『砂浜』作者:水芭蕉猫 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 夜の波打ち際を歩いている。
 泡を立てながら押し寄せる冷たい波。
 引いていく瞬間に共に足の下の砂ごと海の向こうへ引きずられそうになる。
 砂を浚われて足の裏をくすぐられる感触に耐えながら歩いていると、月の光に照らされた貝殻が道しるべのようにきらきら輝いているのに気が付いた。
 見たことも無い貝殻で、指先でそっとつまんでみると、本当は貝のかけらは月に照らされて光っているのではなく、それ自体が月のように青白く光っているのであった。
 宙に翳して表裏をじっと眺めているうちに、そこではたりと気が付いた。
 この貝は、月から落ちてきた貝なのだ。
 だから、この貝の落ちている道を辿って行けば、最後にたどりつくのはきっと月なのだ。
 打ち捨てられた星屑のように重なるテトラポッドの上に浮かぶ月を見上げると、確かに遠いが、どうにかすればきっとたどり着けそうな気がする。
 しかし、このまま月へ行っても良いのだろうか。
 月は確かに綺麗だが、あそこには知り合いの一人も居ないのだ。
 光る貝殻を辿って月へ行こうか迷っていると、どこか遠くで犬の遠吠えが聞こえた。
 あまりにも寂しそうな遠吠えが耳の奥から頭の中に潜りこみ、そしてようやく決心した。
 仄明るい月の光の後を辿って、ゆっくりと歩み出す。
 暗い砂浜に落ちた貝殻を一枚一枚拾い上げながら、月に照らされて魚の鱗のように光る波の中を、のんびりと。
 月にたどり着くまで、どれくらいかかるだろう。
 暗い夜空を見上げると、自分が笑っているのに初めて気が付いた。
2012-08-20 23:08:00公開 / 作者:水芭蕉猫
■この作品の著作権は水芭蕉猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
何かを形にしたいと思ってやっと書き上げたものだったりします。
久しぶり過ぎて、何だかいろんなものがウヤムヤです。

八月二十日。ご意見を参考に語句のブレや描写をちょびっと修正。
この作品に対する感想 - 昇順
ご無沙汰ぶりでございます。お元気ですか。
あたし、こういうの、嫌いじゃないよ…っていうか好きです。夜の砂浜を歩いた事なんてここ何年もないのだけれど、感覚がすごくよみがえってきたり。

>放り投げられたように落ちている金平糖みたいなテトラポット

ここがちょい気になりました。「放り投げられた」と「落ちている」の関係がちょっとクリアじゃない気がします。あと、ポットじゃなくてポッドですな。「三つ足」の意味だから。
あと、後半で、さざ波に月光がきらきらしてる描写があったらうれしいかなーと思いました。
内田百?の短編とか、漱石の「夢十夜」みたいな感じで、よかったです。
2012-08-20 00:21:42【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
いけません。月の貝を一枚一枚拾い上げながら、月に行ってはいけません。月まで行ったはいいものの、帰り道がわからなくなってしまいます。また、その貝たちは、実は自然に落ちてきたわけではなく、誰か月のほうのヒトが地球までぶらぶら散歩しながら、帰り道がわからなくならないよう、道々落としてきた目印であるとも考えられます。
これこのように、夜の海辺で青白く光る貝とゆーものは、やたらと拾わない方が吉なのですよ――って、そーゆー話じゃないだろう狸。
掌編なのに臨場感もたっぷりで、けしてウヤムヤには感じませんでした。ああ、狸ものんびり月まで歩きたい。
2012-08-20 00:26:48【★★★★☆】バニラダヌキ
お久しぶりです、拝見しました。
――相変わらず猫さんと神夜の波長はリンクしないのかッ。どういうこっちゃコンチクショウ。あれ、これってあれだよね。これって月を目指すっていうか海に身投げというか自殺というか、そういう解釈になってしまったんだけど違うの。猫さんの小説を読んで他の人の感想を読むと、「あれ神夜だけが馬鹿なの?死ぬの?」と思えてしまうから怖いんだけど。猫さんの小説でまともな感想を書けたことが一度も無いし、おまけに中村さんと狸さんが感想書いたあとにこんなこと書くの恥ずかしいんだけど、まぁいいやぽちっと投稿しちゃえ、という訳で、神夜でした。
2012-08-20 11:21:00【☆☆☆☆☆】神夜
お久しぶりです。



すごくすごく素敵でした。ムンクの絵みたい。叫びじゃなくて、あの、海に道筋のような月光がぼんやり浮かび上がってるモチーフの、いくつか。絵と一緒に読みたい物語ですね。海辺にいるのに、すごく静かな気がしました。


中村さんに反論する訳じゃないけど、キラキラする描写はいらないと(私は)思います……。たぶん海に吸い込まれるような静かな光で、(そりゃ実際にはキラキラしてるんだろうけど)キラキラして見えないんじゃないかなーという気がします。それ自体が青くひっそりひかる、貝を落とすような月なんだもん。



一個だけ、「月に行ってどうするのか」っていうのが、この臨場感ある暗喩の世界に現実を持ち込んでしまってるような気がしました……。その言葉がすごーくわかるだけに、この短さの物語なら、無くてもよかったかな、と思って。もっと漠然とした恐怖と迷いで押しきって良いような気も。知り合いがいないとか、行ってどうするかとか、そこが安住の土地なのか、とかはもう、現実の問題だから、もうちょっと長さのあるものじゃないと難しい気がしたり。

でもメルヘン脳の言うことなんであんまりお気になさらないでください……。夏が終わると寓話が愛しい季節になりますね。数字のことなど綺麗に忘れて、絵本の世界に生きていきたい。
2012-08-20 14:44:58【★★★★☆】夢幻花 彩
>彩さま
ごめんなの。キラキラじゃなくてもいいの。そうじゃなくて、光の描写が欲しいってことなの。ムンクの絵は僕も思い出したの。この独特の月の光なの。http://userdisk.webry.biglobe.ne.jp/007/277/32/1/munnku.jpg これが道のように見えるのを想像したの。
2012-08-20 21:10:34【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
こんばんは。作品読ませていただきましたよ。
久しぶりの猫さんの新作、さすがに大人気ですね。みんなそれぞれの小説観が出ているような感想で、こちらも面白かったです。
僕もこういう超短編は好きです。最後の一行は、月が鏡のように自分を映しているような、そんな情景をイメージしました。この終わらせ方は、いかにも猫さんらしいと思います。犬の遠吠えのくだりも良いですね。
しかし何だろう、僕の趣味から言うと、もうちょっとだけ描写が欲しい気がします。どうも、こういう短いものほど完璧さを求めてしまう傾向が僕にはあるようで、あまり文章を研ぎ過ぎてしまうとふんわりした空気を失って、硬質な感じになって良くないのかもなあ、とは思うのですけれども。
2012-08-20 21:42:32【☆☆☆☆☆】天野橋立
中村さん

あぁそう、これこれ! わたしもこの絵を思い浮かべたの!(対抗してみる)


なんかもう、この絵がイメージに直結しすぎて、主人公はこの月光の道筋を辿って歩いてく話をしてるのだとしか思わなかったから、描写が無いことにも気付かなかったの。言われて見れば確かに、その静かな光の描写があった方が良いとわたしも思うの。

2012-08-20 22:34:43【☆☆☆☆☆】夢幻花 彩
ども、お久しぶりです。rathiです。
やった、猫さんの作品だ。というワケで猫さんにまっしぐら。

綺麗でどこか儚い、それでいて分かり易くて感覚に訴えてくる文章はさすがです。……なんか胡散臭い料理評論家っぽいコメントですね。

さておき、『しかし、月へ行ってどうすると言うのか。確かに月は美しい場所だが、月には知り合いの一人も居ない。』という部分が個人的には好きです。
現実と幻想の対比がハッキリと出ていて、ちょうどボーダーラインの上に踏み留まったというこの感じが良いです。
夢幻花 彩さんの逆になってしまいましたが、反論でもなんでもないのであしからず。むしろ、なるほど、そういう見方もあるのか、と思いましたし。

ではでは〜
2012-08-20 22:48:13【☆☆☆☆☆】rathi
中村ケイタロウ様>
ご無沙汰しておりましたお久しぶりです。私は元気ですニャンv
夜の砂浜は私もここ何年も歩いたことが無いのですが、夜の海は神秘的だと思うのです!!
で、色々ミスってて恥ずかしい限り。テトラポッドって初めて知ったり……ずっとポットだと思ってたです。あと、うすーく波のきらめきを足してみたり……。
夢十夜みたいというのは嬉しいです。私もあの話は大好きです。
感想ありがとうございました。
バニラダヌキ様>
にゃん。確かに!! 月から来た人が道々目印にしてきたものならえらいことになってしまう!!あぁ、でもきっと月の人なら何とかするに違いない!! ほらきっと潮が引いたら生き残った貝殻がキラキラ道を示してくれるはずなんだ! つまり私も月の貝殻が欲しいです。のんびり月まで歩いていきたいなぁ。出来れば月を経由して木星まで。その時はバニラさんもご一緒に行きましょう。
ご感想ありがとうございました。ウヤムヤじゃないかな? そうなら嬉しく思います。
神夜様>
人間からは電波というものが出てるので、その波長が人により合ったり合わなかったりするのです。んでも、実は自分でも書き終えた後「自殺っぽいな」と思ったりしてましたので、神夜さんの解釈でも無問題であります! 月に行くって結局この世から離れることと同義だと思うの。
次こそは、次こそは解りやすいものを!! と意気込んでも、多分またウヤムヤっぽい話になる可能性大。色々読みやすいものを書ける神夜さんはすげいと思う。
ご感想ありがとうございました。
夢幻花彩様>
わーいお久しぶりです!
ムンクのあの絵ってすぐ解らなかったのですが、検索してみたら解りました。あれですね!! そうそうこういう雰囲気なんです。ぼーっとうすぼんやりしたみたいな。
月に行ってどうするのか。ちょこっと表現を変えてみましたが、あんまり変わらないかも。でも遠い場所に行くって現実を考えてしまいそうな自分です。だから現実をひっぱってみたり。でも私もメルヘンに浸りたい。本当に浸りたい。寓話は愛しいですよね。絵本の世界に行けたら、きっと戻ってこられないと思います。
ご感想ありがとうございました!
天野橋立様>
お久しぶりです!!
まさかこんなにたくさんの方に読んでいただけると思っていなかった猫です。自分の場合、終わらせ方はいつも似たり寄ったりになりがちなわけですが、今回もこんな感じに収まりましたとさ。でもあんまり難しく考えてもまったく書けないよりはいいかな……とか。犬の遠吠えと夜の海はとても似合うとおもうのですよ。文を長くするという技をいつの間にかどこかに取り落としてきてしまったようで、どうしよう。いつかまた長く書ければいいのですけれども……。その時はもっとふんわり感をアップさせてみたいなと思います。
ご感想ありがとうございました。
rathi様>
お久しぶりです! にゃん!
耽美主義なんです。いろんな意味で。綺麗なものには目が無いので、文も出来る限り綺麗にしたくて透明感のある文ばかり選んでいたりします。うふふ。お褒め頂き光栄ですニャン。
遠くへ行きたい時、意味や意義は考えないけれど、行ってどうするかはやっぱり考えちゃう人間なので、その辺が出てきちゃったんだろうと思うのです。このまま幻想へ行ってしまっていいのかな。なんて考えた瞬間に現実へ帰ってきてしまうのですけれどね。
ご感想ありがとうございました。
2012-08-20 23:40:00【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
どうも、鋏屋でございます。御作読ませて頂きました。
猫ワールド全開……って感じでもないかな? 
なんと言いますか、私的に今までの猫殿の作品群とはちょっと違うかなぁなどと感じました。どこがどうとは上手くいえませんが(オイ!)
少し綺麗すぎる感じがします。アレクやゼリーの時みたいな心の奥の方がピュアトロリンとなる感じでもなく、機械仕掛けの小鳥でしたっけ? あのときのようなゴシックさでもないつーか……
ごめんなさい、やっぱり上手く言えませんでしたw
私もね、最初自殺のお話なんだと思ったです。死が生の再生であれば、こんなに綺麗で安らかでのんびりとしたモノでもアリなのかなぁなどと考えてしまいました。
それでは、次回作も期待して待っております。
鋏屋でした。
2012-08-21 20:19:17【☆☆☆☆☆】鋏屋
鋏屋様>
お読みいただきありがとうございます!!
アレクや小鳥より、多分これは熊天国に近いかと思います。なんというか、死後世界のグレーゾーンを微妙に渡り歩く感じが。
自殺のお話に見えてしまうのもごもっともですよ。私も読み返してみると自殺の話っぽいなぁなんて考えてましたから。死後の世界ってのは案外身近にあるのかもしれないな。なんて。
感想ありがとうございました。
2012-08-27 22:21:00【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
すんだ空気の夜の海の様子が伝わり、心地よい感覚に陥りました

短い文章なのに、情景が細部まで想像することができるのはきっと芭蕉さんの力なのでしょうね

幻想的で素晴らしい分だと思います


しかし、“あまりにもさびしげな遠吠え”というのはあまりにもリアルな事象なので作風的にはどうかとおもいました

急に夢から醒めてしまったような印象です

幻想的な作風一点に絞るなら、現実ではないような事象でわびを伝えてみてはどうでしょうか
2012-11-07 05:59:08【★★★★☆】なるみ
なるみ様>
感想ありがとうございました!
澄んだ空気と夜の海が大好きなので、そんな雰囲気があれば嬉しく思います。
寂しげな遠吠えはリアルに帰らないと帰ってこられなくなる、そんな対比のつもりだったのですが、夢から覚めてしまったのなら、こちらに戻ってこれたということで……(おい
次に書くなら、幻想世界から戻ってこられなくなるような作品にしたいです。
ありがとうございました!
2012-11-25 23:43:34【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。