『パティシエ 〜Uhe famille heureuse〜  第一話』作者:藤林 祭 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
北條大学三年生の主人公、滝咲光は同じ大学で出来た、女の『親友』朱鷺明日美を好きになり、ある日光は、彼女に告白をするが、その告白は断られてしまう。その日から、物語は足らない歯車のせいでどこかぎこちなく動き始める……喫茶『Temps tendre』の従業員のうち七名には、それぞれ心に大きな傷を抱え込んでいた。自分の傷と、大切な六人の仲間の傷。その全てと向き合いながら、全てが繋がるまでの軌跡のストーリー。
全角8504.5文字
容量17009 bytes
原稿用紙約21.26枚
「今日だ。今日告白すんだぞ」
 待ち合わせ場所である、この街で一番大きな噴水のある公園の、その噴水の前にあるベンチに座って、俺は一人呟く。そして、右腕の腕時計に目をやる。
「四時十七分、と」
 さっきから、呟いては時計を見、呟いては時計を見の繰り返しで、正直な話、何度この動作を繰り返したのか自分でも分からない。それほどなまでに、今日の俺は、いや、多分俺が今まで生きてきた中では、一番緊張しているんだろう。知らず知らずのうちに作っていた、握りこぶしを解いて見ると、手のひらは汗でビッショリだった。
「ははっ。こりゃすげぇな」
 こんなこと、今まであっただろうか?……まずないな。これほど緊張しているのも、今日が、これからの俺の人生を大きく左右するといっても過言ではない、一大イベント(俺にとっての)の日だからだ。
「告白すんだ。好きだって、明日美にそう言うんだ。大丈夫だっての、心配すんな俺」
 こうやって、約束の五時まで自分を勇気付ける。ふと、俺が明日美と出会った日のことを思い出した。



 大学に入って一週間位して、その人と初めて話をした。彼女の名前は、朱鷺明日美(ときあすみ)といって、今年度の新入生?1候補。なんて言われている、超がつく美人で、所謂【高嶺の花】ってやつだった。俺の中での、一般的に【美人】と言われている人のイメージは、【我が侭】【高飛車】【男遊びが激しい】【計算高い】etc…等など、マイナスなイメージばっかで、明日美もそんな人だろうと思っていた。だから、最初のうちはかなり警戒気味に話をしていたし、明日美の印象もかなり低くしていた。だけど、明日美と話しても、俺が描いていたようなマイナスな所は出てこなくて、むしろプラスな所ばっかりが出てきた。明るくて、意外とお茶目な部分もあって、でも基本はクールで、最初はそれも計算のうちなのかなと疑っていたけど、何となく、そう、何となくなんだけど、それが明日美の【素】なんじゃないかって思ってきた。だけれど、やっぱり根付いたイメージというのは中々消えないわけで、やっぱりどこか他人行儀な態度で接してしまっていた。
 そんなある日、構内にある休憩所みたいな場所で、明日美をデートにでも誘おうとしてる奴に、明日美がそれは物凄い形相で、そいつを一蹴しているのを見た。それは、結構噂になっているようで、【明日美をデートに誘ったら凄まれた】とか、【凄い罵詈雑言を浴びせられた】とか、挙句に【般若を見た】とか、そんなのばっかだった。その日からだろう、俺の明日美への印象が大きく変わり始めたのは。人によっては、俺の考えは甘かったり、浅かったり感じられるのかもしれない。でも、それは俺の中の、明日美という人物への印象を変える【きっかけ】になったんだ。
 んで、元々気が合うのか、俺達は仲良くなっていって、一番の【親友】になれたんだ。だけど明日美は、俺に気がある素振りは一切見せなかった。俺と明日美は【親友】にはなれたけれど、明日美は【友情】と【愛情】のボーダーラインははっきりと敷いていて、それは俺にも分かる様にはっきりと敷かれていた。
 でも、やっぱり好きになってしまうわけで、【友情】より【愛情】が勝ってしまうわけで。俺が、明日美のこと好きになるまで色々あった。いっぱい悩みもしたりした。いっぱいいっぱい悩んだ末に………



 今日という日に至る。俺は、また時計を見る。ちょうど長針が三十分を指していた所だった。ふと、公園の入り口を見ると、明日美がこちらに向かって、ゆっくりと歩いてきているのが目に入った。まだ、約束の五時まで三十分はあるってのに、相変わらずの絶対時間主義者だこって。
「さぁ。伝えるぞ」
 両足に、ぐっと力を込めて立ち上がる。もう汗は出ていなかった。俺と明日美との距離は30mほどに近づいていた。
 そして……



                                  《パティシエ Uhe famille heureuse》 【Épisode 1 Le matin de l'ouverture】

                                         「なぁ。俺はどんな顔して、明日美に会えばいい…」
                                         「バカ。いつも通りでいいんだよ」
                                                        by滝咲光&神谷秋穂


「はぁ…」
 今日、何度目かの溜息をつく。今日であの日から、明日美に告白した日から、三日が経つ。俺には、この三日間が三年間にも感じられたよ。嫌な意味で、【忘れられない日】になっちまった。
「はぁぁ……」
 どんなに気をつけていても、やっぱり溜息が出てしまう。止める気なんだが止められない変な感じだ。ちなみに、今俺は友人が経営している喫茶店の厨房で、ケーキを焼いている最中だ。この店で一応ケーキ職人、所謂パティシエ(まだ見習いだけど)として働いている。つってもアルバイトなんだけど。
「ダメだ。こんなの売りに出せねぇ。全部気持ちが入ってるよ…」
 ケーキに気持ちが入るのは、俺は良いことだと思っている。ただ、それに少しでもマイナスな気持ちが入っていたら、もうそれは売り物にはならないとも思っている。今の俺のケーキは、売り物にはならない方だ。
「これじゃ、パティシエ失格だぞ俺」
 自分に言い聞かせ、自分のプライドを奮い立たせる。店の人の期待や信頼、自分の職人としての誇りと意地。そして、お客様の笑顔。何よりお菓子作りが楽しいという気持ち。その全てを思い出して、もう一度ケーキの焼きに入ろうとする。ふと、頭の隅に甘い考えが過ぎった。
「俺。仕事なんてしてる場合じゃねぇのかも…」
 そう言ったのと、ほぼ同時に厨房のドアが勢いよく開けられ、一人の男が入ってきた。そいつは、俺ににっこりと気色悪い笑顔を向けながら、
「しかしだな光よ。その仕事"なんて"をやってもらわんと、うちの店は潰れちまうんだよ」
 と、言った。ついうっかり口に出してしまった言葉に、しかもナイスタイミングで毒のあるツッコミをしてきたこいつは、神谷秋穂(かみやあいお)この喫茶『Temps tendre』の店長で、一応、俺と同い年。(Temps tendreの意味は、優しい時間)
「おい店長よぉ。ケーキの準備中は、調理場に入ってくるなと前から"何度も"言っておいたと思うが?」
 ここで、パティシエとして働き始めて、何度も口をすっぱくして言っているが、この人は一度として聞いてくれたことがない。それでも、入ってくる度に何度も言う俺って、結構律儀な性格だと思う。
「その前に、店長に対する、その糞生意気な言い方を改めるべきでは?」
 自分のことには、過敏に反応する奴だな。
「はぁ…。ケーキの準備中は、調理場に入らないようお願いします」
それを聞いた秋穂は、ふっと鼻で笑い、自信たっぷりにこう言った。
「店長だから問題ない!」
「んなの関係ねぇ!」
 このやり取りも飽きるほどやった。てか、飽きた…





 俺と秋穂は中学校時代からの一番の親友で、当時、勉強も運動もごく一般レベルの俺と違い、常に何事においても学年トップを維持していた秋穂。そんな秋穂に、俺はテストの毎に、みっちりしごかれたのを今でも憶えている。秋穂は、テストでは常にトップから落ちたりせず、またその事を周りにひけらかしたりせず、寧ろ子供のように喜んでいた。中学三年になって、受験のシーズン?が始まった時、俺は、秋穂は県内でも有名な進学校に進むのだろうと思っていた。俺は、そのことを考える度に少し寂しくなったのを憶えている。
 そんなとき、秋穂がわざわざレベルを落としてまで、俺と一緒の学校を受けると知って凄く驚いた。秋穂のレベルなら、ほとんどの学校に合格できるほどの実力があるにも拘わらず、わざわざ偏差値が40〜50そこらの学校を受けるなんて馬鹿げていると思ったし、それが嬉しいとも思った。俺は秋穂にその理由を聞くと、秋穂は澄ました顔で、
「そんなの、お前と一緒の学校が良いからに決まってんじゃん」
 と、こっぱずかしいことを、さも当たり前のように言ってきて、『何を今更、んなこと聞いてんだ?』と言われたのを今も忘れていない。あの時は、ホント死ぬほど恥ずかしかった。





「…………てな理由で、お前は今日クビな」
「そうか。クビか」
 秋穂との思い出に耽っていたら、その秋穂からクビ宣告か。んでも、店長なんだから当たり前か?
「んじゃ、お疲れ様っした」
 そう言いながら、厨房を出て行こうとする、俺の方をガッシリと掴み、秋穂が言う。
「まて、光。なぜそこまで落ち着いているのだ?もっと、口から泡が出るくらい慌ててくれないのか?」
 どんな、慌て方だよ。そこまで取り乱したりはせんだろ普通。たかだかクビくらいで……って、ん?
「クビ?何でだよ!?」
 今理解した。俺はすごく慌てて、すごく動揺していたようだ。
「そうそれ」
 にっこりと微笑む、秋穂の顔に一発グーをぶち込み、話を進める。
「殴るの禁止!結構痛いんだかんな」
 赤くなった頬をさすりながら、秋穂は言った。その時、小声で『俺てんちょなのに』とかも言っていた。その発言は色々と控えるべきだろ…
「んなこと、どうでもいいから説明しやがれ」
「ったく。お前、俺の話ちゃんと聞いてたか?」
「いや全く」
 そう言いながら、俺は首を横に振る。聞いてなかったから、いきなりのクビ宣告に驚いているんだ。まぁ多分、話をちゃんと聞いてても、同じような反応をしたと思うけど。秋穂の方は、やれやれ、と言った感じに溜息をつきながら首をふり、
「ったく、しょうがねぇ奴だなぁ…」
 と、本当に呆れた感じで言った。
「すまんねぇ。今週限定だから勘弁してくれ」
「お前。さっきから、店長に対する発言が失礼極まりないな。ていうかな、クビの理由は"それ"だから」
 そんな、いきなり"それ"って言われても、いまいち見当がつかない。もしかして、本当に俺の態度が問題なのか?確かに、パティシエとして、今の俺は限りなく最低の状態だと思う。でも少しばかり厳しすぎやしないか。とりあえず、一応の確認はしとかないとな。
「本気なのか?」
「俺は、冗談と嘘が嫌いだ」
 本気のようだ。俺と秋穂。二人で厨房に居るわけだが、一体どれくらいの時間が経ったのか、五分経ったのか、それとも三十分は経ったのか。さっきまでは、時間を感じ取れていたのに、急に解らなくなってしまった。さっきの数分の会話で、時間が止まってしまったような錯覚を覚える。いつになく、真剣な空気のなか、ふと厨房の入り口に目をやると、さっきまで閉まっていたはずのドアが、とてもゆっくりと、まるでスローモーションカメラの映像のように、開いているのが目に入った。これがアハ体験ってやつなのだろうか。そのドアが、少しずつ、少しずつ、開いていき、ちょうど人の体の半分位が入るところで、その動きが止まった。開いたドアの隙間から、ちょこっと顔を覗かしている、まるで子リスのようなその小さな女性は、この店の従業員の一人で、フロア担当の月城彩(つきしろあや)さんだ。彩さんは、俺には目もふれず、というよりも興味がないようで、ずっと神谷の方ばかり見ている。
 そして、ふと俺と目が合うと、俺と神谷を交互に見、一度だけ、はぁと溜息をつき厨房に入ってきた。
「店長。言われた通り、店を閉めてきましたよ」
 と、神谷に話しかけた。てか、また店を閉めたのかよ。これで三回目だぞ。
「おぉ。よくやった。それでこそ、この店のチーフだ」
 彩さんに、話しかけられてから、ようやくその存在に気付いた秋穂は、彩さんの肩をぽんぽんと叩きながらそう言った。彩さんは、また溜息をつきながら、
「店長。何度も言いますが、私はチーフじゃありません。あと、ちゃんと光君に説明してあげないとダメでしょう」
 と、腰に手を当てながら、もう、といった感じに言う。秋穂の毎度のボケにも律儀に突っ込み、そして、秋穂のダメな所を正す。本人には口が裂けても言えないけど、なんかお母さんみたいな人だ。てか、二人とも相性良すぎ。
「あれ?違ったけか?ところで、お店ちゃんと閉めた?」
「違います。先ほど閉めたと言いましたし、店長も反応したでしょう。その年でボケたんですか?あと、話が一向に進まないので、ちゃんと一から十まで光君に説明してあげてください」
 おぉ、秋穂が小さくなった。何と言うか、ほほえましいねぇ……すいません、彩さん。めちゃくちゃ怖いっす。
「っく……あのな、お前うちのチーフの明日美ちゃんに告ったろ? んで振られただろ?」
 直球過ぎな、秋穂の問いかけに、俺は俯いて答えることが出来ない。正確には答えたくない。
「んで、そのせいって言ったらあれだけど、お前は精神的にまいってて、明日美ちゃんの方は、店に来ない」
 秋穂の話を聞いてると、なんだか無性に腹が立ってきた。秋穂は悪くないのかもしれないが、それでも腹の底から湧き出てくる何かが、俺の苛々を増していった。秋穂の斜め後ろに立っている彩さんは、目を閉じたまま、じっと秋穂の話を聞いている。
「だからよ。お前はこれから一週間クビ。どっちかってと休暇だな。だから、ちゃんと体を休めて、んでもって頭も冷やして来い」
「……」
 俺は、まだ俯いたままで、まだ秋穂に何も答えていない。正確には答えられない。でも、その理由はさっきとは違う。秋穂の店長としての甘さと、親友としての優しさを感じ取れたからだ。
「それに、今のお前は邪魔なだけだしな」
 そう言った秋穂の太ももを蹴り、『一言余計です!』と彩さんが怒る。確かに一言が多いな。でも、その一言も含めて、秋穂の言葉に救われた気がする。だから、俺は顔を上げて、頭の帽子を取って、"店長"に頭を下げる。
「店長。迷惑かけてすみません。ありがとうございます」
「気にするな」
 深々と頭を下げる俺に、いつもの秋穂が声をかけてくれる。いつも自分より、お店より、家族より、友達を優先してきた秋穂。俺は改めて思った。こいつは俺の親友なんだって。
「店長」
「なんだい?彩くん」
「良い雰囲気の所、真に申し訳ないのですが、明日美ちゃんもチーフじゃないです。というより、従業員ですらありません」
「「…………」」
 本当に台無し。
「まっ…まぁとにかくだ。光は、今日から完全休暇だ。わかったな?」
「了解だ。」
 そう言って、頭の帽子を取り、厨房を出ようとしたところを、後ろから秋穂に声をかけられた。
「光。着替えが終わったら、カウンターに座れ。話があるからな」
「あいよ」
 そう言って、今度こそ俺は厨房から出る。そして、厨房から出て直ぐの所にある、男子更衣室に入った。昼間とはいえ、部屋は電気を点けなければ真っ暗な部屋の中で、俺は電気を点けないで、入り口のドアにもたれながら座り込む。最近は、独りになるといつも"こう"なる。本当に俺は弱い人間だ。そりゃ色々あったんだけど、って言ったらただの言い訳にしかならないか。
「あぁ。ダメだ」
 文字通り『負の連鎖』俺は、ゆっくりと立ち上がって、ドアのすぐ横に付けられているスイッチを押す。一瞬チカチカっと光ったと思うと、パっと部屋全体が明るくなった。ただ相変わらず、俺の心の中は真っ暗なんだけどな。
「いかんいかん。さっさと着替えるかな」
 頭をふるふるっと振って、自分のロッカーに手をかける。さっさと着替えなきゃ、また似非店長に愚痴られるしな。どうせ、話しっていうのも明日美関連だろうし。
「嫌なことは、さっさと終わらせっかな」
 そう言って、ロッカーを閉めて、部屋の電気を消して、更衣室から出る。電気点けっぱなしだったり、部屋が開きっぱなしだったりしたら、暴走族より五月蝿い女性がいるから、それはもう気を付けている。
「んあぁ〜〜」
 と、大きく背伸びをしながら、カウンターに向かう。





「とっても暖かいココアだ。喜びに涙を流しつつ飲め」
「夏間近のこの時期にどうもありがとう」
 そう言って、秋穂からココアを受け取る。この野郎、本当にぽっかぽかじゃねぇか。そんなことを思いながら、少しずつココアを飲み込む。そうして数分が過ぎたが、秋穂は一向に話し始めない。それに俺が折れる感じで聞く。
「そいで話しって何だ?」
 そう言うと、カウンターに肘をつき店内を見ていた秋穂が、その目線を俺に合わした。
「お前、あれから明日美ちゃんと話しは出来たか?」
 話しは、また、"そのこと"についてだった。俺はいい加減うんざりしてきた。
「結局そのことかよ」
 その話題を出されても、さっきまでは何とも思っていなかった。今までは我慢できた。でも今は違う。はっきり言って鬱陶しい。もう、我慢の限界だ。
「そのことかよ、じゃねぇだろ。皆心配してんだぞ?」
「それが?」
「それがじゃねぇって。今のお前、子供みてぇだぞ?」
「だったら! それがどうしたってんだよ!!」
 俺は、カウンターをおもいっきり叩き、秋穂におもいっきり怒鳴る。行き場の無い、もやもや全部吐き出すみたいに、ただ俺は怒鳴る。それは、誰が見たってただの八つ当たりだった。
「秋穂! いい加減ほっといてくれよ! お前には関係ないだろ!」
「関係あるさ」
「ねぇよ!」
「ある。 お前はこの店の店員だ。 んでもって俺は店長だ。 それ以前に、お前は俺の親友だ。 だから関係ある」
 秋穂は、さも当たり前かのように言った。それを聞いた俺は、驚いて声が出ない。昔からこんな奴だった。喧嘩しそうな時も、実際喧嘩している時も、どんな時も空気を読まずに秋穂は"それ"を言う。『お前は俺の親友だ』って。呆れるくらい真剣な発言。本当に恥ずかしい発言。でも、一番嬉しかったりする発言。それを聞いて、一気に頭が冷える。そして途端に情けなくなる。
「聞いてくれよ、秋穂」
「おう」
 泣きそうな声で、秋穂に話し始める。溜まっていたもやもやを、さっきとは違う形で吐き出す。そして、それをちゃんと受け止めてくれる秋穂。最初から、近くに居たのに、それに気付けなかった自分が、また情けなくて。今は、ただ話す。それだけしか出来ないから。
「俺、あれから分かんなくなっちまったんだ。明日美との接し方がよ。」
「うん」
「最初は、振られても大丈夫だと思ったんだ。実際、大丈夫だったんだけど、次の日からあいつを見かけたら、条件反射で逃げ出しちまってよ。辛いんだよ現実が。変わってしまったんだって、そこから先は無いんだって思うと、なんかよ…どうしたらいいかわかんなくて……」
「そっか」
「なぁ。俺はどんな顔して、明日美に会えばいい…」
「バカ。いつも通りでいいんだよ」
 俺は、ハッと顔を上げる。まさか、そんなこと言われるとは思っていなかったからだ。
「ど…どうしてだ?」
 そう聞く俺に、秋穂はさも当たり前のように、
「そりゃ、お前も明日美ちゃんも、それに他の皆がそれを望んでいるからだ」
「明日美や、皆が?」
 うん、と頷く秋穂。
「当たり前だろ。誰も変化なんか望んでないよ。それに、そのことを一番望んでないのは明日美ちゃんだ。女の子ってか、振った側の人間ってのは、基本的に振ったことによる変化を嫌うもんなんだ。明日美ちゃんみたいな子なら、尚のことだな。だから、いつも通り接してあげたらいいんだよ」
「だけど…」
 そんなこと、出来ると思えない。俺は、そんなに強い人間じゃないから。
「今回は頑張れ。お前が、どうして弱いのかは分かってる。でも、だからこそ頑張るんだ。今回はダメだった、だったら次を作ればいいだけだ。簡単な話しじゃないかもしれないけど、不可能なことじゃないだろ?」
「あぁ…」
 いまいちハッキリしない返事をする俺。でも、そんな俺に秋穂は、
「今は、それでいいさ。すぐにじゃなくてもいい。少しずつ、"今まで"に戻っていけばいいんだからな」
「うん。ありがとう」
 俺が、そう言うと秋穂は『別にいいさ、親友だろ?』と言って、今度は冷たいコーヒーを入れ始めた。
2008-05-01 04:51:13公開 / 作者:藤林 祭
■この作品の著作権は藤林 祭さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
名前を変えました。
前の名前は『天宮』です。

この作品で、いろいろな人になにか感じてもらいたい、そう思っています。
それが、例えどのようなものであっても、何か感じ取れたのならば凄くうれしく思います。
御指摘、御感想、お待ちしております。
では、よろしくお願いいたします。


"雑文"
久々の更新。
時間が出来ない為、修正だけした。
なんとか時間を見つけて
続きを書かねば。。。。
この作品に対する感想 - 昇順
読ませて頂きました。端的に感想を述べるとすれば「面白そう」。それ以上何を書いていいのか、まだ現時点ではわかりません。読みやすさと軽快さのあるいい文章を書かれる方だな、というのは伝わるのですが、現時点で感想を述べるのは難しいなぁ、と思うのです。続きに期待させていただきます。
2007-11-21 02:15:48【☆☆☆☆☆】夏梅 乃楽
読ませていただきました。主人公の語り口と会話の軽さ、独り言など、おそらく藤林祭さんの計算どおりの、コミカルな導入であると感じました。更新頑張ってください。同級生を「この人」と呼ぶのは少しおかしく思いました。
2007-11-22 22:07:35【☆☆☆☆☆】メイルマン
作品を読ませていただきました。リズム良く文章が進んでいきますね。作品そのものはまだ序章でしょうから方向性は分かりませんが、このリズム感で進んでいくと面白い作品になりそうですね。では、次回更新を期待しています。
2007-11-25 11:04:35【☆☆☆☆☆】甘木
夏海乃楽様>
確かに、この量では感想を述べにくいですね。すみませんでした。
それでも、お読みいただいて、御感想を少しでも述べてくださって、ありがとうございます。
これからも、更新していくので、またお読み下さい。


メイルマン様>
御指摘部分は、修正しました。ありがとうございます。
コミカルと捉えてもらえたのは、嬉しいです。自分でも結構狙ってますしね^^
御感想、御指摘、ありがとうございました。


甘木様>
お読みいただき、ありがとうございます。
自分でも、このリズムのまま最後まで、皆様を飽きさせることなく書きたいと思っています。
御感想、ありがとうございました。
2007-12-01 04:02:18【☆☆☆☆☆】藤林 祭
面白いと思いました。独特の調子が高さがあって、自然にストーリに引きこまれました。専門とされているお菓子作りの描写が楽しみです。読んでいるだけで甘い香りが立つような作品になればタイトルとマッチしますね。
2008-01-18 21:22:13【☆☆☆☆☆】プラクライマ
どうも、初めまして、鋏屋【ハサミヤ】と申します。
作品を読ませていただきました。
まだ、内容については導入部な様なのでコメントは難しいですが、私はプロローグが印象的でした。あれですぅっと引き込まれて感じがします。
 ≫「なぁ。俺はどんな顔して、明日美に会えばいい…」
  「バカ。いつも通りでいいんだよ」
ここが好きです。何というか、2人の関係が非常によくわかる感じがして。会話のライトさというか、さらっとした爽快感を感じあっという間に読めました。
続きの楽しみな作品ですので、次回以降の展開に期待を募らせながら更新をお待ちしております。
鋏屋でした。
2008-01-20 22:46:03【☆☆☆☆☆】鋏屋
プラクライマ様>
御感想ありがとうございます。
自分でも、お菓子作りの部分を、どう表現しようかと試行錯誤しています。
頑張って、期待に添えられるような作品にしたいと思います。
ありがとうございました。



鋏屋様>
お読みいただきありがとうございます。
自分でも、二人の関係が分かりやすく、尚且つその章の重要な部分を抜き出しているつもりだったので、
そう感じ取っていただけてとても嬉しいです。
ご期待を裏切らないように頑張ります。
これからも、細々と更新を続けていくのでよろしくお願いします。
2008-03-01 06:26:20【☆☆☆☆☆】藤林 祭
はじめまして、忍足です。読ませて頂きました。
光と秋穂のやりとりが楽しいですね。会話のテンポが安定しないので違和感を感じる部分も多少ありますが、センスはものすごくいいと思います。彩さんの突っ込みもいい感じです。まだ始まったばかりで、どう展開していくか楽しみです。
ただ、章のサブタイトル部分がずれてしまっているようなので、そこだけは投稿前のプレビューで確認することをお勧めします。生意気なことを言ってすみません。
続きも頑張ってください。
2008-03-01 12:07:57【☆☆☆☆☆】忍足 推
続きを読ませていただきました。テンポ良いセリフの掛け合いは良いですね。セリフから人間関係がしっかり伝わってきます。しかし、パティシエの部分が弱く感じられます。状況を鮮明に描写すればより登場人物にリアル感がでてくると思いますよ。それに私はお菓子作りが嫌いではないので(と言っても和菓子ですが)興味があるんですよ。では、次回更新を期待しています。
2008-03-09 19:30:25【☆☆☆☆☆】甘木
どうも、お久しぶりでございます。鋏屋です。
続きを読ませていただきました。
リズムというか、ノリの良さみたいな物がこの作品の最大の魅力なのかも。読んでいて疲れないし。どうなっていくのか楽しみな作品の一つです。願わくば、このリズムを崩さないで進んでいってほしいです。
ただ、甘木殿も言っておられましたが、背景が弱く感じられます。極端な意見かもしれませんが、これがパティシエでなくともいいのでは?と感じてしまいました。もう少しこの部分の設定をつめればかなり変わるのではと思います。
次回更新お待ちしております。
鋏屋でした。
2008-05-01 18:43:45【☆☆☆☆☆】鋏屋
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。