『消しゴムのおまじない』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角3841文字
容量7682 bytes
原稿用紙約9.6枚
ベッドの上に広げた雑誌。
その中で私と同じ中3の読者モデルが気持ち悪いほどの笑顔を浮かべて、
ポーズを取っている。
「私にだって君くらいの顔とスタイルがあればね、今頃モテモテなんだから!」
そういってデコピンで雑誌を叩く。
吐き出した強がりは、すでに負け犬の遠吠え。
うちの飼い犬のコロがアォォォンと鳴いた。
コロと一緒か・・・。

いつだって私の夜はため息ばかり。
それは片思い中だからという理由が大きいだろう。
恋さえしなければ、カガミを見てため息をつくことも
たぶん、学校でモテモテの読者モデルを羨むこともなかった。

ふと雑誌の下のほうに目をやる。

『今月の恋を叶えるおまじない』
消しゴムに好きな人の名前を書いて、
誰にも見られずにその消しゴムを使い切ると両想いになれる。

私は筆箱から消しゴムを取り出した。
「このくらいで両想いになれるならいっか」
サインペンのふたを口で開けて、半信半疑で好きな人の名前を書く。

三枝拓 クラスメイトの男の子だ。

叶わなくて当たり前。叶えばもうけもの。
そう思いながら青と白と黒の紙で出来た消しゴムケースを元のようにはめなおした。

ところが・・・

消しゴムに名前を書いて以来、私の恋は絶好調だった!
まず席替えで隣の席になった。
(授業中、消しゴムを使うときはドキドキするが)
委員会も一緒になった。
いままでそんなに喋ったことなかったが、
それらをきっかけにして話すようになった。
極めつけは英語の授業中の出来事。

「キャッチャーとさぁ・・・」
キャッチャーって言うのは私のあだ名。
ソフトボール部で、キャッチャーやってたから。
そのあだ名を私はか・な・り・気に入ってない!!
でもこのあとの彼のセリフが、そんな思いも吹き飛ばす。

「キャッチャーとさぁ、話してるとなんか楽しいよ、俺」

私の顔はたぶん真っ赤になっていたと思う。
顔の表面がかぁぁと熱くなっていったのがわかった。
真っ赤な私は、信号機みたい。
赤信号は「とまれ」なのに、もう突っ走りそうだった!
「あ、あたしもさー、三枝と話してるとさっ・・・」
「Be quiet!!」英語の田中先生が私たちを指して言った。
「すいませーん」と言ったものの
「(日本語で言えよなぁー)」って私たちは小声でクスクス笑いあった。

こんな感じで、消しゴムのおまじないは絶好調!
私は確実に前進している!

でも悲劇は消しゴムの名前が三枝の「枝」まで減ったところで
あまりにも突然起こった。

私は家に帰ってきてから、すぐに学校の宿題をやる。
そっちのほうが気持ち的にラクなのだ。
たとえばの話、お風呂に入るにしても、
「このあと宿題やらなきゃぁ」って思って、入るより
宿題を終わらせて入ったほうが気持ちいいでしょ?
それなのだ。

しかし、今日は、宿題やってお風呂どころじゃない!
宿題をやろうとしたら、消しゴムが筆箱にないのだ!
私は心配で心配で宿題どころではなかった。

部屋中を探して、バックの中も全部取り出して探したけど見つからない。
残るは教室しかなかった。
落としちゃったのかも?!
誰かに消しゴムの中を見られたらどうしよう。

どうしようってゆうのは
「おまじないの効き目がなくなったらどうしよう」ではなく、
「三枝君をスキってことがバレたらどうしよう」ってゆう、どうしようだ。
おまじないどころではない!

私は居ても立っても入られなくなって
家を飛び出して、学校まで全速力で走った。

いちばん気がかりなのは、今日、三枝君が言ってたあの言葉
「俺放課後、美術残りだぁ。。」

放課後残りだぁ?!
もし教室に落としていたとして、
三枝君がそれを拾って誰のか確認するために、
消しゴムケースを取って見たら・・・どうしようぅぅ!!
半泣きだった。「終わるじゃん、そしたら。」
気まずくて今までどおり話せなくなる。

お願いっ!!間に合ってください!!神様!!
私は必死に走った。足がパンパンで、痛い。
でも、そんなこと言ってられない。
今は誰も見ていないことを祈って走るしかない!
学校まであともう少し。

あぁ神様ぁぁぁぁぁ!!!心の中で何回つぶやいただろう
校門が見えてきたっ!あと少しだ!!
私は全力を振り絞る。心臓がバクバクいって飛び出しそうだった。

学校に着いた私は2段飛ばしで階段をかけあがって、4階までまっしぐら。
「あとちょっとだ、がんばれ、私!」
誰にも見られませんように!!

そして教室が見えてきた。
廊下の壁にかかれた「廊下を走るな」の文字を
完全に無視しながら私は全力で走っている。
教室の中で立ったまま何かを持っている三枝君が見えた。
「見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そう言ったのと同時に三枝君が、消しゴムケースを取るのがわかった。

「見たっ?!」はぁはぁと息を切らしながら、
教室の出入り口で私は、三枝君に問いただす。
三枝君の持ってる消しゴムは明らかに私のだった。
「ねぇっ、見た?!」
「み、見た。」三枝君は答える。
「「拓」って書いてあったでしょ?」
「書いてあった」
夕日が差し込んで、教室の中はオレンジだ。
校庭から、野球部がランニングしている声が聞こえてくる。

終わった・・・。

「見ちゃったか・・・。」
間に合わなかった。
「その消しゴムね、私の。」
言わなかったら「私のだ」ってバレなかっただろう。
でもどうせなら言ってしまったほうがいい。そんな気がした。
「えっ?」
「おまじないでさぁー、好きな人の名前を消しゴムに書いて、誰にも見られずに最後まで使い切ると、その恋が叶うってゆうのがあったんだけど・・・」
「うん。」三枝君は戸惑った顔をして私を見ている。
「だから、そうゆうこと。」
「どうゆうこと」
「好きなんだ。三枝君が」
夕日に照らされて、私たちはオレンジ色をしていた。

「あ。ありがとう・・・でも・・・」
「うん」教室に沈黙が流れる。

「この消しゴム、俺の。」

・・・ ・・・

はぁぁぁぁっぁっぁぁぁっぁあっ?!

「ほら、「拓」って書いてある。」
そういって三枝君は無邪気に私にその消しゴムを見せてくれた。
「・・・ホントだ」それは私の字ではなかった。

一気に顔が真っ赤になる。状況は最悪だ!
私は三枝君の持ってる消しゴムを勝手に自分のだと思い込んで、
そのまま告白してしまったっ!!
ドジの王様だ、私は。

「キャッチャーの消しゴム、机の上に置いてあるよ?」
私は走って自分の机まで駆け寄る。
私の消しゴムは丁寧に机の上に置き忘れてあった。

なんで今まで一緒の消しゴムだったのに、気がつかなかったんだろう。
私は黙って、その消しゴムをポケットに入れる。
三枝君の顔を見るのが恥ずかしいから、私はそのまま教室を出ようとした。
「キャッチャー・・・」三枝君が私を呼び止める。
「ありがとうね」
私は返事もせずに駆け出した。

次の日学校に行くのが重くて重くて仕方なかった。

教室に入って、三枝君の顔を見るとドキッてした。
「お、おはよう・・・」私はボソッと言った。
「おはよー」三枝君は普通だった。いつもと変わらない三枝君。
少し悲しかった。私はやっぱりフラれたのだろうか??
午前中、私は一言も三枝君に話しかけられなかった。

でも5時間目の英語の時間。
三枝君が私に小声で話しかけてきた。
「(あのさー、コレ見て)」
そういって三枝君は、自分の消しゴムケースを外す。
そこには「キャッチャー」と書かれていた。

「(俺もお前のこと好きだ)」
私は思わずプッと噴出す。
「(消しゴムに書いた名前は人に見られちゃいけないんだよ?)」
「(ウソ?!)
「(自分から見せるなんてダメだよ!)」
「(マジ?!)」

でも私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
なんか心がくすぐったくなるようなそんな感じ。

私の消しゴムにはまだ「拓」の文字が残っている。

おまじないは意味なかったのかな?

きっかけにはなったけど、頑張ったのは私。
恥ずかしい思いをしたのも必死で走ったのも
告白したのも、夜、三枝君のこと考えて悩んだのも全部、私。
叶ったときだけ「おまじないのおかげ」なんてしたら損だよね。
だから「この恋は私が実らせたんだ」って思いたい。

私は消しゴムを見つめて思った。

「(三枝くん)」
「(何?)」
「(消しゴムの名前)」
「(名前?)」
「(キャッチャーはなんかちょっと・・・私の立場がないってゆうか・・・)」
「(たしかに)」そういって三枝君は笑う。

「Be quiet!!」英語の田中先生が今日も私たちを指して注意する。
「すいませーん」とは口で言いつつも
「(だから日本語で言えつーの)」
私たちは今日も二人でクスクス笑いあった。

2004-01-03 01:52:09公開 / 作者:律
■この作品の著作権は律さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品を読んで、おまじないをやってたことのある人が、そのときを思い出してくれたら嬉しいです♪
この作品に対する感想 - 昇順
面白いお話ですね(^^)このおまじない知ってます。結局おまじないより気持ちを伝えろと言いたい訳ですね、違っていたらすいません(^^;)私的にとても楽しめました(^^)
2004-01-03 10:25:50【★★★★☆】紫の折り紙
ドキドキしながら読めました!おまじないをテーマにするとは全然思いもつきませんでした。すごくおもしろかったです。
2004-01-03 10:34:28【★★★★☆】ひなた
紫の折り紙さん、ひなたさん、感想ありがとうございます♪おもしろかったと言ってもらえてすごく嬉しいです☆
2004-01-03 16:40:03【☆☆☆☆☆】律
面白かったです。ホンワカした感じがして、読んでいて心地よかったです。二人とも可愛い〜!
2004-01-03 17:29:39【★★★★☆】灰猫
テンポ良く読めました!私はぶつかってしまうタイプであり得なく、とても悲しい…(T□T)何だか可愛かったですv
2004-01-03 20:25:16【★★★★☆】琴葉
灰猫さん、琴葉さん、感想ありがとう♪
2004-01-03 20:29:37【☆☆☆☆☆】律
すっごい、すっごいおもしろかった!!!!
2004-01-03 23:37:08【★★★★☆】いちご
とにかく雰囲気のいい作品だと思いました。「そんなに上手く行くわけない」と思うより先に、雰囲気の良さが出ていたように思います。私は恋愛には付いて行きにくいタチなのですが、このような雰囲気の作品は好きです。次回作も楽しみにしてます。
2004-01-03 23:54:50【☆☆☆☆☆】エテナ
いちごさん、エテナさん、感想どうもありがとうございます☆
2004-01-04 00:58:04【☆☆☆☆☆】律
英語の田中先生って、私の学校にもいますよ(^_^)
2004-02-08 15:48:40【★★★★☆】琴子
読ませていただきました。まとまっていて読みやすかったです。
2004-03-21 17:20:59【☆☆☆☆☆】メイルマン
計:24点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。