『ジダイガノゾンダヒーロー 』作者:ヒサキ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
 こことは違う、物語の世界のお話。 人々は何百年にもわたり、怪物の襲撃に怯えていた。 ある日、とある町の三人の若者達が立ち上がり、世界を救うために怪物たちに立ち向かう。
全角4009文字
容量8018 bytes
原稿用紙約10.02枚
地上の上の空の上のもっと上、けれど宇宙より少し下のところ。
 凄まじい存在感を放つ異様な建造物が、そこには悠然と浮遊していました。
 その建造物の名前はなく、たけれど、その存在理由は明確でした。
 『いつかの時代、しかるべき存在にしかるべき理由で破壊される』――時代、人物、空間を問わず、ただ、壊されるために作られた物。唯一つのその目的のために。それだけが建造物がそこに在る意味であり、建造物の中に居る彼らが在る意味でした。
 その日、浮遊する巨大な建造物の中、見掛けとは裏腹に存外狭いその中には、三つの存在がありました。出口近くに立つ、人間を縦に五人分並べたくらいの大きな掌の形をしたモノは、人間達からは『ハンティングハンド』呼ばれていました。力が非常に強く、五指を巧みに操り、すばやい動きで政府の要所や要塞に単騎で乗り込み、必要なまでに破壊する。もちろん、しかるべきもの以外には倒されぬよう、外装も人間達の技術では向こう三百年経っても傷一つつけられぬように出来ています。
 出撃回数は三体の中でも一番多く、殺傷した人間の数も一番でした。
 そして今日も、ハンティングハンドに、指定された場所の赴き、破壊の限りを尽くすよう指示する文面が、中空に鮮やかな書体で描かれていました。
 それを見たハンティングハンドは、人間で言う親指に当たる場所から、ゆっくりと音を出しました。
「……今回の出動、たぶん……僕はもう、戻ってこないよ」
 音としては、人間の可聴域外、超音波に近い音波を放って、彼らは会話をします。
「あ? ……おいおい、ふざけンなよハント。面白くもねぇ冗談は嫌いだぜ……? お前を壊せる相手なんざ今ン所はいねえはずだろ」
 返事を返したのは、人間の青年にしか見えないモノでした。性能は三体の中で全てにおいて最も高いのですが、出動回数はゼロ。今のところは人間達になんとも呼称されていないため、名前はありません。けれど、ここでは形式的にウェルと呼ばれていました。
 ウェルは答えると、不機嫌そうな顔をしたまま近くの段差に腰掛け、項垂れるような格好をして、最終的にはごろんと寝転がりました。
「冗談なんかじゃ……ないよウェル。いつ言おうか迷ってたんだけど……実はさ、この前……物語がさ、進んだんだよ……はは、ついに、シナリオで言うところの、時代が望んだヒーローっていうのが出てきたんだ……慌てて引き返してきたけど、やっぱり、次は、そうも行かないはずだから……」
 ウェルが、バッと頭を起こします。
「はぁ!? 手前、なんでそういうことを最初に言わねぇで隠してやがった!!」
 ウェルは跳ね起き、残像が残るほどの速さでハントに詰め寄ると掌に当たる部分にある取っ手に似た部品を握り締め、怒鳴りつけようとしましたが、その手を、別のモノが掴みました。
「やめてよウェル……ウェルだって、分かってたでしょう? 仕方ないんだよ……私達は、こういう風に作られたんだからさ、ほら、運命なんだよ。人間達を団結させるための犠牲になるために、生まれてきたんだから……」
 後半は、聞き取れないほど小さい声でした。消え入るような、諦めの声音でした。
 口を塞いだのは、ヘルリットと呼ばれているモノでした。幼い少女のような外見を持ち、その実、体内に当たる部分には大量の重火器を収納されています。居住区潜入と大量殺戮を目的に作製されたモノでした。今までの出動回数は三回です。 
「ルリ……」
「私だって嫌だよ、嫌だったよ……今まで皆が壊されるのを見るのも嫌だった。ハントが壊れるのだって嫌だ。でも、でもさ……」
 ヘルリットはそこまで言って黙り込みました。ウェルは、その姿を見てゆっくりと握り締めていた拳を開きました。
「……はぁ、悪かったよ、ハント、ルリ――でもよ、俺はやっぱり納得できねぇ。誰の勝手で作られたのかもわかんねぇ、やりたくもねぇ生物の虐殺なんかやらされてよ。その上、仲間は次々と意味の分からねぇ連中に壊されいく……なんだぁこれは、俺にはとても、我慢ならねぇよ……」
 ウェルは、ゆっくりと歩き出し、建造物の出口から出ようとしましたが、見えない壁に阻まれるように、進むことは出来ませんでした。
 駄目かよ、と一言つぶやきました。
 シナリオに反した行動を、彼らの作り手は許しません。今ウェルが出動すれば、今だ発展途上の、『時代が望んだヒーロー』は太刀打ちできないのです。いとも簡単に殺されてしまうでしょう。それはシナリオに真っ向から反する行動です。
 それを見て、ハンティングハンドが出口に向かいました。今出動の命令が下っているのはあくまで彼であり、彼が行くしかないのです。
 ウェルは、一つ深いため息をつき、すぐ横を通り過ぎるハンティングハンドに、
「なぁ、ハント」
 と言いました。
「……何?」
 と、ハンティングハンドも立ち止まり、ウェルの方を向きました。
「……まだ、絶対に壊されるって決まったわけじゃねえ。……その『時代が望んだヒーロー』ってやつをぶっ潰して、必ず戻って来いよ」
 ウェルはそう笑いかけ、ハンティングハンドの体を思い切り叩きました。
 するとヘルリットもトコトコと近寄り、自分の頭部、髪にあたる部分をまとめていた美しい花の形をした部品を、ハンティングハンドの体につけました。
「……あ、落っこちちゃう。んしょ、コレでよし――これ、貸しとく……帰ってきたら返してね」
 そういって、天使のように柔らかく笑いました。
「……うん、必ず、絶対、かえって……来る、よ……」 
 ハンティングハンドの出す音は、不規則ににぐらつき、うまく聞き取れなくなっていました。
 その姿は、悲しみ、不安、数々の感情に満たされながらも、けれど、決して諦めない。希望を抱いて感涙にむせび泣く、人間によく似ていました。


 
「我が名はウェルガー・シュバルト。貴様か、我の駒たちを次々と破壊していった人間と言うのは……ふん、貧相だな。こんなちっぽけな人間に壊されるとは、情けない。結局、奴らも役立たずの出来損ないだったということか……」
 ――吐き出される言葉は、俺の意思に反してシナリオどおりのつまらねぇ台詞だ。
 ――ハントは結局壊された。そのすぐ後にルリも壊された。
 ――昔は賑やかでうるさいくらいだったあの中も、もう、残るのは俺だけだ。
「くっ……お前が親玉ってわけか? さすがにすげぇ威圧感だ……リリー、ハルトマン! 大丈夫か!?」
「もちろんだ……!」
「当たり前でしょ……! 私達は、こいつを倒さなきゃいけないんだから!」
 ――シナリオどおりに物語りは進む、悪役は悪役らしく倒されろってことか。
 ――シナリオか……
 ――人間のためを思った人間が遥か昔に作ったシステム、共通の敵に向かって全員で一致団結する為に、人間によって敵を作り出す計画。
 ――俺はその最後の仕上げだ。俺がココで壊されることによって、計画は終わる。完遂する。
 ――もう、守りてぇ仲間なんかもいねぇし。仲間の犠牲も無駄にするわけにはいけねぇ。俺は仕方なく計画を完遂させることにした。シナリオどおりのハッピーエンドに。
「ふん、掛かってくるがいい、おろかなな人間よ――」
 ――所詮俺らは人形だ。目的以外の行動されたら邪魔でしかねぇんだろうな。
 ――でもよ、最後ぐらいはちっとばかし、我を通させてもらうぜ。
「――貴様らはしょせんんN、ワレノチカらの前に……ガガ…チか、チカ、チカ……チカがががッがガガがガガがガガがガガがガガがガガがガガがガガがガガがガガががッがががガガが……ガガがガガがガガがガガがガガがガガがガガがガガガッガガガガガガガッガガガガガガガガガガッガガガガガガG…………」
「コイツ一体どうしたんだ……」
「何故かわからんがチャンスだ! やるぞ!」
「待って、罠かもしれないわよ!?」
「四の五の言っている暇は無いだろう! 行くぞっ!!」
 
 ――人形にだって、意地がある。
 

 
「『世界が望んだヒーロー』か……たいしたことねぇな。オイ、生きてるか? ヒーローさんよ」
「ぐぅ……あ……くそ……」 
 ウェルは、倒れた少年達を見下ろし、その場に座り込み項垂れるような体制になり、やがて今しがた叩きのめした少年達とともに寝転がるような体制になりました。
「生きてはいるみたいだな……ハハ。良かった良かった。コレだけは俺の口から言っておきたかったんだよ。耳かっぽじってよぉく聞けよ――俺らは手前らの仲間をめちゃくちゃな数殺した。それについては許されるとは思わねぇが、今まで手前が壊した奴ら。あいつらの分まで俺がココで謝っておくぜ。だけどよ、俺らは別に好きで手前らを殺してたわけじゃねぇんだ。全部手前らのためだって事を覚えといてくれ。あとだ、これから人間をまとめるのはお前だ。精々頑張れよ――」
「勝手な……ことを……お前……一体……」
「――さて、俺の仕事はここまでだ。やってやったぜ。ハント、ルリ、アルカ……ラス……ガド……テスタにジェノ……これで、なにもかも終わッ……り……だッ……」
 

 
 最後の最後ですこしだけ創造主に抗った人形は、仲間のことを思いながら、静かに壊れていきました。その後、人間達は彼らの創造主の目論見どおり団結し、巨大で治安の整った国を作り、後三百年間、国が内乱で滅びるまで、人間達は平和で豊かな日々を過ごしました。

 そして、国が内乱によって分裂したその時、未来の人間達のことを思った一人の科学者が……

 
2011-03-13 23:56:41公開 / 作者:ヒサキ
■この作品の著作権はヒサキさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 地震の被害が甚大です日本は大丈夫なんでしょうか……福島にいる家族が心配で、なにか書いていなければ落ち着かなかったので遥か昔に書いてほって置かれれていたものに手を加えたものを投稿してみました。
 試験的に書いてみたショートのようなモノ、だと思います。感想等お待ちしております。
 この状況ではちょっ考えていることがまとまらないのでウタタネ荘の方は更新できそうにありません。
 本当に申し訳ありません。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは。中村ケイタロウと申します。

 震災、本当に大変なことになりましたね。こうして小説を読んだり書いたりしているのもなんだか申し訳ないような気もするのですが、しかし、「なにか書いていなければ落ち着かなかった」というお気持ちもよく分かります。歴史上、どんなに苦しい災害や戦乱の時代でも物語や小説は存在していたわけだし、こんなときこそ必要とされる物語というものもあるのかもしれませんね。

 さて、拝読した感想ですが、なにか、ショートショートというより、もっと長い物語をかいつまんで読んでいるような印象を受けました。もちろんそういったスタイルで成功している作品もたくさんあるわけですが、失礼ながら、ヒサキさまのこの小説の場合、誰が何をして、誰がどの立場なのか、関係性の全体像がわかりにくくて混乱してしまいました。もう少し普通に物語としてふくらませてお書きになったほうが面白いのではないか、いうのが、僕の率直な感想なんですが、いかがでしょうか。

 それから、ところどころに誤字や文法的に不自然なところがあったのも気になりました。「その建造物の名前はなく、たけれど」「必要なまでに破壊する」「指定された場所の赴き」「大量の重火器を収納されています」などです。いちどちょっとご確認ください。

 福島のご家族はご無事でしょうか。よかったら「雑談板」のほうにでも安否を書き込んでくださいね。
2011-03-19 10:53:33【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。