『殺人心理 (上)』作者:AIM / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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暖かい日差しが降り注ぎ、野原は草の匂いで満ちている。
俺はその中で横たわり、目を閉じ、自分の記憶を手繰ってみる。
「駄目か・・・・・」
手繰っても思い出せないので、俺は諦めることにする。
俺は、ここ数ヶ月のことしか憶えていない。あの時、殺し屋に拾われる前のことを・・・・・
だから俺は自分自身のことを全く憶えていない。何処で生まれたのかも、両親の顔も。そして自分の正体も・・・・・
憶えているのは自分の名前と、ここ数ヶ月の記憶だけだ。
「おーい!!」
遠くから声がする。
「早くこーい!!仕事に行くぞ!!」
「今行くよー!!」
俺は走って小屋に戻った。


頬を汗が流れる。
俺たちは村の納屋の陰に隠れて待ち伏せしている。
「来たぞ・・・・・」
俺の隣に座っている殺し屋の仲間が囁く。
「あいつだ・・・・・」
人が来るのが見える。三十歳くらいの男だ。
胸が高鳴る。緊張してではなく、恐怖で。
バッと俺たちは飛び出す。男は驚いて
「誰だ!?」
と叫ぶ。
男の腹にグサッと短剣が刺さる。
俺はそんなやり取りを呆然と見ている。
「トドメをさせ!!」
その一言で俺は我に返る。
「早く!!こいつを苦しめるな!!」
俺がモタモタすれば男は苦しむ。
そんな気持ちが俺を動かす。
ドスッ!!
俺の短剣が男の左胸を貫く。
終わったか。俺が力なくその場に座り込んだその時。
バッ!!
男の右腕が動く。短剣が俺の左の頬をかすめる。
その直後・・・・・男は絶命した。俺を睨みつけたまま。
「片付いたな。」
そんな言葉をなんとなく聞き流しながら俺は立ち上がる。
生温い、血の臭いがする風が吹き抜ける。
俺は・・・・・初めて人を殺した。


「ただいま・・・・・」
髪を結わえていた紐を解く。
返り血を浴びた顔を川の水に突っ込んで頭を冷やす。
左の頬がジワッと熱くなる。さっき短剣で斬りつけられた時にかすった所の傷が開いたようだ。
俺は思わず顔を上げる。
傷口から血が流れる。
そうか・・・・・
さっきの出来事を思い出して俺は唇を噛み締める。
ある女に頼まれて殺したあの男。なるべく苦しまないように殺したつもりだ。
でも・・・・・
たとえ頼まれても、苦しまなくても・・・・・殺してはいけないのに・・・・・俺は人を殺してしまった・・・・・
川のよどみに映る自分の顔が悪魔の顔のようにみえる。
なんだか胸がドキッとして、罪悪感がこみ上げてくる。
左の頬を流れる血と同じように止め処なく流れる・・・・・涙が。

(中に続く)
2003-12-16 16:42:51公開 / 作者:AIM
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この作品に対する感想 - 昇順
こういう話好きです。続きが気になります。
2003-12-18 16:45:35【★★★★☆】灰猫
計:4点
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