『嘘が上手な女の子』作者:ここあ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
嘘ばかり言って、本当のことは何一つ言ってくれない。
全角1829文字
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原稿用紙約4.57枚
 朝はまだ来ない。しかしそこだけが進んでいるかのように光が閉じたり開いたり音を立てた。周りは置いていかれたままで静寂だけが長崎加奈人を包む。冷蔵庫の音は時折その静寂を潰すだけ。その他に聞こえるのは、長崎の呼吸音。

 閉じる。開く。

 空腹を訴えている訳ではない。喉の渇きを訴えている訳ではない。ただ、足りない。「無いものねだりじゃない」彼女の声が何処からか聞こえて、慌てて頭を振る。無いものねだりじゃない。ただ、欲しいだけ。欲しいものが何か分らない、それだけ。心の空腹。言い当てればそんな感じだ。体の何処か一部分が欠けてしまっている様な、或いは体の何処かに風穴が開いているような。

 外から水音がした。ぽた、ぽた。水道の蛇口から漏れている水の音ではない。外から、恐らく雨。

「みず、みず、みみみ」

 彼女の名前にも水が付いていた。みず、みず。それからは、覚えてない。水田。だったかもしれない。水谷、だったかもしれない。水木だったかもしれない。どれかは分らない。ただ、そんな感じの名前だった。

 嫌な感じだ。頭の中に薄っすらと靄がかかって、苛々が募る。ふと、彼女の顔が浮かんだ。茶色の跳ねた髪を持つ、うそつきなおんなのこだ。巧みな嘘で人を貶す意地悪な人だ。言い掛かりを付けるのが得意で、音楽が苦手な彼女。

「みーず、みずみず、みず」

 いつのまにか冷蔵庫を開け閉めする音は消えていた。冷蔵庫に背を預けてしゃがみ込む。みず、みずさわ、みずおか、みず、みずみず。

 次に幼馴染の顔を思い浮かべる。彼女なら、知っているはずだ。

 ぷるぷる、ぷるぷる。ぷるぷる、ぷるぷる、ぷるぷる、ぷ!

「……なに、よぉ、加奈人?」
「おぅ、おはよう。寝てた?」
「ったりまえでしょ!何時だと思ってるの!」
「さぁ?」

 起こられる覚悟はしていた。思っていたよりも短かったのは想定外だ。「で、なに?」

「みず、みずみず…」
「は?」
「ほら、転校して行った、茶色い髪の、あの」
「…ああ、水谷さん?」

 数秒経って、名前が受話器越しに滑り落ちる。みずたに。やっぱりみずがついていたのか。

「なに?水谷さんがどうかした?」
「下の、名前は?」
「は?何?」
「下の、な、ま、え」
「下の名前…ちょっと待って」

 受話器から声が遠ざかるのが分った。がざがさがさ。何かを漁る音が聞こえる。きっと連絡網でも探してくれているのだろう。相変わらず良い性格をしていると思う。良い幼馴染を持ったとも思う。

「あった、もしもし?加奈人?」
「あい?」
「水谷さんの下の名前だけど」
「うん」
「麻里奈。水谷麻里奈だよ」
「……漢字は?」
「あんたねぇ…まは、ええと、麻縄の麻で、りは里、奈はあんたのなと一緒だよ」
「麻縄の麻に、里に、俺の奈…」
「もしもし?ねえ、なんかあった?どうしたの?」

 ゆっくりと、口には出さずに繰り返す。ま、り、な。何度も何度も繰り返す。

「ねえどうしたの?ねえ」
「良い名前だよな、まりな、まりな」
「……あんたさ」

「水谷さんのこと、すきなの?」言われて初めて、気が付いた。すき?だれが、だれを?

「ん、そーかもしれない」
「な!」
「好き、うん、好きだわ、じゃ」

 もしもし。ぴっという音をたてて通話を終了させる。すき、好き。好き、なのかもしれない。というのは、嘘だ。携帯を右手に持ったまま、再び冷蔵庫の前に立った。もう一度、扉の開け閉めを繰り返す。ほら、まだ穴は開いたまま、塞がってはいない。

 我ながら最高の嘘だったと思う。俺が?あのうそつきおんなの水谷麻里奈を?嘘だ、嘘に決まっている。

 そういえば、俺は彼女に本当の事を言った覚えは無かった。嘘ばかり言っている彼女は嘘を言う人を酷く拒んだ。冷ややかな目で見下す。「うそはきらいよ?」お前はどうなんだ?そう聞き返したかったが、それは言わないでおく事にした。言えばどうなるのだろう。彼女のポーカーフェイスが崩れたかもしれないのに。あのときは惜しかった。本当に。

 本当の事を言わないのは、嘘よりもっと悪い事なのかもしれない。なんとなくそう思った。今の俺は、嘘を飄々と言っていた彼女のように、上手く笑えていただろうか?
2007-12-12 21:19:08公開 / 作者:ここあ
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■作者からのメッセージ
こんばんは。山内まりなと申します。
この話は、嘘ばかり言っている少女、水谷麻里奈に恋心を寄せる長崎加奈人の話です。
友情と恋の微妙な境目を表しました。
言って良い嘘は存在するのか? 本当の事は何なのか?
もう一度嘘という意味を考えてもらえると嬉しいです。
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして、夢幻花です。
・『言えばどうなるのだろう。』→回想なのですから、『言えばどうなったのだろう』では?時制が一致してません。
・『起こられる覚悟』→『怒られる覚悟』の誤字発見です。
『思っていたよりも短かったのは想定外だ。』→……?思っていたよりも云々、=想定外なのですから、重複表現ではないでしょうか。なんとなく違和感を覚えました。あと、短かったっていうのは主人公がコール音を聞く時間であり、隠れている主語は自分になってしまうと思うのですが、主語を書かない場合は幼馴染で考えた方が自然かもしれません。この場合は予想以上にはやく出た、とかの方が良いような気も。

 少女マンガを髣髴とさせるお話ですね。随分付箋が多い気がしますが、付箋を貼るのでしたら、もっとさり気なくちりばめた方が読者を惹きつけられるような気がします。王道なだけに余計に不自然です。
 上記以外にも、ちょっと不自然なところが多いので、もう一度丁寧な推敲をされることをお勧めします。作り手が読者に特別伝えたいことのある場合は特に。
酷評ごめんなさい。頑張ってくださいね。
2007-12-15 00:03:16【☆☆☆☆☆】夢幻花 彩
 彩さんの感想を読んで「まだ続くの?」と思いました。どうなんでしょう。利用規約から見れば「これは続かない」とするのが正しいのだけれど、最近の利用規約の扱いは「もうどうでもいい」って感じになっていますね。
 ここからが感想です。またまた彩さんが言うとおり、これはプロローグのような文章です。でも私は、これで終わっても特に不満はありません(ストーリとして)。引きを作ったままの、ストーリの放棄のような、打ち切り漫画家のような短編も数あることですし。
 ただ、これだけでは後味はさほど残りません。あとがきにある【もう一度嘘という意味を考え】ることはありませんでした。この書き物は単にまとまりを失っているだけとも読めるためです。少なくとも、この書き物から「嘘について考えよう」とするほど(嘘という事象への)魅力を感じませんでした。もっと確実に読み手の心にフックをかけ引きずり回すような文章を書いてほしいと思います。
2007-12-15 14:06:59【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
嘘という意味を考える?
冗談じゃない。
己を過大評価し過ぎだ。
それほどの内容ではない。
そして利用規約に従え。
2007-12-16 22:39:28【★★☆☆☆】つ
作品を読ませていただきました。浮かんだ感情を列記したような漫然とした印象を受けました。この作品がマンガやアニメなら読者への伝わり方も違ったかな……この文章だけだと後書きにあるような問題提起は弱かったです。感情(心理)を補強する表情や仕草をもっと書いてあった方が読者には感情が伝わりやすかったかもしれませんね。では、次回作品を期待しています。
2007-12-18 07:40:57【☆☆☆☆☆】甘木
計:2点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。