『蒼い髪18話』作者:土塔 美和 / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 ルカが飛び込んで来た。
「頭は冷えたか。自分ひとりの怒りに浸っている場合じゃないぞ」

 ルカの理不尽なことに対する怒りの激しさは、極々身近な者しか知らない。
 ジェラルドが演技をしているって、冗談じゃない。お前の方がよっぽど演技がうまいぜ。普段のお前からはこの激しさは読み取れない。普段のお前は、理性的で物静か、少し口は悪いが。
「どうしたんだ、その手?」
 ルカのすらりとした白い手は、それに似つかわしくないほど血が滲んでいた。
「そんなに指の骨痛めて、どうする気だ。それじゃなくともお前、不器用なんだからな、プラスター握れなくなっちまったら困るぜ。いくら俺が守ってやるとは言え、最終的に自分の身は自分だからな」
「そのぐらいわかっております」
 ルカは脹れたまま言う。
「少し壁が邪魔だっただけです」
「あっ、そうか。じゃ、サミランにでも頼んで改築とてもらうことだな」
 ハルガンは皮肉たっぷりに言う。
 ルカはそんなハルガンの言葉を無視して、
「ハルガン、彼らがこの星に到着するのは」と問う。
 ハルガンもそこは紳士、いつまでもサミランを非難していても仕方ないと思い、まずは目の前の危機を脱することに専念することにした。
「おそらく半年後だと思う。星系全体を掌握するには十二個艦隊は必要だが、まず手始めにその半分は送ってくるだろうから。半分といっても六個艦隊だ。それらの兵站を調えるだけでもかなりの時間がかかる」
 これが攻勢の不利。遠征が長くなれば長くなるほど準備もきちんとしなければならない。
「半年ですか」
 それでどれだけ応戦の準備ができるかだ。
 ケリンは一秒でも欲しいとみえ、駆け込むようにしてルカの自室へ向かった。
「治安部隊や機動部隊の上官クラスには話しておこう。いくら戦争したくないと言っても、攻めて来られちゃ応戦しないわけにはいかないからな、いい加減、覚悟をしてもらわないと」
「キネラオさん、明日議会にかけて治安部隊の増員を、あのレジスンタスの人たちが入隊してくださると有難いですね」
「おいおい、昨日の敵は今日の友かよ」
 一般的に昨日の友は今日の敵というのだが、人を憎むことを知らないこいつは、敵も味方もごちゃごちゃのようだ。
 まあ奴等なら、あれだけ迅速な行動もとれたことだし申し分ないか。あと足らないのは危機感だけだ。と、ハルガンは自分を納得させた。


 アモスの愛船ボッタクリ号は、ボイの月の一つカルダヌスに停泊している。ボッタクリ号は巨大な葉巻型宇宙船。戦艦ではなく貨物船のため、大量の荷物を運ぶには自ずとその図体も大きくなった。全長一キロ、それを僅か五十人足らずの船員で操縦している。金にならない荷物(船員)は乗せたくないというアモス船長の考えでこの人数になった。
 船員たちはアモスの姿を見るなり、声をかけてきた。
「船長、何時、発つのですか」
「直、戦争になりますぜ」
「早くしねぇーと」
 図体がでかいだけに、戦争になったら的にされやすい。
 アモスはそれらの声を無視してコンピューター室へ駆け込む。
「船長!」
 声が追いかけた。
 船長の余りの慌てぶりに、
「イヤン、何かあったのか」と、留守を任されていたダンが心配そうに言う。
 挨拶に行ったのはボイの王子と言うよりもネルガルの王子だ。船長のこと、また何かヘマでも仕出かしたか。
「それより早く発ちましょうぜ。戦争が始まる」と言い出したのは船員の一人。
「そうですよ、船長を説得して」
 先程の通信はこのボッタクリ号の船内にも流れた。
 発ちたいのはやまやまだと思いつつ、イヤンは航宙士のジルを連れてアモスの所へ向かった。
「あっ、丁度よかった。今、お前を呼ぼうと思っていたところだ」
 正面の大スクリーンにはボイ星が帰属するM6星系の星域図が映し出されていた。そこには惑星を始め小惑星までもの軌道や磁気嵐の頻度などが細かく描かれている。
「俺の知っているところはこんなところだが」と、卓上のパネルの上で指を遊ばせながらアモスは言う。
 卓上のパネルと大型スクリーンは連動している。パネルの上に指を置くとそれが大型スクリーンにマークされる。その指を上下左右に動かすだけでスクリーンの星域図が自由自在にスクロールした。
「そうだな、俺もこんなものだな」
 だがその星域図を星系の外へ外へとスクロールさせると、そこには一箇所、何も描かれていない空域がある。俗にボイ人の間でささやかれている魔のサークル。丁度小惑星ニクスとハイドスを結ぶ百万キロを直径とした円内。この空域に近づいた船は何かにすり潰されたように砕けると言われている。そしてこのニクスとハイドスは微妙なバランスを保ちながら、他の惑星と同様M6星を公転している。
「ここまでの星域図なら、おそらくあのガキは手に入れているだろう」
 でなければあのようなことは言わない。
「この空白の星域図が欲しいな」
「無理ですよ、誰も近づかないのですから」
「M6星系を縄張りにしている奴がいたよな」
「ボイ人を相手に商売をしている奴などいましたっけ?」
 なにしろ金銭感覚のない星人だ、うまくやれば全てただで持ち出せる。
「ボイ人相手じゃ、ぶったくりの上に超が付きますよ」
「だからよ、俺たちが来て商売がやりづらくなったってぼやいていた奴」
 それで誰もがある一人のマルドック人の顔を思い浮かべた。
「ゆすり、かたり、ぶったくりのラモス」
「俺と一字違いで、やることと来たら、せこい。間違えられる俺の身にもなってみろ」と、アモスは憎々しげに言う。
 イヤンとジルは笑った。
 アモスが彼を嫌っているのはこのボッタクリ号の船員なら誰でも知っている。何しろ奴と間違えら幾度となく奴の尻拭いをさせられたこともある。その時は奴に名前を変えさせるか、いっそ自分の名前を変えるかと真剣に悩んだものだ。
「出会ったのが運のつき、今度こそ貸しをきちんと払ってもらう」


 その頃ルカの自室では、やはりケリンが戦場候補空域として魔のサークルをスクリーンに映し出していた。
「そこは止めた方がいいです」と、透かさず言ったのはホルヘ。
「船が、すり潰されます」とキネラオ。
 シナカも頷く。
 ボイ人なら誰でも知っている空域。そして誰も近づかない。
 その空域に近づいて破損した船の映像が映し出される。それを見てルカは、
「時空のひずみですか」
「おそらく中央には暗黒惑星が存在するかと思われます。その大きさはおそらく直径は十五万キロ前後、三次元の物質で言えばガス惑星というところですか」
 いろいろなデーターを基にケリンが弾き出した結果だ。
「それではボイ星の十倍ぐらいありますね」
「四次元に存在しますから我々の目で見ることはできませんが、そのエネルギーが時空を歪めているのではないかと思われます」
「戦場にする気か?」とハルガン。
「その惑星の軌道は?」
「なにしろ見えませんからね、それにデーターが古すぎて」
 近づかないのが一番。これがボイ人たちが過去の経験から出した結論だと見えて、ここ数百年は観測もしていないようだ。
「古いデーターから割り出したものなので、あまり正確とは言えません」
 だがケリンはそれなりに暗黒惑星を可視できるような状態にしてスクリーンの上で動かして見せた。
 M6星系の中でもこれより大きい惑星はないのではないかと思えるほどの大きな黒い惑星が、ゆっくり自転をしながらM6星の周りを回り出した。その間に小惑星ニクスとハイドスが微妙に揺れる。暗黒惑星の影響を受けているようだ。おそらくあの二つの小惑星より内側にあった惑星は、時空のゆがみに飲み込まれたか砕けたかして姿を消したのだろう。それであの空域には何もない。
 ルカは計算式を見ていた。
「危険ですね」とルカ。
 あるところの数値を一つ変えただけで、この惑星の軌道は大きくずれる。ケリンはその数値に数百年前の平均値をとったようだが。平均で自然現象が起こるとは限らない。
「他の場所を当たりましょう。敵を壊滅する前に、味方が壊滅してしまったら意味がありませんから」
「ゲリラ戦しかないな。おそらく敵はこちらの倍だろうし、戦いにも慣れている。それに比べこちらは戦争が初めてと言う奴ばかりだからな。一対一では確実に負ける」
「そうですね、すると後はこの小惑星群ですか」
 広大な空域で陣を構えての戦いでは確実にやられる。
「船の操縦が相当うまくないと自爆するな」
 戦場が決まれば戦い方も決まる。
「とりあえず、明日にでも下見をしてきましょう」


 ここはボイの月カルダヌスにある酒場、酒場によくある光景で中は薄暗い、商談にはもってこいの場所だ。それに本星ボイとは違い燃料補給だけに立ち寄る船も多く、いろいろな星人で賑わい情報量も豊かだ。これからの儲け話を聞きだすにも絶好な所だ。そしてそれらの人々をあしらっているのはボイ人というよりも他の星から流れ着き、ここに住みついた者たちだ。ボイ星の月でありながら余りボイ人の姿をみかけない。やはり彼らボイ人は金が不必要とみえ、こんな所で働く気はないようだ。居るのは船の出入りの手続きをする役所関係の者たちぐらい。そしてここでも今話題の中心は、先程のネルガルから流された星間通信の内容のようだ。戦争が起こるのは確実、あとはそれが何時になるかだ。その前に儲けるだけ儲けようと言うのが彼らの魂胆。人の不幸など知ったことではない。武器商人たちが集まって来ていた。
 そしてその片隅にアモスの目的とした人物もいた。戦争が始まる前に出来るだけ荷を積み込みこの星を離れるつもりらしい、その段取りを仲間と打ち合わせていたようだ、おもな顔ぶれが揃っていた。
 アモスは遠巻きにラモスの様子を伺う。
 こんなに体格が違うのに、どうして他の星の奴等は俺と奴を間違えるのだ。マルドック人独特の漆黒の肌、だが二人の肌の色は微妙に違った。身長はどちらもニメーターを越す。ボイ人が手足が長いためひょろりと見えるのに対し、マルドック人はどっしりした感じに見える。そしてアモスは鋼のように無駄の無い体だが、ラモスは少し脂肪の付がいい。
「まったく、あんなデブと一緒にされたくないな」と、アモスは一人毒づく。
 やはりそこは生物の習性なのだろう。ネルガル人はネルガル人同士では些細な違いで見分けても、他の星の人々を見分けることはできない。それはマルドック人にもボイ人にも言える。他の星人のそれぞれの固体を見分けるには、よほど目が慣れてこない限り無理だ。現にルカたちもボイ人一人ひとりを見分けるのにかなりの時間がかかった。それはボイ人も同じだった。お互い宇宙船でも開発されなければ出会うことの無かった者同士。生物としての(本能的な)興味が湧かないのだろう。目は正直にそれを物語っている。
 さて、商売、商売。アモスは自分に暗示でもかけるように心の中で呟いた。
 あのガキのために俺は奴に会ってやるのだ。さもなきゃ、誰があんな奴と口を利くか。同じ空気を吸っていると思うだけでも反吐が出るのに。アモスは仕方ないと言う溜め息交じりに大きく肩で息を吐いた。
 これで二度と奴に会うこともないだろうと思いつつ、アモスは彼らに近づくと、さも偶然を装い、
「やあ」と、声をかけた。
「景気はどうだい?」
 ラモスが不思議そうな顔をしてアモスを見る。いつもなら目と鼻の先にいたって無視して通り過ぎるこいつが、
「へぇー、おめぇーの方から声をかけてくるとは、どういう風の吹き回しだ。やっぱり、いよいよ戦争が始まるのか」
 よほど特別なことが起こるに違いない。例えばM6がいきなり超新星になるとか。それじゃ、戦争どころの騒ぎじゃない。
「少し、話があってよ、そこいいかい」と、アモスはラモスの向かい側の席を指し示した。
「話?」
「ああ、悪かねぇー話だ」
 ラモスはその席に座っていた子分を追い払うとアモスに席を勧めた。
「それで、話とは?」と、アモスが座るより早く訊いてきた。
 せっかちな野郎だ。
「人払いを願いたいな、出来れば二人っきりで」
 ラモスは少し警戒した。何が目的なのかと。
「儲け話とは、あまり多くの者に聞かせると、儲けが薄くなるからな」
 ラモスは仕方なしに部下たちを声が届かない範囲まで遠ざけた。
「では、話を聞こう」
 これ以上遠ざける気はないようだ。それだけ俺は警戒されているということか。お前のせいで俺が迷惑を食っているというのに。
 だからこそ、何か仕返しされるのではないかとラモスは警戒していた。
「この辺りの航宙図を持っていないかと思って」
 ラモスはこっちの出方を見ているようで何も答えてこない。
「持っていたら、売ってくれないか。ものによっちゃ、かなりの値が付けられる」
「どうするのだ?」
「売るに決まっているだろう、買いたいという人物がいる」
 それでラモスもわかったようだ、微かに口元に笑みを浮かべると、
「ネルガル人にでも売る気か」
 アモスは声をたてて笑った。
「馬鹿なこと言うな。ネルガル人の所になど持って行っても売れるはずなかろう。取り上げられて牢屋に叩き込まれるのが落ちだ」
「じゃ、誰に?」
「ボイ人さ」
「ボイ人? 奴等なら既に持っているだろう。ここは奴等の縄張りなのだから」
「俺が欲しいのは、ただの星域図じゃない。魔のサークルの星域図だ。お前なら何かいいもの持っているんじゃないかと思ってな、なにしろ随分昔からここで商売しているようだから。と言うよりもは、騙して掠め取っているとでも言うべきかな、ボイ人は金銭感覚がないからな」
 ラモスは鼻で笑うと、
「ああ、あのネルガルの王子とかいう奴が来てからというもの、商売がやり辛くなった。誰かが下手な知恵を付けていやがる」
 まさかその王子が付けたとはラモスも思っていないようだ。それほどルカは傍目からはただの幼い王子としか思われていなかった。
「まあ、この星がネルガルの属星になったら、お前の商売もあがったりだな」
「ああ、まったくだ。またどっか、美味い汁の出る星を探さないとな」
 最後の総仕上げと言うがごとくにボイの装飾品を積み込んでいた。
「最後の置き土産に、ネルガル人をガフンと言わせるようなものを置いていかないか」
「ボイ人にその星域図を渡して、何の価値がある?」
「戦いに、勝つかも知れないだろう」
 今度はラモスが声をたてて笑った。どころか脂ぎった腹をそり返して、
「お前、正気か。相手は戦のプロだぜ、それに引き換えボイ人は今まで戦どころか夫婦喧嘩すらしたことないんじゃないか、何でも争うと湖が消えるとか言って。喧嘩も小声でするようじゃ、それ以上の進展もなかろう」
「やってみないことにはわからないだろう。とにかく、持っているのなら見せてくれ」
「まあな、一つおもしろいものがあることにはあるが」
 だがあの星域図は奴等以外には使えない。奴等から取り上げたのはよいが、結局宝の持ち腐れで終わっている。
「よかろう、どのみち俺には使いこなせない星域図だし」と、ラモスはアモスを自分の船へと案内した。
 やはりラモスの船もアモスの船同様、巨大な葉巻型宇宙船だった。下手をすればアモスのより大きいかも。
 その船の資料整理専用コンピューター室に案内されると、ラモスは一枚のチップを持って来た。
「この星域図だ。なかなかおもしろいものが描かれているが、俺たちの目で確認することはできない」
 そう言ってラモスはそのチップのデーターをスクリーンに映し出した。M6星系の星々が大きなスクリーンに細々とした正確な軌道とともに描き出された。そして何より驚いたのは、この大きなスクリーンに、またこれ大きな惑星が映し出された時だ。
「あの魔のサークルの中に存在する惑星らしい」
「あの何も無い空域に、こんな物が存在しているのか?」
 信じられないという顔をした。
 そしてその星域図はその惑星の軌道を正確に描いていた。それどころかその惑星の重力圏内も。
 これだ! とアモスは思った。だがこの星域図を何処で?
「これ、どうしたんだ?」
「イシュタル人の船を襲撃した時、もらったのさ」
 どうやら海賊まがいのこともしているようだ。
「最初はイシュタル人だとはおもわなかったんだが、奴等、ネルガル人の偵察船から逃げているらしくって、見逃してくれればこの船にあるものなら何でもやると言うから」
 いろいろぶったくったようだ。その中に、この航宙図も入っていた。
「イシュタル人?」
 ネルガル人とイシュタル人、元をただせば同じ星人だと言うこともあって、他の星人には彼らの見分けは付かない。それを区別しているのはネルガル人のみ。ネルガル人がどうしてそこまでこだわって彼らを差別するのか、他の星人には理解できない。
「奴等の目にはこの惑星が見えるのかな」
「じゃなければ、これほど正確な軌道は描けまい」
 不思議な星人だ。他の星人から忌み嫌われている。だが実際に嫌っているのはネルガル人だけ。彼らが執拗に嫌うため、彼らの機嫌を損ないたくないから他の星人もそれに合わせている、嫌う意味など知らないで。
「幾らで売る?」
「そうだなー」と、ラモスは足元を見始めた。
「ネルガル人にギャフンと言わせる気はないか」
「ボイ人に、この星域図を使いこなせる者がいるとでも言うのか」
「ああ、居るからこそ、売る意味があるんじゃないか」
 ラモスは信じられないという顔をしながらも、その星域図に値段を付けてきた。
「ちょっと待て、それの値じゃ、惑星が買えら」
「どうしても欲しいんだろう」
「常識というものがあるだろう」
「出せないなら、他の奴に売るよ」
「ネルガル人にか。奴ら、買うと思うか」
 奴等こそ、欲しいとなれば力ずくで奪う連中だ。このボイ星だって、資源さえなければ、こんな不幸には見舞われなかったはずだ。
 ラモスもそれは確かにと思っていた。奴等とは商取引は成り立たない。力に物を言わせてどんなルールでも作り出す。
「ネルガル軍が負けるところを、見たいと思わないか」
「お前、本当にボイが勝つと思っているのか。頭、一度診てもらった方がいいぞ」
「よけいなお世話だ」
「では、賭けをしないか」と、言い出したのはラモスだった。
「ボイが勝ったら、その星域図はただでやろう。ただし負けたらお前は俺の船で一生ただ働きだ。どうだ」
 アモスはとっさには返事が出来なかった。それほどあの王子を信用しているわけではない。だがハル公のあの胆の入れよう、ただ事ではないと取った。
「やっぱり、お前だって信じちゃいないんじゃないか、馬鹿馬鹿しい」
 ラモスは吐き捨てるように言う。
 その言い方にアモスはプライドを傷つけられたような気がした。
「いいだろう、その賭け、乗ろう」
「せっ、船長!」
 イヤンが何処から出したかわからないような声を発して、アモスを止めようとする。
「ボイが負けたら、俺はお前の船で一生奴隷のように働いてやる」
 ラモスはにんまりとした。
「よし、商談成立だ。ここにサインしてもらおうか」
 そこには先程の賭けの内容がしっかり書き込まれている約定書があった。イヤンはアモスを押し留めたが、アモスはそのイヤンの腕を振り切ってその約定書にサインをした。
 お互いにサインをし合うと、ラモスはアモスにチップを渡した。
「幸運を祈るぜ。どの道、俺は損はしないが」
 ボイが勝ったところで役にも立たない航宙図が一枚消えるだけ。ネルガル軍が負ける姿も見られれば、見物料としては安いぐらいだ。だがそんなことはあり得ない。
「アモス船長、トイレの隣の物置、お前の部屋として用意しておいてやるから。ついでにお前の最初の仕事は俺の体の垢すりだ。いまから練習しておけよ」
 アモスは唾を吐き捨てるような感じにラモスの船を後にした。
「あの野郎、勝ったときには」と言ったところでこの星域図がただになるだけ。
 頭が冷めてからよくよく考えれば、否、よくよく考えなくともまったく割に合わない賭けだ。どうしてこんな賭けをしてしまったのかと今更ながらに思うのだが、あの時は無性に頭に来ていた。
「船長、どうするんです、ボッタクリ号は」
「この戦争、ボイが負けるとは決まっていないだろう」
「本気で、勝てると思っているのですか」
 イヤンにそう言われて、そうだと答える自信はなかったが、
「勝ってもらうしかなかろう」
「そんな、俺たちはどうすればいいんですか」
「お前等も全員、奴の奴隷になるか」
「滅相も無い」と、イヤンは顔の前で大きく手を振った。
「ところで今、何時だ」
「もう夜半ですぜ」
「今からあのガキのところへ行くわけにも行かないな。もうガキじゃ、寝ちまったろーし」
「明日にした方がいいと思います」
「そうだな、今夜中にと言う約束だったが」


 次の日、ルカはさっそく戦場の下見に出ようと思っていたが、くだらない話し合いに付き合わされる羽目になった。
 議会は相変わらず和平の修復というところで議論を交し合っている。既に宣戦布告だと言うのに、王子の仇を討つと入っても戦争をするとは言っていないと言い合っていた。誤解さえ解ければ戦争は回避できると。
 ルカはその言い合いを聞きながら、時間の無駄だと思いながらも口にはしなかった。好戦的だと思われても困るから。私も戦争は避けたい、だがここに至っては、早く準備をしなければ間に合わなくなる。
「殿下はどう思われます」と訊かれてルカは、
「ここに至っては、防戦の準備をした方がよいと思います」
「ですが、あなたは現にこうやって生きておられるのですよ」
「今更私が彼らの前に現れても、偽者扱いされるだけだと思います。これがネルガル人の手ですから。こうやって今までにもいろいろな星を属星にしてきたのです。今度はこの星を狙っているのでしょう。ですが私はそうやすやすとこの星を彼らの手に渡すつもりはありませんから」
「それはどうかな」と言ったのは一人の若者だった。
「あなたはネルガル人ですから、いざとなれば」
「確かに私はネルガル人です。ですが、私がここにいる人たち以上にボイを愛しているのも事実です。はっきり言ってこの気持ちだけは、あなた方に負ける気はしません。私はボイが好きです。しかもネルガル人の手の入っていない純粋なボイが」
 代表者たちは黙り込んでしまった。
 その静けさを破ったのも一人の若者。
「何か、勝算でもおありなのですか」
「勝算などありません。ただ、やれるだけのことをやるだけです」
 今更逃げ隠れしても仕方がない。
 誰もが黙り込んでしまった。


 ルカが会議から戻って来ると、ルカの邸にはいつものメンバー以外に二人の客人が待機していた。一人はアモス、そしてもう一人はハルメンス公爵の執事と名乗るネルガルの男。
 ルカの顔を見るなりアモスが近づいて来た。こっちへと腕を引っ張るようにしてルカを廊下の方へ誘い出すと、
「気をつけた方がいい」と耳打ちする。
「俺はハル公の館には長いこと世話になっているが、今まであんな奴見たことがない」
「わかりました、有難う。ただしあなたは約束を破ったので彼の方が先ですよ」
「俺は夕べ持って来ようと思っていたんだ。ただ、お前が寝てちゃー悪りぃーと思って、今朝にしたんだ」
 どうやらアモスは朝から待っていたようだ。
 ルカが居間へ戻ると、
「商談は成立しましたか」と、男。
「いいえ、あなたの方を先にすることにしました」
「彼の方が先に来ていましたが」
「彼の用件はだいたいわかっておりますので」
 男は周りを見回した。どうやらルカ以外の者がいるのが迷惑のようだ。だがアモスからあのようなことを聞かされているハルガンたちは、ルカを一人にする訳にはいかない。もしかするとネルガルが放った刺客。ネルガルはレスターのような暗殺を専門とする人物を洗脳して作っている、命令に絶対服従するように。もっともレスターは洗脳に失敗し、自分の意思を持つ暗殺者になってしまった。そのため誰の命令も聞かない殺人鬼になってしまったが。
 男もそれを察したのか、リンネルの存在は認めた。
「リンネル大佐はご一緒でもかまいません」
 今のボイ、誰が敵で誰が味方だか今のところはわからない。確実に殿下と彼の味方だけにこの情報を明かしたい。
 ルカが隣の部屋に場所を移そうとした時、ハルガンとケリンが認めない。もしこの男が刺客なら、レスターと互角の腕を持っていることになる。大佐だけで防ぎきれるかどうか。
 男は仕方なしにハルメンスから預かった封書を出した。
 ルカ王子、どんな人物か会ってみたいという男に対し、君一人で行ってもあそこにはキングス伯がいる。彼は用心深い人物だから、おそらく殿下には合わせてもらえないだろう。
 そう言ってこの封書を手渡された。これを見せればキングス伯も納得なさるだろうと。
 その封書は、ルカが親衛隊や治安部隊宛に出した命令書と同じものだった。つまり正式な公文書、その封書にはハルメンス家の正式な旗印、オジロワシの透かしと印、そしてハルメンス公爵のサイン。
「確かに、ハルメンスの使いのようだな」
 この男が途中で正式なハルメンス家の使者を襲撃したのでなければ。
 ハルガンはその封書を見せられては仕方ないと四畳半ぐらいの狭い部屋に男を案内した。二、三人で密談をするにはもってこいの部屋だ。そしてこの部屋は庭にも面している。ここからの池の眺めもまた素晴らしい。だがそれよりハルガンが当てにしていたのは、池の遥か奥、そこに潜む一人の人影。奴ならばもしこの男が変な真似をすれば。
 テーブルをはさんで、男とルカは相対して座る。そしてルカの背後に控えるようにリンネルが座った。
「ボイの黄茶でもご用意いたしましょうか」と、ハルガン。
「いいえ、用が終わり次第、私は直ぐに戻らなければなりませんので」
 どこへ? とハルガンは思いながらもその場を去った。

「どうでした?」と問うケリンに、
「食えない奴だ」と、ハルガンは答える。
 シナカは心配そうにルカの消えた廊下の先を見詰める。
「心配いらないぜ、あの部屋は。よく狙えるように床の間の方に座らせたからな」
 あの位置なら池の方から照準を付けやすい。
 ホルヘは呆れたように溜め息を吐いた。
「それではまるで、人を見たら泥棒と思えと言うようなものではないですか」
「それは違うな、人を見たら殺人者だと思えだ。これがネルガル流」
「まぁ」と、シナカは呆れた顔をする。
「ネルガル人って、変わっていますね」
「今頃知ったのか」と、ハルガンはからかう様に言う。
 それから顔を引き締めると、ケリンに向かって、
「どう思う?」と訊く。
「地下組織のメンバーではないかと、それもかなり上の。おそらくハルメンス公爵は上流貴族ゆえに、地下組織のメンバーからは余り信用されていないのではないでしょうか」
 上流貴族の身分が足枷になっている。なぜなら彼ら地下組織が敵にしているのは皇帝を始めその息のかかった貴族なのだから。
「なるほど」と、ハルガンは顎を撫ぜた。
 そういう意味ではハルガンも敵視される口だ。キングス家も身分の低い貴族ではない。
 ここは平民であるケリンの読みの方が正しいだろう。
「彼ら地下組織は、ハルメンス公爵を利用できる限り利用するつもりでしょう」
 自分が地下組織の一員ならそうするとケリンは思った。門閥貴族との交渉には適任者だから。王族の直系を別として彼以上身分の高い貴族はいない。だが仲間に入れても信用はしない。


 ルカはさっそく用件に入った。だがその前に、
「あなたのお名前を?」
「私の名前でしたら、そこに書いてあります」
 封を切って中を開ければ、オジロワシの透かしの入った便箋にその男の名前とハルメンス家の執事であることが記されていた。
「マティアス・オーリンさんですか」
「オーリンで結構です」
「偽名ですか?」
「これはまた、どうしてそのようなことを?」
「私はてっきりあなたは貴族だと思っておりましたが」
 最初に会った印象。男からは貴族特有の匂いがした。
 男は苦笑いを浮かべると、
「貴族にもいろいろおりますから」と、ルカの洞察力を認めた。
「そうですね、ネルガルの貴族の全家名を覚えるのは至難の技です。なにしろ数が多すぎますから」
「私はそのようなことを言ったつもりはありませんが」
 貴族でも傍流の方の貴族は、平民以下の生活をしている者も居る。
 それはルカも知っていた。現にスラムには貴族の端くれという者もいた。中には貧しくとも貴族のプライドを捨てずに生きている者もいたが、大半は魂まで腐らせ、平民よりすさんだ性格になってしまった者もいた。貧すれば鈍する、仕方のないことなのだろうが、あまりにも寂しいと感じた。今更スラムをどうこう思ってもしかたがない。それより今はボイ星のほうだ。
 ルカは気分を切り替え、
「ご用件は何でしょうか」と訊く。
 男は懐からもう一通の封書を取り出した。
「これを、お届けにあがりました」
 真っ白な封筒。表には何も書かれていない。
 ルカはその封を切り、中から手紙を取り出した。
 それは三個艦隊の譲り渡し状だった。第一陣は今から六日後。手紙が書かれた日付から換算すると。
「これはネルガルの暦でしょうか、それともボイの暦でしょうか」
「ネルガルの暦です」
 ネルガルよりボイの方が、一日はほんの僅かだが短い。手紙が書かれたのは今朝のようだから、
「五日後の午後には」と、男。
 そして二陣はそれから十日後、三陣はそのまた七日後、ワームホールから逆算されたものだ。
 三個艦隊、本当に地下組織は貸してくれるのか。
 そしてその艦隊を率いる提督の名前が、マティアス・オーリンだった。
 ルカは驚いたように目の前の男の顔を見た。
「私の艦隊です。あなたにお貸しいたしましょう」
「無傷でお返しするわけには参りませんが」
「正式にはあなたに差し上げます。ただし使いこなせればの話ですが」
「有難う御座います。このご恩は」
 オーリンは首を横に振った。
「恩に着ることは御座いません。本来我々が倒さなければならない敵を、我々に代わってあなたが倒してくださるのですから」
 ネルガルの帝国軍を一つずつ潰していくのは根気のいることだ。その日の食にも困っている者はスラムには幾らでもいる。ネルガル軍はネルガルの資金力でそういう奴等をかき集めて来る。幾ら倒しても蛆のように湧いてくるようなものだ。
「宿はお決まりですか。もしまだでしたら、この邸を」
 それに対してもオーリンは首を横に振った。
「この邸に、どれだけの敵がいるのかまだわかりませんので」
 あまり顔を見られたくないというのがオーリンの考え。
「敵?」
 ルカの疑問に対してオーリンは答えた。
「戦えばボイが負けるのは誰の目にも明らかです」
 オーリンはこれからその無謀をやろうとしている者の前で、はっきり言ってのけた。
「なら、属星になった後の地位を保証してくれる事を条件に、内通する者が現われてもおかしくありません」
 これは何もボイ星に限ったことではない。どの国でもどの星でもありうる。
「まずはそれを見分けるのが肝要」
 既にもう戦争は始まっている。
「私は幾度と無くネルガル軍として出動したことがありますので、私の経験上のご忠告として」
「有難う御座います、そのご忠告、肝に銘じて起きます」
 オーリンはにっこりすると、
「意外に素直なのですね。ハルメンス公爵のお話とは随分違う」
 彼がルカのことを何と言ったのかは知る由も無い。
「以後、たびたびお会いすることになりますが、もう少し手続きを簡単にしてくださるとありがたいのですが」
「わかりました。この邸に自由に出入りできるパスを発行させましょう」
「そうしていただければ、有難い。それでは五日後にお会いいたしましょう」


 男が去ったあと、ハルガンが耳打ちしてきた。
「どんな用件だった」と。
 ルカは男が差し出した封筒をハルガンに見せる。
 ハルガンはにんまりとした。
「やはりそうだったか。意外に早かったな」
 彼がこの艦隊の総司令官であることは、ルカは伏せておいた。
 次はアモスである。
「お待ちどうさま」
 アモスは鼻の下を子供のように人差し指で撫でた。
「ああ、随分待たされたな。いい加減、もう帰っちまうかと思ったぜ」
 だがアモスには帰れない事情が出来てしまっていた。最初は他人の船。浮こうと沈もうとただ見物していればよかったのだが、今は同船している。一緒に乗っている以上、沈まれたら困る。そう、この戦い、絶対に勝ってもらわなければ。
「俺の用件はこれだ」と、アモスはメモリーチップを差し出す。
「幾らですか?」
「それは、見てからで結構だ」
「かなり自信があるようですね」
「ああ、俺の商品だ。そこらの品と一緒にされたくないね」
「ケリン」と、ルカはケリンにそのチップを手渡す。
 ケリンは卓上のコンピューターを操作しチップをセットした。居間のシンプルな壁がスクリーンに変わる。そしてそのスクリーンに映し出されたものは、M6星系の星域図。
「なんだ、これなら」とハルガンが言いかけた時、ケリンの目はある一点に集中していた。
 戦場に適した場所はないかと、穴が開くほど何度も見詰め続けた星域図、違いは一目でわかった。ルカも気づいたようだ。
「左下の」
「拡大します」
 左下へと画像をスクロールする。スクリーンに映し出されたそれは、巨大な黒い惑星。しかもその大きさはM6星系のどの惑星よりも大きい。
「これは、一体?」
「あの魔の空域に存在する惑星だ」
「しかし、あの空域には何も」と言うホルヘに対し、
「ケリン、画面を二分割してお前が計算して出したものを映してくれ」
 同じ暗黒惑星。
「へぇー、なんでぃ、もうこの情報は得ていたのか」
「違う。これはデーターを基に私が計算して作ったものだ」
「へぇー、計算でもだせるのか。いい情報だと思ったのにな」
 同じものを見せられてアモスはがっかりした。
 だがよく見ると、ケリンの方が小さい。その分、軌道も若干小回りだ。
「これを、何処で?」と問うルカに対し、
「おれの知り合いが、イシュタル人からふんだくったそうだ」
「イシュタル人から?」
 ケリンの惑星の移動が少しぶれているのに対し、こちらははっきりしていた。
「彼らにはこの惑星が見えるのでしょうか?」
「奴等の黒い瞳は特殊らしいぜ」と言いつつ、アモスはルカの配下たちを見る。
 目の黒い奴はいない。しいて言えば大佐だが、それでも茶色がかかり真っ黒ではない。
「やっぱりネルガル人に黒い瞳の奴はいないのかな」
 他の星人にはネルガル人とイシュタル人の見分けは付かない。もし瞳の色で見分けられるのなら、簡単なのだが。
 だがイシュタル人にも黒以外の瞳を持つ者はいる。現にアモスが買い付けた十四人のイシュタル人の中で真っ黒な瞳を持つのは三人だけ。後はどちらかと言えば大佐のような、否、大佐よりもっと茶色いかも。
「何考えているんだ、アモス。そろそろ値段の交渉か」と、ハルガンにからかわれ、
「いや、どうやればネルガル人とイシュタル人を見分けられるかと思ってな」
「どうして見分ける必要があるのですか」
「そりゃ、決まっているだろう。ネルガル人じゃ、下手に出ないと後の祭りになっちまうだろう。それに対しイシュタル人なら高飛車に出たほうがこっちの意のままにことが運ぶ。だが奴等、ネルガル人の振りをしているからな」
「相手によって態度を変えるのですか」
「そりゃ、そうだろう。それが商人と言うものだ。取れる奴からはとことんふんだくる」
「まぁ」と言うシナカに対し、
「マルドック人とは、こう言う星人だから、気を付けたほうがいいぞ」と、透かさずハルガンが忠告を入れる。
「ネルガル人よりましだぜ。奴等と来たら、取れない奴からまでふんだくるからな」
 ケリンは呆れた顔をして、
「お前の目の前にいるのは何星人だ?」と訊く。
 アモスは慌てて口を塞いだが後の祭りだ。
「よかろう、ではふんだくってやる。チップを置いて、さっさと出て行け」と、ハルガンはプラスターを構えた。
 アモスは慌てて両手を挙げる。
「ハルガン!」と、ルカが注意する。
「そういう事をするから、ネルガル人の評判が悪くなるのです」
「俺は、評判どおりにしてやっただけだ」
 ルカはやれやれと言う顔をしながらも、ハルガンにプラスターをしまわせ、アモスと値段の交渉に入った。
「幾らなら、譲ってくれますか。余り足元を見ないで下されば有難いです。これからかなりの出費を覚悟しなければなりませんので」
 アモスは少し考え込む振りをしてから、
「差し上げましょう」と言った。
「差し上げるとは、つまり、ただでくれると言う事ですか?」
 誰もが怪訝な顔をした。相手はマルドック人だ。それこそ売れるものなら親でも売ると言う。
「お前等にただでもらったのでは、後が怖いからな。条件は何だ」
 ハルガンもやはり、マルドック人との交渉は慣れているようだ。
 アモスは溜め息交じりに、
「俺の好意とは取ってもらえないのかな」
「当然だろう。そんな薄気味悪い好意など受け取れるか」
 アモスは苦笑すると、
「銀河無敵のネルガル艦隊が負けるところが見たいのですよ。否、勝ってもらわなければ困るというところですか」
「困るって、お前がか。どっちが勝とうと、お前等マルドック人には関係なかろう。お前等は両陣営に武器を売ればいいことなのだから。戦争はいい儲けだろうが」
「ちょっと待ってくれ、その言い方は酷いな。俺たちはネルガル人には武器は売れませんぜ。それをやっているのはネルガルの武器商人じゃないですか」
 彼らこそ、ネルガルが戦争を起こす先々に行って武器を売りつけている。これは彼等の専売特許で他の星人の入る隙がない。現にボイ星にも来ているはずだ。
「あの、本当に勝っていただかないと困るのです」と言ったのは、先程からアモスの背後でずっとおとなしく控えていたイヤンだった。
「勝っていただかないと船長が奴隷になってしまうのです」
「奴隷?」と、皆が疑問に思うのと、
「余計なことを言うな!」と、アモスが怒鳴る。
 それこそ、こっちの足元を見られる。
「どういう意味ですか?」
 ルカの問いに答えようとするイヤンを、アモスは怖い目をして睨める。
 だがイヤンは、どうしても勝ってもらいたい一心に真実を告げた。
「その星域図を手に入れるために、ボイが勝つ方へ賭けてしまったのですよ」
 イヤンの言い方は、ボイの負けが決まっているような言い方だった。
「売り言葉に買い言葉というやつだ」と、アモス。
「どうしてそんな賭けを」
 キネランたちも戦うからには負けたいとは思わないが、現状からして勝利には程遠い。そのため、つい呆れた顔になってしまった。
「船長、短気ですから、何か言われると直ぐに、後先考えないのです」と、イヤンは溜め息を吐く。
「とにかく、その星域図はただで差し上げます。その代わり、絶対に勝ってください。さもないと俺たち」
 自分勝手で短気で喧嘩っ早い、いつもボッタクリ号にトラブルを持ち込むのはラモス船長だった。船長さえ居なければ、どんなにこの船は穏やかなことか。誰しもがそう思っている。だがアモス船長が居るからのボッタクリ号だということも、誰もが知っていた。
「心配いりません、アモス船長を奴隷にするようなことはいたしませんから」
「本当ですか」と、イヤンは念を押す。
 ルカは力強く頷いた。
「お前に、この星域図が使いこなせるのか?」
 余りのルカの自信にアモスは訊く。
「それはまだわかりません。ですがせっかくあなたが苦労して手に入れてくださった情報です。使いこなしてみたいと思います」
 ルカはそう言うと、ケリンにデーターの分析を始めるように指示した。同時にキネラオたちには明日、戦場の下見をするための船の用意。そしてリンネルには治安部隊の増員と強化を。
「ハルガン、あなたはどうします?」
「俺は、データーの分析が終わるまで、大佐たちを手伝うか」
 ルカはその言葉に頷いてから、
「ここに居る皆さんに一言言っておきたいことがあります。今、ここでの話は、他言しないでいただきたい。特にマルドック人のお二人、ご協力、お願いいたします」
「もちろんですぜ、なにしろ船長の未来がかかっていることですから」
 既にここからが作戦会議だということは、マルドック人も百も承知だ。
 ルカはにっこりと頷いた。
 不思議と他人を安心させるガキだ。ラモスにはああ言ったものの、アモスもこの戦い、ボイが勝つとは思ってもいなかった。だがこの少年を見ていると、訳もないのに勝てそうな気がしてくる。そんな期待を抱かせるガキだ。
 ルカに指示を出された者たちはさっそく動き出した。ケリンは先程のチップを持ってルカの自室へこもり、キネラオたちは偵察艇の手配に走った。
 シナカはここで初めて客人にお茶も出していないことに気づき、お茶の用意にキッチンへと向かう。ボイでは自分のことは自分でやるという習慣があるらしく、ネルガルのように何から何まで侍女にやらせるということはない。それでもルイなどはシナカのことを思い、時間外労働で手伝ってくれる。半分は仕事として、残り半分は友人としてなどと言って。
 シナカがお茶を用意しようとすると、手作りのお茶菓子を用意してくれた。ルイは料理が得意だ。特に菓子を作らせれば右に出るものはいない。と、シナカは尊敬している。
「ありがとう、でも、もう交代してくれて結構よ、朝から通しでしょ」
「でも皆さんは昨夜から。ボイ人でない彼らがボイ星のためにあんなに懸命に努力されているのに、ボイ人の私が休んでいるわけにはまいりません。それは居ても何のお手伝いもできませんが、せめてほっとする一時ぐらいは作って差し上げられるかと」
 おいしいお菓子に、心和ませる香りのお茶。私に出来るのはこのぐらい。
「ありがとう、皆喜ぶわ。あなたの作るお菓子は銀河一だとルカが言っていたわ。ネルガルにもこんなにおいしいお菓子はないそうよ」
「殿下って、本当に人を褒めるのがお上手ですよね。殿下がそう言うものだから、近頃私、本気になってお菓子作りの研究始めてしまいましたもの。それでこれ、最新作なの。ネルガルの菓子とボイの伝統的な菓子を組み合わせてみたのですけど、どうかしら?」と、ルイはシナカに味見を勧めた。
 これから戦争が始まると言うのに、やはり女性は女性同士、戦いなどより今食べる美味しいものの方が、興味がある。
 シナカは菓子を一つ摘んで口にほおばると、
「美味しい」と、思わず大きな声を出してしまった。
 慌てて口の周りに着いたクリームを拭き取ると、OKと言う感じに指を丸めて見せる。
「お待ちどうさま」と、シナカはマルドック人たちの前にお茶を差し出す。
 ルイが菓子を持って入って来た。
「最新作だそうよ」
「ネルガルのお菓子をモチーフに作ってみました」と、ルイは菓子を皆の前に並べた。
「彼女の作る菓子は美味しいですよ。この菓子をまた食べるためにも、ネルガルには勝たなければなりませんね」とルカ。
「まぁ」と、シナカとルイは顔を見合わせる。
 ルカはどうにかあの星域図の出所を聞き出そうとしたのだが、どうやらアモスも詳しいことは知らないようだった。
 イシュタル人に会って話がしてみたい。



 ここはオーリンが率いる艦隊の旗艦の司令室。既に先日のワームホールが開いた時に、偵察隊として十隻ほどがボイ星の存在する空域に入って来ていた。
「お帰りなさいませ、指令。如何でした例の王子は?」
「ハルメンス公爵が随分とお熱になっておられるようですが」
 所詮は王子、平民の血を引くとは言え、王侯貴族の慣習に毒されているのだろうという思いで会いに行った。彼もハルメンスと同様、利用するだけ利用して邪魔になれば処分すればよいと。それが大方のレジスタンスの考え。我々は帝政を復活させる気はない。
「一度会ったぐらいではな、今度の戦いに同船させてもらおうと思っている。もっとも彼が出陣すればの話だが」
「彼はまだ子供ですよね」
「そうだ。確かまだ十歳にはなっていないはずだ」
「ではやはり、キングス伯爵が指揮を?」
「そうでしょうね、彼は元参謀本部勤務でしたから、そういうことになるでしょうね」
「やはり戦場としては、小惑星帯でしょうか」
「そうだろうな」
「ではやはり、小惑星を利用したゲリラ戦ですか」
「本来なら数にものを言わせての、ワームホール近辺での包囲戦といきたいところだろうが、何しろ迎撃する戦艦にも事欠く有様ではな」
 ボイ人がもう少し防衛というものを考えていれば、このようなことにはならなかった。否、軍備を持っていたところで、ネルガルが相手では持っていないと同じことか。それ程にネルガルの軍事力は銀河でも特出していた。
「今から戦い方を教えて、全面戦争と言うわけにも行くまい」
「ゲリラ戦でしたら、我々の専売特許ではありませんか、教えて差し上げれば」
「ルーレント、先程ハッサンが言った通り、キングス伯は元参謀本部にいたのだ、ここはお手並み拝見といくのが礼儀だろう」



「どうですか」と、ルカ。
 ルカはマルドック人たちを帰してから、ケリンの所へやって来た。
「何時ごろ描かれた星域図だかわかりましたか」
 余り古くては役に立たない。
「十年は経っていないと思います」
「十年、それは申し分ない。どうしてそう思うのですか?」
 ケリンはパネルを操作して、ある彗星を映し出した。
「これは、確かミュー彗星ですよね、確か六十五年一回接近して来ると」
 ルカも本来なら星域図を見た瞬間に気づいたはずなのだが、暗黒惑星のことにばかり気を取られ見落としていた。
「その接近があったのが十年前なのです。ボイの星域図にははっきり記録されております。そしてこの星域図にも」と、ケリンは二枚の星域図を重ね合わせた。
 軌道が合致した。と言う事は、
「極最近のものです。暗黒惑星の動きも、ほぼずれはないかと」
 何百年も経てば星も次第に軌道を変える。だが十年ぐらいなら、光速で動く船にはその軌道のずれは考慮に入れる必要がないほど微々たるもの。
「とにかく、一度その場へ行ってみましょう」

 そして次の日、ルカはいつものメンバーに、サミランとウンコク、それにズイケイを伴い出発することにした。だがこの出発はなかなかスムーズにはいかなかった。なぜなら同行するメンバーに意義を申し立てた者たちがいた。
「クーデターの主犯格と思われる者を同船させるなど、絶対認めない」と、ルカの親衛隊たちは譲らない。
 なら護衛に付けばよいといいたいところだが、治安部隊の増員を行っている今、彼らの訓練の手を抜くわけにもいかない。
 よってルカは彼らの説得に時間を費やした。
「我々だけで戦うわけにはいかないのです、彼らの力を借りなければ。一緒に戦うからには彼らを信じなければなりません。また彼らにも信じてもらわなければなりません。そのためには我々の手の内を見せて、よく理解してもらわなければ」
「そんなことしてみろ、敵に内通されるぞ」
「何処に内通するのですか。彼らが嫌っているのはネルガル人なのですよ、それではボイをネルガルに売るようなものではありませんか」
「わからないぜ、いざとなればボイより自分の地位の方が大事になったりして」
「トリス、あなたにはウンコクさんがそのような人に見えるのですか」
 ルカにそう言われてトリスは黙り込む。
 話が一通り落ち着いたところで、ハルガンは顎をかきながら、
「まあ、我が司令官がそう仰せなのだから、戦時ではそれに従うしかなかろう、リンネル大佐に異存がなければ」と言う。
 ネルガルの法に照らし合わせれば、ここでの総司令官はルカと言うことになる。ただし本人が元服前の場合は侍従武官がその代わりを勤めることになっている。ルカの侍従武官はリンネルだ。よってリンネルに異存がなければルカの命令がそのまま実行に移される。
 ルカは背後に控えているリンネルを見た。
「私も殿下の考えは間違っていないと思いますが」
 ここでレジスタンスとの間に信頼を築いておかなければ。それには作戦の初歩の段階から彼らを加えることだ。
 大佐や曹長にそう言われ、トリスはいよいよ黙り込んだ。だが不安は消し去れない。守衛が少なくなったことをいいことに、奴が殿下の命を狙うのではないかと。ウンコクの一派が殿下を嫌っていることは百も承知だ。
「心配するな、レスターを連れて行く。奴なら敵も味方もないからな」
 ルカに銃口を向けるものは全て敵。明確な答えだ。

 そして声をかけられたウンコクの方も、トリス以上に警戒した。
「私を指名するとは、どのような了見でしょうか。私は政治には通じておりますが、軍事に関しては疎いのですが。私よりもっと」と、疑問を投げかけてきた。
「私がどれだけボイを愛しているか、理解していただきたいのです」
 どんなものを見せ付けられても私は騙されない。とウンコクは心に誓っている。ネルガル人はネルガル星へ戻ればよい。ボイ星はボイ人が統治する。
「まあ、せっかくのご指名ですので、同船させていただきます」
 ここでもめても仕方がない。船で危害を加えられることはまずないだろう。私が無事に戻らなければ、それこそボイは二つに分裂する、親ネルガル派と反ネルガル派に。まずは相手の手の内を知ること。それによってこちらの策も講じられるというものだ。

 これでやっと出立の準備が整った。そしてまずはボイ星の外側を取り巻く小惑星帯に向かった。ハルガンはこの小惑星群を利用したゲリラ戦を立案しているようだ。
「どうですか、いい場所ありますか」
「三個艦隊をうまく隠せて、尚且つ、大艦隊を誘引できる場所。なかなか難しいな」
 三個艦隊を隠せても、ネルガルの艦隊が入って来られるほどの空域がなければ駄目だし、空域があっても味方が隠れる場所がなければ駄目だし。
「こういうのを帯に短し襷に長しと言うんだろうな」
「この小惑星の幾つかが、ボイ星の重力圏内に捕まり月となったのですね」と、ルカは感慨深げに言う。
「おい、今はそんな感傷に浸るっている場合じゃないぞ」
 ここぞと言う場所を五、六ヶ所データーに収め後でシミュレーションすることにした。
「敵も、同じことを考えるでしょうね」
「たぶんな」と、ハルガンはルカの思うところを否定はしなかった。
 次はボイ人たちが日頃近づかない魔の空域へと向う。
「本当にあの場所を戦場にお選びになられるおつもりですか」
 ズイケイが心配そうに訊く。クーデターの仲間にしては気が小さい。ウンコクとの永い付き合い上、仕方なしに一派に加わったという感じも受ける。
「それは、見てみませんと」とルカ。
 こいつ、戦場としてではなく、あの暗黒惑星自体に科学的な興味があるのでは。とハルガンは思った。
 小惑星帯を通り越し、約二億キロ行ったところにその惑星はあるはずだ、この星域図によれば。目印の小惑星、ニクスとハイドスが見えてきた。そしてその小惑星の間約百万キロは、何も存在しない空域が広がっている。
 船が急に止まった。
「どうしたのですか?」と、ルカが訊くと、操縦士の一人が、
「これ以上は、近づかない方がよろしいかと」
 彼らボイ人は、長年の経験からこの暗黒惑星のおおよその重力圏を把握しているようだ。だがこの星域図からすれば、もう少し近づける。
「自動操縦の偵察艇を放ってみますか」
 この星域図がどれだけ正確なのか知りたい。
 だが千キロ行っても、偵察艇は安定した走行を続けていた。
「おかしいですね。この星域図でいきますと、とっくに時空の歪みに巻き込まれ砕けてもいいはずなのですが」
 誰もがスクリーンから目を離し星域図を見た時、それは起こった。偵察艇は妙な形に歪み砕けたのだ。
 誰もが息を呑む。
「距離は?」
「三千二百五十までは、確実に追跡できましたが」と、ケリン。
「三千二百ですか、もう少し近づいてみますか」
「止めた方がいいな」と言ったのはレスターだった。
 どこに居たのか、いつのまにかふらりと現われた。もっともこの船は小さく船内は狭い。何処へ行こうとたかが知れているが。
「何処に行っていたんだ」と、ハルガン。
 ルカの護衛のために乗せたのに、ルカの傍にいなければ意味をなさない。
 だがレスターはそれには答えず、じっとスクリーンを睨み続けたまま、
「あの惑星は球ではない。突起がある、丁度コンペイトウのように。そしてその突起は時間とともに収縮を繰り返す。丁度、呼吸をしているようにな。その影響であの惑星の重力圏も変わる。あの惑星の重力圏は丁度ベールを広げたような感じ、時空の幕と言ってもいい、そのベールをうまく潜り抜けられれば、あの自動偵察艇のように三千キロも奥まで入って行ける。否、もっと奥まで入れる。だが少しでもそのベールに触れれば、あの自動偵察艇のように歪んで砕ける」
 淡々と言うレスター。ルカは不思議に思った。
「レスター、あなた、あの惑星が見えるのですか」
 マルドック人の話に寄ればイシュタル人には見えるらしい。なら、同じ血を引くネルガル人にも見える者がいても不思議ではない。
 レスターは軽く苦笑すると、
「以前、言わなかったか。俺には変なもの(幽霊)が見えるって。脳味噌をいろいろいじられたせいかな」と、レスターは鼻で笑うと、
「あの惑星も、奴等(幽霊)と同じような存在なのだろう」
 四次元に存在するもの。よって三次元からは見ることができない。だがレスターは。
「見えるのですか?」
「見えるというよりも、感じるって言う方が正確かな。ボイ星へ来た時から、奴の存在には気づいていた。目を開いていても閉じていても、奴に気を集中すると奴の姿が見えてくる」
「さっき、コンペイシウのような形だと言いましたが、実際どのような形をしているのか、私も見てみたい」
 それはルカだけではなく、誰しもが思った。
「レスターの脳波を画像処理すれば、今、彼が見ているものと同じものを、皆も見ることができます」とケリンが言う。
 あっ! その手があった。とルカは思った。さすがはケリン、機械には強い。
「レスター、協力してくれないか。どうしても見たい」
「殿下、頼むのではなく、命令すればいい」と言ったのはハルガン。
 レスターはいまいましげにハルガンを睨み付けた。
「レスター、頼みます」
 ルカは哀願いるように言う。
「お前がどうしてもと言うなら、協力しなくもない」
「何だ、そのもったいぶった言い方は」
「ハルガン!」と、ルカは忠告した。
 レスターの気が変わらない内に。
「ケリン、頼みます」
 ケリンはコンピューターの前から立ち上がると、自室へ行き、一つのケースを持って来た。ケリンは何処へ行くにも、大小合わせて五、六個のスーツケースを持ち歩っている。中身は何かのキットのようだが、ハルガンに言わせればガラクタ。だが本人にとっては金よりも宝石よりも女よりも貴重なものらしい。まあ、ルカよりもと言わなかっただけ、ましとしておこう。
 ケースを開けるとさっそく装置を組み立て始めた。脳波を受け取り画像処理するコンピューターのようだ。それを船のメインコンピューターへと繋ぐ。
「よし、これで準備完了。レスター、その椅子に座ってくれ」
 レスターは訝しがりながらも、指示された椅子に座った。
「装置を取り付ける。痛いようなら言ってくれ」
「痛いのか?」
 痛いのは嫌だ。と言う感じにレスターは言う。
「いや、そんなことはないが、念のため」
 キャップをかぶせ電極を繋ぎ始めたところで、いきなりレスターがケリンに切りかかった。
 危ないと言うが早いか、ケリンの腕が赤く染まる。
 レスターの剣がケリンの右腕に深く食い込んでいた。
 ルカが慌てて二人の間に割って入ろうとしたが、それより早くリンネルがルカの体を抱え込み制止させた。
「リンネル、放せ」
「駄目です、殿下」
 仕方なくルカは声でレスターを止める。
「レスター、落ち着け」
 レスターの動きが止まったのを見定め、ケリンはゆっくりレスターから離れた。
「リンネル、放せ」
「駄目です」
「レスターは私の仲間だ。私には何もしない」
「しかし、今のレスターは」
 ルカも保身術は心得ている。教えたのはリンネル。ルカはリンネルに教わった通りに背後から羽交締めされた場合は、敵の向う脛を思いっきり蹴る。リンネルが痛みで一瞬力を緩めた隙に、ルカはレスターの方へ駆け出す。
「レスター、武器を私に」と、ルカはレスターの方へ手を差し延べる。
 ハルガンはプラスターを構えた。
 レスターはゆっくり視線を自分の武器からルカへ移した。
「殿下」
「大丈夫です。何もしません。だから武器をこちらへ」
 レスターはゆっくり武器をルカに差し出した。
 慄然とした船内に安堵の溜め息が漏れる。
「ケリンは?」と、レスターが消え入りそうな声で訊く。
 自分が切りかかった相手がケリンだということを自覚したようだ。
「俺なら心配ない。傷は浅かったからな」
 どう見ても、浅い傷のようには思えないが。リケンじゃなければ、腕が切断されていたな。とハルガンは思った。
「浅いって、かなりの出血だろう」
「これは、潤滑油だ。色をわざと赤くしているのは、この方が自然だからさ」
 誰がどう見ても出血しているようにしか見えない。
「なるほど」と、ハルガンは感心する。
「すまなかった」と、レスター。
「お前に切りつけられても何とも思わないが、謝られると薄気味悪い」
 ケリンのその答えに、レスターは軽く苦笑した。
 ルカはゆっくりレイターの武器を床に置くと、
「大丈夫ですか?」と、レスターの身を案じる。
「嫌なことを思い出したものでな」
「やはり、無理ですか?」
 それにはレスターは答えなかった。
「どうしても、見てみたいのですが」
 レスターはルカを見下ろした。
 ルカもレスターを見上げて、かなりの冷や汗をかいていることを知る。
「やはり、止めましょう。無理を言ってすみません」
 ルカは武器を床から取り上げ、レスターに返そうとする。だがレスターは受け取らなかった。
「もう一度、セットしてくれ。今度は、我慢する」
 ルカはじっとレスターを見詰めた。
 レスターは軽く頷く。
「わかりました。ケリン」と、ルカはケリンの方を振り向き、彼の右腕が動かないことを知る。
「私がセットします」と、レスターを椅子へ座らせる。
「待ってくれ、俺がやる」と、ケリン。
「でも、その腕では?」
「少し時間をくれ。直ぐに治すから」
 そう言うとケリンは自室へ行き、別なケースを持って来た。
 ケースを開けると、中には手や足、目玉などが入っている。
「なんか、きもい」と言われながらも、ケリンはそこから右腕を取り出すと、壊れた右腕をワンタッチではずし、その新しい右腕をこれもワンタッチで取り付けた。
 その腕は、皆が見ている間に以前のように動き出す。
「何時見ても、便利なものだな」と、ハルガン。
「ネルガル人の手足とは、こうなっているのですか」と、感心したようにキネラオが訊いてきた。
「以前、言いませんでしたか、俺の手は義手だって。戦争で失くしたって」
「そう言えば聞いておりましたが、こうなっているとは」
 数分前と何一つ変わりなく動く手を見て、ボイ人たちはつくづく感心した。
「ネルガル人全員の手足が俺のようになっているわけではありません。こうなっているのは手足を失くした者だけです」
 ジョイントの所さえ傷つけられなければ、何回でも取り外し出来る。ある意味、下手な肉体より便利だ。痛みもないし。
 ケリンが近づくと、やはりレスターは身構えた。
「レスター、本当にいいのですか」と、ルカは心配そうに訊く。
「見たいのだろう」
 それはそうなのだが。
 人は過去の経験から成り立っている。他の人には何でもないことでも、その人にとっては死ぬほど嫌なこともある。今のレスターがそうだ、脳波を調べることなど造作も無いことなのに。だがレスターはこうやって自分の意思を消されてきた。おそらく殿下はこのことをある程度予測していたのだろう。だから命令ではなく頼んだのだ。
「いっその事、椅子に縛り付けたらどうだ」
 レスターがハルガンの提案に嫌な顔をする。
「そんなことしたら、恐怖心を煽るようなものです」とルカに言われ、ハルガンは黙り込む。
「それより、私がレスターを押さえています」
「それは、危険です」と、リンネルが止める。
「大丈夫です、彼は私には何もしません。そうですよね、レスター。私はあなたを信じていますから」
 レスターは苦笑しながら、
「俺をそこまで信じないほうがいいぜ」
 ルカはにっこりすると、
「私はあなた以上にあなたを知っています。かえって永く付き合っている他人の方が、本人より本人を理解しているものですよ」
 ルカはそう言うと、レスターの足の間に自分の体を入れ、彼の胴に抱きつくようにした。そして彼の両手をしっかり握り締める。
「さっ、時間が無い。早いとこ調べて、検討しましょう」
 ケリンがレスターの背後にまわろうとした時、
「俺の背後に立つな!」
 ルカはケリンに頷きかけた。
「装置は、前から取り付けましょう」
 ケリンが頷く。
 そんな押さえ方で大丈夫なのか。また暴れ出したらと、周囲の者たちは思った。
 ハルガンとリンネルはプラスターを何時でも発射できるようにセットしてから、ホルダーに収める。
 レスターの目がそんな二人の動きを捉えていた。
「心配いりません、何もしません、私を信じて」
 レスターの鼓動が早くなっているのが感じ取れた。
 緊張しているのだ。
 ルカは少しでも彼を落ち着かせようと、彼の手を自分の小さな手で包み握り締めた。
 ケリンは傍目にはゆっくりした動作で、だがすばやく確実に装置をセットしていった。
「では、電流を流します」
 感じるか感じないかの微弱な電流。
 ケリンの手元のモニターに映像が映った。
 真っ白な壁。丈夫そうなベルトでトランクス姿の肉体が椅子に括り付けられている。両腕は肘掛の上。やはりこれもベルトでしっかり押さえつけられていた。
 おそらくこれはレスターが自分の体を見ている時の映像だ。
「何だ、これ?」と、ハルガンがモニターを覗き込んで言う。
「レスターの過去。否、今彼の心の中(頭の中)に浮かんでいる映像だ」
 洗脳をされている時の映像か?
 静寂な中、命令的な口調だけが頭上から降り注がれる。
 レスターはそれに抗うかのように、ベルトで押さえられている腕を爪が食い込むほど強く握り締めていた。
「ケリン、何か映りましたか?」
 ルカがそう問いかけた瞬間、一瞬ルカの気が緩んだのか、レスターが抵抗し始めた。ルカは全身に力を込め、レスターの腰に手を回し、柔らかく抱え込むように押さえた。
「レスター、惑星を見てくれ」
 ケリンはレスターの意識を惑星に集中するように仕向ける。
「殿下の見たいのは、今目の前に広がっている空域だ」
 レスターの動きが止まった。
 拷問のような部屋が消える。次にモニターに映ったのは、今レスターを必死で押さえ込んでいるルカの姿。レスターは優しくその朱赤の髪に手を乗せる。そしてその次の瞬間、ほんの一瞬だったが矢車草の花畑、ルカによく似た少女。
 その間にレスターは落ち着きを取り戻したようだ。次に映ったのは、スクリーンと同じ暗黒の空域。
「ただの真っ黒じゃないか」と言うハルガンの言葉を、ケリンは静かにと言って遮った。
 レスターが目の前の空域を見始めたのだ。
 モニターをよく見ると何かが映り始めた。
 レスターが空域に集中し始めた。真っ暗なスクリーンを睨めているが彼の目はスクリーンの遥かかなたに焦点が合わされているようだ。
 ルカが抱え込んでいた手を離す。だがレスターが暴れることはなかった。レスターはじっとスクリーンを睨めたきり動かない。
「殿下、映りましたよ、惑星が」
「スクリーンに映し出してください」
「しかし」
「大丈夫です。レスターはスクリーンを見ていません」
「了解」と言うと、ケリンはモニターの画像をスクリーンへ映し出した。
 次第にはっきりとしてくる暗黒惑星。これが、レスターが見ているもの。
 まさにコンペイトウのように突起のある惑星。その惑星の周りをオーロラのようなベールが幾重にも覆っている。そしてそのベールはあわやと言うほどこの船の間近まで伸びていた。
「危なかったな、後百キロも行ってちゃ、砕けていた」
 百キロなど、ちょっと加速すれば一瞬だ。
「それでレスターが慌ててここへ来たのですね」
「自動偵察艇は、このベールを掻い潜りあんな奥までいったのですか」
 惑星の画像を眼の辺りにし、それが奇跡に近かったことを今更ながらに知る。だが行けないこともない。場所によっては一個艦隊がゆうに通れる広さがある。
「もう一度、自動偵察艇を飛ばしてみましょう。今度はレスターに操縦してもらうのです」
 レスターは戦闘のためのあらゆる訓練を受けてきていた。兵器の操作だけではなく船の操縦も。いざとなれば全て一人でやらなければならない。爆弾をセットし、そのまま敵陣へ突っ込む。それは宇宙船の時もあれば地上カーの時もある。命令された時が実行するときだ。ハルガンもそれは知っていた。参謀本部にいた時、人間魚雷を専門に扱う部門があった。自動操縦も遠隔操作も使えないときのみ彼らを使う。
 レスターの前にコンソールが置かれる。
「船の操縦は知っていますよね、否、感覚としてはプラモの操縦と同じ」
 レスターは苦笑すると、
「馬鹿にしないでくれ。そこにいるボイ人よりは遥かにうまい」と、今この船を操縦しているボイ人を顎で指した。
 レスターの気が一瞬緩んだせいか、スクリーンの中の惑星は消え暗黒の空域だけが映し出されている。
「ではもう一度気持ちをあの空域に集中させて、この小型偵察艇をあのベールの間を潜らせて帰艦させてみてください。失敗してもかまいません。出来るかどうか試みたいのです」
 レスターはまた苦笑した。そんなに俺の腕が信じられないのかと。まあ、百聞は一見にしかずだと、レスターは思い、コクソールのパネルに手を乗せ偵察艇を操作し始めた。
 ベールを掻い潜り中へ中へと入って行く。
「まるで女性の下着の中に手を入れるようなものだな。下手に触れるものなら手痛い平手が待っている」
「ハルガンさん」と、子供の前でのハルガンのその例えをキネラオは注意する。
 ベールは風にでもなびくかのようにゆっくりと形を変える。その間をレスターはうまく偵察艇を操縦した。
 何時の間にかスクリーンが二分割されている。
「左が、レスターが見ているもの。そして右が偵察艇のカメラが捕らえているものです」
 そこには何も映し出されていない。ただ黒い空域が映し出されているだけ。
「もし我々が船を動かすとなると、こういう状態で操縦することになります」
 ベールを避けろと言ったところで、そのベールがどこにあるのか見えない。
「そういうことになりますね」と、ルカも考え込む。
「どのぐらい行きましたか?」
「四千ぐらいですか」と、リケンは透かさず答えた。
 ハルガンはレスターの操縦を見て、かなりのテクニックだと感心していた。
 ベールも偵察艇も、まるでスロウモーショのように見える。空域の広さがそうさせるのか。否、空域の広さもさることながら、レスターの流れるような操縦テクニック。まるで女性の曲線美を愛撫するかのように偵察艇は曲線を描く。その優雅さが本来のスピード感を麻痺させている。ベールの動きも偵察艇のスピードも決して遅くない。例えて言うなら、飛んで来る弾丸をこちらも弾丸に乗って避けているようなものだ。否、それでも例えは遅い。一瞬目を瞬いた間に数千キロと飛んでしまう。その中でのこの回避。殺人兵器として訓練されたレスターだからこそ出来る技。訓練途中で死ぬ者もかなりの数だと聞いた。その中を生き残り、尚且つ逃走までしてきたと言うのだから何に関してもかなりの腕のはずだ。敵に回すと一番怖いのは、この男なのかもしれない。
 改めてレスターの存在を意識したハルガンだった。
「戻れますか? 出来れば別のルートを使って」
 ルカは相変わらずそれを知ってか知らずか、レスターに気さくに声をかける。
「ああ」と、レスターは答えると、偵察艇を右の方に旋回させた。
 偵察艇は同じような感じに飛んで戻って来た。ただ今度見えたのは黒い惑星ではなく、この船。そしてこの船は偵察艇が近づくに連れ偵察艇のカメラも捕らえたようだ。右のスクリーンにもこの船の姿が映り始めた。
 レスターが思念で見ているのに対し、偵察艇の方は三次元のカメラで見ている。二つのスクリーンに映し出されているこの船の大きさや形は微妙に違ったが、この船であることには間違いなかった。
「ハッチを開けてください。回収します」
 偵察艇が回収されると、
「レスター、ありがとう」とルカは言って、自らの手でレスターに取り付けられてある装置を取り外しにかかった。
 ルカが背後に周っても何も言わない。だがルカ以外の者が少しでも背後に周るとレスターは嫌な顔をする。
「偵察艇のデーターを分析してみますか」と言うケリンの提案に、
「おそらく何も映っていないでしょう」と、ルカ。
 見えないものを避ける術はない。
 ルカは親指の爪を噛み考え込んだ。
 利用できないこともない。だが余りにも危険だ。
「これからどうしますか」と、操縦士が尋ねる。
 目的地点は全て探索した。
「そうですね、とりあえずこの星域図に沿って外周を一周してみてください。レスター、危険なようでしたら教えてやってください。その後、別なルートで帰艦します」
 その間レスターはじっと暗黒惑星を見ていた。
 ルカも暫しレスターの横で一緒に暗黒の空域を眺めていたが、ボイ星が近づくにつれ、
「殿下、船の中で少し休まれませんと、ボイ星へ着くと休みがとれませんよ」と、キネラオとホルが忠告してきた。
 ルカはその忠告に従い、少し横になることにした。とりあえず少し頭を休めてから、もう一度考えなおそうと。


 案の定、ボイ星へ着くと、シナカと惑星探検の話をする暇も無く会議が開かれた。
 ルカはハルガンに小惑星帯での戦闘の立案、ケリンに偵察艇のデーターの分析を依頼すると、さっそくキネラオたちと会議に出席した。
「お忙しいことだ」と、ハルガンはルカの後姿を見ながら言う。
 戦闘の立案は既に船が帰還するまでに船内で作ってしまった。こう言う事はハルガンの得意中の得意。
 一方ケリンの方は、
「データーの分析と言われてもな」と、ケリンはレスターを見る。
 案の定、何も映っていなかった。せいぜい解かるのは偵察艇の軌道だけ。
 あらゆる装置で探索させていたのだがどの装置にもそれらしき反応はない。ただ、電磁波だけがかろうじて何かを捕らえているのだが、役に立ちそうにはない。
「幽霊の分析をしたところでな」
 クリスがお茶を入れてきた。
「少し、休むか」とハルガンがソファに腰を下ろすと、さっそくレスターはこの場を去ろうとした。
「おい、少し待てよ、話がある」
「俺は、ない」
 ハルガンはその言葉を無視して、
「あの少女は誰だ?」
「少女?」と、レスターは振り向く。
「矢車草の中の」
 レスターは嫌な顔をすると、
「知らない」と答えた。
「ルカに似てたな、色が白く線が細いところなど」
「奴は、男だ」
「それもそうだ」と、ハルガンは顎を撫でながら、
「だが女装させれば」
 リクスは何の話だろうときょとんとしている。
「俺にはそういう趣味はない」
 ケリンが笑った。
「おそらく奴等が俺を洗脳するのに利用した映像だろう」
 だが不思議とあの少女が現われると心が落ち着く。
「好きなのか?」
 こいつに女がいないのが不思議に思っていたが、なるほど幻を追いかけているのなら話もわかる。
「彼女には、男がいる」
「はっ?」
 思わずハルガンは素っ頓狂な声を出してしまった。
「それでも好きなのか」と、笑う。
 レスターの弱みを握ったような気がした。
「お前と同じだろう、夫がいてもその女が好きなら」
「同じではないと思う」と言ったのはケリン。
「あなたの場合は純粋だが、曹長の場合は不純ですから」
 これにはクリスも笑った。
 ハルガンはむっとした顔をクリスに向けながらもケリンに抗議する。
「それ、どういう意味だ。俺はいつでも女を口説くときは純粋だ」
 ケリンはやれやれと言う顔をすると、
「それが不純だと言っているのですよ」
「よっ、洗脳するために刷り込んだ映像だと言ったな」
「ああ、彼女を好きになるように仕向け、弱みを握らせておけば支配しやすい。お前も今そう思っただろう、俺の弱みを握ったと」
 そう言われてハルガンは何も答えられなかった。確かに。
「そこまで知ってて、その映像をそのままにしておくのですか。解除する気はないのですか」
 解除する気なら手伝おうとケリンは言う気だったのだが、
「解除する気はない。彼女がいるから俺は人でいられる」
 今では自由に呼び出せるようになった映像。奴等に支配はさせない。
「今の話は誰にも言うな、言ったら殺す」
「だそうだ、クリス」と、ハルガンはクリスに念を押すように言う。
「殿下にでもですか」と、クリスは怯えるように言う。
「当然だ」
「お前、口が軽いからな」
「私がですか?」
 心外だと言う顔をするクリスに、
「お前さえ黙っていれば、今頃殿下はこの偽者と摩り替わっていたのに」と、ケイトを指しながら言う。
「別に私はバラしてはいません」
「本物が声をかけてきた時に返事をすれば、そいつが本物だと言っているようなものだろうが」
 ハルガンはまだあの時のことを根に持っているようだ。
「あれは、あまりにもタイミングが良すぎたものですから」
「少しは考えてから行動しろ」
 そうこうしているうちに、何時の間にかレスターはいなくなっていた。
「お茶が一つ余ったな」
 ハルガンはお茶をすすると、
「さて、俺も行って少し新人を鍛えてやるかな」
 ハルガンが元レジスタンスだった者たちに厳しいのは有名だ。ここら辺もまだ根に持っているのかもしれない。
「曹長、あまり差別しない方がいいと思うが」
「俺がレジスタンスどもに厳しいってか。俺は親切心からやっているんだぜ。奴等が生き残れるようにな」
 ほんとかよ、この時とばかりに日ごろのうっぷんを晴らしているのではなか。とケリンは思ったが口にはしなかった。
「ケリン、奴が戻って来たら、これを見せてやってくれ」と、ハルガンはケースに収めたチップをケリンに投げ渡した。
 作戦立案書のようだ。
「何か、文句あるかってな」
「畏まりました、曹長」と、ケリンはそれを受け取ると敬礼した。


 レスターは矢車草の前に立っていた。
 殿下が好きな花も矢車草。そして彼女が好きな花も。
 レスターは苦笑する。
 もっとも殿下の場合は好きになるように仕向けられたようだが、俺のように。


 会議は喧々諤々と続いた。
「ですから」
「まだ、和解などと言っているのか」
 ルカは黙って聞いていた。


 ルカは邸に戻ると、どっと疲れたようにソファに座り込む。
「ネルガルのお茶でも入れましょうか」と、シナカ。
「あなたも、疲れてはおりませんか」
 進展のない会議。
 いい加減腹を据えてもらわないと。ネルガルの目的は明らかなのに。
 シナカの代わりにケイトがネルガルのお茶を入れて持って来た。ルカの嗜好は充分承知のうえで。
「ありがとう」と言うと、懐かしいその香りに誘われルカは直ぐに手を出した。
「おいしいですよ、シナカもどうですか」
「シナカ様には少し甘めに入れてみました。本来ネルガルのお茶はこの味なのです。殿下は少し辛党なのかもしれませんね」
 二人が暫しお茶を楽しんで休んでいるところに、ケリンがやって来た。
「殿下、お疲れのところ申し訳ありませんが、これを曹長から」と、先程のチップを差し出す。
「それに伝言ですが、何か文句あるか。とのことです」
「わかった」と、ルカは苦笑する。
「ところであなたの方は?」
「私の方は駄目です。船の軌道ぐらいしか読み取れませんでした」
「そうか。せめてあのベールの動きが算定できれば、四次元のものでも規則性はあると思うのですが」
「それにはレスターの力を借りなければなりません。何しろ我々には見えないのですから」
「では、また行って」
「その必要はないようです。レスターはここに居ても、あの惑星の動きははっきり捉えることができるようです」
「そうですか」
 ルカはさっそく卓上のモニターを起動させると、ハルガンの立案書に一通り目を通した。
「まあ、こんなところでしょう」
 正攻法だ。一番勝つ確率は高い。だがこれには条件がある。それはこちらの兵士が敵の兵士と互角か、若しくはそれに近い経験を積んでいることだ。一度も戦ったことのない兵士を前提にはしていない。
 ルカはソファの上で横になった。
 これでどこまで行けるのか。戦うということ自体が間違いなのか。戦わずに属国になった方がボイ人のためだろうか。だが属国になれば奴隷にも等しい。せめて同盟国ならこちらの自治権も認められる。一勝して、同盟国としての権利を交渉に持ち出す。それが一番よい方法だと思ったのだが、それにはどうしても勝たなければならない。
「ベッドで休まれたら」とシナカが心配そうに声をかける。
 ルカはくるりと起きると、
「少し考え事をしていたのです、心配には及びません。それより、レスターは船の操縦が上手なのですね」
「殿下が見くびったような言い方をされるもので、憤慨していましたよ」
「それは悪いことをしました。あんなに上手だとは思いもよりませんでしたから、今度シナカと二人で旅行するときは、彼に操縦してもらいましょう」
「それは、かわいそうだわ。彼、まだ独身でしょ」
「その心配はいりませんよ」と透かさず言ったのはケリン。
「彼には、彼女がいるのです」と言ってから、周囲を窺いながら慌てて口を押さえたが、レスターの姿が見当たらないので安心する。
「レスターに、彼女がいるのですか! その方は、どのような人なのですか」と、ルカは驚いたように訊く。
「あら、そんなに驚くことないわ。レスターさんに彼女がいたって、少しもおかしくないもの。意外に女の人って、ああいうクールな人好きよね、ルイ」
 これはルイがレスターに気があるのを見越してのシナカの誘いだった。
 ルイは恥ずかしそうに俯いて、
「そうですよね」と答える。
「わからないな、女心とは。私は怖くて仲間でもなければ近づきたいとも思いませんが」と言ったのはケリン。
 それでケリンは思い出したように、
「このこと、レスターには内緒にしておいてください。私がバラしたなどと知れたら」
「そこまで話のですから、どのような女性なのかまで話してくださいよ」
「そうよ、途中で話の腰を折られたら、気になるではありませんか」と、ケリンはルカとシナカに責められ困った顔をし、
「そんな、話したら殺されますよ」
 その時、背後から、
「女などいない」
 余りの鋭さに、皆が首を引っ込めた。
 恐る恐る声の方へ振り向く。
 そこにレスターが立っていた。
 レスターがゆっくり近づいて来る。ケリンは警戒しながら、これまたゆっくり後ずさりする。
「ワームホールが開く」
 それが意味するところは、待望の艦隊が来るということだ。
 ケリンは慌てて卓上のパネルを操作する。
 確かに時空の計算からいって、後一時間後。
 どうやらレスターはワームホールの開閉も、感覚的に捕らえることが出来るようだ。
 言うなればあれも四次元の産物。
「こうしては居られませんね、明日にはボイの軌道に達します」
 艦船の保管場所を。一応決めてはいるものの。もう一度キネラオさんたちと確認しておく方がよいと思った。
 ルカは部屋から飛び出す前にヘスターに言う。
「ここからでもあの暗黒惑星の動きがわかるそうですね、ケリンに協力して、あの惑星の軌道を算出してください。特にあのベールの動きを。そんなに奥まででなくともいいですから、この間入ったあたりまで」
 ハルガンの言葉を借りれば、女性のスリップを掠る程度。
 どうしてもルカはあの空域を利用したいようだ。
 そう言うとルカは部屋を飛び出して言った。
「やれやれ、忙しい人だ」


 そして約束の日、オーリンは一個艦隊を率いてルカの前に現れた。
 オーリンはルカ以外を交渉相手にする気はないらしい。ボイの議会からの申し出ははっきり断っている。
「私はルカ殿下に私の艦隊をお貸しするのです」と言って。
 ルカは少し困った顔をしながらも、議会の意向も受け入れルカを中心にいつものメンバー、リンネルにハルガン、レイ。宰相の三人の息子、キネラオとホルヘとサミラン、外務部のウンコクとズイケイ、治安部隊、正確には災害救助隊の総隊長キショウの十人。オーリンの方も今回は副司令官、参謀を始め十人で望んできた。護衛も兼ねているようだ。
 船の操縦は既にシミュレーショでは繰り返しおこなっているのだが、何しろ船の数が少ない上に速度が遅いときている。実践ともなるとほとんどの者が経験していないありさまだ。
「まずは、この艦隊を使って船の操縦と艦隊移動を徹底的に訓練いたしましょう。我々も協力いたします。それが済んだら最低限の人数を残し、我々は引き上げたいと思っております」
 あくまでもこれはボイとネルガルの戦い、地下組織は関係ないという立場だ。
「残る者は整備士が若干と、それぞれの部署の専門家が若干です」
 いざ困った時に相談が出来るようにとの配慮のようだ。
「私は残ります。あなたの船に同船させて下さい、客分将校として」
「命の保障は出来かねますが」と言うルカに対し、
「結構です」とオーリンは答えた。
 金額的な要求は一切なかった。どうやらそちらはハルメンス公爵の方から出ているようだ。優に三個艦隊を買える財力、否、惑星の一つや二つ、彼にとっては女性に贈る指輪のようなものなのだろう。たいした金額ではない。
 話が付くとルカたちはその足でいつも会議が行われる広間の方へ向かった。そこには既に各コロニーの代表者たちが集まっていた。ルカはそこで先程話し合われた結果を報告する。


 一方ケリンとレスターは、暗黒惑星の動きをシミュレーションしていた。
「こんなものですか」
「そうだな、波と同じだ。特別変わったことがない限り振幅の大小はあるが、そんなところだろう」
「その誤差をどのぐらいにするかが問題だな」
 後は任せる。と言う感じのレスターの態度。
 レスターはずっと惑星に気を集中させていて疲れたのか、彼には珍しく人前で横になった。
「少し寝る」
 ルイが気を利かせて肌がけを持って来てかけてやる。
 するとレスターは慌てて飛び起きると、
「なっ、何するんだ」と、怒鳴る。
 ルイはたじろぎながらも、
「お腹が冷えるかと思いまして」
「余計なことをするな」と、レスターはその肌がけをルイに突き返す。
「熟睡したら、どうする」
「どうせ寝るんだ、熟睡した方がいいだろ」と言うケリンに、
「俺は、お前を信用していないからな」
 ケリンは苦笑した。
 それでもレスターはうとうとしたのか、意識の中に変なものを捕らえた。
『やっとタャンネルが合いましたね』
『貴様は誰だ?』
『君こそ、この星にイシュタル人がいるとは思いも寄りませんでした』
『イシュタル人? 俺はネルガル人だ』
『ネルガル人、本当にネルガル人なのですか!』
 こんど答えたのは先程とは別の人物のようだ。どうやら相手は二人。
『おれがネルガル人であることが、そんなに不思議か。貴様らこそ何者だ』
 それには二人とも答えてこなかった。その代わり、
『お会いしたいのですが、今から伺ってもよろしいですか』
『俺が何処にいるのか知っているのか』
『ええ、殿下の邸の居間のソファの上』
 レスターは慌てて飛び起きた。
「どうしたんだ、レスター」
 慌てて庭の方へ行き様子を伺うが、誰もいる気配はない。
「どうしたんだ?」
「俺、どのぐらい寝てた?」
「寝ていたというほどのものじゃないと思うが」
「俺が寝ている間に、誰か来たか?」
「いや」
 夢か。と思った瞬間、
『夢ではありませんよ』と先程の声。
 レスターはもう一度庭を眺めた。
「どうしたのです、レスターさん」と、シナカも心配そうに。
「いや、何でもない」
 そうこうしているうちにルカたちが戻ってきた。
「どうでした、商談の方は」と、ケリン。
「お金は、一銭も請求されませんでしたよ」
「それは、随分高そうですね。何が目的ですか」
「さあ、これからその請求をしてくるのではありませんか」
 ここら辺のやりとりは、シナカたちボイ人には理解しがたい。
「ただがどうしてそんなに高いのですか。感謝こそすれ、そんな言い方はないと思いますが」
「そうですね、ボイ人相手ならそれでいいのですが、ネルガル人相手ではそうもいかないのです」
『殿下もお見えになられたようですね、今からそちらへ伺いたいのですが』
 ボイ人がいくら平和ボケしているとは言え、ここは国王の邸だ。出入りするにはそれなりの許可が必要。そんな自由勝手に。
「どうやって」
 レスターは思わず声にしていた。
「どうしたのですか」と言うルカの声と、
『テレポート』と言う思念が重なる。
 レスターはルカを見下ろした。そして、
「イシュタル人が殿下に会いたいそうだ」
「イシュタル人が?」
 レスターは頷く。
 ルカは願ってもないと思った。以前から会いたいと思っていたのだから。だがここ暫くは駄目だろう。ゆっくり話をする暇がない。でも日時だけでも約束できれば、
「何時?」
「今」
「外にいるのですか?」
「いいえ」
「では、何処に?」
「来る」と言うレスターの言葉と同時に、
「ここです」と言う声。
 部屋の片隅に二人の人影が現われた。
 テレポーテーション。
 ルカを始め部屋にいた者たちは唖然としてその二人を見詰める。
「始めまして」と、二人のうちの一人が気安く挨拶した。
「いいや、正確には一部の人たちとはこれで二度目ですか」
 そう言われれば見覚えがある。確かオーリンの背後に控えていた参謀の
「エームズさんとバードンさんですよね。ネルガル人ではなかったのですか」
 彼らはネルガル人の平民の服装をしていた。
 地下組織は軍服を持っていない。いざという時に平民に紛れ込むため、あえて軍服を着用しない。
「ネルガル人で通すつもりでしたが、バードンが少しドジりましたから」
「ドジる?」
「彼に正体をバラしてしまったのですよ」と、エームズはレスターを指し示した。
「まさかこれ程のアクセスが出来る人物が、ネルガル人だとは思いも寄らなかったからな、迂闊だった」
「彼が知った以上、あなたに知れるのは時間の問題でしょうから、それならいっそ、こちらからお話しようと思いまして」
「何時、知り合ったのですか」と、ルカがレスターに訊く。
「十分ぐらい前ですか」と答えたのもやはりエームズだった。
「いえ、本当はそれよりかなり前に私たちの方は気づいておりましたが、なかなか思念の波長が合わず、お話ができなかったのですが」
「気づいていたって?」
「座ってもよろしいですか」
「あっ、どうぞ」と、ルカは慌ててソファを勧める。
「ルイさん、お茶を用意してくれますか」
 ルイも慌てたように、
「すいません、気づきませんで」
 急いでお茶を用意しに出て行こうとすると、その時、
「ルイさんですか、申し訳ありませんが、私達のことはここの人たち以外には内密にしていただけますか」と、エームズ。
「ネルガル人と言うことになっておりますので」
 ルイは頷きキッチンへと急ぐ。
 エームズは改まってルカの方を向くと、
「どこまでお話しましたか?」と訊く。
「彼を何処で見かけたかと言うところまでです」
「あれを見かけたと言うのでしょうか。思念です。この星へ来た時、おもしろいものを見つけましたのでその散策をしておりましたら、やはり同じものを懸命に散策している者がおりまして、何度か声をかけたのですが気づいてももらえず」
「つまりそれは、あの暗黒惑星のことか」と、ケリン。
 ケリンと二人であの惑星の形を捉えようと必死だった。
 二人のイシュタル人はケリンを見てからルカに視線を移し、
「殿下、よろしかったら紹介していただけますか」と、部屋の中の人々を指し示す。
 ルカは以前ハルメンス公爵の館での話を思い出し、
「紹介してもよろしいのですが、あなた方には名前がないと聞きましたが」
 二人のイシュタル人はにっこりして、
「よくご存知ですね。ですが今回は私達はネルガル人と言うことなので、私にも彼にもネルガル人らしい名前がきちんと付いております。それが通り名ということで」
「名前がないって、どういうことなの?」とシナカが怪訝そうに訊く。
「彼らはその場その場であだ名を名前にしているのです。ですから人によっては三つも四つも名前があるそうです」
「それどころか、十も二十もありますよ。場所場所によって呼ばれ方が違うのです」
「それって、不自由ではありません?」
「別に、そう思ったことはありませんが」
 名前は違っても魂は一つ。思念で会話をするのに固有名詞はいらない。どんなに大勢いても自分が会話したい相手にしかその思念は届かないのだから。
「そうですか」
 シナカは合点がいかないような答え方をした。同じ人物を別な人は別な名前で呼ぶのよね。それってやっぱり混乱するわよね。
 それからルカはケリンとシナカを紹介した後、
「私に何か御用ですか」と尋ねる。
「用がおありなのは、そちらの方ではないかと思いまして」
「私が?」
「その星域図ですが、見えないのにそこまで描けるとは素晴らしいと思いますが、危険だとは思いませんか。それよりもは見える者に先導してもらったほうが」
「つまり、あなた方もあの惑星が見えるということですか」
 もっとも見えるからこそ、散策していたのだろう。
「しかしこのモニターの幕がその惑星のベールの動きだとよくわかりましたね」
 ケリンは突然の部外者の出現に、モニターを消すことすら忘れていた。それ程この二人の現われ方は唐突だった。
「戦場にするおつもりですか」
「あれは三次元で言えば波のようなものです。普段は穏やかでも時として大きな波が来るように、あの幕の動きも大きくぶれることがあります。特に多くの魂が集まれば、魂も四次元の存在ですから、あの惑星に作用します」
 ルカはじっと二人を見詰め、
「つまり、協力してくださると」
「船をお貸しする以上、あなた方に勝っていただきたいと思うのは人情」
 ルカは微かに笑みを浮かべると、
「それだけではないと思いますが」
「他にまだ何かあると?」
「違いますか」
 少なくとも人情で動くネルガル人はいない。お人よしなボイ人ならともかく、打算のない親切心などありえない。ではイシュタル人は?
 エームズとバードンは顔を見合わせると、
「イシュタル人の解放です」と、どちらともなく言う。
 イシユタル人は郷に入れば郷に従え主義。もめるに値しない議題なら相手が一番納得する考え方を採用する。例えそれが自分の主義ではなくとも。
「あなたがネルガルの次期皇帝だと聞きましたから、ここで恩を売っておくのもよいかと思いまして」
「誰が、そんなことを!」
 ルカは驚いたように言う。
 さすがにこれにはハルガンたちも驚いた。まあ、そうなるのがネルガルには一番よいのではないかと思ってはいたが、公言したことはない。
「もっぱらの噂ですよ」
「見ての通り、私はボイの王子ですよ、どうやればネルガルの皇帝になれるのですか」
 馬鹿馬鹿しいという感じにルカは言う。
「あなたをボイの王子にしたのもネルガル人。なら、ネルガルの皇帝にも出来ないこともないでしょう」
 ルカはむっとした顔をすると、
「ネルガルの次期皇帝はジェラルド様です」
 ここがハルガンには理解できない。何を根拠に、ルカは奴をこれほど高く買うのか。
「ジェラルド?」
 二人のイシュタル人は初耳だという顔をする。
「私達は、ネルロス王子とアトリス王子、エリック王子の三つ巴だと思っておりましたが。でもおそらくどなたも勝たないでじょう。その時こそが地下組織の好機なのですから。そしてあなたが皇帝に」
「地下組織は一枚岩ではありません。地下組織が勝利すれば、王位争奪戦以上の内乱になります」
 そうなったらネルガルは。
「それこそが私達の狙いなのです。ある程度、知識階級で殺しあってくれれば残るは一般平民です。彼らはそもそもそんなに権勢欲があるわけではないのですから、もっと穏やかな思想を教育すれば、もう少しましなネルガル人になると思います」と、イシュタル人たちは悪ぶれた風もなく言う。
「このこと、オーリンさんはご存知なのですか」
「私達のことですか、知りません。私達がイシュタル人だと知れば、今頃殺すか奴隷にするか、しているでしょうから」
 今までの話の流れを聞いていたシナカは、
「ネルガルはごしゃごしゃですね」と、感想を述べる。
「ですから、もう少しボイ人が我慢してくれれば、ネルガルはボイ星になどかまけていられなくなったのです」
 ルカはじっと耐えてそれを待つつもりだった。
「これが、欲張りすぎた成れの果てです。天はその人が生活できるだけのものは、生れた時に与えてくれているのです。それ以上のものを欲しなければ、災いを招くことはないのです」
 仕事をするための肉体とその空間。天は気まぐれだから時には災害を起こすこともある。それでも皆が助け合えば。
 これがルカの考えだった。ボイ星はこれに近い。だからルカはこの星が好きだ。
 イシュタル人は感心したような顔をすると、
「ネルガル人にもイシュタル人と同じような考えを持つ方がおられるのですね」
「ネルガル人にしておくには、もったいないな」
「イシュタル人もネルガル人も、数万年前は同じネルガルの住人でした」
「よくご存知ですね」
「古い文献で調べました」
「そうですか。てっきり私は、あなたには前世の記憶があるのかと思いました」
「ネルガルは、転生を認めておりませんから」
「その思想が間違いなのです。そのためにせっかくある能力が使いこなせない。彼なんか特にそうですよ、もったいないですね。どうです、イシュタルに来ませんか、そうすれば」
「断る」と、レスターは相手に二の句をつかせないほどの鋭さで言う。
 エームズはやれやれと肩をすぼめた。
「あっ、思い出した。ジェラルドって、あの魂のきれいな人だ」と、いきなりバードンが話し出す。
「でも、あなたよりは落ちますが」とルカを示して言った後、
「でもネルガル人って、ああいう魂のきれいな人を嫌うから、暗殺されなければよいが。ひとりではかわいそうだ。その点あなたはいいですね。これだけの人たちに守られている。あなたには魂が見えないようですが、少なくともこの部屋にいる人たちの魂はかなりのものですよ。私達ですら敵わないぐらい。否、これは失礼。比べるのも愚かだ。特にあなたとあなた」と、ホルヘとシナカを指し示して言う。
「あなた方に追いつくには、後千年は修行しなければならないかな。あなたに至っては」と、今度はルカを指し示し、
「後どのぐらい修行すればあなたに追いつくのか、見当もつかない。そこに居るあなたですら」と、今度はハルガンを指し示し、
「高貴な魂を持っている。やはり類は友を呼ぶものなのでしょうか」
 バードンがそう言った時、ケリンは思わず吹き出してしまった。
「曹長の魂が高貴なら、この世に腐った魂の持ち主はいなくなりますよ」
 その言葉に皆は笑いを堪えた。
「いいのですか、あのようなことを部下に言わせておいて」
 ネルガルは階級制。もともとは平等主義だったのだが、金にものを言わせ貴族が出来、力にものを言わせ王が出来た。そしてそれを統一したのが皇帝。
「構わん、ここには部下はいないからな。皆、仲間だ」
 これがルカの考え。
「その考え、まるでイシュタル人のようですね」
「あなた方の目には、何が見えるのですか」
「あなたが見ているものと同じものですよ。あなたも漠然と感じているはずです」
「強いて言えば魂、四次元の物質ですか、あなた方の言葉を借りれば幽霊。もっともこれは、見えると言うより感じると言うべきでしょうか」
 レスターと同じようなことを言う。
「魂ですか」
「そもそも魂は三次元の物質ではありませんから色も形もないのです。みんな同じ。違うのは器なのです。ネルガル人と言う器に宿るか、イシュタル人と言う器に宿るか、はたまたボイ人と言う器に宿るか、あるいは犬、猫、ゴキブリ、植物、岩石、どれに宿っても同じです。宿ることによってこの狭い三次元に出現できるのです。違うのは器、でも三次元しか見ようとしないあなた方は、その器の違にこだわるのです。そして肝心なものを見落とす」
「少し待ってくれないか」と、エームズの話を止めたのはケリンだった。
「魂は三次元の物質ではないから色も形もない、皆同じだと、今お前は言ったな。だがさっき、殿下の魂とホルヘの魂とハルガンの魂は違うと言った。矛盾していないか」
 エームズは難しそうな顔をすると、
「これは実際感じない人に説明するのは大変難しいのですが、言ってみれば輝きとでも言うのでしょうか。星に例えれば、殿下が超新星ならホルヘさんとシナカさんは恒星、ハルガンさんは惑星であなたや私たちは衛星と言うところですか」
 レスターが笑った。
「的を射ていますか」と、エームズはレスターに訊く。
「他に、例えようがないだろうな」
 初めてレスターが好意的な意見を述べた。
 エームズは少し時間を気にするような素振りを見せると、
「随分、話がそれてしまいました」
 本来彼らがここへ来た目的は。
「私達の提案ですが、いかがなさいます?」
 ルカは親指の爪を噛みながら暫し考える。
 地下組織は私達に何処まで加担してくれるのだろうか、そしてその代償は。否、この二人は地下組織とはまた別なのかもしれない。
「協力してくださるのでしたら、お願いできますか」
「殿下!」と言ったのは、ハルガンとケリンだった。
 こんな胡散臭い奴等。
「あのベールが見えるのなら、これ程有利な戦況はない。ケリンに算定させましたが、やはり盲目で飛ぶには余りにも危険です。戦って破れるのでしたらともかくも操縦ミスだなんて、仲間にこのような危険を強いるわけにはいきません」
「初対面の人物を、そこまで信用して」と、ハルガンは警戒する。
「途中で案内を拒否されたら」と、ケリン。
 それこそあの魔のベールの中に置き去りにされるようなものだ。
「この二人はテレポートで何処へでも移動できるだろうが、我々は」
「その心配はいりません。先程も言ったように私達は彼に恩を売っておきたいのです。後々のイシュタルのために」
 ルカは二人のイシュタル人を真っ向からしっかりと見詰め、
「一つ言っておきたい事があります。私はネルガルの皇帝になる気はありません。よってイシュタル人の解放は出来かねます」
「では、ネルガルが内乱を起こした場合、ボイ星は地下組織を支援してくだされば」
「それも、出来かねます」と、ルカは答えた。
「ボイの国王は世襲ではありません、ボイの次期国王は、次はコロニー6から選出されることになっております。回り番だそうです。私はただのコロニー5の代表者に過ぎません」
「さようですか、では、代表者会議の時に、地下組織を支援するように進言してくだされば」
「そのぐらいなら出来るでしょうが、援軍を送るようなことはいたしかねます。私はボイの王子とは言えネルガル人ですから、母星の内乱を煽るようなことは、ましてそこにボイ人を巻き込むようなことは。ただしボイ星は宇宙船の燃料の宝庫ですから、極力それらをネルガル軍ではなく地下組織の方へまわすようにはいたしましょう」
「そうですね」
「でも、これもあくまで一代表者の進言ですから、決めるのは議会ですので」
「それで結構です」
 密約は決まった。
「それでは、オーリン司令官が呼んでおりますので」
 そう言うと二人は現われた時と同じように、一瞬にして姿を消した。
 部屋にいた者たちはあっけに取られた。二人が去った後は、まるで何もなかったような、今までのことが夢のような。
 リンネルは時計を見た。時間はいつもの通り正常に進んでいた。つまり彼らはヨウカ様とは別な存在。ヨウカ様なら現われた時から、どんなに会話していても時間はほぼ止まった状態。
「どうしたのですか、リンネル」
「いいえ、何でもありません。ただあの者達を信じてよいのかどうかと思いまして」
「俺もだ」と、言ったのはハルガン。
「ケリンのシミュレーションを完璧にしておきましょう、万が一のために。レスター、もう少し付き合ってくれますか」
 魔の空域の探索は疲れると見え、レスターは気だるそうだった。だがルカに頼まれては仕方ないという感じに動き出す。
 数日後、幾重にも重なるベールのほんの表側だけだが、完璧なベールの動きのシミュレーションが出来上がった。これを基に艦隊運動の練習にはいる。もう既にオーリンが船を持って来てくれた段階で練習には入っていたのだが、より早く正確に、でなければベールを避けられない。だがこのことは誰にも話していなかった。知っているのは一部の者、後の者たちには小惑星帯で戦闘をするので、小惑星を避ける練習だということになっている。
「まごまごしていると、小惑星にぶつかるぞ。敵の弾に当たる前に、隕石に当たって朽ちるな」
 これがハルガンたちの合言葉だった。

 そしてルカの部屋では内々の作戦会議が開かれていた。大きなスクリーンには魔の空域が映し出されている。
「布陣は、総攻撃の用を徹しているという感じに大々的に展開させます」
 もっとも本当に総攻撃なのだが、後にも先にもこれしか艦隊はない。
 艦隊の位置がスクリーンに映し出された。その背後に暗黒惑星。実際これは目では見えない。
「右翼をリンネル、左翼をレイに頼みます。そして中央は私」
 そこまで言った段階でマッタがかかった。
「俺は何処だ」とハルガン。
「あなたは小惑星帯でお願いします」
「俺を、予備隊にする気か」
「予備隊ではありません、最後の砦です。万が一私達の作戦が失敗した場合、小惑星帯で食い止めるしかありませんから。そしてキネラオさんとホルヘさんは好きな船に。レスター、あなたは私の船に、あの二人のイシュタル人はそれぞれリンネルとレイに付けます。小惑星帯の戦闘はハルガンに一任します」
 まるで総司令官になったかのようにルカが言う。
 誘引として展開するなら申し分のない布陣。適当に薄く広く、ここさえ突破すればボイ星は目と鼻の先だという感じ。俺だったら涎を垂らして飛び掛るぜ、素人的な布陣と喜んで。
 だが内心そう褒めつつもハルガンはじっとルカを見詰める。
「何か?」
 ルカは自分の作戦に何か落ち度があるのかと思い、ハルガンに訊く。
「お前、幾つだ?」
「九歳と」と、ルカが言いかけた時、
「ネルガルでは軍人と認めるのは十五歳からだぞ。ガキはひっこんでいろ!」
「ハルガン、私は少尉です。あなたより階級は上です」
「だから、何だ」
「上官の命令は聞くべきです」
「元服もしていないガキに、命令されたくないね」
 ハルガンとしては何も危険なところにルカを出したくはなかった。よって次第に言葉も荒くなる。
「ハルガン」
「これは、ガキの遊びじゃないんだ」
「私は遊びなどとは思ってもいません」
「ガキはおとなしく、母ちゃんのオッパイでもすすっていればいいんだ。奥方、こいつがしゃしゃり出ないように、よくベッドに括り付けておいてくれ」
 ルカは頭に来たように立ち上がる。
 そこに申し訳なさそうな声。
「あの、白熱した会話に水を差すようで大変言いにくいのですが」
 これを白熱した会話といえるかは疑問が残るところだが、クリスは二人の議論を大いに尊重した上で、
「その前の段階を考えた方がよろしいのでは。現在ボイの全権限をお持ちなのは奥方様のお父様ですし、仮に彼がその権限を誰かに委任したとしても、それはおそらく宰相のニキニタさんであらせられるでしょうし、もしそうでなくともその後それに相応しい大臣が続々おられます。殿下まで回るとは思えません。まして曹長は殿下の家臣にすぎませんから」
 水どころの騒ぎではなかった。まるで液体窒素でも注入れたかのように、白熱していた会話はいっきにその熱を失くした。
 静寂。
 その静寂を破ったのはレスターの笑い声だった。
 彼にしては珍しく、腹を抱えて、涙までこぼして笑っている。
「はっ、腹痛ってぇー」
 むっとしたハルガンは、彼の奥義、左足の靴をレスターめがけて投げつけた。だが投がって来た靴は一足だけではなかった。どちらも直球。一足は見事に交わしたものの、もう一足はもろにレスターの顔面に命中した。それはルカの靴だった。まさかルカまでもが、履いている靴を脱いで投げつけてくるとは思いもよらなかったのだろう、気が付いた時には手遅れだった。否、ルカのなら顔面で受けてもいいかと一瞬思ったのが隙を作ってしまったようだ。
「痛っー」と言ってレスターは顔を押さえる。
「オリガー、腹痛だそうです、下剤でも調合してやってください。ついでに顔にシップも」
 ルカの子供らしい高い声。
 シナカたちは、最初は呆気に取られ、次に笑いを堪え、ここに至って堪えきれずに笑い出してしまった。
「不思議ね」と、ルイはシナカに囁く。
「何が?」
「普段はとても怖い感じの人なのに、殿下がいるとまるで別人のよう」
 そう言われたレスターは、年頃の青年らしく必死に顔を気にしている。
「酷いですよ、殿下。鼻、潰れたら」
「整形すればいいだろう」と、あっさり言われてしまった。



 ここはネルガルの参謀会議室。ボイ星出撃の前に数名の幕僚たちが集まっていた。
「地下組織に不穏な動きだと」
「どうやら三箇所の星系に集結させておいた艦隊をボイへ送ったようです」
「数は?」
「一個艦隊ずつ、約三個艦隊でしょうか」
 地下組織が艦隊を終結させていることは既に捉えていた。それらをどうする気かと思っていたが、
「まさかそれをボイにくれてやるとはな」
 ネルガル軍としてはそれを阻止しようと思えば出来たのだが、それよりボイ人もろとも地下組織をかたづける絶好の機会と取った。
「こちらの数は?」
「六個艦隊です」
「倍か」
「ですが、ボイにも」
 艦隊はあると言いたかったのだが、
「奴等の船では、骨董品もいいところだ。数に入れる必要はない」
 ルカ王子を迎えに来た時の彼らの船、まだ動くのか。と言いたくなるような古さだった。あれではのこのこ出て来るだけ足手まといになるだけ。あれから改造したとしてもたかが知れているだろう。博物館に飾っておいたほうがよっぽど使い道がある。
「戦場はやはり、この小惑星帯でしょうか」
 巨大なスクリーンにはM6星系が映し出されていた。
「そうだろうな、ゲリラ戦は、キングス伯の得意技ですから」
「キングス伯が相手ですか」
 誰もが黙り込んでしまった。
「しかし彼はネルガル人ですよ、ボイ人の味方をするとは」
 到底思えない。
「変わり者ですからね、上官には盾突くし、何を考えているかわからない」
「ところでルカ王子は?」
「まだ生きておられるようです」
「葬儀まであげてしまった以上、死んでいてくれた方がありがたいのだが」
 今更ネルガルの国民の前に出られても困る。これはルカ王子の弔い合戦なのだから。
「その点はぬかりはありません。どさくさに紛れて亡き者にするよう指示しておきましたので」
「そうか。まだ幼いが、これも身分の低い王子に生れた宿命」
「ところで開戦は何時に?」
「今度ワームホールが開く時です」
「では、一週間後か」
 既に艦隊の準備は整っていた。
「いや、あれでは小さい。三週間後に巨大なワームホールが一本と、一個艦隊が通れるぐらいの小さなものが二本開きます。それをもって開戦の日とさせてもらいます」
「それではそれまで、兵士を十二分に休ませておくとしましょう」



 ボイでは連日の会議。ここへ来てやっと指導者たちの思考が戦争の準備を始めた。
 誰が総指揮を取るのかという段階で、やはりここは宰相のニキニタだろうと言うことになった。だがボイ人はここ数千年、戦争などしたことがない。争いごとをすれば湖が枯れてしまうからだ。今回も彼らがなかなか重い腰をあげなかったのには、この言い伝えがあるから。戦争に勝ったところで湖が枯れてしまっては元も子もない。
 湖は大丈夫なのだろうか。
 売られた喧嘩なのですよ、他にどうすることも出来ないのですから、買うしかありません。そこまで水神様はあなた方を見捨てるとは思えませんが。戦わなければ奴隷、戦って勝てば日干死だなんて。それでは神ではない。
 神は人が平和に生きていくための規律を守らせるために、人が考え出した手段。刑務所が肉体的な処罰に対し、神は精神的な処罰。そういう意味では竜神様の魔術はよく効いている。少なくともここ数千年、ボイではこれと言った争いはなかった。法律が時と場合によってどうにでも変えられるのと同じように、神の言葉も時と場合によってどうにでも変わる。だから神の言葉ほどいい加減なものはない。否、実際は神の言葉ではないのだろう。神が言っているように見せかけて言っている者の言葉なのだ。ある意味、神も被害者の一人。もしも神が本当に言葉を発すれば、この世で起きている全てのことに対し、俺はそんなこと一度も言ったことはない。と言うだろう。
 これがルカの考え。
 やはり実践的な戦闘になるとネルガル人に任せるしかなかった。それで宰相の助手ということでリンネルとハルガン。だがそれに関してはルカが譲らなかった。
「私の責任でこうなってしまったのです、最後まで私が責任を取ります」
 ハルガンたちが同席を求められた中、ルカは言い放った。
「ガキは、引っ込んでいろと言うのがわからないのか」と、ハルガンは代表者が集まる中で自分の主を怒鳴りつける。
 結局、国王が仲裁に入る羽目になった。
「ルカには勝つ自信があるのでしょう。ここはあなたの主を信じて」
「しかし」と、ハルガンが言いよどむのを見て、
「あなたの気持ちもわからなくはありません。私も子を持つ親の一人ですから。ですがこれからは、そういう親や子でボイ星は一杯になるのです」
 大事な人を死地に送りたくないと思うのはハルガンだけではない。
 ハルガンは黙ってしまった。
 何時の間にレスターが背後にいたのか、ハルガンの耳元で囁く。
「心配するな、他の船はどうあれ、奴の乗った船だけは、どんなことをしてでもあのベールの下を掻い潜らせて戻って来る」


 作戦がほぼ纏まった頃、公達が慌ててルカの邸へ押しかけてきた。
「今からでも遅くない、我々だけでも星系外へ」
 宇宙船を一隻貸してくれ。と言うことらしい。
「ここに居るほうが安全ですよ」と、ルカ。
「ここまで敵は来ませんから」
「何、寝ぼけたことを言っているのですか。相手は正規のネルガル艦隊ですよ、しかも数は我々の倍」
「ではありません。ボイの船も入れれば」
「あんな旧式な船で、何が出来るというんだ」
 そこへ、
「これはこれは、朝から賑やかですね」と、現われたのはハルメンス。
「あれ、ハルメンスさんはお発ちにならなかったのですか」
 マルドック人たちが非難したという話は聞いていた。
「発ちそびれてしまいました」と、笑う。
「何処に居れば、一番安心でしょうか。今日はそれを伺いに参りました」
 ルカは、わざわざ残って戦争の見物をしようなどと物好きな人だと思いつつ、
「それでしたらあなたの館が一番安心かと存じます。万が一上陸されても、彼らがあなたの館に土足で踏み入ることはないと存じますので」
 なるほど、ハルメンスは頷いてから、
「指揮を取るそうですね」
「艦隊の一部です」
「曹長の出番も取っておかないと、後で僻まれますよ」
 ルカは苦笑した。
「そうですね、でもそこまで考える余裕は今の私にはありません」
 私のところで確実に仕留めなければ、ボイは生き残れない。
 ハルガンにはボイの船を預けた。あのベールの中を動くにはボイの船では遅すぎるから。
「ネルガル人の私がこう言うのも何ですが、個人的な友情から、健闘を祈っております」
「有難う御座います。ついでにその友情に甘えさせていただきたいのですが」
「何でしょう?」
「彼らを一時、あなたの館に泊めてはいただけないでしょうか」
 ルカは建て前上は彼らの身の安全のためと言ったが、本音は戦闘にだけ集中したかったため、余計なわずらわしさを一先ずハルメンスに預けたかったのだ。
 ハルメンスもそれを理解したのか、
「いいでしょう。今日にでも引っ越して来られるとよい」と言ってくれた。
「有難う御座います」
 これで目の前の敵にだけ集中できる。



 ネルガル皇帝からお言葉を賜わったラッシュ・クロラ・モービス艦隊総司令官は、意気揚々と旗艦に戻った。水牛のマークの深紅の旗。その軍旗の前でクロラは全艦隊に号令をかける。
「全艦、出撃!」

2010-07-09 23:18:06公開 / 作者:土塔 美和
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■作者からのメッセージ
 今日は、続き書いてみました。本当は戦闘シーンまで書こうと思ったのですが、今回はこの辺でと言うことになってしまいました。コメントをお待ちしております。
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