『抱 き 枕』作者: / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
プロポーズ。マンホール。
全角1999文字
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原稿用紙約5枚
 朝早く起きてどんな服を着ていこうか迷いながら、どの言葉にしようかも迷っていた。恭子さん、僕と結婚して下さい、というふうに普通にいってみるか、愛してる、という言葉を使って責めてみるか。プロポーズするときめてみるも、やはり当日の朝になってみればどうしようもなく緊張するものだ。
 公園の待ち合わせの場所に、恭子さんは先にきていた。絶好のいい天気だ。雲ひとつなく晴れている。二人で歩いているとき、色々と話をしようとしたが、緊張していてあまりできなかった。そして、噴水のすぐ近くのベンチに二人座る。恭子さんが左で、ぼくがその右。二人の間隔は30センチもなく、緊張する。ここで話しかけて、話を発展させて、そして…プロポーズしなければならない。今日すると決めたんだし、恭子さんも覚悟しているはずだ。今日しなければならない、絶対。そう思いながら噴水近くのベンチにて、僕は話しかけ、色々と話を発展させる。なかなかいい調子だ。すらすらと色々な話が出てくる。二人のこと、これからのことに、話をもっていく。いい調子だ。そろそろ決めの言葉を…そう思っていると、僕の右の足元に、マンホールがあるのが見えた。噴水の水道を管理するためだろうと思って、目を噴水に遣ると、綺麗な虹が見えた。あの虹のように綺麗に今日の一言を決めなければならない。よし、いまだ。と心に決めた瞬間、
……僕の抱き枕になってください……
という不思議な声が噴水の音に混じりながらどこからともなく聞こえ、なんだろうと思う。しかしそんなことに気をとられている暇はない、よし、いまだ、と心を決めた直後だったので、僕の口から言葉は出た。
「僕の抱き枕になってください」
しまった……。とんでもないことを言ってしまった。不思議な声につられて、その声の言葉通りに僕は言ってしまったのだ。人生最大の失態だ。恭子さんは冗談をあまり好まない、大人っぽくて高貴なところもある女性だ。僕の人生は終わったかもしれない。
「…..え?」 聞いてはいけない言葉を聞いてしまったかのように恭子さんはそう放った。
沈黙が10秒。まだ何も言葉が交わされない。
……1分。
…………2分。
僕は、どこからともなく聞こえてきたこえを恨んだ。そんなことを思っていると、噴水のあたりには人がだんだん少なくなってきている。誰もいない。もしかして僕の言葉を聞いてしまって……いやそんなはずはない、仮に聞こえたとしても人がいなくなるようなこととは関係しない。それにしても恭子さんはどうしたんだろう。こんな惨めな思いするくらいなら、もう僕のそばから離れて逃げてほしいくらいだ……。
それにしても沈黙は続く。
……3分。
僕は恭子さんの方をみた。目を閉じている。どうしたんだろう。呆れて気を失ったのか、さすがにそんなことはないだろう。
「恭子さん……ごめんなさい、今のは……」
僕は言葉を詰まらせた。でも恭子さんからは言葉はない。本当に気を失っているのかもしれない。もう2,3こと話かけても返事はない。そんなとき僕はふと思った。もしかしたら、右の足元にあるマンホールのなかに人が隠れていて、あの言葉を言って、僕を失敗させようとしたのかもしれない。くやしくなってきた。人生台無しだ。惨めだ。畜生。マンホールの中に人がいたらそいつに復讐しなければならない。今のうちつかまえないと水道を通って逃げるかもしれない。恭子さんは気を失っている。周りには人は誰も居ない。
そして僕はマンホールを開けた。
…………
……
男が、のっそりと這い上がってきた……。
つばが広く頭は上にとんがった魔法使いのような帽子。男の顔は、深いつばや不潔なひげや髪でよくわからない。服はぼろぼろだ。ぶかぶかのチノパンに、チェックの上着。破れていて継ぎはぎもある。男を観察していると。
「……僕の抱き枕になってください……」
男はそう言い放った。なにからなにまで支離滅裂だ。マンホールから出てきた不気味な男にプロポーズされるなんて。プロポーズじゃなくてただふざけているだけか。どちらにしても気持ち悪い。こんなことあってたまるか。しかもこいつが俺の人生を壊したんだ。何か言い返してやりたかった。激怒さえしたかった。しかし言葉が出ない。身体がなかなか動かない。そういえば恭子さんはもう逃げたのだろうか。動きにくい首を少し回転させる。見てはいけないものを見てしまった。いつのまにか、恭子さんは、ぬいぐるみのようなやわらかそうなマネキン、つまり人型の抱き枕になっているではないか。一体どういうことなんだ。そう思っていると、もう僕の首や四肢も動かなくなっていた。男が僕の身体を掴んだ。そして軽そうに持ち上げた。恭子さんも男に抱えられた。

二人は、男に、不気味な寝室まで、運ばれた。
2007-11-24 21:24:56公開 / 作者:早
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■作者からのメッセージ
ふふ。
この作品に対する感想 - 昇順
 ああ、とても面白いのに。なぜこんな油断した文章で書かれてしまったのだろう。もう少しだけ、時間を使っていれば。登竜門のレベルなんてこんなもんだ、と思っているのだったら寂しい。
2007-11-24 21:35:47【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
こういう自分世界の物語は好きです。作者のメッセージには、やられました。あんたは天才だ!
2007-11-25 21:48:17【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
こんにちは。おもしろいですね。最後のほうもお洒落で素敵です。好きですよ。と同時に模造の冠を被ったお犬さまさんに同感でもあります。
2007-12-01 15:55:32【★★★★☆】J
作品を読ませていただきました。面白い着想だけど、文章が勿体ないなぁ。
2007-12-02 09:08:40【☆☆☆☆☆】甘木
計:4点
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