『1つの恋のエピソード ?』作者:森々 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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『球技大会実行委員は、至急第二会議室へ集まってください。繰り返します。球技大会実行委員は、至急第二会議室へ集まってください』

私は大きく溜息を吐いて、食べかけのパンから手を離した。
共に昼食をとっていた二人の友人は、哀れな目を私に向けながらも、食事の手を止めようとはしない。
「少しは同情してあげようとか思わないの?」
怒った様に口を尖らせながら言うと、私の真横に座るミヅキが言った。
「してるじゃない。こんなにも」
大げさに瞳を潤ませながら、ミヅキは魚フライを頬張った。
一方私の前に座りながら黙々と食事を続けていたユウコは、細い指で右腕に嵌めてある時計をトントンと指差した。
「なによ」
「さっき放送で『至急』って言ってたでしょ。早く行きなさい」
「分かってるわよ!」
ドスドスと教室の隅に歩いて行き、ドアに手を掛けながら二人に叫んだ。
「この友達不幸者!」
私は物凄い勢いで、会議室へと走っていった。

「来るのが遅いぞ」
「すみません…」
こっちは昼飯の最中だったんじゃいと小声で呟きながら、私は黒板に書かれた座席表から『1年1組』の文字を探した。
数秒後にようやく発見すると、指定された位置へと向かった。
「早く席についてください」
教壇の前に立つ生徒会長が、教室中に聞こえる声で私に注意をした。
空腹によってイライラが溜まっていた私は、会長のこの一言に殊の外怒りを覚えた。
「どうもすみません」と言いながら、ワザと大きな音を立てて椅子を引いた。
周りの生徒は私の珍奇な行動に驚いていた。だが会長だけは依然として表情を固めている。その顔は『一年生ごときに舐められてたまるか』という表情にも見えた。
「静かに。静かにしてください。ただ今から、球技大会実行委員会を始めます」
会長の挨拶を合図に、委員会は始まった。
各競技における注意事項や役割分担など、プリントに印刷して配ればいいじゃねぇかとも思える話し合いが、30分間行われた。
「1組は卓球に付いてください。試合の審判や人数確認などをやっていただきます」
「卓球のルールなんて知りませんよ」
「そこらへんは独自で勉強してください。1組なら勉強は得意でしょう?」
会長は意地悪そうな目をしながら、私に背を向けた。
かなり嫌味な口調だったが、会長の言葉に間違いはない。なぜなら私の通うこの高校は、入試時の成績順にクラスが分けられるからだ。
トップ組は当然1組へ。そこから続いて2組、3組といった風に並べられる。
会長は1組を狙っていたそうだが、あえなく撃沈して現在は3年3組に属している。
自由奔放な1組は他クラスから憎まれることが多い。それに『元1組希望』の会長としては、私を好きになれるはずがないのだろう。
私は溜息を1つ吐いて、哀れむような声で言った。
「そうですね…私達1組には、勉強しかないですもんね」
「…ぁん?」
会長は唇を奇妙に歪ませながら、必死に表情を取り繕って私に向き直った。
「よくわかっているじゃないか。精々頑張ることですね」
「はい。持ち前の頭脳をフル活用して、1組としての権限を無くさないように頑張りますわ」
会長のメガネにヒビが入ったような気がした。
私は机に置かれたプリントを掴み取り、「失礼します」と言って会議室を出た。

ドン!

「わあっ」
「うおっ」

えげつない声を出して、私は廊下に倒れこんだ。どうやら誰かとぶつかったらしい。
もう一人の人物も同じように倒れていた。私はすぐさま起き上がって、その人物に駆け寄った。
「だいじょうぶですか!?」
ぶつかった人物は男の子だった。
「ああ…平気。俺の方こそごめん」
頭を擦りながら、その子は起き上がった。私はその子の顔を見た途端、心臓が鼓動するのを感じた。
短い黒髪に色白の肌。長くカールした睫毛の下には、大きな瞳がこっちを覗いている。
私は一瞬頭の中が真っ白になった。
「…なにかついてる?」
男の子は私の視線に気付き、顔を手で撫で回した。
「別にっ…なんにもついてないですよ。ごめんなさい」
「え?いや、それならいいんだけど」
わずかな沈黙が流れた。私はギュっと拳を握って、ゆっくり立ち上がった。
「私…急いでいるので…失礼します」
その男の子は私と同じ色の靴を履いていたので、同級生ということは直ぐにわかったのだが、緊張していたために敬語で話していた。私の困った癖だ。
「あ…うん」
私は振り返ろうともせずに、走り去った。
心臓の鼓動が全身にまで伝わっていて、脳に響き渡るように感じた。

「それで?」
ユウコは読みかけの雑誌に目を戻して、私に問いかけた。
「その男の子に恋しちゃったってわけ?」
「そんなことっ……あるかもしれないけどっ」
「キョウは純だねぇ」
ミヅキがからかうように言った。「どういう意味よ」
「純粋で鈍感でガキってことよ」
「さり気なく悪口言わないでよ!」
「とにかく」
ユウコが雑誌を置いて言った。
「その人のことを知りたいんでしょ?」
私はくやしい気持ちを押し殺して、コクンと頷いた。この二人にはやっぱり敵わない気がする。
「まぁ協力してやらないこともないよ」
「一応友人だからね」
私は飛び上がって、二人の手を強く握った。「ありがとう!」
その時ユウコが不適な笑みを浮かべて言った。
「その代わり」
「その代わり…なに?」
二人は顔を見合わせて、ニヤリと笑い合った。
一瞬寒気が背筋を走った。
「やるからには、徹底的にやるのよ」「妥協は許さない」

『絶対に手に入れるのよ!』

最後の部分は声を合わせて言われた。
私は少なからず、この先に不安を感じた。



2004-01-02 20:21:38公開 / 作者:森々
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■作者からのメッセージ
ちなみにキョウの本名は「長谷川今日子」。
ミヅキは「百瀬美月」、ユウコは「山本由子」です。
面倒くさがり屋のキョウは、寝ている間に球技大会実行委員に選ばれてしまったのです(笑)。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして森々さん。作品を拝見させていただきました。私的な意見ですが少し主人公に自己中心的なイメージができました、主人公は読者と共感しやすい方がイイですよ。これから主人公の心情が変化して行くなら面白い展開だと僕は思います。あくまで私的な意見なのであまり気にしないでください(^^;
2004-01-02 21:13:56【☆☆☆☆☆】紫の折り紙
点数忘れてました
2004-01-02 21:15:23【★★★★☆】紫の折り紙
計:4点
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