『ヒナタと亜子』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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キーコー。キーコー。
塾の帰り、夜中の小さな公園に響いてるのは錆付いたブランコの音と、
私と雛太の声。白い息が交差する。

「小さい頃さぁ、ブランコ思いっきり漕いでさぁ、このまま漕ぎつづけたら、1回転しちゃうのかな?とか思わなかった?」

ヒナタは無邪気に言った。遠い記憶を探すように紫の星空を見上げて。

「あー!思った!!私、やったもん!でも途中で怖くなってやめちゃうんでしょ」私もつられて無邪気に言う。

なつかしいなぁ。たしかにそんなことよく思った。
やんちゃな女の子だった私は、いっつもそれをやろうとしていた。
たち漕ぎで勢いをつけて、漕ぎまくる。
でも、地面が思いっきり下に見えるようになると、
怖くて座り乗りになって・・・。ブランコも勢いをなくす。
それを毎回、公園に行くたびにやったけど、
とうとうブランコが1回転することはなかった。

やんちゃだったなぁ。あの頃の私。
男の子とケンカして泣かして、
お母さんと一緒にあやまりに行ったこともあったっけ。
なんて懐かしさに浸っていたけど

「そそそ。かなり怖いんだよ!亜子もやってたんだ?ウケる。」

って笑いを含んだ声が私を我に返した。

でも顔いっぱいにシシシって笑うヒナタが好き。
それにその笑顔を見るとね、
いつも両頬にできた小さなえくぼを押したくなる。
人差し指でエイッって。

そのポコッて小さく浅く、へこんだ部分はどうなってるんだろう。
冷たいのかな?温かいのかな?硬いのかな?やわらかいのかな?

私は何度も「押してみよう!」って思ったけど
今日までなかなか押せずにいた。
付き合って結構たつけど、私とヒナタはまだ手もつないでいない。
手もつないでいないのに、ほっぺた押せるか?
・・・ってゆうか逆か?
ほっぺたも押せないのに、手をつなげるか?だ。
ヤバイ・・・なんかどんどん深刻になってきた。

結論から言うと、恥ずかしいんだ。好きな人に触れるってゆうその行為が。例えば「手をつなぐ」にしたって、
つないでるとき手のひらが汗ばんじゃったらどうしよう。とか、
そんなことを考えてしまう。「ほっぺたを押す」だってそうだ。
上手く押せるか心配だから、まだ押せずにいる。
本当は触れたい。触れたくてたまらない。

今日こそは!!

ブランコを1回転させようとして、
やんちゃしてたあの頃の私はどうした!
近所の男の子とケンカして泣かしてた私はどうした!
こんなことでビビってるんじゃない!と自分に言い聞かせる。
やってやるよ、やってやろうじゃないの!
もう決めたんだ。あとにはひかない。

ヒナタはブランコに座ったまま、
足のつま先で軽く揺らして星空を眺めてる。

私も隣のブランコに座ったまま

「ねー・・・」って言葉を投げかける。

「んー?」そういってヒナタが私のほうを向く。

「笑ってっ!!」

「は?」 は?ってゆう返事は正しいと思う。
いきなり笑ってって言われても笑えるわけないし、
いきなりすぎてわけがわからない。

「な、なに?!」

「いいから、笑って!あ、わかった。笑わなくてもいいから、イーッってして。イーッ。」

そういって私もイーッって顔をする。歯を見せて、イーッって。

「なんかチンパンジーが怒ったときみたいだね」

あははってヒナタが笑った。
チンパンジー発言はいただけないけど、その頬にえくぼがのぞく。

今だ!!

私は彼のえくぼに、えいっ!って人差し指を伸ばした。

「痛っ!!」

そのえくぼは温かくて、やわらかかった。

「急になにすんだよー!」
ほっぺたを押さえてビックリした表情で私を見てる。

「チンパンジーって言った!」とっさについた嘘は我ながら上出来。
ヒナタとヒナタのえくぼに触れたかったなんて、言えないし。

「よっし!帰るぞ」私は立ち上がって言う。
なんかスッキリした。爽快な気分。
好きな人に触れられた喜び。私、少し成長したかな?

「ヤバイ!走らなきゃバス間に合わないっぽいよっ?!」
ヒナタは腕時計を見ながら焦ってショルダーバックを肩にかける。

「いいじゃん。歩いて帰ろっ」今日はゆっくり。
もうちょっと一緒にいたいんだ。

「じゃぁ、そうしよっか。たまには。」
そう言ってシシシって笑うヒナタが好き。
そのえくぼは温かくて、やわらかくいんだよね。知ってるよ。

「ねー・・・ヒナタ」

「何?」

「やっぱいいや。また今度で」

そういって私は、横で彼の左手を手探りで探す。
繋ぎなれてないせいか、その仕草はどこか不自然に映った。
どこ?!手っ、手、どこ?!

「ここ」

そう言ってヒナタは私の手を握った。
その手のひらは、すごくあたたかくて、優しかった。

「亜子の手、あたたかいねー」
同じこと思ってた。

ねー、ヒナタ。さっき言えなかったこと。
何十年後もずっと一緒にいようね。
2003-12-16 13:50:12公開 / 作者:律
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■作者からのメッセージ
はじめまして。初投稿です。緊張です。未熟な文章ですが、あたたかい気持ちになってくれたら嬉しいです♪
この作品に対する感想 - 昇順
ほのぼのとしていてとてもいいと思います
2003-12-17 00:11:04【☆☆☆☆☆】ササキ
すみません、途中で投稿してしまいました・・!登場人物の二人が初々しくていいです。
2003-12-17 00:13:19【★★★★☆】ササキ
ありがとうございます^^そう言ってもらえると嬉しいです☆
2003-12-17 01:44:24【☆☆☆☆☆】律
これはよい。ドキドキ感が心地いい、面白い作品だ。作者の、物まねをしない気取らない感性が見える良品である。確かにブランコ一回転の想像は子供のころには誰かとしあったものだ。好きな子の肌に触れるというのも、冒険だ。意外と小学校も高学年になると、互いの手をつなぐなんて、照れくさくてやれないものだから。次回作も大変期待しています。
2003-12-17 20:08:11【☆☆☆☆☆】くるみぱんチップ
くるみぱんちっぷさん、ありがとう♪次回作もがんばりますっ^^
2003-12-17 20:12:36【☆☆☆☆☆】律
計:4点
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