『所謂、サンタクロースの生誕【前編】』作者:higeotoko / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 所謂、サンタクロースの誕生 


 「私はサンタクロースだ」
 そんな発言を聞いた時、僕はソレを信じることは出来なかった。だって日付はもうクリスマスを過ぎていたし、ソレに伴いサンタクロースがいると信じる純粋な時代は僕の中で二日前に過ぎ去っていたからだ。
 そんなことよりも、僕にとって目の前に広がっているズタ袋から見える死体のさっちゃんのほうがずっと問題だった。
 人の死体なんて初めて見た。大体なぜ人の体があんなにコンパクトな袋に収まっているのだ、やだ怖い。
 僕の頭のなかは自分の通う小学校の教室で配膳用のズタ袋に入った死体を目撃してしまった時の、そういう雛形な感想と妄想でいっぱいになっていた。だけれども、そういう健全な発想というのはこういう非常事態には当てはまらないらしい。
 どうやら僕の心はそういう意味で極めて強靭だったようだ。多少の雨風じゃびくともしない、そのセロハンテープで固められたバリバリの平均的男子小学生精神のお陰で、確かにこの時見通せたものがあった。

 つまり結局、この時の壊れかけた現実感がある種の幻想を許容してしまったのだ。その時、確かに彼女はみんなにとってのサンタクロースだった。

 所謂それは、サンタクロースの誕生だった。

□生誕二日前

 この日は残念なことに僕にとってサンタクロースがいなくなってしまった日だった。僕は今年こそはサンタクロースの姿を一目見てやろうと言う、実に子供らしい理由で僕は寝た振りをしていたのだ。
 つまりそういうことである。
 お母さんが枕元に緑色の包装紙に包まれた某を置こうとした瞬間に僕はベットの中心で「馬鹿な!」と叫んだ。
 僕は残念なことに人並みに察しが良かったのだ。むにゃむにゃ、と口に出しながら何してるの、なんて言う鈍感力も無ければ、その場でダウト!と凶弾する強靭な心も持ち合わせちゃいなかった。
 そんな僕が今出来ることと言えば、寝たふりをすること。翌朝全力のウキウキ顔を作ってプレゼントを喜んだ訳である。言わずもがな、ソレは両親にバレて、今朝の親の顔といえばたまりにたまったカードをダウト!されたさっちゃんのような顔をしていた。
 僕の小学生テンプレートな浅知恵は順当に事態を悪化させてゆく。学校から帰ればきっと陰鬱な父母によるカミングアウトがまっているのだろう。
 親は優しい嘘を付かれるのがいつだって苦手だ。僕はやさしい嘘が大好きだというのに。どうしてだろうか。そんな実に小学生らしいアンニュイな感傷に浸っているとふと隣の席のさっちゃんが目に入ってきた。
 いつもはマシンガンのようにすごい勢いで唾が飛んでくるというのに、今日はやけに静かだった。顔色も悪く、どこか具合がわるそうだ。
「どうしたの、さっちゃん?」
 僕の声に顔はこちらを向いたけれども、まったく返事をしてくれなかった。いよいよおかしい。だからこれはさっちゃんではなくて、さっちゃんの皮を被った宇宙怪獣なのだろう。
 さっちゃんの皮がぺりぺりとめくれ、風呂場の排水口にたまったヘドロのようなヌメヌメとともに内蔵をゼラチンで固めた生命体が現れた。

狂気

 そんなことを妄想しながらも、今日の僕だからこそ何が起こったのか気付いてしまった。
 だって、彼女の服装はいつも何処かからタイムスリップしてきたのか、と疑いたくなるほどのてろてろのシャツだったし、ズボンに至ってはどこかのアニメでみるように裏布を当てて穴が補修されて、犬のヨダレを乾かしたような独特の匂いをしていた。彼女の家はとてもお金がなかったのだ。
「サンタさん来なかったの?」
「うん。お父さんとお母さんにもサンタ見かけなかったか聞いてみたけど、見なかったって」
 そう言いながらさっちゃんは体を震わせた。目いっぱいに涙をため嗚咽を漏らした。
「去年までは、来てたのよ。でも今年は来なかったの」
 僕は一度一緒にサンタクロースをパソコン室で検索しようと提案しようとした。今更サンタがいなくなったさっちゃんの家庭に、優しくなくなってしまった嘘が必要なのか?けれど、僕は留まった。
「それは、なんというか残念だったね」
 どうしよう、どうしよう。といつものさっちゃんではなくなってしまったさっちゃん。僕には何が「どうしよう」なのかは分からないけれど、とりあえずそっとしておく事にする。
 同時に僕はサンタクロースはいないんだ、という話を共有できる人が欲しくなった。つまり僕は小さな孤独に陥ったのだ。このクラスに一緒に「サンタクロースはいなかった」というお話を一緒に出来るやつはどこかにいないものか。
 僕は探すことにする。
 結局その選択こそが本物のサンタクロースの産声であって、数日後にその生誕祭を迎えるわけだけれど、結局のところその選択が僕の間違えだったのか、正解だったのかはわからない。
 少なくとも、僕はこの時点でサンタクロースを信じることは出来なかったことは確かだし、家に帰ることが憂鬱だっただけの、ただの教育実習生である。


 【一日前に続く】
 
 
2014-01-21 21:46:20公開 / 作者:higeotoko
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■作者からのメッセージ
前編、後編で終わらします。
この作品に対する感想 - 昇順
[簡易感想]軽く読めてよかったです。
2014-05-30 00:13:41【☆☆☆☆☆】Alexandra
[簡易感想]描写が多すぎる気がします。
2014-05-30 08:43:25【☆☆☆☆☆】Abdulkarim
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