『出世魚』作者:スピンナ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
ブリか。いいよな、お前は。ただ生きてるだけで出世できて。
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原稿用紙約3.64枚
 中島は、とぼとぼと夕方の商店街を歩いていた。
くたびれた紺の背広に身を包み、手にはカバンを持っている。
 彼には、結婚して十年目になる妻と、高校生の娘が一人いた。
だが、円満というわけではない。妻には尻に敷かれ、出世が遅いと嘆かれる。
小さい頃こそ可愛かった一人娘とは、今ではほとんど会話もなく、邪魔者扱いされている。
万年平社員で、この先、出世できる見込みもない。
家に帰る足取りは重かった。
 魚屋の前を通り過ぎようとしたところで、呼び止められた。
「旦那、今日は生きのいいやつが揃ってるんだ。どうだい、このブリなんか」
 中島は、勧められたブリをしげしげと見た。
「ブリか。いいよな、お前は。ただ生きてるだけで出世できて。勝手に名前が変わるんだから」
「安くしとくよ」
「いいや、やめとく」
 男は、再びとぼとぼと歩き出した。

「あなた、食べ終わった食器は洗っといてくださいね」
 家に帰ると、妻と娘は、既に夕食を済ませ、テレビを見ていた。
「ああ」
 食事を済ませ、風呂に入る。
体の異変に気づいたのは、風呂から上がってビールを飲んでいる時だった。
頭が痛い。妻に聞いてみる。
「頭が痛いんだが、医者に行ったほうがいいかな」
「とりあえず薬でも飲んどけば」
と、心配する様子は全くないようだった。
「うん。そうだな」
 明日は休日だし、寝れば良くなっているだろう。薬を飲んで布団に入った。
ところが、次の朝になると状況はさらに悪化していた。体が重く、熱があるようだった。
「ちょっと、医者に行ってくる」
 家を出て徒歩数分の病院に。受付を済めせしばらくすると、名前を呼ばれた。
「ナカシマさん」
 本当はナカジマであったがまあいいか。診断はただの風邪であった。

 休み明け、会社に行くと、驚くべきことが起きていた。
「ナカシマ係長、おはようございます」
「僕が係長?それに名前は……」
「なにとぼけてるんですか。ただでさえ忙しいんだから、ふざけないでください」
 これはどういうことだろうか?

 何とか仕事をこなし、家に帰る。
「あなた、お帰り」
「おかえりなさい」
 妻と娘の笑顔があった。今までには考えられないことだ。
違和感を感じながら夕食を済ませ、風呂に入る。
「しかし、いったいどういうことか。そうか、名前だ。名前が変わったから出世したんだ」
 そして、ある考えが男の頭に浮かんだ。
「上島課長、おはようございます」
 思った通りだった。出世している。試しに、名刺の名前を変えてみたのだった。
男は、名前をかえるたびにどんどん出世していき、ついには会長まで上り詰めた。

 休日。友人と食事。
「しかし、会長とはすごいな」
「実は、ここだけの話なんだが……」
 男は、それまでの経緯を話した。
「かわったこともあるもんだな」
「そうだ、君に何かいい名前を考えてもらおう。そういうことは得意だろ」
「だが、会長まで上り詰めたんだ。もう十分だろ」
「いやいや、まだまだこれからさ」

「お世話になりました」
 ここは墓場。男の墓の前で妻が頭を下げる。
「しかし、突然の心臓発作とはね。ついこの前も食事をしたばかりで……」
 坊主が言った。
「それでは」
 軽く会釈をし、妻は帰って行った。
「しかし、名前を考えてくれと言われて、それが戒名になってしまうなんて」
2013-02-21 20:09:19公開 / 作者:スピンナ
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この作品に対する感想 - 昇順
スピンナ様、こんにちはー。も、から始まる格ゲーマーです。新作お待ちしてp里ましたよー。
うん、これは面白い! オチは転落が来るかと思いきやすっとんでいきましたが、これはこれで出世魚に掛けるならアリですね。リズム、テンポ、裏切り方共にけれん味あって良かったです。
ショートショートとして完成度が高い作品が読めて嬉しかったです。またスピンナ様の作品をお待ちしておりますね。
いじょ、格ゲーマーでした
2013-02-22 12:30:56【★★★★☆】も、から始まる格ゲーマー
読んでいただいてありがとうございます。実は、まだまだアイデアがあるのです。もっともっと頑張ります。
2013-02-24 18:30:54【☆☆☆☆☆】スピンナ
計:4点
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