『狂った星』作者:江保場狂壱 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約6.78枚
 地球の上空に空飛ぶ円盤がやってきた。
 円盤にはイルワ星からやってきた宇宙人が二人いる。黄色い半透明でクラゲのような形で、目が六つついていた。頭部に口があり、ポプー、ポプーと不快な音を立てている。
 彼らはこの星に観光に来たわけではなく、友好のためでもない。この星に破滅をもたらすために来たのだ。
 ダマヤとウロタという名前で、各星々をある装置を使って滅ぼしてきた。その数は百を超える。ちなみにイルワ星全体の意志ではなく、二人の個人的趣味である。もちろんイルワ星では嫌われていた。
「くっくっく。ウロタ。今度の星はなかなか潰しがいがあるぞ」
「そうだなダマヤ。この星の上空に悪徳電波を流すのだ」
「この悪徳電波の力はすさまじい。純真無垢なクム星人たちが盗みや殺しを覚え、その挙句に自滅したのだからな」
「メジマ星の時もおもしろかったぞ。宇宙の聖人と謳っていた割にはあっさり滅んだのは笑えたね」
 ポププププ。二人は笑っている。彼らは悪徳電波で相手に悪心を植え付け、自滅する様を見物して楽しんでいたのだ。悪魔の所業と言えるだろう。
 ダマヤはスイッチを押すと、円盤の下が開き、アンテナが出た。そして地球全体に電波が流れるように飛び回った。
「さぁて、この星の連中はどうなったかな。さっそく調べてみよう」
「そうだな。翻訳機を使って、この星の状況を見てみるか」
 ウロタはボタンを押すと、大型スクリーンが現れた。さっそく映像が流れる。
『現在エヌ共和国ではテロが起きています。そのためエス国が軍隊を現地入りさせましたが、自爆テロで大勢のエス国兵が犠牲になりました』
『ヒロイ共和国では貴重なゴリラやオランウータンの密猟が後を絶ちません。ズルイ国の富裕層に需要があり、密猟者を取り締まっていても、金目当ての密猟が後を絶たないのです』
『今年怪物時計が小学生の間で流行しております。おもちゃ屋では関連商品が売り切れており、再入荷の目途が立っておりません』
『母親が自分の子供を殺害しました。理由が夜泣きで眠れなかったということです。母親は頼れる人がおらず、孤立していました』
『南極で反捕鯨団体の代表ジョン・マッカートニー氏は調査捕鯨船を襲撃しました。クジラは神聖な神の使いであり、捕鯨など許さないとケーブルテレビやネットサイトで訴えています。クジラの脳化指数は人間の倍以上あり、イルカは人と同様の脳重量を誇ると言っています』
『高齢者の万引きが増えています。これは社会的孤立と経済的理由があり、政府は対応に追われており……』
『今日はイノシカ町五光屋のラーメンを紹介します。店主の柳雨男(やなぎ・あめお)さんの自慢のスープにリピーターが……』
 これらのニュースを見たダマヤは満足そうであった。
 しかしウロタは浮かない顔をしていた。
「おかしいぞダマヤ。悪徳電波はきちんと作動したのだろうか?」
「なんだって? きちんと作動しただろう。見ろよ、この星では悪徳で溢れかえっているではないか」
「そうだろうか。今地球に悪徳があふれかえっているはずなら、なぜ、子供に人気のあるおもちゃとか、ラーメン屋の話題を出すのだ? 悪徳電波に影響された者は誰もが悪の魅力にはまってしまう。だが地球の様子を見てみろ。悪を犯す者と犯さない者に分かれているではないか」
「確かにそうだな。これはどうしたわけだろう」
「よし、タイムテレビを使って、この星の歴史を調べてみよう」
 ウロタがボタンを押すと、今度は別のスクリーンが出てきた。
 スクリーンには地球の歴史が逆走している。盗みや殺人は元より、世界を巻き込む大戦争に、人を万単位で消し去る爆弾。人を奴隷にする宗教団体や大量虐殺が流れた。
 二千年ほど遡ったが、悪徳がない時代はなかった。地球人は常に相手を憎み、騙し、殺しあって来たのである。
 それらの映像を見たダマヤとウロタは戦慄していた。心なしかポッポッポと息も途絶えている。
「なんて星だろう。この星の連中は最初から悪心を持って生まれて来たのか」
「しかも、連中は普段悪心を押さえつけており、いざとなればそれを武器にする。なんと恐ろしい連中だろう」
「気味が悪い。今まで滅ぼしてきた異星人でもっとも異質なやつらだ」
「ああ、こんな星はさっさとおさらばしよう」
 そういって円盤は地球を離れて行った。

 *

 マル月バツ日:丸馬津(まるばつ)新聞より。
 ヒロイ共和国では密猟者が次々とゴリラやオランウータンに殺害される事件が多発しております。石を武器にするのはもちろんのこと、落とし穴や植物のつるを利用した罠など、人間に対する悪意が見えたと地元のレンジャー隊員は証言していました。
 ただし動物愛護団体の代表らは、人間に天罰が下ったと街頭で宣伝しております。その代表たちは突如発生したカラスの大群によって多数の死者を出しました。

 ナニ月ソレ日:奈苦志(なにがし)新聞より。
 南極の調査捕鯨を妨害していた反捕鯨団体の船が沈みました。犯人はクジラで彼らの船に突進したとのことです。
 調査捕鯨船も危うくクジラに衝突されかけましたが、場を離れることができました。作業者の目撃情報に寄れば、船長のマッカートニー氏がクジラに足を噛まれて海に沈んだと証言しました。現在政府はマッカートニー氏を始めとした乗組員たちの安否を確認中ということです。

 アレ月コレ日:都有(とある)新聞。
 ここ最近全国では犬や猫のいたずらが多発しております。それもただのいたずらではなく、人の生命を脅かすものが多いのです。
 エヌ県の中年主婦は道路横断中、犬に突然吼えられ、驚いた拍子にトラックに衝突しかけたと証言しております。
 エム県の老夫婦は飼っていた猫がガス栓を抜き、犠牲になりました。
 動物学者の亜仁丸(あにまる)氏は動物の反乱だと言います。
 それは脳化指数といい、脳の重さと体重を計算したものだそうです。人間は十で、犬や猫は一。これは五歳児ほどの知能があると言われています。五歳児でも立派に物事を考えており、犬や猫たちが起こした事件はどれも幼児が行える範囲だとのことです。
 世界中で起きている動物たちが引き起こしている事件は、人間たちへの反乱だと警鐘を鳴らしています。
 いいえ、すでに最後の審判は下されたと言っています。
 動物愛護団体はこの意見に反対しており、かわいい犬や猫が人間に危害を加えるわけがないと、反論していました。

 終わり
2014-12-28 14:54:26公開 / 作者:江保場狂壱
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■作者からのメッセージ
 ショートショートの鉄板である、宇宙人ネタを書きました。
 手あかのついた素材も、作る人間によって味が変わるものです。
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