『【短編】哂う男』作者:プリウス / z[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
この作品は夢オチかもしれません。どうぞ気楽にお読みください。
全角14082.5文字
容量28165 bytes
原稿用紙約35.21枚
 彼女、楠木洋子は疲れていた。問題は積まれていく一方で、何一つ解決しない。彼女は心身ともに憔悴しきっていた。そんな彼女だから、毎晩のように飲み歩く。彼女はよくエキノクスというバーに出かけた。そこはアジアで最も高い場所にあるという。超高層ビルの70階。そこにエキノクスがあった。そこでは彼女は甘いお酒ばかりを飲んだ。特にシンガポール・スリングやマイタイのようなトロピカルなカクテルを好んだ。昔はそうでもなかった。地元にいたときはよく、辛口の日本酒などを嗜んだものだ。けれど今は甘いお酒に浸りたいと思った。彼女には優しさが必要なのだから。
 外の景色を眺めるとシンガポールの夜景が一面に広がっている。小さくマー・ライオンも見える。オーチャード・ロードのような観光客向けの繁華街から、ラッフルズ・プレイスなどのオフィス街まで、この国の中心部が全て見渡せる。空の星はまったく見えないが、それでもいいと思える美しさだ。海の辺りに、建設中のビルが並ぶのも見えた。あの辺りは丁度、観光客誘致のために建設中のカジノがあるところだ。夜だと言うのに、工事の手が休まることがない。近隣諸国から低賃金で雇われた外国人たちが、昼夜を問わず必死に働いている。
 もう一度、ラッフルズ・プレイスのあたりを見る。洋子が働くオフィスもその辺りにあった。エキノクスからは死角になっていて見ることは出来ない。彼女の仕事はITコンサルタントだった。コンサルタントと言えばどことなくスマートで格好いいイメージがあるが、実際には全くそんなものではない。特に洋子は自分の仕事にほとほと嫌気がさしていた。コンサルタントと言いながら、単なるパッケージ商品をソリューションと銘打って押し売りしているだけ。本当の顧客ニーズは、パッケージを売るためにうまく歪められてしまう。そして顧客から「うまく機能していない」という文句があれば、「それはITに慣れていないだけで、半年もすれば効果が出る」などと言ってうまくかわすのだ。もちろん、半年後のことは半年後に考える。
 彼女はつい先ほど、上司と交わした議論、いや口論を思い起こす。彼女は今の上司とは、とことん考え方が合わないと思っていた。上司はとても優秀な評論家だと彼女は思う。そう、評論家であって実務家ではない。上司はことあるごとにドラッカーやカーネギーという名前を持ち出した。やれジャック・ウェルチがこう言った、スティーブ・ジョブスが何をした、大前研一の戦略的思考によると、等々。とにかく数多くの経営書を読んでいるらしく、そこからの引用が会話の半分を占めていた。彼女が何を反発しても、必ずそうした有名な学者や経営者の名前を持ち出し、そうして彼女の意見を封じ込めた、ように思えた。
 会社を辞めようかと考えたこともあった。彼女の経歴であれば、雇ってくれるところは他にいくらでもあると思ったのだ。彼女は東北にある日本有数の国立大学を卒業しており、日本では大手商社で働いたこともある。就職後も自己研鑽を怠らず、今では英語はネイティブ並みに、中国語も日常会話程度はこなせるようになっていた。マッキンゼーやボストン・コンサルティングといったアメリカのメジャーなコンサルティング会社に友人もいて、何度か声をかけてもらったこともあった。しかし、彼女にとって不運なことに、世界的な不況の波が転職の道を狭くした。シンガポールではそれほど影響は無かったと聞くが、それでも全く無傷というわけにはいかない。海には仕事を失ったコンテナ船が何艘も暇つぶしをしており、街中の工事現場では人が急に少なくなった。
 洋子はため息をついた。何もかもが塞がっている。人生に打開策が見つからず、ただただ老いていくだけ。疲れて老いるだけの人生。彼女は家にいる恋人のことを考えた。一時期は、彼が自分の人生を切り拓くパートナーになると信じていた。彼、市川義文は前途有望な学生、だった。彼はシンガポール国立大学でバイオテクノロジーの勉強に励んでいた。それだけで洋子は彼に未来を感じた。世界的に石油の代替燃料への需要が高まっていることは常識としてあった。そのために穀物価格が高騰し、世界の貧困層をさらに圧迫する結果となり、大きな社会問題の一つとされている。しかし世界中で二酸化炭素憎しの御旗が立てられ、バイオマス・エネルギーの需要は留まることを知らなかった。人間の胃袋に限界はあっても、人間の欲望に限界は無かった。そうした社会問題はさて置き、バイオエネルギーを世界的にハイレベルなシンガポール国立大で学ぶ日本人学生と知り合った。そして恋に落ちた。洋子にとって、市川の存在は希望の光そのものだったのだ。
 その市川が大学を辞めた。彼は突然、小説家になるなどと言い始めた。そして今は洋子の部屋に住み着き、毎日ノートパソコンに向かって何かを書いているようだった。洋子はあっけに取られた。彼女は普段からあまり小説などは読まず、月に何冊かエッセイや評論文を読む程度だった。だからかもしれないが、市川の行動がまったく異常なものに思えた。市川は親にもメール一本で、しかも事後報告で大学を中退したことを告げたらしい。それでも最初のうちは市川のことを信じた。文学を熱く語る市川にほだされ、なら彼が大成するまで自分が面倒を見ようとまで決意した。けれそそれも最初の頃だけで、今となっては何の生産性も持たない市川が、なんとも嫌らしく見えるようになった。
 それでも彼女、洋子は市川を捨てることが出来なかった。彼女はコンドミニアムというシンガポールではハイクラスのアパートメントに住んでいる。警備員が常駐しており、中にはプールやバーベキューの施設まである。部屋はかなり広い。洋子が一人で暮らすには十分過ぎるほどのスペースがあった。だから、彼女はそんな部屋に一人で帰ることを怖れた。自分には何も無いのではないかと思ってしまうことを必死で避けた。そんな状態で、とても市川を見捨てることなど出来なかった。いや、市川に見捨てられるのが怖かった。
 洋子は疲れていた。人とのしがらみに。彼女を取り巻く関係全てに。彼女はタバコを吸おうとして、マルボロ・ライトを取り出した。正面には、人間の肉が潰れたような、酷くグロテスクな写真が貼ってある。一箱700円近くも取っておいて、その上こんな写真を見せ付けるだなんて酷い話だ。日本は喫煙者にとても寛大な国だな。そう思ったところで思い出した。
「そっか。室内は禁煙だったっけ」
 シンガポールでの暮らしが長いが、ふとした瞬間にそこでのルールを忘れてしまう。特に酔って気の緩んだ時など。
「Can I have a bill ?」「Sure. Wait a second.」
 そんなやり取りをウェイトレスと交わし、支払いを済ませた。そして下の階に行き、喫煙室を探す。ここの喫煙室は少し遠いところにあるのだが、それなりに快適な部屋なので洋子は気に入っていた。少し酔った頭を支えながら、廊下を歩く。
 ずっと歩いていた。最初は少し遠いなと感じた。次は酔っ払ってるなと感じた。そしてついに異常を感じた。どこまで歩いても目的地にたどり着かない。道を間違えたのだろうか。いや、それなら別の場所に出るはずなのだ。引き返すべきだと思った。けれど本当に引き返せるのかどうか、何の保証も無かった。だからやはり進むことにした。少し酔っ払っているのだと自分を言い聞かせて。
 周囲を注意深く見ながら歩いていると、一つのドアを見つけた。今まで一度もそんなドアの存在に気づかなかった。洋子はドアノブに手をかけた。いったいどこに繋がっているのか分からなかったが、誰とも会わないこの異常事態から早く開放されたいと願ったのだ。きっとこの中には誰かがいるはずだ。そう、きっとシンガポール人の従業員が、近々オープンするカジノの話なんかで盛り上がっているに違いない。ドアを開けて、中に入る。そこは小さな部屋で、洋子が今まで見たことのない異様な光景が広がっていた。
 鋏、鋏、鋏、鋏。壁という壁、一面に様々なかたちをした鋏がいくつも並べられていた。そしてその中のどれ一つとして、スーパーやコンビニで手に入るような普通のかたちをしたものは無かった。とても巨大な、人間が使うとは思えない鋏。曲がりくねっていて、何かをまともに切れるとは思えない鋏。シンプルなデザインだが、小さな獣の骨や皮で飾られた鋏。奇妙で、歪な鋏の数々が洋子を圧倒した。言葉を失った洋子に、部屋の奥から男の声で言葉がかけられた。
「らっしゃい。何かお探しですかいね」
 暗闇からの突然の声に洋子はびくりと震えた。そしてよく目をこらし、そこには小さな誰かがいることに気づいた。男はのそのそと部屋の中心まで歩いてきた。部屋は何故か白熱球一つで照らされていて、部屋の隅にまで光が届いていない。もちろん、全体的に暗い。
 部屋に飾られた鋏同様、男も奇妙ないでたちをしていた。まるで魚のようにぎょろっとした目を洋子に真っ直ぐ向けている。背は低く、小学生低学年くらいの大きさだ。小太りで、何か可笑しそうに口元をにやつかせていた。そして何よりも異形だったのは、その男が身にまとっていた服だった。それを服と呼んでいいのだろうか。銀色の鋏が体中を覆い尽くしている。その鋏はどことなく、病院の外科手術に使うものをイメージさせた。
「いえ、ちょっと道に迷ってしまって。すいません、買い物に来たわけではないのです」
 そう言って、洋子は部屋を出ようとした。この場にいつまでもいてはいけない。そう頭の中で洋子の理性が警告を発していた。きびすを返し、すぐに外に出る、はずだった。早く部屋から出よう。そう気持ちだけが焦り、足はそこから一歩も動けないでいる。何故か分からない。理性は明らかにここから出るべきだと主張している。けれど、何故か身体が動かない。するとその小男が何かを理解したように何度も頷いた。どことなくメトロノームを思わせる動きだった。かっち、かっち、かっち、かっち。
「お嬢さん、動けないんで驚いてらっしゃる。無理もない。お嬢さん、こっちの世界に迷い込んじゃったね。こっちの世界の住人じゃないあんたが、こっちで動けなくなるのは当然の理ってもんだよ。くししし。どうやらおいらのお客はそっちのあんたじゃなく、こっちのあんたみたいだねえ。こっちのあんたは必要な買い物をしに来てるみたいだ。でもそっちのあんたが邪魔をして、こっちのあんたも前に進めやしない。こりゃあ、とんだジレンマだあね。くししし」
 小男は洋子に近づいて、その姿をぎょろぎょろと嘗め回すように見た。今や洋子の心は恐怖で張り裂ける寸前だった。身動きが取れない状態で、目の前に奇妙な男がいて自分をじろじろと観察している。これからいったいどんな酷い目に遭うのかと思うと、とても冷静ではいられなかった。しかし小男は洋子の想像に反して、洋子には一切触れなかった。ただひととおり観察しただけで、またすぐに離れていった。
「そっちのお嬢さんはとっとと帰りたいみたいだが、どうやらこっちのお嬢さんがおいらに用があるみたいでね。その用を済まさなきゃ、お嬢さんは帰れねえんだよ。なあに心配しねえでも平気平気。こっちのお嬢さんとしっかり話つけといたからよ」
「話って、何の」
「そりゃあ、うちは鋏売りなんだからよ。鋏の話に決まってらあね。うちの鋏はなかなかに上等だって、ユングの旦那にも褒められたことがあるくらいでさ。ええ、もちろんこっちのユングさんですがね。くししし」
 そう言って小男はどこからか、いくつか鋏を取り出した。
「例えばこれ。こいつは心の未練を断つ鋏でね。例えば昔の恋人が忘れられない、なんて時に便利なんでさあ。これでちょいとご自分の心をちょきちょきっとやっちまえば、あっちゅう間に昔の恋人への未練が断ち切れるっつうわけですよ。それからこっちは欲望を断つ鋏。普通、欲望は絶つもんだって突っ込みはよしてくだせえよ、くししし。この鋏なんか、坊主の間でよく売れるんですがね。いやでも最近はそうでもないっつうことがありやすがね。坊主もわりと欲望絶たなくても構わないみたいな風潮がありやすからね、くししし」
 次から次へと奇妙な鋏を取り出しては説明をする小男。いや、鋏を売っているのだから鋏売りとでも呼ぶべきか。彼は暗闇に手を突っ込み、そこから商品を取り出していた。洋子はもう何が何だか分からなかった。けれど不思議と落ち着いている自分を感じた。そして鋏売りがある鋏を取り出したとき、思わず「あ」と声を漏らしてしまった。もちろん見たこともない、奇妙な形の鋏だ。けれどなぜか、自分にはそれが必要なのだと分かってしまった。
「くししし。ほーお、お嬢さん、こいつを選びなさるか。こいつはけっこうな値打ちもんで、お嬢さんなかなかにお目が高い。この鋏はね、お嬢さん、縁を断ち切る鋏ってやつですよ。例えば旦那と別れたいのに旦那がなかなか認めてくれない。裁判沙汰にもしたくない。そんな時にこの鋏を使えばあら不思議、あっという間に離婚成立っつうとっても便利な一品なんでさあ」
「縁を、断ち切る? それはどんな縁でも?」
「ええ、そりゃあ。縁と名の付くもんは何でも切れちまいますわ。親子の縁だろうが何だろうが、ちょきちょきっと軽くなでるみたいに切っちまえますよ。こいつは本当に値打ちもんなんですがね。今ならお安くしときやすぜ、お嬢さん」
 縁を断ち切る。断ち切りたい縁。洋子はすぐ、自分の上司を思い浮かべた。今の上司さえいなければ、自分が仕事でこんなにも苦しい思いをすることがない。そして恋人の市川を思い浮かべた。彼さえいなければ、新しい恋を見つけて新しい道を進める。縁を断つことは本当に大変なことだ。もし自力でそれをなそうと思えば、より多くの苦しみを味わうことになるだろう。例えば上司との縁を断つために自分から会社を出る。例えば恋人との縁を断つために自分から別れを告げる。どれも本当に苦しい、難しいことだ。それを、鋏で紙を切るように簡単に出来たとしたら?
「安くって、いくらで買えるんですか。その鋏」
 洋子はとっさに銀行の口座残高を思い出す。シティ・バンクとローカルの銀行に口座を持っている。加えて日本にも一つ残してきてある。それらを全て足せば、5年くらいは遊んで暮らせる計算になる。まさかそれ全部ということはないだろうが、ある程度の出費は覚悟した。縁を断つ鋏。それ一つの価値は、高級外車一台を上回ってもおかしくないのではないかと思えた。しかし鋏売りの返答は意外なものだった。
「お代は気にせんでもよろしいよ。お嬢ちゃんが死んだ後に受け取る仕組みになってるかんね」
 よく分からなかったが、とにかく今は支払わなくてもいいようだ。洋子は一歩前に踏み出した。そして鋏売りから、その異形の鋏を受け取った。見た目で想像していたよりも随分軽い印象を受けた。洋子はその鋏をじっと見つめる。この鋏があれば、全てが解決する。そう思うと、急に嬉しい気持ちが膨れ上がってくる。そうだ、これが私の未来なのだ、と洋子は思った。
「Hi. Are you OK?」
 気が付くとそこはエキノクスのバーだった。夜景は相変わらず美しく魅了的だ。少し頭がぼんやりしている。どうやらうっかり眠ってしまったようだ。ウェイトレスが心配そうにこちらを見ていた。マレー系の顔立ちで、上品な綺麗さのあるウェイトレスだった。どうやら支払いのお釣りを持ってきてくれたらしい。
「Yap , I'm OK. Thank you」
 そう言ってお釣りを受け取り、財布にしまう。そしてエレベータの場所まで歩き、エレベータに乗り込む。中は洋子一人。彼女はぼんやりと、タクシーを使って帰ろうと考えた。まだバスは走っている時間だった。けれど、バスに揺られてさらに疲れてしまうのが億劫だったのだ。シンガポールのタクシーは日本に比べると破格の安さだ。これでどうやって生活しているのだろうと心配するほど安い。
 洋子はカバンの中に財布をしまった。その時、カバンの中に見慣れない何かがあるのに気づいた。なんだろう。訝りながら取り出したそれは、夢で見たあの鋏だった。

 部屋に帰ると恋人の市川義文はまだ起きていた。インターネットに接続して、どこかのサイトを開いている。「登竜門」と書かれたサイトで、彼のように小説家を目指す人が集まるサイトらしい。詳しいことはよく分からないが、本気で小説家を目指す人、趣味で小説を書く人、読むだけの人、様々だそうだ。読むだけの人がいるということが、いまいちピンと来なかった。
 当然ながら、このインターネットの契約も洋子が行っている。シンガポール国内の通信社は三つあるが、そのうちの最もメジャーなシングテルという会社と契約をしてきた。しかし実際に利用しているのは市川がほとんどで、洋子はたまに実家とメールでやり取りする程度だった。インターネットのニュースは会社の休み時間に読んでいるので、家では読む気にならないのだ。金を払っているのは自分なのに、その大半の利用者は市川だという事実が、また洋子を苛立たせた。
「ちーちゃん。お酒臭いよ。飲んできたの?」
 市川が振り向きざま洋子に言う。その言葉にまた洋子は苛立つ。朝から働いて、疲れて帰ってきた自分に対するねぎらいの言葉が無い。言うに事欠いて「お酒臭い」などと。
「ええ。シャワー浴びるわ。一緒に浴びる?」
 断れ。洋子は心の中でそう念じながら市川に尋ねた。今は市川に抱かれたくない。とにかく早く汗を流して寝てしまいたい。
「いや、今日はやめとくよ。緊張して、きっとうまくやれないから」
 洋子は、いったい何を緊張することがあるのだろうと思ったが、特に尋ねはしなかった。洋子の中ですでに市川に対する興味はほとんど消えうせていた。「あっそ」と呟いて、服を脱ぎ、バスルームに入った。
 シャワーのコルクをひねり、熱いお湯を頭から全身に浴びる。そして自分の胸を見た。少し、張りが落ちている気がした。仕事にがむしゃらな人生だった。その中で多くの恋も経験したし、充実した日々だったと思う。それなのに今はどういうわけか、どん詰まりだ。もう若くもない。将来の無い恋人を世話しながら、上司のうんちくを聞き流す毎日。女としても、キャリア・ウーマンとしても死んでいる。何もかもが最悪。少し前まで、シャワーの中で隠れて泣いた。今はもう涙も枯れた。シャワーが洋子の涙代わりになった。
 洋子は右手にすっぽりおさまった鋏を見た。縁を断ち切るという怪しげな鋏。夢だと思っていた。だが現実に、洋子の右手の中に、確かに存在している。だが問題は、どう使うかだ。使い方が分からないのだ。鋏売りは心を切るというようなことを言っていたが、これも同じなのだろうか。しかし、少し違うような気がする。例えば未練ならば心を切ればいい。それは自分個人のものだから。だが縁となると話は違う。縁はあくまで人と人との繋がりのことだ。個人の心でどうこうできるものではない。ならどこかそのへんの空間を切れば良いのだろうか。でもそれは少し怖い。縁は決して一本や二本ではない。大切な縁も数多くある。それらの縁をうっかり切ってしまうことになりはしないだろうか。
「ご安心くだせえ、お嬢さん。そいつはちゃあんと、お嬢さんが望んだ縁だけを切り取ってくれますからねえ」
 鋏売りが現れた。驚きすぎて、声も出なかった。洋子は慌てて胸を隠し、シャワーを止めて蹲った。それを見て鋏売りは、くししし、と気持ち悪い笑い声をあげる。そんな粗末な身体にゃ興味ござあせんよ、ご心配なく。何故か洋子には鋏売りがそう言ったように思えた。
「この縁を断ち切る鋏、いったいどうやって使ったらいいの。どこかに行って、何かを切らなければいけないとか。時間とか、距離とか、そういうのってどうなっているの」
「そおんな小難しいこと考えてたんで? 心配しなさんな。ちょいとお嬢さんが縁を切りたい相手を思い浮かべながらだね。こう、ちょきちょきっとやっちまえば済む話でさあ。ほら、何処でもドアをご存知で? あれってドアノブが利用者の意識を読み取って行き先を決めてるらしいんですがね。要するにそういうこって。お嬢さんも鋏持って、念じて、何か切るみたいにやれば、ばっさりと切れちまうって寸法なんすわ。しっかしのび太くん、しょっちゅう静香ちゃんの風呂場に侵入しとりますが、要するにそういうこって、くししし」
 鋏売りの不気味な笑いは無視して、洋子は鋏を見つめた。これで縁を断つことが出来る。二人の邪魔な存在、会社の上司と恋人の市川を思い浮かべた。断ちたい。この二人との縁を断ちたい。洋子は本気で願った。強く強く祈った。これがうまくいって、新しい自分の未来が拓けることを信じて、切った。縁を。ばっさりと。あっさりと。とても簡単に、ちょきんと動かしただけで、彼女を苦しめる縁を断ち切った。
 いつの間にか鋏売りは居なくなっていた。洋子は熱いシャワーの中、うつろな目で思った。そうだ、シャンプー買ってこなきゃ、と。彼女の手には何も無かった。バスルームの中は、シャワーの音だけが響いた。

 一週間経った。洋子は相変わらず上司とは話が合わず、恋人のことで苛立つ毎日を送っていた。結局、縁は断てなかったのだ。洋子は一人苦笑した。まったく変な夢を見たものだ、と思う。それほどまでに自分が追い詰められている、ということだろうか。一人あれこれ思いを巡らせていると、上司の高野が洋子に声をかけた。洋子は心の中で舌打ちをする。どうせまた自慢のご高説が始まるのだろう、と思った。
 だが、高野の話は洋子の想像とは全く異なっていた。
「え。私が、ですか?」
「ああ、次の新プロジェクトのリーダを務めてもらいたいと思っている」
 高野の話とは、洋子に次のプロジェクトを任せたいというものだった。今度のプロジェクトはイスラムの金融システムと日本の金融システムを繋ぐという世界でも初の試みで、社内でも注目度の高いものだった。初の試みだから、もちろんパッケージを売ってはいお仕舞いの世界ではない。要件定義からきちんとこなし、何千もの人間が関わることになる一大プロジェクトだ。洋子の会社だけでなく、さらに別の企業とも連携を取ってやっていかねばならない。そんな大きな仕事のリーダをやるということは、大きなリスクであると同時に大きなチャンスでもあった。
「で、でも。私はまだ年次の上でも、経験の上でも未熟です。他にもっと適任者がいるのでは」
「年次は関係ない。むしろ異文化とのコミュニケーションに柔軟な思考を持つ若い人間の方が的確だ。それに経験については、誰も無いのだから同じことだ。初めての試みに経験は存在しない。もちろん楠木に足りていない部分はあるだろう。しかしそこはチームメイトに支えてもらえ。もちろん、俺も全面的にバックアップする。分からないことがあれば何でも聞いてくれればいい。お前が持つべき責任を俺が背負ってやるとまでは言えんが、ある程度なら分散させられるだろう。お前一人で抱え込むのではなく、社内一丸となってやっているんだと考えろ。大丈夫、我々はいつだってそうしてきたし、これからもそうやっていく。俺はお前が適任だと判断した。だから自信を持て」
 洋子の胸に熱くこみ上げてくるものがあった。いつも衝突ばかりしていた上司が、実は自分のことをよく見ていてくれたのだ。否定ばかりされていると感じていた。だから上司は自分のことを嫌っているのだと思った。だが、それは自分の勘違いだった。
 洋子は自分の矮小さを恥じた。今日、この日が来るまで自分は何一つ気づけていなかった。不満ばかりを溜め込み、何も見ようとしていなかった。もっと早くに気づいていれば、もっと大きく成長できたかもしれないのに。小さなチャンスを常につぶしていたのは、実は自分の方だった。この認識は洋子にとって衝撃的だった。だが、と洋子は思い直す。そう、まだ大丈夫。やり直せる。たった今、チャンスが舞い込んできたばかりなのだ。これからの考え方が自分の人生を大きく左右する。まだ間に合う。洋子はそう信じた。
 ラッフルズ・プレイスのオフィスから自宅のコンドミニアムまでバスで帰った。外の景色は暗かったが、それは決して陰鬱な暗さではなかった。小さな屋台でチキンライスを売る女主人、工事現場で働く外国人労働者、バス停でバスを待つ学生たち、誰もが輝いて見えた。自分の気持ちひとつで世界が全く違って見えることに洋子は驚いていた。今日はお酒に頼らなくて済みそうだ、と思った。
 部屋のドアを開けると突然、恋人の市川が抱きついてきた。なんだかすごく上機嫌で喜んでいるようだ。洋子は、いったい何が起こったのかさっぱり分からず、困惑するばかりだった。
「ちょ、ちょっと。いったいどうしたのよ」
 市川は興奮する自分にやっと気づいたかのように慌てて洋子から離れた。そして何度も深呼吸を繰り返し、胸に手をあてて呼吸を整える。市川の顔はまるで恵比寿さんのようににんまりと笑顔が貼り付いて離れなくなったようだ。
「やったんだ。ついにやったんだよ、ちーちゃん!」
「だから、いったいどうしたって言うのよ」
 洋子はまた少し苛立ちを覚え始めた。せっかくの幸せな気分が目の前の男のせいで台無しにされる気がした。洋子が市川にとにかく落ち着いて簡潔に説明するよう促す。すると市川も真面目な顔になって、洋子をじっと見つめた。
「ちーちゃん。今まで、俺のこと支えてくれて本当にありがとう。大学を中退した俺を見捨てないで我慢してくれたちーちゃんがいたから、俺はここまでやってこれた。収入ゼロで働きもせず、部屋でずっと小説なんか書いてる俺に苛立つこともあったと思う。俺もずっと申し訳ないって思ってきた。だけど、ようやくちーちゃんに恩返し出来るようになるんだ。俺、ついに作家デビューするよ。新人賞で大賞を取れたんだ。賞金が入ったら、真っ先にちーちゃんに何かプレゼントしたい。本が出版されたら、それも是非読んでみてほしい。いや、原稿は手元にあるんだけど、それを読んでもらうのはなんだか恥ずかしくって」
 市川は、はははと笑って照れるのを隠した。洋子は呆然と市川のことを見詰めた。市川が新人賞を取ったことに驚いたというのももちろんあっただろう。だがそれ以上に、彼から発せられたお礼の言葉に胸を打たれたのだ。自分の苦労をきちんと理解していて、その上それを申し訳なく思っていたという市川の言葉が嬉しくてたまらなかったのだ。
「義文……、泣いてるの?」
 市川は泣いていた。零れ落ちる涙を抑えきれずに号泣していた。けれどそれは洋子も同じだった。彼女は自分の視界がぼやけていることに、しばらく気づかなかった。二人とも泣いていた。そのことに互いに気づくと、自然と笑顔があふれた。笑いが止まらなかった。泣いて、笑って、また泣いて。互いにそれを繰り返し、最後にキスをした。
 少し泣きつかれた二人は、洗面台で顔を洗った。顔をぐしゃぐしゃにしたまま、洗面台が空くのを待っている市川が滑稽だと洋子は笑った。市川も微妙な顔をして、勘弁してくれよと呟く。何かが氷解していくのを洋子は強く感じた。
 二人でお祝いをしようという話になった。どこかに出かけようかと市川が提案したが、洋子は二人きりがいいと答えた。
「そうか。じゃあ、何か買ってこないといけないな」
「赤ワインがあるから、チーズが欲しいわね」
 そう言って洋子は、随分昔に購入したシャトー・ムートン・ロートシルトを思い浮かべた。何かお祝い事をするときのために、と奮発して購入したものだ。コンビニで手に入るワインとは桁が二つほど違う。しかし長らくお祝い事などとは無縁の生活を送ってきたため、ワインセラーの中で埃を被ることとなったのだ。それがこんなかたちで飲める日が来ようとは、洋子は夢にも思っていなかった。
 一緒に行くという洋子を制して、市川は一人で買出しに行った。ここからならリァン・コートが近い。日本の明治屋が地下にあるショッピングモールで、品揃えがなかなかいい。値段もそれなりにするが、チーズの種類が豊富なのだ。
 洋子は今日一日で立て続けに起きた幸せをどう受け止めるべきかと考えた。あまりに幸せ過ぎて、反動が怖いくらいだ。いや、これは今まで不幸だった分の幸せが一気にやって来たと考えるべきか。洋子はソファに行き、クッションを抱きしめた。温かい何かが自分を満たしている。つい一週間前まで人生お先真っ暗と思っていたのが嘘のようだった。
 その時、携帯電話の着信音が鳴った。見ると会社の同僚からだった。なんだろうと思いつつ、通話モードにする。「ハーイ?」と少し明るめに声を出した洋子に対して、同僚の声ははるかに深刻な響きを持っていた。
「え? 何、よく聞き取れないんだけど」
 電波の状況が悪いのかな。そう洋子は思った。実際にそうだったのかもしれない。けれどたとえそうでなかったとしても、洋子の脳は同僚のもたらした情報を受け付けなかっただろう。繰り返し尋ねる洋子に同僚は業を煮やし、大声で応えた。
「だから、高野さんが落ちたのよ! ビルの上から。今、オフィスはとんでもない騒ぎよ。警察も来てて、ああもう、何がなんだか分からない。事故なのか。ひょっとしたら自殺じゃないかなんて話も出てて、とにかくこっち来てよ! もうどうしたらいいか、分かんないよ!」
 携帯電話を床に落とした。同僚が何かを叫んでいるが、洋子の耳には入ってこない。
 すでに高野が死んでいるとして、洋子が行って出来ることは何もない。警察の事情聴取を受けて時間を無駄に過ごすだけだろう。
 どうして。洋子の頭の中はその言葉で埋め尽くされた。どうして彼が死んだのか。どうして。どうして。どうして。
 洋子の中で、何かざわつくものを感じた。そうだ、あの鋏。縁を断ち切る鋏。ひょっとしてあの鋏の効果が今……。根拠などない。ただの直感だった。ただし、その直感は限りなく確信に近く、洋子は半狂乱になる。キーカードだけを持って部屋を飛び出す。市川は携帯を持っていないから、携帯電話は必要ない。エレベータを待つのがじれったい。一分がまるで一時間かのように感じられた。洋子は今、市川が上司と同じ道を辿るのではないかと、そればかりを考えていた。
 どうして。そう、どうして。どうして自分はあんな軽率なことをしてしまったのだろう。誰かとの縁を切ることはとても難しい。自分はその苦労を負うのが嫌だった。だから鋏なんかに頼ってしまった。けれど、そんなことはやはり間違っていたのだ。上司にきちんと相談していれば、もっと早くに打ち解けたかもしれないのに。恋人ときちんと話し合っていれば、もっと早くに分かり合えたかもしれないのに。自分はそうできる機会を持っていたのに。それを全部捨てて、勝手に腐っていた。全てを他人のせいにしていた。
 洋子は後悔と絶望がないまぜになった状態で走った。エレベータを降りてからはとにかく走った。リァン・コートまでそれほど遠くない。なのに、今は果てしなく遠い道のりに思える。一秒が狂おしいほどに惜しい。早く、早く、早く!
 リァン・コートが見えてきた。もう少しだ。そう思った直後、人だかりが見えた。普段、そこに誰かが集まるようなことはない、普通の道路だ。人だかりの近くに救急車が見える。嫌な予感が破裂しそうなほど膨れ上がる。何かがあった。でもその何かと市川とは関係ない。そう願った。強く願った。人ごみに近づく。隙間から誰かが倒れているのが見えた。市川が着ていたのと同じ服? いいや違う、ちょっと似ているけど違う服だ。そう願った。強く願った。人ごみをかきわける。誰かが「Japanese」と言うのが聞こえた。市川じゃない、きっと別の日本人だ。そう願った。強く願った。
 洋子は倒れた人物の正面まで来た。周りを囲む人々、救急隊員がじろりと洋子を見る。けれどそんなことに洋子は構っていられなかった。倒れている人物を見る。うつぶせに倒れている。靴、見覚えがある。服装、見覚えがある。髪型、見覚えがある。全部、見覚えがある。当たり前だ。ついさっきまで、ゼロメートルの距離で見ていたのだから。倒れていたのは、市川だった。横顔しか見えないが、間違いなく洋子の恋人だった。首と左足が変な風にねじまがっていても、それは正真正銘市川義文だった。
「い」
 洋子にはもう何も見えなかった。世界が完全にぐにゃぐにゃに歪んでしまって、ほんの数センチ先も見えていなかった。熱いものが頬を伝うのを感じた。その熱さが、洋子に理性と悲しみを返した。
「やああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「お代は気にせんでもよろしいよ。お嬢ちゃんが死んだ後に受け取る仕組みになってるかんね」
 鋏売りはそういって、くししし、と笑った。洋子は泣いていた。どうして自分が泣いているのかも分からずに泣いていた。そこは鋏だらけの部屋だった。エキノクスから喫煙室に行く途中で迷い込んだ、あの小部屋の中に洋子は立って、今まさに一歩踏み出そうとしたところだった。しかし洋子は踏みとどまる。そしてきびすを返し、ドアノブに手をかける。
「おんやあ? もう行っちゃうのかい?」
 鋏売りの少し寂しそうな声に応えて洋子は言った。
「ええ。どうもありがとう」
「いんえいえ、どういたしましてえ」
 コンドミニアムに帰ると、恋人の市川義文がインターネットで何処かのサイトを見ていた。選考結果という文字が書いてあり、人の名前がいくつも並んでいた。洋子はシャワーを浴びると言い、市川も一緒にどうかと言う。市川は緊張しているから遠慮すると言った。すると洋子は服を脱がず、そのまま市川の傍に行った。
「どうして、緊張しているの?」
 洋子は市川に尋ねた。これで解決。これで全ての問題は解消される。恋人との関係がうまくいくことで心に余裕が生まれる。そうして上司の話に耳を傾けるようになる。ハッピーエンド。
 洋子は泣いていた。世界の全てが歪んでしまうほどに。世界の全てが歪めばいいと。世界の全てが歪んでいると。洋子は泣いていた。
2009-12-08 16:11:40公開 / 作者:プリウス
■この作品の著作権はプリウスさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
(作者さんたちの名前は全て変更しました)

こんにちは、プリウスです。
鋏屋さんが「男祭りはダメだ」みたいに言っていたので、むしろ男祭りに意欲を燃え上がらせたプリウスです。
作者さんたちの名前を使うのがルールっぽいので、従って描いてみました。
内容が内容だけに、とりあえず謝っておきます、ごめんなさい。

>千尋さん
千尋さんの『ブリッジ』を読んで、あの女の人はむしろ千尋さんなのだと思い、とりあえずバーにいるところから話を始めてみました。
自宅にもちゃんと上等な酒を置いているという設定にして、完全に酒スキーなキャラに仕上がりました。
ごめんなさい。

>鋏屋さん
いや、本当にごめんなさい。
鋏屋さんの外見描写はとりあえずクロックタワーをイメージしました。
登場の仕方とか雰囲気とかは、村上春樹の羊男をより邪悪にした感じです。
本当に、心から、申し訳ない。

>上野文さん
上野さんが男なのか女なのかはよく分からず、とりあえず男ということにしておきました。
千尋さんとラブラブということで、ひとつ、よろしくお願いします(何をだ)

>甘木さん
甘木さんのコメントはけっこう辛口なものが多いなということで、こんな人物にさせていただきました。
登場場面は短いですが、けっこういい上司だなあと自分では思っております。

【以下、真面目にあとがき】
物語の基本骨子は実は完全オリジナルではなく、子供の頃に見た世にも奇妙な物語を土台にしています。
題名は忘れてしまいましたが、その物語は小学生の女の子が義理の父やいじめっ子を呪うというものです。
すぐには効果が出ないのに、十数年後、その子といじめっ子が結婚するというような幸せシチュエーションの頃に呪いの効果が現れるというものでした。
それは結局、女の子がイメージした未来で、実際には起こっていないという展開に落ち着いていましたが、印象深い作品でした。
何か問題を解決しようとするとき、どうしても人間、楽な方に傾きがちです。
それ自体は決して悪いことではないのですが、苦しみを回避した代償というものを必ず念頭に置かなければなりません。
さて物語の舞台について。
場所はシンガポールという東南アジアに位置する都市国家です。
東京23区と同じくらいという極めて小さな面積しかありませんが、世界有数の近代都市です。
日本人にはあまり馴染みの無い土地と思われていますが、実はシンガポールには2万人もの日本人が暮らしています。
人口400万人中2万人ですから、けっこうな数字です。
日本企業も数多く進出しており、日本との繋がりはかなり深いものです。
作中に散りばめた名前は全て実在するものです。
エキノクスも実在のバーで、景色がロマンチックなところです。
コンサルタントの事情などは聞きかじったものに過ぎず、誤っている部分があるかもしれません。
シンガポール・スリングは、名前の通りシンガポール名物のカクテルで、どこでも飲めます。
日本で頼むと全然微妙なんですが、本場はなかなかトロピカルです。
マイタイはハワイのカクテルで、これも本場がいいですね。
シャトー・ムートン・ロートシルトは僕が今まで飲んだ中で最高に美味しい赤ワイン。
もう味なんか忘れてしまったけど、飲んだ時の感動は未だに忘れられません。
色々お酒を書き連ねましたが、本当の僕はウィスキー派です。
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 プリウス様。
 あえて苦言を申し上げます。
 HNといえど、他人の名前を「借りている」自覚はありますか?
 書き手の想像した投稿者のキャラクターを出演させるから面白い「遊び」なんであって、プリウス様の作った独自キャラに勝手に名前を使われるのは、はっきり言って不快です。
 物語も中途半端でひとりよがり、私としては、この小説に、私と、私の大切な友人のHNやイメージを、使って欲しくありません。
2009-12-08 12:02:43【★☆☆☆☆】上野文
千尋です。
 うーん。私は、作品自体、面白いと思いましたけどね。いや、私の名前が使われているっていう点をのぞいても。でも、名前を使うということは、互いにある程度の了解点というか、信頼関係がないと難しいかもしれませんね。鋏屋様や羽堕様の作品は、いわばそういう今までの関係の上にたったものだったのかな、とも思います。
 ですから、その輪から外れた人たちから見れば、羽堕様の作品に対する一部コメントにもあったような意見も出てくるでしょうし、私など、新参者なんかは、ちょっと入りづらいな、というのは正直あります。
 この作品の登場人物も、一応、プリウス様なりの投稿者に対するイメージから生まれたものなのだと思うので、これまでの作品と非常に異なったものとは感じませんでした。違うとすれば、やっぱり上記のような了解点の有無なのかな、と思います。
 大丈夫、私はOKですよ。でも、やっぱりコソバユイというか、評価しづらいのはありますねー。いい役だけに余計ですな;; でもちょっとマイナスは厳しすぎる気がするので、勇気を振り絞ってポイントつけます。0型は平和主義者なので、ごめんなさい。
 プリウス様。楽しかったですよ。これからも、お互いにいい作品を書けるよう頑張りましょう!
2009-12-08 14:16:37【★★★★★】千尋
>上野文さん
不快にさせてしまい申し訳ありません。
僕自身はそういうことにまったく頓着しない人間なので、配慮が至りませんでした。
キャラクタと個人名にさほど深い繋がりは無いので、全て名前を変えました。
ただし「鋏屋」だけはこの物語の鍵なので、変えても「鋏売り」という微妙な感じですが。
どうかご了承いただけたらと思います。
内容について独りよがりとの指摘ですが、その通りかもしれません。
僕はあくまで僕個人の強い意見、主張を小説に載せなければ意味が無いと思っています。
それは何もシリアスな文章だけでなく、コメディタッチで書いている文章においても変わりません。
伝えたいことがあって、それを小説という媒介を利用しているだけなのです。
この作品も遊びではありますが、真剣に書き上げたという点では譲れません。
なので、HNは全て修正しました。
そういう詰まらないところを抜きにして本作を読んでほしいからです。
例えば、僕はきちんと完結させたつもりなのですが、「中途半端」と言われるということは何かが足りていないということかと思います。
こうすればいい、などのアドバイスがあれば是非ご教授願いたく思います。

>千尋さん
ポイント追加ありがとうございます。
僕もO型の平和主義者ですよ(笑)
なのでHNの使用は即行でやめました。
強いこだわりの無い部分は簡単に諦められます。
相手を不快にさせたいわけではなく、むしろこうしたら面白いと思ってもらえるんじゃないかななんて甘い考えだったのが良くないですね。
けれど上野さんのようにはっきり言ってもらえて良かったです。
それでは今後とも、よろしくお願いします。
2009-12-08 16:29:45【☆☆☆☆☆】プリウス
 こんばんは、プリウス様。上野文です。
 昼時は失礼しました。少し言葉が過ぎました。
 千尋さんもポイントの修正、ありがとうございました。

 プリウス様が作品にこめられるメッセージ性や雑学ネタについては、構いませんし、むしろ面白いと思っています。
 が、今回の初稿については…。プリウス様は、たとえば、実在とわかる有名な野球選手や著名人が、夢おちENDでも殺したり殺されたりするホラーを書いた小説が投稿されたら、どのように映りますか? そして、”その小説が、自分や自分が親しく思う方の名前で書かれていたら”?
 お祭りネタで楽しむならプリウス様はコメディを書かれることもできましたし、シリアスで通されるなら、読み手の感情を逆なで、あるいは間口を狭くする手段をとられることはなかったはずです。
 そういった第一稿ちぐはぐさが、私にはあまり良い印象ではなかったのです。
 第二稿、イメージががらっとかわって、十分に面白いと思います。失礼しました。
2009-12-08 22:11:34【☆☆☆☆☆】上野文
>上野文さん
 感想ありがとうございます。
 繰り返しになってしまいますが、僕はそういったことに全く頓着しない人間なのです。例えば自分の名前が使われて、自分が凶悪な殺人犯だったり、殺される被害者だったりしても全然気にしません。なので今回も読み手の気持ちを逆なでしようといった意図は無く、ただ「ルール」(男をタイトルに挿入し、作者の名前を使用すること)に沿って物語りを描こうと思っただけなのです。
 その上で、こうしたことを不快に思う人がいるということに配慮出来なかったことが、僕の至らなさなのです。僕自身のHNは目の前にあるPCの名前を付けただけというしごく単純なもので、何の思い入れもありません。しかしだからといって、他の人もHNに思い入れが無いと思ってはいけませんでした。
 ただ、これはホラーでなくてはなりません。安易な選択が取り返しのつかない悲劇を起こすことの恐怖。それを描きたかったのです。しかし安易なHNの使用のために、こんな結果になってしまったことは僕への皮肉ではあります。
 最後に、僕には他者を貶す意図は一切無かったということだけ、ご理解ください。
2009-12-09 03:00:51【☆☆☆☆☆】プリウス
お客様、鋏はいかがでしょう? 紙を裂き、髪を切り、糸を裁ち、縁を絶つ…… 使い方は人心様々、此処には数多の鋏がございます……

どうも、鋏屋でございます。
上にある文殿のコメントの件に関してはよくわかりませんが……  実は某書き手さんのHPにある作品に嵌ってしまい読み続けていましたもので、読むのが遅れてしまいましたw
いまいち状況がわからないのですが、やはり『投稿』という手法で作品をパブリックにしている以上、書く側は色々気を遣わなければならないという事を改めて思った次第です(反省) 本人にそのような意志が全くなかったにせよ、やはりそれに気分を害する方が居るのは事実なわけですから……
羽墜殿の作品にあったコメントも、その通りなんですよね。私はホント洒落で書いたのですが、もしかしたら、コメントがないだけで『てめぇコノヤロ』みたいな感情を持ってらっしゃってる方が居るかもしれません。8割方その酷評を覚悟していたんですが、皆さんなま暖かくスルーしてくれました。ただ、『入りづらい』という事に関しては配慮をするべきでした。別に『書き手さん』の名前でなくとも良いんですよね、当たり前のことですが…… 
物語については、私は面白かったです。私は俗に言う『お化け』や『幽霊』にあまり恐怖を感じないのです。信じてはいます。と言うか、出来ればいて欲しい。呪われて不幸になったり死んだりするのは嫌ですけど、実際にいるのなら会ってみたいって思ってますw
こんな私なので、こういう不思議な怖さ、または人の狂気といったサイコスリラー的な物のホラーの方が好きです くしししっww
次回作もお待ちしております。
鋏屋でした。
2009-12-10 11:37:59【☆☆☆☆☆】鋏屋
こんにちは! 羽堕です♪
 私は反省するべき方ですので、これから良い作品を書けるように、お互いに頑張りましょう!
 感想は市川を追い出せない洋子には「市川の為にも追い出すべきだよ!」と言ってあげたくなりましたが、そこにはどうしようもない想いもあったのだろうから、しょうがないのかなと思ったりもしました。縁を切る鋏を手にしてしまう洋子の気持ちは分かる気がします。でもきっと信じ切っていなかったから使ったんじゃないかなって、少なくとも市川とは本当に縁を切りたかった訳じゃないだろうなって思えたので。てっきり成功した市川に裏切られて、恋人としての縁は切れて……みたいなのを想像してましたが、ラストにハッピーエンドで良かったです。ただ鋏屋の目的は、何だったのかな? と思いました。
であ次回作を楽しみにしています♪
2009-12-10 13:20:56【☆☆☆☆☆】羽堕
>鋏屋さん
 羊男をイメージしたつもりが、じつは笑うせぇるすまんだったんじゃないかと考えているところです。感想ありがとうございます^^
 恐怖って演出するの、実はけっこう難しいなって思います。特に小説で人を怖がらせるのは並大抵の技術では難しい。映画が簡単とは言わないけれど、特殊効果や音楽でけっこうびびらせることができる。でも文章だと、読み手は冷静ですからw
 では、今後ともよろしくおねがいします。

>羽堕さん
 最後はハッピーエンドかどうか分からない仕様です。そして鋏屋の目的もよく分からない感じにしています。「死後に」云々と語らせて、少し悪魔っぽさを演出したつもりだったんですが、うまく伝えきれてないようですね。ただし、そこも含めて結局何者か分からない、不気味な存在という位置づけです。主人公の心の中だけの出来事という解釈もありです。
 女性を主人公に置いた場合、その心理描写に苦戦します。ところどころ女性としての考えでは不自然なところもあるかもしれません。このへんはもう、妄想たくましくするしかない感じです(笑)

 今は構想温め中ですので、次回作はしばらく先になります。その時はまたご愛顧のほど、よろしくお願いします。
2009-12-10 21:54:40【☆☆☆☆☆】プリウス
作品を読ませていただきました。作品そのものは何がなんでもシンガポールって言うのが鼻について私の好みではなかったけど、小説として見れば十二分に読める水準の作品だったと思います。
私はHNだろうが本名だろうがそのまま書かれても気にしませんよ。だって所詮は創作物の中の登場人物であり現実の私とは別物ですから。カーネギーやナポレオン・ヒルが売れるのはこういう人(上司)が買っているのか(笑。
では、次回作品を期待しています。
2009-12-10 23:09:20【☆☆☆☆☆】甘木
>甘木さん
 感想ありがとうございます。シンガポールを前面に押し過ぎでしたか。街のことを知らない人にも伝わるようにと頑張って描いたのですが、いまいちだったようで残念です。
 カーネギーの名前をさらりと出しましたが、実は読んだことないのです。ドラッカーと大前研一はあるのですが、それだけだとボリューム不足を感じたので、それっぽい名前というだけで引用しました。でもさほど変ではないかなと思います(笑)
 では、今後ともよろしくお願いします。
2009-12-11 00:01:23【☆☆☆☆☆】プリウス
計:6点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。