『陽に隠れし陰』作者:たぬきち / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
昔忍が反乱を起こし城を落としたという伝説があった。この物語の主人公林太郎は、兄上が両親に暴力を受けられていることに酷く傷ついていた。兄上の上にはもう一人隠されていた兄が存在していた。林太郎は、隠されていた兄を怨み、素っ気無い態度をとる。「出来損ないなのに高く評価されている」半助のことをそう言った兄に林太郎は…。
全角2972文字
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原稿用紙約7.43枚
陽に隠れし陰。光は、表で輝き。影は、裏で静かに動く
「知ってるか?」
一人の男ーーいや、まだ若い青年は黒い衣装を身に纏い、闇に微かに輝く刃を男の喉に当て緩やかな弦を描く。
「闇で動く俺らは罪には問われない。だから、お前を殺したとしても罪にはならんのさ」
刃が、男の喉を傷つけ一筋の血が流れる。恐怖で歪んだ顔を面白がるように青年は一思いには殺しはしない。徐々に、徐々に殺していく。そんな二人を照らすのは天に上っている蒼き満月。その蒼さはある男の鏡のように悲しげで寂しげな色を放っていた。
「…ま、情報は聞き出せた。戻るか」
青年は地に伏せる屍を冷めた瞳で見下す。先ほどまで生きていた男は今は言葉も発さない骸。鮮血が男を纏うように溜まり、青年は一厘の赤い薔薇を投げ落とす。そして、背を向け暗闇へと姿を消した。

ーー忍者のいた時代。
雇われた忍びは、上司の命令を遂行する為どんな手も使う。感情を捨て、ただ動く人形として何も考えず人を斬る。優秀な忍なら勧誘が山のように来る。…だが、優秀過ぎるが故に上司に殺された忍も少なくは無いのだ。
「よくやったの…。半兵衛よ」
半兵衛と呼ばれた青年もその一人である。「なんでも任務は遂行する…。化け物め」冷たい目線が半兵衛に突き刺さる。頭を垂れている半兵衛の表情を伺う事はできないが、上司はその表情を読み取っているかのように眉間に皺をよせ、扇子を投げつける。半兵衛に当たった扇子は、地面に小さな音を立て堕ちる。
「気に食わん!」立ち上がり半兵衛の前まで歩み寄れば、頭を踏みつけ「わしを馬鹿にしておるのか!ただ威張る男だと、何もできぬ男だ、とあざ笑っているのか!?」広い空間に怒鳴り声が響き渡りるなか半兵衛は小さく言葉を発した「其の通りです」と…。
其の言葉を聞いた上司は、顔を真っ赤にし「殺せ!!この者を殺せ!!」と叫ぶと同時に天井から複数の忍が降り立ち忍刀を構える。半兵衛が優秀なのは知っている為戸惑いをみせていたが、半兵衛は立ち上がると息を飲み狙いを集中する。
「可哀想な者らに救いの救済を」
緩やかな弦を浮かべては半兵衛は鎖鎌を構える。周りの忍は分かっていた。この男に複数の忍がかかっても勝てる相手では無い事を。忍の思いはそれぞれであり、攻撃をすることができずにいた。
「何をしている!そんな化け物殺せ!!」
「可哀想な上司様。そして哀れな忍達…。双方この俺が救済してやるよ」
ーー其の言葉から事態が動くのは早かった。城の中で逃げまとう者、悲鳴をあげる者。血に飢えた獣に立ち向かう者など誰一人おらず、其の城は炎に包まれ陥落した。半兵衛は城から少し離れた木の上でその様子を見ていた。顔についた血を拭い取り、感情の無い瞳で「…器が小さすぎたな」と小さく呟きその場から姿をけした。
半兵衛という男はそれから表に姿を現すことなく、時代の闇に消えた。

ーー反乱から約10年後

忍が城を落としたという話は伝説となり、ただの作り話となっていた。上司に従うはずの忍がはむかって落とすわけないからだ。人々はそんな常識に縛られ信じようとはしなかった。
「半助、半助!」
小さな少年は声をあげ誰かを探していた。「全く何処に行ったのだ?」腕を組みむっとした表情をしたとき「そんなに頬を膨らませないでくださいよ」と地に降り立ち、片膝を地面につけて顔を上げる。黒い衣装に身をつつんだ忍者だ。半助と呼ばれた忍は優しげな笑みを浮かべ立ち上がる。
「半助、何処に行っていたのだ。我が呼んだら直ぐに駆けつけよ」
「ふふ…。かくれんぼをしていたのに駆けつけたら意味ないではありませんか。林太郎様」
「い、いいのだ!…いいのだ…」林太郎と呼ばれた小さな少年の表情は暗くなり俯く。その表情を見た半助は何かを悟り「林太郎様。何処かに遊びに行きましょうか」と笑みを浮かべると、林太郎は顔をあげ満面の笑みを浮かべ「うむ!」と返事をした。
半助は林太郎を背負い木々を伝って駆けて行き森の奥へと入っていく
「いつも半助はこの景色を見ているのか?」
「え?まぁ、はい」
「…いいなぁ…。我も自由に飛んでみたい」
「林太郎様…」
林太郎は半助の背にしがみつき力を入れる「…また…兄上は母上と父上に暴行を受けられていた。何故兄上が怒られねばならぬのだ?弟である我が受けるのが道理ではないのか?」弱弱しい声が半助の耳に入る。忍に弱音を吐いたとしても忍は何もできない。仕えているのは林太郎ではなく、林太郎の父上なのだから…。半助は目を伏せ口を開く
「…私に言っても何もできませんよ」と言えば「わかっている…お前は父上の駒なんだから、我の言葉など聞いてくれないことも」林太郎は儚げに笑みを浮かべる。そして、森の奥の川付近に降り立ち林太郎を下ろす。
「でも」ピクッと半助は林太郎に目を向ける。其のとき息をするのを忘れていた。まだまだ子供だと思っていた目の前に居る林太郎という男は、強い、真っ直ぐな瞳を半助にむけ
「兄上を殺せと命令され、半助が殺そうとするなら、我は半助を殺す。父上の駒でも関係無い。我にとって兄上は唯一我の本当の味方なのだ。今は父上も母上も家臣らも我の味方の振りをしているが、実際は違う」
「…。」
「…我を子供だと思って甘く見ている。知っているか?半助。兄上の上にも兄が居ること」
「…それは、初耳でございます」
「だろうな。極秘なのだ…。隠し子なんだそうだ」
「何故それを林太郎様が知っているのです?」
「…会った」
「…は?」
「その兄に会った。凄く綺麗な…男女関係無くとりこにしてしまうくらい綺麗な方だった」
「そうですか」
林太郎はその場に腰掛け空を見上げる。
「きっと、その兄を父上、母上は弱愛し、兄上を毛嫌いしているに違いない。でも何で存在を隠した…?」

(こんな小さいのにこの推理力はなんだ?何故冷静に物事を見ていられる?…もしかしてこの方は…。いやそんな事は無いはずだ)

「…こんな所で何をしているのですか」
凛とし、冷たさの混じった低くも綺麗な声に半助と林太郎は振り向く。そこに立っていたのは、艶のある黒髪、伏せ目がちな黒い瞳…。誰もが見ても息をのむ美しさ。半助は見とれてしまった。なんて美しい人なのだろうか
「…滝松さんこそこんな所で何を?」滝松と呼ばれた男は悲しげに
「…他人みたいな言い方はよしてくれないか?林太郎」
「我にとって貴方は他人ですので」
「…困ったもんだね。」
ふふっと優しげな笑みを浮かべ半助に目を向ける
「君が半助…。父上から話は聞いてるよ。出来損ない忍だって」
「左様ですか」半助も笑顔で答える
「それなのに、父上は君を高く評価している…何故だろうね」
滝松はそれだけ言い残し、姿を消した。残された二人は顔を見合わせ「評価しているのは、お前が優秀な忍だからだ。出来損ないなんかでは無いぞ」と笑みを浮かべながらそう励ます林太郎を見て半助は「…林太郎様、私は貴方に仕えたかったと今更ながら思います」にこっと柔らかい笑みを浮かべる半助に林太郎は驚くが再び笑みを浮かべ何も言わなかった。
2015-02-11 14:04:18公開 / 作者:たぬきち
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■作者からのメッセージ
皆さん始めまして。文章力はあまりないですが、楽しみながら、妄想しながら書きました。林太郎はまだ小さな男の子なのになんでこんなに冷静なのか、半助が気付くもそれを否定した理由。などもいつかは明かしていきたいと思います!
この作品に対する感想 - 昇順
 はじめまして。
 このサイトの規約とかに書いてあると思うんですが、
・行頭字下げをする(段落の最初にスペースを入れる)
・「――」は全角ダッシュ二つ(ーを変換したら出てきます)
・「…」は一つでなく二つ重ねて「……」で使う
 以上はよっぽどのこだわりがない限り守ったほうがよいことかと思います。ただ文章自体は丁寧に書かれていて、文章力は十分おありではないかと思いました。
 んーやっぱり半助=半兵衛なんでしょうか? だとしたら彼の今後の活躍が楽しみですね。血塗られた過去がこれからどう影響してくるんだろう……。あと最後のほうで出てきた滝松さん、この人が「隠されていた兄」ですよね。序盤から重要人物がいろいろ出てきて、滑り出しとしては良いのではないでしょうか。まだまだ始まったばかりですし、続きを待たせていただきます。
2015-02-18 23:46:54【☆☆☆☆☆】ゆうら 佑
計:0点
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