『聞いてはいけない 【登竜101怪奇譚 その3】』作者:rathi / z[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
 ※こちらは浅田明守さんの企画【登竜101怪奇譚】の参加作品です。
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原稿用紙約6.03枚

 凍りつくような寒さが連日に渡って続いていたが、雪が降った次の日は暖かくなる、という話があるように、その日は春先のような日差しが降り注いでいた。
 これ幸いと、小説のネタに煮詰まっていた私は、気晴らしを兼ねて散歩することに決めたのだった。

 日陰にはまだ雪や霜柱が多く残っていたが、道路は本来の人工的な色を取り戻し、芽吹くことのない花壇も顔を覗かせていた。
 何か面白いことはないかと、私は大通りを外れ、小汚く、壊れた物や機械が散乱する、街の恥部ともいうべき場所に足を踏み入れる。
 名のある芸術家なら、この光景を見た瞬間に何かしらのインスピレーションが舞い降りるのかも知れないが、あいにく私は小説家で、しかも頭に『三文』と付いている。何かを思いつくまで、胡乱な眼をした老人のように徘徊するしかないのだ。そのお陰で足腰が強くなったのは、皮肉としか言いようがない。
 探せども、歩けども、ネタは思い付かず、ネタになるような出来事も起きなかった。ついにはお天道様まで私を見離し、まるで私の気分を表しているかのようなどんよりとした空になっていく。
 帰ろう。そう思って、踵を返した時、

『ザー……あれは……ラ……ザー……』

 あまりの唐突さに、心臓が飛び跳ねる思いだった。すぐそばのゴミ山から、ラジオのようなノイズ混じりの声が聞こえてきたのだ。見れば、ゴミ山の王様のようにふんぞり返っている小型のラジカセがあった。
 怖さよりも、何かのネタになるかもという想いの方が強く、私は恐る恐るそれを摘みあげてみる。
『なんだ……ザー……ザー……電……ザー』
 コンセントは……繋がっていない。それに気付いた瞬間、私は身も凍る思いだった。――が、当時では当たり前だった電池式である事を思い出し、苦笑する。
『ザー……止ボタン……かない……ザー』
 ラジオだと思っていたが、よく見るとカセットテープの巻き取り部分がゆっくりと動いているようだ。タイトルは、A面とだけ書かれてある。
 驚かされた割には、何ともつまらない真実である。謎のラジオから起こる怪奇事件――なんて超展開が起これば、さぞや面白かっただろうに。
 さっさと停止ボタンを押して帰ろう。私はため息混じりに■のマークを押した。
 カチリ。
『テープ……ザー……来ないな……ザー』
 しかし、雑音は鳴り続ける。押し込むように、強めに押しても反応は無かった。
 仕方がないので私は、▲のマークを押してテープを取り出すことにした。
 カチリ。
『ザー……どうやって……動いて……ザー』
 しかし、開かない。何度押してみても、結果は同じだった。
 どうやら完全に壊れているようだ。だから捨てたんだなと、私は当たり前の事を納得した。
 このままほったらかしにするのも嫌だったので、私はどうにかして止まらないかと思考を巡らせる。
 最初は地面に叩き付けて完璧に壊そうかと考えたが、そもそもこれは電池で動いているのだから、それを抜き取ってしまえば良いだけの話である。
 私はラジカセをくるりと回し、背面にある電池カバーを外した。
 ……何も、無い。空っぽだ。
 私は、戦慄した。このラジカセは、いったいどうやって動いているのだろうか?
 小説のネタになりそうな出来事ではある。しかし、こんなのは期待していない。私とは関係のない場所で、私に被害が及ばないような出来事が好ましいのだ。
 私はそのラジカセから手を――。
『……サー………………』
 音が……消えた? いや、止まったのか。
『…………に…………耳…………な…………』
 いや、そうではなかった。まだ音は鳴り続けているようだ。しかも、ノイズが無くなっている。だが、ボリュームは酷く小さく、何を言っているのか全く聞き取ることが出来ない。
 私は、ラジカセを耳に近づけた。

『絶対に耳に近づけるな』

「……え?」
 気づいたときには、もう遅かった。耳元のラジカセが、大きく横に裂け、私の顔を覆うように囲んでいた。

――グシャリ……バツン。




 キュルキュルキュルキュル……カチン。




 何か面白いことはないかと、私は大通りを外れ、小汚く、壊れた物や機械が散乱する、街の恥部ともいうべき場所に足を踏み入れる。
 探せども、歩けども、ネタは思い付かず、ネタになるような出来事も起きなかった。
 帰ろう。そう思って、踵を返した時、

『ザー……あれは……ラ……ザー……』

 あまりの唐突さに、心臓が飛び跳ねる思いだった。見れば、小型のラジカセがあった。
 怖さよりも、何かのネタになるかもという想いの方が強く、私は恐る恐るそれを摘みあげてみる。
『なんだ……ザー……ザー……電……ザー』
 コンセントは……繋がっていない。それに気付いた瞬間、私は身も凍る思いだった。――が、当時では当たり前だった電池式である事を思い出し、苦笑する。
『ザー……止ボタン……かない……ザー』
 ラジオだと思っていたが、よく見るとカセットテープの巻き取り部分がゆっくりと動いているようだ。タイトルは――B面とだけ書かれてあった。


 キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル……カチン。


 キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル……。



 カチン。


2012-01-20 19:59:00公開 / 作者:rathi
■この作品の著作権はrathiさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 ども、久々の短編です。本当に久々にホラーを書きました。
 というワケで、浅田明守さん。宣言通りというか何というか、【登竜101怪奇譚】に参加させて頂きました。この場を持ちまして感謝と謝罪をば。
 この企画を切っ掛けに、また掲示板が盛り上がったらなーと思っています。

 ……とあるフラストレーションが溜まっていて、衝動的に会社でこれを書き上げたのは秘密です。


 ではでは〜
この作品に対する感想 - 昇順
 こんにちは。さっそく読ませていただきました。
 いやはや、まさかそう来るとは思いませんでした。何度読み返してもおもしろい、というか何度か読み返すとおもしろい。いいですねぇ、こういう作品。私も見習いたいものです。
 最近はちょこちょこと企画が上がっているようですが、自分の作品をつくりながら企画にも参加、というのはなかなか難しいものですね。
 願わくばもっとこの掲示板が盛り上がらんことを。
2012-01-21 12:31:48【★★★★☆】浅田明守
A面の次にB面になって……、うむ、私の想像力と読解力では次にどうなっていくのか分からなかったのですが、まさにこのループ感と途切れ感がこの作品の持ち味なのでしょうね。
理屈も何もない不気味さがよく表わされていて、怪奇譚にふさわしい作品だったと思います。
2012-01-21 12:33:28【☆☆☆☆☆】玉里千尋
お久しぶりです。rathi様御作拝読させて頂きました。もげきちと申します。
得たいの知れない気味の悪さが前面に押し出されててインパクトありました。その部分だけに特化させて書く技法が面白くとても参考になりますです!
ミミックをイメージしてしまったけど、大食らいなやっちゃですね。怖い、怖いよラジカセさん
2012-01-23 12:49:31【☆☆☆☆☆】もげきち
こんばんは、お久しぶりです。
作品読ませていただきました。何を言っているか聞き取りづらくて、耳を近づけなければ警告の言葉が聞こえないというのが憎い演出ですね。自分もこの状況になったら引っかかってしまいそうです。
テープの動きのこととか、執拗に何度も主人公を食べ続けようとするこのラジカセの目的はなんなのだろうかとか、ちょっと考えてしまいました。
多分、何度も食べることで魂のようなものを少しずつ喰らっているのかなとか、テープが巻き戻るのは時間が巻き戻っているのではなくて別の世界線に飛んでいて、全ての世界線の主人公を根絶やしに行っているのかなとか、妄想してしまいました。
妄想癖がひどくてごめんなさい。でも楽しかったです。ではでは。
2012-01-29 00:34:54【★★★★☆】白たんぽぽ
皆々様方、感想ありがとうございます。ラジカセが許されるのは昭和までだよねー! とか罵倒されなくて良かったですw

浅田明守さん>
最初は喰われてお終いにしようかと思ったのですが、それじゃー味気ないって事で終わりを変更しました。好評なようで良かったです。
企画は頓挫して当たり前ですからねぇ。特に短編は書きやすいようで実は難しいので、なかなか難しい所です。

玉里千尋さん>
掲示板でよくみる「無限ループって怖くね?」ですw 
さておき、ホラーはリングのような理屈パターンと、墓地を見下ろす家のような不条理(ある程度の裏打ちはモチロンありますが)パターンがあるワケで。
これも後者で、裏設定はありますが、敢えて明かさない事でべったりとした読了感を残すことにしました。成功したようでなによりです。

もげきちさん>
おぉ、お久しぶりです! 何もかもが懐かしい……。
まぁ、ほぼ突発的に書いたのでインパクトのみですがw たまには勢いも大事ですね。
ミミックラジカセ。略してミミカセ。漢字変換すると……おや?

白たんぽぽさん>
ども、お久しぶりです。
ラジカセの攻撃範囲(?)は、凄く狭いのですよ。だから、顔を近づけさせる必要があるわけで。
ちなみに、これはリアルでも使える方法です。もにょもにょ喋ってると、相手は「え?」と近づいてきまっせ。合コンに……使えませんね、うん。
正解はないのです。ただ、そういった妄想で更に楽しんで頂けるとは、この作品を作った甲斐がありますね。感謝です。


ではでは〜
2012-01-30 21:26:38【☆☆☆☆☆】rathi
羽付です♪ 拝見いたしました(*^_^*)
 始まりの軽さとは逆に終わりでのループの怖さが、面白かったです! ネタを考えて歩いているうちに足腰が強くという所で思わず「どんだけ歩いたんだよ!」と心の中でツッコミを入れてしまいました(* >ω<)
 何気に落ちている物とかで気になる事ありますが、でもやっぱり手に持ったりしないので、それが正解だったのかなと思ってしまいました♪ 連載の方も、少しずつ読ませて頂きます!
であであ( ̄(エ) ̄)ノ
2012-04-20 17:58:40【☆☆☆☆☆】羽付
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。