『赤灯る街の笛吹き』作者:不翔鳥 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約2.06枚
「ハーメルンの笛吹きをご存じですか?」

 赤黒い照明の中で、スポットライトを浴びたピエロは言った。
「彼は自慢の笛を吹き、ねずみや子供たちを自在に操ったと言われています。彼は今も謎という名の霧の中で、その音色を響かせているのかもしれませんね……。
さあ! 続いてご覧頂きますのは、我らが誇る天才笛吹きの動物ショーです!」
 子供たちから歓声があがった。舞台の照明は怪しげな紫へと変わり、霧が出始めた。その霧の中から、世にも不思議な旋律が流れた。そして、細長い人影が一つ、ゆっくりと前へ出た。その人影が笛を下ろすと、スポットライトが一斉に当たった。その瞬間、霧は一気に晴れ、舞台にはいつの間にかたくさんの動物たちがいた。像、ライオン、トラ、猿……。子供たちは怖がることなく、黄色い声をあげるばかりだ。
 黒いコートに黒いズボン、そして黒い山高帽。身に着けた黒のせいで、真っ白な顔と手が不気味なほど目立った。しかし、子供たちは怯えもしなければ気にも留めない。ただ動物たちを見て喜ぶだけだった。
 笛吹きは優雅に礼をすると、薄い紫色の唇に笛の口を当てた。テントの中は、再び不思議な旋律で満たされた。その旋律にあわせるように、動物たちは大きなボールの上に乗った。互いに取っ組みあった。天井高くつるされたえエサを、見事なジャンプで捕らえた。
 テントの中は拍手喝采。子供たちは動物たちを笑った。笛吹きは優雅に礼をし、すっと消えていった。

 テントの外はもう夜で、街の明かりは消えていた。ときどき赤い光がドーンと灯ったけれども、またすぐに消えていった。不思議なことに、その明かりが消えた後は、そこには何も残っていない。ねずみの一匹すらいない。
 テントの周りは明るくて、いつまでも夕日に染まっていた。拍手の嵐に黄色い声。
 テントの外にはもう何も無かった。ただ暗い空に、朧に輝く月がひとつだけ。

 ピエロは小さく笑った。
2008-08-18 18:40:51公開 / 作者:不翔鳥
■この作品の著作権は不翔鳥さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ファンタジーと分類しつつも、ノスタルジア漂う現代なんだけどな……、と思う今日この頃。

ふと思いついたハーメルンの笛吹きを改めて調べていた時に、ふと思いついたものです。
とても短いのですが、不思議で切ない何かを受取って頂ければ幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして。読ませて頂きました。
ほんの短い時間だけ人々を楽しませて、自分は音もなく消えていく、ハーメルンの動物使いというアイディアは面白かったと思います。
ただ、笛吹きの吹く笛の音が、『不思議な旋律』で括られて描写されているのが少し残念でした。作者さんとしては、笛の音色はぼかして、読者に想像させたかったんだと思いますが、ラストで『ドーン』という擬音が入っているので、笛の音の印象が薄れてしまった感じがしました。
擬音は結構強力な演出なので、この作品の不思議な世界観にはちょっと強すぎたように思えます。
では、この辺で。ありがとうございました。
2008-08-18 19:18:02【☆☆☆☆☆】五条アリカ
こんにちは!読ませて頂きました♪
とても不思議な感じが伝わってきました。子供達の反応も不思議なんだけど、不思議じゃないというか。うわ、どんだけ不思議って言葉使ってんだろ私。すごく面白いとは感じなくても心に残る感じがしました。
では次回作も期待しています♪
2008-08-18 19:23:00【☆☆☆☆☆】羽堕
>五条アリカさん
 笛の音はどうしようかと少し迷いました。しかし、確かにこれでは印象が薄すぎますね。不思議な印象を残しつつ、くっきりと残るような表現が思いつけば良かったのですが……。精進します。
 擬音の大切さ――なるほど、よく分かりました!ありがとうございます。

>羽堕さん
 不思議な印象が伝わったようで、うれしいです。もっと面白いと感じて頂けるよう、頑張ります。ありがとうございました!
2008-08-18 19:52:38【☆☆☆☆☆】不翔鳥
こんばんは。

んー、ごめんなさい。ラスト、何が起こっているのか分かりませんでした。みなさん疑問に思っていらっしゃらないみたいだから、僕の読解力が不自由なだけかもしれません……。失礼しました。
2008-08-18 21:21:04【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
はじめまして。時貞と申します。作品を拝読させていただきました。ピエロの登場するショートx2、実は僕も書いてみたかったんですよね。どことなく乱歩の世界のような、戦前の怪奇幻想小説的な印象を感じさせる文体・物語でした。ラストが少し淡白な感じも受けましたが、これはこれで不翔鳥様の味なのかもしれませんね。なにやらまともな感想にならずに申し訳ございません 汗 次回作も期待しております。
2008-08-19 08:45:24【☆☆☆☆☆】時貞
読ませて頂きました。
ピエロ、それもハーメルンを題材としたお話、面白かったです。
ミステリアスな雰囲気が良く、ラストのあっさりさが、また不思議な余韻でした。
意味不明な感想、もうし訳ありません;;(汗
次回作も楽しみにしております。失礼致しました。
2008-08-19 19:27:23【☆☆☆☆☆】慚愧
>中村ケイタロウさん 時貞さん 慚愧さん
 ご感想 ありがとうございます。
 ラストについて――実はピエロと笛吹き、そして戦争を重ねたつもりだったのですが…… どうも自分の表現力の無さを切々と感じておりますm(_ _)m
 これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。
 
2008-08-20 14:18:25【☆☆☆☆☆】不翔鳥
作品を読ませていただきました。不思議な感じのする作品でした。ラストの部分は読んでいて解らなかったけど、不翔鳥さんの感想へのレスを読んでやっと解りました。でも、読み手がそこまで発想を広げるにはちょっと無理がある感じですね。では、次回作品を期待しています。
2008-08-24 12:45:16【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。