『しりとり』作者:Aの指定席 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
 臨界点の暑さから逃げるように、男二人はリビングで惰性を貪る。特にやることもなく時間を持て余した二人は、暑さにやられたのか暑さにやられぬためなのか、せめて時間つぶしになにかしようと考える。そうして片方の口から出てきたものが、そう――しりとり。
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原稿用紙約5.74枚
 リビングでだらだらと過ごしていた、昼下がりの事。
「唐突だけどさ、しりとりしようぜ」
「絶対やらねえ」
 炎天下を避けるように男二人、自室に籠ってやることがしりとりとはどういう了見だ。
「だったら他に何かやらないか? さっきからずっと部屋でだらけてるだけだし」
「仕方ねえだろ、暑いんだから」
「ラーメンは食ったくせに……。俺は冷やし中華を食べようと言っただろう」
「うるせえ、ラーメンは夏に食うから美味いんだよ。けど夏だからってだらけないという道理はねえ」
「エアコンがんがん効いているこの部屋で、暑いだの何だのいうのがそもそもお門違いじゃないか」
 返す言葉もございません。でも暑いものは暑いのです。
「すげーよなエアコン。文明の力ってやつ? まさに力こそパワーだな」
「なあ、これはあくまでも仮の話なんだが。もしかして文明の利器の利器をチカラだと思ってないか? 利益の利に器で利器っていうんだぞ、あれは……」
「……はは、そんなの知ってるって。ただのジョークじゃないか…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……で、しりとりしないか」
「関係ねえだろ、それとこれとは」
「話は逸れたが、元からその話をしていたんだから別にいいだろ。で、しりとりをやるのか、やらないのか」
「掻い摘んで説明すると、やりたくありません。なぜなら、つまらなそうだからです」
「少し勘違いをしているようだが、俺は現在のこの状態がつまらないから、せめてしりとりくらいはしないかと言ってるんだが」
「ガキじゃあるまいし、もっと他の事でもいいだろう」
「茹だるような暑さの中、さわやかな笑顔で散歩でもしに行くか」
「帰ってください、そのまま家に。そして勝手に散歩をして下さい」
 嫌だ嫌だと暑さに対してバッシングをしているこの俺に、こいつは喧嘩を売っているのだろうか。
「帰ってもやることないからここにいるんじゃないか」
「帰ってやることを見つけて下さい」
「いいじゃないか、しりとりくらい」
「いえ、しりとりは結構です」
「すげえ楽しいよ、いやマジでさ」
「さっきからしりとりをプッシュし過ぎじゃありませんかね。もっと他に何かないの」
「ノートにマルバツでも書くか」
 改善策として出てきたのがマルバツゲームかよ。
「ようするになんだ、お前はそういうシンプルなミニゲームをやりたいのか」
「掻い摘んで答えると、つまりそういうこと」
「特別今やるようなもんでもないだろ……特にしりとりは二人でやってもなあ」
「案外いけるよ、二人しりとり。これは本当」
「嘘つけよ、絶対どっちかが同じ文字使ってハメに入るだろ」
「ローカルルールつければいいじゃないか。ジャンル縛りでもいいしさ」
 流石に、あまりにしつこいのであしらうのもめんどくさくなってきた。
「たくっ、そこまでやりたいなら別にいいよ。付き合う」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。じゃあ始めようか」
 開始といわんばかりに俄かにテンションが上がる対戦相手を見て、俺は逆にげんなりとした。
 タイマンでしりとりならまあ、単語も豊富ではあるし、適当に答えていればその内に終わるだろう。
「うし、いつでもこい」
「いくぞ。じゃあしりとりの、りからで……りんご」
「ごりら」
「ラピスラズリ」
「リス」
「スリ」
「リンボーダンス」
「数理」
「臨時会議を開きたいと思います。被告人、正座しなさい」
「いきなりどうしたんだ」
「だってお前、ハメるハメないの話があったのに既にハメてんじゃねえかよ!」
「よくあることじゃないか、そのくらい」
「いやねえよ! ラピスラズリのあたりから確実に殺意が芽生えてたよ!」
「邪な目で僕のしりとりングを汚さないでくれ。純粋に好きな単語を選んだ結果だ」
「黙れこの詐欺師め。コーメイの罠だってことはわかってるんだよ」
「よし、そこまでいうなら仕方ない。お前が先に始めるがいい」
「いい度胸じゃねえか、俺も次からは容赦しないからな。……ちなみに、さっき使った単語は使用済みのままね、念のため」
「めざといな」
「何とでもいうがいい。じゃありから……リストラ」
「ランス」
「スカイダイビング」
「グラス」
「スパイ」
「椅子」
「スイカ」
「カラス」
「スルメ」
「メス」
「寿司」
「ショーケース」
「スコール」
「留守」
「スズメ」
「メントス」
「ストライキ」
「キス」
「ストーカー」
「空き巣」
「素潜り」
「リンス」
「す、す……」
「…………」
「……す……! 酢! あのすっぱいやつ! どうだざまあみろ、酢!」
「煤」
「す、スス……?」
「……煤、わからない?」
「いや、煤ですよね。あの黒いやつ」
「続けようか、まだ始まったばかりだしさ」
「さ、殺意高いですね……」
 ……その後、俺は逆転する間も無く敗北した。
 ただ一つ、これをきっかけにして決めたことがあった。
 例え泣いて頼まれたとしても、この夏に限っては、しりとりをしようと言ってきた奴とは、しりとりをしない。
 いいかわかったな、絶対だぞ。絶対しないからな、しりとりなんて!
 ていうか、この物語は、ただそれだけで終わる話。
2009-08-19 23:52:36公開 / 作者:Aの指定席
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■作者からのメッセージ
 思いつきもいいところの、勢いだけの作品になってしまいました。
 コメディ調が苦手で、その習作も兼ねています。
 内容としては男二人がしりとりをするだけのお話なので、片方を女の子にして、もう少し色のある物語にしてもよかったかもしれません……。
この作品に対する感想 - 昇順
2009-08-21 23:09:26【☆☆☆☆☆】毛記名
計:0点
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