『非科学の礎に』作者:雇われ世界観 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約2.48枚
 Y氏は、幸せの絶頂にいた。町に漂う煙草の灰は妖精の如く煌めき、電車の騒音が往年の名曲のように聞こえる世界にいた。それもそのはず。ついに彼は、世紀の発明を、念願の夢を、全人類の希望をその手に収めたのだから。
「ついに完成したよK君。これが、私の、文字通り、人生をかけた、発明品だ。」
 その年月を噛みしめるようにそう言うとY氏は旧来の友人であるK氏の前で、つい昨日完成したばかりの発明品を披露した。
「遂に……か。これが君の人生を懸けた、死神可視装置。なんだね」
「あぁ。紆余曲折を経て、科学的に死神の存在を認知したのはいいが、それを可視化するまでに、私の人生が終わってしまう所だったよ。」
「まぁなんにせよ、間に合ったんだからいいじゃないか。ただ、僕は生憎だが、自分の死期には興味がないんだ。」
K氏はそう言うと肩を窄めて見せた。
「今日は、古くからの友人の君の願いが叶った、記念日ということで、駆けつけてみただけさ。君が僕を実験台に選んでくれたのはいいが、自分の死期は、神のみぞ知るって事にさせておくれよ。」
「なんだ、ばれていたか。」
「古くからの付き合いじゃないか。まぁ、なんだ、それはめでたい事としてさ。」
そういうとK氏は持っていた紙袋の中からワインを取り出し、いたずらに微笑んだ。
「いいじゃなかK。わざわざすまんな。」
その夜、二人は学生の頃に戻ったかのように、ワイングラスを片手に語り明かした。

「しかしよくやったな、Y。僕は君がここまでの発明をする男だとは思わなかったよ。」
「K。お前はいつもそうやって、非科学的に物事を決めつける……。」
「非科学にも夢は存在するものだよ。決して無益な妄想ではない。こんな話もある。どうも明後日、ここ東京を大地震が襲うというんだ。」
「ほう、その情報源はどこだね。」
「世界的に知名度のある予言者だ。かのW杯の結果、有名歌手の、死期まで……。」
「またそんなどうしようもない。」
そんな話をしながら彼らは朝まで飲み明かした。
 
翌日、装置を積み込んだ車で、Y氏は繁華街に向かった。
車に積んだ、装置のスイッチをオンにしPCでの微調節を終えたY氏は、まさに天にも昇る心持で遂に、死神可視装置を起動させた。




「まずい。」



その瞬間、繁華街の人口は倍になった。
2014-11-30 15:21:44公開 / 作者:雇われ世界観
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この作品に対する感想 - 昇順
 こんにちは、御作拝読いたしました。
 ショートショートとしても短い作品ですね。内容は解りやすくて読むのに支障はないのですが、一応この掲示板では、?「」の語尾に句点を付けない?文頭の字下げをする、以上の二点が共通したルールとなっているようですので、徹底なさるといいと思います。?の方はおそらく作風に合わせて古風な小説の演出のためなのだろうと推測はできますが。
 それにしても、最初に読んだ時は最後の一行の意味がわかりませんでした。短い作品だからこそ尚のこと読み手に細心の注意を求めますね。死神が可視化されたことによって人口が倍になったということだったのですね、死神が擬人化されている為に少しわかりにくかったです。わかってからはなるほど、と頷くしかない、という感じでした。
 今後の作品に期待致します。それでは。
2014-12-02 11:31:00【☆☆☆☆☆】夏海
夏海さん。
ご指摘ありがとうございます。
いつかまた投稿する際は直しますね。

すぐにわかる文章はあまり好きじゃないので、かなり頻繁に描写を省きます。
今回は、タイトルとの組み合わせで、東京を大地震が襲う、という最近よくある話題を中心にしてみました。
非科学ほど恐れられる夢はありませんね。
もしかしたら本当に繁華街は死神だらけかもしれません…。
2014-12-02 12:15:17【☆☆☆☆☆】雇われ世界観
計:0点
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