『悪魔失格』作者:刹那 / ِE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
天使と悪魔のハーフ・セレンティア。小さな頃に両親をなくしたセレンティアは、友人のレイチェルの家で過ごす。そして十年たったとき。反・魔界グループのレイチェルの両親、セシル・アリスとレイチェル、セレンティア、ヴィンらによる冒険の幕が切って落とされる。
全角10640文字
容量21280 bytes
原稿用紙約26.6枚
わからない。
 私には、わからない。
 何が「善」で、何が「悪」なの?
 ずっと、信じてた。
 お母さんもお父さんも、絶対「善」だって。
 いいことをしているんだって。
 ずっと思ってた。
 なのにどうして?
 どうしていなくなるの?もう、会えないって……。

『お前の父と母は規則を破った。よって、死罪となる』

兵士の言葉は、きつく鋭かった。
まだ小さなセレンティアに、その言葉は理解できなかった。
セレンティアの父・クリスは、天使だ。
しかし、母のディナは悪魔。
つまりセレンティアは、天使と悪魔の混血なのだ。
天使と悪魔は対の存在。
愛し合い、結婚し、ましてや子供を作るなんてことは言語道断。
よって、死罪となったのだった。
「ティア……セレンティア、もう泣かないで」
「ありがとう、レイ。でも、私のことは放っておいて。自分でもよくわからない。でも、もう何もしたくない。見たくないし、聞きたくもない」
「ティア。だめよ。だめ。何もせずにそこに立っていては、クリスもディナもきっと悲しむわ」
「ねぇレイ、レイチェル。お父さんとお母さんは、悪いことをしたの?」
「違うわ、ティア。ディナもクリスも、とってもいい人よ。あたしが言うんだから、間違いないはずでしょ」
「私はこれから、どうすればいい?」
「大丈夫よ。あたしの家へおいで。父さんも母さんも、きっとティアを歓迎するはずよ」
魔界の空は黒く、灰色の雨が降り注いでいる。
そんな中、二人の少女はゆっくりと歩いた。
手を取り合って。

〜十年後〜
あの時のような雨が降っている。
冷え切った外はー20度を軽く下回っているだろう。
魔界の空気がいつもよりひどく淀んでいるのは、また戦争が始まったからであろう。
天界と魔界は、幾度となく戦争を繰り返した。
「何か、わかった?レイ」
「ううん、何も。でも今日、何かわかるかもしれない」
レイチェルとセレンティアは、戦争をとめるべく動いていた。
「今日は調査に出かけていた、あたしの父さんと母さんが帰ってくる日なのだから」
反・魔界グループ。
魔界の政治方針に不満を抱く、魔界対抗グループ。
天界よりの意見を持ち、「善」のために命がけで魔界の王に逆らっている。
レイチェルはもちろん、その父・セシルも母・アリスも反・魔界に属する悪魔だ。
「……過去何回いって、いくつ有力な情報が集まった?」
「何回かは覚えてないけど。少なくとも情報がないことは確かね。本当にあの人、情報収集得意なのかしら」
「王の目的さえわかれば、行動することもできるのにね」
魔界の王・ディザイア。魔力だけで上り詰めた、欲深き「欲望の王」
天界の王・フィリシダ。人々の意見を聞き入れ、幸せを求める「幸福の王」
また、王には男女1人ずつ選ばれた使いがつく。
使いが、王の変わりに行動することが多いのだ。
「がちゃ」扉が開いた。
「父さん?お帰りなさい、どうだった?」
「あぁ、ただいま。まずまずだな。それより、腹が減った」
「キッチンにシチューができてる。私とティアは済ませたから、あっためて食べて」
「レイ、ティア。父さん悲しいよ。待っててくれたっていいじゃないか」
「遅いんだもの。あ、それから」
「わかってるわかってる。母さんの分は残しておくから……」
しぶしぶと、セシルはキッチンへ向かった。

「ごひほうはま(ごちそうさま)」
セシルはまだシチューの具をたくさん口にいれて、戻ってきた。
「……父さん、言ってるでしょ。ちゃんと飲み込んでから行動するように。全く、もう40にもなるんだから」
セレンティアやレイチェルは15歳。
魔界での成人は13歳だから、もう立派な大人だ。
「はいはい。でも、今日は落ち着いて食べて入られない情報が入ったんだ!」
「え?先に行ってよ!で、その情報って?」
「まぁまぁ落ち着けって」
「自分はシチュー飲み込まない程落ち着いてないくせに」
セシルは鞄を開いて大量の資料を開き始めた。
「これでもないし……あぁもうどこに……」
「……父さん、あとで鞄、掃除してよ」
「あ、あった!!」
セシルは自慢げに資料を広げ始めた。
そこには統計学的な資料やメモ用紙など、数十枚の紙切れが並んだ。
「こほん。まずは、この資料を見てくれ。これは、戦争前の魔界と天界によって行われた会議だ。ここだけ、グラフの長さが激しいのがわかるだろう?」
「でもそれは当たり前のことでしょう?会議がうまくいかなかったから戦争が起こった、そう考えられるから、別に違和感は感じないけれど」
「そこだよ。じゃあ、この資料を見てくれ。これは過去の戦争の前に行われた会議の回数だ。違いがわかるかい?」
「あ、本当。今回だけ、圧倒的に多い」
「そうだ。しかも、そのほとんどが一般の悪魔や天使をいれずに、使いと王だけで行われた少人数会議だったっていうことさ。わかるか?個人的に話さなくてはいけない秘密が、王家にあるってことだよ」
「すごい!今までで最高の統計よ」
「これだけじゃない。この4人の写真を見てくれ」
その2枚の写真には、雰囲気の違う2組の男女がいた。
片方の男女は、二人とも童顔、ブロンド、白装束。明るい微笑みを見せている。
もう片方は、正反対。二人とも何かを睨んでいるような鋭い目をして、黒装束。見ているだけで息苦しくなるような、とんでもないオーラを感じる。
ぱっと見正反対なのだが、4人には共通点があった。
写真を通してでもすぐにわかる、ものすごい魔力。破壊力も秘めているその瞳。選ばれしものだということは、セレンティアにもレイチェルにもすぐにわかった。
「使い……ね?」
「あぁ、よくわかったな。白装束のほうが天界の使い。で、黒装束は魔界の使いだ」
「すごい……魔力」
「今、母さんが計画を、セイシャルに届けにいってる」
セイシャル・ムーレイ。反・魔界グループのリーダー。
「あたしたちは、何を」
「セレンティア、レイチェル。君たちには、まず天界にいってもらいたい。天界の使いに、戦争を始めた理由を聞き出してもらいたいんだ。「幸福の王」が残酷なこの戦争を始めた理由を、どうしても知りたい。そのためには、若いお前たちしかいないんだ。父さんも不本意だ。危険な目にあわせることになる」
「危険は承知。この戦争をとめると決めたときから、私たちそれなりの覚悟はできてます」
「ティアの言うとおり。あたしたち、なんでもするから」

――でも、本当に覚悟がいるかもしれない。
  天界へ行って、使いに会うのは容易なことだけれど、
  理由を聞き出したそのとき
  私たちは悪魔と戦わなくてはならなくなる可能性が強い。
  でも戦争で戦うわけじゃない。
  この戦争をとめるべく戦うしかないんだ。
  それにはリスクが伴うから
   だから、覚悟を決めないと。命がけで戦ったお父さんやお母さんのように――

「カランッ」
扉は音を立てて開いた。
「母さん?」
「ん。ただいま、レイ、ティア。う〜ん、いい匂い!今晩はシチューかしら?」
「え?あ、えぇ……。温めて食べて」
アリスは鼻歌を歌いながらキッチンへとスキップしていった。
そして、なにやら呪文を唱えて火をおこすと、温まったシチューを器に盛ってもう一度現れた。
「パンは?」
「あ……戸棚に、白パンがあるわ」
そうするとアリスは白パンを手に取り、さっきの火で熱くなった鍋の底でパンをあぶり始めた。
「あの、母さん?計画を提出しにいったって……」
「ええ、そうよ。順調順調♪」
「え?だから……あたしたちは何をすればいいの?」
「んとね、天界で使いに会って、交渉してくれればいいんだよ〜!」
「う、うん。まぁ、ティアの魔法なら行くのは簡単……だよね」
セレンティアは悪魔と天使のハーフだから、悪魔魔法も天使魔法も使うことができる。
特に悪魔・天使の両魔法のテレポート魔法は、それぞれ魔界・天界にのみ行くことができる。
しかしセレンティアは両魔法ともに使えるため、魔界・天界を自由に行き来できるのだ。
また、接触している人を一緒にテレポートさせることのできる魔法だから、レイチェルも一緒に行き来できるのだ。
「でも、交渉はそう簡単にはいかないと思うけど」
「うーん……。そこは、二人の実力だね。でもね、そんなときのために、強烈な助っ人を用意したの。おーい、助っ人!?」
すると、また扉が音を立てて開く。
そして、凍えながら、一人の少年が入ってきた。
「お……おばさん、寒いって!あ、何シチュー食べてるんですか!さては忘れて……ハックションッ」
「あはは、シチューに気ぃとられてた」
「ヴィン!ヴィンじゃない?」
「やぁ、ティアにレイ。僕が助っ人だ」
魔界の医者の子ども、ヴィン・カルシャス。
攻撃魔法も抜群、回復魔法ならもはや神業だ。
「凄い、母さん。ヴィンがいれば何も怖くないわ」
「そ。よかった」
「で、あたしたちはいつ出発?」
「ん?明日……ふぁ〜ぁ」
「え?あ……」
「「「明日あぁぁぁぁ!???」」」
波乱のたびの幕開けだった。

その夜は、眠れなかった。
次の日のこと。
天界への旅が終わった時、それからの自分たちのこと。
魔界に行かなくてはならないかもしれない。
戦わなくてはいけないかもしれない。
そうなったら自分たちは
生きてゆけるだろうか――?
「……だめだ。寝られない」
何度か寝返りを打って起き上がる。
屋根裏部屋の天井にある、大きな窓。そこに、満月が見える。
セレンティアはネグリジェ姿のまま天窓から顔を出す。
すると、すぐ近くにヴィンがいた。
ヴィンは細長い草を口に当てて、音色を出している。
「……ん?ティアかい?」
「素敵な音色。草笛ね?」
「あぁ、僕の特技だ。でも、これは昔、ディナ……君の母さんから習ったんだ」
「私の……お母さん」
優しくて正義感の強いディナはその街の住人からとても慕われていた。
ヴィンはセレンティアよりも2つ年上だ。
まだディナがこの世にいた頃、ヴィンは7歳の少年だった。
「いい人だった。ディナと僕の父さんは、親友だった。ディナとレイは、どこか似ているところがあるんだ。レイの気の強さ、優しさ……。そんなところが、独りぼっちになった君を、放っておけなかったんだろうな」
「……ヴィンは」
「ん?」
「ヴィンはレイが、好きなんだ」
「……面白いことをいうね、ティア。でも残念ながら違う。僕はレイや君……ティアを放っておけないんだ。純粋に、君たちがかわいくて仕方ないんだよ。妹みたいにね」
そういうとヴィンは、膝にかけていた毛布をセレンティアの肩にかけた。
「風邪を引くといけないよ、ティア。明日は大事な日なのだから。もう部屋に戻って眠ったほうがいいよ」
そして屋根伝いに自分の部屋に戻っていった。
−次の日−
「本当に大丈夫かい、三人とも」
「だからいってるでしょ。大丈夫って。時間もないし、もう行くわよ」
「父さんは心配なんだよ」
「大丈夫だよぉ、セシルくん♪ティアにレイに、ヴィンまでいるんだよ?無敵無敵!!それとも何?自分の子どもが信じられないの??」
「いやいや、そういうわけじゃないんだけどね。しかしアリス。君は少々のん気すぎるな」
「とにかく、もう行くからね」
「ヴィン、二人を頼むよ」
「分かってます」
そして、三人は頷きあった。セレンティアが掛け声をかける。
「行くよ!!!」
三人の姿が、光に包まれていく。
どんどん光が強くなり、セレンティアはたまらず目を瞑った。
気が……遠くなる。
やがて何も見えなくなり、セレンティアは気を失っていた。
――……
「……ァアティア……ティア!」
「ん……」
「良かった。気がついたんだね。テレポートは魔力を大量に消耗するから」
気がつくと、セレンティアは草原に横たわっていた。
ヴィンが覗き込んでいる。
起き上がると、レイが地図と睨めっこしていた。
「レイ?」
「あ、ティア。お寝坊ティア、やっと起きたか」
「何よ、それ。で、ここは……天界?」
「えぇ。持ってきた天界の地図によると、ここは「悠久の草原」というらしいわ。あっちに見えるのは、王宮。凄いじゃない、ティア。目的地ぴったりよ」
王宮は、森に囲まれた以外に町外れにあった。
しかし、真っ白な王宮では、せわしなく働くメイドや執事、軍服の兵士たちが護衛している様子も見え、さすがな大きさだった。
「行こう」
ヴィンの声でわれに返ったセレンティアは、頷いて立ち上がった。
一応、天使に変化して王宮にちかづいてみる。
やはり、王宮の門の前ではたくさんの兵士が待ち構えていた。
「お前たち、何者だ!」
「はい、魔界に派遣されておりました第3部隊のレイチェルと申します。今回は使いのお二人に用がございます。失礼ですが、直接会うことは可能ですか」
このときのために用意していたセリフを、レイチェルが言う。
しかし、事態は計画通りには進まなかった。
「何!?第3部隊だと?第3部隊は先程帰国命令が出て、帰ってきたはずだ!全員確認したぞ!お前ら一体、何者だ!!」
レイチェルの表情が険しくなる。
目からは焦りが感じ取られた。
ヴィンがフォローする。
「落ち着いてください。私たちは、何も怪しいものではございません!」
「まさかお前ら、悪魔の手のものではないだろうな!」
「……うぐっ」
「怪しいやつめ!おい、第一護衛部隊!行け!!」
すると軍服を着た兵士がぞろぞろと集まってきた。
「くっ……だめだ、何とかして誤解を解かないと!」
セレンティアが、意を決して口を開いた。
「お待ちください!確かに私たちは悪魔のものです。しかし私たちは反・魔界グループのもの。あなたたちに危害を加えるつもりは全くございません!ただほんの少し、使いの方にお話を聞きたいだけなのです!」
「そんな話……信じられるか!」
天使の魔法が炸裂した。
「そんな……来て早々!」
あきらめかけて目を瞑った、そのときだった。
「お止めなさい!何もしない人を、傷つけるなど天使がすることですか!」
一人の女性が、真っ白い服で、鈴のような綺麗な声を発していた。
セレンティア達はしばらくその美麗な姿に見とれていたが、やがてその姿に見覚えがあることに気がついた。
「使い……!?」
「ええ、わたくしこそが天界の使い、ベルベリーと申します。お見知りおきを。さて、わたくしたちに用があると聞いたのですが」
「え……あ、はい」
「立ち話もなんです。せっかく来てくださったのですから、お茶でもどうぞ」
使いは、セレンティアたちを応接間に促した。
応接間は、さすがの豪華さだった。
豪華なシャンデリアに、白でまとめられた家具。
すらっとした美しい手をした、か弱い女性に見えるベルベリーだったが、先程あれだけの武士たちの魔法を止めただけあってものすごい魔力なのだろう。
立派なカップに高そうなクッキー。セレンティアはつばを飲んだ。その時。
「ぐ〜きゅるる……」
……。シーン……。
「す……すすす、すみませぇん……」
「ふふ……あはは、おなかすいたなら、言えばいいのに」
顔立ちは大人っぽいが、少女のような笑顔。
たぶん、年齢もセレンティアやレイチェルと少ししか違わないのかもしれない。
「パン、取ってきますね。あと、もう一人の使いも連れてきたほうがいいかしら」
とたたた、と小走りで、ベルベリーは部屋の外へいった。
少したってパンをバスケットいっぱいに持ったベルベリーと、一人の青年が現れた。
その青年にも、もちろん見覚えがある。
「初めまして。僕が天界の王の使いのアレンだ。よろしく」
気さくで話しやすそうなアレン。しかし、やはり桁違いの魔力も感じる。
「せっかく来てくれたんだ。今日はここにとまったらどうかな。今から魔界までテレポートできるだけの力は残ってないだろう?」
「いいんですか?」
「ええ。天使はみんなに優しく、がモットーですもの。さぁ、パンをどうぞ。安心して。毒などもってはいないから」
「わかってます」
朝から何も食べていない一行は、夢中で高級のパンを頬張った。
「それで、用件はなんだい?」
「えっと……まず、私たちは反・魔界グループのものです。考え方としては、悪魔というより天使のほうが近いかと感じまして、ここへ来ました。知りたいことはただ一つ。なぜこんなに良い天界の人が、こんなにも残酷な戦争を受け入れてしまったのかということです。たった今親切にしていただいて、もっとこの疑問が膨れ上がってきました」
「それは……」
二人は、目を伏せた。そして、ベルベリーが口を開く。
「私たちも、この戦争には反対でした。それは、王も同じです。私たちは、必死に魔界の王に抵抗しました。でも抵抗すれば抵抗するほど、魔界の王はとんでもない事を提案するのです。しかしついに、あの人は……」
「王は、どうしたんですか」
「私たちから言えるのは、ここまでです。後は、明日あなた方を王に会わせることも考えておきましょう」
「本当ですか?」
「最後に一つ。あなた方は、本当に味方なのですね?本当に、戦争をとめてくださるのですね?」
願うように、ベルベリーはこちらを見た。三人は、声をそろえて言う。
「「「もちろんです!」」」
「では、メイドに部屋へ案内させます」
そうして、メイドが歩いてきて、一行を案内した。
部屋は、屋根裏部屋だった。
しかしレイチェルの家とは違い、屋根裏部屋にも装飾品がいたるところに飾り付けてある。
「凄い……」
セレンティアは思わず歓声を上げた。
ベッドもふわふわで、雲のようだ。
そして一行は、その部屋で快適に一夜を過ごした。
―その夜―
王宮の誰もが眠る真夜中。事件は起きた。
「キャアァァァァ!!」
一人のメイドが叫び声を上げた。
それとともにものすごい地響きと悲鳴が飛び交った。
セレンティアたちは慌てて起き上がる。
「な、何!??」
「ティア、レイ、こっちだ!様子を見に行ってみよう!」
3人は早足で階段を駆け下り、声の聞こえた方向へ走った。そこには……
「きゃ……っ!こ、これ……魔界の?」
そこには、倒された天界の兵士達が横たわっている。
それを倒したらしい近くの兵士は、黒づくめの格好。魔界の兵士だった。
「欲望の王……ついに王宮まで!」
そして、隊長らしい悪魔に目を移して、セレンティアは息を呑んだ。
「ベ……ベルベリーさん!!」
隊長はベルベリーに拳銃を突きつけ、乱暴に首を取った。
「おい、そこのお前、こいつが惜しかったら、王を出せ!」
目線の先にいたのは、アレンだった。
「く……っ」
「……止めろ!」
ヴィンが止めにかかった。
3人は戦闘体勢に入る。
「ティア、レイ。戦えるかい?」
「もちろん。あたしが指示を出すわ。あたしが攻撃魔法でなるべく相手をかく乱させる。ティア、悪魔は天使魔法に弱い。相手が混乱したところで、天使魔法で攻撃して。ヴィンはその間にみんなを避難させて、怪我人の治癒を!」
的確な指示を飛ばすレイチェル。しっかりもので強気な彼女にとって、一瞬で決断することは得意中の得意だ。
その場で戦闘が始まった。
3人は背を向け合って相手を睨んだ。
レイチェルは頷くと、一人で高く飛び上がり、上から敵に向かって“炎上”の呪文を説いた。
上から火の粉が降り注ぐ。
悪魔魔法には、3通りの魔法がある。
「炎」使いは、破壊の力。
どんなものでも焼き滅ぼす、パワーの持ち主。これがレイチェルの得意魔法だ。
「水」は薬のちから。
瞬時に薬を作り出し、傷ついたものを癒し、敵には毒や麻痺を与えることができる。これはヴィンの得意魔法。
「風」魔法は特殊魔法の一つだ。
風で竜を作り出したり、竜巻を起こすこともできる。セレンティアは、これを得意とする。
そしてセレンティアにはもう一つ。
天使魔法「光」。
光の力は無限大。星の光は草木を成長させる。しかしそれも過度になると灼熱地獄となる。
「うわ、お前達、悪魔か!貴様ら、裏切りだな!?」
悪魔はそう叫んで、レイチェルの襲い掛かろうとした。
そこをすかさず背後に回りこんだセレンティアが、「光」魔法の“スターダスト”で攻撃する。
いくつもの流星のような光が線を描きながら飛んでいき、悪魔達にぶつかって幾度も爆発を起こした。
そんな空中戦が行われている間にヴィンはしたに転がっている負傷した兵士達の手当てを始めた。
ふと、一人の女性に気がつく。
「ベルベリーさん、大丈夫ですか!??」
ベルベリーは焦点の定まらない青く美しい瞳でこちらを見た。
「私は大丈夫です。早く、他の者を手当てしてください」
「しかし、このままではあなたが危なすぎます!上では戦いが起きているのですよ?」
「それは皆一緒です!とにかく今は、兵士を優先してください」
ヴィンは戸惑った。使いをこのままにしてもよいのだろうか?その時。
突然、ベルベリーの体のまわりが光った。それと同時に、ベルベリーに触れなくなる。
「……結界?誰が」
「使いはもう一人いるって」
ヴィンはその声に振り返る。
「忘れてたかな?ヴィンくん?」
「アレンさん!」
アレンの顔には、いつもの微笑みはなかった。
変わりにあったのは、真面目な顔をした使いだった。
「さて、僕は上の戦いを終わらせてくるから、君はベルベリーのいうとおりにしてくれるかな?」
「は、はい」
凛々しい顔をしたアレンは頷いて、すっと上を向く。
それと同時にありえないほどの速度で上昇した。
ヴィンはしばらく圧倒されていたが、はっとして怪我人へと目を移し、やがて手当ての続きを始めた。
悪魔は戦いに負けると自然と魔界に帰される。
スターダストによって大体の悪魔は魔界に帰っていった。
しかしいくつかの生き残りとはしのぎを削る戦いとなっていた。
やはり少女二人の力では難しいのかと、あきらめかけたとき。
「よく頑張ってくれたね。大丈夫かい?」
力強い、アレンの声が響いた。
「ア、アレンさん」
「少し、退いてくれる?後は僕に任せて」
2人が言うとおりにすると、アレンは“吹雪”の魔法を説いた。
するとたちまち冷たい風が吹き渡り、氷の剣が幾つも完成する。
それは、悪魔達に襲い掛かった。
冷気の白さであたりが見えなくなる。
次にそれが晴れたとき、そこには何もいなかった。
「……凄い」
そうつぶやいた瞬間、とたんにセレンティアの体が傾き、急降下し始めた。
「危ないッ!」
アレンやレイチェルが必死に追いかけても、追いつけない。
そのとき、1つの影がセレンティアを抱えた。
「おい、ティア?分かるか?ティア?」
「ヴィン!良かった……ティア」
レイチェルとアレンが息を切らせながら追いついて、そういった。
アレンは、急いでもう一人の使いに駆け寄る。
「ベリー……?ベルベリー、しっかり!立てるか?」
「う……ん。アレン?私……そうだ、皆は」
「大丈夫。僕と3人で何とかやったよ。でも」
ベルベリーは3人に駆け寄って、口に手を当てて驚いた。
「セレンティアさん、どうなさったの?」
ヴィンはセレンティアの手首を触って、言った。
「生きてるから、僕の魔法で何とかなります。ただ、熱がちょっと高いかな?」
セレンティアは肩で息をしていた。
「ヴィン、大丈夫よね」
「心配するな、レイ。僕は回復術には自信があるって言ってるだろう」
「知ってるわ。昔からあなたは、誰かが怪我をしたり風邪を引いたりしたらすぐに治してくれたわね」
ヴィンは微笑んで、呪文を唱えた。すると、瞬時に薬が作り出される。
その薬に違う呪文をとなえる。
するとそれは光となってセレンティアに降り注いだ。
「もう大丈夫。結構効き目が出るまで時間がかかる薬だからすぐに意識は戻らないだろうけど」
そして「よっ」とつぶやいてセレンティアを背負うと、レイチェルに手を差し伸べた。
「レイは怪我とかしてないかい?」
「えぇ、あたしは大丈夫」
すべての兵士を回復して白を片付けた頃には、外はもう明るくなってきていた。
ベルベリーとアレンが近づいてきて、言った。
「今日はありがとうございます。きっと今日のことを話せば王もあなたたちとお会いになる気になられるでしょう。今日のところは部屋でお休みください」
「さて、僕達も行くことにするか、ベリー。寝ていないのだろう?僕もだけど」
「ふふ、そうですね。休みましょう」
そして使いの二人は、それぞれ自室へ戻った。
「僕達もいこうか、レイチェル」
「ふあ〜ぁ。本当、疲れたわ」
そしてヴィンはセレンティアを背負って階段を上がった。
そのあとをレイチェルが続く。
「ねぇヴィン。明日、戦争の理由が分かるかもしれないんだね」
「そうだな」
「あたし何だか不安なんだ。もし、あんなに信じてた天界の人が悪い人だったらって」
「……大丈夫さ。もし……もし君の言うとおりだったとしても。僕にティアもいる。レイは絶対、一人じゃない」
「ヴィン……ありがとう」
そして3人は部屋へ入り、ベッドに顔を押し付けるとたちまち寝息を立て始めた。


2010-01-11 16:31:31公開 / 作者:刹那
■この作品の著作権は刹那さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
始めまして。中学生の刹那と申します。
まだまだ未熟者ですが、こんな話でも読んでくれれば光栄です。
今回は、異世界ファンタジーを書いてみました。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは! 羽堕です!
 今の魔界の王様に抵抗する勢力が、天界へと出向いて真相を探り、手を組めるようならそれをしようとする所など展開は良かったと思います。ただ流れが速いように感じるので、もう少しゆっくりでもいいかなと思いました。それと描写が少なく感じます。
 10年前にセレンティアの父と母が罪に問われ死罪になるのなら、セレンティアの存在も許されないと思うので兵士は言葉を投げかけるだけで、なぜ連行などしなかったのかなと思いました。容姿や風景などの描写が、ほとんどないので悪魔と天使で見た目の違いがあるのかや、どんな風景が天界や魔界に広がっているのか分かりませんでした。それと写真などがるようで、世界観もイマイチ分かりづらかったです。あと文頭の一字分字下げは、した方が読む方としては見やすいです。
であ続きを楽しみにしています♪
2010-01-08 19:02:22【☆☆☆☆☆】羽堕
>羽堕さん
 
 感想、ありがとうございます。
 自分としてもお母さんにせかされてしまい……。
 早く書いてしまいたくて焦ってしまいました。
 気をつけたいと思います。
2010-01-09 20:59:27【☆☆☆☆☆】刹那
こんにちは! 羽堕です♪
 突然の襲撃で悪魔軍に立ち向かい事で信頼を得られたようで、ついに王に会えるかも知れないので良かったなと。少し改行が多いのかなと。あと悪魔軍は、どうやって天界に攻め込んでこれたんだろう? テレポート以外でも天界と魔界を行き来できるのかなと、ちょっと疑問に思いました。
 利用規約の『小説の書き方(正規表現)の[必ず守って欲しい事の欄]』を、もう一度読み直して修正できる所はした方がいいです。そこに文頭の一字分の字下げについても書かれているので。
であ続きを楽しみにしています♪
2010-01-12 19:00:16【☆☆☆☆☆】羽堕
作品を読ませていただきました。物語のアイデアは悪くないけれど、物語の進行を急ぎすぎている印象を受けました。必要最小限のことだけを書いて話が進んでいるため、登場人物の個性や心情など読者を作品世界に入りやすくさせる部分が弱かったと思います。会話などはテンポがいいのですから、もう少し地の文を増やして心情や個性をもっと書き込んでいった方がいいと思いますよ。では、次回更新を期待しています。
2010-01-18 22:56:39【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。