『ショッピングモール(怪談第2作)』作者:TAKE / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2470.5文字
容量4941 bytes
原稿用紙約6.18枚
 お盆も過ぎましたが、夏が終わる前にもう一つ、お話致しましょうか。
 私は関西の方に住んでいまして、甲子園球場なんかが近くにあるんですがね。そこのところに大きなショッピングモールが出来たのは、もう九年ほど前の事でした。
 本当に大きなところなんですよ。ゆうに一駅分の距離がありましてね。というのも、昔はちょっとした娯楽施設だったんですよ。小さな動物園や、ジェットコースターなんかもありまして、道路を挟んだ向かいには、夏はプール、冬はアイススケート場になる施設も完備されており、子供達に大人気のスポットだったんです。プールがあった辺りは、これまた大きな駐車場と大学の校舎になっているんですがね。

 これはそのショッピングモールで、夜間警備員のアルバイトをしていた方の体験談なんですけども。

 夜の九時に全店舗が営業を終わりまして、棚卸しなんかの時間も含めると、十一時ぐらいですかね。そこからが彼の勤務時間です。
 制服を着て、無線とチェックリストを持って、モールの中を五〜六人で見回るんですよ。よくドラマなんかだと、電気が消えて暗ーい中を一人で歩いていたりしますがね。そんな非効率的な事はしないです。見回る場所を区分けして、もちろん通路の電気を付けた状態で行います。
 彼が見回っていたのは、駐車場から入ってユニクロなんかがある辺りなんですけどもね。そこから距離にして、西へ三百メートルぐらいですか。その範囲が彼の持ち場で、二階はまた別のアルバイトが見回っていました。
 さて、静まり返った通路を進んでいきますとですね、右手にはアクセサリーショップがあり、左手にはコーヒー屋さんがありました。喫茶店ではなくてですね、豆やお菓子を売っているところです。
 そこで彼は、どうにも妙な声を聞いたんですよ。エェー、エェーという小さな声。

 明らかに、子供が泣いている声なんですね。

 店のシャッターはどちらも閉まっていますし、迷子の子供がまだ残っているはずも無いんですよ。でももしかすると、お客さんが行かないようなところに入り込んでしまった可能性もあるじゃないですか。
 おそるおそる彼は懐中電灯を持って、アクセサリーショップの脇の通路にある、明かりの消えている商品在庫の保管室へ行ってみたんですね。
 鍵を開けて、ドアを押して中を見てみました。
「誰かいるかー?」声もかけてみました。
 その時にはもう、泣き声は止んでいたんですね。結局、中には誰もいませんでした。
 おそらく空耳か、湿気なんかで軋んだ壁の音を聞き間違えたんだろう。そう思いまして、彼は見回りを再開しました。

 さて、彼は順調に仕事を続けました。ところどころトイレもあるので、そこも軽く見回ったりするんですがね、センサーで電気が付いたりするような綺麗なトイレなので、そこは大して怖くはないんですよ。何せまだ築一〇年も経っていないんで、そんなところに何か出るわけもないんですね。
 そんなこんなで、モールの一番端まで来ました。右手にはH&M、左手には無印良品があるんです。なかなかオシャレでしょ? まあそこで振り返って戻っていきますので、右と左は全部逆になります。
 行きであらかた見て回ったので、帰りは適当にフラーッと歩くんですね。手元のチェックリストに全部印を付けて、暗くなっている脇の方にある通路も時々懐中電灯を照らしながらですね。こう、見直しがてら戻るんですよ。

 しばらく歩いて、また例の変な声が聞こえた辺りに近付いてまいりました。
 一度は気のせいかと思っていたんですが、やはり声が聞こえたんですね。それも今度は泣き声じゃないんですよ。

 ママー、ママーって、お母さんを呼んでいる声なんです。

 彼はその時点でもう恐怖は覚えていたんですが、やはり迷子がいるのだという考えもありました。そこで無線を使って他の警備員も呼んで、その日働いていた五人で辺りを探してみたんですね。
 しかし誰もいません。それどころか、他の人は子供の声なんて聞こえなかったといいます。
 さっきも思った通り、疲れか何かによる空耳だったんじゃないかという結論に至りまして、引き続き泥棒の侵入なんかに警戒しながら、見回りを続ける事になったんです。
 その時、また彼の耳に声が聞こえました。
「ほら、やっぱり誰かいるじゃないですか」そう言ったんですが、やはり他の人には聞こえていません。
 いい加減にしろよ、なんて言って笑いながら、彼らは先に進んでしまいました。
 難儀な事に、声はまだ聞こえるんですよ。

 ママー、ママー、ママー……。だんだん後ろから近づいてくるんですよ。

 そこはさっきも言いました、アクセサリーショップなんかがあるところです。彼が背にしているのは、明かりの付いていない、保管庫へ繋がる通路でした。
 怖いもの見たさというんでしょうかねえ。よせばいいのに、彼はゆっくりと振り返ってみました。

 二歳ぐらいの子供が、ヨチヨチと立って歩いてるんです。
 やっぱり迷子がいた、なんて感想は彼の中に生まれませんでした。

 その子供、顔の右半分が大きくへこんで、血まみれになっていたんですよ。

 彼は悲鳴を上げて、そこから逃げました。振り返って確認する余裕もありません。他の警備員に追いつくと、今日は早退するとだけ告げて、急いで私服に着替えてショッピングモールを出ました。
 以降も夜にそこへ訪れる事は憚られ、彼は結局そのアルバイトを辞めたんだそうです。


 この話を聞いた私は、ショッピングモールが出来る前の事を調べてみたんですがね。
 まだ娯楽施設だった頃の事です。丁度その場所には大きな穴が造られていまして、その中に人工のサル山があったんですよ。

 迷子になった小さな子供が、閉園後にそこへ転落して死亡しているのを、当時の夜間警備員が見つけたそうです。
2013-08-18 19:11:54公開 / 作者:TAKE
■この作品の著作権はTAKEさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
夏が終わる前にもう一作と思い、地元を舞台に作ってみました。

ほん怖を見た後に書き始めたんですが、書いてる内に自分が怖くなって翌日へ持ち越してしまいました。

登場する地域、施設などは実在しますが、ストーリーに関しては全くのフィクションです。高校野球観戦の際には是非、ららぽーと甲子園へ(笑)
この作品に対する感想 - 昇順
おお、今回も達者な語り口で、背中がゾクリと。
ただ、心霊現象自体が直球で、前回よりも余韻が少なかったかな、と。
たとえば、主人公のアルバイト君だけでなく、5人の内のもうひとりだけ、どうも何か見えていたらしい、とか、曖昧な要素を混ぜこんでおくのも、ひとつの手だと思います。
2013-08-19 03:12:08【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
[簡易感想]描写が多すぎる気がします。
2013-08-28 06:38:33【☆☆☆☆☆】Surin
[簡易感想]注釈の欲しい用語があって戸惑いました。
2013-08-29 02:11:20【☆☆☆☆☆】Inna
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。