『ぽとふ  弐』作者:一卵性 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1204文字
容量2408 bytes
原稿用紙約3.01枚

 ビルの下では警察が騒いでいました。『無駄な抵抗はやめろ!』とか『お前達は完全に包囲されている!』とか、本当に言うんですね。

 あ、ごめんなさい。 ハイ、ホントもうしません、はい。

「殺した男は警察官だった」

 今まで喋らなかった目出し帽の男が、初めて口を開きました。
 逞しい腕の先には、汚物を持つように親指と一指し指でつまむ物、それは多分手帳だと思います。 
 警察手帳じゃないかと思います。

 


 暫くすると、こう言うのもなんですが、その、皆、一段落した様な雰囲気になりました。 人が殺されているのに、少し緊張が解けた状態に。

「良かったですね! 皆さん、政府が要求を呑んでくれました!
 上手くいけば貴方達はもう少しで自由ですよ!」

 ガスマスクの男が本当に嬉しそうに言えば、人質の私達も安堵の溜息を洩らしたり、小さな歓声をあげます。

「でも! 喜ぶには未だ早いですよ〜!」

 男はとても大きな拳銃をこちらに向け、脅します。
 それは、事件発生から二時間経過した頃でした。





「さて、そろそろ皆さんに私達の目的を伝えようと思います」

 突然、神妙な面持ちで ……あ、顔見えませんね、面持ちって、いやはいすいませんはなしをつづけます。
 とにかくもう、神妙な感じで、口を開きました。

「私達が要求した物は、ヘリでも食料でも金でも有りません。
 たった二百萬円の、退職金なのです」

 言うと、今まで顔を隠していたものを、ガスマスク、目出し帽を、彼らは投げ捨てました。
 皆、孫が居そうな、壮年のおじさんでした。

「銃はアメリカで買って違法に輸入しました。
 私達は、官僚の、御偉方の、とにかく上の方々を恨んでいます。
 濡れ衣を着せられ、一時期は牢に入れられた!
 何が! 何が訓練中の人殺しだ!
 お前らが! その山でやれって言ったんじゃないか!」

 ガスマスクの男は、もう禿と呼べる、普通のおじさんでした。
 まるで目の前に当の本人が居る様に、声を荒げる。

「…………取り乱してすいません。
 そして、御免なさい。
 本当はもう、退職金なんて要らないのです。
 意地を張っていただけなんです」

 深呼吸をし、冷静を取り戻したおじさんは、泣いていました。
 銃を持ちながら、他のおじさんも、涙を流していました。



「だから、最後まで意地を張らせてください。
 御免なさい、本当に御免なさい、もう、後戻りしたくないんです。

 皆さんを巻き込んで、本当にすいませんでした。
 ……謝るのは、一度やめます」

 もう一つ、深呼吸

「残りは地獄で謝ります!」

 おじさんは、百円ライターで何かに火をつけた。

 
2003-12-12 23:12:20公開 / 作者:一卵性
■この作品の著作権は一卵性さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
次でラスト!
批評お願いです
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。