『葉で出来た大魔王』作者:黒猫 / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
夢霧の中で物語りは幕を開ける。クドラの町にカインと呼ばれる少年が住んでいた。カインは夢霧のある世界が嫌で、ある日、町を抜け出してしまう。そして、とある大国で魔王の復活儀式を見てしまう。それから、魔王の手下に命を狙われ……。
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原稿用紙約11.04枚


葉で出来た大魔王



プロローグ



 広大な大地。
 無限に広がる空。
 連なる山々。
 全ては人の思いによって出来た。
 空は人の夢をかなえ、大地は人の生活を支える。
 やがて、人は気がつく。
 私は……一人ではない、と……。




-1-


 朝の冷たい空気が喉にぐっと入り、あたりを見渡せば霧がかかっていた。白いもやのような物の中に自分は入っているというだけでも、考えるだけでとても冷たい。空を見上げても、白い霧が続いていた。昔見た青い美しいあの空はもう、見えない。
 太陽の光も遮断され、ただ、白い景色が広がるだけ。いつもと何も変わらない。ちっとも変わらない。また……同じだ。
 そもそも、霧が発生した理由はあの事件が始まりだった。あの日。そう、霧が発生したあの日。世界は静かに変わり始めていた。あれは、自分が生まれて、五年ぐらいの時。あの日は確か……魔王と名乗る出てきた日だ。
 魔王と名乗った男は一つの王都を焼き尽くし、そして、自分の城を作り上げた。自分は、小さくてよく分からなかったが、その事件のせいで両親は死んだというのが理解はできた。
 自分の他に両親がいない者は多い。魔王の城は、今はもう何処にあるのか分からない。ただ、伝説にあるのは『二つの月があがる時、魔王の城は泉から現れるだろう』という物だけだった。そもそも、これは預言者が言った言葉だ。本当かどうかはみんな知らない。
 誰しも最初は霧なんてどうでもいいと思い始めていた。でも、実際はそうじゃない。霧が増えたせいで魔物の数も増え、死んでいく人が増えた。
 今では、誰もが腰などに剣やナイフと言った物を忍ばせている。魔物などに襲われても、すぐ対抗できるようにするためだ。自分は静かにあたりを見渡す。魔物の気配はない。自分は進んだ。すると、広場につく。裏町から入ってすぐの場所。足元を見れば、赤いレンガや白いレンガで造られた道。霧がなければ、もっと綺麗に見えるのだろう。
 ここは、昔は栄えていた町……クドラだ。今では人口はぐっと減り、いるのは百人程度。家々は白いレンガや赤いレンガで作られており、近くの場所では川の流れる音が聞こえる。しかし、場所の位置は特定は出来ない。

 そんな事を思いながら、歩いていたのは一人の少年だった。金髪の髪にややほっそりとした顔つき。頭には黒いニット帽をかぶっており、少年は青い目を一度閉じ、あたりに魔物がいないか再確認する。そして、曲がってすぐの店に入った。
「いらっしゃい。お、カインか」
「おじさん。飲み物とパンお願い」
 店に入ると、霧は消えた。そして、広がるのは店の中。カウンターがあり、その中央にはおじさんがいる。ここは喫茶店のようで椅子とテーブルが店に並べられている。
 おじさんの年齢的には五十過ぎたあたりだろう。おじさんの顔にはしわがきざまれており、どれほどの年を生きているのか、はっきりと分かった。
 少年は黒いニット帽をはずし、ふーっとため息をついた。おじさんはそんな少年――カインを見ながら、微笑む。
「どうした。元気がないな」
「最近、魔物の数が多いから……しっかりしないとなって思って」
「確かにな、店に来た時ぐらいは肩のこりを落とさないとやっていけないぞ」
 おじさんは微笑む。そして、台所にあったパンとビン(透明な水が入った)をカインに渡した。カインは金色に光る丸いコインをおじさんに二枚渡す。おじさんは無言でいるカインに白いマグカップを渡す。カインが不思議そうな顔をしていると、おじさんはコーヒーの豆を砕き始める。古い物のようで豆をすりつぶし、カインのマグカップの上に布を置き、そこにコーヒー豆の粉末を置いた。
 そして、しゅっしゅと煮だっているヤカンを持ち、じゃーっと入れる。それと同時に暖かい湯気がカインの顔にかかる。いいにおいだ。カインはそう思って微笑む。
「いいにおいだ」
「それはおまけだ」とおじさんは微笑んだ。
「どうも……それにしても、隣国が大変な事になったみたいだね」
「ああ。何でも何万の魔物に襲われたらしい。これも……あの霧のせいだろう」
 霧。さきほどの霧のことだ。人は夢霧と呼び、霧が深いところには必ずと言っていいが魔物の生息地だ。もちろん、この街もその対象だ。
「カイン、明日いっしょに隣の町にある城にいかないか?」
「城? 何でですか?」
「ちょっと、カインに見せたい物があるんでな」
「おもしろいもの?」
 カインが聞くと、おじさんはにっこりと笑って頷いた。
「そうだな。カインは絶対によろこぶものだ」
「なら、行く」
 カインは貰ったコーヒーを口に含む。すると、口の中で苦いものが広がる。カインはむせ返った。おじさんは平気な顔をして、ずずっとコーヒーを飲み始める。おじさんのコーヒーには砂糖はいっつも入っていない。砂糖はぜいたく品でとても高価なものだ。こんなことには使ってられない。
 カインはふっとため息をつき、再び口にする。やはり、苦いものは苦い。吐き出しそうになるが、ぐっとこらえた。大人になれれば、飲めるのだろうか。俺は早く大人になりたい。カインはじっとコーヒーを見つめた。コーヒーは白いものがくるくると回っている。

 カインはいつものように剣をにぎり、獲物をしとめに行っていた。今日はおじさんも一緒についてきていた。獲物がいるのはたいてい、森の中だ。森は霧でほとんど多い尽くされ、三メートル先は白いもやで見えない。カインはあたりをきょろきょろと見渡す。
 街ではなかなか肉という物は売られていなく。しかも、高値で取引されている。霧が発生していなかったときは肉は店頭にならび、格安だったらしい。しかし、今となっては飼育しても魔物に食べられてしまうし、取りに行こうとしても、なかなか命をはるような者はそうはいない。
 カインは背後に人の気配を感じ取って振り向いた。そこには銃を構えたおじさんがいる。おじさんはしーっと人差し指を口元に置いて言った。しばらくの沈黙。カインは背後にがさっと物音がし、振り返る。しかし、そこには何もいない。
「カイン。物音じゃない。影をとらえろ」とおじさんが小声で言った。
「そんなこと言っても……全部、白じゃないか」
 カインは影を探すが、何処にも見当たらない。たまにがさっと音が鳴る程度で景色は何も変わらなかった。その時だった。後ろからがさっと響き、大きな狼が大口をあけ、カインに襲い掛かった。
「わっ」
 カインは転がるように攻撃をかわし、真上に来た狼を蹴り飛ばす。狼の額には大きな穴があり、目はこの世には存在しないような色彩のヘドロ色をしていた。色は全体的にシルバーで、狼は低くうなっていた。カインは慌てて立ち上がり、剣をかまえる。
 まだ、心臓がばくばくとなっており、カインはやつれた表情で狼を睨んだ。狼はうなり、もう一度、カインに襲い掛かろうとした時だった。ばんっと発砲音が響き、カインの前は赤く染まる。耳ががんがんとなり、カインは吐き気を覚えた。
 狼の悲鳴があがり、再び発砲音が響く。そして、倒れる音。カインはおそるおそると目を開く。そこには赤と白のシンプルな銃を握ったおじさんがいた。おじさんの五メートル先にはあの狼がびくびくと痙攣して、赤い血がどくどくで出ている。
「カイン、怪我はないか?」
「え、うん」
 カインは改めておじさんの持つ銃を見た。むらのない綺麗さにカインはその銃に感動を覚えた。普段のおじさんの銃はとても古い銃を使っていた。でも、今使っていたのはカインにとって、見たことのない銃だった。
「おじさん、その銃は?」
「これか、殺傷性の高い銃だ。つい、うっかりと使ってしまってね」
 おじさんは笑った。銃の振動が強いのか、おじさんの手は震えていた。
 おじさん……俺のためにつかったんだ。あの狼から、俺を守るために……あの狼をたったの一発で瀬死にする銃だ。振動だって強いはずじゃないか。
「カイン。ここでいったん休もう。わしも年をとったな」とおじさんは白い歯を見せて笑う。
 カインは笑えなかった。どうしても、おじさんの硬い手に注目がいってしまう。おじさんの手は限界だ。銃を握っていた手は赤くはれてきている。今日はコーヒーカップすらもてないだろう。
「どうした?」
「だって……おじさんの手が」
 カインは涙ぐみながら言った。おじさんはそんなカインを見て、微笑む。
「こんなの、お前の命に比べたら、小さいものだ。それに、ただの疲労だから、一日も寝れば、直るだろう」
「おじさん……俺、強くなるよ。あんな狼一匹倒せないやつにはならない。おじさんみたいに一発で魔物を倒せれるようになる!」
 カインがそう叫ぶとおじさんはやつれた表情で微笑んだ。おじさんはよいこらしょ、と言いながら木の幹に座り込んだ。カインもその隣に座る。そして、辺りを警戒するかのようにきょろきょろと辺りを見渡す。
「血に肉がある。この場所は危険だから、移動しませんか?」
 魔物が好むのは血と肉だ。それによって集まってくる魔物は多い。今、考えれば、ここはとても危険だとカインは思い、おじさんに言った。
「いや、火薬のにおいで魔物はよってこないだろう。それに、さっきの発砲音でよけいにこないだろう」
 おじさんはそう笑った。カインもしぶしぶと頷く。
 こんな霧がなければ、こんなにおどおどしなくてもすむのに。こんな霧がなければ、自由に走り回れるのに……。こんな霧がなければ、隠れて歩かなくてもいいのに……。なぜ、こんな霧が出来たのだろう。
「カイン。明日行くのはやめにしよう。明日はカインの誕生日だ。何かいいものをあげなくてはな」とおじさんはやつれた表情で無理して笑う。
「今日は……俺が家まで案内するよ」
 カインは流れ出そうな涙を乱暴に服でぬぐい、おじさんの肩をかついで歩き出した。おじさんの肩はがっちりとしていて、カインよりも筋肉があった。普段は服で隠れて見えないが、おそらく、この筋肉のつき方はそうとう昔は猛者だったのだろう。
「そういえば、さっきの銃の名前はなんていうんですか?」
「ブーロサムと呼ばれる銃だ。威力は高いんだが、使うとわしみたいになってしまうんじゃよ。どうやら、何らかの魔法の力が働いているのだろう」
 魔法。この世界で魔法は太古の業だった。カインは、「魔法って実在するんですか?」と尋ねた。
「ああ、魔法は実在する。しかし、魔王によって封印されてしまった。あれは、確か……この霧が発生してからだ」
 
2007-08-04 10:25:13公開 / 作者:黒猫
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■作者からのメッセージ
こんにちは、黒猫です。
前に書いていた作品が消えてしまい、また、新しいのを書かせていただきます。
まだ、文章にむらがあると思いますが、よろしくおねがいします。


八月四日 筆記開始
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