『西日』作者:本宮晃樹 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
 中国との戦争が始まった、ありえたであろうべつの現代。自衛隊は軍隊に昇格し、一定年齢以上の者は徴兵され、中国戦線へ送られる。 徴兵制を呪ういっぽうで、自身に湧き上がるナショナリズムに板挟みにされた若者の葛藤を、登山というかたちによって描いた作品。
全角21385文字
容量42770 bytes
原稿用紙約53.46枚
 登山道の入り口では、遭難者対策と銘打って、登山届を半強制的に提出させているようだった。いまのご時世、なにもかもが軍の影響下にあるように思える。もしこれが軍の策略の一部だとしたら、あまり利口なやりかたとはいえない。本当に、こんな田舎にまで中国のスパイが潜んでいると思っているのだろうか?
 青年の鬱屈した心情とは裏腹に、天候は申しぶんなかった。筋状の雲が掃いたようにかかっているほかには、雲らしい雲も見当たらない。全天が胸のすくようなスカイブルー一色で、絶好の登山日和である。
 青年は観光協会の職員に促されるまま、登山届に住所、氏名その他の個人情報を記入したが、そのすべてがでたらめだった。非番の日くらい、軍属(むろん、現時点では暫定であるが)であることを隠しておきたかったからだ。
「どのルートを通っていきますか?」
 観光協会の職員は、満面の笑みをたたえている。
「ええと」
 青年は言いよどんだ。この山系は初めてだったうえに、予備知識もなかった。
「よかったら、これ、どうぞ」
 職員は一枚の紙切れを、如才なく青年に勧めた。それはこの山系周辺のおおまかな登山地図で、四色カラー印刷、デザインは少し古くさいものの、無料で手に入るものとしては上等だった。青年は、ありがたく受け取った。
「頂上まで行きますか?」
「ええ、たぶん」
 職員は、左手首に巻いた腕時計をおおげさに睨み、いまいましげにうなった。
「いまからだと、リミットぎりぎりってところですね。ご存じかとは思いますが、山の日暮れは早いですよ。お気をつけて」
 青年はあいまいにうなずくと、ザックを背負いなおした。かなりの重量があるため、バンドが肩にきつく食いこむ。軍事演習では、もっと重いザックを背負ったまま、丸三日もの縦走を経験させられたこともあるが、重いものは重い。
 青年は歩きだした。地図を片手に、ルートを吟味する。
 初夏の陽射しは強く、迷彩色の長そで長ズボンに分厚い登山靴といういでたちでは、ちょっとおおげさすぎたかもしれないと、青年は考えている。だが、軍事演習で叩きこまれた慎重さというか、臆病さというか、とにかくそれにしたがった場合、たとえきっちり整備された登山道といえども、軽装すぎるように感じてしまうのだ。
 荷物は水六リットル、食糧三日分、野営用の寝袋、レインコート、ザイル、虫よけスプレー、応急キット、その他いろいろで、全備重量は一七・一五キロもある。入隊前だったら、背負っただけで後ろむきに倒れていただろうが、例の地獄と見紛うばかりの訓練のおかげ(少なくとも、文科系を自負している青年には、そのように感じられた)で、そのような醜態をさらさずに済んだ。
「気をつけ!」
 歩きだしていた青年は、どこからか聞こえてきた号令に、反射的にしたがった。踵をかちっと合わせ、両足を六十度に開き、両手はズボンの縫いめに中指がくるようにきっちりと揃える。あごはほんのわずか、手前に引く。完璧な気をつけの姿勢だ。
 青年が、ここは練兵場でないことを思いだすまでに三秒ほどかかった。彼は、そうとわかると即座に姿勢を崩した。いまいましいことに、軍の教練が身体の隅々にまで染みついている。
声のしたほうに、彼は首をめぐらせてみた。いったい、どこのどいつが非番の気分を台なしにしたのか、腹立たしくもあり、それ以上に興味があったのだ。
 左斜め後ろの駐車場に、軍の輸送用車両(型から見て、たぶん旅行会社が所有していた旅客用バスを接収、改造したものだろう)が停まっており、そこから新兵らしき連中がぞろぞろと降りてくるところだった。新兵が第何期かは不明だが、集団登山訓練の実施日らしい。
 彼らは、分隊ごとに整列し、各分隊にはそれぞれひとりずつ、指揮官がついている。さっきの号令は、そのひとりが分隊を整列させるため、かけたやつにちがいない。続いて、天を裂くような〈右へならえ〉や〈整列休め〉が次々と聞こえてきた。
 青年は、つい少し前までの自分を彼らに重ねあわせ、遠い目をした。それから、何事もなかったかのように、一路、登山道を歩きだした。
 日曜日で、しかも快晴ということもあって、登山客は多そうだった。青年はうんざりしていた。あまり人のいないところにするべきだったかとも思ったが、公共交通機関できているため、いまから山の変更をすることは不可能だった。それに、かえって人が多いほうが、これからの身のふりかたを決めるのに、いい刺激になるかもしれない。
 なんにせよ、今日は非番だ。そして、場合によっては永遠に非番になるかもしれないのだ。それを決めるために、ここにきたともいえるのだが。現時点では、自分のことなのにもかかわらず、青年はまったく決められないでいた。
 もちろん、本当に自分がしたいことはわかっている。だが、それがすんなりできるなら、こんな山奥までくる必要はないし、もっと気分も晴れているだろう。とにかく、それを今日、決めるのだ。青年はため息をついた。人生は、もっとおもしろいものだと思っていたのに。
 地図によると、登山道は大きくわけてみっつ、あるらしい。表道、中道、裏道と名づけられ、表道と裏道は、それぞれ南北から大きく周りこむように頂上を目指す迂回路、中道は、直登で頂上を目指す最短ルートといったところだ。
 青年は裏道を登ることにした。この選択は、どちらかといえば消去法に近い。中道は直登なので、もっとも登山時間が短くなってしまう。今後のゆく末について、じっくり考えるために登るのだから、これでは本末転倒である。
 表道は決して悪くないものの、さっきもらった地図を見る限り、トンネルの建造によって旧道と化した国道と、途中で合流することになっている。むろん、そのルートのあいだは、自然の趣は失われる。したがって、これも却下。
 つまり、おのずから裏道が残るという寸法だった。この山系は初めてなので、むろん青年が裏道のようすを知るすべはない。ただただ、歩きやすい道であることを祈るばかりである。彼は以前、ろくに下調べもせずに登った山で、蜘蛛の巣は張っているわ、へびは出るわ、ヒルは出るわで完膚なきまでに叩きのめされたことがあったのだ。それの二の舞だけはごめんだった。
 少しいくと、車止めがあった。なかば朽ちかけた看板には、〈この先、林道が崩壊しているため、車両通行止め〉という文言が、ゴシック体で印刷されている。しかし、〈車両通行止め〉の部分は日焼けしてしまい、ほとんどかすれていた。もともとは赤色だったのだろう。
 青年は車止めを避けて、小さな橋を渡った。小川のせせらぎが聞こえてくる。そのまま歩いていくと、左手に川が流れているのを発見した。林道は、川に沿ってくねくねと蛇行しているらしい。川は上流だけあって、砂利が多く、流れはむしろ細く、その代わり速い。家族がバーベキューをしたり、大学生たちが川に入ってふざけるには手ごろな場所だ。
 案の定、そのどちらもがところ狭しと群雄割拠し、おのおのが休日を満喫している。バーベキューコンロからは、焼けた肉の匂いが立ち昇り、青年の鼻腔をくすぐった。朝方、バナナとパンを食べたばかりなのにもかかわらず、彼の腹は栄養欠乏を訴え始めている。
 青年は一度立ち止まり、家族連れやら大学生やらの有象無象を、考え深げに眺めた。彼が実際になにを考えているのかは彼自身にしかわからないが、瞳には薄れかけていた決意が蘇っている。だが、それはため息と同時に消え失せた。まだ、それを決めるときではなかった。
 青年はさらに歩を進めた。川に沿って、林道が大きくカーブした先に、〈裏道登山道〉という、意外に新しい看板があった。道は、いままでの整備された林道とはちがい、杉林を貫通するように造られた、いかにも登山道然としたしろものだった。
 幅は、人がようやくひとり通れる程度で、それが薄暗い杉林のなかをえんえんと蛇行しながら続いている。しかし、背の高い杉の木のあいだから、初夏の陽射しが差しこんでいて、決してじめじめしているわけではない。
 青年は、いくぶんか気分が晴れるのを感じた。以前、雨上がりのじめじめした里山に入ったおり、ヤマヒルに何度も食いつかれ、閉口した経験があったからだ。ここは、そのような心配はいらなさそうだった。
 登り始めると、土が少しだけ沈む。腐葉土なのだ。コンクリート舗装された先ほどまでの林道とちがい、俄然、登山らしくなってきた。
 観光協会の職員からもらった地図を見てみると、当分一本道らしい。青年は黙々と登り続けた。疲れないコツは、とにかく歩幅を小さくして、遅すぎると自分で思うくらいの速度で歩くことだ。
 幸い、ヒルはいないようだった。じっとりと汗をかきながら、青年は一定のペースでどんどん登っていく。杉林は途切れることなく続き、眺望は期待できそうになかったが、たまには薄暗いのもいい。
 三十分くらい歩いていると、前方から年配の夫婦らしきふたり組みが、対向するかたちで降りてきた。基本的には登りが優先なのだが、青年はおとなしく道を譲った。道幅が極端に狭いので、彼は山側にスペースを見つけて立ち止まると、「こんにちは」と声をかけた。
 年配の夫婦は「こんにちは、ありがとう」と言って、すれちがったが、三歩通りすぎたあたりで止まり、夫のほうが振り向いた。
「軍隊の人かね?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えますね」
 青年は迷彩服を選んだことを、少し後悔した。
「つまり、どういうことだい?」
「今日は非番で、おまけにまだ仮入隊中なんです」
「ああ、そうか、いや、ご苦労さん」
 夫のほうは、首にかけたタオルで汗をぬぐった。
「あんたたち若い人には、本当に頭が下がるよ」
「国の危機ですからね」
 青年は、練兵場から拳銃かなにかを無断で拝借してくればよかったと思った。そうすれば、こういう無責任な発言をする輩を、いまこの場で、即座に撃ち殺すことができたからだ。
「そうさな、まったく、平和だったころが懐かしいよ」
 年配の夫は、感慨深げに何度もうなずいている。妻のほうは、夫から二メートルほど離れたところから、青年を汚物でも見るかのような目つきで睨んでいる。彼はだんだん居心地が悪くなってきた。
「そうでしょうとも」
 青年はため息をついた。「平和がいちばんですね」
「ああ、まったくだ。頼むよ、あんちゃん」
 青年は返事をしないまま、再び登り始めた。他力本願の平和主義者ほど、青年の神経を逆なでするものはなかったし、妻のほうが、最後の最後まで青年を敵視していたので、いたたまれなくなったのだ。
 誰だって、好きこのんで軍隊になど入っていない。げんに青年は、大学を卒業したら、化学系の仕事に就くつもりだった。漠然とそう考え始めた大学二年のころ、アジア情勢はすでに怪しくなっていた。とはいえ、誰が徴兵されるなどと考えただろうか?
 青年は、民間か、国営の研究機関かはわからないが、とにかく化学の分野で、地道に、しかし確実に、新エネルギー開発の第一歩を踏みだしている自分を想像してみた。それはたまらなく魅力的であると同時に、どこか無責任のようにも思える。
 さっきの年配の男(おそらく、徴兵制度の上限年齢を上回っていたために、入隊せずに済んだと思われる)と、それでは同じになってしまうではないか。ちがう、と青年は自分に言い聞かせた。俺はやりたいことをやるだけじゃない、それによって、うまくいきさえすれば、世界の資源問題に貢献できるかもしれないのだ、だから、たとえ今日、決心して逃げだしたとしても、それは無責任ではなくて、べつのかたちで国に貢献するだけなのだ――。
 青年は、何度めかのため息をついた。迷彩服に、いつの間にか芋虫がくっついていたので、手ごろな木の枝で払う。タフになったもので、ヒル以外の虫には、もはやなにも感じなくなっていた。

     *     *     *

 黙々と歩くこと一時間、疲れを感じる前に、青年は休息をとることにした。それまでに、靴が濡れるのを覚悟で渡河すること二回、腐った丸太を針金でくくっただけの、橋とも呼べないしろものを渡ったこと三回、登山道が豪雨で崩壊し、滑落の危険を冒したこと一回と、整備された登山道のわりにはスリリングな体験をした青年だったが、軍事演習で登らされた秘境に近い山々に比べれば、電車通勤みたいなものである。彼は、どうやら登るのを楽しめているらしい。
 心地よいほどの、わずかな疲労感。青年は杉林の開けた空間で、手ごろな石を尻に敷いて、どっかとあぐらをかいた。十七・一五キロもあるザックから、水と軽食を取りだし、ゆっくりと咀嚼する。
 耳を澄ますと、うぐいすのさえずり、虫の羽音、微風に草花が揺れる音が聞こえてくる。青年はバナナをほおばりながら、目を閉じて、自然と一体になったような気になるが、すぐにばからしくなってやめる。
 自然と一体だと? そんなことしなくても、俺たち人間は、もともと自然の一部に決まっている。そうじゃないというのなら、それはそいつの自尊心が高すぎるんだろうさ。俺たちは動物だ。ただ、ほかの動物たちとちがうところがあるとすれば、それは同族同士、本気で殺しあうことくらいだろう。そういう意味では、俺たちは自然の一部でないともいえるが。まあ、どっちだっていい。いまは最高の気分だ、少なくともいまは。
 青年は休憩を終えると、大きく伸びをして、身体をほぐし、ヒルがいつの間にか忍び寄っていないかチェックし(例の雨上がりの登山で、大量のヒルに食いつかれて以来、病的にヒルを嫌っているのだ)、ザックを背負いなおした。十七・一五キロの、ずっしりとした重みが、残りの道中がまだ三分の二も残っているという事実を陰鬱に感じさせる。だが、訓練ではないため、目標タイムはない。いくらかかろうとも、日暮れまでに帰ってくればいいのだ。
 そう考えると、青年は非常に晴れやかな気分になった。おまけに、五分ほど歩くと、だんだん木の背丈が小さくなってきた。この山系は、頂上付近がカルスト台地であり、その地質の影響で樹木が育ちにくいのだ。
 小一時間もすれば、もう三分の一くらいは進めるだろう。地図によれば、最後の三分の一は、一面笹の原っぱみたいな場所らしく、木といっても、せいぜい灌木程度のものが生えているだけで、見晴らしは抜群らしい。この薄暗い杉林とも、きっぱり絶交できるうえに、晴れ渡ったスカイブルーの空を拝める。彼は、子どもみたいに興奮している。きてよかったと、ここで初めて実感できたらしい。
 まだまだ、登りは続いた。腐葉土を踏みしめるときの柔らかい感触は、心地よいというより、ヒルの脅威(彼らは湿った場所が大好きなのだ)を想起させた。青年のがまんも限界に達しかけていたが、幸いにも、彼らはなりを潜めている。
 登り始めたのが午前十一時前とあって、しばしば、帰りの登山客とすれちがっていた。そのたびに、お人好しの青年は、原則登りが優先であるにもかかわらず、あくまで道を譲った。
「こんにちは」「ありがとう」「いい天気ですね」といった常套句が、そのたびにやりとりされ、青年の心は温かいもので満たされた。だが、ときおり無神経なやつに、「軍隊の人ですか」と問いかけられると、それまでの満たされていた温かみは消し飛び、登り始める前の、殺伐とした気分に逆戻りしていた。
 汗をびっしょりかきながら、えっちらおっちら登っていると、いままでずっと付き合ってきた川が、落差三メートルくらいの小さな滝に収斂していた。ここが源流というわけではないだろうが、それに近いものであることは確かだった。小さいながらも、ごうごうと音を立てて、周囲にマイナスイオンを放射している。むろん、それは目には見えないが、青年は勝手にそう思いこむことにした。
 滝の前には、すでに先客がいた。合計四人。三十歳すぎくらいの夫婦と、その子どもがふたり。男の子と女の子だった。子どもたちは、まだ小さく、きゃっきゃとはしゃいでいるが、夫婦は無言だった。夫は、首にかけたタオルでしきりに汗をぬぐっているし、妻は苔むした岩にぐったりと座りこんでいる。
 夫婦は明らかに初心者だった。夫のほうの服装は、ジーンズに半袖のポロシャツ、靴はスポーツシューズだった。背中には申しわけ程度の荷物しか入らなさそうな、本式からは程遠いリュックを背負っている。妻のほうはといえば、これに輪をかけて論外で、ホットパンツにレギンス、上は薄手のシャツにカーディガンといったあんばい。靴はカジュアルスニーカーだった。当然、荷物の類は一切携行していない。たぶん、夫の小ぢんまりとしたリュックに、すべて入れてあるのだろう。
 彼ら四人(あるいは、子どもたちはまだまだいけそうだが)は、ようようここまで登ってきたらしいが、夫婦の疲れきったようすからすると、小さいながらも立派な滝を見られたのだし、あえて頂上までいく必要はないのでは、という心情だろうと予測できた。
 しかし、よくもまああの程度の装備で登山をしようなどと思いたったものだと、青年は逆に感心している。もちろん、今日の彼の装備は、過剰以外のなにものでもない。この慎重すぎるほどの周到さは、よくも悪くも、例の悪魔的な軍事訓練のたまものだ。
 青年は落差三メートルほどの滝の前で、いったん立ち止まった。彼らだけにマイナスイオンを浴びさせておくのは癪だったし、三十歳すぎに見える夫が、なぜのうのうと休日を楽しんでいられるのかが解せなかったからだ。青年は、必要とあらば、詰問してでも理由を問いただす決心をした。
「こんにちは」
 青年は誰にでもなく、声をかけた。「なかなか、風情のあるいい滝ですね」
「こんにちは!」
 タオルで汗をぬぐいながら、夫が妙に明るい声で応じた。実は、ついいましがたまで、彼らは口げんかをしていたのだ。それには、妻がいったい頂上はいつになったら着くのかと愚痴をこぼしたことから始まり、それが火種となって論争になったという経緯がある。論争は、しまいに夫の就労問題にまで発展し、夫のすがすがしい気分は台なしにされていた。
 そこに青年という新しい風が吹き、泥沼化していた戦闘が、たとえ一時的であるにせよ小康状態となったのだから、夫にとって青年は天佑だった。
「やあ、それにしても暑いね、え?」
 夫は、なれなれしく青年のザックを叩いた。
「ぼくたち、登山はほとんど初めてだったんだけど、ちょっと侮ってたみたいだ」
 夫は、青年のおおげさなザックに視線を落とした。「なにが入ってるんだい?」
「装備一式に、食糧、水ですよ」
「水!」
 夫は思わず手を叩いて歓喜した。「どれくらいあるんだい?」
「約、五・九リットルほどですが」
「頼むよ」夫は両手を合わせて、片目をつむった。
「少し、わけてくれないか?」
「いいですとも」
 青年は、大儀そうにザックを降ろすと、巨大な水筒のふたを開けた。ふたがそのままコップになるタイプの水筒で、容量は二リットルである。青年はこれをみっつ携行しており、先ほどの休憩で、〇・一リットルほど消費したのだった。
「すまない、水がなくなっちまって、どうしようかと思ってたんだよ」
 夫はコップに注がれた水を、音を立てて飲み干すと、子どもたちと妻を呼んで、水にありつける旨を得意げに話しだした。どう聞いても、彼が苦心の末、交渉で手に入れたとしか聞こえなかったが、青年は見栄を張らせておいた。
「――ということで、本当に申しわけないが、嫁と子どもたちにも水を分けてくれないかな?」
 青年は黙ってうなずくと、三人に水を分けてやった。妻はまだ不機嫌そうだったが、水を飲んで、いくぶん怒りも冷めたらしい。その代わり、青年に興味をもったようで、迷彩服やおおげさなザックをじろじろと無遠慮に眺めだした。
 子どもたちは、大声で青年に礼を言った。それから、滝を見て、めくら滅法に称賛し始めた。彼らは両親とちがい、まだまだ元気そうだった。
「いや、助かったよ」
 夫はおおげさにため息をついた。「まったく、山なんて登るもんじゃないね」
「だから、あたしはそう言ったじゃない」
 ぼそりと妻がつぶやいた。とげのある口調だった。
「うん、悪かったって。今度からは、車でいけるところにしよう」
「あなたっていつもそう。俺に任せておけば大丈夫って言っておいて、結局このざま。信じられない」
「うん、悪かったよ」
 夫は抑揚のない声でくり返した。彼はまったく反省していなかったし、先ほどのような口論は、少なくともいまはするつもりはなかった。妻は、夫が突っかかってこないので、口論に持ちこめないと判断し、それっきり口を閉じた。
「きみ、ここは何度も登ってるのかい?」
 夫は、妻と話さずに済ますには、青年と話せばよいことに気がついた。
「いえ、今日が初めてですよ」
「そうか、じゃあここから頂上まで、あとどのくらいあるか知らないよな」
「頂上?」
 妻が絶叫した。「あなた、まだ登るつもりなの?」
「頼むから黙っててくれないか」夫はようよう怒りを抑えている。
「興味本位で聞いただけだ」
「そう。ならいいけど」
「いや、失礼」夫は小声で「うちの嫁は、扱いづらくて困るよ」
「お気の毒です」
 青年が真顔で答えたので、夫は戸惑った。苦笑してくれればよかったのに、これでは自分が尻に敷かれているのを露呈しただけではないか。彼はばつの悪い思いをしながら、気を取り直してもう一度、同じ質問をした。
「それで、頂上までの時間は――」
「ここまでで、だいたい裏道の三分の二といったところでしょうね。この地図を見る限り、全行程が二時間半とあるので、残り五十分くらいかな」
「うへ、まだ、あと三分の一もあるのか」
 夫は心底うんざりしたようすだった。「ぼくたちなんて、ここまで辿りつくのに四時間以上かかってるんだぜ」
「そうですか」
「なにせ、嫁があんなだろ?」
「はあ」
「すぐに休む、疲れた、虫が多いとかさ、文句だけは一人前なんだよ」
「心中お察しします」
 ここで、夫は青年にユーモアのセンスがないことを悟った。本当は、青年がわざとそのように対応しているだけなのだが、そんなことは、彼は知る由もない。
「しかし、どうするかな、実際のところ」
「どうするとは」
「頂上を目指すべきか、引き返すべきか」
 青年の瞳に、嘲笑の色が浮かんだ。
「引き返すべきでしょう」
「やっぱり、そうかな?」
「一家揃って、遭難したいのなら話はべつですが」
「それはごめんこうむりたいね」
 夫はがりがりと頭を掻いた。「ちくしょう、戻るか」
「今日は、お休みですか?」
 夫は、恥を忍んで妻と子どもたちに、登頂は不可能である旨を説明するところだったので、青年の質問に虚を突かれた。ふりむき、片眉を上げる。
「え? ああ、休みだよ。だからこうして、レジャーにきてるんじゃないか」
「お仕事はなにをされてますか?」
「なんだっていいだろ」
 彼の態度が硬化してきた。「きみは? 軍人かい?」
「ご名答」
「だから、なんだっていうんだ? 俺はそうじゃない。それがなにか、問題があるのか?」
「とくには」
「ああもう、はっきり言ったらどうなんだ? そうさ、俺は上限年齢内だよ。それがどうした?」
「ですから」
 意外にも、青年に勝ち誇ったような表情は一切見られない。「とくになにも」
「けったくそ悪いな、まったく。レジャーが台なしだ」
 夫は、手近の小石をつま先で弾き、滝壺に蹴落とした。
「ああそうさ。俺は兵役忌避者だ。徴兵されて、一通りの訓練は受けた。思いだすだけでばからしくなってくる! それで、国のために戦えるやつだけ残れと言われた。だから、俺は残らなかった。それだけだ。文句あるか?」
「ありません」
 青年は、ぺこりと頭を下げる。「気に障ったのなら謝ります」
「うん」
 夫はすまなさそうに、眉間にしわを寄せた。「俺も怒ったりして悪かった」
「いえ。――最後に、ひとつだけ聞いてもいいですか?」
「え? いいとも。なんだい?」
「兵役を忌避して、後悔してますか?」
 夫はぽかんと口を開けて、しばし逡巡した。
「してる」
 青年は、今度は最敬礼で謝意を表明すると、そのまま山頂を目指して歩きだした。

     *     *     *

 裏道の三分の二を踏破した先には、地図に記されていた通り、視界一面に笹の原っぱが広がっていた。カルスト台地の地質が樹木の生長を妨げ、先ほどまでの薄暗い杉林とは打って変わって、すばらしい眺望である。
 筋状の雲がいくつか浮かぶスカイブルーの空。獲物を探って旋回するとんび。微風に揺れる笹の葉。容赦なく降り注ぐ初夏の陽射し。これらが混然一体となって、青年の視界に飛びこんできた。改めて彼は思う。きてよかった。
 もし、天候が悪ければ、むしろ最悪であっただろう。樹木の少ない登山道は、もろに風雨の影響を受けてしまうからだ。雨でどんどん身体を冷やされたところへ、風がさらに体温を奪っていく。わざと悪天候の山を踏破させられた経験から、青年はそれを知っていた。だが、疑問の余地なく、今日は快晴であるし、このまま天気は崩れそうもない。最高の気分だった。
 汗をたっぷりかきながら、青年は一歩、また一歩と確実に進む。無意識にスタミナの配分を考えていたらしく、彼は登り始めと比べても、まったくペースを落としていなかった。理想的な登頂モデルである。
 地面は、腐葉土ではなく、こぶし大の石が散乱するザレ場になっていた。うっかり石を踏むと、足が滑って捻挫する可能性さえあるが、青年はむしろストレスをまったく感じていない。むろん、当面のところ、ヒルの脅威から解放されたからである。
 青年は、のろのろと歩いている老齢の夫婦を追い越し、少し得意になった。彼らは、軍隊で鍛え上げた青年にまるで太刀打ちできないばかりか、今後の日本の命運を左右する歯車になる資格さえない。青年がその歯車に組みこまれるかどうかは、この際、問題ではなかった。望みさえすれば、そうなること自体そのものに、価値があるのだ。
 ザレ場を慎重に進んでいき、笹の葉をかきわけ、そろそろ昼飯を腹に収めないといけないと思い始めたころ、唐突に登頂が完了した。
 頂上は、その名にふさわしく、三百六十度の大パノラマで、樹木は一本も生えていなかった。西に彦根市と琵琶湖、北には御嶽山と乗鞍岳、南は鈴鹿山脈、東には広大な平野のむこうに、太平洋が広がっている。標高は千メートルそこそこだったが、眺望は申しぶんなかった。
 人気の山だったらしく、頂上には登山客が何グループもたむろしている。唯一、この場所に欠点があるとすれば、それは風が強すぎて身体が冷えてしまうことだろう。したがって、登山客たちは、例外なく震えていた。むろん、青年を除いてだが。彼は頂上と下界の気温のちがいなど、百も承知だったため、あらかじめ初夏にはあるまじき厚着をしてきたのだ。
 青年は、ザックを降ろして、自分も膝を立てて座った。十七・一五キロ(水が少々減ったので、厳密には十七キロあるかないかくらいだが)の重量から解放されると、身体が軽くなったような錯覚を覚えるものだ。まずいのは、これを再び背負いこむときなのだが、ひとまずそれは、考えないようにする。
 ザックから、おにぎりとバナナ、ツナの缶詰、水の入った水筒を取りだすと、彼は一心不乱に食べ始めた。頂上で食べる昼食ほど、うまいものはこの世にない。おおげさにも、食糧は三日分あるので、彼はどんどん食べた。もとより、日暮れまでには下山する予定である。
 青年は、水を無計画に飲んで、大きなげっぷをした。非常に満ち足りた表情をしている。彼はそのまま後ろむきに倒れると、両手を頭の下に敷いて、薄く目をつむった。初夏の陽射しが、まぶたの裏にオレンジ色になってみずからの存在を主張しているほかは、なにも見えない。
 登山客のうるさい話声さえなければ、ここは地上の楽園のように思えたかもしれなかった。とくに、戦況の話をしているやつらは、いったいどういう神経をしているのか、わかったもんじゃない。青年は、徐々にリラックスできなくなってくる。
「いやあ、それにしても、ここはいいね、戦争の〈せ〉の字も見えやしない」
 年配の男性の声が聞こえる。「すばらしいじゃないか」
「そうねえ、戦車も走ってないし」
 妻らしき声が答えている。「兵隊もいない」
 えせ平和主義者どもめ。青年は、目をつむったまま、胸中でふたりを罵倒する。死んでしまえ、苦労知らずの老いぼれどもが。きさまらはいい。そうやって、余暇を登山なんぞに当てて、戦争批判をしてればそれで済む。だが、俺たちはちがう。俺たち若年層は、徴兵され、過酷な訓練を受けさせられ、あげく、入隊するかどうかを迫られるんだ。
 いやなら断わればいい、むしろ、戦争をしないためにもぜひ、断わるべきだなどとぬかすばかどもが、この日本には掃いて捨てるほどいる。いいだろう、きさまらの言う通り、兵役忌避者になってやろう。だが、それで国防が成り立つのか? 他国に侵略されて、それでもなお黙って奴隷になるのが、真の平和なのか?
 そしてなにより、兵役忌避したやつは、人間扱いしてもらえるのか? 俺の知る限り、兵役忌避者はみんなクズということになっている。戦うことを拒否しただけで、売国奴とまで言われている。入隊は自由意志に任せるというのは本当なのか、それともむかしの特攻隊志願みたいに、暗黙の強制なのか?
 さっきの、滝で出会った男を見たか? あいつときたら、仕事を聞かれて答えられなかった。つまり、無職ってことだ。なぜか? 兵役忌避者だからだ。たぶん、保守的な会社に勤めてたんだろう。会社をクビになったにちがいない。ひどい話だが、俺も大学四年なのだから、決して他人事じゃない。兵役忌避なんぞをしたら、就職もままならないかもしれない。
 いや、保守的でない会社なら雇ってくれるかもしれないが、化学の研究職なんて、いったい日本にどのくらいあるもんなんだろうか? そして、そのなかでも、どのくらいが保守的でない会社なのだろうか?
 じゃあ、民間はやめて、国営の研究機関はどうだろうか? そんなもの、保守的に決まっている。なんといっても、国営なのだから。これじゃ、俺の人生はお先真っ暗だ。まったく、中国なんぞさっさと滅んでしまえ。誰のせいで、俺が、いや俺たちが苦しんでいると思ってるんだ? きさまらのいかれた中華思想のせいで、こんなことになってるんだぞ。ちくしょう、最低だ。いまの世の中は最低だ。
 なぜ、ここにきても、合衆国は核弾頭を撃ちこまないのか? すでに一発、向こうからもらってるじゃないか。核の先制不使用を宣言しておきながら、なんて汚いやつらなんだ。こうなったら、やり返せばいい。たとえ、やつらのミサイルが、合衆国が敷設したBMD(ミサイル防衛システム)によって撃墜されていて、こちらには着弾していないとしてもだ。核ミサイルを撃ったことに変わりはない。報復として、ICBM(大陸間弾道ミサイル)をお見舞いして、なにが悪い?
 ああ、ちくしょう、なにもかも、核で吹き飛んでしまえ。このくそったれな日本も、世界の盟主づらしている合衆国も、脳みその沸いている中国も、その属国の北朝鮮も、小うるさい韓国も、ジハードだなんだとお騒がせなイスラム教国家も、永世中立だとかぬかしている、いまいましいスイスも、仲良しごっこの欧州連合も、なにもかも、くたばっちまえ。
「となり、いいかな?」
 青年は目を薄く開けて、ゆっくりと右側に顔を向けた。黒縁のめがねをかけた、神経質そうな男が、いつの間にか座っている。青年の許可を得る前に座っているところを見ると、けっこう図々しいのかもしれない。
 服装は、青年とまったく同じ迷彩服、リュックも同様で、ともに軍の支給品だった。身長は平均よりやや低く、肌も白いが、身体はがっしりしている。文科系の人間が軍隊に入ると、ちょうどこんな感じになるものだ。
「ここは、なかなかスリリングだったね」
 黒縁のめがねをかけた男は、リュックをわきによけ、膝を立てて座り、体重を後ろに投げだした両手にかけてくつろいでいる。
「軍隊の人?」青年は、一応聞いてみた。
「それ以外、なにに見えるんだい?」
「なんにも」
「きみも、そうなんだろ?」
「〈きみ〉だって?」
 青年は、ぶるりと身体を震わせた。「上官がいたら、修正だぞ」
「ああ、一人称は〈俺〉、二人称は〈きさま〉で統一ってルールか?」
 黒縁めがねの男は、ふん、と鼻で笑った。「非番の日くらい、いいさ」
「じゃあ、俺は〈ぼく〉を使うことにするよ」
 青年は自嘲気味に言った。
 軍隊では、第二次世界大戦当時の旧帝国陸海軍のよい面を復活させ、規律を整えるという名目のもと、黒縁めがねの男の言ったような、人称代名詞にルールを課している。これを破って、〈ぼく〉とか〈きみ〉などと言おうものなら、上官がどこからかすっ飛んできて、一発あごにお見舞いするという寸法だった。
「ばかばかしいったらないな」青年は肩をすくめた。
「あれで中国をとっちめられるんなら、喜んでやってやるんだが」
「まったくだ」
 黒縁めがねの男は、どうでもよさそうに空を仰いだ。そんな議論は、彼の所属している部隊の同期と、とっくにし尽くしているにちがいない。
「――きみもか?」
 沈黙を破ったのは、黒縁めがねの男だった。
「なにが」
「入隊するか、しないかを決めるために、登ってるんだろ」
「まあね」
「意外に独創性がないな」
「いつから、この妙な風習が流行りだしたのかは知らないけど、諸先輩がたが霊感を得られたと主張してるんだから、たぶんいい方法なんだろうよ」
「確かに、都市部の雑踏でこれからの身のふりかたが、神からの啓示みたく降りてくるとは考えにくいな」
 黒縁めがねの男は、ため息をついて後ろに倒れた。青年と同様に、頭の下に両手を敷いて、ごろりと寝転がっている状態だ。
「きみはどこの部隊?」青年が、興味なさそうに聞いた。
「第四期東海方面軍第二連隊第四旅団第――」
「末端の部隊名だけでいいよ」
「第十七小隊、小室少尉候補生、三か月前に徴兵され、基礎訓練を修了。現在、一週間の休暇をもらい、そのあいだに入隊か否かを決めるよう、厳命されている」
「同期ってわけか」
 青年は独り言のようにつぶやいた。「ぼくは第四期東海方面軍の第三十四小隊だ。きみと同じで、少尉候補生」
「ふうん」
 黒縁めがねの男――すなわち小室少尉候補生――は、青年に負けず劣らず興味がなさそうだった。
「なあ」
 青年は、せっかく他部隊の人間に会えたのだから、一応議論してみようと腹を決めた。「この戦争をどう思う?」
「この戦争?」小室少尉候補生は、小ばかにしたように言った。
「いつからのことだ?」
「頭からいままで。つまり、第二次日中戦争全体についてだよ」
「専門家からしても、そもそもの始まりがいつだったのか、議論が分かれるらしいぜ。今世紀初頭に、中国が日本に内政干渉しだしたときなのか、それとも――」
「わかったわかった、皮肉はもうたくさんだ」
 青年が吐き捨てるように言った。「中国が、日本にむけて核ミサイルを発射したときだ。とりあえず、それが始まりとしよう」
「二年前の二〇一七年十二月八日ってことだな」
「そういうこと」
「そもそも、やつらのもっとも愚かだったところは」
 講釈口調で、小室少尉候補生が話し始める。
「日米同盟が強化されていくなかで、当然予想される通り、日本にいち早くBMDが構築されていたことを知っていながら、核ミサイルを発射したことだ。なぜ、撃墜されるとわかっているのに、あんなものを撃ったんだろうか? 先制不使用宣言をしていたくせに」
「反日感情を煽りすぎたんだろう。当時、中国国内の反日運動はピークに達してたからね。ここらで、目に見えるかたちで行動を起こさないと、中国国民の不満を招きかねない」
「そんなもの、武力で抑えこんじまえばいいじゃないか。むかしから、あの国はそれが得意だろ? 文化大革命とか、天安門事件とか。いまだに共産党一党独裁政治なんだから、それくらいやろうと思えばできただろうに」
「それをやったら、元の木阿弥だったんだよ」
「説明してくれ」
 小室少尉候補生は、寝転がったまま、ばんざいをした。降参の合図だった。
「そもそも、中国という国は、共産党が社会主義国家樹立を目指して建国した。二十世紀中葉ってのは、本気で社会主義がこの世の楽園になると信じられてたんだよ。嘘みたいだろ? まあそれで、いざ社会主義路線で突き進んだはいいが、すぐにいき詰まった。反対に、資本主義国家はどんどん繁栄していく。おまけに、頼みの綱のソ連が瓦解。でも、共産党は一党独裁政治を続けたい。
 そこで、反日政策が出てくるってわけだ。中国の大部分の人間は、当時――いまはもっとひどいかもな――一日三ドル以下の生活を強いられていた貧農ばかりだった。彼らも人間だから、貧しさには不満をもつ。それを日本のせいにして、矛先をこちらにむけたのさ。
 中国首脳部いわく――。
 ?あなたがた中国国民が貧しいのは、憎き日本があなたがたを搾取しているからだ。それどころか、日本は日中戦争当時、中国国民に計り知れないような悪事をさんざん働き、謝罪ひとつしていない。南京大虐殺、三光作戦、万人坑、強制連行、従軍慰安婦、七三一部隊の人体実験など、その悪事の様相は筆舌に尽くしがたく、それがたかだか八十年経ったくらいで帳消しになるなど、言語道断だ。
 それどころか、自分たちだけのうのうと豊かになり、あなたがた中国国民を嘲笑しているのだ。さあ、これでもやつらを許せるのか? まちがいなく、日本は中国の仇敵だ、憎め、憎め、憎め!?
 これが反日政策の本当の理由だ。つまり、国家を維持するために、日本は利用されていたわけだ。だから、反日運動を抑圧なんかしたら、国家そのものが、というより共産党独裁体制が崩壊しかねない。
 したがって、中国が核ミサイルを撃ったのは、むしろ必然だったんだろう。むろん、日本にBMDが構築されていることくらい、百も承知だったろうさ。着弾して日本が消し飛べば御の字、そうならなければ――残念ながら、そうならなかったんだが――いくら平和ボケした日本といえども、これを許しておくはずがない。つまり戦争になる。事実、自衛隊は正式に軍隊に昇格したし、憲法九条は衆参両議院ともに満場一致で改憲された。
 中国としては、適当に戦っておいて、ころあいを見て和平協定を結ぶつもりだったんだろうな。そうすれば、共産党は国民へのメンツを保てるし、日本もひと暴れすればすっきりするだろうと踏んでたわけだ」
「ところが、そうは問屋が卸さなかった」
 芝居がかった口調で、小室少尉候補生が口をはさんだ。
「その通り」
 青年はため息をついた。
「アジアの危機に、同盟国の合衆国が黙っていると思うか? 黙っているわけがない。なにせ、いやしくも世界の覇権を狙っている中国と、戦争をする口実ができたんだからな。
 中国は、バブル景気に便乗するかたちで、年々軍拡を行っており、合衆国は危険視していた。核武装もしているし、国民も多い。徴兵制度を敷かれると、非常に厄介だ。その兵士たちが使い物になるかどうかは、またべつの話だが。
 合衆国としては、冷戦体制崩壊後の、〈パックス・アメリカーナ〉を維持したかったんだが、とにかく中国が目障りだった。いますぐに脅威になるとは思えなかったが、二十年、三十年後はわからない。潰すならいますぐなのはわかってるものの、その口実がない。
 そんなとき、日本にむけて、愚かにも中国は核ミサイルを発射した。当然、構築済みのBMDが反応して、ミサイル迎撃ミサイルが撃墜する。――これだけでも、合衆国が中国に宣戦布告する理由としては、上等だ」
 小室少尉候補生は、おおげさに相槌を打ちながら聞いていた。青年がしゃべり終わると、彼は寝転がったまま、頭をがりがりと掻いて、ずれためがねの位置を人差し指で直した。
「それで、あとは知っての通り、日米の同盟軍と、中国との戦争――第二次日中戦争が始まったわけか」
「そういうことだな」
「国民総動員法には、どうしても納得がいかない」
 小室少尉候補生は、言葉とは裏腹に、なかば諦めているような口調だ。
「納得のいってるやつなんて、ひとりもいやしないさ」
「そりゃそうだ。だって、おかしいだろ? たしか、あのくそいまいましい法令は、こんなだったはずだ――。
第一条 日本国籍をもつ、十八歳以上三十五歳未満のすべての男子は、政府の要請にしたがって、日本軍に仮編入する義務をもつ。
第二条 仮編入の際、大学卒業者か二年以内に大学卒業見込みの者は、士官候補生待遇となる。なお、学部は問わないものとする。
第三条 政府の指定する基地に仮編入された者は、適性検査後、陸海空軍のいずれかに配属される。そこで、一通りの訓練を受けなければならない。
第四条 訓練後、仮編入された者は、それまでの訓練内容や、座学での講習から判断し、軍隊に正式に入隊するか、辞退するかを決める権利をもつ。
第五条 入隊する場合は、軍隊の規律を守り、亡国の危機に立ちむかう勇敢な兵士になる義務をもつ。なお、辞退した場合に、その人物が特別に不利な立場に追いこまれることはない。
第六条 第五条に規定されている通り、国民総動員法は、対象者に拒否権があり、これが民主政治に基づいて制定された法令であることに、疑問の余地はない」
 国民総動員法の主要部分を暗記している小室少尉候補生に、青年は少しばかり畏怖を感じた。暗記してしまうほどに、この法令に対して不満を抱いているらしい。
「大したもんだよ」青年は、率直に感想を述べた。
「法令を批判するには、覚えなきゃ話にならんからね」
「で、どのあたりが話にならないんだ?」
「もちろん、すべてだ」
「取りつく島もないな」
「ぼくがもっとも矛盾を感じるのは」
 小室少尉候補生は、たぶん教育学部出身だろう。そうでなくては、やたらと講釈口調でしゃべりたがる理由がない。
「ずばり、第五条さ。よくもまあ、兵役忌避者を売国奴扱いしておいて、〈特別に不利な立場に追いこまれることはない〉なんて言えるもんだ。吐き気がする」
「まったく同感だね」
「そしてぼくたちは、それぞれの基地で、一通りの訓練とやらを終わらせてきた」
「そういうことらしいな。地獄に落ちるほうがましかと思ったよ」
「独創性のないぼくたちは、陸軍の伝統にしたがって、ばかのように登山をしながら、入隊か辞退かを決めなきゃならん」
「と言いつつ、もう頂上だけどね」
「少なくとも」
 小室少尉候補生は、肩をすくめた。「ぼくは決められなかった」
「もちろん、ぼくも決まってない」青年も肩をすくめる。
 ふたりは顔を見合わせた。それから、周りの目も気にせず、大笑いをする。なにもかもが、滑稽だったのだ。人生の大切な分岐点を、たった一日の登山で決めようとする野蛮な陸軍の風習。なんのかんの文句を言いつつも、それにしたがっている自分たちふたり。この戦争自体。そして、第五条の明らかな矛盾。
「戦況って、どうなんだっけ」
 小室少尉候補生は、独り言のようにつぶやいた。こんなことは誰でも知っているので、事実上、これは独り言だった。
「日米同盟軍は、中国の核ミサイル発射基地を撃滅すべく、空からの精密爆撃と、陸からの歩兵による占領を併行的に実施している。制空権の確保が達成されていないため、爆撃機の被害がここ最近増えてきている関係で、当該施設の周辺地域を歩兵部隊が無力化するまで、当面のあいだ、爆撃は中止が決定している」
「知ってるよ」
「じゃ、聞かないでくれ」
「すまん」
「つまり」
 青年の視線は、上空で旋回しているとんびを追っており、心ここにあらず、といったあんばいだった。「歩兵は、いくらいても足りないってことだな」
 しばしの沈黙。
 青年は、陽射しが少しだけ柔らかくなったように感じる。うっすらと目を開けると、小室少尉候補生はまどろんでいて、陽は西に傾き始めている。時間を確認すると、もうすぐ午後三時だった。さっきまでがやがやとうるさかった登山客が、いつの間にかいなくなっている。すぐにでも、降りなければならない。
 青年が小室少尉候補生を起こそうとしたとき、上空で爆音がした。青年が空を見上げると、兵員輸送機が五機、見事な編隊を組んで飛行していた。
「……中国戦線にいくのかね、ありゃ」
 いまの爆音で、となりで寝ていた小室少尉候補生が覚醒していた。重たそうな寝ぼけ眼で、明らかに快眠を邪魔されたことに不服そうだった。
「それ以外、どこにいくって言うんだ?」
 青年は、億劫そうに立ちあがり、リュックを背負った。「さ、降りるぞ」
「ああ」
 小室少尉候補生も、億劫そうに立ちあがる。
「もし、だぞ」
 彼は青年の後ろにしたがって、諦めたように歩き始める。「ぼくが入隊することを選んだら、さっきの輸送機に詰めこまれて、中国戦線へ送られるんだろうか?」
「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん」
 青年は、地図を見て帰りのルートを吟味するのに集中しているふりをしている。
「いまの輸送機に、いったい何人くらい乗ってたんだろうか?」
「知るもんか」
「じゃあ、とりあえず一機につき、二百人の輸送が可能だと仮定しよう」
「好きにしてくれ。二百人だろうと、二万人だろうと、一向にかまわない」
「五機編隊だったから、単純計算で千人の兵士が戦地に赴くわけだ」
「そんなことは、小学生でもわかる」
 青年は、日暮れまでの時間が押していることを考慮して、最短距離の中道を選択することにした。
「そのうちの、どれくらいが死ぬんだろうか?」
「さてね。見当もつかない」
 青年が見守っているうちに、輸送機の編隊は西の空へ消えていく。それらは、傾き始めた太陽に吸いこまれていくように見えた。不気味だ。死の予兆のようだ。
「じゃあ、どのくらいが武勲を立てるんだろうか?」
「死人の数さえわからないのに、勲章授与されたやつの比率なんて誰が知ってるっていうんだ?」
 青年は無性にいらいらしている。「それより、足元に気をつけて進んでくれよ」
 しばしの沈黙。
 小室少尉候補生が、なにやら思いつめているのは、背中越しにもわかった。青年は落ち着かなくなってくる。
「そういえば」
 小室少尉候補生は、興味なさそうに言った。「きみ、名前は?」
「東海方面軍第三十四小隊、籾山少尉候補生であります」
 青年は、鬱屈した気分をふり払うため、おどけた調子で言って、いきなり足を止め、くるりと回れ右をした。すばやく敬礼。
「ふうん、籾山少尉候補生か」
 小室少尉候補生は、腕を組みながらゆっくり二度うなずくと、〈回れ右〉の号令をかけた。青年――すなわち籾山少尉候補生――は、再び回れ右をする。かちっと踵が合わさる音。
「そのまま周囲に警戒しつつ、前進」
 小室少尉候補生も、鬱屈した気分だったのだろう。彼がおどけてそう言うと、青年は黙って歩きだした。ふたりとも、軍隊ごっこでいくぶん気が晴れたものの、肝心なことはいまだに決められないでいる。だが、さっきの編隊飛行する輸送機を見たあたりから、青年も小室少尉候補生も、腹を決めかけていた。
「たとえば、だぞ」
 五分ばかり黙々と下山していると、唐突に小室少尉候補生が口を開いた。
「たとえば、ぼくたちが兵役忌避したとする」
「兵役忌避でも殺人でも、なんでもいいさ」
「すると、どうなるだろうか?」
「売国奴という肩書きが、世間からもれなく授与される」
「そんなことは、小学生でもわかる」
「そうだろうとも」
 青年は、急勾配の登山道を降りながら、吐き捨てるように言った。「いったい、なにが言いたいんだ?」
「ぼくが言いたいのは」
 小室少尉候補生の、お馴染みの講釈口調。
「兵役忌避をするのはいい。そして、世間さまがぼくたちを、益体もないしろものだと決めつけて、ろくな職業に就かせないよう圧力をかけるのもいい」
「いいか?」
「ここからが大切だ、よく聞いていてくれ」
「言われなくても、小室少尉候補生のお話とあらば、謹聴させていただく所存であります」
「ぼくたちが無職なり、屎尿処理なりをして過ごしているときに」
 小室少尉候補生は、青年の皮肉にはまったく取りあわなかった。
「さっきみたいに、上空を兵員輸送機が見事な編隊を組んで飛行しているのを、たまたま見つけたとしたら、どうだ?」
 彼は、唐突に立ち止まった。青年は四、五歩進んでから、小室少尉候補生がついてきていないのに気づき、同じく立ち止まった。回れ右、三歩前へ進め。
「そこには、兵役忌避したぼくたちとはちがって、軍に入隊した兵士たちがぎっしり詰めこまれている。そいつらがどういう理由で入隊したのかは、この際問題じゃない。将来のことを考えてなのか、本当に亡国の危機を救うためなのか、そんなことはどうでもいい。とにかく、ぼくたち兵役忌避者は、それを目で追う。編隊は中国大陸を目指して、一路、西へ進み、どんどん小さくなっていく」
 小室少尉候補生は、大きなため息をついた。
「そのとき、ぼくたちの胸に去来する思いってやつは、いったいどんなものなんだろうか? 無職なり屎尿処理なりでなく、まったくありそうにもないことだが、自分の希望する職業に就いていたとしても、ぼくは――」
 彼は、手ごろな石をつま先で弾いた。
「置いてけぼりにされたように感じるだろう。それが正しくないと、自分でわかっていてもだ」
「……かもしれんね」
 青年は、暮れ始めた西の空に視線を移す。輸送機はとっくに見えなくなっていたが、なぜだが彼らのことが、無性にうらやましくなってきた。
「さあ、早く山を降りよう」
 青年は、くるりと回れ右をすると、そのまま歩きだした。西日が山全体を染めあげており、どことなく寂寥感が漂っている。
「それで、結局」
 後ろから、小室少尉候補生が、なにげない口調で切りだした。
「どうするか決まったのか、籾山少尉候補生?」
「うん、決めたよ」
「ほう」
「そっちはどうなんだい、小室少尉候補生?」
「決めたさ」
「ということは」
 青年は、今日何度めかわからないため息をついた。
「ふたりとも、近日中には、輸送機に乗って自分の選択を後悔してるってことか」
「だろうね」
「結局、はじめから選択の余地はなかったのかもしれないな」
「こんな山なんぞに登らなくてもね」
「言うまでもないことだが」
 青年――近日中には、正式に〈籾山少尉〉になる予定の男――は、二、三回、おおげさにせき払いをした。
「ぼくは――いや、俺は軍隊なんかろくでなしの組織だと思ってる。だけど、それ以上に、なんというか、その」
「その、なんだい? きさま、なにが言いたいんだ?」
「このくそったれな日本が好きなんだ」
「……俺もだ」
 ふたりは、山を降りたらうまいものを腹いっぱい食べようと約束した。

2013-10-20 11:42:50公開 / 作者:本宮晃樹
■この作品の著作権は本宮晃樹さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 登山の描写は、わたし自身、毎週山に登っているくらいのセミプロ(笑)なので、確かかと思われます。ヒルにしつこく言及しているのは、ヒルが大きらいだからです。
 どうでしたでしょうか。賛否両論あるかとは思いますが、少しでもなにかを感じていただけたのなら、幸いです。
 なお、劇中の山は、鈴鹿山脈の竜ヶ岳で、ヤマヒルの宝庫です。夏季に登る際には、万全の対策を!
この作品に対する感想 - 昇順
おお、これはまた達者な、イッキ読み可能な中間小説――なかなかの手練とお見受けしました。
やや引っかかりを覚えた部分を、2点ばかり。
まずは、全編がほぼ主人公の主観で語られる中、途中の小さな滝のシーンで、兵役拒否の夫の内面が、いわゆる神の視点で多く語られるところ。
そして、作品の背景となる第二次日中戦争への経緯や現況が、登山中の二人の会話として情報提示されるところ。会話として不自然にならないように巧く処理されておりますが、やはり、すでに最終選択の迫った二人のこと、そうした内容はお互いこれまでに誰かと語り尽くし、ここでこれだけ具体的な詳細を語ることはないのではないか、そんな気がしてしまうのですね。一幕の戯曲なら、この構成もアリだと思いますが、小説としては、やはり穴になる気がします。
もしこの作品を短編小説として綺麗に成立させるなら、いっそ戦争に関しては直截に詳述せず、青年たちの葛藤を通して匂わせる、そんな工夫が必要かと。しかし、それは技巧的にかなり難しいと思われ、私なら無理のない2〜3幕の中編に逃げるかもしれません。
あるいは、そうした部分はこのままで割り切り、ご達者な登山描写を凌ぐイキオイで『山』そのものを描き込み、クライマックス「このくそったれな日本が好きなんだ」「……俺もだ」との相乗効果で、読者を情動的に満足させてしまう――しかしそれだと、山を熟知した本宮様には可能でも、この作品全体のトーンが変わってしまいますね。あくまで情動過多の野良狸の私見として、お聞き流しください。
色々記しましたが、もはや戦場にも出してもらえない半白髪の狸として、この二人の青年たちに、心からのエールをおくりたいと思います。
2013-10-26 21:27:22【★★★★☆】バニラダヌキ
こんばんは、はじめまして。
作品、読ませていただきました。
なるほど、非常にきっちりとした文章で書かれた、レベルの高い小説だと思いました。新規参加の方(でなかったらごめんなさい)の投稿作品として、ここまでちゃんと書かれたものは近頃なかなか見かけないように思われます。
滝の場面での夫とのやり取りなど、抑制された調子で書かれていて非常にリアリティがあり、感心しました。
ただ、候補生同士のやり取りの部分については、いささか説明的な文章が過剰であるように感じられます。恐らく、本宮さんが一番お書きになりたかったのはこの部分なのでしょうし、ここを削ってしまっては意味がないのかも知れませんが、純粋に小説としてのバランスを考えると、半分以下の情報量で良いのではないかと思います。特に、条文を列記している部分などは(暗記しているという設定にしても)やり過ぎのように思えました。
輸送機を見上げて、その中に乗っているだろう兵士に思いを馳せ、そして決意に至るという終わり方もうまく行っているだけに、やはり中間の部分をいかに整理するかが課題のように思われます。
また、次回作に期待しております。
2013-10-26 22:14:47【☆☆☆☆☆】天野橋立
>>バニラダヌキさん
 貴重なお時間を割いてまで、拙著(笑)を読んでいただき、ありがとうございました。しかもなんだか細かく読んでいただいたようで……。わたしは読者に恵まれておらず、唯一の読者である腐女子の妹には「ホモ小説」と揶揄され……。
 ご意見、参考にさせていただきます。
 ありがとうございました。
2013-10-29 23:35:07【☆☆☆☆☆】本宮晃樹
>>天野橋立さん
 貴重なお時間を割いていただき(以下略)。
 お察しの通り、新参者でございます。
 わが腐女子の妹とはちがって、しっかり読みこんでいただき、ありがたいやら恥ずかしいやら……。
 ダメだし、ためになります。背景の説明は、やりすぎるとくどくなるし、省きすぎると著者のひとりよがりになるしで、加減が難しいですね。
 ご意見、参考にさせていただきます。
 ありがとうございました。
2013-10-29 23:40:45【☆☆☆☆☆】本宮晃樹
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。