『檸檬爆弾とクワガタムシの繁殖戦略阻止作戦』作者:ニート / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
はじめまして初めての投稿ですファンタジーな大学生のラブコメディです淫らな表現はないはずです……前編です後に後編も投稿します
全角9382.5文字
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原稿用紙約23.46枚
事実は小説より奇なり。


 元々文学に秀でていた私は幼き頃から
えっちらほっちらと朝も昼も夜も日夜勉強漬けでございました。
 父の教えに母の献身的な支えのおかげで
難なく大学に合格した私は家族サービスとして
アルバイトをはじめ勿論勉学も怠ることなく
輝かしく生きていく事にしたのです。
 このままお金をこの可愛い子豚さんの貯金箱に沢山詰め込んで
いつか父と母にはわいあんな旅行をプレゼントしたい。
 そう思ったのも束の間、大学やアルバイトと言うものは
恋に渦巻く獰猛な生き物かのように私のお金を奪っていくのです。
そう、あれは一昨年の春でした。


 春うららなキャンパスはむさ苦しい若者で覆い尽くされていました。
やれ一緒にテニスで一緒に青春と言う名の汗を流そうだの
やれ君可愛いからこの飲みサーに入らないかだのと言った
恋に恋する男という名の野獣が餌である可愛い私を狙い尽くすのです。
ああ!恐ろしい!私はそんな台詞でくどかれるような軽い女ではないのです!!
 まだ桜も四分咲きと言った所でしょうか。
この母から貰った赤いカーディガンだけでは肌寒いはずなのに
雄の本能に抗えない血眼なハイエナ達は季節外れのおしくらまんじゅうを始め
私はその人の波に揉まれ、胸を揉まれ、こぶりで可愛いお尻まで揉まれ、
汗と熱気でむんむんとシャツはびしょ濡れになってしまいました。
こ、このままではやられる……!!
 幸い母に似て小柄な私はその身をよじり小さなハムスターのように
人ごみを抜けなんとか窮地を免れることに成功したのです。
「あぁ、暑いですわ」
「いや、熱いの間違いでしょうか」
 生温い少し鉄の味がする蛇口を捻り先程の猛獣どもから奪われた水分を
必死に取り返していると、隣に一人の男性がやってきました。
「あぁ、暑い」
「何だって春だというのにこんなに暑いんだ」
 背の高いお世辞にもはんさむとは言えない彼はこれまた
はんさむとは言えない伸ばしきった長い髪にたっぷりと水分を補給しだしたのです。
 それはもう小学校の時、わんぱくな子供達がいっぱい汚した教室の床を
師走の終わり前に綺麗にワックスを掛けるモップのように重たくなっているようでした。
 彼をおばけモップと呼ぶことにしましょう。
きっとこの穢れきった猛獣の檻をえっちらほっちらと清掃してくれる
大学専属の清掃員の方なのでは?
 淡い期待を持って彼を見つめると、その重い毛先の隙間から鋭い眼光が
私を見つめるのです……ぞくぞくしますね。
「何だいさっきから君は」
「そんなにこの髪がうっとおしいと言うのか」
「いえ、寧ろ素敵だと思います」
「ほう?何故そう思う」
「きっとあなたはこの猛獣達の食べ散らかした汚い檻の中を見違えるように綺麗にするからです」
「くっくっく……面白い」
 おばけモップさんは表情を見せずに笑います。
「君、新入生だな。しかもまだ大学に全然馴染めていない一人ぼっちのな」
「何故そう思うのですか」
「簡単だ」
 既に答えが見えていると言うのですか。
もしかしてこの母から貰った赤いカーディガンを着ているからでしょうか。
 あぁ……これでも目一杯お洒落をして誰にも笑われない格好で来たつもりだったのに。
私の心はいつだって可愛い子豚の貯金箱がぶひぶひと私を癒してくれているというのに。
「君は、男を連れていない」
「何故男を連れていないと寂しい新入生だと言うのですか」
「いいかい、男と女というものは凸と凹だ」
「凸と凹ですか」
「あぁ、凹凸というものはいつか必ず互いを求めきっちりとひとつの形となる」
「例えばだ、君は高校を卒業する時、やけにクラスの皆が恋人が出来ただのセックスをしただのとざわめき共鳴していなかったか」
 確かにクラスのマドンナの佐々木さんも、お調子者の原田くんも、
家が貧乏で学校に住んでいた山本くんも、高校生が読んではいけないびーえるとやらを
熟読していた華原さんも、皆一斉に黄色い声を高らかにそれはもうアマゾンで野生に帰った
盛りに盛ったゴリラかのようにうほうほと叫び続けていました。
「していました」
「だろう!!そうだろう!!あぁ、悲しきかな!!」
「彼らは高校卒業という切欠を元にそれはもうアマゾンで野生に帰ったゴリラかのように交尾を毎日毎日飽きもせずにし続けていた!!」
「しかし結局幸せは長く続かないもの……高校卒業というイベントが終われば次のイベントはすぐにやってくる!!」
「ごくり」
 私の小さな喉仏が大きく落ちるのを喉で感じ取ります。
「そう!それは正に今この瞬間!!大学の入学式だ!!」
 何という事でしょう。
確かにあれ以来彼氏と仲の良かった佐々木さんも今ではあちらの物陰で
彼氏とは似ても似つかない金髪の男性と季節外れの熱いキッスを交わしているではありませんか。
「うがああああ!!あれは不純交際の一種だ!!」
「見てはいけない……大学生というのは今日この瞬間に二種類に分けられる」
「そ、それは一体どんな二種類に分けられるというのですか」
 たっぷりと鉄分を含んだ水が毛先からしたたり落ちているおばけさんは
カラカラに乾いた砂の上でぽつりとつぶやいたのです。
「リア充と非リア充だ」
「それはつまり私が非リア充だと言いたいのですか」
「あぁそうだ!今この瞬間にも沢山の凹が沢山の凸に狙われているというのに君は何故かこの人気のない場所を選んだ」
「つまりは、そういう事ではないのかね」
 そんな……私の輝かしい大学生活は既にみすぼらしいどぶねずみが巣食う肥溜めと化していたというのでしょうか。
それではせっかく立派な父と献身的な母の愛の結晶である私のそのまたどこかの立派な素敵な王子様との
愛の結晶が生まれないというのですか。
「そ、それは困ります」
「では今すぐあの猛獣の群れに飛び込むがいい!そして潔く不埒ではしたない女性である事を痛感するがいい!」
「それは出来ません」
「何故だ」
「私古風な女ですゆえ」
 凸凹の擦れはより一層激しさを増し今や何が何だか分からない形をしています。
それはもう熱気を帯びおばけモップさんのたっぷりと鉄分入りの水を含んだ髪も
いつの間にか乾かしてしまうほどに
そしてもっさりと一段にその存在感を増しています。
 彼はしばらく頭の上のモップを細長い指でわさわさとそれはもうわさわさと
髪の中から飴やら梅干しのお菓子やらテレビのリモコンやら可愛い子豚の貯金箱やらが
今にも窒息死してしまいそうだったと言わんばかりに飛び出してくるのです。
 あぁ!私の可愛い子豚さん!
そんなところにいたのですか!
「君、古風な女だというのか」
 もう口さえもどこにあるのか分かりません。
彼の頭は本当にモップで出来ているのではないかと疑うのをやめる事も出来ないのです。
「いかにも」
「私、ちゃらちゃらしたアクセサリーもすまーとふぉんとやらも緑の無料出会い系アプリなども取り揃えておりません」
「奇遇だな」
「私もだ」
 おばけモップさんはいかにも文学少年だと豪語するかのように甚平を華麗に着こなし
右手は腹あたりを模索し赤と白色をした大人の嗜好品を取り出しました。
「君も吸うかい」
 柔らかな箱から勢いよく飛び出した煙草はするりと私の足元にのしかかります。
「私はまだ大人ではありませんゆえご遠慮させていただきます」
「そうか」
 ぺたんこな靴にのしかかったおばけさんの煙草をするりと箱に戻してあげました。
「あなたは大人だというのですか」
「私のような大人がいてたまるか」
「勉学にばかり励み自分の息子を慰める夜に励み女性と不埒な行為を重ねたことなどない男が大人と呼べるか」
「でもあなたはマルボロを吸っています」
「私の父もマルボロを吸っています。そして立派な大人です」
 父は立派な大人です。
小さいハムスターのような私と少し大きいハムスターのような母を
大きな一軒家に飼いしっかりと手懐けているのです。
これはもう立派な大人と呼ぶ以外に何と呼べばいいのやら。
「それはそうとあなたには子供さんがいるというのですか」
「男は誰も皆生まれた時から抱えている」
 なんという事でしょう。
私、生まれた時から女だったゆえにそんな事は今日この猛獣共の巣食う檻に
のこのことやってくるまで存じ上げませんでした。
 皆が子持ちだと言うのならば男と女の間にどうやって子供が生まれてくるのでしょう。
女しか生まれなかったのならもう諦めるしかないのでしょうか。
そうなるとなんだか急に悔しい気持ちで一杯になり父と母に今すぐ誠心誠意謝罪をしたくなってきました。
 今日まで育ててくれてありがとうございます。
でも私は女だから子供に恵まれることはないのです。多分。
「君は何か勘違いをしていないか」
「はて、何のことでしょう」
「私はただセクハラしているだけだというのにその反応」
「これはもう天然記念物と呼ぶ以外に何と呼べばいいのだ」
 どうやら私は国宝級のハムスターらしいのです。
おばけモップさんがそう言うのならそうなのです。
 だから温室育ちな私は作物を襲う嵐も日照りが続き喉がカラカラになる自然の厳しさも
知る術がなく今日までこうして立派な大人になることが出来なかったのでしょう。
 逆境を乗り越えなければ立派な大人にはなれない。
しかし、逆境の逆境が続く私の平凡でつまらない日常は精神を鍛える術がないのです。
「それはさておき、君は何と言う名だ」
「申し遅れました、私高坂と申します」
「そうではない」
「はて、私生まれてこの方高坂以外の姓を持っておりませぬ」
「あるとすれば立派な父と健気でいじらしい母の名から一文字ずつ授かりました絵梨子と言う
 私めには些か立派すぎる名ぐらいしか持ち合わせていません」
「そうか、絵梨子くん」
「何でしょうか」
「私には名がない」
 これには驚きを隠すことが出来ません。
おばけモップさんには本来の名がないとおっしゃるのです。
祖れでは今まで一体どういう経緯でこの意地汚い猛獣共が巣食う
大学に入り、あたかもここの主かのような風貌になられるまで
おられたのでしょうか?もしや本当は私とは違う生物なのかもしれません。
「それでは私は一体どうやってあなたの名を呼べばいいのでしょう」
「好きに呼んでくれたまえ」
「それより君にはどうやら資質があるらしい」
「私が属するそれはもうどうしようもないぐらいこの有意義なはずの大学生活を無味無臭の如く
 死んだアロワナの如く謳歌しているサークルがあるのだが、見に来るといい」
 そう言い吸殻をきちんと携帯灰皿にねじ込んだおばけモップさんは
頭の上にあるモップをガシガシと掻き揚げどこかに消えようとしました。
 あぁ、私めを一人にしないでくださいまし。
盛りに盛った猛獣どもの巣に迷える子羊であるこの私を一人にしないでくださいまし。
「分かりました」
「それでは見学させて貰います」
「そうか」
 そう言い二本目のマルボロに火をつけたおばけモップさんは
滴り落ちる汗に脇目も逸らさずまっすぐと未知の領域にずかずかと入り込んでいきます。
その素振りはまるで我が家に帰ってきたぞと言わんばかりの男らしさでした。
 そう!そのお姿こそが本来日本男児があるべき姿であるのです!
男は男らしく、女は慎ましくしかし逞しく支えてあげるべきなのです。
 男らしさのフェロモンを振りまきながら、名もなきおばけモップさんは
右に曲がり校舎に入り込み左に曲がり上に上がり...この複雑難解な道を
一つも間違えることなく突き進んでいきました。
 この校舎には一体どれだけのロマンが詰まっているのでしょうか。
廊下には人が一人入れるぐらいのテントが張ってあります。
 中から顔を出すのはかつて私の高校に住んでいた山本くんではありませんか。
あぁ良かった……新たな住処を見つけることに成功したのですね。
どうやら彼も同学年である私の存在に気付いたようです。
「高坂さん」
「お久しぶりです」
「君も古寺先輩に誘われたのかい」
「はて、古寺先輩とは誰のことでしょうか」
「とぼけるなよ」
「君の前を歩く甚平姿のド畜生野郎のことだよ」
 何と!おばけモップさんは先輩でありましたか!
しかもちゃんと神様から頂いた立派な名前をお持ちであったようで。
しかしここで疑問が出るのです。何故名などないとおっしゃったのでしょうか?
私の頭の中のクエッチョンマークに山本くんは気付くはずもありません。
「奴はとんだ詐欺野郎さ」
「僕にテントを張る権利をやる代わりにサークルでその名と籍だけ入れといてくれと言うからさ
 仕方なく契約したんだよ。賃貸契約とでも言えばいいのかな」
「でも契約の内容に偽りがあったんだ」
「そのような方には見えませんが」
「それは君、君が高坂さんだからさ」
 高坂であると真実が見えないとでも申すのでしょうか。
いくら級友であったとしても、私を狙う凸の群れよりは
立派な日本男児であるおばけモップさん改め古寺先輩を
信用することができないと言うのは侮辱罪に値するというものです。
 しかし、騙されたという山本くんの言い分も聞かぬことには公平に判断する事も
これまた彼を侮辱することになります。
「して、古寺先輩は一体どのような嘘偽りをしたというのですか」
「クワガタムシを捕まえろっていうんだよ」
 クワガタムシを捕まえろだなんて古寺先輩は童心を忘れずにおられるようで。
「おい山本」
「はいはい余計な事なんて何一つ言ってませんよ」
「お前にはしばらくこの白い液体をお預けする事をここに宣言しておく」
 甚平から翡翠色の小瓶を取り出した古寺先輩は冷たい目つきで山本くんを見下して言いました。
「そ、そんな!そんなの人間がする事じゃないぞ!鬼!悪魔!鬼畜の極みだ!」
「もう俺は駄目だ……生きていけない」
「ふん、行くぞ絵梨子くん」
 そう言い先輩はスタンド灰皿にタバコを捨てました。
「はい。また会いましょう山本くん」
「…………」
 返事がありません。屍のように彼はうつ伏せになっています。
あの白い液体が入った翡翠色した小瓶は一体何だと言うのでしょうか?
それに山本くんには高校卒業前という大きなイベントの時に彼女がいたはずです。
しかし今はいない。それもこれも全てこの大学に入学したのが運の尽きだったという事でしょうか。
 謎が深まる中私は一心不乱に早足の古寺先輩を追いかけます。
山本くんのテントが見えなくなる頃には人気もなくなり
廊下には先輩のカタカタと鳴らす下駄の音と私のぺったんこな靴が床と擦れる音だけが響きわたります。
「ここだ」
 いつの間にか舞台は地下通路に辿り着き先輩は扉を開けました。
薄暗い廊下には黒光りする生物が蠢いている以外に私しかいません。
意を決して私は冷たいプレハブ小屋についているような安っぽい扉を開け放ちました。
「古寺先輩、ここは一体何のサークルですか」
「私は古寺などというありきたりな名前ではない」
「ここは地上にいた本能の赴くがままに息を切らした輩を排除するために存在する
 秘密結社だ。その名も”永久幸福凍結機関”だ」
 埃が舞うこの狭い部屋はどうやら先輩が住む家のように見えます。
ヤニで黄色くなったポットに先程の翡翠色の小瓶、
私の可愛い子豚の貯金箱まで揃っています。
「げへ……げっへっへへへ」
 これまた驚きです。
あのびーえるとやらが聖書であると私に熱く説いてくれた華原さんが
バイブルであったはずのびーえるではなく先輩の家の中で哲学書を読んでいるではありませんか。
彼女は熱心なびーえる教であったはずです。
 しかし私のくりんとした瞳に間違いがなければあの華原さんは今自らの宗教を破り捨て
自らの道を歩もうと必死に勉学に励んでいるのです。
 彼女の大きな口からはいつも歴史の人物の名前が飛び出していました。
私にびーえる教の素晴らしさを説いてくれた立派な聖職者である彼女の口は
今や何のためにあるのか分からないまでに汁という汁が床一面に広がるまで開いています。
「華原さん、お久しぶりです」
「げっへへへ」
「げへ?げへへへへへ」
「すみませんが私にも理解できる言葉でお願いいたします」
「無駄だ、華原くんも既にこのサークルに入ってしまった」
「それでは先輩、永久幸福凍結機関とやらはとんでもないサークルではないのでしょうか」
「そうとも呼べるかもしれん」
「だがこうとも呼べるのではないか?」
「自己啓発の助長に繋がるとんでもなく素晴らしいサークルであると」
 むむむ……阿呆な私には哲学とやらは到底理解するに苦しみます。
古寺先輩はもしかしてノーベル賞をその手に収めることができる新星の学者であるのかもしれません。
「それはそうと古寺先輩」
「私は古寺ではないと言っているだろう」
「それではなんと呼べばいいのでしょうか」
「そうだな、名もなき私を呼ぶには君がこのサークルに入るしかない」
「私は君の資質を見抜いてしまった」
「つまりこれから君は私の元で人々の幸せを奪い己が幸せになる術を教わるしかあるまい」
 そんな……
私のような阿呆に幸せを奪われてしまうとなると
春という悪魔的な季節に身を任せ盛りに盛った猛獣であろうと
ほんの少し不憫に感じてしまいます。
 しかし先輩の本当の名を知るためには私はこの永久幸福凍結機関……
略してE.Tに入るしか道はありませぬ。
「分かりました」
「私もE.Tに入ります」
「ですので先輩の本当の名を教えていただけるとありがたいのですが」
「我々は宇宙人ではないぞ」
 バン。安っぽい扉が怒鳴り散らすように無骨に開かれます。
「ちょっと待った!」
「はて?君は一体誰かな」
 勢い良く先輩の部屋を開け放した先にはあのお調子者だった原田くんが立っているではありませんか。
「高坂さん!君はこんなモテないダサいクサい埃の匂いがするサークルなんて似合わないぞ」
「そいつは最低な人間だ!俺と彼女が大学に来た時からずっと後ろをつけてきたが
 あぁ今思い出してもおぞましい!!あぁ憎らしい!!」
「一体何があったというのですか」
 原田くんは親の仇と言わんばかりに右手に携えるアルトリコーダーを握り締めています。
彼はきっとこの大学生活を成功させるために大事な初日を彼女とともに乗り越えようと
していたと思われますがしかしそれは古寺先輩の目論見によって粉砕したようです。
 あぁ悲しい!私も原田くんの悲しみを半分受け取り彼の痛みを和らげてあげたい……
「何...私とて鬼ではない」
「ただ君の隣にいた霊長類の髪にずっと追い求めていたクワガタムシがいた」
「それだけではないか」
 名もなきおばけモップ先輩は再三翡翠色の小瓶を取り出し彼にちらちらと見せ付けます。
「やめろ!そ、それを俺に近づけるな!!」
「おや?どうやらこれの魔力の前には君も己が欲を抑えきれないようだ」
 先輩は三本目のマルボロに火をつけます。
あの白い液体は一体何なのでしょうか。
 廊下に住み着く山本くんはそれを愛して止まない廃人と化し
何故かこの迷宮の果てにある先輩の部室にやってきたお調子者の原田くんは
それを恐れ畏怖の念を別々の人生を歩む事になった彼女と錯覚し強く抱きしめているのです。
「とにかくだ!高坂さん!君は俺とともにテニスサークルに入るべきなんだ!」
「そんなダサい甚平を着て煙草を吹かしろくに髪も切れないおばけモップと一緒にいたって
 人生の九十九パーセントを損するってもんだぜ」
「九十九ではない。百パーセントだ」
 おばけモップ先輩は揺るぎない信念の手本を私に見せてくれました。
先輩は薄い唇をドーナツの穴のようにすぼめ、原田くんのおぞましい顔に
煙のドーナツをプレゼントしだします……なんて慈悲深い方なのでしょうか!
「やっやめろ!俺は煙草なんて吸わないんだ!この害獣め!」
「人間という生き物は地球上の生き物全てにとって等しく害獣なのだ」
「何も私だけが害獣ではあるまい」
「屁理屈ばっかこねくり回しやがって」
「行こう高坂さん」
「君はこんな所にいていい人間ではない!」
「あっ」
 彼は私の可愛らしくて細長い腕を掴み目一杯に引っ張ります。
一日中はわいあんなびーちでサンオイルを全身に浴び
こんがりと焼いてきた肌に黒のタンクトップ。
針鼠のように尖ったその金髪はふいに私と先輩の記憶を呼び覚まします。
「原田くん」
「何だ」
「あなたは先程私と同じクラスだったマドンナこと佐々木さんと蒸し暑いキッスをしていたと思われますが」
 先輩も溢れんばかりの髪をしきりにくるくると指で巻きながら同調するのです。
「奇遇だな」
「今しがた私もそれを思い出したところだ」
 よく見れば古寺先輩はいつの間にやら四本目のマルボロを吸っているではありませんか。
いくら何でも一時間もしない内にそれだけの煙を摂取しなければならないとは
いくら何でもお体に障るというものです。不健康は撲滅せねば。
「クサイ!!なんだこの女!」
「唾液が臭過ぎる!お婆ちゃんの匂いがするぞ!」
「ぐへへ……うみゃい!」
 ぺろぺろぺろ。
執拗に針鼠の耳を責めています。彼女の見つけ出した人生の答えとは
原田くんの耳をたっぷりと味わうことだったんですね。
「華原くんに感謝するんだな」
「行こう絵梨子くん」
「どこに行くと言うのですか」
「君にこのサークル活動の手本を見せようと思う」
 あぁ、彼は律儀に吸い終わったマルボロを丁寧に
灰皿にねじ込みジュラルミンケースを肩に掛け
原田くんの代わりに私の手を掴みます。
 これでやっと阿呆でハムスターな私も輝かしい大学生活への第一歩を踏み出せるのですね。
おばけモップ先輩といて人生の九十九いや百パーセントを損するだなんて考えられません。
 だってこんなに胸が躍ること、人生でそうそうあるものではないのですから。















2014-12-26 23:34:47公開 / 作者:ニート
■この作品の著作権はニートさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
森見登美彦に影響を受けた作風ですので色々とアウトかもしれませんが
どうぞよろしくお願いします
利用規約は読んだつもりですがごめんなさい
ボコボコにされる覚悟で書きました
既に友達にボコボコにされましたが頑張ります
ネット怖い
この作品に対する感想 - 昇順
こんばんは。作品読ませていただきました。
いや正直、森見登美彦ファンの僕としても、ここまで森見調直撃の作品をここで読んだのは初めてで、驚きました。あとがきで、ちゃんとそうカミングアウトされていたので何だかほっとしました。やっぱり突っ込まざるを得ないですしね。森見調はどうもやってみたくなるので、青春ものをしばしば書いている僕は影響を受けないように結構気を使っています。
さて、森見的「乙女」としてはなかなか上手く書けているんじゃないかと思いましたが、パスティーシュならともかく、さすがに作品単体としてはこれでいいですねとは言いにくいです。ただ僕もそうでしたが、好きな作家の真似から入っていずれはオリジナルなものが出てくることもありますから、まずは色々もがきながら書いてみることをおすすめします。頑張ってください。
2014-12-27 19:21:18【☆☆☆☆☆】天野橋立
コメントありがとうございます。
小説なんて初めて書いたからこれが良くないってのもあまり分かっておりません...
森見的なモダンテイストも真似できてないし話もよく分からないとこもあると思います。
がんばります。がんばるんば。
2014-12-28 21:26:37【☆☆☆☆☆】ニート
 作品を読ませていただきました。
 驚きました。ここまでしっかりと森見登美彦の作風を模倣されているとは。彼の文章は非常に特徴的で魅力的ですよね。作品を初めて読む人間は、まず独特の長い言い回しに面食らって、そのあと病みつきになる。小説を書く上での強力な武器です。文章だけで面白いというのがすごい。すごいという言葉を使いたくないけれども、すごいとしか言えない(←こいつ物書き失格だわ)。
 これをお友達に見せた時の反応が知りたいです。ここまで文体を忠実に似せられていたら(しかも処女作で)、批判より先に感嘆が出てくると思うのですが。女の子の一つ一つの言動なんかもまさに森見でした。この度を越した世間知らずな純粋さ――綺麗にトレースされている。初めてでこれというのは本当に素晴らしいと思います。感服しました。
 一方で、これが前編と言うのに不安を感じました。というのも、長編の呼吸で書かれているのですよ、話の流れの速さや、人物の会話のやりとりが。文庫本の最初の方のページみたく、ですね。こいつを後編(おそらく同じ三十枚)で一気に収束させるとなると、おそらくですが尻すぼみになってしまう気がします。本当に彼を真似ただけの作品になってしまう気が……。
 また、最後の「クサイ!〜原田くんの耳を云々辺りの文章が、ちょっと状況が分かりづらかったです。誰と誰がどのように戯れているのか、補完されることをお勧めします。
 さて、色々書きましたが、後編を楽しみにしています。タイトルから当て推量しますと……ビー玉を口に含んで、檸檬を爆弾に見立て、リア充爆発しろとどこかの店先にでも置き逃げするのかな? いや、どうなるか全然分かりません(笑)。
 次回更新お待ちしています。ピンク色伯爵でした。
 模倣が良くないとは思いません。ただ、模倣先はしっかりとした自分の世界を持っていて、その人独自の人生を歩んできて、それをもとに文章を書いているわけですから、重みや空気感といった非論理的な要素が文章に乗ってきます。コピーした方は世界観など持っていませんから、表現できる文章も限定的なものになり、その結果、多くの場合、表現されたものが薄っぺらになってしまうのです。
 要は表現するための情報量に違いが出るのですよ、持論ですけどね。あなた独自の考え方や世界観を補う必要は出てきますが、それさえクリアできたら、このまま突き抜けても大丈夫じゃないかと思います。
2014-12-29 16:50:46【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
コメントありがとうございます。
何だか大変褒めていただき嬉しいです。
こういった路線で行くかどうかもまだまだ模索していくとこでしたが
頑張って書き上げようと思いました。
本当にありがとうございます。後編は少し厚めになると思います。
2014-12-30 22:06:11【☆☆☆☆☆】ニート
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。