『魂の殺人鬼』作者:流月 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角3200文字
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原稿用紙約8枚
「色々な検査を行いましたが、おそらくこれは『魂魄感染』…ですね」
「あの例の病気…ということは、特に問題は無いのでしょうか?」

病院のある一室にて、一組の母子と白衣の医者が話をしている。
どうやら傍らの息子の病状について話しているようだが、母親は不安な目で医者を見た。

「…今までこの『病気』にかかって大事に至ったという話はありません。ですが、なにぶんつい最近発見された病気でして、これといった対処法が無いのが現状です…。出来るだけお子さんのそばについて、少しでも問題があれば、すぐに病院へ運んでくださるようお願いします」
医者もどうしたものかという表情を浮かべながら、とりあえず応えた。
「分かりました。そうさせていただきます。ありがとうございます。…ほら、行こうか」
「うん…」
一抹の不安を感じながらも、母親は子供を引き連れて部屋を出た。
子供は見た目8歳程度。まだ元気に遊びたい年頃だろうが、今の病室での雰囲気を感じ取ったのか、ちょっと落ち込んでいた。


『魂魄感染』とは、厳密に言えば病気ではないのだが、近年発見された今までに例の無い奇病である。
簡単に言えば、死んだ人間の「魂」が生きた人間にとり憑くという何とも信じがたいもので、変な呪いや何かの影響ではない事はわかっている。
人の「魂」なる物体の存在は一応立証されていて―まだくわしく研究中ではあるが―このような病気が実際に起こることが分かったからだ。

死んだ人間の「魂」は、生きている人間の意識や精神等、即ち魂を乗っ取ろうとするらしい。実際魂を支配されるまで至ったケースはなく、症状としても、ときどき数十秒ほど意識が抜け落ちる程度らしい。
2週間程度で自然に治るし、今までで一番長くとり憑かれていた人も、一ヶ月くらいらしい。

そんな奇病に少年は冒されていた。




一週間後。

「ねぇ、朝のニュース見た?あの病気のコト」
「見た見た!怖いよね〜…だって8歳の子供でしょ?普通に驚いたし」

今、日本はある事件の噂で持ちきりだった。もちろん国家間の大きな揉め事や国内のほかの事件などもニュースになっていたが、なんとそれ以上に取り上げられていた。
この中学校の会話の話題も例外ではない。


「なぁ、薫。聞いてる?」
「うん…もううんざりするほど耳に入ってくるしな。」
「あたりめーじゃん。ただの殺人事件だったらここまで話題にならないっつーの。まず犯人が」
「子供だったんだろ。…あの病気、この近くでかかったヤツいないだろうな。俺らまで殺されたらたまんねぇよ」

3年生の教室内は、この事件の話題でもちきりだった。
この薫と呼ばれた青年、そして彼と話しているのは友人の涼介だ。
そして、事件とは―――





一週間前、「魂魄感染」にかかったある子供が意識を失い突然倒れ、救急車で病院へ搬送された。
長時間意識を失ったとなれば当然焦るであろう、母親は子供について病院へ向かった。
数分後、救急車は病院へ到着したのだが、子供を車から降ろしたとたん、彼は急に目を醒ましだした。
母親や周りの看護士達の顔に安堵の表情が浮かんだ―――が、それは一瞬だけだった。


担架の上に起き上がった子供は、まず母親の頭部を思いっきり殴って一撃でノックアウトさせ、そのまま病院内へ逃走。2階のある病室へと侵入した。

すぐに数人の看護士が慌てて後を追うが、遅れをとった。しかも8歳の子供にしては妙に足が速い。
部屋に侵入した子供は、医療器具の中から偶然見つけたメスを持って現れた。
驚き、看護士の一人がゆっくりと両手を前に出しながら近づき、捨てるよう説得を試みる。

子供はそれに走って近づき、一瞬で男の喉元を切り裂いた。
血が吹き出て、看護士は首を押さえながら倒れる。
あまりの早業に恐れをなし、共に追ってきた看護士達は一目散に逃げた。
子供も走り、それを追って一階へ行く。
メスはナイフとは違い、凶器としてはおそらく小さく不向きであっただろう。
が、子供は構わずすれ違った病人や看護士達をところかまわず切りつけ――二人が死亡した―走っていく。
そしてついに、メスは血糊で斬れなくなったらしく、子供はそれを捨てた。
子供は入り口へと走り去り、数人が追ってくるのも構わず外へ出て行った。

しかし、外に逃げてすぐに道路へぶつかった。
そして一気に走りぬけようとしたが、運悪く車が走ってきた。
子供の小さな身体は、血とともに軽がると宙に飛ぶ。

倒れた子供の下へ看護士達は近づき、虫の息となっていた子供の容態を確かめた。
その時、子供はこう言ったらしい。

「俺は―あきらめねぇぞ…くそっ…殺し…って…やる」
およそ子供の声とは思えない、低い、中年の男のような声だったらしい――――

もちろんこの事件の全貌を知っているのはその場で被害にあった人たち、病院でその場に居合わせた人達だけだ。
すぐに事件は人から人へ知れ渡り、とうとうニュースにまでなったというわけである。


「要するに…なんて言うんだ、その子供が魂を乗っ取られたってことか?んなゲームじゃあるまいし…」
「それは医者かなんかに聞いた方が早いんじゃない?私のお父さん、ニュース聞いてぶっ飛びそうになってたわよ」
「ん?志保か…そういやお前の親父って医者だったよな」
二人の会話に、志保と呼ばれた女子がまざってくる。
「そんな深刻に考えても仕方ないだろ。病気でおかしくなって人斬ったりするのは別に珍しくないんじゃない?それが子供だっては驚きだけどよ」
「だな。そろそろ授業始まるし、席ついたほうがいいよ」
「うん、じゃね」

以後、授業が淡々と進み、終わった。
放課後になるともうこの事件は関心が薄れたらしく、あまり話題にでなかった。
3人も昼食まではこのことで話していたが。



薫が家に帰宅した時間は、午後4時丁度。
基本的に勉強をほとんどしない彼はすぐに眠りについた。
彼は眠りについたはずだが、ふと声が聞こえた。



『…おい、起きやがれ』

…ん?

『起きろっつってんだろうが』

…誰だよ?…って何だこれ!?俺があそこに寝てる…俺が俺を見てる?

『今、お前は魂の状態だ。10分もすれば戻る…』


「?…お前、誰?」
薫は状況を把握できないまま、今の自分のように宙に浮いている男に質問した。

『一週間前の事件を知ってるか?』
「一…あぁ、あのガキの人殺しの」
『けっ、ガキか…そうだろうよ。皆そう思ってる。俺だって実際に見たらガキだと思うぜ』
「?」
『アレはな…俺だ。俺は事故で死んだが、魂だけになってガキに乗り移ってやったのさ。したら、まんまとガキの身体を支配できたのさ。今まであのなんたら感染にかかって身体を取られた話は生きてる時から聞いた事無かったんでな、成功するとは思わなかったぜ』
次から次へと頭の中に訳のわからない言葉が流れていく。
薫が困惑する中で、さらに浮いている男は続けた。
『で、俺がミスったばっかりに、ガキの身体は無くしちまった。もっとも、ガキに乗り移ったこと自体が失敗だったんだがよ…。何はともあれ、俺はまたこうして魂だけ生き延びた。悪運の強さに感謝してるぜ』
「何がいいたいんだ?お前は誰だよ?この状況は何だ!俺に何したんだ!」
ふう、と男がため息をつき、やれやれという風な仕草をした。




『…じゃぁ、言いたいことだけ言ってやらぁ。―――お前の身体、よこしな』
2004-01-06 00:55:43公開 / 作者:流月
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■作者からのメッセージ
初投稿です。
1話だけじゃ何が何だか分からないかもしれないです。
しかも表現が稚拙で…これから頑張ります。
この作品に対する感想 - 昇順
始めまして、ネタとしては大変興味深い話ですね。ただもう少し病院で子供が人を切りつけるシーンなどを緊迫させたり、会話文と会話文の間に表現を付け加えたらもっと興味をそそられる作品になると思います、頑張ってください!
2004-01-06 06:56:23【★★★★☆】祈月玲於奈
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。