『冒険したい!第三話(ロカとマディと遠い約束 前編)』作者:インフィ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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人通りの多い街の中央通りと東通りを繋ぐ暗い路地裏。
少年が走っている。その手にはたくさんの果物が抱えられていた。
「ハァハァ・・・」
息が苦しい。当然だ。もう10分以上は全力で走っている。発達した大人の体ならまだしも、少年は10歳になったばかりだった。
ボロボロのジーパンを穿き、穴だらけのシャツを着ながら冬の凍える寒さの中走りつづける。
幼い肌は乾燥して傷み、。靴を履いていない素足からは血が滲んでいた。コンクリートの地面を走っている内に傷つけたのだ。
少年の後方、およそ30メートルのところから、ハゲ頭のちょっと太った中年男が何か叫びながら少年を追いかけてくる。どうやら少年はこの男から逃げている様だ。男のしているエプロンには、『ベジタブル&フルーツ ニューハウス』と書いてあった。
男と少年の距離は、長い間やや縮まったり開いたりを繰り返し、安定した距離を保ちつづけていたが、ここへきて10分以上も追い掛け回されている少年の体力は限界に来ていた。
「ハァハァ・・・しつこいな。店先に並んでた物を・・・ハァ、ちょっと盗んだ位で何もここまでハァハァ・・・追っかけ回さなくてもいいじゃないか。」
激しく息を切らせながら少年は呟いた。二人の追いかけっこの理由は、八百屋の店先にあったものを少年が盗み、その店主だった男が少年を捕まえようとしているだけという、何だかわかりやすいものだった。
『ちょっとだけ』少年は言っているが、その言葉とは裏腹に、その両手には抱えきれないほどのたくさんの果物があった。こんだけ大量に盗めばしつこく追いかけ回されるのは当然だろう。数の問題ではないかも知れないが・・・。
それにしてもまだ10歳になったばかりの少年が物を盗まなければいけない現実は、何か複雑な事情があるに違いなかった。

もうすぐ東の大通りに出るという所で「クソガキ!」
という追いかけてくる男の怒鳴り声がはっきり近くに聞こえる。
「もうだめだ・・・」
もう何年も舗装されてない、荒れた路地裏の冷たいコンクリート地面の飛び出たコンクリートが少年の足の裏を傷つけた。その痛みが体中に走る。
汗と疲労で目がかすみ、視界がぼやけていた。そのぼやけた視界に突然人影が映る。
「ぐわっ。」
少年は誰かとぶつかり倒れた。その手にあった果物は、辺りにころころと散らばっていた・・・。


「痛!・・・な、何なんだい急に・・・」
少年とぶつかったのは女性だった。見たところ30歳前後といったところだろう
女性にしては少し大きめの体の丁度お腹の部分を抑えている。
少年は倒れた状態で女性を見上げた。そして思わず見とれてしまった。ちょっと丸顔の優しそうな顔つきは、何だかずっと前に死んだ母親に似ている。
女性は少年の視線を不思議に思う。少年はしばし女性を見つめていたが、「逃げなくては」と思い、立ち上がろうとした。だがもう疲れで足が動かない。
そんな時、少年は倒れている自分の後頭部から異様な殺気を感じた。少年が後を振り向くと、そこには自分を追いかけていた男が立っている。男はすさまじい形相で小年を見下ろしていた。
「クソガキ〜もう逃げられんぞ・・・。さーてどうやって料理してやろうかな。」
男はにやにやと笑う。やっと捕らえた獲物の料理法を考えているようだ。だが、少年の前に立っている女性を見ると、顔つきが変わった。
「マ、マディじゃねえか。久しぶりだな〜。最近全くみなかったけど元気にしてたか?」
マディと呼ばれた女性は、何がなんだかわからないという顔つきをしていた。男はそれを見て、すかさず説明する。
「このガキがよぉ、大胆にも俺の店先から果物を盗ってきやがったんだ。」
(なるほどね・・・)マディは男の言葉と少年の汚い身なりですべてを理解した。そして
「ごめんなさいロブさん。この子私のちょっとした知り合いなのよ。盗んだ品物の代金は払うから許してあげてくれないかしら。もちろん私の方からきつ〜く言っておくわ。」
と言うと頭を下げた。
二人は驚いた。特に少年は、(何故この見ず知らずの女性は自分を助けてくれようとしているんだろう・・・)と思い、口を開けてマディを見ている。
男は焦った。そして何か不満げな顔をしながら
「まあ・・・マディの知り合いなら仕方ねえな・・・分かった金はいいや。今回は・・・目をつぶってやるよ。」
と言った。知り合いに頭を下げて頼まれては仕方ない。やり場のない怒りを抱えつまらなそうにふてくされていたが、マディが
「ありがとうロブさん〜」
と言うと、だらしない照れ笑いを見せた。そして少年を見て
「ガキ!!!」と言い、ガツンと一発頭を殴ると、中央通りの方に戻って行った。


「あ、ありがとう・・・。」
少年はマディが親切で自分を助けてくれたんだと思い、頭を下げた。
だが、マディは予想外の言葉を返す。
「ん?何勘違いしてるのさ。あんたはこれで私に借りが出来たの!借りはウチの店でしばらく働いて返してもらうよ。」
さっきまでの優しい笑顔が嘘の様に、マディはにやっと笑う。少年はぽか〜んと口を開けてマディを見ている。黙り込んで呆けている少年を見て、マディは言い放った。
「あ・・・別にいいのよ?今からさっきのおじさんに引き渡しても。ただあのオジサンが怒ったら怖いわよ〜。まず五体満足じゃ帰れないでしょうね。」
少年は思った。(何だこの女は!?・・・親切じゃなくて貸しを作る気で僕を助けたのか・・・)
だがもうそれは後の祭りだった。今更八百屋まで連れていかれて引き渡されても、もう店主の怒りに耐えられるだけの体力はないだろう。
(やられた・・・)
少年はただがっくりとうなだれている。マディは優しそうな顔をしているくせに、なんだか時々にやっと笑う口元が怪しい。
「まあいいじゃないか。住むところも無いんだろう?とりあえず私のお店はすぐそこだからおいでよ。」
マディは歩き出す。少年は一瞬逃げようとしたが、寒空の下、もう野宿は嫌だったので付いていく事にした。とりあえず生活には困らなそうである。
そして肝心な事を聞いた。
「何の店なんだ?」
マディは立ち止まり、答える。
「おかしいねえ・・・ベーカリー『ママの味』は美人の店主がいる事で有名なんだけどねぇ。」
少年はまたも唖然とした。そしてつっこもうとしたが、マディのパンチは痛そうだったのでやめておいた。そして
「あんた、名前は?」
と聞かれると、「ロ、ロカ!」と慌てて答えた。
「おや、良い名前じゃないか。私はマディ、よろしくね。」
そう言って優しく微笑むマディを見て(やっぱり良い人かも・・・。)と思ったが、その笑顔のすぐ後にまた例のにやっという笑いになったので、(やっぱり逃げたほうがいいのかな・・・)と悩んだ。
こうして二人は東の大通りに消えていった。
これが後に親子になる二人の出会い。この時すでにマディのお腹の中にはリックが宿っていた・・・
2003-11-30 11:46:59公開 / 作者:インフィ
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■作者からのメッセージ
幼い頃に母親を無くした少年と、優しい女性の出会いです。
ロカの話ですが、リックのことをどうか覚えておいて下さいm(__;)m
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