『自分の口に……』作者:人の火の粉 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
偽装をする冷凍食品会社に勤めている一人の男性の物語。
全角1728文字
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原稿用紙約4.32枚
 俺はある冷凍食品会社に勤めている。そこそこの売上を出してそれなりの給料も貰っているって所だ。別に可笑しな所も無い普通の冷凍食品を売っていたのさ。食べ物を冷凍させて、売りに出すようなもんだからな。勿論俺も食べていたさ、一人暮らしの俺にとってはいい食べ物だった。
 だが、ある事を切っ掛けに俺はその会社が作っている冷凍食品を食べなくなった。別に深い理由なんて無い、その会社が冷凍食品の食べ物を偽装しただけだからな。
 普通の牛肉をブランド品と偽って商店に出す。別にいいじゃないか、誰もがその肉をブランド品だと思って口に入れるんだらかよぉ。だからって自分が食べる気もしない。だってそうだろ? わざわざたけぇ金払って安い肉を買うという事だ。だから俺は食べなくなった。
 会社側にとっちゃあ消費者には知られたくないんだよなぁ。安い金で仕入れた物を高値で売る、最高じゃねぇか。会社側が儲かれば、俺の寂しい財布の中もぽっかぽかになるのも近くはねぇはずだ。
 さて今俺は何処にいると思う? 会社? 家? どれも違う。俺は今、腕に偽装の書類がずっしりと詰まった封筒を持って警察署内にいる。

 冬頃だったか。会社の偽装がさらに酷さを増し、必要以上の農薬が検出され破棄されたはずの野菜を冷凍食品に混ぜ、商店に出していた。破棄される食べ物の価値は、ほぼ零に等しい。その為会社側はかなりの儲けが出ていた。ん? もしかしてその売上が出たのに給料が上がらなくてその腹いせに偽装を明かそうとしている? そんなんじゃねぇよ。もっと大事なことに気が付いてしまったんだよ……。
 正月間近と言うこともあって、俺は新幹線で御袋がいる実家に向かった。実家にはいくつも新幹線や電車を乗り換える必要があったから色々と大変だったが実家に近づくにつれ木が増えていき、それに比例するように家が少なくなっていった。
 駅を降りると辺りは雪だらけ。道には明らかに雪を退かしたと言う形跡があるが、真新しい雪が積もっていた。
 辺りには前通っていた駄菓子屋や豆腐屋など、懐かしの姿そのままで残っていた。あまりにも懐かしすぎて涙がほろりと出てきたぐらい懐かしかった。
 俺は遠足ではしゃぐ子供のようなルンルン気分で雪をふんずけていった。俺が住んでいる都会には雪があまり降らないから、珍しかったからかもしれない。たまに深いところがあって片足が雪に飲み込まれたりしたけど、楽しかった。
 辺りの懐かしさをしみじみに感じていると、駅から離れたところにある実家が見えてきた。
 そんなに大きくないが、自分が昔住んでいた家と全く変わっていない。ちくしょう、懐かしすぎて涙がとまらなじゃねぇか……。
 俺は腕で目にこびり付いている雫をふき取ると、家の扉を開けた。
 ガラガラと鳴りながらスライドする扉。
「ただいま」
「あら、お帰り」
 すぐさま返事がし、家の奥から御袋が出てきた。俺が覚えている御袋よりも皺が増えて、少しふけたな……あたりまえか。
「丁度帰ってくる頃じゃないかと思ってご飯を並べていたんだよ。ささ、早く食べないとさめちゃうよ」
 そう言い御袋はまた奥に行ってしまった。
 俺もその後に続こうと足を進めたが、近くのごみ箱からはみ出しているパックに見覚えがあった。
 そのごみ箱からパックを取り出してみると、愕然とした。俺の勤めている会社の冷凍食品、しかも偽装された奴であった。
 農薬が規定よりも多く含まれた危険な野菜を使った冷凍食品。
 御袋……食っちまったのか……。
 その時、俺は懐かしさの時よりも大粒の涙を流した。必死に涙を堪え様とも堪え切れずにでつづけてくる。
 俺は今まで自分の口に入らなければいいと思っていた、だからこそ偽装を今まで黙っていた。だが今気が付いた。
 自分の口に入らずとも身近な人を騙し、蝕みつづけていることに……。
 
 だから、俺は此処にいる。必ず今も被害者が出ているはずだ。だがその連鎖はいずれ止まる、俺がしなくても。
 だが今止めなくてはならない、そして謝りたい。

 今ならまだ間に合うような気がするから……。
2008-09-17 22:51:20公開 / 作者:人の火の粉
■この作品の著作権は人の火の粉さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ニュースなどで偽装の話が出るたびに、心が痛みます。
何故、偽装するのか。何故人を騙してまでそんなことをしてしまうのか。
この小説は、僕なりに偽装に付いて考えて見たものです。

後、誤字を徹底的に修正しました。
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして。小説読みました。
短いながらも、伝えたい事がダイレクトに伝わって来る作品でした。主人公が告発に至った経緯も、ほろりと来ました。
作品のテーマも風潮を捕らえており、とても良いと思います。
次回作も楽しみにしています。それでは、失礼します。
2008-09-16 23:31:14【☆☆☆☆☆】カオス
こんばんは、そして初めまして。
伝えたいことが分かってもらえて非情に嬉しいです。
やはり、伝えたい事は長々と書くよりも短めでなるべくシンプルと言うのが僕のルールです。
ですが本当に伝えたいものは、どんなに長く書いても伝わるんですけどね。
次回の作品もこういうニュースなどで見られる物を書く予定です。
それでは失礼させていただきます。
2008-09-17 00:16:30【☆☆☆☆☆】人の火の粉
読ませていただきました。
いいですね。最後の三行がいい感じに主人公の迷いのなさを表していたと思います。
ただ、パックを見つけた後の主人公の心情変化をもう少し深く読みたかったな、と思いました。
それと「俺の寂しい財布の中もぽっかぽかになるのも近くはねぇはずだ」は、文脈から察するに、「遠くはねぇはずだ」なんじゃないかな、と思います。
2008-09-17 01:24:33【☆☆☆☆☆】不伝
初めまして。こんばんは。
偽装をしてる人たちが、この主人公みたいに考えられれば、今の食の問題って結構解決するんだろうなぁと思います。他人のことを考える、思いやりって大事ですよね……。メッセージもストーリーも、分かりやすかったです。
ただ、少しストレートすぎて物語としてはちょっと物足りない感もありました。失礼を承知で書かせていただくと、最後まで読まなくてもオチがわかってしまい、予想したとおりのオチが待っていたという感じです。読み終わった後「もうちょっと変化球が欲しかったな」と思わざるをえない展開でした。
今回は、偽装した会社だけが「悪」でしたが、こういう問題は掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられるわけで。そういうのがあればもっと物語になったかなと思います。ただ、人の火の粉様の「なるべくシンプル」というルールには反してしまうかもしれませんね。私は結構いろんな話をだらだら盛り込んでしまう方なので、上の考えは「ショートショートが書けない人間の戯言」として聞いていただければ幸いです。

あと、文脈で一つ、気になったところを。
牛肉のところで「普通の牛肉を……」という流れの後にある「自分がアレには毒が……」という文章。ブランドを偽装しても、原材料の「普通の牛肉」には毒は入っていませんよね?わざわざ高いお金を払って普通の牛肉を食べる必要もない、とか、何かそういう流れの方がいいんじゃないかな、と思いました。

何か、いろいろと失礼なことを言ってごめんなさい。
でも、話題のニュースをテーマに物語を書くってすごく面白い発想だと思います。次も楽しみにしています。
2008-09-17 03:33:20【☆☆☆☆☆】渡瀬カイリ
こんにちは!読ませて頂きました♪
本当に、そうだなぁーって思いました。自分さえ食べなければいいなんて考えだから、次から次へと偽装のニュースが出てくるんでしょうね。まだまだ隠れて、甘い汁すってる輩は多そうなので、内部告発って苦しいとは思うけど、主人公のように誰かを蝕んでると気づいて欲しいです。内容もストレートで解りやすくて好きでした。涙もろい主人公にも、ちょっと共感したりしてw
では次回作も期待しています♪
2008-09-17 16:52:32【☆☆☆☆☆】羽堕
 はじめまして、人の火の粉様。上野文と申します。
 御作を読みました。
 短いながらも非常にうまく構成されていて、登場人物の感情がどかんともりあがってきて、面白いと思いました。
 この短さでこれを書けるのは、とても凄いことだと思います。
 が、やはり一般論にのみ終始してしまった「浅さ」が惜しいと、そう感じてしまいました。

>渡瀬さん

 横レス失礼します。
 世の中には”腐った肉”や”水”ををひき肉に混ぜ込んだ企業や、”疫病で倒れた畜産肉””重金属汚染の疑いが強い輸入肉”を購入する企業が存在します。
 外国では、風邪薬にジエチレングリコール入れたり、粉ミルクにメラミン入れて水増しする国だってあるんです。
 ”普通”って案外怖いものですよん。
2008-09-17 22:10:07【☆☆☆☆☆】上野文
いやはや……たくさんの感想ありがとうございます。

不伝様
その言葉、非常に有難いです。やはり、最後まで迷いがあると逃げ出してしまうと思うんですよね。
なるほど……心情変化ですか……ふむ……確かに少ないですね。今更付け足してもアレですので、次回作で……何て事は出来ないのでしょうか? 
誤字の件ですが、確かに間違っております。ありがとうございます。

渡瀬カイリ様
確かに少々ストレートすぎましたね。先が読めては面白いものでも面白くなくなってしまいますからね。次回作の時は捻ってみようと思います。
いえいえ、戯言だなんてとんでもない。色々と勉強になります。
確かに可笑しいですね、毒じゃないものを毒と書いてしまっていました。非常に助かります。
後、僕には自力でテーマという物を作る技術がないんです。だから、話題のニュースと言う助けがあってこそ、テーマが作れて小説が書けるんです。

羽堕様
きっと主人公の様に気が付くと言うケースはたぶん、少ないと思いますね。
ですが、僕的にもこのケースが一番いいと思っています。そうすれば必ず偽装は消えると思います。

上野文様
短めでしか書けない僕にとって、非常に嬉しいお言葉ありがとうございます。
ふむ、浅さですか。やはりストレートすぎるとそう言う物が出てしまいますね。
次回作ではそう言う浅さを消したいと思います。
後、普通の肉ですがアレは僕の描写が無いため、腐った肉や疫病で死んだ牛の肉ではなく、ただの牛肉です。確かにそう言うのも考えられますが、そう言うのは完璧に僕のミスで御座います。

さて、次回作のテーマが決まりました。
近い内、出きるはずで。話題になったニュースですが、少し前の話題です。
ですが、誰もが知っているはずですので解るはずです。
ではまたその時に会いましょう。
2008-09-17 22:47:49【☆☆☆☆☆】人の火の粉
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