父がつけたのだと兄が言っていた。

私には兄が二人いる。一番上の兄が風雅(ふうが)。風が雅やかに吹くようにという意味。私たち兄弟の中でもずば抜けて勉強が出来た。風雅お兄様は私に言わせれば「天才肌」だ。一度見たもの聞いたものを全て忘れずに覚えていられる。前にそういっていた。高校では常に成績がTOPだったが、大学へは行かなかった。風雅お兄様は勉強が出来るだけで、学者の世界に入って両親と共に研究と言う気などまったくないと言っていた。大学を行かずに働くと言うお兄様の意見を両親が受け入れるはずもなく、そのまま勘当という形をとられた。お兄様は何も言わずに次の日には荷物をまとめて家を出た。風雅お兄様は家一番の変わり者だった。まさか、家を出た後にホストになるなんて私でも思っていなかったし。けれど、今のお兄様は家にいた頃より楽しそうで私は好きなの。

もう一人二番目の兄が未月(みつき)。あなたが歩く未来を月が柔らかに包んでくれるという意味。未月お兄様はどんなときでも私には優しい。私にはというのは未月お兄様と風雅お兄様はとても今、あまり良い関係ではない。未月お兄様は何でも出来る風雅お兄様にすごく憧れていたらしい。それなのに風雅お兄様がホストになってしまってそれ以来本当に口を交わす回数が極端に減ってしまった。私が風雅お兄様に会いに行くのもあんまり良くは思ってくれていないみたい。でも未月お兄様はすごい人。昨年、最年少でテコンドー日本代表選手としてオリンピックに出場したの。学校でもすごくもてるのに誰とも付き合ったりしない。前にお兄様に聞いたとき、俺はみんなのアイドルって笑っていっていたけれど、本当はどうなのだろう。

私の家族はこんな感じ。両親には忙しくて中々会えないけれど、二人のお兄様に囲まれていた。18歳のあの日を境に、私は全ての血縁者以外の人とのかかわりを閉ざした。それは私の心に強く根付いたある男の人との出来事から。

名前は藤堂浩輝(とうどう ひろき)。彼と出逢って、別れたときから私の全てが変わった。

命の重たさについて考えさせられるようになり、自分の運命を呪いすらした。

私はこれでも結構もてるほうだった。自分で言うのも難なのだが小学生の頃から男の人からよく告白もされた。藤堂浩輝は私が付き合った三人目の人だ。といっても始めての人は幼稚園に通っていたころだし、次の男の子も小学校低学年だったから、中学一年の夏から付き合い始めた浩輝が始めての人といっても間違いないかもしれない。私には人に言えないジンクスがある。そのジンクスが私の運命を大きく狂わせていった。はじめて付き合ったよっちゃん。幼稚園の帰り道を毎日、手を繋いで帰っていた幼馴染で、泣き虫な私をいつも守ってくれた。あれは、年長組みの時、よっちゃんは冬のクリスマス前を境に幼稚園に来なくなった。先生はみんなの前でよっちゃんは事故で死んでしまったといった。あとから聞いた話だとよっちゃんのお父さんが経営していた小さな町工場は不景気のあおりをうけて借金を抱えて倒産したのだと言う。その借金苦を耐えられなかった両親がよっちゃんと一家心中をしたのだと最近聞いた。そのときも心は痛かった。次に付き合った男の子はたしか、俊君。学校で一緒に学級委員をしていた。放課後一緒に仕事をしたり、勉強を教えあったり。付き合っていたと思っていたのは二人だけかもしれないけれど、それでも仲がよかったことには違いなく、私は俊君のことすごく大好きだった。まるで、それしかしらないかのように女の子の友達も作らず、俊君の後ろを歩いてばかりだった。小学校一年生から三年生の終わりまでの三年間。私は俊君の背中を追いかけて育った。その背中を見ることしか知らない子供だった。俊君は小学校四年生に上がってすぐ交通事故で亡くなった。

人間の死を深く理解したのはこの瞬間だった。

大好きな人が死んだのは二人目だった。そのときから自分はなんとなくだけれど、誰も好きになっちゃいけないような気がしていた。だから四年生のはじまりから私はお兄ちゃんっ子になった。学年の違う未月お兄様のところに行っていた。同じ学年の子に友達なんていなかった。幸いなのは、未月お兄様はとても優しかったから同学年の友達よりも私のことを優先してくれた。お兄様が小学校を卒業して中学生になっても、私は小学校を抜けてよく中学校へ遊びに行っていた。同じ敷地内にある学校なので先生も何も言わなかった。シスコン、ブラコンそんなことでからかわれたこともある。でも気にならなかった。私は人を好きになるのが恐かった。自分の中にひとつのジンクスを唱えだしたのはこの頃だ。

「私が好きになって人はみんな死んじゃう」って。

そんな私が中学生になりであったのは浩輝だった。幼稚園からエスカレーターのこの学校には珍しく中学受験で入ってきた少年だった。たしか、うちの学校は編入試験のレベルが高いからすごく頭がいい人なんだという話題になった。私は小学校の頃から成績だけは常に一番だった。それは、高樋という名を守るために行っていた私の努力だ。高樋の子供は三人ともこの学校へ通っていた。二人のお兄様も共に学年主席だ。昔から何でも出来るお兄様たちに比べて私は物覚えが悪かった。人の知らないところで人知れず努力をしてずっと学年一番を貫いてきた。友達がいない私にはそれが誇りだった。学校生活の中でそれ以外の誇りなんてなかった。存在感のない子にはなりたくなかった。たとえ友達がいなくても成績がよければ注目される。一目おかれる存在となるのだ。私はそれだけに全てを賭けていた。その私の全てを賭けた成績はこの転校生にあっさり抜かれてしまった。新入生学力テスト。五科目中わたしは四百九十七点だった。悪くない。張り出された私の名前の上にはじめて名前が書かれた。転校生は満点だった。六年間守った主席が奪われた。そのときは、私は浩輝が嫌いだった。同じクラスになって浩輝はよく私に話しかけてきたけれど、私は答えたことがなかった。成績で決まる学級委員に当然二人でなることになったのだが私は必要最低限のこと意外話さなかった。目の前にいる主席を奪った男が許せなかったのだ。いままでしていた勉強の量を二倍にした。よく、夜遅くまで未月お兄様に教えてもらった。けれど、次の中間テストも次席で終わった。前のテストより点数はよかったけれど、浩輝の満点トップにはかなわなかった。そんな張り出しの紙の前で

「高樋さんって本当に頭いいんだね。」

浩輝が言った。私にはいやみにしか聞こえなかった。悔しかった。

「あなたに言われたくない。」

私は涙がこぼれないように堪えることに一生懸命だった。瞳に浮かんだ水をどう見られないようにするかがそのときの自分の精一杯だったのだ。その日の放課後、名前のないラブレターが下駄箱に入っていた。呼び出しの手紙の指示どうりに裏庭にいって、今日はどうやって断ろうかと考えていた。そこにたっていたのは、藤堂浩輝。

「これ、藤堂君が?」

その頃の私は浩輝なんて読んでいるわけもなく、目の前にいる浩輝は私をだますために呼んだのだと思った。

「好きなんだ。高樋さんのことが。」

純粋で透き通ったまっすぐな目をしていた。

「私はあなたが嫌いなの。」

そう言うとそれ以上話をしたくないからと思い振り返った。

「俺のどこが嫌いなの?」

切ない声。きっと振り返れば切ない表情もそこにあったのかもしれない。

「私はずっと一番だったのよ。高樋の名に恥じないように努力して勉強して。あなたが転校してくるまでずっと主席だった。あなたさえいなければ・・・」

私はそのときまるで自分のことしか考えていなかった。大切な宝物を取り上げられた子供のように駄々をこねていたにすぎない。順位は結果なのに。私が浩輝より勉強が出来なかっただけなのに、私はそれに気付けるほど大人じゃなかった。

「ごめん・・・」

浩輝はそう言うと何も言わなかった。私は急いでその場を立ち去った。それからだった。学級委員の仕事も別々にやるようになった。夏の初め・・・期末テスト。私はまた勉強して挑んだ。結果は・・・一番だった。けれども、張り出された紙に藤堂浩輝の名前がなかった。一番なのに心が晴れなかった。高樋としての面子を取り戻したのに、この胸につかえる思いは何なのか私には解らなかった。職員室に走っていった。始めて廊下を走った。いつもなら自分はもっと冷静でいられるのに、あの日だけはできなかった。

「失礼します。」

入るなり駆けつけたのは担任の先生だった。

「先生。聞きたいことが!!」

私がそう言うと担任の先生は笑顔で答えた。

「高樋さん。おめでとう。満点1位。」

「ありがとうございます。それで、あの藤堂君今回体調が悪かったのですか?」

私の問いに

「それが藤堂君、全てのテストを白紙で出したのよ。今生徒指導室に呼ばれているの。」

全部白紙・・・。期末テストは9教科ある。それを全部白紙で出したと言うのなら問題にもなる。ちゃんと解けば学年主席に慣れるのに・・・。そのとき私は浩輝にいった言葉を思い出した。自分のせいで浩輝は白紙で出したのかもしれないと思った。

生徒指導室の扉の前に構えるようにして私は浩輝が出てくるのを待った。出てきたのはたっぷりお説教をされて、二時間後だった。

「話があるの。」

私の言葉に藤堂君は頷き教室に向かって二人で歩いた。放課後の教室は静かで、凛とした空気が包み込んでいるみたいだ。

「私気付いたの。一番になれば自分は救われるってあなたに怒鳴ったこと、ごめんなさい。私ね、医学者の父と科学者の母がいるの。兄も二人ともずっと学年一番で、誇れるくらい頭がいいの。私はその家族の中で一番駄目な子で、それでも認められたくて努力したの。だから悔しくて・・・。でも気付いたの。私一番になって、あなたの名前がなくて気付いたの。私はきちんと藤堂君と戦いたいって。今回満点だったの。あなたに勝ちたくて、きっと認めたくなかったけれど心の中で認めていたの。あなたのこと。だから、次夏休み明けテスト、本気で戦いたい。あなたが本気になっても私負けない。」

私がそう言うと浩輝は私を抱きしめた。

「好きだ・・・」

二回目の告白。目の前の男の人を私自身も好きになっていた。だから付き合えない。余計にそう思った。

「私も藤堂君のこと好きよ。だから・・・」

一呼吸の間が出来た。

戸惑っている。そのときの私は戸惑いだけが胸を支配していた。

「付き合えない。」

そう、答えは簡単。好きだから付き合えない。普通なら違うのかもしれないけれど、私は好きな人と付き合うことが恐い。

「意味がよく解らない・・・」

浩輝の答えは間違っていない。好きだから付き合う。好きだから結婚したい。私の中の常識はこの当たり前の出来事を否定することしか出来なかった。偶然かもしれない。二人の死は偶然かもしれない。けれど、科学者の娘がそんなこと言ったら駄目かもしれないけれど、人が死ぬのは恐いから・・・

「理由、話してくれ」

当たり前の反応。でも理由はいえない。言ったらきっと軽蔑される。

「恐いから・・」

それでも少し話がしたいと思ったのは私の胸の中に残る弱さだろうか。何がどう恐いのかなんて私にとって必要のない説明だった。ただ恐い。それでいい。

「俺のことが信じられない?」

「違う。私が信じられないのは私自身だから・・・本当にごめんなさい。」

「何が信じられないんだよ・・・。俺は高樋さんのこと信じるよ。今だって震えを止めて強がっている。弱さをかくして、自分を押し殺している。弱いくせに強がる。もっと回りに甘えればいい。弱くていいんだよ。高樋さんは女の子なんだから。」

この人は私の中の弱さを見透かしている。恐怖を見透かしている。話そう。話せばきっとこの人も私と付き合いたいと思ったりしないだろう。友達を失うことになったとしても。命が消える瞬間を見るよりずっといい。

「私と付き合った人、付き合ったと言うより兄弟意外で特定の男の人と仲良くなるとその相手はかならず不運な死に方をするの。偶然かもしれないけれど、恐いじゃない。世の中にジンクスがある。私のジンクス。私と付き合った人は・・・・死ぬ。」

私の言葉にきっと驚くに違いない。しかし、

「俺は高樋さんをおいて先に死なない。約束する。」

驚く。私は驚くと言うことしか知らないように体が支配する感情。

「誓うよ。俺は死なない。」

あまりにもまっすぐな瞳だった。恐れを知らない瞳。あのときの私はどうかしていたのかもしれない。

「それに、俺が高樋さんを好きなのは本当にずっと前からだから。覚えているかな?俺たちはまだ5歳のとき学者の集まりのパーティーのとき、真っ黒な髪の毛を一つに束ねて、アップのお団子にしてオレンジ色の花飾りをつけていたね。オレンジ色の膝丈のひらひらのお花のドレスを着ていたね。靴は白でリボンの飾りがついていてエナメル。ボタンでとめる形だった。高樋さんが俺に始めて話した言葉はこんにちは。夜なのにこんにちはっていったんだよ。退屈な俺には君との時間が楽しくて、忘れられなかった。父に聞いて、高樋のお嬢様だってわかった。この学校だってわかった。中学受験をしたのはあのときのオレンジ色のドレスの女の子を捜すためだった。学校へ来てすぐに見つけた。何年も前の出来事だったから見つけられるか心配したけれどすぐにわかった。」

私は覚えていなかった。オレンジ色のドレスを持っていたと言うこと以外、この人のことを覚えていない。

「あれは、あの幼かった俺がたった一秒で落ちた恋だった。」

あのときの浩輝を私は拒否することが出来なかった。そこまで純粋な思いを始めてみた。

「勇気がもてないの。一日でもいいの。少し時間を下さい。」

私の精一杯の答えだった。そのときの私の精一杯。
家に帰るなり私が風雅お兄様に抱きついて泣いた。未月お兄様に抱きしめられて泣いた。どうしていいのかわからなかったから。風雅お兄様は私を抱きしめて好きなようにすればいいといってくれた。未月お兄様も一緒に言ってくれた。風雅お兄様はまるで子守唄のように私が落ち着くまで何度も何度も言ってくれた。

「星来。星来が疫病神だなんて思ったらいけない。世の中は絶えず流れる時間の中で不幸な事故がかさなった。星来が不幸を運んでくるのなら、死を運んでくる女の子なら俺も未月をとっくに死んでいるよ。」

「そうだよ。星来。僕は星来がここにいてくれれば幸せだと感じることが出来るよ。星来がその人を好きなら、付き合えばいいんだよ。星来は幸運を運べる女の子なんだよ。」

風雅お兄様の後に続いて未月お兄様も私を諭すようにいう。私を包み込むような優しい声で。

「でも、二人は・・・」

「結果的にはそうかもしれないね。けれどね、星来。考えてごらん。星来が好きだった二人は、星来と一緒にいるとき嫌そうな顔をしていたかな?」

風雅お兄様は私の頭を撫でながら言う。

「してないと思う。いつも笑っていたから。」

「それなら、二人は不幸な事故で死んでしまったけれど、生きていた間に星来という女の子に出会えたこと、きっと幸せだったよ。」

強く抱きしめてくれるお兄様。

「星来。星は幸せを運んでくる。星来は星を呼ぶことが出来る。」

「そうだよ。僕ら兄弟は星来が幸せを運ぶ女の子にしか見えない。だから星来が幸せになっていいんだよ。」

未月お兄様が続けて言う。

「人を愛することは大切なことだし、必要なことだよ。星来がその人を好きで愛せると思うなら、その人と幸せになることができるんだよ。苦しいことがあって、その苦しみは抜け出すことが難しいかもしれない。だから、勇気を持つんだ。勇気を持てば星来は幸せを手に入れられる。」

私の兄はいつもこうやって私を励ましてくれる。出来ないことをできるように導いてくれる。お兄様が言ったことに今まで間違いなんてなかった。二人のお兄様が私の生きる道をいつも照らしてくれる。

「ありがとう。お兄様。」

私はそういって自分の部屋に帰った。

次の日から私は藤堂浩輝と付き合い始めた。
夏は海に行った。沖縄の海。冬はスキー。クリスマスには大きなツリーを見に行った。すごく綺麗で目を覆ってしまうくらいきらきらしていた。バレンタインは大きなチョコレートを作って、ホワイトデーに二人で手を繋いでデートして、繰り返し繰り返し・・・

桜を何回みただろうか。
白い雪を何回みただろうか。
夏の花火を何回みただろうか。

とにかく一年365日浩輝を見ない日はないくらいに毎日毎日一緒にいた。一緒にいない日はまったくないくらい。人を愛する幸せがそこにあった。お兄様と四人でよく食事会をした。高校三年生になった風雅お兄様は、大学へ行かないと家を出て行った。その寂しかったときも浩輝にささえられた。いつでも一緒にいすぎたせいで浩輝なしの生活が考えられなくなってしまった。恐いくらいに浩輝にのめりこんでいく私がいた。恐いくらいに。だから、ジンクスなんて忘れていた。偶然だったって思えた。

「星来、星来を好きになれた俺がきっと今一番世界中の幸せを一人占めしているんだよ。」

高校一年の夏、付き合ってぴったり三年目の日、はじめて体を絡ませた。あつい吐息と激しく溶け合う感覚におぼれた。

“二人は二人から一人になった。”

私はそう思った。汚いことだと思っていたけれど、それはとても神秘的なことだった。

求め合うと言うことを始めて知った。今までの自分が嘘のように求めあうという行為に幸せを見出していった。

“二人はもう一人ではいられなかった。”

「それなら私は浩輝を独り占めしていることが一番の幸せだよ。」

私にとって浩輝といる時間がもっとも幸せなことと同様に、浩輝にとってもきっと、私といる時間が一番幸せだったのだと思う。二人と言う単語を消してしまえればいい。星来と浩輝と言う別々の存在を一つにまとめてしまえればいい。そうすれば、ずっと一緒に居られる。

付き合って五年目の日、浩輝は始めて私に指輪をくれた。細いプラチナでダイアモンドが入っている。内側に文字が刻印されていた。

「DEAR SEIRA Only LOVE・・・From HIROKI 」

と彫られていた。私の薬指にはめられた。きらきら光る指輪が何よりも大切な宝物になった。

「付き合って五年目の記念日。星来にもう一つプレゼントがあるんだ。」

そういうと、浩輝は私を抱きしめて、鍵をくれた。何の鍵だか解らなかった。

「星来のお兄さんにもお父さんにも了解は貰ってあるんだ。高校を卒業したら二人は大学生になるけれど、一生一緒に居よう。卒業したら結婚とまではいけないけれど、一緒に暮らそう。この部屋で・・・」

リボンが巻かれた鍵。それは私たち新しく住む家の鍵。二人とも志望大学は同じだからなんて合格してもないのに住む家を決めちゃうくらい気が早い浩輝がいとおしかった。

「ありがとう。」

私たちが幸せな時間。二人が幸せ。それがこのまま一生続くって思っていた。

卒業式の少し前、浩輝は運転免許を取得。車を買って卒業式の後ドライブをしようと約束した。あのドライブが私と浩輝が口を聞いた最後だった。
目の前に飛び込んできたのは飲酒運転で信号無視のトラック。狭い路地で浩輝はとっさにハンドルを切った。私は目を閉じた。すごい音と衝撃。破滅の音が聞こえる。目を開けたとき、目の前は真っ黒でも真っ白でもなかった。景色もなかった。ただ目の前に広がるそれは鮮やかな緑色。そして、肌に感じる温かい液体・・・。

「星来を好きになれてよかった。」

そういって浩輝は意識を失った。神様がいたから、浩輝は最後の一言を口に出来たのかもしれない。私は少ししてやっと現実を理解した。浩輝が私を庇った形で血を流している。

救急車の音が近づいてきた。私は別の救急車に乗るのが嫌で浩輝の救急車に乗り込んだ。無理やりだ。相手の飲酒運転の男の人は軽傷だった。あの人は
たてるのに意識もあるのに浩輝だけが意識がなかった。浩輝だけが血を流していた。病院に言ったら風雅お兄様と未月お兄様がいて二人して私を抱きしめた。連絡を受けた二人の兄は速攻でかけつけてきたらしい。浩輝が手術室に運ばれて手術中のランプが点灯した。

私はこのときにジンクスのことを思い出した。私と付き合う人はやっぱり死ぬ・・・

胸の中で後悔が包む。後悔と言う言葉しか知らなくなってしまったかのように、他に何も考えられなかった。

「お兄様・・・浩輝はきっともう駄目よ・・・。」

私のつぶやきに兄二人は私が何を考えているかわかった。二人で駆け寄ってきた。

「違う。大丈夫だよ。浩輝君は生きているよ。絶対に死なないから。」

未月お兄様の声は病院中に聞こえるかのように大きかった。

「お兄様・・・浩輝は私をかばったの。車の中で目を開けたとき私の目の前に広がっていた色は緑だった。」

そう、緑だった。それは・・・

「鮮やかな緑だったのよ!あれは、浩輝のシャツの色。鮮やかなまでの緑。私を庇ったりしたから浩輝は・・・本当に死ななきゃならないのは私なのに・・・」

涙を止める。それが私には出来ない。
浩輝が生きていると信じる。それも私には出来ない。どちらも出来ない。それくらい私は自分に自信がもてなかった。
目の前にあるのは喪失と言う恐怖。足の震えが止まらない。

風雅お兄様と未月お兄様が浩輝の手術の間中交代で私を抱きしめてくれていた。看護婦さんが冷えるからと貸してくれた毛布で私を包み込むようにして抱いていた。風雅お兄様が私を抱いているとき、未月お兄様は私が飽きないように話をしてくれた。未月お兄様が私を抱きしめているとき、風雅お兄様はわたしの大好きな食べ物や温かい飲み物を買ってきてくれた。ランプの光が消えたのは、八時間後だった。でてきたお医者さんが手術は成功したと言ってくれた。ただし・・・表情はかたかった。

「藤堂浩輝君は生きています。心臓は動いています。ただし・・・」

それは、あまりにも残酷だった。

「強いショックを受けたことにより、脳が死んでしまっています。」

私の心のことを知らない医者は淡々と話した。

「日本の医学の中で脳死は死と同じです。機械を繋げば生きていけますが、それには莫大なお金がかかります。失礼ですが、飲酒運転のトラックの方が負担できるような金額じゃありません。」

現実的な意見。それが医者としての勤めだからだろう。

「それに、患者にかかる負担もかなり大きくなる。それでも機械治療を続けますか?」

私は口を開けなかった。口を開いたのは風雅お兄様だった。

「機械で治療したとして浩輝くんが助かる可能性はどれくらいですか?」

「10%以下です。0ではありません。でも0に等しい。」


ゼロじゃない・・・


「繋いでください。浩輝は生きているのなら繋いでください。浩輝を殺さないで・・・お願い・・・殺さないで・・・・」

浩輝が機械に繋がれた。機械と言う茨が浩輝を繋いでしまった。生きるための茨。

“星来を好きになれてよかった。”

最後の浩輝の言葉が涙を止められないくらい切ない・・・・・


2004-01-07 19:26:09公開 / 作者:HANA
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■作者からのメッセージ
はじめまして。HANAです。
いきなり一話で恋人が脳死です。
実は一話は始まりの前の「過去」のお話になります。ストーリーは二話からが本編って形になるんですよ。

よろしければ、手直し、感想等下さいねw
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、少し誤字脱字が見られました(ほんの少しですけどね)あと無駄に改文をし過ぎているのではないのでしょうか。ですから見にくいです。あと…文と文の間のコントラストがあまり良くないですね。って感じ方の違いですが…次回も頑張って下さい。
2004-01-07 21:09:35【☆☆☆☆☆】景麒
タイトルの「ー」は長音でなく、−マイナスや―ダッシュにするべき。他、三点リーダなども統一・修正した方がいい。作中のTOPは態々全角英で書く必要があるのか、単にトップと書くほうが見栄えが良いだろうと思う。/他、景麒さんと同じ意見・感想。
2004-01-08 05:04:23【☆☆☆☆☆】紅堂幹人
計:0点
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