『白い手』作者:羽付 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
触れられるものと、触れられないもの、その違いは何だろう。
全角1340文字
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原稿用紙約3.35枚


 僕には物心ついたころから、それが見えていた。だからきっと生まれた時から、それはそこにあったのだと思う。
 白い手……腕を伸ばせば届きそうなところ、頭の少し左斜め上にあった? いや居たというべきなのだろうか? でも、その手が動くところを一度も見たことがないから、やっぱり『あった』という表現でいいのかな。
 それはとても綺麗な人の手首から先で、毛なども全く生えてなくて指の一つ一つ、爪の形や色も本当に美しかった。白魚のような手――白魚という魚を知らないから実際は分からないけど――という表現が、きっとピッタリだと思う。
 子供の頃は、それに触れたくて椅子や棚に乗って手を伸ばしたけど、自分の居場所が高くなると同じように高くなるから触れることができなかった。
 だけど中学生になった頃からかふと気づくと、それは手を伸ばせば簡単に触れられそうな位置にずっとあった。でもその時には触れたいという気持ちよりも、触れてはいけないという気持ちが漠然とあって高校生になった今でも触れずにいた。
 きっと子供の頃には白くて綺麗なそれに触れたいというより、取って隠して自分だけのものにしたかったのだと思う。だけど成長するにつれて太陽や星が手に入らないのが分かるように、それもあるのは当たり前でも手の届かないものだと、触れることのできないものだと理解していた。
 だから触れられる位置に今はあったとしても、簡単に触れたりできないでいた。でも小さい頃からずっとあったものだから、怖いと思ったことはないのだけど……。
 小さい時、母親に一度だけ言ったことがある。
「ねぇ、ねぇ、あのおててはなに?」
 母親はキョトンとした顔をして「どれ?」と訊かれたので、今度はしっかりと天井の方を指さして言った。
「あのおてて! あのしろいおててだよ」
 その瞬間の母親の表情は恐怖と困惑の混じったような言葉にするのが難しいもので、幽霊などの話がすごく苦手な母親がそんな顔をしてしまうのも今なら分かる気がする。
 だけど子供だった僕には分からなくて、いけないことをしたのだという気持ちだけで胸が一杯になって、もうその話をしちゃいけないのだと強く想ったのを覚えている。だから母親以外にそれの話をしたことはない。まぁ、その選択は正解だったのだと思う。

 でも今、何故か僕は触れたい気持ちが抑えられなくなっていた。
 どうして急に? と自分でも思うが、何か理由がある訳じゃない。ただ触れたくてたまらないのだ。
 家や両親、兄弟と何かがあった訳でもないし、学校で何かがあった訳でもない。いたって普通だと思う。むしろ客観的に見れば、幸せな環境にいるのだと自覚している。
 ここが自分の住む世界じゃなくて、触れることで元の世界に戻れるのだとか思ってもいない。僕は今の居場所に満足しているし、どこか遠くへ消えてしまいたい訳でもないけど。
 ただ、ただ触れたい。それだけなのだ。
 だから僕は、ゆっくりと手を伸ばして躊躇うことなく握手するように、それに触れてみる。

 僕は思わず少しだけ笑ってしまう。だって思っていた通り、その手は冷たかったから。


―― 完 ――

2013-08-16 13:30:14公開 / 作者:羽付
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■作者からのメッセージ
 お久しぶりです! もしくは、初めまして♪

 今年はお盆に休みができましたので、本当に久しぶりに小説を書かせて頂きました。
 一年と、ちょっとぶりでしょうか?
 やっぱりジャンル選びは、いつも悩んでしまいますね。ホラーとも違うかなとか色々と考えて、ファンタジーにしましたが……どうなんだろう。
 とにもかくにも読んで頂けたら、とても嬉しいです!

 また大分あくと思いますが、ではまた♪
(もし感想を頂けましたら、必ず返信いたします)
この作品に対する感想 - 昇順
わぉ、これまた珍しい方がいらっしゃるw お名前見て思わず飛びついちゃいましたw
お久しぶりです〜 お変わりないですか?
これまたシュールなお話ですね。確かにホラーというよりはファンタジーに近いのかな? 結局白い手は何だったんだろう……?
さしずめ『触れたらマズイっぽい物』ってトコでしょうかw
久しぶりなのですが、羽殿っぽい文章だなぁと思いました。ただもうちょっと羽節の効いたホラーテイストな物を読んでみたかった気がします。
ではまた、次回投稿もお待ちしております。
鋏屋でした。
2013-08-16 18:37:15【☆☆☆☆☆】鋏屋
同じく、名前を見て条件反射で飛びついた人間2号ですw
お久しぶりです^^
『小袖の手』の亜種かな? それなら手を伸ばした途端にぴゅるん、なんて音を立てて引っ込んでしまいそうですがw
ホラーちっくなのになぜかほのぼのとしてしまいました。印象としては羽付さんらしい作品だなーといった感じです。何だろう、読むとなんかホッとするw
しかしあれですね。あえて詳しく語らず、読み手の想像に任せるスタイル。私がやると総ブーイングされそうですが、羽付さんがやるとなんだかしっくりきてしまう不思議……。
それでは次の投稿を楽しみにしています^^
2013-08-17 12:12:59【☆☆☆☆☆】浅田明守
こんにちは、お久しぶりです。
と言いますか、僕自身もこのところ全然ここでの投稿ができていない状態だったりします。
ホラーかと思いましたがホラーではなく、落ちや解説があるわけでもなくと不思議な作品ですね。実はこれ、一種のラブストーリーなんじゃないか、などと考えてみました。見ようによってはエロティックな作品のようにも思えますね。
また、次の作品もお待ちしています。
2013-08-17 22:24:59【☆☆☆☆☆】天野橋立

>>鋏屋 さん
 感想、ありがとうございます!
 お久しぶりです♪ なんとか、おおまかには元気にやっておりますw そして飛びついて頂けただけでも、うれしい限りです! 「白い手」に触れて、どうなったかまで書ききるか悩んだのですが、いい意味での期待を裏切る形にならなそうで、この結末にしました。でも書くべきだったかな……うーん、悩みどころです。自分としては最後の一行を書いて満足してしまっていて、それじゃダメなんですよね反省です。
 時間ができた時には、鋏屋さんの『セラフィンゲイン』の世界へ飛び込ませて頂きます♪


>>浅田明守 さん
 感想、ありがとうございます!
 浅田さんも、お久しぶりです♪ 本当に、飛びついて頂けて嬉しいです! ショートショートとはいえ、時間を割いて読んでもらって、暇つぶし程度になっていればいいのですが。そして、やっぱり長く書いてなくても、文章のくせというのはなくならないんだなぁと改めて思っちゃいました。私の場合は、読んでくれている方のほうが面白い結末を考えてくれるだろうという逃げなのかもです。
 浅田さんのホラーは、ヒタヒタと迫ってくる感じがあって好きです♪


>>天野橋立 さん
 感想、ありがとうございます!
 趣味だからこそなのか、投稿し続けたり書き続けたりって、なかなかできないですよね。おっと、お久しぶりです♪ でも、こうして一つ書いてみると、また書きたくなるから不思議です。ラブストーリーというのは、感想を頂いてそうなのかもなって思いました。空や星に恋する人っていますし、焦がれるという気持ちは簡単に触れなれなかったりもしますしね。手の描写をもっと、しっかりすればエロティックにもなったかも。
 天野さんの作品は、いつも丁寧で心地いいものが多いので待ってる方、多いんじゃないでしょうか♪
2013-08-18 17:39:39【☆☆☆☆☆】羽付
皆様同様、いやはやお久しぶりです。
ああ、そんな手がひとつ、中学時代の自分の部屋にもあったら――などと、あの頃の情操感(?)に、しみじみ浸ってしまいました。
ラストの冷たさが、この手に快く残っているようです。

2013-08-19 03:26:45【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ

>>バニラダヌキ さん
 感想、ありがとうございます!
 本当に、お久しぶりです。中学時代、感想を頂いて思い出してしまいした。いや今もかもですが(これは問題か><)、何もしなくても、何でもできると思っていたり、だけどやっぱり何かしなくちゃと思ったり、でも何をすればいいのか分からないみたいな気持ちあったかもしれないです。そんな時に自分だけに手の届く白い手があったら、触れなかったとしても自分はやっぱり特別だなんて思えて安心してしまったかもなぁ。
 それはそれとして、暑い日が続いておりますので、お手てだけにも涼が届いたのなら幸いです♪
2013-08-20 22:11:55【☆☆☆☆☆】羽付
[簡易感想]短すぎです。短すぎっ!
2013-08-28 04:24:09【☆☆☆☆☆】Shweta

>>Shweta さん
 簡易感想、ありがとうございます!
 ショートショートを意識して、短くまとめようとし過ぎてしまったのかもです。いずれ長めの話も書けたらなと思っているので、その時にまたお付き合い頂けたら嬉しいです♪
2013-08-28 21:12:47【☆☆☆☆☆】羽付
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。