『夢人 第五章』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「“夢”」



暁の空にカラスが舞い、血のように赤い夕日が舞い
深紅の空に、真紅の薔薇の花弁が舞い
その中を貫く声が、ゆっくりとこだましていた。

「ペレルよ…第二の作戦は立ったか…?」
老婆が尋ねた。すると、ペレルと呼ばれた三つ編みの少女は軽く微笑んだ。
「ええ、まあ。一旦彼を“こちら”に送り」
「私の手でこの中に入れてしまう。そういう事か」
老婆は鼻先で笑った。
皺が深く刻まれたの掌の上で、コロリと水晶球が転がされる。
「ペレルよ。あの覚醒した『死神』の処理はどうする?」
死神、その言葉を聞いて、少女は怯えたようにすくんでみせた。
「まさか?処理するも何も無いでしょう」

指を一本立て、彼女は微笑んだ。
「死神はもはや、天使を殺してくれる生き物ですからね」

「遅い遅い遅い遅い!」
フィルはそう叫んで、一人でややヒステリーを起こしている。
確かにその通りだった。
もう夜中で、再びシェルが料理を作っていたのだ。
あのレスケさんはまだ帰ってこない。
ボクだってもう我慢の限界だ。
溜息が、自然に出てきた。
それにしても久しぶりに平凡だなぁ…。
そんな事を考えながら、ごろんと床に横になって見る。
久しぶりに、「暇」という感覚を覚えた。自然に、瞼を閉じる。

―――殺せ

「!」
突然、激しい頭痛が襲った。
気のせいだろうか?しかし、自然と顔が歪む。

―――お前の敵を

間違いない。あの声だ。

―――殺せ

あの痛みだ。

―――切り刻んでしまえ

「うああ!」
ボクは床に転がってしまった。フィルが近づいてくる。
自分は今何をしているのだろう。何かを、誰かが、言って、そして、彼女が、視界から、消える。

空気が渦を巻いて、ボクの周りで目まぐるしく動いていた。
熱い、冷たい、痛い、苦しい。
刺されるような激しい苦痛。

「や…めて、くれ…」

すると、世界が一変した。
柔らかな光に包まれた、天国のような暖かい世界。

あのね、カルル。
お母さんはいつも、あなたの事を見ていて思うの。
あなたは優しすぎる。
時には、人につらく当たりなさい。
そしてまた時には、厳しく教えなさい。
飴と鞭を、うまく使い分けてこそ、
お母さんの大好きなあなたなのよ。


母さんが、そう言ってボクの頭を撫でる。
若い母さんだ。ボクの背も、今よりかなり縮んでいた。
涙が頬を伝っている。きっと、何か喧嘩でもしたのだろう。
何故か、もう一人のボクが、その光景を客観視していた。


突然。



母さんの顔が醜く歪み、鬼のような形相になった。
そしてまた、あの声が、空間を満たす。歪んだ顔が、こう告げる。


―――災いをもたらす者を、殺せ


もはや目の前に母さんは居ない。
目の前に居るのは、黒い長いマントを羽織り、両手に大きな鎌を持った人だった。
人かどうかも定かではない。
ただ、深く被ったフードの奥に光る二つの目に、親しみを感じた。

「死神…!?」

そう呼ぶと、そいつは深く頷く。
すると、死神の背中を、大きな剣が貫いた。貫いた人物は女の人で、にっこり微笑んで去っていく。
死神の隙を狙い、ボクは攻め始めた。
もう、自分の意識やら感情やらは全て脳みそから締め出され、口からは訳の分からない言葉がひたすら出て行く。
それは、呪文だったのだろうか?
最後に、ボクと思われる人物は、その死神とか言われた人物に、手をかざして、最後のとどめをさした。

「―――」

最後の言葉が何だったかは判らない。
ただ、ボクの手から紫色の閃光が走り、
死神は倒れていった。



水晶玉を覗いて、二人は低い声で笑った。
「お婆様、作戦にやや成功いたしました」
ペレルはにっこり笑って言う。
「まあ、天使の力は覚醒したようじゃ。後々処置を施せば良い」
老婆は小さく手を叩いた。拍手だろうか?
光栄です、と言って一礼した少女の三つ編みが、ゆらりと揺れた。
「死神に至っては、我々の仲間も同然です」

2003-11-18 22:26:58公開 / 作者:棗
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■作者からのメッセージ
ここから山場です。
題名も夢人なので、ここからが山場です。誰が何と言おうと(強制終了)
この作品に対する感想 - 昇順
結構怖いですね。こういうの好きです次回投稿楽しみにしてます。
2003-11-18 23:07:26【★★★★☆】太郎
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。