『題名の無い話』作者:修羅場 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 ……。
 ねえ、これってもう始まってる?
 あっ、あー……マイクテスト、テストー。――……よーし、よしオッケー、オッケー。

 んじゃ、いきますか。‥せーのっ。

 ***

『むか〜し、むかし。とある山奥にお兄さんとおばさんが住んでいました。
 お兄さんは川へ洗濯に、おばさんは山へ狩りに行きました。お兄さんが川で洗濯をしていると川上のほうから、ゆらりゆらりと死体が流れてきました。
 すると、お兄さんはあわてて死体から離れて下流に流されていく死体を見届けました。
「って、ちょっ、待て! コルァッ!! 台本にちゃんと描いてあるだろっ。兄さんが死体を受け止めて、家に持ち帰るって! おいっ、ちょっと!」
 下流に流されかけた死体は自力で上がってきて、お兄さんに向かって近づいてきました。
 お兄さんは死体から逃げます。ばっしゃん、ばっしゃん。お兄さんと死体はなにも言わずに川上を歩き出しました。
 お兄さんは無心に川の中を歩き、死体は怒りながらお兄さんの後ろを付いていきます。

 暫く歩いていると目の前に山小屋が見えてきました。
 お兄さんは川から上がり小屋の中へ、死体は小屋の外へ別れました。外へ取り残された死体は、小屋の戸をたたいて懸命に大声を出して、家賃をせがむ大家さんの様にお兄さんに頼みます。
 ドンッ! ドンッ! ドンッ!
「聞いてんのか、コラッ!! はよう、出んかっ! 話が進まないだろーーーっ!!!」
 それでも返事がありません。死体は小屋の戸をたたくだけでは、無理だと確信しました。次に小屋の裏口へ回り込み、合鍵を使って勝手口の戸を開けました。こうして死体は無事に小屋の中へと入ることが出来ました。
 小屋の中へ上がりこんだ死体は早速お兄さんがいそうな場所を探し始めました。まずは茶の間、次に寝室、その次に厠と色々なところを探しましたが、お兄さんの姿は何処にもいません。
「……おかしい。……なんで誰もいないんだ。……さては、逃げたか? 私が入れなかった時間がものの30秒間とすると、その間に逃げることは可能……だが、そう遠くまで逃げられた核心は無い。……つまり、奴はまだこの近くを? ……」
 何処かの有名な探偵でもない死体は一人でぶつぶつと語りだしました。違う意味で怖い死体は、茶の間から離れると玄関に向かって歩き出しました。

 ***

 山小屋から逃亡したお兄さんは山の奥深くへと行きました。山の置くには沢山の立派な木がたくさん生えている緑の深い場所を全力で突っ切るように走っていたので少し疲れていたところでした。お兄さんは大木の根っこの上に座ることにしました。
「……ふう。……なんだか、今日はやけに疲れるなあ」
 お兄さんは手ぶらではありません。手には日本刀とヌンチャクを持ち、腰にはチェーンソーをぶら下げていました。
 川と違って山の奥深いところは危険がいっぱいなんだと、一緒に住んでいるおばさんに教わっていたお兄さんはいつでも用意が良かったのです。お兄さんが大木の根っこの上で休んでいると、草むらの中からガザゴソッと物音がしました。
「……!」
 お兄さんは反射的に戦闘体勢を取りながら、草むらのほうをにらみつけました。次の瞬間、草むらから出てきたのは顔を赤き染めて、息を切らして今にも死にそうな、何時間か前に川で見たような死体がお兄さんの前に現れました。お兄さんは驚きました。
「………ハッ、……ハァ……ゼィ……ハア……。……いや、いやっと見つけたぞ。この泥棒!」
「…………。……あのー……どちらさまですか?」
「〜〜〜〜ッッッッ!!!!????? ……おまっ、無駄に時間かけといて、結局それか!? 私がこんなに必死になって、どうでもいい言葉のテロップなんか流しちゃったりしてさあっ! おいっ! 私の出演料返せッッ」
「……いや、あの……ですから、先程から何の話ですか? てゆーか、僕って何でこんなところにまで誘導しないといけないんですか?」
 暫くお兄さんは死体を眺めながら腰を低くした体勢を直して、直立の体勢に直しました。そしてお兄さんは目を丸くしながら死体に声をかけました。離しかけられた死体は一気に機嫌悪く怒鳴り散らして、お兄さんに問いかけます。
 死体とお兄さんは思い切った話の方向に会話を進め始めてしまいましたが、当の本人らは全く気にも留めていないようです。死体は主人公と思われるお兄さんに説教を始めました。お兄さんは呆然としながら死体の話をゆっくり聞き入れました。
 かれこれ死体の説教は夕暮れ時になるまで続きました。夕暮れ時になっても永遠と語られました。人のよさそうな顔のお兄さんでも、これにはさすがのお兄さんも頭にきたようです。先程まで死体がお兄さんに説教をしていたのに、周りが暗くなるに連れてお兄さんの声が山奥から響き渡ります。
「こっちが大人しくしてりゃ、いい気になりやがって。死体の分際で人間様に楯突つこうなんざ1万年早えんだよッ!!!」
「ヒィ‥ッ!? おっ、お許しくださ」
「つーかよぉ、死体のくせにベラベラ、ベラベラ喋ってんじゃねえよ。お前は既に死んでいるっつーの。わかったか!?」
「……………そりゃ、そうかもしんないけどね。………でも、ほら」
「てゆーかさあ、お宅のそれって立派なストーカー行為なんじゃないの〜?」
「…………いや、別にあんたには興味とかな」
 ギュイイイイインッ。チェーンソーを片手にうならせながら、お兄さんは死体を黙らせました。お兄さんは生まれ変わったのです。死体が何者だとか一切関係なく、お兄さんは強い言葉をたくさんつなげていきました。死体が小さな声で何かを言おうとすると、もう一度チェーンソーをうならせながら黙らせます。
「今、何つった? 興味がにゃーって言おうとしたのか!? おまっ、実はそうなんだろっ!?」
「‥っ、そ、そんな滅相な事はございませぬっ」
(……くっそお! さっき無いの「な」までいいかけちゃったじゃないかーっ!! もうっ、私の馬鹿! 馬鹿、馬鹿ッ!!)
「よーし。んじゃ、今からお前を真っ二つぢゃ〜っ」
「は、はひっ! それだけはお許しをッ! 我は貴方様の言い分を、何でもお受けいたしまする!」
 死体はもう何がなんだか、目の前がごちゃごちゃになっていて自分が何を喋っているのかも分からないまま、生まれ変わったお兄さんの前にひれ伏すのでした。目の前でうなるチェーンソーの刃が死体にはハッキリと見えていたのです。彼に逆らうようなまねをすれば、即刻あの世ゆきになると死体は心の中で確信しました。
「ですから、我に何なりとお申し付けくださいませ」
「よーし。わかればいいんだ、わかれば」
 こんなにも死体が意気揚々と喋ったのは今日が最初で最期だということに気づかされる直前のお兄さんの笑顔は天で微笑む太陽のようでした。こうして死体は何の迷いも無く深い眠りに付き、太陽のような笑顔をしたお兄さんは死体を元のところに返してあげましたとさ。めでたし、めでたし』

「………て、ちょっと待って」
「ん?」
「これってオリジナルの昔話よね……」
「うん。そうだよ」
 むか〜し、むかし。――ではなく、今現在。2008年の東京。
 とある一室に、大学生のお姉さんと演劇部所属のお兄さんがいました。お姉さんが書いた昔話を見ながらお兄さんが眉間にシワを寄せていました。
 お兄さんは溜息をついて困り果てていましたが、お姉さんは自信満々に笑っていました。
「……ぜんっぜん、先が見えないんだけど。話の」
「いやだな〜。先が見えないから、こういうのは面白いんじゃない。分からないかな〜? この感じ」
「分かりたくないよ」
 お姉さんのいとこのお兄さんは小学生でお姉さんの趣味はお話作りなのですが、お姉さんの趣味に付き合わされるお兄さんは暇ではないのに相手をしています。のん気に高笑いをするお姉さんを眺めながら、お兄さんはあきれていました。
「はい、やり直し」
「えぇ〜。嫌だよ、もう疲れた! 続きはさ、ケンちゃん考えてよ」
「嫌だよ」
 お姉さんの趣味で作った物語を見て、これが昔なのか今なのかよく分からない内容の昔話の無い文が書かれた一枚の原稿用紙を見ていたお兄さんは困っていました。
 そんなお兄さんの名前は絢虔(けんけん)なので、お姉さんはケンちゃんと呼びます。いつもお兄さんに頼っているお姉さんは、いつまで経っても阿呆だな。と言われます。
 でも、お姉ちゃんはそれが嬉しいのです。天才って言われて忙しくなるよりは、阿呆のまま気楽でのん気に過ごしたほうがいいとお姉さんは言います。
 お兄さんは阿呆呼ばわりされているお姉さんを見るたびに、お姉さんのような人が羨ましく見えてきます。
 自分ひとりだけでは何も出来ないので、お姉さんがわざわざ来て家のお仕事をやってくれているのです。だから夕飯が出来るまで文句は言わずにお姉さんの思いつきに後5時間も付き合うのでした。めでたし、めでたし。
「ところで、……死体は男? 女?」
「ん〜……『両性』」
2008-04-29 13:18:04公開 / 作者:修羅場
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■作者からのメッセージ
かなりお久しぶりです。修羅場です。改めまして、よろしくお願いします。
最後の「ん〜……」の後にある『両性』の部分の『』は言葉を強調させて言った。みたいな意味で、やってみたのですが……
また不十分な点があれば、指摘等お願いしたいなぁ……なんて(苦笑)
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