『笑っていてくれ 2』作者:み〜くす / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約8.8枚
乾いた音が響くき、サンドバックが揺れる。バスッ ズン ドスッ「ふぅ」まだ揺れているサンドバックに抱きつき揺れを止める。「今日でここでの練習も最後か・・」俺は響知彦。高1。最後と言うのは、俺は一人親元を離れ美咲島という所の学校に進学するからだ。何故この学校を選んだかと言うとスポーツ推薦ということが大きかったが、それ以上に俺は美咲島に戻りたいと思っていたから。以前この島に住んでいて親父の仕事の関係でこの島から出たのだ。「そろそろ行くか」そう意気込んで庭を後にした。部屋に入り荷物を整理する。ほとんどの物はもう送っているので後は俺が行くだけだ。少し大きめのスポーツバックに荷物を詰め込み、最後にさっきまで使っていたグラブを入れた。「それじゃ行って来る。それと叔母さんに連絡入れといて。俺も向こう着いたら連絡するけど。」俺は親父にそう言うと家を出た。駅に向かって歩いている時、重要なことを思い出した。「しまった・・サンドバック送ってない・・」とんだ失敗だ。これじゃ向こうに着いても練習が出来ない・・俺は急いで家に戻った。だがそこにはサンドバックの姿が無く一枚の紙が貼ってあった。紙にはこう書いてある(知彦、サンドバックは父さんが送っとくから夕方には届くと思う。だからお前には何も心配せずに行って来い。)「へヘ、最後の最後まで手間を掛けさしちまった。」俺は紙の裏にこう書き駅に向かって歩き出した。(最後の最後にも手間を掛けさしてゴメン。俺、精一杯頑張って来るから)
列車の中俺は昔の事を思い出していた。「イヤだ。いやだ。引っ越すなんてやだー。」親父の急な転勤で美咲島から引っ越す事になった時、俺はそれがいやで一日中家に帰らない事があった。俺は裏山の秘密基地で一人泣いていた。そんな時人の気配を感じ俺は身を隠した。(誰が来たって帰るもんか)木の陰から見てみるとそこには女の子が一人立っていた。「ねぇ、知くん。居るんでしょ・・・」その声には聞き覚えがあった。「なんだ、お前か。今そっち行く」「うん」彼女はそう言いその場に座り俺は手ごろな石の上に座った。「知くん引っ越すんだって・・私、寂しいな」彼女は俯き涙を浮かべていた。「泣くなよ、俺またここに戻って来るから・・」俺はそう言った。「じゃあ、約束だよ」彼女は指を出してきた。「あぁ、約束だ。」そう言って指切りをした  次は終点美咲〜美咲〜 遠くの方で声が聞こえた。どうも考えているうちに寝ていたようだ。俺は慌てて荷物を網棚から取り出し下車の準備をした。
駅から出て辺りを見渡してみる。多少の変化はあるもののほとんどは俺がこの島にいた時と同じだ。―あ、叔母さんに連絡しておかなくちゃな。俺は公衆電話を見つけ番号を押す「もしもし」受話器から明るい女性の声がする。「こんにちは、知彦です。今着きました。」「あらあら、久しぶり。荷物は届いてるわ、場所は分かる?」 「はい、30分もあれば着くと思いますから」そう言って俺は電話を切った。叔母さんはこの島にあるアパートを何個か所有していて性格も良くて人望も厚い。自慢の叔母だ。ただ一つを除けば・・・。懐かしい道を歩き少しすると叔母の家に着いた。「こんにちは〜」俺は扉を開けあいさつをした。「は〜い」家の中から女性の声が響く。「いらっしゃい、知彦」そう言って人懐っこい笑顔で俺を迎えてくれた。この人が藤堂美春、俺の叔母さんだ。電話なんかでは叔母さんと呼んでもいいんだが、会って話すときは美春姉ちゃんと呼ばなくてはいけないのだ。なぜかと言うと美春姉ちゃんはまだ20代後半。「私まだ叔母さんなんて呼ばれる年じゃないし、姉ちゃんって呼んでちょうだい。私も弟が出来たみたいで嬉しいしね」こんな訳で会うときは姉ちゃんなのだ。それに一人っ子の俺にとって本当に姉貴みたいな存在だから問題は無い。「親父が、これから息子が迷惑掛けますって伝えてくれって。それと俺はどこに行けばいいの?」俺は親父からの託とこれからの生活場所を聞いた。「相変わらずね。秋敏さんには後で連絡しとくわね。え〜と知彦の部屋は〜・・裏山の麓の所ね。」麓っていうと、ここからだと結構離れた所だな・・・「え〜と、鍵は何処にあったかしら・・・」そう言って辺りをパタパタと走り回り鍵を捜している。「一緒に探そうか?」俺がそう言うと「大丈夫大丈夫」そう言って部屋の奥へ入って行った。「あれ〜どこに置いたかな〜。」部屋の奥からは美春姉ちゃんの情けない声が聞こえてくる。これが姉ちゃんの唯一の欠点・・・姉ちゃんは人一倍忘れっぽいのだ。(相変わらずだな・・・)でもこの性格があってこその姉ちゃんなんだ。俺がそんな事を思っていると、一人の男が玄関から入ってきた。長身で真面目そうな男だ。「あれ、知彦君?」不意に名前を呼ばれて後ろを振り向くとそこにはさきほどの男が立っていた。「あっ、こんにちは武さん」そう声の主は藤堂武。美春姉ちゃんの旦那さんだ。姉ちゃんの通っていた学校の2つ上の先輩で、姉ちゃんが一目ぼれ。初めはかわいい妹みたいな存在でしかなかったが時が経つにつれて、あの性格だからはかっておけない存在になっていったらしい。そして姉ちゃんが卒業すると同時にプロポーズし結婚という形になった。「こんにちは、どうだい久々に来たこの島は?」「そうですね。初めはここまで絶対に来れないと思っていたんですけど少し歩いたら知っている道に出たので。駅の方はかなり変わってましたけどこの辺はあんまり変わってないんですね。」俺がそう言うと「そう言われればそうだな、駅はかなり変わったけどこの辺は変わってないな〜。」そんな他愛もない話をしている時にまた姉ちゃんの声が聞こえてきた。「も〜何処へ行っちゃたのよ〜。」まだ探していたのか・・・あれから10分ほど探している気がするが・・・「あ〜知彦君・・美春はどの位あのままなのかな?」はにかみながら聞いてきた。「え〜10分ぐらいかな・・」俺は愛想笑いを浮かべて答えた。「ごめん、すぐ戻ってくるからちょっと行ってくるよ」そう言うと武さんは奥へと入っていった。
「お〜い、美春〜どうした?」そう武さんはどんな時も姉ちゃんの事を一番に考えている・・いつだったか姉ちゃんが旅行に行った時に航空券を家に忘れて行った事があったらしい。姉ちゃんは空港でパニックになり、一緒に行く友達がそれをなだめていた。そんな時、武さんが息を切らして姉ちゃんの所へ航空券を持って来たのである。「美春。忘れ物だよ。」武さんは笑顔でそう言った。そう武さんはテーブルの上に置きっぱなしの航空券を見て慌てて追いかけたのだ、自分の仕事をすっぽかしてまで。「え!?武さん?どうして?仕事はどうしたの?」航空券を受け取りながらそう言った。「え〜と、まあいいじゃないか。まだ離陸まで時間あるだろ、楽しんでこいよ。」そう言って背を向け出口へと歩き出した。「ばか!今日は大事な会議があるって言ってたじゃない。」姉ちゃんは武さんの背に向かって言った。武さんは少し振り向いて笑顔で手を振り出口に消えて行った。「ほんと、ばかなんだから。」姉ちゃんは嬉しそうに小さく呟くと、元気を取り戻し友達と共に飛行機へと乗り込んだ。姉ちゃんは飛行機の中で、自分のために大事な仕事を放り出して来てくれた武さんの優しさに包まれて眠っていたらしい。その後武さんは、市役所でこっぴどく叱られ減俸処分となった事は姉ちゃんには内緒にしていたそうだ。姉ちゃんが本当に武さんを信頼しているし頼りにしているのはこんな事があったからなのだ。だから姉ちゃんはいつも笑っていられるのかもしれない・・「お〜いあったぞ。」奥から声が聞こえてきた。それは武さんが奥へ行って3分ぐらい経っての事だった。奥の扉が開き姉ちゃんと武さんが一緒に出てきて鍵を渡してくれた。「ごめんね。探すの手間取っちゃって。」そう言う姉ちゃんの方を見ると髪やら服にほこりがついていた。「いや〜ごめんね。美春が分かりやすいように鍵をテーブルの上に置いといたんだけど、書類の下に潜り込んでたみたいで。」武さんは姉ちゃんの髪に付いたほこりを落としながら言った。姉ちゃんはいったいどの位激しく探していたのだろう・・・まあ想像も出来ないくらいなのは確かだろう。考える前に動いている姉ちゃんだから・・・「なんだかお騒がせしちゃったみたいで・・。俺そろそろ行きます。」「あはは・・まあ困った事があったらまた来てね。」姉ちゃんははみかみながら俺に言った。「それじゃ 行って来ます。」俺は二人にお礼を言ってから新しい新居へ向けて足を進めた。
2003-08-20 22:20:09公開 / 作者:み〜くす
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■作者からのメッセージ
笑っていてくれの続です この前は背景の所をミスしてしまったので、今回は何も触らないことにしました。 やっとプロローグ的なものが終った気がします。長かったかな〜 これから本格的に本編が始まるので応援よろしくお願いします 何かアドバイスなどございましたら書き込みよろしくおねがいします
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