『明治妖魔討伐隊』作者:羽田野邦彦 / Ej - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
天下分け目の戊辰戦争が終結してから十年後の明治十年、徳川魔方陣が妖魔の手によって破壊された。妖魔が次々に東京府民を襲う事態に、大久保利通は英国の妖術組織『闇の翼(ウイングオブダーク)』(WD)で修行していた元徳川隠密剣士であり、有馬妖刀術伝承者・有馬総介に帰国命令を下した。 そして WDの仲間であるロバートと共に帰国した総介を待っていたのは、闇乃道化師が和泉家を襲撃するという犯行予告だった。仕事を引き受けた総介たちは、徳川魔方陣の中心部である紅葉山に向かった。そこで出会ったのは、女陰陽師・桜宮沙那だった。彼女は妖力を使って、魔方陣の御神体である妙見菩薩像を治癒していた。「政府は、将来的には徳川魔方陣を破り、明治魔方陣を創る」という沙那の話に、総介は矛盾を感じた。
全角7559文字
容量15118 bytes
原稿用紙約18.9枚
プロローグ

晩春の夜空に輝く美しい満月が白銀の光を放っていた。畦道を照らすその光は新時代を生きる希望となるのか、それとも黄泉の国に誘うのか、これら二つの想いが、ひとりの若者の脳内を交差する。
明治政府から『逆賊』という汚名を着せられた三人の男たちは、見窄(みずぼ)らしい姿に身をやつし、岩がゴツゴツと張り出す険しい峠道を、ひたすら走り続けた。
 線が細く、顔立ちの整った若者が、右隣りで走る息の荒い男に声を掛けた。
 「慶喜様、少し休まれますか?」
「何を言うか、総介。此処で休んだら、戦傷者に、顔向け出来ぬ。彼らの辛さに比べれば、こんなの、屁でもない」
慶喜という男は、息切れするも、毅然と答える。
 この男の名は徳川慶喜。今は亡き徳川幕府の第十五代将軍だった者だ。在職期間が僅か一年というなかで、数多の苦難が彼を襲った。
 慶喜が、征夷大将軍に就任した慶応二年(一八六六年)は、アメリカと日米和親条約を締結してから、十二年目を迎えた頃だった。王政復古を果たして、国内統一を目指す?尊皇派?と、欧米列強からの圧力に屈しない、富国強兵の思想を持つ?攘夷派?の運動が盛んになっていた。特に、長州藩とは二度戦い、いずれも敗北するという屈辱を味わうが、公武合体により幕藩体制をより強化した幕府が、第三次長州征伐の準備をしていた最中、日本の根底を揺るがす出来事が、慶喜の耳に届いた。
 第十四代将軍・徳川家茂(いえもち)逝去。
その一報は、幕府崩壊への一歩を踏み出すこととなる。
 これにより、武力行使で倒幕を果たそうと気勢を上げる薩長両藩に対して、土佐藩藩主の山内容堂は政権を朝廷に返上することを進言したのである。武力鎮圧を望む慶喜だが、内乱が勃発すれば沢山の尊い命が亡くなり、それに付け込んだ、欧米列強の襲来を恐れて、武力から恭順に思想を変え、大政奉還を受け入れたのである。
 しかし、絶対恭順を示す慶喜に皆が賛成したわけではなかった。特に、佐幕派の会津藩は、『打倒・薩長』と息巻いており、彼らの過激な思想が旧幕臣にも影響を与えた。結局、打倒・薩長の御輿として担がれた慶喜は蟠(わだかま)りが残ったまま、錦の御旗を掲げる薩長と、開戦に踏み切った。
慶応四年(一八六八年)一月三日に勃発した鳥羽・伏見の役は、凄惨たる結果だった。旧幕府軍の総大将だった慶喜は、味方の劣勢を知るや否や重臣と共に大坂城を逃げ出すと、後ろ髪を引かれる想いを抱きながら開陽丸で江戸に向かい、その後、上野寛永寺で二ヶ月間の謹慎生活を送ったあと、官軍の目を盗んで、水戸に向かうのである。
足場の悪い畦道を駆け上がる慶喜の護衛役を務めるのは、元徳川隠密剣士の有馬源三郎と、その息子の総介だ。彼らは、妖力を最大限に高めて刃に変える妖刀術を駆使する、有馬妖刀術の使い手である。大坂・薩摩藩邸の戦いにおいては、鬼神の如く官兵を蹴散らすさまに、周囲の者は恐れ慄(おのの)いたという。
 しかし、負け戦になった今は、いち早く慶喜を無事に水戸へ送り、戦線復帰しなくてはいけない。
 出発する一週間前、源三郎は水戸に向かう経路を提言した。それは、慶喜の影武者を乗せた御輿を担ぐ総勢二百人以上の元旗本たちが、水戸街道(上野寛永寺〜松戸〜土浦〜水戸)を行進する。出発の三日前あたりに、『三日後、慶喜が寛永寺を出発する』という噂を、東征軍の陣営付近に流す。その間に、慶喜本人は有馬親子と共に険しい朝日峠を越えて水戸に向かう、という作戦だ
(上野を出て三日目。今頃、慶喜様が不在で東征軍が慌てふためいているのが、目に浮かぶ)と、総介はほくそ笑んだ。
そろそろ頂上に辿り着く頃だ。ここで慶喜が意外な言葉を漏らした。
「私は四十を過ぎたら政(まつりごと)を退こうと思っている」
有馬親子は、元征夷大将軍とは思えない弱気な話を口にする慶喜に戸惑い、足を止めた。そして、ついさっきまで戦傷者を称えていた元将軍とは思えぬ身勝手な発言に、源三郎が叱咤した。
 「いきなり何を仰いますか……。あなた様は新時代の舵取りを行う方ですよ。そのような話を聞いて士気が高まると思いますか? 戦を長引かせないためとはいえ、大坂城の逃走劇は、もはや知らぬ者はおりせん。世間から『臆病者』と揶揄されているのですよ!」
「話を聞け、何も今すぐではない。亀之介(後の徳川家達(いえさと))が元服する迄の間は、舵を取ると言っておるのだ。これからの時代は、私のような古い考えに固執した者は生きてゆけない。それに比べて亀之助は、まだ五つだ。これから西洋の学問と文化を学び応用すれば、幕府再興も夢ではなく、容易(たやす)く欧米列強に支配されるような弱国にはならない。そのためにも、おまえらの力が必要なのだ。生きるんだ!」
「そこまでお考えだったとは……。先程の失言を心からお詫び申し上げます」と、有馬親子が片膝をついて恭しく頭を下げる。それを見た慶喜が、なんと苦笑したのである。
「もうよい、面を上げろ。私はもう将軍ではない。それよりも、幕府再興に向けて新政府が打ち出した御誓文に対抗できる新体制を作るんだ」
「御意」
 深々と頭を下げた有馬親子は、ゆっくりと立ち上がると視線を山頂に向けた。
(此処を越えれば、水戸は目と鼻の先だ)と、総介の拳に力が入る。そして、一歩二歩と動かした足は、徐々に速度を上げ、急勾配を一気に駆け上がる。頂上に着いた後の展開を恐れているのか、駆け上がるにつれ、心臓の鼓動が大きくなっているのが分かる。それと同時に、額から脂汗が滲み出た。
(何だ、この胸騒ぎは?)
総介は不吉な予感がした。
 そのモヤモヤした蟠りを抱いたまま、山頂に到着する。
 しかし、眼前に広がる雑木林からは気配を感じない。
「ふう」と、総介は安堵すると、額の脂汗を手ぬぐいで拭った。
 「なに脂汗をかいておる。まだまだ剣士として青いのう」と、未熟の剣士に呆れる父と元将軍も、遅れて此処に姿を現した。
 源三郎が二歩、三歩とゆっくり歩むと、突然、立ち止まる。そして、厳粛な面持ちで息子にこう告げる。    
「いや、さっき言ったことは訂正しよう。我が子ながら、なかなかの第六感じゃ」
「え?」
総介は、父の鋭い視線の先に目を向ける。その闇の向こうに見えたのは、赤く燃え盛る火の玉――いや、松明の明かりが、ぼんやりと地面を照らし、暫くすると足元から頭にかけてゆっくりと、その姿を現した。赤シャグマを被った官軍の司令官が、獲物をじっくりと追い詰めるような足取りで迫ってくる。
「ひとりだけ?」と、総介は思わず呟いた。
その光景に、三人は唖然とする。
「手負いの者を殺(や)るには大軍などいらぬか。我々もずいぶんと嘗(な)められたものだ」と、慶喜が苦笑する。
 彼がそう口にするのも当然だ。いくら緒戦を落とした敗軍の将とはいえ、隠密剣士を従える現在(いま)とは訳が違う。たったひとりで挑むなど、命知らずとしか考えられない。
四間(けん)(約七メートル)の間合いに接したところで、赤シャグマの男が歩みを止める。  「こんな夜更けに何をしている」と、赤シャグマの男が、いかがわしい三人を問い詰める。その問い掛けに、慶喜が物腰低く答えた。 「へ、へぇ、江戸が戦になると聞いて、故郷(くに)に帰ろうかと思いまして」
 「夜逃げか」
「へぇ、十年前に江戸で一旗揚げようと故郷を飛び出したのですが、商売が巧くいかないうえに、戦争も起きるというので、丁度良い機会だと思って江戸を捨てました」
(さすが、慶喜様)
慶喜の機転の良さに、総介は感服した。
ところが、赤シャグマの男は、慶喜の心を読んでいたかのような、不気味な男だった。
「そんなに戦が怖いか、慶喜殿」
 「?」
ギョッとして目を丸くする三人を前に、赤シャグマの男は、自慢げに語り始めた。
 「変装しても分かるんだよ、おまえたちが朝日峠を越えることは、すでに耳に入っている」
「どういうことだ。この作戦は一部の者しか知らないはず。まさか内通者がいたということか!」
「そ、そんなはずは」
慶喜は疑問を投げ掛ける。それに対して激しく狼狽する有馬親子を尻目に、赤シャグマの男は両腕を真横に伸ばして、ブツブツと何やら呪文を唱えだした。
「ボギラメンコンザ、ボギラメンコンザ」 摩訶不思議な呪文を唱える男の周囲に、青白い鬼火が二十個以上も現れた。その後、赤シャグマの男の頭上に集まった球体は、円を描くように周囲を回転して光輪を作ると、橙色に変色した。不気味な光輪は、術者の妖気を吸収して変色したのかは定かではないが、目の前の男が人間ではなく妖魔の類であることだけは理解出来た。そして、何かに導かれるかのように光輪が分裂を起こすと、その欠片が地面に吸収された。
「おまえたちの相手は、こいつらで十分だ。徳川一族よ、朽ち果てるがいい。いでよ、土偶武者!」
呪文を唱え終えた赤シャグマの男が号令を掛けた次の瞬間、大地が生き物のように大きく蠢(うごめ)きだした。すると、地面から人間の片手らしきものが、数多く出てきたではないか。片腕が出ると、次はもう一方の腕、そして頭部がゆっくりと出てきた。両腕が地上に出ると、まるで大根を引き抜くかのように、両腕に力を込めて強引に下半身を引き上げた。土偶武者とは、その名の通り、土で出来た鎧兜を身に着けた屍小鬼(ゾンビ)だ。戦国時代は兵の埋め合わせとして、ごく一部の大名に仕える術者が活用していた。
 (あの球体は、鳥羽・伏見の役で命を散らした者の魂なのだろうか?)
総介が思慮するなか、慶喜は非難するような口調で源三郎に問い質した。
「源三郎、妖魔は徳川魔方陣によって侵入出来ないはず。一体、どういうことだ?」  「……恐らく官軍側は、魔方陣の結界を砕く妖術士を味方に付けたと思われます」
「すると、あやつが妖術士か?」
源三郎の答えを聞いた慶喜の顔から、血の気が引いているのが分かる。
 臆病な将軍とは対照的に、有馬親子は魔刃丸(まじんまる)の柄頭(つかがしら)を握り締める。そして柄頭に妖気を込めると、鐔元(つばもと)から燃え盛る炎の刃が出来上がった。
「ひとり残さず斬り殺せ!」
妖術士の合図に、土偶武者たちは一斉に慶喜たち飛びかかる。
ひとりの武者が放つ一太刀を巧く受け流した総介は、斬撃をしのいだ勢いで振り上げた炎の剣を、右上方から右水平に手首を返して首をはねた。止(とど)まることを知らない武者たちの攻撃をテンポ良く受け流すと、もうひとりを一刀両断した。
敵の攻撃をかわしていた総介が、地面に伏せている首無し屍小鬼を一瞥した次の瞬間、彼にとっては信じがたい光景を目にしてしまった。なんと、首無し屍小鬼の体が橙色に発光したのである。すると、首の根元がドク、ドクと激しく蠢きだすと、ゆっくりと頭が再生した。
「こ、これは……」
絶句する総介に、源三郎の怒号が鳴った。 「総介、土偶武者は蜥蜴(とかげ)の尻尾のように傷口の再生が可能だ。狙うは心臓のみ。幼い頃の教えを忘れたか!」
「しまった」
父の檄に総介は目を覚ました。二人の武者を倒したつもりが、傷口が再生したことで人数も四人になってしまった。
焦る気持ちを切り替えようとする総介だが、間髪を容れず武者が自分の肩に刀を打ち込んできた。
「うっ……」
総介の肩から血が噴き出した。
「総介!」と、心配性の慶喜が負傷した自分を気遣ってくれる。世間から?弱腰将軍?と後ろ指を指されていた慶喜だが、幼い頃から培った武道によって武者たちを一蹴している。
(負けられない)
気を引き締めた総介は、一度「ふぅー」と深呼吸をして再び構え直すと、四方を囲む武者との間合いを保つ。そこで、痺れを切らした血の気の多いひとりの武者が、こっちに飛び込んできた。敵の動きを冷静に読んでいた総介は、隙だらけの左胸に炎の刃を突く。すると、心臓を突かれた武者は高熱も作用して全身がドロドロと溶ける。その勢いで、二人、三人と、まるで鬼を喰う羅刹(らせつ)が暴れるかのような見事な刀捌きで武者たちを圧倒する。
しかし、三人がいくら奮戦しても数が一向に減らない。これ見よがしに妖術士が大量に武者を召喚している。
「これでは埒が明かない」と、三人が息を切らす。
源三郎の鋭い剣閃が、徐々に影を潜める。齢六十一。歳には勝てないのだろうか、巨漢の武者が放つ攻撃を防ぐのに精一杯だ。そしてとうとう、敵が放った渾身の一撃が左脇腹に入った。
「ぐふっ」と、源三郎が大喀血をする。
「父上!」
総介は悲鳴を上げる。そして、周囲を固める武者たちを蹴散らしたあと、父の応援に向かった。ところが、「来るな!」と、父が制止したのである。
源三郎の左手が、脇腹から溢れ出る血を止めようと傷口を押さえる。しかし、彼は闘志を失っていなかった。
「来るでない……、私はまだやれる」
地面につけていた片膝を離して立ち上がるその姿は、徳川家再興という強い意志が伝わってくる。そんな気持ちを嘲笑うように、背後から老剣士の背中を凶刃が襲った。
「うっ……」
源三郎の瞳孔が開いた。
「父上!」
「源三郎!」
総介たちが源三郎の元に駆けつけた。
「止めい!」と、武者たちを制した妖術士は不適な笑みを浮かべて、こう告げる。
「その爺(じじい)に残された命は、あと僅か。何か言い残すことがあれば、言うがよい」
 うつ伏せの源三郎を、そっと起こした総介は、父の背中を支えた。
「父上、もう無理をなさるな」
「な……何を言うか……、総介。私は、徳川一族の……誇りのため、そして、そなたたちは……、悪しき世の中にならぬよう……、日本を守る役割がある。わ……若いそなたたちが、歩いて行く道を、作らないといけない」
「源三郎!」
「父上!」
老剣士の熱意が、若い二人の心を激しく揺さぶると共に、哀感が胸に湧き上がった。それは、いつしか涙となり、とめどなく溢れ出る。総介の頬を伝う涙は、源三郎の頬に落ちた。それを受けた源三郎は、総介を叱咤した。 「な……、何を泣いているか! そんなことで……、慶喜様を……無事に送れる……のか? ひ……ひとつだけ……、此処を脱出する……方法がある。儂(わし)が……、赤シャグマの……囮になる。その間に……、二人は……此処を……脱出する……んだ」 
「源三郎、おまえを置いて行けるか」
慶喜は両手でしっかりと、家臣の手を握る。 「よ……慶喜様、それがしは……幕府の再興を願って……、あの男を道連れにして……逝きます」
「源三郎、すまぬ。私が不甲斐ないばかりに、おまえを犠牲にすることになってしまって」と、慶喜は肩を震わせる。
 残された力を振り絞って、ゆっくりと立ち上がった源三郎は、自身が手にしている紫紺の柄を総介の前に出した。
 「総介……、この魔刃丸を……授ける。それは、……どういう意味か分かるな?」
紫紺の柄糸を十三菱で巻き、三つ巴の家紋が付いた魔刃丸の柄を受け取る行為に、有馬妖刀術第二十七代伝承者を継承する意味もある。魔刃丸に両手を添えた総介の掌を、並々ならぬ妖気が襲った。それは、千年以上の歴史を持つ一族の誇りと歴代伝承者の魂が妖気となって、青年剣士の体に入魂した瞬間だ。
この光景に痺れを切らした妖術士が三人を挑発する。
「話が付いたか? 獰猛(どうもう)な武者たちが腹を空かせている。土偶武者よ、殺(や)るがいい!」 制止していた武者たちの動きが、再び動きだした。そして三人を、じわりじわりと追い詰める。
 慶喜が総介に合図を送る。
「道をあけるぞ、総介」
「承知しました」
二人は涙を拭うと、妖術士の周りを囲う武者たちに突入した。
時間がない。
総介と慶喜は、過当に刀を振るのではなく的確に相手の心臓を突いた。二人、四人と武者が消滅していく。
満身創痍の源三郎は、二人が切り開いてくれた道を、蹌踉(よろ)めきながら前に進む。
青年剣士たちの勢いに圧倒される妖術士は、三度(みたび)、土偶武者を召喚しようとする。が、彼の策略を阻止しようと、ひとりの男が飛びかかった。
源三郎だ!
源三郎は、妖術士を羽交い締めにすると、「オオォォォ」と、気勢を上げた。すると、二人の体が紅赤色に発光した。
 捨て身の攻撃をする源三郎に、妖術士がもがきだした。
「やめろ、やめるんだ! これ以上に妖気を高めれば、おまえの命も無事ではない。こんなことをしても、官軍の勝利は揺るぎない!」
「二人とも、早く逃げるんだ」と、源三郎が絶叫する。
 岩頭に追い詰められた総介と慶喜は、ふと後ろを振り向く。岩稜を見おろすと、この荒々しい地形にも生息している高山植物に、命の息吹を実感した。
総介は全身が炎上している父に顔を向ける。
 「父上、おさらば」
 別れを告げた青年剣士は、慶喜を抱きかかえると、そのまま岩稜に飛び込んだ。
山肌に尻餅をついた反動で転がる。砂利で皮膚を擦り剥き、雑木林に突っ込んだ二人は、巨木に体を打ちつけた。
「ウゥ……」と、二人は軽い脳震盪(のうしんとう)を起こした。それでも、五臓六腑が掻き回された様な衝撃に襲われようが、老剣士の信念を忘れることはなかった。
満身創痍の二人が山頂に目を向けた刹那、大地を揺るがす爆風が二人を襲ってきた。  有馬妖刀術最終奥義・妖爆殺(ようばくさつ)
最大限に高めた妖力を一気に放出して術者本人に浴びせる自爆技だ。
 そうとは分かっていても、老剣士の安否が気になる掛かりな二人は、彼の無事を祈りつつ、崩れた山肌を一目散に駆け上がった。
荒廃した山頂に足を踏み入れると、ちょうど、幾つもの青白い玉が夜空に向かって昇っていくところだった。その中に一つだけ、紅い玉を見つけた。
「父上」
総介は、それが父の魂だということに気付いた。
源三郎は妖魔の魂を追いかけるように、天に召された。
「父上、立派な最期でございました」
「大儀だ」
二人は、夜空に向かって、老剣士の冥福を祈った。
2014-10-30 11:01:51公開 / 作者:羽田野邦彦
■この作品の著作権は羽田野邦彦さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品に対する感想 - 昇順
 はじめまして、羽田野邦彦様。上野文です。
 御作を読みました。
 明治維新という歴史と、伝奇的設定の組み合わせが興味深かったです。
 ただ、行頭字下げをはじめ、基本的なルールが守られていないので、読みにくかったです。

まずは利用規約と『小説の書き方(表記作法)の[必ず守って欲しい事の欄]』

 をご確認ください。
2014-11-01 19:40:36【☆☆☆☆☆】上野文
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。