『短文集』作者:優麗 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1325文字
容量2650 bytes
原稿用紙約3.31枚
SS:見てる世界が違いすぎて

「あの高速道路はほんとうにだめだね」
 そう言うとわたしの隣にいた友人は、目を丸くしてわたしの顔を見た。
「なんでだめなの?」
「だって、景観を損ねるだろ?」
 カメラを構えた手に力を入れて、わたしは言い返す。
 あの高速道路さえなければ、きっと水平線まで続く田んぼが撮れただろうに、本当にもったいない。そう暗に込めて言ったつもりだったが、友人はまだ不思議そうにしている。
「高速道路なんて数えるほどしかないんだから、珍しいと思うけどね」
 思わず力が抜けた。たしかに高速道路の通っている街は少ない、移動にも便利だろう。しかしこれはそんな話ではない。
「この田んぼが水平線に続くからこそきれいなんだろう?」
「は?」
 友人は今度こそ理解できないかのように声を出した。なぜ理解できないのだ、彼女も一介のカメラマンのはずなのに。
「じゃあ後ろを撮れば?」
「後ろは家がある、田んぼじゃない」
 わたしの言葉に、それでもやっぱり納得しない顔をして、友人は高速道路をみやる。
 なんでこんなわからずやなのに、わたしの友人なのだろう。
 それは本当に十年くらい前だ、わたしが友人に出会ったのは。
 カメラを持ったのはわたしのほうが少し早い。友人はそんなわたしの真似をしてカメラを持つようになっただけだった。
 しかし世の中に最初に認められたカメラマンはわたしではなく、この友人だった。
 わたしも、友人も、いつも写真を撮るときは一緒にいたから、被写体や、見ているものは同じはずなのに。
 なぜか、友人だけがみとめられ、そしてわたしのものはそれの模写となるのだ。
 わたしはきっと歯がゆそうな、ねたましい目で見ていただろう。
 当時中学生だった自分たちも、大人になって。きっと友人も気づいていたのかもしれない。決定的な視点の違いに。
「あのね」
 多くは語らずに、いつもわたしの後をつけていた友人は、珍しく、本当に珍しく、語り始めた。
「高速道路だって、風景の一部なんだよ。
 それに田んぼは家の周りを取り囲むように派生したものなんだから、家があって当然なんだ」
 少しずつ、紐解かれてゆく、違った視点。
「わたしたちは確かに写真をきれいにみせるのも仕事だけど、同時に写真をみる人はその世界のありのままをみたいとも思っているんだ。
 排気ガスはなんで臭いというの?好きな人だっているかもしれない。
 バイクはなんでうるさいというの?心地良いという人がいるかもしれない。
 いくら写真でも、絵でも、文章でも、自分がきれいなものだけで作られた世界は、やっぱりそれは現実じゃないんだよ。
 わたしは子供のころ、タバコの吸殻の匂いが好きだったんだ。
 でも家に喫煙者がいなかったし、学校では体に悪いというし、みんなが臭い臭い言うから、長い間その匂いをかがないようにしていた。
 この前偶然喫煙所に行く用事が会ってね、あ、わたしはあいかわらず嫌煙者だよ、そのときにかいでみたんだ、タバコのにおいを……やっぱり、臭かったよ」
 よくわからないね、友人はそういって笑った。
2008-07-12 11:43:11公開 / 作者:優麗
■この作品の著作権は優麗さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
出来るだけやわらかい文章を意識して書きました。
ひらがな部分がすこし多くなりすぎた感はありますが、どのあたりを漢字にすればいいのか……(^^;
感想をお待ちしています。
この作品に対する感想 - 昇順
 こんにちは。はじめまして。中村ケイタロウと申します。

 きちんとして、平易で、読みやすい文章がよかったです。漢字の比率に関しては、このくらいで適当なのではないかとぼくは思います。これ以上多いと読みにくいかもしれませんね。

 ただ内容に関して申しますと、「わたし」の視点より「友人」の視点の方が優れているという決定的な根拠を欠いていて、その点でいささか独りよがりな感じを受けてしまったのですが、いかがでしょうか。「わたし」の視点も、「友人」の視点も、ぼくの眼にはどちらも至極まっとうで美しいものに見えます。

 いったいどうして、「綺麗に作られた世界」より「ありのままの現実」のほうが良いのでしょうか? それがぼくには全くわかりません。ぶしつけな言い方で恐縮ですが、なにか、優麗さんの個人的な価値観を「友人」が代弁しているように思えました。さらに言えば、大衆メディアで流通している通俗語法のようにも思えました。
 ありのままの現実がそんなにいいのかなあ? ぼくなどは反対に、「現実なんぞ一つでたくさんだ」という誰か(誰だったか忘れた)の言葉を常に念頭に置いて執筆しているのですが。

 いずれにせよ、このような主題に関して描くのなら、二つの相反する視線の間の往復運動(弁証法っていうんでしょうか?)が無ければ説得力を欠くと思うのです。そのためには、ショートショートの尺ではいささか短いように思うのですが……。

 ぼくの持論との懸隔があったためか、なんか的外れな批判をしてしまったようです……優麗さんがお書きになったのは評論じゃなくて小説なのに……。すみません。失礼いたしました。
2008-07-12 12:18:47【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
こんにちは!読ませて頂きました♪
漢字の量などは気にならなかったですし、読みよすかったです。私も不思議に思うんですよね、同じモノを同じような角度でとっても印象って全然違う時ってあるので、まさに撮る人の感性なんでしょうかね?って何、質問してるんだろう。プロというのは、人のもつ固定観念でさえ1枚の写真だけで覆せてしまうような人のこと言うのかもしれないなと思いました。
では次回作も期待しています♪
2008-07-12 16:24:59【☆☆☆☆☆】羽堕
はじめまして、感想ありがとうございます
漢字量は適当でしたか、ありがとうございます、とてもほっとしました。
いつも歴史小説ばかり読んでいるせいか、むしろひらがなが多すぎる気がし続けていてとても心配だったので、うれしい限りです。

>中村ケイタロウ様
感想ありがとうございます。
たしかに言われて見れば「友人」の言っていることこそただの綺麗ごとですよね……。
ただたんに視点のぶつかり合いを書きたいだけだった、ってのもありますが、そういう視点で小説を書くという手もあるのだと気づきました。
この文章は主人公の視点、友人の視点、そして背景にあるのが世間(いわゆる社会)の視点。のつもりだったのですが、やはりこの長さでは難しすぎですよね。
これからもどんどん書いていきますので、よろしくお願いします

>羽墜様
感想ありがとうございます。
わたしもカメラマンに会ったことがないので、なんとなく、の勘で書いた感じなので、質問に答えることができません(汗)
それでも携帯やデジカメで写真を撮っていると、同じ被写体なのになんでこんなに雰囲気が違うのだろうと思うことはあります。
きっと羽墜様の言ったとおり、簡単に固定観念を覆せる人がプロなのでしょう。いつか本物のそんな人に出会いたいものです。
まだまだ書く気はあるので、これからもよろしくおねがいします。
2008-07-13 03:47:20【☆☆☆☆☆】優麗
作品を読ませていただきました。同じ物を見ながらもずれる視点というのは現実世界でもよくあることなので、題材を含め非常に読みやすく途中までは興味深く読ませていただきました。ただこの文章の長さなら、あえて決着めいたことを書かないで相手の意見を聞いて「そういう見方もあるか」ぐらいの曖昧さを残して終わらせた方がスッキリしたかなぁ。では、次回作品を期待しています。
2008-07-15 07:52:15【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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