『宿命』作者:一日君 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
グロテスクな表現が含まれています。
全角1556文字
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原稿用紙約3.89枚
 暖かいものに包まれて、僕は目覚めた。
 なぜか体を逆さ吊りにさせられている。つま先を凄い力で摘まれている。
 どれくらい宙吊りにされていたのか、頭に熱いものが溜まっている。そのせいで顔は膨らみ、目はチカチカする。それも現在進行形で、状況は悪化している。
 ――息が苦しい、死んでしまいそうだ。
 周囲を凝らすと、ひとつ、ふたつ、僕と同じようにして宙吊りに遭っている者がいた。その者たちは、顔から何かを断続的に噴出させていた。
 おそらくアレは、僕の顔からも出ているのだろう。さっきから、熱い何かが表皮で爆発するのを感じている。
 ――ここはどこだろうか。たまに強い風を感じるので、屋外なのだろうか?
 目がチカチカするせいで、遠くが上手く見通せない。
 バッババッバ。
 唐突に、僕と同じ境遇の者たちが揃って奇声を上げ始めた。ブツ切れの音をバッババッバと繰り返している。途切れそうになる呼吸を、死に物狂いで行っているように見える。その者たちは、数秒前とは比べ物にならない量の何かを迸らせていた。
 ――もう息苦しくて堪らない、僕もああなってしまうのだろうか。
 一度呼吸を乱せば、今の自分には戻れない気がする。かといって、このまま浅い呼吸を続けているのも苦しいだけだ。
 薄らいでいく視界の隅で、何かが落ちて行く。
 自然と目が追う。
 ――頭部だ。 
 同じように吊るされていた者の頭部が、バッババッバと呟きながら落下していく。地面に頭が衝突すると、頭はペシャリと潰れてしまった。声はもうない。
 恐る恐るその者の体を見ると、当然だけど、頭部がちょうどなくなっていた。僕が目を丸めている内に、その体はどこか遠くへ運ばれて、消えてしまった。
 僕は残っている者に目を向けた。
 首は繋がっているが、今にも死にそうな掠れた声で、バッババッバと悲鳴をあげている。真っ赤に膨れ上がった顔が、小刻みに揺れていて怖い。まるで、首からもぎ取れようとしているみたいで、気味が悪かった。
 ――いやだ、僕は死にたくない。
 僕は呼吸を乱さないよう必死に努めた。
 少しして、呼吸が楽になってくる。
 僕の下で炎がボォっと生まれた。その熱に頭からあぶられる。収まりかけていた表皮の爆発感が、一気に大爆発を起こす!
 ――もう駄目だ、耐えられない……
 バッババッバと声がする。
 僕の声だ。
 顔が急激に膨れ上がっていく。目が偉くチカチカして、開けているのも辛い。
 それでも頑張って目を凝らすと、僕の視線は地面を差していた。砕けた頭が二つ、仲良く並んでいるのが見えた。二つ目の頭は何時落ちたのか、全く気付かなかった。
 ――そうか、そうなのか?
 僕は悟ってしまった。
 ――僕はもうすぐ命を終える。遅いか早いかの差はあっても、結局は、逃れられない宿命なんだ。
 そう思えると、不思議と恐怖は薄らいでいった。
 ――ああ、そろそろだ……
 僕は狂ったようにバッババッバと叫びながら、首から頭を切り離して、地面に落ちてい――

 「私の勝ちぃー!」
 紫色の着物を纏った女の子が、最後に落ちた線香花火を見送って歓喜した。
 その女の子は、用済みとなった線香花火の柄を、バケツの中へと放り込んだ。中で余熱が鎮火されるジュっという音がした。
 「途中で息を吹きかけたり、ライターで火を加えてやったのに、なんで勝つかな?」
 薄着の女の子が口を尖らせる。
 「私のは真っ先に落ちちゃった。でも、ビリでもいいんだ。どれもとっても綺麗だったからさ」
 ワンピースを着た女の子が、目を閉じてうっとりした感じで言った。
 満点の空が広がる、一夏の夜であった。
2011-03-08 18:55:29公開 / 作者:一日君
■この作品の著作権は一日君さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
勢いで書きました。
ショートショートは勢いがないと書けませんっ!

ネタとしては、即出感が否めない……
なので、鋭い方は冒頭のほうで、ネタに気付かれてしまうかも知れません。
ネタに気付いてしまった方も、それはそれで小説を楽しんで読んでいただければ幸いです。(果たして、自分にそれだけの力量があるかどうか……)

指摘・感想がありましたら、何卒よろしくお願いします。

追記:作品説明を変更しました。
この作品に対する感想 - 昇順
読ませて頂きました。冒頭というか、前書きで悟りました。あの前書きはない方が楽しめます。
人によっては、とあったので「グロに見えて実際は別の何かなのだろう」とすぐに気づいてしまいました。※グロテスクな表現が含まれています。 程度にしといた方が良かった。そうすれば、序盤はSAWのような感じのミステリアスな物語だと感じ、一体どうなるんだろう。と私はわくわくできたと思います。
あともっと良い表現があったのでは? と思う部分がちらほら。
勢いで書いた後に、推敲を重ね物足りない部分を補えば良かったですね。
最期に線香花火が落ち、物語もオチ。中々楽しませていただきました。
2011-03-08 14:28:43【☆☆☆☆☆】毒舌ウインナー
毒舌ウインナー様、読んでいただきありがとうございます。

まさか前書きで失敗してしまうとは……
確かに、ミステリアスな雰囲気を出したかったので、妙な先入観は出来るだけ取っ払った方が良かったですね。作品説明は、ご指摘通りに変更させていただきました。

>あともっと良い表現があったのでは? と思う部分がちらほら。
弁解の仕様がありません。
今更になって推敲を重ねており(本小説には反映させていない)、「ここはこっちの方がいいな」と消したり書きたりしてます。
でも、これはこれで後悔はしていません。

>最期に線香花火が落ち、物語もオチ。中々楽しませていただきました。
毒舌ウインナー様にそう言って頂けると、達成感があります。
というのも、他の作品で見かけた毒舌ウインナー様の感想は……って、こんなこと書いたら失礼ですよね。すみません。
2011-03-08 19:13:24【☆☆☆☆☆】一日君
 こんにちは、初めまして。テンプレ物書きこと浅田と申します。
 御作読ませていただきました。人外を人として扱い物語を紡ぐ。私もこの類の話はよく書きますね。ええまったくもって勢いが大切ですよ、こういうのはw
 とりあえずいくつか気が付いたことを。
・「バッババッバ」という表現が所々にありますが、私個人としてはせっかく線香花火の音を“声”と捉えているのに、ここをただの“音”として表現してしまうのはもったいないかなと。どうせなら死にゆく者たちの怨嗟の声であるとか、あるいは歓喜の声であるとか、そう言ったものにした方が色々と楽しめたのではないでしょうか?
・これは私が気が付いていないだけなのかもしれないのですが、線香花火の火の玉って、落ちた後そこに何らかの形跡を残しましたっけ? 残しているのならいいのですが、そうでないなら砕けた頭が二つ、という表現は若干違和感があるかと。

 とまあ細かいことを言いましたが、花火の火の玉を人の頭と捉える視点はとてもよかったと思いました。
 それではまた機会があったらお会いしましょう^^
2011-03-12 15:25:36【☆☆☆☆☆】浅田明守
浅田明守様、読んでいただきありがとうございます。

>ええまったくもって勢いが大切ですよ、こういうのはw
ですよね(笑)
擬人化の場合、文量はあまり多くならないイメージなので、ネタと余力があれば勢いで書けてしまいます。それが必ずしも良いかと問われると、難しいですが。特に自分の場合は……

>・「バッババッバ」という表現が所々にありますが、私個人としてはせっかく線香花火の音を“声”と捉えているのに、ここをただの“音”として表現してしまうのはもったいないかなと。どうせなら死にゆく者たちの怨嗟の声であるとか、あるいは歓喜の声であるとか、そう言ったものにした方が色々と楽しめたのではないでしょうか?
確かに、その通りですね。
”音”のみの表現で終わらせては、折角の盛り上げどころが不完全燃焼になっているようです。かなり勿体無いことをしてしまったと自分でも思います……反省。

>・これは私が気が付いていないだけなのかもしれないのですが、線香花火の火の玉って、落ちた後そこに何らかの形跡を残しましたっけ? 残しているのならいいのですが、そうでないなら砕けた頭が二つ、という表現は若干違和感があるかと。
実際に確認をしてみたわけではないのですが、小さなススが残るよう記憶してます。今度、実際にやってみて確かめてみます!

> とまあ細かいことを言いましたが、花火の火の玉を人の頭と捉える視点はとてもよかったと思いました。
ありがとうございます。誉められると製作意欲が湧きます。
2011-03-14 23:13:32【☆☆☆☆☆】一日君
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。