『天使ベル』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約11.06枚
僕は恋の天使ベル。僕の仕事は人間界に行って、
誰かと誰かをを両想いにすること。
今日も家に神様から書類が送られてきた。

恋の天使ベル殿

『今回の標的は強敵だ…』

標的なんてゆうと殺し屋が誰かを狙うみたいな言い方だけど、
この世界では片想いしてる女の子のことをそう呼ぶ。
胸に向かってまず、赤い糸を結んだ矢を打つから標的っていうんだ。

『そしてベル、柱も強敵じゃ。』

柱ってゆうのは片想いしてる子のこと。
赤い糸を結んだ矢はまず標的の胸に向かって打たれる。
標的の胸に刺さるのは矢だけで(もちろん痛みはない)
赤い糸だけ取り残される。その取り残された赤い糸を、
今度は相手の子の小指にまくんだ。
だから標的に対して、もう一人の子は柱と呼ばれる。

『今回の標的は強敵だ。そしてベル、柱も強敵じゃ。
まず標的のことじゃが、桜井由愛(ゆめ)中学三年生。
剣道部の女の子じゃ。性格は男勝りで、短気。
ケンカで男の子に勝ったこともある強気な子。

そして柱のほうは、向井優。標的とは対照的で趣味は読書。
性格はおだやかで、静かな男の子。二人ともクラスメイトじゃ。
ベル、今回も君の仕事に期待しているぞ』

本当にに対照的な二人だった!
対照的だと両想いにさせるのは難しいって
こっちの世界では言われてるんだけど
でも僕は全然焦ってなんていなかった。
何しろ僕はこの標的で100人目。
恋の世界始まって以来の成績で、100人突破といわれてるんだから。
「まぁ。見ててください。神様」僕は心の中でそうつぶやいて、
家を出て人間界に向かった。

空を降りてる途中、同級生のアイと逢った。
アイの仕事は両想いにさせる前の段階の仕事。
つまり、まず片想いの状況を作ること。
「ベル、片想いにさせておいたわ。」
お互いに羽根をパタパタさせて空中に止まって会話する。
「向井君でしょ?」
一応念のため確認をする。
「うん。じゃ、お願いね。100人目、がんばって!」
そう言いながら、アイは飛んでいった。
僕はそれを見送って、まずは片想いの男の子。向井優を見に行った。

「はぁ・・・」
向井君は自分の机で読書をしていた。でもタメ息ばかり。
僕は恋の天使グッズのヒトツ、
心の声を聞く道具で向井君の部屋の窓から心の声を聞いた。
「桜井さんが好きで好きでしょうがない。
どうやったら僕は両想いになれるんだろう」

アイは充分すぎるほどいい仕事をした。完璧な片想いだ。

「この男が柱か?」急に聞こえた声にビックリして振り返ると
98人を両想いにさせた恋の天使ダイブと、
その部下のメイがパタパタと飛んでいた。
「こんなひょろっちい男、両想いに出来るのか?」
そういってダイブは笑った。
「うるさい、仕事の邪魔だ!とっとと帰れよ。」
僕は再び、向井君の心の声を聞こうとする。すると、
「まぁまぁそう言うなよ。俺もさっき99人達成したぞ。
これでお前と同じ100人だ。」
「あっそう。」
あいにく僕はダイブほど、100という数字にこだわってはいなかった。
「先に100人突破するのはダイブ様ですわよ」メイがそういった。
ちなみにメイはアイと犬猿の仲だ。
二人とも片想いを作る仕事だしライバル視してる。
「100人突破したきゃ、すればいいじゃねーかよ」
僕は向井君の調査を終えて由愛ちゃんの家へ向かう。
その背中に「健闘を祈るよ」というダイブの声と、
なにかをたくらんでそうなイヒヒヒという笑い声が聞こえた。

由愛ちゃんのところに着いた僕は、
庭で剣道の素振りをしている由愛ちゃんを見つけた。
僕は早速、心の声を聞く。
「うわぁ・・・」僕は思わず、そう口から漏れてしまった。

「剣道!剣道!剣道!」

向井君の入り込む隙間なんてどこにもなかった。
これは少し厳しいぞ。
100という数字にはこだわってなかったけど、
ダイブに先を越されるのは少しむかつくから、少々急ぐことにした。

通常、人を両想いにさせるには、柱が片想いになってから早くて1ヶ月ってところかな?でも僕はそれを半分の2週間でやることにした。

それからの僕はすごかった。
人間がいうところの「運命のイタズラ」ってやつは
大抵が僕ら、恋の天使が作ってるんだけど、
僕もそれを作りまくった。
偶然を作って一緒に帰らせたり、
街でバッタリ会わせたり、
二人を文化祭の実行委員にさせたりと。
その結果、2週間たつころには、由愛ちゃんの心の声に変化が見られた。

「剣道!剣道!向井。剣道!」

向井君の名前が出てくるようになったのだ。
これならいける。僕は確信した。

僕は標的の由愛ちゃんに向かって矢を構える。
ゆっくり狙いを定めて僕は弓を引く。

そのときだった。

僕の背中に矢の刺さる感触がした。
僕はゆっくり振り返る。

するとうしろでニヤニヤ笑ってるダイブと、弓をもったメイがいた。

まさか…

「言っただろ。さきに100人突破をするのは俺だって」
「メイ!」僕はダイブを無視して、メイに叫んだ。
「おまえが打ったこの矢は…」
「そう。片想いの矢ですわ。せいぜい永遠の恋に苦しむがよくてよ」

永遠の片想い。

そう僕らが人間に恋をしたら、それは永遠に叶うことのない恋だ。
だって人間から僕ら天使の姿は見えない。
話すことも触れることもできない。
だから恋の天使が人間に恋をするのはタブーなのだ。

僕は由愛ちゃんを見る。
顔がカァァと赤くなっていく。
そして「剣道!剣道!向井。剣道!」と聞こえる心の声に嫉妬した。
僕は由愛ちゃんが好きになりはじめていた。

「あと1週間で俺の作業は終わる。これで100人突破は俺のもんだ。」
そういってダイブとメイは空に消えていった。

僕は再び由愛ちゃんに矢を構えたけど、放つことは出来なかった。
地上にポトリと矢が落ちた。

質問です。自分の好きな人が、別の誰かを気になり始めていて、
その人の恋をあなたが叶えてあげなきゃいけない場合、
あなたなら矢を放ちますか?
…出来ないよね?

僕は飛ぶことをやめて、電灯に照らされた道をトボトボ歩いてく。
今頃、由愛ちゃんは向井君のことを考えて、
眠れない夜を過ごしているのだろうか。
人間の街に流れているラブソングが、どれも僕を悲しい気持ちにさせた。

あれから僕は何度も由愛ちゃんに矢を放とうとしたけど
打つことはできなかった。

向井君を好きになり始めている由愛ちゃん。
由愛ちゃんが好きな向井君。
僕が君たちの恋の天使なんかじゃなかったら、
君たちは今頃、両思いなのにね。

僕は小さな動物園のある公園のベンチで、何度もため息をついていた。
遠くに檻に入れられた動物達が見える。
みんな窮屈そうだ。僕ももしかしたら由愛ちゃんと向井くんの、
檻になっているかもしれない。

今、僕は由愛ちゃんが大好きだ。
でも由愛ちゃんは僕が由愛ちゃんに片想いをしているせいで、
向井君と両想いになれずにいる。
僕はある決心をした。もう一度言う、僕は由愛ちゃんが大好きだ。

ギュッと弓を握り、僕は由愛ちゃんの元へ飛び立った。

僕が由愛ちゃんの家につくと、ちょうどそこにダイブとメイが来た。
「よう。ダメ天使。俺はこれから最後の仕上げだ。標的に矢を放つ」
ダイブは矢を放つジャスチャーを交えながらそう言った。
「ちょっと待て!」僕は由愛ちゃんを見ながらそう言った。
「今さらなんですの?」メイが苦笑いしながら僕に聞く。
「質問です。自分の好きな人が、別の誰かを気になり始めていて、
その人の恋をあなたが叶えてあげなきゃいけない場合、
あなたなら矢を放ちますか?」
僕はダイブとメイのほうを振り返り聞き返した。
「は?おまえなに言ってんだ?!」
「意味がよくわかりませんわ」
「いいから答えろッ!!」空気が震える。
「出来るわけねーだろ!そいつを好きなのに、
別の恋を叶えるなんてただのバカだぜ。
だからおまえもそんなことできるわけねーんだ!」
少しおびえながら、ダイブは言う。

僕はゆっくり由愛ちゃんに弓矢を向ける。
手が震える。苦しくて仕方ない。
心を落ち着かせるために、ゆっくり3つ数える。

「3」「打つフリしたって無駄だぞ」ダイブの震える声。
「2」「好きな人が別の人と両想いになるんですわよ!」メイの震える声。
「1」「バ、バカ!やめろ!!100人突破はこの俺だぁぁ!」

そして僕は言う。

「解き放て」

すると指から解放された矢はまっすぐまっすぐ
由愛ちゃんの胸へと伸びてゆく。
僕のほっぺたに生ぬるい涙がこぼれた。

やがて矢は由愛ちゃんの胸へささる。
そして僕はすぐに由愛ちゃんの元へと降りて赤い糸を掴む。
僕が作った運命のイタズラで、
ちょうど由愛ちゃんの家の前を通った向井君の小指に赤い糸を巻きつける。任務完了。

僕は唖然としているダイブとメイのところに行った。
「質問の答えは「矢を放つ」だ。
好きな人の幸せが、好きになった人の幸せだから。」

僕は由愛ちゃんを幸せにしたかったけど、
僕自身が由愛ちゃんを幸せにできないなら、
僕の力で由愛ちゃんを幸せにしてあげようと思った。

小さな動物園の檻に入れられた動物を見て思ったんだ。
本当に動物が好きなら檻に入れられた動物より、
ジャングルや草原を走り回ってる姿を見たい。
嬉しそうで自由なそんな姿を。
僕も由愛ちゃんの嬉しそうで自由な姿を見たかった。
それが僕の幸せだ。

恋の世界に帰ると、街中の人が僕を祝福してくれた。新聞にも載った。
「この国はじまって以来の最短記録で100人突破!!」
照れてる僕の写真が載っている。
その横に小さくだけど、落ち込んでベソをかいている、
ダイブとメイも載っていた。

『さっそく次の依頼じゃ。』また神様から手紙がくる。
『今度は人間界のメス猫とオスネズミを両想いにさせてあげてくれ』
僕は苦笑いを浮かべながら、早速人間界へと降りていく。

道で手をつないで歩いている由愛ちゃんと向井君を見つけた。
僕は笑顔になる。これは僕からのプレゼント。
そういって僕は白い白い雪を降らせた。

その雪はいつまでも降り続いた。


2004-01-06 12:35:54公開 / 作者:律
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■作者からのメッセージ
読んでくれたら嬉しいです♪
楽しんでくれたらいいなぁって思います☆
この作品に対する感想 - 昇順
すっごいいいです!!好きですこういうの。
2004-01-06 13:25:51【★★★★☆】はるか
omosiroidesu
2004-01-06 22:14:53【★★★★☆】l
はるかさん、Iさん感想どうもありがとうございます^^♪
2004-01-06 23:17:11【☆☆☆☆☆】律
うわー><つづきがよみたーい!!面白かったです!また書いてくださいねw
2004-01-08 21:38:23【★★★★☆】彩子
計:12点
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