『人は見た目が7割』作者:とろ / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約4.23枚
 淡い栗色の柔らかい髪にゆるいパーマ、白い肌、長い睫毛にピンクのチーク、潤う唇のナチュラルメイク、そして紺色のカーディガンに赤いリボン。
その見た目だけで偏見をするのは心からやめて欲しいと願うのは県立高校に通っている二年生の金澤麻美であった。
 「なぁなぁ金澤ーっ! 」
 もちろんこのような容姿のため、クラスのマドンナ的存在である麻美は男子にこうして話し掛けられることも少なくない。普段ならすぐ返事をするのだが、今だけは返事をしたくなかった。
 ただいまの時間は三限、家庭科の授業である。今回はアクリルの毛糸でアクリルたわしを作るということ。なぜ今高校生に編み物を教えなければいけないのか、今の時代メタボリックシンドロームについて学んだ方ががよっぽどためになるだろう。そんな麻美の思いは虚しく、この内容の授業は初回を迎えていた。
 「金澤ー金澤ー」
話し掛けてくるのは隣の席に座っている阿部である。野球部で坊主で色黒だが、黒縁のメガネをかけているというアンバランスさが何ともいえない。
「……え? 」
「この編み方であってんのー? 」
 阿部が麻美に見せてきたアクリルたわしは半分ほど出来上がっていた。自分の手元を見ると、まだ三センチほどしか編んでいない。まったくの不器用な麻美は編み物はもちろん、ピアノも料理も美術も苦手である。
「あれ、金澤まだそれだけ?」
「あー……えー……」
「もしかして二個目?! 」
 なぜ良いほうに持っていってしまうのだろう。これも自分がこのような容姿だからいけないのだ。音符が読めないのに勝手に吹奏楽部と決めつけたり、ホットケーキしか作れないのにお菓子作りが趣味だと勝手に思われ、得意でもないのに文化祭のポスター係を頼まれたり、昔から見た目でかなり損をしている。普段から周りに「かわいい」と言われる麻美だったが、この瞬間だけはかわいい自分を毎回恨む。三センチのアクリルたわしをぐっと握りしめる。
「一個目見せてよー! 」
「いや……違う……」
 麻美は自分のポイントが下がるのを覚悟して本当のことを言おうとしたとき、麻美の友達である酒匂美羽が二人の前に姿を現した。美羽は阿部の机の前に仁王立ちになり、阿部が持っている未完成のアクリルたわしをじっと見た。
「なに阿部ちゃん、出来ないの?」
 少し低い美羽の声が麻美と阿部の耳に入る。美羽は麻美が持っている三センチのアクリルたわしにさっと目を通すと、もう一度阿部の方を見た。
「んだよ酒匂、お前は出来るのかよ」
 せっかくマドンナの麻美と話していたのに邪魔をされた阿部はふてくされたように答える。
「はっ、あたしなんか3個目終わったからね」
 美羽は得意気に出来上がったアクリルたわし三個を阿部の机の上に並べた。しかも編み目はさきほど家庭科担当の先生が一番始めに見本として生徒に見せたものより、綺麗に揃っていた。
「うわっ!お前すげぇな! 」 
 目を大きくさせて阿部は驚くと、美羽はさらに得意げな顔をした。
 明るいベージュ系のショートボブ、つけまつげを付けた大きな目、緩く縛った男子用のストライプネクタイ、個性的な黄色のカーディガン。編み物やら手芸などの作業が大好きだなんて、その見た目からはとても想像がつかない。中学から友達である麻美はもちろんそのことは知っていたが、改めて見た目とのギャップに驚いた。
「阿部ちゃん、編み目1個ずれてる! 」
「お、マジか」
 阿部の間違いにもすかさず気づき、美羽はアドバイスすると、ふてくされていた表情をしていた阿部も素直に美羽に従い、周りにいた生徒も美羽に質問をしたりして、一躍この時間のスタートなった。
 空気を察した美羽のお陰で麻美のポイントは下がらずに済み、ホッと息を漏らした。しかし、かなりの不器用ということはまだ周りにはあまり知られてはいなく、いつこの殻を破るのか麻美は悩んでいた。
 だが結局、提出したアクリルたわしは美羽が作って余ったものを譲り受け、まだ当分この殻から破れない麻美であった。
2010-04-09 22:12:12公開 / 作者:とろ
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はじめまして。浅田と申します。
さっそく読ませてもらいました。
このままではダメだと思いつつもついプライドを優先させて殻を破れずにいる麻美に思わずクスリとしてしまいました^^
不器用なのにその容姿が故に誤解される……ぶちゃいくな私には想像もできない世界ですねw
最近は外見と中身が一致しない人って結構いますよね。いかにも真面目な人がポイ捨てしたり、いかにもな金髪のあんちゃんが電車で老人に席を譲っていたり。
いくつかミスを見つけたのでご報告を。
・何箇所か地の文の文頭で字下げ忘れているところがある。
・『!』や『?』は閉じかっこの前に限りスペースは要りません。
・『!』が半角だったり全角だったりしています。
最後に私が人様の作品に意見するのはおこがましいものとは思いますが、少し気になったのでそれも。前半はそうでもなかったのですが、後半部分で何箇所かやたら句読点が多かったように感じられました。
あまり句読点が多いと逆に読み辛くなってしまうので、もう少し句読点を少なくできるような言い回しを意識して使うといいかもしれません。
もっとも、少なすぎても読み辛いのでその辺りの調節がまた難しいのですが(汗
それでは次の作品も期待しています♪
2010-04-10 22:42:18【☆☆☆☆☆】浅田明守
計:0点
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