『外を見ていた。』作者:佐伯真司 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
大学生のふとしたときの思考。守られている者の傲慢さ、他人への八つ当たりとあてこすり、叶わないことを願い、諦められない、過去を羨み、未来を見ない、そして無関心を装う「彼」の数分間。
全角1920文字
容量3840 bytes
原稿用紙約4.8枚
「外を見ていた。
遠景が霞む。遠くの木は深緑だ。

逃げる人の顔が見たかった。みんなも逃げていたから。
彼は座っていた。
音がしたので腕の時計を見ると、15時だった。正確には、15時を5秒過ぎた時だったかもしれない。秒針は見ていなかった。朝にみた昔の母親の写真と瓜二つの顔が窓に写って居るのを見ていた。

母は言っていた。
今日、雨が降るみたいよ。
母は犬に餌をやっていた。
ねえ、人と違って犬の寿命って短いのよね。

彼は、雨が好きだと言いたかった。雨が降ることは好きなはずだ。雨に打たれることは気持ちいいはずだ。そう思うことは大切だ。
傘は持たなかった。

外には、あわてて逃げる人たちがみえた。こんなに突然降るなんてな、でも、あの人たちはバカだ、降るって言ってたんだから。
手に汗をかいているのが分かる。時計を見る。15時と30秒と35秒の間。不安になるのだ。
時計を見、次の瞬間には動くはずの秒針を見、なかなか動かない秒針を見た。動くと予期した瞬間に裏切られた。

時計の枠とガラスの隙間に挟まった塊、自分の汗とか老廃物といった自分だったものと埃や塵が混じった薄茶色の塊をみつけて爪で剥がす。爪と皮膚の間にその薄茶色が入り込んだ。匂いをかぐ。彼の好きな匂いだった。愛おしい。

顔をあげる。

時計の秒針の裏切りは頭から離れ、また、外を眺める。
出口から人が溢れ出る。出口で雨に気づいて戻ろうとするが、後ろから殺到する人のせいで外に押し出され、雨に降られる。なんてバカなんだ。
突然の雨は、大粒で、粘液みたいに肌にまとわりついて離れない、そんな雨のように見える。いやそうであればいい。俺になんの関係がある?

植えられた木は深緑で、出口には人が殺到し、逃げる人がいて顔が見えない、突然の雨はきっと大粒の粘液で、重ねたガラスの間に水が溜まって透明ではなくて白くなってしまった窓に顔が写って母親に似ている。
時計は15時1分20秒を過ぎた。
聞こえる。

えー、例えばクモ、あの、そのー、ムシのクモの形がスクリーン上にうつし出された時に、えー、さるは怖がります、で、サルがコワがっている時に、えー、ヘントウ体の、神経細胞が、活発に活動します、、、そういったような、具合にえー、外からやってきたえー、何か、せきるなものが...

そしてまた聴覚の入力を遠ざけて、彼は考える。
コイツはいつまでしゃべり続けるんだ?もう10分も過ぎてる。バカだ、誰も彼もが面白いと空々しく思っていて、興味を持とうともしていないことを知っているくせに、ただ、なんの期待もせず期待を装っているだけのくせに。顔面の方向をこちらに固定し、焦点の定まらない目を、焦点の定まっているかのごとく開いている。バカなのか?それともアスペ野郎なのか?そして周りのやつは何でなにも伝えない?ただ聞いているふりをして出る準備をしているだけだということを知っているぞ、真に興味があるわけではないことも分かってる、バカみたいなツラを下げてなんのためにそんなふりを続けて耐えているんだ、早く行動しないといつまでもコイツは続けるのにな、分かってない奴らだ。誰でもいいから早く止めろよ、だれか手を上げて、先生10分過ぎてますよ、とでも言えよ、これくらいのことを言えないなんて、いやもう12分か、バカが。

外をみながら、冷房ですこし冷たくなった消しゴムに人差し指と中指の爪をたてながら握って傷をつける。いつか近いうちに、この傷のせいでゴムは裂けてしまうだろう。その時彼はこの傷のせいで裂けたと気づくのだろうか。

特に目と鼻の形が母に似た自分の顔を左手で、彼はさする。

彼は、誰かがぶち壊せばいいと思う。逃げる、なんてことをせず誰かが、例えばヘルメットを被ってゲバ棒でも持ち、冷静を装った熱い頭脳でもって、集団の中で行動するのが一番幸せなのに。
いや俺が一人で鉄砲でも斧でも持って、僕は幸せ者です、って叫びながら、みんな殺すか?でもそれはやっぱりだめだ、恥ずかしい。思いついたことすら恥ずかしい。

彼は足を組み替えた。楽な姿勢を探して尻の位置をかえる。
こんな自分が許される。自分の体温より5度ほど低い温度のぬるま湯、いや泥の沼に浸かっているみたいだ。窓に大好きな自分の顔。外には大好きな景色。大好きなみんなのいる大好きな講義室。大好きな誰かの声。
大好きな雨が降っているから窓を空けるのだ、窓を。
空気が必要だ。
彼は立ち、窓を空ける。」

彼は、そうノートに書いて、書きさしでも書きやめて、

外を見ていた。
2013-05-28 03:50:03公開 / 作者:佐伯真司
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■作者からのメッセージ
すみませんでした。
初めてこういったものを書いたので、拙い箇所があるかと思います。
批判、コメントをいただければ幸いです。
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