『“CASE” [下] 【完】』作者:コーヒーCUP / ~Xe - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
“CASE” [上][中]をお読みください。
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第七章【最後の事件 –The Final Problem-】

 さよが春川の後を追いかけると、彼女は雨に濡れることも厭わず、一心不乱に事件現場に戻った。付近にはわずかな通行人と、そしてビルの周りの警察だけがいた。
 春川は立ち止まると、首を回して何かを探し始めた。表情から必死さが伺える。さよが今まで見てきたどの彼女の表情より深刻で、焦っていた。
「せ、先輩?」
「さよ、さっきの女の子を探して。早くっ」
 さっきの女の子? あの彩愛という子のことか。さよも春川と同じように付近を探すが、その姿は見当たらない。
 春川はなにかに追い詰められているかのように、額に汗をかいていて、その形相からさよは「ただごとじゃない」と感じ取った。
 二人の様子を見ていた一人の警官が近づいてくる。
「どうかしましたか?」
「中学生くらいの女の子を見ませんでしたかっ?」
 切羽詰まった声で春川が警官に質問をぶつけると警官は一瞬面食らったが、ああと声を漏らした後、ある道を指さした。
「被害者のお子さんのことかい? だったら、今署に向かっているはずだよ。そこに保護者の方がいると聞いたら、自分も行くと言っていたからね。車で送ろうかって訊いたけど、歩いて行くって」
 警官の返答を聞き終えると春川は全力でその道に向かって走りだした。さよは唖然とする警官に「あ、ありがとうございますっ」と礼を言い、また春川を追いかけた。
 オフィス街の歩道は狭く、ガードレールの向こうでは雨のせいでいつもより多い車が走行している。そして傘をさす人々の隙間をぬうようにして春川がその道を進んでいく。
 さよもなんとかその後ろにつく。そして行き交う人々の中にあの少女がいないか念のために探すが、やはりいない。
 しかし、しばらく進んだ所でビニール傘をさした少女の後ろ姿を捕捉できた。
「彩愛ちゃんっ」
 春川がそう呼びかけると、彼女は振り向いた。そしてびしょ濡れの春川に驚いて「わっ、ハル姉どうしたの?」と駆け寄ってくる。
「びしょ濡れだよ。風邪ひいちゃうよ?」
「ありがとう。でもいいのよ……ところで、誰とも会ってない?」
「ふぇっ? うん。ずっと一人だったけど」
 その言葉に安堵したのか春川が大きく息をはいて、よかったと呟いた。さよも彩愛もなんだか分からなくて首をかしげる。
「署に行くんでしょ。私達もいくわ」
「え、でもハル姉たち学校は?」
「いいのよ。とにかく早く行きましょう」
 有無をいわさず春川が彩愛の手を握って足早に進み始めた。彩愛はなにがなんだかわからない様子だったが春川の出している威圧から、拒否はできなかった。彩愛は引っ張られるような形で春川の後に続き、さよもなんだかよくわからないままその後ろについた。
 しばらく三人は無言で進んでいたが、ある時、急に春川の足がぴたりと止まった。突然のことにさよはその背中に顔をぶつけてしまったが、それでも春川は一歩も動かず、前方を見つめていた。さよは春川の背中から覗きこむような形で、前方に目をやった。
 傘をさすスーツ姿の男性や、学生服の少女が行き交う中、一人の男がこちらに向かってきていた。ジーパンに、白いシャツ。そしてサングラスとマスク。顔がはっきりと見えない、ただどう考えても不審だった。
 春川が後ろを振り向き、さよも追従すると同じ服装の男性がまたこっちに向かっていた。
「……遅かった」
 春川が苦虫を噛み潰したような顔でそう呟いた。さよはなんだかわからなかったが、とにかく前方と後方の不審な男たちに、得体のしれない恐怖を感じていた。
「二人共、こっち」
 春川が彩愛の手を引いたまま、ビルとビルとの細い隙間に入っていった。
「せ、先輩、あの人達は……」
「今は説明してあげられない。とにかく、逃げなきゃ――」
 ビルの隙間をしばらく進んだ、ちょうど半分くらいのところで、春川がまた足を止めた。彼女たちからすれば出口、反対側からまた一人、さっきの二人と同じ格好をした男が隙間に入ってきたのだ。
 また春川が後ろを振り向く。さっきの二人が、隙間に入ってきていて、道を塞いでいた。
 完全に挟まれていた。
「は、ハル姉ぇ……」
 恐怖と不安から彩愛が泣きだしそうな声をだした。春川はそんな彼女の手をぎゅっと強く握る。まるで、なにかを決意したように。
 後方の二人と、前方の一人は一歩ずつ進んできて、確実に三人との距離を縮めていった。
「二人共、よく聞いて」
 春川が二人だけに聞こえるような絶妙な声量で、そう切り出した。
「私がせーのと言ったら、一気に前に走って。振り返ったり、足を止めたりしちゃ駄目。なにがあっても走り続けて。そしてすぐにレイに連絡をとって、助けを呼ぶの。わかった?」
 春川の説明に彩愛は震えながらも頷いていたが、さよはそうできなかった。なぜなら今の説明ではこの状況を打破できそうにない。走って逃げ切れるかどうかわからないから。
「せ、先輩」
「さよ、あなたの方がお姉さんなんだから任せたわよ。ほら、彩愛ちゃんと手を繋いで」
 さよの呼びかけを無視して春川はさよに彩愛の手を握らせた。
「大丈夫だから。あなたならできるから。ほら、いくわよ」
「先輩……」
 この時、さよは察した。春川が何をするつもりなのか、どうやって状況を打破するつもりなのか。
「せーのっ」
 春川が掛け声をあげて三人は一気に走りだした。前方にいた男が驚いて一瞬身を引いたが、すぐさま向かってくる三人の道を塞ぐように両手をいっぱいに広げた。それでも三人は足を止めなかった。
 助走をつける形で、春川がその男に体当たりをした。二人同時にその場に倒れ込んむと、ドサッという音がして、男が背中を地面に打ち付けた。道が開き、さよと彩愛がそれを通って行く。
「ハル姉っ」
 彩愛が足を止めそうになり、それが失敗だった。後方の一人がすぐそこまで迫ってきていて、スピードを緩めた彩愛に手を伸ばしていた。
 しかしその男もビルの壁にたたきつけられた。起き上がった春川が彼でも力いっぱい体当たりをしたからだ。
「二人共っ、早くっ!」
 春川の叫びで、さよは意を決して繋いだ彩愛の手を引っ張った。
「彩愛ちゃん、走ってっ!」
「で、でも」
「いいからっ!」
 いいわけなかった。けどそうするしかない。じゃないと大変なことになる。
 最後の一人が春川に襲いかかるが、彼女はなんとかその攻撃をよけた。そしてそのまま彼の腹部に蹴りをいれたが、最初に倒した男が起き上がり、その彼女を羽交い絞めにしようとした。
 それと同時に二人目に倒した男が起き上がり、逃げる二人を追おうとしたが、春川が羽交い締めにされたままにも関わらず暴れて、なんとかその彼の足を引っ掛けて転倒させた。
 さよは泣き出す彩愛の手を握ったまま、とにかくその場から離れなければいけないという思いで全力疾走をした。彼女も泣きそうだったが、必死でそれを堪えている。今は、そうじゃない。そんなことをしてる場合じゃない。
 しばらく走ると二人は息が上がってきて、恐る恐る後ろを振り向いた。そこには誰もいない。男たちが追ってくることもなかったが、春川もいなかった。
 そこでようやく足をとめて、ポケットから携帯を取り出した。とにかく誰かに連絡しないといけない。誰か、誰か。
『レイに連絡をとって、助けを呼ぶの。わかった?』
 春川にそう言われたことを思い出して、さよは震えのとまらない指で携帯のボタンを押して、蓮見に電話をかけた。
 彼女の隣では彩愛ちゃんが「ハル姉が、ハル姉が」と泣いている。
『さよちゃん、申し訳ないけど今少し忙し――』
「せ、先輩っ、助けてっ!」
 ようやく電話にでてくれた蓮見が何か言っていたが、そんなこと気にする余裕はなく、気づけばそう叫んでいた。
 混乱のせいで、しばらく会話にならない会話が続いたが、その間も雨脚は強まり、いつの間にかさよも彩愛もびしょ濡れになっていた。
 雨と涙の区別がつかないほどに。



 警察署に一台のパトカーが戻ってきて、それが正面玄関のところで停車した。運転していた警官が出てきて、後部座席の扉をあけると、顔を真っ青にしたさよちゃんと、嗚咽を漏らしている彩愛ちゃんの姿が見えた。
「二人共っ」
 私はすぐに二人にかけよる。全身が濡れていて、さらに震えているが、これが寒さのせいでないことはわかった。
「先輩……」
「レイ姉……」
 二人が同時に抱きついてくる。相当怖い思いをしたのだろうか、私の顔を見た瞬間に涙腺が決壊し、大きな声で泣きだした。
「わかった、わかったから。とにかく中に入ろう。また風邪をひく」
 二人を署の中にいれると、すぐに大きなタオルをもった婦人警官二人が駆け寄ってきて、二人をふき始めた。私は彼女たちに二人を任せて、少し離れたところで事の成り行きを見ていた父のもとへ行った。
「見た感じ、二人に怪我はない」
「そうか……。今、現場付近に警官を派遣して大規模な捜索をしているが……見当たらないそうだ」
「……あの馬鹿」

 あの電話、さよちゃんからのSOSで、なんとか彼女から何が起きたか大雑把に教えてもらった。彼女いわく、三人で署に向かっていたら見知らぬ男三人に囲まれて、彼らから逃げるために春川が囮になったということだった。
 父にそれを話すと、素早い対処をしてくれた。事件現場にいた警察に連絡をとって、二人を捜索するように命令し、警察はすぐさま現場付近でさまよっていた二人を保護した。
 そして今、あの二人は署に連れて来られた。
「レイ、ひとまずお前があの二人からなにがあったか聞き出せ。お前が適任だろう」
「わかった」
 本来なら警察がやることだろうけど、今の二人の様子を見る限り、一番的確に素早く聞き出せるのは私だろう。私はまた二人のもとへ戻った。
 さきほどの婦人警官が「着替えさせたあと、部屋に行かせます」と伝えてきた。私はお願いしますと頭をさげて、その部屋へ向かった。警察が容疑者ではなく、地域住民の相談室として使っている部屋だそうだ。
 そこで少し待っていると、婦人警官に連れられた二人が入ってきた。ジャージをきて、顔が青かった。婦人警官が二人を座らせたあと、頭をさげて部屋から出て行く。
「ちょっと落ち着いたかい?」
 二人の真っ青な顔をみるとそうじゃないことはわかっていた。返答はない。
「きついかもしれないけど、君たちから話を聴かないといけないんだ。なにがあったか、細かく教えてくれるかい」
「わ、わ、わかり……ました」
 そう答えてくれたのはさよちゃんだった。彩愛ちゃんはまだ鼻をグズグズといわせているあたり、ちゃんとした話はまだ聞けそうにない。
「蓮見先輩と別れたところから、話しますね」
「うん、ゆっくりでいいよ」
 さよちゃんは私と別れたあと、やはり春川たちが気になって二人を探したそうだ。そして近くの駐車場で二人を見つけた。そこでは春川と彩愛ちゃんが色々と話していたそうだ。私はその会話の内容も細かく聴きだした。
 そして彩愛ちゃんが現場に戻ったあと、春川はさよちゃんに今日は大学に行かないと伝え、彼女には行くように指示したらしい。彼女がそれに従い、その場を去ろうとした時だったという……。
「先輩の顔色が急に変わったんです」
「顔色が変わった? どんな風に?」
「なんか……信じられないって表情でした。とにかく、何かにすごく驚いてました……」
「それがなにかは分からないんだね?」
 彼女はごめんなさいと謝った。謝ることはない。一番驚いたのは彼女だろう。
「その後は呼びかけても反応してくれなくて……。ただ、誰かに電話をかけてました」
「電話?」
 はっとする。一瞬で背筋が凍り、嫌な汗が頬を流れた。ポケットからスマホを取り出して、着信履歴をみる。間違いなく春川の名前があった。私があの時拒否した電話……。
「せ、先輩?」
「……ごめん、続けてくれ」
 適当に誤魔化して、話しの続きを聞き出すことにした。
 その後は春川が急に走りだして、彩愛ちゃんを探し始め、彼女を見つけてたが、すぐに不審な男たちに囲まれたという。彼らの容貌も聴きだしたが、役にたちそうになかった。
「あとは、電話で……お話し、した、通り……です」
 思い出すのが辛かったんだろう、彼女は声を途切らせながら説明を終えた。私はありがとうと礼を言ってから、今度は彩愛ちゃんに声をかけた。
「彩愛ちゃん、ちょっといいかな?」
 彼女はびくっと反応したあと、恐る恐るという感じで私と目を合わせた。
「レイ姉……ごめん、ハル姉が」
「いいよ。君のせいじゃない。彼女がやったことだ。きっと、君達を逃がすことしか考えてなかったんだよ。目的を達成して、今頃高笑いでもしてるさ。だから、心配しないで」
「……ほんと?」
「今度は本当だ。だから泣かないでくれ。ちょっと君から聞きたいことがある。今のさよちゃんの話し、どこか間違ったところはあったかい?」
 彩愛ちゃんは首を横に大きく振った。
「ない」
「そうかい。なら、君がなにか感じたことはないかな。春川のことでも、男たちのことでもなんでもいいよ」
「わかんないよ……あ、でも、ハル姉がね、レイ姉を呼べって」
「え?」
 よくわからないことを言われてしまい、思わず聞き返してしまうが、すぐにさよちゃんが補足説明をしてくれた。
「春川先輩が言ったんです。『レイに連絡をとって、助けを呼ぶの。わかった?』って」
「そう、それ。私ね、あんな時だったけど、二人って本当に仲が良いんだなって思ったの」
 それだけだという。彩愛ちゃんの話を聞き終えて、私は立ち上がった。
「二人共、ありがとうね。また警察が来て同じことを聞くと思うけど、今と同じように話せばいいから」
 二人が頷くのを確認して、部屋から出ると外で待機していた婦人警官と目があった。
「ここからは一人ずつ別々に聴取します。もし確認したいことがあれば、言ってください」
「大丈夫です。二人、だいぶ参っているので、優しくお願いします」
「かしこまりました」
 私は婦人警官に二人を任せて、父のもとへ向かった。父は受付付近で若い刑事と何か話し込んでいたけど、私を見るとすぐに駆け寄ってきてくれた。
「どうだった?」
「色々聴きだしたよ。説明するね」
 父に二人から聴きだしたことを、全て話した。父の隣で話を聞いていた若い刑事が、必死にメモをとっている。
「以上だよ。もっと細かいことは今聴き出してると思う」
 若い刑事がメモを確認したあと、どこかへ駆けて行った。
「……なるほどな。春川くんはなにか気づいた、そしてそれは信じられないことだった」
「みたいだね。けど、それがなにかは分からない」
「レイ」
「なんだい」
「大丈夫か?」
 顔を覗きこまれて、そう質問された。思わず目をそらしてしまう。
「大丈夫……かもね」
 実際問題、ちっとも大丈夫じゃなかった。未だに心の整理がつかない。この状況をなんとかしなければという思いだけで平常心を保っているだけだ。今、気をぬいたらどうなるかわからない。
 春川のことで頭がいっぱいだった。朝までは会いたくないと思っていた彼女のことが気になって仕方ない。本当ならいますぐにでもバイクに乗って探し回りたい。
 どうして、こんなことに……。
「休んだほうがいい。あとは警察に任せて」
「いやだ、絶対にいやだ。あれは私の……私の……。と、とにかく私が助ける。言ってやりたことが、山ほどあるんだ」
 まるで駄々をこねる子供のようにそう主張すると、父は困った顔をした。
「父上、そういえば桐山さんが自供した件。そっちはどうなってるんだよ?」
 話題をそらすために質問することにした。父は何か言いたそうだったが、難しい表情をしながら応えてくれた。
「あれな。正直、よくわからん。桐山が全て自分の犯行だと突然自供したそうだ。一応、やつの自宅を捜索したら江崎さん殺害に使用されたと思われるトンカチと、大量の新聞紙は見つかったそうだ」
「けど、彼って大村さんの事件のときにアリバイあるよね?」
 あの事件は桐山さんだけじゃなく、事件関係者全員にアリバイがあったはずだ。
「その件は黙秘している。ただ、代表代行を殺したのは自分だと主張しているらしい」
 なんだか、よくわからない。私がうーんと声を出して悩みだすと、父がぽんっと肩に手を置いてきた。
「レイ、お前は今、春川くんのことに集中しろ」
「集中って……」
「春川くんはお前になにかを託したんだ。それがなにかわかるのは、お前だけだぞ」
 若い刑事が父を呼び、父はその彼の元へと行った。一人その場に残された私は、言いようのない虚無感に襲われる。それは私の心を蝕んでいく。不安と恐怖と後悔で、胸がはちきれそうになる。
『レイに連絡をとって、助けを呼ぶの。わかった?』
 春川は二人にそう言ったという。彼女は無意味にそんなことを言わない。助けを呼ぶなら警察でも、誰でもいいわけだ。わざわざ私という個人名を出した以上、それに何か意味があるはずだ。
 けど、どういう?
 スマホを取り出して、さっきの履歴を見る。着信を拒否してしまった、春川からコール。あの時彼女は何かを伝えようとした。どうしてそれを、無下にしてしまったのか。子供っぽい感情のせいでとんでもないことをしてしまった……。
「春川……」
 どこまでも真面目で、優しく、目的のためなら手段を選ばない、そんな私の親友……。ちょっとした食い違いが許せなくて、それをずっと引きずって、結果がこのザマだ。
 彼女が私を求めたときでさえ、それを拒んだ。
 ポケットからタバコを取り出す。署内は禁煙なので、正面玄関から一度外に出る。相変わらず雨が降っていて、肌寒い風が吹いていた。そんな中、タバコに火をつける。ただ、いつもはおいしいタバコも今ばかりは全然味など感じなかった。なにも、感じれない。
 スマホを手にし、春川に電話をかけてみる。何度もコール音はするが、出る気配はない。
 出ない。出て、くれない。あまりの虚しさに胸が締め付けられるような思いになる。きっと、春川もこんな気持ちだったんだろう。
「クソッ!」
 スマホを振り上げて、力任せに地面に叩きつけた。鈍い音がして、表面のガラスがわれ、蜘蛛の巣のようなひびがはいる。
 それを拾い上げると、また虚しさに襲われ、ため息をついた。
「何を考えてるんだ、私は……」
 冷静になれ、私。悔いてる暇はないだろ。彼女が気づいたことはなんだ、それを考えろ。彼女を助けるには絶対にそれが必要だ。犯人は誰だ。それを突き止めれば、彼女の居場所だってわかるはずだ。
 なんだ、彼女は何に気づいたんだ?
『お前と春川君は水と油に見える』
 不意に、教授の言葉を思い出した。私と春川が似ていないと指摘したとき、そう表現した。
 ぶんぶんと頭を振って、その思考を追いだそうとする。そんなこと思い出してる場合じゃないのに、どうしてもあの言葉が頭から出ていかない。
 しかし教授、本当に私たちのことを見事に見抜いていたわけだ。真面目だが不誠実な彼女と、真面目じゃないが誠実な私。たしかに、似てるようで全然似ていない。
「――うん?」
 その時、頭の中にひらめきがあって、思わず顔をあげる。そして次の瞬間、体中に雷で打たれたみたいな衝撃が走る。疑問が、違和感が、頭の中から消えていく。しかし同時に震えが止まらなくなった。うそだ、そんな……。
 けど否定できない。だから彼はああして、彼らはあんなことをしていたんだ。そしてそれが答えなら全て繋がる。点は線になり、最終的に円になる。そう、どこかへ繋がるんじゃない、元の場所へ戻るんだ。
 ガラスケース――。そうか、違ったんだ。周りの景色がぼやけていたのは、そこに閉じ込められていたのは……私だったんだ。
 すべての答えが、完全に脳内で描かれた。
「――っ!」
 今自分がだした結論が信じられなくて、声にならない声をあげた。
すぐに私は署の中に戻り、さっきの部屋に駆けて行った。そしてノックもせずに扉を開ける。室内には彩愛ちゃんはいなくて、さよちゃんと婦人警官だけがいて、私の乱入に二人して驚いている。
「せ、先輩、どうかし」
「さよちゃん、確認させてくれ。すぐに終わるからっ。いいかい、よく思い出してくれ」
 私はさよちゃんに一つだけ質問をする。それはあることについての確認だった。彼女は私の質問に首をかしげながらも「はい、間違いありません」と答えた。
「そうかい、ありがとう」 
 部屋から出てさっき画面を割ったばかりのスマホを取り出して、ある人に電話をかけると、その人はすぐにでた。
『はい、矢倉でございます』
「蓮見だ。教祖と話したい。代わってくれ」
 矢倉さんは返答することなく、保留にした。しばらくして『なんだ』という、あの冷たくて人間味のない声が聞こえた。
『何か用でもあるのか、蓮見』
「教祖、あなたから聞きたいことがある。署に来てくれ」
『面倒だな。聞きたいことがあるならお前たちがくるといい。ホールを開放しておこう。大蔵にも来るように命令する。あとは、お前たちに任せる。これでいいか?』
「わかった。ならすぐに行く。――教祖」
『なんだ』
 私は必死で、胸の内からあふれ出しそうな、爆発しそうな、ありとあらゆる感情を抑え込みながら、たった一言絞り出した。
「……許さないからな」
 相手の返事を聞く前に通話を終えた。スマホをポケットにしまうと同時に「レイ」と呼ばれた。父がこちらに駆け寄ってくる。
「なんだ、なにかあったのか」
「父上、協会本部へ行こう。関係者全員、そこに集める」
 父はすぐに私が何かに気づいたことを察したらしく、反論もせず一度だけしっかりと頷いてくれた。
「それと確認して欲しいことがある。脅迫状の件だけどね――」
 あることを告げると、父は信じられないという表情をしたが、私の推理が正しければ間違いないはずだ。最後の脅迫状が存在し、そしてそれはあそこにあるだろう。警察なら見つけられるはずだ。
 父は電話を取り出して誰かに連絡をとり、すぐにそれを確認するよう頼んでくれた。そして通話を終え、真剣な眼差しを私に向ける。
「なにがわかったんだ?」
「なにがってほどのことじゃないさ。いやそもそも、大きな勘違いをしてただけだ。させられていたというべきか。とにかく、そのマジックショーの仕掛けに気づいたのさ」
 そう、大きな勘違い。あれは最初から正しかったんだ。それなのにそれを強制的にゆがめていたんだ、あの人が。とんでもない、冷静に考えてありえない。
「どうする気だ?」
「どうするって決まってるじゃないか」
 私はキザに笑ってやる。どうやら、ちょっと調子が戻ってきたみたいだ。
「このふざけた舞台に幕を下ろすのさ」
 当然――。
「アンコールは、なしだ」
 大きな雷鳴がして、強烈な雷光が窓から入ってきて私を照らした。



 春川はゆっくりと目を開けた。
「痛っ」
 まぶたに激しい痛みが走った。どうやらあの揉み合いのときに相当強く殴られたらしい。無我夢中で自分がどれだけ相手に攻撃を加えたかも、加えられたかもはっきりと覚えていない。ただ、三人相手、しかも全員男だったので、二人が逃げたあとは防戦一方になったので、殴られた数のほうが圧倒的に多いだろう。
 彼女は薄暗い部屋にいた。部屋というか、箱のような場所だ。真四角で、狭い場所。天井の高さも二メートルほどしかない。そんなところで、彼女は手足を拘束された状態で、転がされていた。
 ゆっくりと起き上がり、壁に背を預ける形で、なんとか座るような姿勢をとった。
 全身が痛い。口には血の味が広がっている。そしてどこか意識が遠い。頭がぼうっとするから、きっと睡眠薬かなにか飲まされたのだろう。
 暗い部屋の中には彼女しかいない。自分が持っていた荷物さえない。
「よかった……」
 ここに自分しかいないということは、さよと彩愛は逃げ切れたということだ。捨て身の作戦は報われた。あとは、彼女たちがレイに連絡していれば、警察が彼女たちを保護してくれたはずだ。
 あとは、レイが「あのこと」に気づくかどうか。それが全て。
 部屋の中を見渡す。出口はたった一つ、鋼鉄の扉があるだけ。その扉を囲むように、隙間を作らないため、無駄なくしっかりとガムテープが貼られていた。
 口は塞がれていない。春川は少し口が痛いのを我慢して大声を出したが、それは室内に反響するばかりで、外に届いていないのがよくわかった。予想できたことなので落胆はしない。
 手足を拘束されたうえ、声も届かない。そして自分がどこにいるのかもわからない。もはや自力でどうにもならないことは簡単に理解できた。
 彼女は絶望しない。泣くようなこともない。気持ちを強くして、いつも通りの自分でいるように心に言い聞かせた。
 長期戦になるかもしれないと彼女が覚悟した時、どこからか水の流れる音がした。彼女が音のした方を見ると、部屋の隅に拳ほどの穴があり、今まさにそこから水が流れ出し、部屋の中に入ってきた。
 思わず背筋が凍った。大慌てで扉を見ると、隙間を作らないように丁寧に何重にも貼られたガムテープが目に入った。
 瞬時に理解した。犯人はここで自分を始末する気だ。直接手は出さず、この部屋を水で満たして、溺死させるつもりだ。
 水は着実に室内に入っていき、しばらくして彼女の足元にも届き、無慈悲に彼女の周りを浸していく。ズボンが濡れ、一気に体が冷えていく。冷たくて、怖くなる。だが今の自分にこの状況を打破することはできない。
 彼女は、笑った。小さく笑った。狂ったわけじゃない。それは「自信」だった。こんな絶望的状況さえどうってことないと思える自信が彼女にはあり、そんな嘘みたいな、馬鹿らしい自信を持っている自分がおかしかった。
 それでも彼女は自分を疑わない。自分が信じたものを、疑うはずもない。
「ふふっ……信じてるからね」
 そうつぶやく。誰を、とは言わない。言う必要がない。
 それは彼女が生まれて初めて、自分の命運の全てを他人に任せた瞬間だった。

 どこかで大きな雷が鳴った。


 
 教祖の命令通り、『Cross Hall』は開放されていて、私が到着した時にはすでにそこに大蔵さん、矢倉さん、そして二人から少し離れたところに机の上で退屈そうに立っている教祖がいた。入ってきた私を見ると、唇を曲げて笑う。
「遅かったな」
「色々あったんだよ。すぐに警察も来る、そしたら話を始めよう。先に訊いておくけど、言っておきたいことはあるかい?」
「ないな。あったところで口に出さない。そもそも言いたいことがあるのはお前だろう。時間と場所は与えてやる、好きなようにやれ。もうここはお前の独壇場だ。演説でもなんでもやるといいぞ。聞いてやる。もちろん――」
 彼はそこで言葉を区切って、机の上から飛び降りた。そして私の元へ寄ってくる。
「否定してやろう」
「……できるものならね」
 丁度その時、ホールに新しく人が入ってきた。最初は警官二人に両脇を拘束された桐山さん。ずっと俯いていたのに、入室した途端に教祖を見る。ただ教祖はなんの反応もしめさない。まるで興味がないみたいに。
 桐山さんは私たちと距離をとるため部屋の隅につれていかれ、そこに座らされた。
 そして続いて入ってきたのが、父と婦人警官に連れられたさよちゃんと彩愛ちゃん。二人共、なにがどうなっているのかわからない様子で、目をきょろきょろとさせている。
 二人は婦人警官に連れ添われる形で、桐山さんとは反対側の隅に連れて行かれ、そこで椅子に座る。
 そして父が二人を守るように側に立った。
「さて蓮見よ、役者は揃ったようだぞ。矢倉、扉を閉めろ」
 矢倉さんが一礼し、命令通りに扉を閉めると、即座にもといた場所に戻った。
 ホール全体をゆっくりと見渡す。相変わらず不機嫌そうな大倉さん、そしてロボットのような無表情の矢倉さん。警官二人に挟まれ、すがるような目で教祖を見つめている桐山さん。未だにこの場に混乱しているさよちゃんに、細くとがらせた視線で教祖を睨み付ける彩愛ちゃん。そして静観することを決め、腕組みをして壁にもたれかかっている父。最後に、これから起こることを想像してか、あの嫌らしい笑みを浮かべる教祖。
 一瞬だけ目を閉じて、本来この場にいるべきもう一人のことを思い巡らす。今何をしているのか、どこにいるのかもわからない彼女に、届かないとは分かっていながら、心の中で言ってやる。――信じて待ってろ、このばか。
 目を開けて、心を決めて、小さく息を吸い込んだ。そしてホールに響く声で、私はフィナーレの挨拶をする。
「じゃあ、早速始めよう。私も早く会いたい人がいるんでね」
 さあ、この長くてふざけたショーに幕引きをしてやろう。
 拍手なんてせずに。

 まずカバンから父から預かったあのファイルを取り出し、最初の事件のところを開けた。
「大村さん殺害事件についてから話を始めようか。桐山さん、あなたは彼を殺したと自供したようだけど、それは間違いないね?」
 桐山さんは俯いたまま、頷いた。
「ふーん。でもあなたには、いやあなただけじゃなくて協会関係者全員、あの事件のアリバイがあると資料に書いてある。あなたはどうやって、彼を殺害したんだい?」
 彼は答えない。俯いたままだ。隣の警官の一人が答えるように促すが、それでも無口を貫いた。
「答えられないようだね。あなた、犯人じゃないだろ?」
「と、と、トリックだ。トリックを使った」
「どんな?」
 なんとか答えた彼にまた質問する。今度も答えない。本当に口から出任せだ。
「……言わない。僕には、黙秘権がある」
「言わない? ふざけるんじゃないよこの野郎。言わないじゃないだろ、言えないんだろ。推理小説じゃあるまいし、そんな都合のいいトリックなんか存在してたまるか」
 彼は答えず、また無口に戻った。彼の証言は嘘だ。問題は嘘の範囲。どこからどこまでか。彼は事件のすべてを自分の犯行だと自供してた。一応これで一つ否定されたわけだ。
「あなたにはアリバイがある、そしてそれを崩せない。おかしな話さ。本来なら事件を解く方が崩すアリバイを、犯人だと自供するあなたが崩せない。けどこれであなたが犯人でないことは証明される。あなたの自供は嘘だ」
 アリバイを崩し、あなたが犯人だと犯人を指差す探偵を物語の中でたくさん見てきた。しかし今回は逆だ。彼にアリバイがある、ゆえに彼は犯人になり得ない。結果として彼は自らの無罪を証明してしまう、望まないのに。
「しかし蓮見よ、ならば桐山の家から見つかった凶器はどうなる? 話によれば、江崎を殺した凶器をあいつは持っていたそうだぞ」
「それは後で話す。ところで教祖、確認したい。協会関係者全員というのは、あなたと矢倉さんも含めてだよね?」
「ああ、そのはずだ。大村の事件のときにさんざん聴取されたな。少なくとも一般信者以外の人間はアリバイ確認されたはずだ。俺も矢倉も例外ではない」
 父に目を向けると、間違いないというように、力強く頷いた。なるほど。
「父上、警察は一旦大村さんの事件を協会とは無関係としたよね?」
「ああ、そうだ。お前が初めて協会を訪れたころには、もうそうなっていたし、警察は『最終警告だ』のメッセージが見つかるまで、あの事件と協会は無関係だとしていた」
 私は何度も小さく頷く。そうだ、そうだった。初めて立浪さんに会った時、彼は協会の無罪は証明されていると言っていたし、その証拠に警察も教会にいなかった。メッセージが見つかるまで、協会と事件は無関係だった……。
 シナリオ通りに。
「じゃあ……そういうことだね。事件は解決しないけど、謎は一つ解けた」
 私はファイルから大村さんの事件の資料を取り出すと、それを放り投げた。資料がゆらゆらと宙を舞ったあと、床に落ちていく。
「この事件に協会は一切関与してない。犯人は、あなた方の中にいない」
 これで一つの謎が排除される。

「ちょ、ちょっと待て」
 抗議の声をまずあげたのは父だった。血相を変えて焦っている。
「いないってどういうことだ」
「そのままだよ。協会は事件と関与していない。警察の捜査通り、大村さんを殺害したのは協会とは無関係の誰かだろうね。あとは父上たちに任せる」
 投げやりになった私がおかしかったのか、教祖があははと笑った。気に食わない。
「あはは、面白い話だな、蓮見。警察の捜査が最初から正しかった。なるほど、納得はいくな。なにせ警察は優秀だ」
 そう、彼の言う通り警察は優秀だ。いつか私は、こう思っていたじゃないか。あれは確か、水島さんの事件の後に立浪さんと話し合いをしたときだったかな。
『推理小説なら探偵が警察より優秀なんだけど、残念、そんなのはフィクションさ。探偵の頭だけで、警察の組織力や科学調査を上回ろうなんて、十九世紀初頭のイギリスで終わってる。シャーロック・ホームズが、最初で最後だ』って。
 あれこそ、これのヒントみたいなもの。
 警察は事件を協会とは無関係だと、調査した上で結論を出していた。ならそれが正しいと捉えて当然だ。二度目だけど、推理小説じゃないんだから。複雑に考えなくていい。警察という立派な調査機関が出した答えがそれなら、それを踏まえて推理すべきだった。
 しかし、とうの警察である父は納得しないようだけど。
「メッセージはどうする。『最終警告だ』というメッセージが見つかっているぞ」
「そうだね、見つかったよ。私が探してくれと頼んだら、待ってましたといわんばかりに出てきた。全く……できすぎだったんだよ。そこを疑うべきだった」
 そう、初めてここで話し合いをしたときはパソコンのデータに特別な異常は見当たらなかったと言っていたのに、その二日後、まるで用意していたみたいに異常を見つけてきた。実際、用意してたんだろうね。
「あれは、協会と事件をつなげるために作られたフェイクだったんだ。あのメッセージがないと水島さんとかの事件と、大村さんの事件は無関係だったからね。事件をつなげるために、ニセのメッセージを作った。そうだろ?」
 目の前の教祖にそう尋ねるが、彼はわざとらしく肩をすくめた。
「俺は知らんな。そもそもそのメッセージをお前に届けたのは、立浪じゃないか」
「そうだね。だから、メッセージを偽造したのは彼だろう」
 ガタッという音が鳴った。彩愛ちゃんが口元を抑えて立ち上がっている。父親が犯罪に関わっていたと聞かされて驚いたのだろう。しかし、これは否定してやれない。彼がそうしたのは事実だから。
 婦人警官がなだめながら彩愛ちゃんを座らせる。
「問題は誰の指示でそうしたかってことだよ、教祖。あなた以外にいないんだけど……もう死人に口なしだから。確認しようもない」
「そうだな。あの娘には悪いが、あれが勝手にやったということににしよう」
 全く悪いとは思っていないのだろう。放心している彩愛ちゃんの方をニヤニヤしながら見ている。
「彼女を見るな、穢らわしい。次の話にうつる。なら問題は、なぜ彼は偽造のメッセージまで作って、本来協会と無関係の事件と水島さんたちの事件をつなげようとしたのか」
 それは明らかにおかしな行動だ。せっかく協会は白だと証明された事件なのに、黒く染める必要は普通に考えればない。そんなことをしても、いいことは欠片もないはずだ。
「なぜだ?」
「簡単だね。大村さんの事件は明確に殺人だ。第三者によって協会の関係者が殺されたという、事件だ。しかも協会の関係者の無罪は証明されている。なら……なら、その事件と他の事件を繋げれば、結果として協会関係者の無罪は証明されるんじゃないかな?」
 Aという事件とBという事件が発生したと考えよう。そしてAとBの犯人は同じだとする。ならAの犯人ではないとされた人物は、同時にBの犯人でもないとされる。もし、こうなることを狙えばメッセージを偽造する理由になりえる。
「大村さんの事件を黒に戻すことで、他の事件を白にする。それが狙いだったんだろうね」
 大村さんの意見を協会の犯行だと考えるとアリバイがでてきて行き詰まる。そしてその事件を他の事件と繋げると、同じようになってしまう。
 これが連続殺人だとすれば、そうなってしまう。けどそうじゃない、これはそれにみせかけた全く別々の事件。それを「メッセージ」というもので強制的に結びつけただけ。雑だけど、これにあることを利用して「力」を作用させたんだ。あることは、あとで。
「蓮見、やはりお前は面白いな。お前の介入を許したのは大正解だったようだな。なるほど、立浪はそういう意志でメッセージを偽造したのか。なら、犯人は立浪だな」
「ち、違うわよっ! パパはそんなことしないもんっ!」
 教祖の言葉に彩愛ちゃんが激しく反応し、また立ちあがり大声を張り上げる。その様子が面白いのか、また彼が笑う。
「だが立浪の娘、じゃあなぜお前の父はそうしたんだろうな? うん?」
「そ、そ、それは……」
「娘なのだから父親の意志くらいわかるんじゃないか? どうしたんだ? なにか知っていることがあるなら、言ってみろ。ほら、喋るといい」
「彩愛ちゃん、喋ることはない。私が言うから、座りなさい。あと教祖、次にその口であの子になにか言ってみろ。ぶん殴るからな」
 熱くなったせいでの教祖に遊ばれた彩愛ちゃんを落ち着かせる。彼女はまだ言いたいことがあっただろうが、私の指示にしたがってくれた。横でさよちゃんが彼女の頭を撫でる。
「立浪さんは事件の犯人じゃない。証明してあげるよ」
 私はファイルのまた別のところを開ける。そこには水島さんの事件の資料があった。
「次の事件だ。まず水島さんが殺された事件、立浪さんは犯人じゃない。なぜなら彼はあの時協会にいたからね。それは確か……矢倉さん、あなたが証明できたんじゃないかな?」
 矢倉さんにそう質問すると彼女は、静かに「はい」と答えた。
「あの日、私と立浪様は協会にいました。警察からの連絡を受けた時も二人でいましたので、間違いありません」
 そう、確か立浪さんから聞いた。あの日、立浪さんは協会にこもって仕事をしていて、矢倉さんが帰る直前に立浪さんの部屋を訪れたときに電話がかかって来たと。これでアリバイ成立。彼は無罪だ。
「満足かい?」
「まあ、そうしておこう。だが、立浪はなんのためにメッセージを偽造したんだ。水島の事件も大村の事件もやつに関係ないことだったのに」
「そうだね。普通に考えればそんなことをする必要はない。そう、彼が家族を犠牲にしてまで協会に献身していたという事実がなければ、理解不能だった」
 また彩愛ちゃんが反応し、今度は教祖も少し眉を釣り上げるくらいの反応は示した。
「協会のため、そうした。ここは宗教団体で、彼は強い信者だ。もしそれが協会のためと思えば、そうするだろう。ないしは……誰かに命じられたらね」
 私は教祖から離れ、かつかつと足音をたてながら桐山さんに近づく。俯いて座っていた彼が私を見上げる。
「ここにこうして、身を呈してまで協会を守ろうとしている信者もいるんだ。彼がそういう行動をとってもおかしくはないよね」
「ち、違う、俺は俺は」
「うるさいよ。もう嘘をつくのは迷惑だからやめてくれ。全く……あなたみたいな人が先輩とはね、後輩として恥ずかしいよ」
 私は言いたいことだけ吐き捨てて、彼に背を向けた。
「ではなぜ、それが協会のためになるのかって話しになるね」
「当然だな」
「簡単だよ。水島さん以後の事件は確実に協会が関わっていたからだ。しかも、かなり深く。けどそれだけじゃおかしな話になるよね?」
 その場にいた全員に問いかけるけど、返答したのは一人だけ。ふんっと鼻を鳴らしたのは大蔵さんだった。
「おかしいことはない。桐山が自供通り犯人なら、立浪はそれをかばうために偽造したんだ。協会の汚点になるからな」
「相変わらず馬鹿言ってるね、大蔵さん。それはありえないんだよ」
「なぜだっ」
「だって自分も殺されるかもしれないのに、それを庇うのかい? 水島さんの事件では脅迫状が残っていた。そして脅迫状は代表代行全員に届いていた。つまり、水島さんが殺されたということは、自分もそうなるかもしれないとわかっていたんだ。それなのにその犯人を庇うかい? そもそも桐山さんが犯人としても、立浪さんはどうやってそれを知り得るんだよ?」
 たたみかけるようにそう言ってやると、彼は「うっ」と言葉を詰まらせた。
「桐山さんじゃなくても、水島さんが殺された以上、代表代行の誰かが犯人なら立浪さんは警察につきだしたはずだよ。そうしないと自らの命はもちろん、他の代行も危ない。そしてそれは協会にとってデメリットだからね」
 しかし、と私は言葉を続けた。そしてまた教祖の元へ歩んでいく。
「あなたなら、話は別だ」
 少し見上げる姿勢で、私は教祖を指さした。
「あなたが事件に関与していたのなら、謎はない。あなたが捕まれば協会は崩壊する。そんなことを彼が許すはずない。そしてあなたが犯人なら、きっと彼は全力で庇ったはずだ」
 むしろ、それしか答えはない。代表代行が殺されている以上、この男だけが答えだ。
 教祖はにやにやと笑っている。まるで、そう言われることを予想していたみたいに。
「論理として、それは通用するな。しかし蓮見よ、お前は大事な見落としをしている。なあ刑事、俺にも水島の事件のアリバイがあったはずだ。父親として娘に教えてやれ」
 父は私の方を見て頷く。教祖の言っていることは間違いないということだろう。
「あなたのアリバイなら立浪さんから聞いているよ」
「ああ、名前は忘れたが信者の交流の手伝いをしていた」
「そんなのは無意味だ。アリバイなんて興味はないよ、必要ないからね」
 私はファイルの水島さんの自宅の写真が収められているページを開いた。警察が事件後に撮った物だ。私達があそこを訪れたときと変わらない部屋が写っている。
「教祖、あなたがヒントをくれたんだよ」
 その言葉に教祖は初めて、首をかしげた。私は笑ってやる。これはこの男が犯した、数少ない失態だからね。喋りすぎたこと、後悔するといい。
「私は水島さんの自宅へ行ったとき、なにかを感じた。何かが足りない、欠けていると思ったんだ。さて教祖、そしてみんな、この写真を見て何が欠けているかわかるかな」
 ファイルを掲げて、その写真を全員に見せてみるが返答はない。大蔵さんと桐山さんははじめからこちらなど見ていないし、矢倉さんは見たがすぐに首を左右に振った。
 しかし教祖だけは違った。眉を吊り上げて、そして顔をしかめて舌打ちをする。
「やっぱりね……教祖、私が感じた『足りないもの』がわかったようだね」
「レイ、お前は何を――」
「父上、私が感じた『足りなかったもの』はね……」
 私は写真を見る。片付けられた部屋、綺麗に並べられた靴、写真立てがおかれたテーブル……。
「――生活感、だよ」

 そう、あまりにも綺麗すぎたんだ、あそこは。とても一人暮らしの男の家じゃなかった。ずっとそれが気になっていたんだ。
 壁にかけられていたアンティークの古時計は埃をかぶっていなくて、他には目がおかしくなるんじゃないかと思うほどの白い壁。それらがずっと、私の中でひっかかっていたんだろう。
「教祖、あなたが今日言ったよね。水島さんは整理整頓なんかしないって」
 そう、数時間前にこの男が言った言葉だ。
『水島はがさつな男だったな、片付けや整理整頓といったことが嫌いな男だった』
 彼は間違いなく、こう口にした。
「そんな人の家がどうしてこんなに綺麗なんだよ、おかしいだろう?」
 教祖は答えない。冷たい視線でこちらを見下ろしていた。
「答えは、一つだよね」
 その視線に臆することなく教祖を見上げる。睨みつけるように、目を鋭くさせて。
「水島さんは自殺だ」

「おいおい、小娘っ、なにを言っているんだっ」
 抗議の声を最初にあげたのは大蔵さんで、立ち上がって足音をたてながらこちらに向かってくる。そして私からファイルを奪い取ると、別のページを開けた。そこには水島さんの遺体の写真があった。
「水島は燃やされていたんぞっ、それが自分でできるのかっ!」
「蓮見様、それだけではありません。水島様の体内からは睡眠薬が検出されています」
 大蔵さんが怒鳴り散らし、割って入った矢倉さんがつけたした。
「そして、手足には手錠がされていました。自殺は不可能でしょう」
「ああそうだね。そうだよ、全くその通りだよ。それだけ見ると、殺人だよ」
 私は認める。事実、私だって今の今までこれを殺人事件と疑わなかったのだから。
「というか、まるで殺人だって主張してるみたいだよね、教祖?」
 私は意地悪く彼にそう同意を求めるけど、返答はない。
「実を言うと、この事件にはある矛盾が存在していた。いいかい? 水島さんは手足を拘束されて、体内から睡眠薬が見つかっている、そして焼き殺されていた。父上、他に傷はあったかい?」
「ない。暴行されたあとは見つかってない」
 これもちゃんとファイルに書かれていた。私は大蔵さんからファイルを奪い返す。
「水島さんは私達と別れた後、どこかへ出かけた。それがどこかは不明だね。けどやったことはわかる。自ら睡眠薬を飲み眠った。そして起きて、事件現場に移動し、自ら灯油を浴びて、それから手と足に手錠をはめた。その後、ライターで火をつける。これくらいの動作なら手足を拘束されていてもできるし、もしも彼がこれを短時間でやれば体内から睡眠薬だって見つかる。偽装殺人のできあがりさ」
 わざとらしく私達に「この後人と会う約束がある」なんて言ったのも偽装の一つ。だからこそ手帳や携帯に誰かと会う約束が記されていなかった。事件さえ起きれば私達が聴取されるのは明らかで、そこで不審な第三者が出てくれば、疑われるに決まってる。
 あの時から彼の心は決まっていた。だからこそ、家の中は綺麗に片付いていたんだ。最後くらいは綺麗にしておきたかったんだろう。しかし、それが私に目にはおかしく見えた。
「そもそも手足を拘束されていたのに、他に何もされていないなんて、おかしいだろ」
 私はファイルの死体の写真を大蔵さんと矢倉さんに見せつけた。
「もしこれが殺人だとすれば、こんなむごい殺され方をしてるんだ。もっと暴行されているはずだよ」
「そ、そんなものっ、お前の推測にすぎないだろうっ」
「そうだね。それは一理あるよ。けど、ここにある要素を加えれば、この事件の矛盾はさらに浮き彫りになる。わかるかい?」
 そう尋ねても答えがないことくらいわかっていた。二人は眉間にしわを寄せ顎に手をあてて考え込んだけど、結局黙りこんでしまった。私は教祖に向き直る。
「あなたはわかるかな? さっきから静かだけど」
「……薬か」
 教祖が一言だけ呟いた。思わずふふっと笑ってしまう。この男は気づいたようだ。
「そう、睡眠薬。これは明らかに矛盾だね」
 どうやら教祖以外は何が矛盾か、まだわかっていないらしい。私はファイルのページをかえる。今度は守島さんの事件のページ。彼女の遺体と、毒が混入されていた小瓶の写真が挟まれていて、それをまた全員に見せつけた。
「これは守島さんの事件の写真と詳細。これで、わかったかな?」
「……あっ」
 そう声を漏らしたのは、本来この場にいるのが少し場違いな、さよちゃんだった。いや第三者だからこそ、この矛盾にいち早く気づけたのかもしれない。
「さよちゃん、せっかくだ。ここの大人たちに、何がおかしいか教えてあげて」
 彼女は突然そんなことを言われてたせいで、またいつもの軽度のパニックになってしまったが、覚束ない口調でその矛盾を口に出した。
「あの……私、事件についてあんまり知らないんですけど……犯人が、毒を持っていたなら、睡眠薬なんてのませず、毒をのませれば……」
 さよちゃんの提唱に大蔵さんと矢倉さんが明らかに動揺した。大蔵さんがさよちゃんの方を向き「知ったような口をきくなっ」と怒鳴り、矢倉さんは顔を少し青くした。怒鳴られたさよちゃんが思わず身を小さくする。
「大蔵さん、次に似たような真似をしてみろ。許さないからな」
「なっ」
「もういい話を進めるよ。そうだよ、彼女言う通りだ。殺人者がいたと仮定するなら、毒を持っていたことになる。なのになんで、水島さんにそれを使わず、わざわざ睡眠薬を使って、手間をかけて焼殺なんてしてるんだよ。これは明確な矛盾だろ」
 犯人からすれば殺人なんてなるべく手間をかけずにやりたいはず。その方が証拠も残りづらい。それなのにどうしてそんなことをしたか。答えは一つだ。
「睡眠薬は殺人にみせかけるための偽装だ」
「蓮見様、もしかしたら犯人が強い恨みを水島様に持っていたかもしれませんよ」
「矢倉さん、混乱しているね。さっき言ったろう、暴行されていない。焼き殺してやりたいほど恨みがある男が目の前で眠っていたり、手足を拘束されていたりして、犯人はなんにもしなかったっていうのかい?」
 それだって矛盾になる。二つの事件を繋げたら、どうしたって矛盾が生まれる構造だ。矢倉さんは反論できず、そのまま目をふせて黙ってしまった。
 次に口を開いたのは教祖だった。
「ならば、守島の事件も自殺だというのか? そしてお前はそれを証明できるのか?」
「できるね。あの事件だって明確な矛盾が存在するから」
 私はまたファイルのページをかえる。今度は守島さん宛に残されたメッセージが出てくる。『厳罰が下った』――そう記された紙。
「これが見つかったのは守島さんの自宅だ。おかしいと思わないか?」
 私が同意を求めても誰も何も言わない。教祖だけが鼻で笑った。
「おかしくないか? どうして犯人は自宅になんて残したんだよ? リスキーじゃないか」
「バカを言うな、お前は。守島は常に持っていた小瓶に毒を仕込まれたんだ。犯人からすればそんなことはリスクでもなんでもなかったんじゃないか?」
 そう、毒は彼女が常に持っていた薬の小瓶から見つかった。ゆえに犯人からすれば自宅の合鍵をつくることも容易かっただろう。特別なリスクではないというのも理解できる。
「それでもおかしいよ。犯人はいつでも彼女の自宅に入ることができたということになる。ならばなんで毒殺?」
「なぜかだと。簡単だ、毒殺がいいだろう。いつ混入されたか分からない、それは犯人にとって有利でないか?」
「いいや、有利じゃない。なぜならそれは、犯人にとって自分が追い詰められたとき、アリバイが証明できないってことだ。そのことをリスクだと捉えなくても、自宅におく意味はない。最初、私がここで代表代行と顔を合わせた時、彼女はこう言っていたんだよ」
 私はあの時のことを思い出す。そう、彼女に届いた脅迫状を見せてもらい、私がどうやって届いたか質問したときだった。彼女は確かに、はっきりとこう答えた。
『家のドアに封筒にいれて糊付けされてたわ。ちょっとドアが汚れて、イライラしたわね』
 彼女の家にポストはないからそうなったという話しだった。しかし、おかしい。
「なんで犯人は最初の脅迫状を届けた時、封筒にいれて糊付けしただけなのに、次は自宅に入ったんだよ。おかしいじゃないか。もし脅迫状の犯人と、殺人者が同一人物だとするなら、これは明確な矛盾だね」
 自宅に入るメリットが、本当に存在しない。できるかできないかの話をするなら、できたかもしれない。しかし、それをしたところでどうもならない。カバンに入っていた小瓶に毒を仕込めたなら、カバンに忍ばせることもできたはずだ。自宅におく意味などない。
 それでもそうした理由はなんだ。
「じゃあ、どうして脅迫状は自宅におかれていたか。簡単だね。それが一番、自然だったからだよ。そして自宅に脅迫状をおくのが、自然だと思う人物は誰か。大蔵さんが言っていたよね、代表代行は全員一人暮らしだって。なら答えは出た」
 私はファイルを閉じて、小さく息を吸った後断言する。
「守島さんも自殺だ。この二つの事件は、連続殺人にみせかけた連続自殺だ」

 4

「冷たい……」
 春川は思わずそう呟いた。水はもう自分の腰あたりまで迫ってきて、彼女は手足を拘束された状態だが、なんとか立って、それをしのいでいた。
 体のバランスを崩せばころび、そして起き上がれなくなる。それは死を意味していた。彼女は今、自分の体勢をたもつのに集中しなければならなかった。
 それでも確実に冷水が彼女の体温を奪っていく。さっきから震えが止まらない。もともと今日は雨、そして彼女は彩愛を探すためにびしょ濡れになった。
 奥歯の震えが止まらない。
 自分が思っていた以上に、これは厳しい状況かもしれない。そう理解したが、だからといってどうすることもできない。彼女に今できることは、ただひたすらこの状況を耐えることだけ。助けはくる、そう信じて。
 早く――。



「面白い推論だが、理解できないな。自分が何をいっているか理解しているか、蓮見よ」
「当然してるよ。大村さんは第三者に殺されて、水島さんと守島さんはそもそも殺されてもいない。それだけさ。そして、おそらくそれを命じたのは……あなただよね、教祖」
 それしかありえなかった。二人同時に殺人にみせかけた自殺をするなんて偶然なわけがない。明らかに意図的で、計画性がある。そう、組織的な犯行――そう見るのが妥当だ。
「ふふ、俺が命じたら死ぬのか、あいつらは。ははははっ」
 教祖が面白そうに手を叩いて笑うが、その行為が私の中で怒りを爆発させた。
「あなた以外にできないだろうっ! なにが面白いっ!」
「言ったろう、感情はなにもしてくれないぞ。まあ、その様子なら……わかっているようだな」
 奥歯を強く噛み締める。感情を抑え込んだせいで思わず両肩が震えるが、その様子さえ教祖からすれば一興だったのかまた声をあげて笑った。
「小娘、教祖になんて言いがかりをつける」
「言いがかりじゃない。これはある人の発言をもとに、ちゃんと推理したものだ。……ねえ、桐山さん?」
 桐山さんがびくっと震えて、ゆっくりとを顔をあげた。彼は自分の発言を覚えていないのか、なんのことかわからないという表情をしている。
「あなたと二人で話したとき、あなたが言った言葉だ。あなたは、こう語ってくれたよ」
 私と桐山さんが二人で喫茶店で話したときのことだ。彼は急に教祖について語りだして、こう公言した。
『あの人がやれといったら、なんだってやる。きっと、死ねって言われた喜んで死ぬだろうね。あのメンバーは』
 なんてことない、ただの信者の戯言だと思っていたけど、この発言こそが事件の根本だ。
「教祖、あなたはあの二人に死ぬように命じた。そして二人はそれに従った。違うか?」
「証拠がないな」
「わかってるだろ、証拠なんかあるはずないだろう。あなたはそう命じただけなんだからね……証拠なんて残るはずもない」
 そう、だからこの男はこんなにも余裕なんだ。例え真相が明らかになっても、自分が罪に問われないことをわかっているから。
「大蔵さん、矢倉さん、そして桐山さん、あなた方はこのことを知っていたよね?」
 私が確認するために三人それぞれに鋭い視線を送ると、三人とも同じリアクションだった。首を左右に振って、口々に「違う」という旨の発言を繰り返した。
「否定するの? できると思うの?」
 私はこの三人がこの事実を知っていたという事を証明できた。それこそがあの「違和感」の正体だったから。
「面白いな蓮見。お前はこの事件は協会幹部全員が関与した事件で、この協会の自作自演だとし、さらにそれを証明できるというのか?」
「できるね。なにせ、あなた方全員、しなければいけないことをしていなかったからね」
 そう、これが「最初から感じなきゃいけなかったもの」の正体。それはこの人達の言動が原因で、この協会の自作自演を物語っていた。これが本当の事件だったら、彼らはあることをしていたはずなんだ。
 幹部の三人はわからないようで、目を泳がせていた。教祖だけは微笑を浮かべている。
「教祖はあなた方にとって絶対的存在。ねえ、三人とも……どうして誰も教祖の心配をしなかったの?」
 その瞬間にホールの空気が凍った。目を見開いた矢倉さんが口元をおさえて、自分の失態に後悔をしはじめる。そんなのお構いなく、私は続ける。
「教祖はあなた方にとって大切な存在だった。なのに、この事件が起きても、あなたがたは自らはともかく、教祖の心配さえしていなかった。これっておかしくないかい? まるで、教祖の身に危険が及ぶはずがないと知っていたみたいだ」
 桐山さんがまた深くうなだれて、「ああ……」と声を漏らした。
「知っていたんだよね、教祖は殺されないって。だから心配をすることもなかった。これだけの事件が起きているのに、教祖の心配をしていた人はいない。それどころか、これだけ協会の警備が強化されたにも関わらず、なんと教祖がでかけるときに一緒にいたのは女性の矢倉さん一人だ」
 なんでこんな簡単なことに疑問を持つことがなかったんだろう。こんなことはここで話しあったときに気づくべきだった。守島さんが教祖が犯人なはずないって激怒したのに、どうしてその逆を考えなかったのか。自分の頭の悪さを呪いたくなる。
 しつこかったのは、大蔵さんだ。
「きょ、教祖のもとに脅迫状は届いていなかったっ! だから心配しなかったんだっ!」
「ふーん。そうかな。おかしいなあ。それでも矛盾は発生するね。なにせ、最初の被害者とされていた大村さんは協会の人間でもなかったんだよ?」
 私は大蔵さんに顔を近づけていく。その泳いだ瞳を捉えるため、少しも視線をそらさず、一歩ずつ彼に近づいていく。彼はそのたびに一歩さがるが、しばらくしてテーブルに背中をぶつけた。
「大村さんの事件があり、水島さんの事件が起きた。遅くても『最終警告だ』のメッセージが見つかった段階で『協会幹部じゃなくても殺害される』という可能性はわかったはずだ。そこで教祖の身だって案じてしかるべきだったんだ。そうできたはずなんだ。なのにあなたがたはそれをしなかった。ねえ、どうして? 答えてくれるかい? ねえ?」
 大蔵さんは私に追い詰められて、顔を背けた。私はそれでも彼の視線を追い、その顔をとらえる。
「ねえ、答えてくれよ? 教祖のこと、心配じゃなかったの? あなた方の信仰心ってその程度のものだったの?」
「だ、だまれ」
「黙らせてみなよ。あなたが答えてくれたら、黙ってあげるさ」
「だまれぇっ!」
 大蔵さんが私を突き飛ばす。思わず体が仰け反ってしまうけど、なんとか転ばずにすんだ。そして混乱している彼を見て、ふんっと鼻で笑ってやる。
「否定出来ない。あなたは今、そう表明したんだよ」
 私は教祖に向き直る。彼は自分の部下たちが追い詰められている様子さえ、にやにやしながら眺めていた。
「蓮見、なんだか事件がややこしい。お前の推理を勝手にまとめるぞ。まず、大村はこの協会とは関係のない第三者に殺され、水島と守島は俺に命じられて自殺した。そしてそのことをここの幹部たちは全員知っていた。大村の事件と水島たちの事件をメッセージを使いつなげたのは、協会の無罪を証明するフェイクのため。これでいいか?」
「ああ」
「面白いな。やはりお前は最高だ。立浪はこの協会に色々してくれたが、お前を事件に参入させたことが最大の功績かもしれん。しかし、足りないな。お前の推理の穴というべきか、まだ語っていないだけだろうが、おかしな部分がある。一つ、どうしてそんな大掛かりな芝居を協会がしなければいけなかったのか。二つ、脅迫状についてまだ矛盾が残る。そして三つ、今日の江崎と立浪は間違いなく殺人だ。では、誰の犯行なのか。さあ、蓮見――答えろ」
 そう、まだ謎は残っている。もちろん、それらを解決させる術もある。むしろ、それこそが一番重要だった。私は、まだ依頼を果たしていない。立浪さんからの依頼、脅迫状の犯人。
 しかし、その前にあることを解決させよう。
「芝居をうった理由は、はっきり言って推測だ。けどあなたは代表代行にこの先協会をどうするか決めろと投げかけた。結果として維持派と拡大派ができた。ただ……あなたはここで私と初めて会った時、こんなことを言ったよね?」
 私がどうして協会を割るようなことをしたのかと質問したときの、彼の回答が私の頭に蘇る。
『代行の連中に言ったわけだ。今後ここをどうすべきか。面白い意見でもあればよかったのだが、見込み違いもいいところだ。やつらは維持するか大きくするかしか案を出さなかった。まったく……使えない』
 彼は、退屈そうにそうため息をついていた。
「拡大派も、維持派もあなたにとっては見込み違いだった。いやもっというなら、つまらないものだった。けど、じゃああなたが望んだものはなんだよ? 拡大派は当然増やすこと、維持派はこのままでいること。そのどちらも違うとなると、答えは一つしかないよね」
 増やすのでもない、維持するのでもない。その二つが違うのなら、彼が望んだ回答は一つしかないたわけだ。
「減らす。もっというなら失くす――それこそがあなたの望んだ、この協会の未来だ」
 ホール全体に沈黙が落ちた。私の出した回答は意味不明かもしれないが、これしかない。もとより、意味不明なのは今に始まった話じゃない。
 しばらくの沈黙のあと、クククッという小さな教祖の笑い声が静かにホールに響き、それは段々と大きなっていき、しまいには大笑いした彼の声が、ホール全体を揺るがしていた。
 一通り笑い終えた彼は唇を曲げたまま、私を見る。
「蓮見、お前が代表代行だったら、こんな面倒なことをせずに済んだのか?」
 自供と言えるものかもしれない。しかし、それはまるで本当に、先生にわからない問題の答えを尋ねる子供のような、そんな質問の仕方だった。
「……ごめんだよ」
 それが私の回答だった。

「う、嘘だっ!」
 そんな悲痛な叫びが響いた。さっきまでうなだれていた桐山さんが立ち上がって、そう繰り返し叫んでいる。警官がその彼を押さえつけて、椅子に座らせるが、そでも彼は黙らなかった。
「嘘だっ! 教祖様っ! そうでしょうっ!?」
「黙れ桐山。今は蓮見と話している。お前はもう黙っていればいい。それが最後の仕事だ。せいぜい全うしろ」
 桐山さんの悲痛な声さえ心に響かなかったのか、教祖は彼に一瞥もくれてやることなく、そう冷たく放った。その態度に桐山さんは絶望し、顔をうずめて泣きだした。
 そしてそれは大蔵さんと矢倉さんも同じだった。二人共、衝撃のあまりそこに崩れ落ちている。大蔵さんは「バカな……」と言いながら四つん這いになっているし、矢倉さんは顔を真っ青にして尻餅をつく形で頭を抱えていた。
「……そこまで言っていなかったのかい?」
「感じ取ればよかったものを。こいつらが鈍かっただけだ。俺はここを消すことを望んだ。そしてそれには何が必要か考えた。俺が死ねばそうなるが、それでは元も子もない。ならばどうする? 簡単だな。協会の柱をなくせばいい。柱がなくなれば、どんな立派な建物も崩れる」
「どうして、そんなことを?」
「言ったろ、退屈だったからな。レクリエーションといえばいいのか? まあどうでもいいさ。大きくしてばかりじゃつまらないということだ。柱を減らすことを考えた。もちろん、俺の手は汚さない。大村の事件が起きた時、これは使えるなと思ったよ。事件の後、代表代行を集めた。そしてこう命じたんだ」
 教祖はその時のことを思い出してか、ニヤニヤとしながら、その言葉を吐き出した。
「協会を混乱に陥らせた責任をとって、お前ら全員死ね――。こう言った」
「そ、それだけ?」
 もっと他に色々とあるだろうと予想していたので思わず聞き返してしまった。焦った私に相反して、彼は非常に落ち着いた態度で答えてくる。
「ああ、そうだ。そうだよな? って、答えられないか」
 三人は打ちひしがれていて、もはや何も答えることができない状態だった。まるで魂が抜けたような、そんな姿に思わず言葉が出なくなる。
「言ったら、本当にそうすることになった。もっと反抗するかと思ったが、すんなりだったな。もともと、こいつらはこの世にいない奴らを求め、ここへ辿り着いた浮浪者だ。会いたいやつがいるあの世に行く巡礼者になるのもそこまで悪くなかったんだろうな。理解できんが」
「他人ごとだね」
「他人ごとだ。蓮見よ、わかっているだろう? 俺は何もしていない。命じただけだ。こいつらには拒むこともできた。なのにそうしなかったんだ。そんなものに何を思えという?」
 それは確かにそうだ。しかしそれでもこの男は何かを思うべきだ。三人に対する同情ではなく、被害者たちに対する哀れみでもなく、ごく普通の正義感がそうするべきじゃないかとい怒りに震えていた。
 しかし教祖は、あくまで平然としている。まるでそこに罪など存在しないみたいに。
「ちょっと待て。いくつか納得できん」
 そう待ったをかけたのは父だった。
「二人が自殺だったことは納得しよう。それがその男の指示というのも、ここが宗教団体だと考えれば納得できる。しかし、ならばどうしてそれを殺人と偽装する? そんなことになんの意味があるんだ」
「鈍いな刑事。娘はそんなこと、もう気づいているはずだ。なあ?」
 父の疑問は至極当然のものだ。殺人を自殺にみせかけることにメリットはあっても、自殺を殺人にみせつけることは正直なんのメリットもないように見える。しかし、それこそ今父が言った「ここが宗教団体だと考えれば」その謎も解ける。
「自殺じゃ駄目だった。なにせ、ここは宗教団体。ここにいるのは教祖に救われた人たち。そして代表代行の彼らはその最たるものだ。ねえ父上、その人達が自殺していったら、信者たちはどう思うだろうね?」
 父ははっとなる。言葉を飲み込み、信じられないという顔になった。
 ここは宗教団体。そこで自殺者なんて出たら、協会のイメージが悪くなる。
「しかし、教祖はここをなくすことを望んだんだろ? 信者が減ることを恐れるのか?」
「アホか。協会を失くすというのは俺の本望であるが、こいつらにはそれを言っていない。今の状況でわかるだろ。だから協会がすぐになくならないように、死んでもらった。自殺では駄目だ」
 協会幹部の人間が連続して自殺すれば協会そのものの存続が危うい。教祖からすればそれこそ望みだったが、それを代表代行に打ち明けていなかった。あくまで責任をとって死ねと命じた手前、協会は存続し続ける前提で計画をたてなければならない。
 だから殺人にみせかける必要があった。自分の意志で死んだのではなく、何者かの悪意に晒され殺された。そういうシナリオが必要だったんだろう。
「そこで大村の事件だな。この事件の犯人に罪を押し付けてしまえ。そう考えた」
 きっと、ニュースを見てどこの誰かもわからない犯人は焦っただろう。しかし、二人を殺していないと白状できるはずもない。犯人からすれば黙って教会の芝居に付き合うしかない。
 こうして本来協会と関係ない事件と、二つの自殺は、見事に「連続殺人」となった。
「しかし……それはおかしい。脅迫状はどうなる?」
 そう、この事件の根本である、その謎が残る。
「……じゃあ、次はそれを解いていこうか」



「冷たい……」
 胸下辺りまで迫った水にやられ、思わずそう漏らしてしまう。体力は確実に奪われて、春川は今、ほとんどの気力だけでその状況に耐えている。いつまで保つか、彼女自身分からない。そんなギリギリの状況だった。
 あと三十分もすれば、完全に口元にまで水は届くだろう。
 彼女は手足を拘束された状態ながら、なんとか立ってその状況に耐えていた。体のバランスを崩せば、起き上がれなくなり、溺死してしまう。犯人からすればそれこそが望むところなんだろう。
「……やばいかも」
 屈辱的なことに、弱音を吐いてしまった。彼女は覚悟しているし、そしてなにより信じている。しかしそれでも目の前の冷たい絶望は、彼女にそうつぶやかせた。
「早く――」
 誰にいうでもなく、一言口に出した。



「まず脅迫状のおかしさを指摘していこうか」
 ファイルのあるページをひろげる。今まで犯人が残していったすべての脅迫状のコピーが収められているところだ。その中から二枚を取り出す。
「これと、これだ」
 私が取り出したのは今日江崎さんの事件のものと、大蔵さんのもとへ届いた一枚。
「どうかな、おかしいだろ?」
 その二枚にはそれぞれこう書かれている。『償え』と『つぐなえ』。ただ意味は同じでも明確に違う。
「どうして片方は漢字で、もう片方はひらがななのか。これもだ」
 その二枚をテーブルに置くと今度は水島さんの事件のものを取り出す。『贖罪せよ』と書かれたメッセージ。
「どれも意味は同じだよ。しかし、この違和感はなんだろうね。ちなみにひらがなの方は、立浪さんにも届けれられている。父上、これどういうことかわかるかな?」
 父になげかけると、眉間にしわをよせてしばらく何か考えはじめたあと、目を見開いた。どうやら分かったらしい。
「そう、これらのメッセージは別々の人間が出したものだ。正確にいうなら、事件現場に置かれていた脅迫状と、代表代行のもとへ届いたものは、同一人物の犯行じゃない」
 教祖がまたククッと笑う。本当にこの状況を心から楽しんでいるようだった。
「それだけでは証拠として弱くないか?」
「もちろんそうだね。けど、さっきも言ったろう。守島さんに届いた脅迫状。事件のあとに見つかったものは自宅の中、それまでに届いていたものは家のドアに糊付けされていたんだ。同一人物とは思えない。それにね……」
 私はファイルからまた別の脅迫状を取り出す、また守島さんのもとへ届いたものだ。春川が指摘した、あの漢字間違いの脅迫状。『代行を止めろ』というもの。
「これを見た時、犯人は国語が苦手なんだと思った。けど、事件現場にあった、『贖罪せよ』や『償え』は難しい漢字だよ。なんか違和感がするね。もちろん、他にもある」
 今度は『天罰がくだる』と、『厳罰はくだった』という二つのメッセージを取り出した。
「これも意味は一緒だけど違う。やっぱりこれらを送った人物は別人だろう。じゃあ誰か……。事件現場にあったものは、協会の偽装だ。それこそ桐山さんの部屋から新聞が見つかったのなら、彼が作ってたんだろう。なら問題は、代行に届いていた脅迫状。誰がなんのために、こんなことをしていたのか」
 私は息を飲む。そしてゆっくりと吐き出して、目を閉じた。
「もういい。君はよくやったよ。だから勇気を出してくれ」
 誰に言うわけでもなく、そうつぶやく。ただ確かにその人物に届くと確信していた。もう、彼女も限界だろう。あとは素直になってくれればいい。
 ゆっくりと、その人物が立ち上がった。小さく体を揺らし、目を伏せながら、色んな物なものを背負ったその体を、幼い足で支えながら。
 私は彼女に、はっきりと告げた。
「そう、君が犯人だ――彩愛ちゃん」
 春川が私に伝えたかった答えを、ようやく導き出した。

「わ、わ……私、こんな……こんなこと、するつもりじゃ」
 彩愛ちゃんが自分の顔を覆って、そう後悔しだす。私は彼女のもとへ駆け寄っていき、その体を優しく抱きしめた。
「分かってる、それは分かってるよ。私こそ、遅れてすまなかったね。ごめんよ」
「遅れて……?」
 彩愛ちゃんが私を見上げながら、首をかしげる。私は彼女の目元の涙を拭いながら説明した。
「そう。遅刻だよ。もっと早く君にたどり着くべきだった。春川にヒントをもらう前に私はちゃんと、君からもヒントをもらっていたんだからね」
 春川が彼女こそ脅迫状の犯人と気づいたのは、今日彼女と交わした会話からだろう。さよちゃんの話では、二人はこんなやりとりをしていたという。
『かんぜん、ちょーあく?』
『ふふ。悪いことをしたら、懲らしめられるってことよ。難しかった?』
『うん、ちょっと……』 
 本当なら他愛もないやりとりだと微笑むところだろう。春川も最初は気にもとめていなかった。しかし、彼女の中で「国語が苦手」というキーワードが、彼女と脅迫状の犯人とを結びつけた。だから春川はいち早く私に伝えようとしたんだ。
 警察でも協会でもない、私に。
「私も気づくべきだった。昨日の君と交わした、あの会話で」
 昨日、彼女と公園のベンチで交わしたあの会話を思い出す。
『水と油?』
『仲良くできないってことさ』
 これも大した会話と感じていなかった。しかし、ここからちゃんと導き出せたんだ。彼女が少し国語が苦手だということを。そして十分に脅迫状と結びつけることができた。
 春川より早く気付けるはずだったのに、まったく本当に鈍い。
「待たせてごめんよ。私の役目は、君と会うことだったのにね」
「ど、どういうこと?」
 私は彼女を放し、膝を床につけて彼女と視線を合わせる。そしてその小さな両肩をしっかりと掴んだ。
「私は、君と会うためにここにいたんだ」
 それが私のこの事件の最大の役割だった。いや、それこそが全てだったんだ。
「私は君のお父さんに脅迫状の犯人を見つけることを頼まれていた。ずっと疑問だったんだ。どうして私だったのか。警察でも、協会の信者でもいくらでもいたのに、どうして私だったのか。――彩愛ちゃん、君のためだったんだよ」
 赤くなった小さな瞳が揺れたのがよくわかった。私の言葉の意味を彼女は瞬時に理解したみたいだ。
「そうだよ……君のお父さんは、君が犯人だとわかっていたんだ」
 だからこそ私に依頼した。警察なんて国家権力じゃない、協会なんて怪しげな組織でもない。もし何かあっても娘に危害を加えるはずもない、ただの大学生。立浪さんが私に求めた役割はそれだった。
 私は彼に脅迫状の犯人がわかったら、警察にいうと宣言していた。けど、もし辿り着いたのが彼女だったら。幼い、この少女だったら。彼はわかっていたんだ、そうなればまず自分のところへ報告がくるだろうと。
 事実、もし彼の生前にこの事実に気づいていれば、私はそうしただろう。
「けど立浪さんは、それを君に言えなかった。実の娘に確かめられなかった。だから第三者の私に、決定的な証拠を求めた」
「レイ姉に?」
「私でも誰でもよかったのさ。君に危害を加えない人ならね。本当に、不器用な人だよ。君のお父さんは。けど……」
 私はある人物のほうをちらりと見たあと、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「父親っていうのはそういうもので、それを許すのが、娘ってものなんだよ?」
 笑いかけてやると、彼女は複雑そうな表情をしたあと、精一杯の気持ちで笑ってみせた。やっぱり強いな、この子は。私なんか足下にも及ばない。
 次の瞬間、嫌な声が聞こえてきた。
「蓮見、感動的なところ申し訳ないが謎がまだ残ってるんだ。早く解決していこうじゃないか。お涙頂戴は趣味じゃないし、興味もない。お前の仕事はその娘を見つけることだけじゃなかったはずだぞ」
「うるさいな。すぐに片付けてあげるよ」
 私は立ち上がって、不安そうな顔をする彩愛ちゃんの頭をぽんぽんと叩いて、また全員に向き直る。
「さて、彼女が脅迫状の件を自白した。当然、彼女は事件とは無関係だ。なら現場に残されていたのはやはり、偽装だね」
「問題はそこだ。協会はなんのためにそうした?」
「簡単だよ。大村さんの事件と、あの二つの自殺。結びつけるのに必要なのはメッセージだ。しかし、さっき言ったよね、協会として自殺はダメだ。誰かによって殺されたシナリオが望ましい。しかし、急ピッチでそんな事件を企てた教会はあることを心配した。当然、これが自殺じゃないかと疑われることだ。なら、それを回避するためにどうするか?」
 さっきのファイルのもとへ戻り、彩愛ちゃんが届けた全ての脅迫状を取り出す。
「彼女がこの脅迫状を出したのは、一年前からだ。これは利用できると考えたんだろ? 少なくとも一年前から協会は悪意に狙われていて、その人物に殺されたとなれば、まさか自殺とは疑わない」
 もちろん、彩愛ちゃんには悪意などなかった。彼女が脅迫状を出していた理由は、実に少女らしい、純粋なものだ。はっきり言って立浪さんに責任がある。あんな小さな女の子が父親をとられたと感じたら、取り返そうとするのは当然だ。
 だから、立浪さんに代表代行をやめるように脅迫状を送ることにした。しかし彼だけに送っては、自分が犯人だと言っているようなものだ。だから他の代行にも送ることにした。
 しかし、それは最悪の形で利用されることになった。
「脅迫状を利用しようと提案したのは教祖、あなたかい?」
「うん? 誰だったかな? 立浪じゃなかったことは確かだ。矢倉、お前だったか?」
 しかし矢倉さんは答えない。未だにうなだれている。しかしこれでわかった。やはり脅迫状は立浪さんの意志じゃなかったんだ。彼は娘のやったことだとわかっていただろから、そんなことを提案するわけもない。
 しかし教祖が案を採用すれば、彼は刃向かえなかったんだろう。
「ありえないよ……。ただの自殺を殺人に見せかけるために、本当の殺人事件とつなげる必要があった。これだけでも無関係の事件をくっつけているのに、更にそれの信憑性を出すために、また関係のない脅迫状の事件を利用したんだ」
 本来、無関係の三つの事件は一つになった。強制的に。
「教祖、だからあなたは私に言ったんだろ? 自分が犯人だって」
「なんだ、そんなことまで気づいていたのか」
 彼が自ら犯人だと名乗った理由はよくわからなかった。しかし、彩愛ちゃんが脅迫状の犯人だとわかれば、それは存外簡単なものだ。あの脅迫状は、事件現場に残されていたものと、最初に届いたものとでは明確に違いがあった。
 なんでそんなことになったのか。おそらく立浪さんが制作を指示していたんだろう。もし最悪の場合でも、娘に疑いの目が向かないように。
「しかしそれに疑問をもったあなたは立浪さんの真意を探ることにした。そこで私に犯人だと名乗った。事実、あなたは手を下してはいないが犯人なのだから、自白だった。もちろん私は父に報告し、それは立浪さんの耳にはいった。彼は焦っただろうね。計画が狂えば、娘の身だって危ない。あなたは彼のリアクションを確かめるために、ああ自白したんだ。そしてそれであなたは確信したんだろ? 彩愛ちゃんが犯人だって。だから昨日、あの公園にいきなり現れた。彩愛ちゃんの姿を確認するために」
「お前に犯人だと名乗った日の夜は面白かったぞ。立浪が俺に初めて、怒鳴った。なにを考えているのかってな。その時は笑ってやったが、確信したよ。こいつは誰かを庇っているとな。そしてやつが庇うやつなど限られていた。そのガキだけだ」
 教祖もどこかで脅迫状のおかしなところに気づいていたんだろう。しかし、彼はそれが露見することなんてどうでもよかったんだ。どのみち彼の計画では協会はなくなったのだから。レクリエーション感覚で、事件を楽しんでいたんだろう。
「しかし、父親というのは不思議なものだな。あんな切り抜きだけで娘の仕業だとわかるもんなのだな」
「ふん。もしかしたら、父親の勘だったのかもね。けど、気づける根拠はあったよ。桐山さんだ」
 その名前は予想外だったらしく、教祖は首をかしげた。どうやらこれには気づいていないようだった。
「桐山さん。彼には一通しか脅迫状は届いていなかった。なぜか。そもそも彩愛ちゃんはどうやって、代表代行の住所を調べたんだろうか。簡単だね、立浪さんのパソコン。それしかない。彼は時々だけど彼女に会いにいっていた。彼女いわく、最後に会ったのは、三ヶ月前の冬休み明けだ。そして、彼が作ったある資料がここにある」
 私は胸ポケットから一枚の紙を取り出す。昨日立浪さんに渡された、事件を時系列ごとにまとめたものだ。そこにはこういう記述があった。
『2010年10月27日 桐山さんが代表代行に昇格
2010年11月16日 教祖様が代表代行に今後の方針をどうすべきか尋ねる
2011年1月8日 四通目の脅迫状が届く
2011年3月3日 最後の脅迫状が届く』
 そう、これで桐山さんに一通しか届いていない謎は解ける。
「小学校の冬休みは一月の最初の一週間くらいまでだ。八日が休みだった可能性は十分にある。となると、この時彩愛ちゃんは立浪さんと会っていない。これ以後だ。そしてその後、家にきた彼のパソコンを盗み見ると代表代行が一人増えていたので、次の脅迫状では桐山さんを追加したんだ。そうだろ?」
 彩愛ちゃんにそう質問すると、彼女はこくりと頷いた。
「さて。もう脅迫状の謎はおしまいだ。いよいよ最後だよ」
 バンッと音をたてて近くにあったテーブルにファイルを叩きつけた。
「誰が、立浪さんと江崎さんを殺したか。これで、おしまいだ」
 彩愛ちゃんの体が硬直するのを遠目で見ながら、私は続ける。
「守島さんと水島さんは自殺だ。しかし、今日の二人は違う。なぜ、そして誰に二人は殺されたんだ」
 教祖を睨むが、そんなものにこの男が臆するわけもない。ニヤニヤと笑っている。
「思うに……裏切り者がでたんだろうね。代表代行は全員、殺人にみせかけて死ぬように命じられていた。しかし、それに反対するものがでた。それは誰か――」
 答えを出すのも馬鹿馬鹿しい。そんな人物、一人しかいないのだから。
「立浪さん。彼が、事件を終わらせることをしたんだ」
 彩愛ちゃんが顔をあげる。目を大きく見開いて、その驚きを隠せないでいた。
「昨日のことだろうね。彼はきっと、自分は死なない、そして事件を公表すると告げたんだ。もちろん、そんなことが許されるはずもなかった。それを聞いた人物は、立浪さんに会いに行った。そして話し合いは平行線に終わった。最終的に、その人物が彼を殺した」
「そいつは、誰だ?」
 教祖が興味深そうに尋ねてくる。ようやくメインディッシュがでてきたなとでも言いたげな態度だ。
「あなたじゃない。あなたと矢倉さんはどこかへ出かけていたからね。なら、残るは二人だ。桐山さんと大蔵さん。しかし……桐山さんはありえないんだ」
 私は彼と二人で話し合ったときの会話を思い出す。彼が口に出した言葉。それが、たったひとつの手がかり。
『僕なんか血が苦手でたまったものじゃなかった』
 守島さんの事件の感想を彼はこう述べた。そしてその一言がある限り、彼じゃない。
「あの現場は血まみれだった。立浪さんも滅多刺しにされていた。血が苦手な人間があんなことできるわけない。なら、残った一人こそ、犯人だ」
 私は四つん這いになったまま絶望し続ける彼の元へ足を進める。見下ろす私に、彼は恨めしそうな視線を向けながら顔を上げた。
「大蔵さん、あなたが立浪さんを殺した犯人だ」

「……あの男が、約束を違えるというからだ」
 大蔵さんが搾り出すようにそう供述した。彩愛ちゃんが動き出そうとするのを、近くにいた父が止める。彼女の衝動は理解できるけど父が正しい。こんな男に、近づくべきじゃない。
「昨日の夜に連絡があった。自分は死なない、事件を公表する、あいつはそう言った。身勝手な話だ。水島も守島も、命を賭して教祖の命令に従ったのに、直前になって先頭にたっていたあの男が、逃げ出そうとしたんだぞっ! 信じられるかっ!」
 思い出していくうちに熱くなった彼は立ち上がり、身振り手振りを使ってそう訴えかけてくる。ただ私を含め、その場にいた全員、しらけた目を彼に向けていた。その怒りには何一つ共感できるところなんてない。
「信じられるね。むしろ、それが自然だから」
「お前にはわからんのだ小娘」
「人殺しの気持ちなんて、わかってたまるか」
 私の返答に大蔵さんは奥歯を噛み締め、教祖がはははと声をあげて笑った。両方とも不快だから、話しをすすめることにする。
「立浪さんにそう言われたあなたは、ひとまず話し合うことにした。そしてあの場に出向いた。けど結局、立浪さんを説得できなかった……そういうことかい?」
「あの男はっ、やらなければならないことがあると、そう言ったんだ! 想像できるかっ! 我々は今までずっと、ここに尽くしてきたっ、今回の計画はそれの最たるものだっ! その途中で、事件を公表すると、そう言ったんだぞっ! この協会よりも大切なものがあるとなっ!」
 わめき散らす彼を傍目に、昨日の立浪さんとのやりとりを思い出す。なにかを決意したような彼の態度。おそらくだけど、ずっとどこかで揺れ動いていたんだろう。それをただひたすら隠していた。しかし、そのベールを剥ぎとった人間がいた。私なんだけどね。
 少し悪いと思っている。こんな結果になってしまったことを本当に後悔している。ただ、ようやく彼という人間に、私は会えたんだろう。
「そして立浪さんを殺害し、いつもどおりメッセージを残したのか……」
「ちょっと待て蓮見。俺のところへあがってきている報告と違うな。江崎のところでは脅迫状は見つかったが、立浪の事件現場にはなかったという話だぞ」
「その通りだよ。ただ脅迫状をおいたことは間違いない。問題はそれが予期せぬことを引き起こしたってことだ」
 私は顔を真っ赤にして興奮している大蔵さんに、意地悪で挑発的な笑みを向けた。
「彼を殺害したあなたは当然、他のメンバーにも連絡した。呼びつけたのは桐山さんだ」
 死体や現場の処理のことを考えると女性の、いかも高齢の江崎さんを頼るわけにもいかなかったんだろう
「しかし現場をみてみると、あなたがたの予想と反したことがおきた」
「焦らすなよ蓮見。なにがあったか、教えろ」
「簡単だよ。脅迫状が消えたんだ」
 大蔵さんの表情が歪む。図星だったようだ。それしかないんだよね。じゃないと、江崎さんの事件と結びつかない。
「あなた方は焦っただろうね。しかし現場を荒らすわけにもいかない、痕跡が残ってしまうからね。探せるとことは探しただろうけど、やはりない。ならどうしようか。もう一通別のものを用意する? いやしかしそうすると、もし最初の脅迫状が見つかったとき、二通発見されることになる。そうなれば脅迫状の偽造が発覚してしまう。どうしようかと考え、実行したのが桐山さんなんだろうね」
 私は今度は桐山さんのところへいく。彼は未だに現実が受け入れられないで、俯いたままなにかをぶつぶつとつぶやいて、私のことを見向きもしない。私もそんなことは気にせず喋ることにする。
「脅迫状がなければ、事件はつながらない。ならどうする? 荒業だけど一つ方法がある。同時にもう一件殺人事件を起こすんだ。そしてそこに脅迫状を残す。違和感は残るが、脅迫状はなくても、同時に起こったということで事件は繋がる」
 もともと無関係の事件を全部ひっつけていた事件の唯一の頼りだった脅迫状。それがなくなれば、警察が視点を変えて捜査するかもしれない。そうなるのは彼らにとって致命的だ。だからどうしても事件は結び付けなければならない。
 そこでもう一つ事件を起こす。同日に起こった事件ということで自然と繋がる。
「桐山さん、あなたは立浪さんの離脱で計画がうまくいかないことを悟った。そこで自分が江崎さんを殺害し、全ての罪をかぶることにした。もしそのまま裁判になれば、死刑だ。教祖の命令通りだね。そしてあとは大蔵さんが頃合いを見計らって責任をとればいい……これで、事件を終わらせるつもりだったんだね?」
 なぜ彼がそうしたのか。自分が適任だと考えたんだろう。立浪さんの指示で脅迫状を作っていたのは彼だ。つまり彼はこの架空の連続殺人事件の犯人になれる証拠を持っていたことになる。
 そして何より、協会への、いや教祖への献身だ。付き合ってられない。
 彼は答えない。こんな馬鹿げた推理に否定さえしないということは、つまりそういうことなんだろう。全く、本当に……馬鹿馬鹿しい。こんな人たちのために、色んな人の人生が振り回されたのかと考えると、怒りさえ湧いてこない。
「立浪さん殺害は大蔵さん、そして江崎さんは桐山さん。事件の主犯は教祖。そして二つの事件は自殺。脅迫状は彩愛ちゃん。――これが、真相だ」
 そう断言すると、パチパチと小さな拍手が鳴った。もちろん教祖のもので、彼は小さく笑いながら、本当に愉快そうに私を見ていた。
「見事だ。しかし、最後の謎が残っている」
 教祖はそういうと私の元へ足を運ぶ。そして見下ろした。
「立浪の脅迫状はどこへ消えた?」
「それは――」
 私が答えようとした時だった。携帯の着信音がホールに響いた。それは父のもので、すぐにでる。しばらくなにかを話しこんだあと、通話を終えた。そして深い溜息をつき、私に視線を向けた。
「お前の言った通りの場所に、脅迫状があった」
「そうか……父上、どこにあったか、この人達に教えてあげてくれ」
 彼らの計画を大きく狂わせた立浪さんの脅迫状。私はある一つの予想をたてていた。さっきの真相に気がついたとき、あるとすればそこしかないだろうと。父に確認をとってもらっていた。
 父は少し躊躇したあと、その事実を告げた。
「立浪さんの胃の中だ」
 父の近くにいた彩愛ちゃんが息を飲み込み、目を大きく見開いた。そして口元へ両手で覆う。
「……立浪さんは自分の命が助からないことを悟って、計画を狂わせることを思いついた。脅迫状が消えれば計画がうまくいかなくなることは彼ならわかってたはずだ。最後に力を振り絞り、折りたたんで飲み込んだんだろうね」
 たとえそれが最終的に解剖で見つかるものでも、現場に戻ってきた大蔵さんたちが焦るのはわかっただろうし、警察だってなんで脅迫状を飲み込んだのか疑問にもつ。少しでも現状に違いを出せれば、彼としては良かったんだろう。
 まさか大蔵さんたちが江崎さん殺害にはしるとは想像しなかったんだろう。
「見つかった脅迫状には、血文字であることが書かれていたそうだ」
 父が言葉を続ける。それは私が予想していなかったことだった。
「犯人の名前でも書かれていたのかい?」
「いいや、ある人へのメッセージだと思われる。宛名はなかったが、こう書かれていたそうだ。……『ごめん。愛している』と」
 父の隣で少女の瞳が大きくなる。宛名なんて必要ないだろう。それは立浪さんがなにより残したかったメッセージ。伝えたい人は、一人しかいない。
「ぱ、パパ……」
「彩愛ちゃん。立浪さんはやらなければならないことがあったから、死なないことを選んだそうだ。やらなければならないことっていうのは、君だよ」
「え?」
「君とやり直そうとしたんだよ。君のお父さんは、君に許してもらおうと、君と一緒に生きようと……そうしたんだよ」
 ただ娘のもとへ戻るのに最後のけじめをつけなければならなかった。まさか犯罪に犯罪で染めた手で、娘の頭を撫でるわけにはいかないから。だから、彼は自首しようとした。協会より、何より、愛娘を選んだんだ。
「彩愛ちゃん、君は立浪さんに、君のお父さんに――本当に愛されていたんだよ」
 彼女の目に大粒の涙がたまり、それが頬をつたって流れていく。嗚咽をもらしながら、それを拭う。横にいたさよちゃんが少し戸惑いながらも彼女の頭を撫でると、せきを切ったように泣きだした。
 ホールに一人の少女の泣き声が響く。それは胸の奥に突き刺せるような声で、聞いているだけでむなしく、そして悲しくなった。
 どうしてこう、うまくいかないんだろうね。せっかく、わかりあえたっていうのに。
「ふ、ふ、ふざけるなっ! そんな理由で我々を裏切っていうのかっ!」
 つんざくような大蔵さんの怒号がその空気をぶちこわした。
「娘だと!? あいつはそんなもののために我々を、協会を、教祖を裏切ったというのかっ! 馬鹿馬鹿しいっ!」
 彼がが近くにあったテーブルを何度もばんばんと拳で叩いて、その悔しさを表す。私はそんな彼のところへ歩み寄っていく。静かに、特に何かいうこともなく。そして私が目の前に立つと、まだ怒りが収まらない彼は「なんだ小娘っ」と声を荒げた。
「……あなたが、どんなものを信じていても構わない。そんなものどうでもいい。勝手に死ぬなら、罪を償ったあと、そうすればいいさ。でもね、絶対にね」
 彼の胸ぐらを掴んで、そのまま力いっぱい彼の上半身を持ち上げるようにして、勢いのままテーブルに彼の背中をうちつけた。突然のことに彼は言葉を発することも忘れて、目をぱちくりとさせているが、そんなの知らない。
「一人の女の子からたった一人の父親を奪ったことだけは、絶対に許さないっ! 必ず償ってもらうからなっ! 大切な人を亡くしてここに辿り着いたくせに、彼女にそんな苦しみを味あわせたことだけは、死ぬまでずっと償ってもらうからなっ!」
 喉がはちきれそうなほどに声をあげて、私はそう怒鳴っていた。大蔵さんはあまりの迫力に黙ってしまい、何か反論しようとはしたが私と目を合わせた瞬間に目を逸らした。
「レイ姉……もういいから。私なら、大丈夫だから」
 気づけば彩愛ちゃんが私の側にいて、怒りで我を忘れてる私の服をひっぱてくる。……本当に、強い子だ。見習わないとね。
 私は大蔵さんをはなして、今度は教祖に目をやる。
「さて教祖、春川はどこにいる。どうせ、彩愛ちゃんを誘拐して脅迫状の件を隠蔽するつもりだったんだろう。そして信者を使って誘拐しようとした」
 おそらく、春川は脅迫状の犯人が彩愛ちゃんと気づいた瞬間、彼女の身が危ないと察したんだろう。だから大慌てて追いかけた。結果としてこういう事態になったわけだけど。
 教祖は誤魔化すことも焦らすこともなく、素直にしゃべり出した。
「邪魔が入ったがな。お前の友達には参ったよ。だから少し反省してもらっている」
 彼はポケットから鍵束を取り出すと、それを投げてきた。私はそれを片手で受け取る。そして急にあるビルの名前を口に出した。
「ここから走れば五分ほどの場所にある、協会が管理しているビルだ。その地下にお前の友達はいる。早く行ってやったほうがいいぞ」
 彼はちらりとホールにかけられた時計をみて、にやりと笑った。
「そろそろ限界だろうからな」
「あなた……春川になにをした」
「なに、ちょっと早いプールだよ」
 その言葉に頭に血が一気にのぼり彼に向かって行こうとしたが、また彩愛ちゃんが服を引っ張る。首を左右にふって、そんなことをしてる場合じゃないと視線で訴えかけてきた。
「早くいけ蓮見。じゃないと、お前も大事な者を失うぞ?」

 7

 水はすでに首元まで迫っていた。彼女は必死で体勢を維持することに集中するが、ときどき波打った水が顔にかかったり、口に入ってきたりするので、集中がもたない。
 このままじゃ、あと数分で限界だ。春川がそう覚悟すると同時に、今まで自分が歩んできた人生が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。嫌な感覚だった。まるで死ぬことがきまったみたいだ。
 その記憶の中でも特に強く引っかかる、一人の顔。蓮見レイの顔だけが離れない。
 結局、喧嘩したまま終わった。春川は大学では多くの友人と出会った。高校時代の失敗を取り返すかのように多くの人と関わったのだから、自然とそうなった。その中でも特に蓮見という存在は特別だった。
 自分にあんな下世話な冗談を言ってくるのも、偉そうに説教をしてくるのも、彼女一人だった。
 だから、本当に大切な友人だった。なのにそれを自ら裏切ってしまった。ちゃんと謝らなきゃいけないと思っていたが、とうとうその機会さえ回ってこなかった。自業自得とはいえ、虚しさが胸にあふれる。
 今回の件だって、きっと彼女にひどく心配をかけてしまっただろう。本当に申し訳ない。
 その時、彼女は大きく体のバランスを崩した。彼女がなんとかそれを立てなおそうとしたときにはもう遅かった。手足を拘束された体は、水中に沈んでいく。
 レイ――。
 沈んでいきながら、彼女は心のなかでそう呼びかけた。意識が遠くなっていく。



 それは一瞬の出来事だった。
 ずっと頭を抱えたまま座り込んでいた矢倉さんが急に立ち上がると、そのまま教祖に体当たりをした。ただ、彼女の両手にはしっかりとナイフが握られていて、そしてそれは見事に彼の脇腹あたりに突き刺さった。
 全員が驚嘆するが、刺された当人だけは平然としていて、刺した彼女を冷たい眼差しで見つめていた。まるで痛みなど感じていないように見えたが、彼女がナイフを引き抜くと同時に、その場に倒れた。
「きゃああああああああああっ!」
 あまりの出来事にさよちゃんが悲鳴をあげる。それと同時にホールの扉が開いて数名の警官が入ってくる。どうやら外で待機していたらしい。
「協会関係者全員確保しろっ。救急車も呼べっ!」
 父がそう声をあげて命令すると警官たちがすぐさま大蔵さん、そして未だに血で濡れたナイフを両手で握ったまま青い顔で小刻みにふるえている矢倉さんを確保する。大蔵さんは「教祖っ!」と叫びながら抵抗していたが、数名の警官に押さえつけられていた。矢倉さんは警官たちなど目に入っていないのか、ナイフを奪われると何も言わず手錠をかけられた。
 倒れた教祖に父や警官、そして私がかけよる。彼は脇腹を抑えたあと、その血まみれになった手のひらを自らの顔の上に持っていき、それからふふっと不気味に笑った。
「ふむ……これが、死か」
「死なせるか。あなたには償ってもらわないといけない」
「蓮見、分かっているだろ? 俺は直接犯罪に手を染めていない。どうせ法では俺をちゃんと裁けない……」
 教祖の声が段々と小さくなっていく。それでも笑顔は消えない。あの嫌らしい、余裕たっぷりの笑みを残したまま、私の目を真っ直ぐに捉える。
「早く、行け。あれはお前の……大切な人間なんだろう」
 もうお前に用はないといわんばかりに、教祖は目を閉じた。警官がなんとか止血措置をするが、溢れ出る大量の血液は止まらない。まるで蛇口でもひねったかのように、傷口から血が出ていく。
 父が「早く行け」と促してくる。私は意を決して踵を返し、ホールから飛び出した。そしていままで出したことのないスピードで走っていく。
 教祖は春川になにかしたようだ。プールといっていたが、なにをしたのか分からない。少なくとも彼女の身に何か危険が迫っていることは確かだ。
 間に合えっ――。
 協会から飛び出しても土砂降りの中、必死に走り抜けた。アスファルに溜まった水が跳ね返ってきて、足を重くするがそれも意に介さず、向かい風が髪を無茶苦茶にするがそれも気にせず、とにかく必死に走った。
 息があがってきても、不思議と力がでた。顔にかかる大量の雨粒が冷たい。それでもスピードは一向に落とさなかった。
 そして教祖の言っていた建物についた。そこに入って、入り口のすぐそばにあった薄暗い階段を駆け下りると地下にでて、そこには一つだけ部屋があった。緑の塗装がされた、重圧のある鉄の扉。
 そのノブを回してみるが当たり前に開かない。焦りのせいでポケットから出した鍵が落ちてしまったところで、その扉の隙間からわずかに水が漏れているのに気がついた。
 瞬時に教祖が何をしたのか理解し、戦慄した。
「……うそ」
 思わずそう呟いたあと、急いで鍵を差し込んで解錠した。そして扉を引いてみるが、むこう側から引っ張られているような感覚がして開かない。
「クソッ!」
 もっと力をいれて強く、本当に強く引いたとき、なにかが剥がれた感覚がしたと同時に扉が一気に開いた。思わず扉と壁の間に挟まれそうになるのをなんとか避けたが、室内から大量の水が流れでてきたせいでそれに足元をとられて、その場に転んでしまった。
 立ちあがり、もう水がなくなった部屋の中をみてみると、部屋の真ん中に女性が横たわっていた。
「春川っ!」
 そう叫びながら彼女に駆け寄っていく。手足を拘束された状態で彼女は俯けになっていた。それを抱き起こすと、水で膨らんだ服のせいでひどく重く感じた。
「春川っ! おい、春川っ!」
 彼女は白い顔で青い唇なっていた。そして全身が冷たくて、まるで生気が感じられない。私はそんな彼女の体を大きく揺さぶりながら彼女の名前を呼びつづけた。
「春川っ!」
 もう何度目かもわからない呼びかけをしたときだった。彼女が「こほっ」と、口から水を吐き出して、そのまま咳き込み始めた。そしてゆっくりと目を開いて、弱々しい声で確認する。
「……レイ?」
 その声で私の緊張の糸がきれた。思わず彼女を強く抱きしめる。
「よかった……よかった……」
「レイ、痛いわよ……」
 春川がそう訴えてくるが、それでも放してやらなかった。思わず涙が出てくる。そんな私の様子に春川は、少し困ったような顔をした。
「全く君というやつは……なにを考えているんだよ。私がどれだけ、どれだけ……」
「ごめんなさい。でもね……レイ」
 春川は弱々しくもにこりと笑い、私の胸に頭を預けてきた。
「――信じてた」
「……私も、信じられてるだろうなと、信じていたよ」
 二人で声を揃えて笑った後、さっきの鍵束をまた取り出す。あの鍵束には小さなものもあった。案の定、それで彼女の手足の手錠は解錠できた。ただ彼女は相当弱っているらしく、一人で立ち上がることができない。
 彼女を肩に担いで、部屋から出て行く。
「レイ……ごめんね」
「もう聞いたよ」
「あの件。やっぱり、私が間違ってた」
 彼女が今回の件じゃなくて、あの事件のことを謝っていることに気がついた。私を思わずため息を吐く。
「私が君を、許さないわけがないだろ」
 怒っていないというと嘘になる。けど彼女のああいうどこまでも献身的な思いがなければ、彩愛ちゃんは誘拐されていた。そうなればきっと助かっていなかっただろう。彼女のやり方には色々と問題があると思う。
 それでも、だ。
「私たちは、似たもの同士だそうだよ。知り合いの女の子が言っていた。曰く火と油、二人揃うと怖いものなしだってさ――私もそう思う。君は?」
 春川は弱々しい足をゆっくりと進めながら、そうねと答えてくれた。
 問題はあるだろう。それは彼女もだし、きっと私もだ。だからお互いに指摘しあえばいい。ぶつかり合えば良い。なんたって、友達なのだから。
 いつかの教授の言葉を思い出す。人間は例え似たもの同士でも、少しの違いが許せないことがある。それを受け入れられなければ人間関係は崩れるが、受け入れられればより強固なものになるという、あの言葉。
『お前はどっちだろうな?』
 教授がそう問いかけてきたことまで思い出し、思わず笑ってしまう。
 答えは出たよ、教授――。

 建物から出ると同時に「レイ姉っ、ハル姉っ!」という彩愛ちゃんの声が聞こえてきた。彼女とさよちゃんの二人が息を切らしながら、こちらの走ってきていた。どうやら追いついてきたみたいだ。彼女たちは私の肩に担がれた春川を見て驚いたが、無事だとわかると安心したのか、さよちゃんなんて泣きだした。
 春川がさよちゃんをなだめている間、私と彩愛ちゃんは目を合わせた。まだ少し腫れた目をしている彼女は、それでも気丈に親指を突き立ててにっこりと笑ってみせた。私もそうして、お互いの健闘を称える。
「おや?」
 思わず声をあげて空を見上げると、私につられた三人もそうした。雨があがっていて、さっきまでの土砂降りが嘘のようだ。
 そして暗雲の隙間から、明るい陽が差し込んでいた。

『エピローグ』

「遅刻よ」
 約束の場所、街の小さな喫茶店。その窓際のテーブルに私が向かうと、先に着いていた春川がアイスコーヒーを片手に開口一番そう指摘してきた。ちなみに時刻は三時十分。彼女の言う通り、十分の遅刻。
「ご愛嬌ってことで許してほしいね。というか私のせいじゃないのさ、昨日のお酒が悪い。抜けが悪いっていうのは、お酒としてマイナスだね。味は良かったのに」
「……まあいいわ。どうせ、まださよも彩愛ちゃんもついてないもの」
 まだ何か言いたげな彼女と向かい合うように座る。彼女の相変わらず綺麗な髪が、日差しにあてられて艶っぽい。見ていて眩しい。
「体の調子はどうだい?」
「検査入院を一日しただけよ。あなただって知ってるでしょ? 毎日、そんなこと訊かなくてもいいじゃない」
「心配なわけだよ。君は無理をしていても、平然とできてしまうタイプだからね」
 あの日から一週間。春川はあの日、念のため病院で過ごすことになった。結果としてどこもなんともなかったので安堵しているものの、やはり不安が消えない。
「今日の新聞、読んだ?」
「私、こう見えて起きてすぐここへ駆けつけたんだよ。君を待たせるわけにはいかなかったからね。新聞なんて読んでる暇なかったね」
「まるで遅刻してないみたいな言い方ね。それに何持まで寝てたのよ……。協会のこと、載ってたわ」
 聞きたくない話題だけど、回避できるものじゃないね。
「マスコミさんはそれが仕事だからね。ネタは尽きないだろうさ、あそこは叩けばいくらでも埃が出てくる」
「そうね。ただ、もう駄目みたい。このまま瓦解するだろうって」
 すぐ側を通りかかったウエイトレスさんを呼んで、私はアイスティーを注文した。
「……もともと教祖のカリスマ性で保っていたものだ。そして幹部が全員消えればそうなるさ」
 吐き捨てるように認めたくない現実を口に出す。別にあの教会に同情してるわけじゃない。ただ、現状こそがあの男の望んだ未来。それが許せない。
「ひどい話しだけど、これが一番よね。死者に会えるわけない、その夢から信者が開放されるわけだから」
「残酷だけどね」
 協会が瓦解するということは新聞を読まなくても父から聞いていた。信者たちが完全に混乱していて、もう組織として体をなしていないという。みんな、裏切られた気持ちでふさぎこんでいるという。アフターケアも考えているようだが、警察じゃ限界があるという。
 それでも春川のいうことも一理ある。これで夢は終わり、現実に戻れる。ガラスケースはもうない。
 ウエイトレスさんがアイスティーを持ってきて、それを受け取る。私がストローでそれを一口飲むと、春川が少し言いづらそうに、ある話題を出してきた。
「教祖は、どうなるの?」
 あの男は結局、一命を取り留めた。病院で目覚めた彼は生きているという現実を前にして、たった一言「なんだ、つまらん」と感想を口にしたらしい。本当、理解できない。
「わからないね。ただ、裁判は難航するようだよ」
 ストローを強く噛む。気に食わない、受け入れたくない。ただ、それが現実だ。
 捕まった大蔵さん、桐山さん、矢倉さんは聴取で同じ主張をしている。計画は幹部だけがたてたもので、教祖は一切関与していないというものだ。そして教祖もあのホールでの会話とは一変して、自分にかけられた疑いを全否定している。
 実際、教祖は何も手を出していない。だから証言だけが頼りなのに、教祖が主犯だと誰も言わない。そしてここにきて、まだ彼を信じる根強い信者が優秀な弁護士が何人も教祖につけるという。
「警察もなんとか彼を色んな罪で送検するけど、どれも決定打に欠けるってさ。君に対する誘拐だって教祖は認めていない。信者が勝手にやったの一点張りだ。そして信者も、そうだと主張している」
 春川を誘拐した三人はすぐに捕まった。しかしその犯人たちも教祖に命じられたとは供述していない。
「殺人とか誘拐の重罪は問えない。微罪を積み重ねるだけだってさ。それさえ危ういから、下手をすると……五年もせずに釈放されるかもって話しだよ」
 春川の眉間にしわがよった。きっと、私も人のことは言えない。この話を最初に聞いたときは報告してくれた父に怒鳴ってしまったくらいだ。父は何も悪くないのはわかっていたが、抑えられなかった。
 教祖の言葉が蘇ってくる。血まみれの彼が告げた言葉。
『どうせ法では俺を裁けない』
 本当にそうなってしまうかもしれない。私たちはもう何もできない。あとは警察や検察の仕事。祈るしかない。
「やるせないわね」
 春川はいつもと変わらない口調だったが、手にしたコーヒーカップが小さく震えているところからその怒りを隠してきれいない。無理もない彼女だって被害者なんだから。ただ、もうどうしようもない。
 あの男はこうなることさえ予想していたのかもしれない。だからあそこまで余裕だった。ホールでの出来事は証拠として弱い。まったく、あれさえ彼が仕掛けた芝居だったのか。だから警察署に来いと言っても拒否したわけだ。署での言葉は法的に力を持ってくるから。
 感情的になって、あの男にのせられた。
 腹がたってきたのでアイスティーをストローも使わず、一気飲みをしたところで、春川が「あっ」と声を出した。彼女は窓の外を見ていて、そこには手を繋いで歩いているさよちゃんと彩愛ちゃんがいた。こちらに気づいて手を振ってくる。
「意外だよね。彩愛ちゃんとさよちゃんってちょっとタイプが違うのに、驚くほどすぐに仲良くなった」
「本当ね。私も、さよがあんなに人に早く打ち解けるのを初めて見たわ」
 あの日以来、さよちゃんと彩愛ちゃんは仲良しになった。私と春川が驚くほどのスピードだった。ちょっと強気な彩愛ちゃんと、内気なさよちゃん。似てないけど、通じるところはあったんだろう。
「けど、似たもの同士じゃなくても、仲良くなれるっていうのは、私達も知ってることだよね」
「ふふっ……そうね。痛感してるわ。まあ似たもの同士でもあるんだけど」
 二人が喫茶店に入ってきて、まっすぐと私達へ向かってくる。ちなみに二人はさっきまで二人で一緒に映画に行っていたらしい。私達も誘われたが春川は自治会があり、私はその映画を観ていたので断った。ただ、この後四人で買い物へいくことになっていた。
「お、お待たせしましたぁ」
「あ、レイ姉とハル姉だけずるい。私だってなんか飲みたい」
「二人共、とにかく座って。あと店内では静かにね」
 春川に促される形で二人が座る。その途端に彩愛ちゃんがさっきまでの映画の感想を喋りだして、春川はそれに紳士に聞いている。さよちゃんは遠慮がちにメニュー表を見てから「彩愛ちゃん、どれがいい?」と尋ねている。
 そんな光景をぼんやりと眺めていたら、彩愛ちゃんと目があった。
「レイ姉、どうかしたの?」
「うん? いやあ、なんていうか……悪いことばっかりでもなかったかなって」
 その言葉に三人は首をかしげたけど、私は一人で納得しておく。
 あの事件のおかげで私はさよちゃんと彩愛ちゃんと出会え、そしてその二人は仲良くなった。春川とさよちゃんは仲直りができて、私も春川とより仲を深められた。この出会いは一生もの、そんな気がする。やっぱり繋がりっていうのは大切だね。
 感謝してるよ、依頼人さん――。
「さて、注文は決まったかな? 私も飲み干してしまったし、もう一杯頂こう。春川、君は?」
「なら、私もそうしようかしら」
 結局四人で仲良くオレンジジュースを注文した。そして運ばれてきたジュースを片手に、私は「乾杯しよう」と提案した。
 突然のことだったのに、誰もなにも言わなかった。四人が四人とも、グラスを掲げる。そして全員、これ以上ないという笑顔だ。
「じゃあ」
 この出会いに、この繋がりに――。
「乾杯っ!」
 全員が元気いっぱいに声を揃えた。
 グラスのあたる、心地いい音が響いた。


〈The Case of “CASE”――END.〉
2013-06-25 00:35:22公開 / 作者:コーヒーCUP
■この作品の著作権はコーヒーCUPさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最終更新です!
ネタバレ含む感想なので作品読後にお読みください。

長い。いつから始まったんだ、この作品。調べてみたら去年の7月24日ですよ。およせ11ヶ月。ええーと、長い。
なんでこんな長くなったかっていうと、作品書いてる途中で大きく路線変更したのが要因です。春川誘拐の流れがありましたけど、あんなの最初はなかったんです。それを書いてる途中で、こっちの方がいいなって思って、変えた。
変えたことで、作品全体を作り直さなきゃいけなかった。そのせいなんですよ。
だから春川が悪いと。
あとタイトルですね。「CASE」。この作品の章題って全部有名推理小説からいただいてます。これはプロット段階で決まっていて、最終章が「最後の事件」であることも決まってました。
で、自分はってっきり「最後の事件」(コナンドルの作品です)の原題を「the last case」だと思ってたんですよ。で、そこからいただいたつもりだったんですが、いざ調べてみると「the final problem」だった。びっくりした。ちょっと情けない裏話。

真相は、難しいと思います。全てを解き明かすのは無理かも。ただ、一つ一つの事件は伏線があり、解けたはずなんです。そしてそれを繋げられたら全体像は見えたと。
前作「CUBE」のときもそうだったんですが、そこでしかできないことがやりたいというのがありました。前作は学校というコミュニティでしか、今回は宗教という空間でしかできないことをやりました。個人的は満足です。
この作品は「犯人」と呼ばれる人たちがたくさんいます。そもそもそうじゃないのが、蓮見と父とさよくらいです。だから犯人を当てようとすると混乱したと思います。
犯人だらけの作品というのにチャレンジしていたというわけです。
この作品エピローグを三つ書いてしまった。明るいとの、暗いのと、中間の。どれにしようか迷った結果、明るいので締めました。暗いのは教祖が出てきて気に入っていたんですが。

来月くらいからまたなんか書き始めます。なに書こうと迷っています。ちょっと、猟奇的な作品を書こうと、久々に高校生書きたいと思ってたんですが、妙なリクエストもあったので、どうなるかは未定です。
ただ、その時もよろしくお願いします。

では、約一年、お付き合いいただきありがとうございました。
この作品が完結できたのはみなさんの声のおかげです。
感謝しております。
では。またいつか。
この作品に対する感想 - 昇順
ほらみろまた一回見逃した。ところでやったぞ、遂にやったぞ!!クソ使えねえゴミクズの左遷に成功したぞ!!これでちょっとは肩の荷が降りる!!かもしれない。
さて、謎解きに来たか。相変わらずであるが、ここからはもう自分の想像はまるで出来ない。予想もしない。昔に予想した傘なんて微塵も出てこねえもん。だから「やるじゃねえかカフェオレ」と言わせろ。楽しませろ。ワクワクさせろ。それが貴様の使命だ、役目だ。さあ!とっとと開幕させろ!!というようなキャラを今度書こうと思ってるんだけどどうだろう。まぁそれは置いておいて、うむ、楽しい。先週の合間合間でキューブのみならず、チョコやらトリプルエルやら尼将軍やら、蓮見関連のモノは全部読み返してきた。その延長線上のこの物語の完結、楽しみにしているぞ。
ところでどっかのあとがきに蓮見と春川の話のストックがあるとか言ってたろ。次はそれ書けよ。
2013-06-19 09:17:40【★★★★☆】神夜
神夜様
 左遷成功おめでとう、幻さんの仕事が減るのか増えるのかわからんけどとりあえずおめでとう。。おれは左遷どころか人生の路線に乗れない。なんだよ就活って、マジでいらついてきた。一発テロでもしてやりたい。
 さ、謎解きだ! できれば少しは考えて欲しいんだ。というか、幻さんって実家暮らし? 一人暮らしの男性って作品内で書いてて、これってもしかしたら神夜さんわかんじゃねえかなって普通に不安だった。気づかれなかったら、それにこしたことはないのだけどね。
 ワクワクさせられただろうか?
 そのキャラは面白いから作ってみたらいいんじゃないだろうか。というか、なんでもいいから作品書いて投稿してみてはいかがだろうか? 最近の登竜門の過疎っぷりはなんだろう。寂しい。すっかり廃れてしまってるよ。活力を戻そう。
 シリーズ読み返し、感謝。それぞれ自信作だよ。そうか「CHESS」読みたいっすか……。ぶっちゃけ次書くのはちょっと用意してたんだよ。でもそうだよね。本当は、この作品がもっと順調に更新できれば、5章終わったあたりから並行で連載しようとしてたんだけど、こっちにかかりっきりになったんだ。だからなあ……書きたいけど。どうしよう。幻さんのせいで小野くん書きたくなってたし。もうめちゃくちゃだぜ!
 では、最終回、できれば楽しんでくだされ! 感想、ありがとうございました。
2013-06-25 00:57:53【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
感想が遅くなってすまない。完結お疲れ様。
全体的な感想で言うのであれば、「面白かった。サンクス」になる。ここ最近、ずっと楽しませて貰っていた感謝も込めて、最終評価としては「2p」をつけよう。諸々に散りばめたモノを最後にまとめたことも良かった。
――さて。さてさてさてさて。これがカフェオレじゃなくて、これが蓮見でなければ、これだけで感想なんぞ終わっていたであろう。あろうが待て待て待て待て、これはカフェオレ作品で蓮見作品だ、舐めんじゃねえぞクソ野郎。
全体的に見れば綺麗にまとまっていて面白かった、面白かったんだが、あと二歩ほど踏み込んで欲しかったのが本音だろうか。綺麗にまとまっている、そう、まとまっているだけとなってしまってるんだ。肩透かし感がある。自分はまったく気づかなかったけど、伏線も確かにあったのであろう、だけど他殺と自殺を結びつけて「なるほど、ほうほう。それでそれで?」というところで終わってしまった感じだ。ここで終わるのが綺麗、綺麗だからこそどうしようもないんだろうが、、、この前にキューブ読み返してしまってるから尚の事だ、残念。
他殺の犯人の詳細(捕まったかそうじゃないかとか)、春川事件の詳細(結局警察には言ったのか言わなかったのか)、部屋に足りなかったものて生活感かよ、生活感かよ!!そういうんじゃなかっただろあの場面!!、とか諸々あるけれども。ああ、あと教祖のその後とか。エピローグはこういうのの方が好きだけど、教祖のも非常に見てみたかった。ところで教祖はやっぱり罰することは出来ないんだろう。これを読んでいて思い出したのが、古畑のスペシャルであった、藤原竜也が出て来て銃で事故⇒自殺⇒結果他殺だったっていうあれを思い出した。あれは法で捌けないが、過去の事件が決めてで逮捕、とかそんな話だったはず。あれくらいのどんでん返しが、やはりこの物語もほしかったなぁ。キューブのように、そう、キューブのように!!
しかしグダグダと言ったけれども、それでも楽しかったのはやはり事実な訳で。またの作品を、心から楽しみにしているよ。春川との出会いも勿論として、読み返す物語としては、「氷」も捨てがたいんだけど、あれはカフェオレ病で死んでしまった物語な訳だな、うん。
2013-07-01 09:21:45【★★★★★】神夜
どうも、鋏屋でございます。御作読ませていただきました。
上はチマチマよんでましたが、物語が動き出す中の途中からは一気読みでした。リアルタイムで読めなかったのは残念なところですが、その分お話の加速感が味わえたのは良かったのかなw
特に春川が捕まり、水責めを食らってる時の演出は、映画みたいで面白い試みだったと思います。あの辺は苦労して工夫された感じがしますが、いかに?
さて、では物語の感想をばw
上をちょこっと読んでる時にも感コメ入れたけど、インターバル開けすぎたので、通しで読み直しましたw
何処と無く有栖川有栖さんの『女王国の城』みたいな印象を受けました。ま、初めだけねw
アレの人類協会の動機つーか、最後まで警察の介入を拒んだ理由ってのは納得出来ました。
で、あれに比べて今回の『クロスの会』の事件の動機は結構力技な感があるように思いました。何と言うか、あえて言うなら『納得せざるを得ない』って感じです。
それほど教祖の個性が強過ぎる。あの教祖が居なければ、あの動機は成り立たないですから。で、普通の感覚しか持って無い読み手は共感出来ずに、感情移入出来ないまま納得せざるを得ない……と言った感じ。
コレは完全に個人的な意見なんですが、教祖のキャラは良いとして、彼のあの異質さを理解できる理由を読み手に開示してたら、また違った面白味があったような気がします。
今ではまるで、彼が生まれた時からあの様な神的な悟りを持ち合わせており、人間じゃないみたいで、理解が追いつかないと思います。例えば過去に何かしらの事件があり、そこで人間の弱さを知り、それを憎むようになり、いつしかそれが悟りに変わり、空虚な精神構造を創り上げ現在に至る……みたいな、彼があのようなモンスターになるキッカケのエピソードを読ませてから、解決した方が感情移入し易い気がするのです。
こう言った本格的な推理ミステリーの犯人は、神や悪魔では無く、あくまで神や悪魔を気取った『人間』であって欲しい。
いかに神のごとき悟りと、悪魔の様な精神構造を持っていたとしても、そこに至るまでの納得出来る理由が欲しい。その方が、次回作で彼を出す時に、主人公である蓮見のキャラを動かし易くなると思いました。
蓮見に対しては特に問題無く読めました。過信、失敗、挫折、奮起、復活と、およそ主人公としての役割をキチンと踏んでたと思います。彼女の怒りも私は納得できましたよw
春川は今回良く動いてましたね。でも一つ引っかかるのは、女王の剣の時の彼女の行動理由が、今回あやふやなのは何か理由があったのかな?
私はそっちを読んでいるのでわかりますが、これだけを読んだら、高校時代の春川の行動が理解出来ないだろうなぁ……と。
あ、あとタイトル。この物語のタイトルは『CASE』ですけど、確かに温室の様な、過去に逃げ込む人間の弱さみたいなのがテーマになってる様ですので良いとは思うのですが、本来なら交わる事の無い別の事件を無理矢理繋げ、さらにそこからまた別の事件に繋げて行く様にちなんで『LINK』とかでも良かったのかもなぁ……
あ、でも前回もCから始まる言葉だから、統一してるのかも。Cの三部作みたいな?w
くだらない事をつらつらと書き綴ってしまいすみませんでした。あと、読むの遅くなってごめんなさい。でも、それだけに一気に読めて物語を堪能出来たと思いますのでご勘弁を。楽しい時間をありがとうございました。読んで、私も書きかけのあのミステリ拙作の続きを書いてみようかなんて思いました。単純ですね(汗っ)
最後にポイントと、冒頭の例えに女王国の城を出したので、それにちなんだ言葉を贈ります。コーヒー殿なら解るはずwww

『本格ミステリーとは、最善を尽くした探偵の記録だ。蓮見レイの推理こそ、この物語を完結させる唯一の回答である』

それでは、また次回作も楽しみにしております。
鋏屋でした。
2013-07-09 12:29:03【★★★★★】鋏屋
 こんにちは。
 うーん難しかった。しかし超特急で展開するラストのせいか、読み終えた後には何やら爽快感のようなものすら残りました。
 ぼくが初めて感想を書いたのが2月のようですから、この作品を読んでいたのは後半の5か月だけですね。それから一気に上・中・下と書き上げられたのですから、ペースとしては相当なものかと。
 伏線も多かったと思いますし、何より筋がしっかりしていてすばらしいと感じます。ただ解決編が急ピッチすぎないか、とは思いました。というかなぜあのように事件全体が頭の中でピーンとつながるのか……やはり天才探偵は常人とは思考回路が違うのですね……というのは蓮見さんへのひがみです(笑)
 何回か感想を書いてますので最後も短めでご勘弁ください。
 あ、プロローグが気になったので読みかえしましたが、やはり読みづらいですね(今さら)。初見では何のことやらさっぱりわかりませんし、読了後に読み直しても、うーん、あまりすっきりしません。某氏の一人称になるのは構成上仕方がないのですが……。一人称なのにどっちも謎の人物って不親切じゃなかろうかと(笑) と言いつつ、興味を引かれるプロローグでしたし、読み直してもおもしろかったので、別に良いのですが。ちなみにプロローグが気になったのは「あれ、あそこに出てきたのってもしかして矢倉さんかな?」とうろ覚えで思ったからなのですが、違いましたね。しかし矢倉さんの行動はいったい何だったんでしょう。彼女の独白のほうも聞きたかったなあと。
 ではでは、次回作もお待ちしております。
2013-07-10 01:54:53【★★★★★】ゆうら 佑
神夜様
 なんとか「2pt」もらえた。よかったわ。とりあえず、そこそこの期待には応えられたと受け止めておく。
 言いたいことがあるのはわからんでもない。やっぱり、作者としても全体を見返して満足してるかといえば、やっぱり「CUBE」ほどの満足感はない。あれを超えることを宿命としていた作品だけに、こういうことになってしまったことには悔しささえ感じているわけだ。もう少し、工夫できた気がしてならない。登場人物を増やしすぎたのかもしれない。
 もう二歩ほど踏み込めというのは、どれくらいだろうか。どんでん返し感が少なかったかな、肩透かしということは。結構、理詰めでいった作品だった。だから緻密さには自信がある。ただ、そうだな、これを単純な推理小説としたときにそこに衝撃や、一撃必殺的な何かがあったかというと、やはり欠けていたか。たぶん、肩透かし感というのはそのせいだろう。「自殺だから?」と言われてしまえば、返す言葉もない。
 ただ、生活感はよめたはずだよ。あれは別に不思議でもなんでもないし、正直、たどり着いてほしかったくらいだ。なにせ、ヒントはあったんだ。あの部屋の綺麗さはかなり主張した書き方をしたし、教祖の言葉というヒントもあった。そもそも物理的ななにかが欠けていたら、蓮見が言葉がでなかったのも、春川が気づかなかったのもおかしい。あの二人だよ?
 エピローグは迷った。教祖のでてくるエピでは春川の事件にも言及されていて、個人的にはよかったと思ってるんだよ。ただ、「明るく締めたい」という、まことに勝手な想いが勝った。
 藤原竜也のでてくる古畑なら見てな。藤原→イチローの流れだったやつだろう。あれはさすが三谷幸喜というべきか、よくできた脚本だった記憶がある。あれ確か古畑が「こんな完璧な犯罪は見たことない」ってべた褒めするんだよね、まあ結局捕まるんだが。教祖もそうすべきだったか? ただ、教祖はそういうのは嫌かもしれない。あれは実際に手をだすことはない。だから罪になりようがない。
 春川との出会いの話し「CHESS」であるが、ちょっとまって欲しい。また時間を置きたい。蓮見はもうお腹いっぱいなんだ。次回は違うの書く。ごめんなさい。ただ、いつか絶対書くよ。
 では、最後まで読んでくれて本当にありがとうございました! 

鋏屋様
 一気読みとかすげえ。長かったのに……お疲れ様です。そしてありがとうです。
 まさにインターバルをあけたのが、第六章から七章における変更でして。最初は春川が拉致される展開なんて用意してなかったんですが、なんか盛り上がりに欠けると感じて、急遽そういうのを入れました。で、これを入れるために「上」の更新が一時停まったんですよね。作品全体のプロットを組み立て直したら、結果として半年近くかかったという。
 けどそれだからこそ、あの水攻めシーンを気に入ってもらえてよかった。あそこは書くの力をいれました。なにせ、あれだけのために作品のプロットを組み立てなおしたわけですからね。
 さすがに「女王国の城」と比べられると辛い。あんな近年稀にみる名作と比較されるなんて恐れ多いし、耐えられない。
 動機が力技だったというと、たぶんそうなのでしょうね。意識しなかったわけじゃありませんよ。まず、あとがきにもありますけど前作は学校というコミュニティでしか、今回は宗教という空間でしかできないことをしました。そしてそのために必要だったのが「信仰心」で、これをどう創りだそうかというのは大きな課題でありました。
 だからこそ、教祖の登場シーンは力をいれたんですよね。彼だけはこの作品で異質で異常で特別で格別でないといけませんでした。そしてどうやら「力技」に感じたのなら、それができたようです。あれがああなったきっかけですか。なんか、それをしちゃうと、野暮になりそうですが、面白そうですね。 
 蓮見は今回もよくがんばってくれました。特に五章からは最終回まではほんと色々と大変だったと思います。怒りに共感? ああ、なるほど。確かに鋏屋さんはできますねw。よかったです。
 今回、MVP級の活躍をしてくれた春川。動機が曖昧だったというのは、うん、似たようなことを幻さんにも言われた。そのときも言ったんですが、あくまで「女王の剣」のネタバレをしないようにしたら、ああなってしまったんですね。
 タイトルはおっしゃるとおり「C」で始まるようにしてます。だから「LINK」もいいですが、途中からはずっと「CROSS」にしたかったですw。これならクロスの会ともかかってるし、「LINK」の意味合いも含めましたから。大きなミスでした。まあ、CUBE(箱)、CASE(箱)で、揃っているので構わんのですが。
 良い文章を引っ張ってきましたね。自分にはもったいない。なら作中の人物たちにそれに対する返答をしてもらいましょう。
「いいや、事態はいつだって最悪さ」
「そうね。けど、最善、いい響きだわ」
 誰と誰のセリフかはお任せします。
 では、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

ゆうら佑様
 難し勝ったという感想は、「そうだろうなあ」とまことに普通の返しをしてしまいます。あとがきにも書きましたが、色々とからみ合って、難しいものではあると思います。ゆうらさんの場合、脅迫状の犯人や、春川も怪しくないかと、一部推理は見事に的中しておりましたが、そうですよね。全体はそれをつなげないといけない。それは確かにむずい。
 書くスピードは自分でもがんばったと思っています。なんせ、教授のシーン。だから第二章の途中からですね、あそこは今年の二月に書き始めました。そして五月の終盤に書き終わりました。およそ、600枚ちかくを四ヶ月ほど書いたことに……。いやほんとう、お付き合いくださって、ありがとうございました。ゆうらさんの感想は間違いなく、そのバイタリティになってしまた。感謝します。
 急ピッチ……。蓮見が思いつくシーンですかね。あれは教授の「水と油」発言から、そういえば彩愛ちゃんとも「水と油の話をいた」ということを思い出して、そういえば彩愛ちゃんは意味がわからなかった→おいまさか。という流れですね。そこからはもう超人的なw。まあ、探偵とはそういうものだと。コナンくんみたいなものですよ。
 プロローグ。最後になってわかる、大蔵と立浪さんのシーンですね。わかりづらかったですか、うーん、残念。あそこはそれこそ最終回を読んで「ああ、あそこはああいうことか」ってなって欲しかった箇所ですので。どちらかを明らかにする……大蔵さんを明らかにするわけにはいかなかったんです、で、立浪さんも……うーん。どうするのが正解だったんだろうか。そもそもあれをプロローグにしたのがミスだったのかもしれません。
 矢倉さんはなんだったんでしょうか。ただ、あれは個人的に教祖への天罰なんですよ。結果、法律で裁けませんから、せめてっていうもので。で、それをしてくれたのが矢倉さんだった。いやだって、裏切られたことをしった女性って怖いじゃないですか(偏見)。
 では、最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
2013-07-15 01:22:41【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
初めまして。
かなりの長編の為、読み終わるのにかなり時間がかかってしまいました。しかも、CUBE の方も読まないとちゃんとした感想は出来ないかなと思い、流し読みではありましたが、そちらも拝見しました。
主人公蓮見さんの魅力で読ませていく、まさに、ミステリ、探偵物の王道ですね。ただ、本格ミステリであるがゆえに、一人称で話を進める難しさも、読ませて頂きながら感じました。
どうしても、謎解きが回りくどいと言わざるを得ない。矛盾点の解説者(主人公)と読者の代わりを務める質問者(その他大勢)の会話での構成。それでなくても、この謎解きって、くどくなりがちで、過不足なくってのが微妙だと思う訳です。そこまで解説しなくても、とか、ちょっと警察のレベルを下げすぎて無いかなとか、漫画やドラマだと有りかもですが、本格的な小説では、もう少し……と思いました。
全体を通して、ぐいぐいと読ませる魅力のある作品だと思います。春川さんが溺れそうになているのを今や遅しと思う私が居たり。(私だったら殺してるな……何て思いながら、助かってホロリときました)
後最後に、他の方からもご指摘が多分にあるようですが、誤字脱字が多すぎます。直したとおっしゃっている冒頭にもまだあります。一章の四段落目あたりです。余計なお世話だと思いますが、もう少しご自身の小説を読み直し(流し読みではなく、一字一句丁寧に)推敲してはいかがでしょうか。誤字脱字はそこで流れをストップさせるので、非常に勿体ないです。

ぐだぐだ言いましたが掲示板において、読み応えある数少ない本格ミステリ、愉しく拝読させて頂きました。ありがとうございます。
2013-07-17 19:43:48【★★★★☆】蜻蛉
蜻蛉様
 なんか、どえらい苦労をさせてしまったようで申し訳ない。この作品だけじゃなくて前作まで流し読みとは……すんげえ。本当にありがたい話しです。感謝します。本当なら、前作を読まなくても感想を書けるような作品にすべきで、それを目指したんですが、どうやらできてなかったようです。
 くどい。これはね、書いてて感じてたことです。だから本当にそうなんだと思います。いや、ちょっと言い訳するなら、謎解き部分になると「ちゃんと言ってること伝わってるよね!?」と不安になるんですよね。そして今回だと事件が何個も混ざってしまってるので、混乱してないかという不安もあり、くどくど書いた次第です。けど、ここまで言われてしまうと鬱陶しいものがあったかもしれませんね、読者の方にとっては。もっと完結に、わかりやすくまとめることを心がけるべきでした。
 春川は殺せないんですよね。殺した方が、というのは思わんかったわけでもないんですが。作者である自分が溺愛してるキャラなので、死なせたくなかった。(自己中心的)
 誤字脱字についてはもうマジでごめんなさい。一体、何度言われたかわからない。一応、書きてから寝かして、パソコンでソフトとか駆使してチェックかけて、プリントあうとして目視でペン入れして……このざまです。本当にすいません。誤字脱字は読書してても、なんというか読むペースを乱されますよね。そんな思いを多々させてしまい、申し訳ありませんでした。
 こんな長い作品を読んでいただき、感想・アドバイス・指摘など本当にありがとうございます。これらを次に活かせるようがんばります。それでは、お読みいただき、本当にありがとうございました。
2013-08-06 04:20:08【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
計:23点
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