『さくらばな』作者:ゅぇ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
日菜子も好き。鉄平も好き。だからわたしはなにも言わない。
全角4518文字
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原稿用紙約11.3枚



   【さくらばな】


 


 ――みずから苦しむか、もしくは他人を苦しませるか。そのいずれかなしに恋愛というものは存在しない。
                                              byレニエ

 ◇ ◇ ◇

 
 ――大学三年生、四月。

 

 桜の花びらが、春の強い風にあおられて何度も舞った。同じ花びらはもう二度とこの世に生まれないんだろうな、ふとそんなことを思った。
「今度ね、てっちゃんと沖縄旅行に行くのよ」
 幸せそうな日菜子の顔をみるのは、けっして嫌なことではなかった。わたしは日菜子のことが好きだった。彼女の屈託のない明るい笑顔も、隠しだてすることを知らない開けっぴろげな性格も。
 わたしは鉄平のことも好きだった。爽やかな彼の笑顔も、いつでも人の輪の中心にいる明朗な性格も。
 大切なのは、わたしが“ふたりとも好きだ”ということだった。だからわたしは、もう七年近くも鉄平への恋心を抑えてくることができたのだ。

 ――七年。あたしてっちゃんのことが好きなの、と日菜子に打ち明けられたあのときから、もう七年だ。わたしたちはもう大学三年になり、日菜子と鉄平が付き合いはじめてから二年が経った。
 鉄平を見つめるわたしの瞳に、どうか恋心がにじんでいませんように。そんな気遣いをするのにも、慣れた。
「いいよね、彼氏持ちはさー」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。ねっ、ちゃんと志保にもお土産買ってきてあげるから」
 大学のオープンカフェで、沖縄のパンフレットを嬉しそうにめくっている。時おり携帯でメールをうっているのは、おそらく鉄平への返信なのだろう。
 日菜子が好き。
 鉄平も好き。
 あのふたりがうまくいけばいい――それは本心。

 日菜子が好き。
 鉄平に恋してる。
 あのふたりが別れてしまえばいい――それも本心。

 わたしが鉄平に想いを伝えないのは、“どっちも好きだから”なんていう綺麗ごとだけが理由ではない。この心地よい三人の関係を、わたしは壊したくなかった。人間関係に対する、ありきたりなおびえ。
(ありきたりにもほどがあるよね)
 少女漫画では、きっとうまくいく。主人公の想いが何かのきっかけで露呈して、男のほうも実は主人公のことが好き。主人公と親友の関係は一時期とても険悪になるけれど、どうせ最後には仲直りをして、何もかもがうまくいく。
 
 現実は、そんなもんじゃない。
 
 大学三年生のゴールデンウイーク。わたしは笑顔で日菜子たちが沖縄旅行へ行くのを見送った。わざわざ車で空港に送っていって。自分の心を隠すなんてことは、大学の試験よりも就職活動よりも、よっぽど簡単なことだった。


 
 ◇ ◇ ◇

 
 ――二十四歳、八月。

 
 わたしたちの関係は、変わらなかった。十八年近くも築いてきた関係は、簡単には壊れない――というよりは、誰かが故意に壊そうとしない限りはけっして壊れない、安定したものだった。
 日菜子と鉄平が付き合いはじめて、六年が経っていた。
「一緒に旅行いくんじゃなかったの?」
「会社の同僚たちと海外だってさ」
 けろりとした表情で、鉄平はそう言った。あまり寂しそうにはみえず、それがもしかすると彼らの絆の深さなのかもしれないと思って、わたしは一抹の切なさを感じた。この、胸がぎゅっと締めつけられる感覚。“胸がぎゅっと締めつけられる”なんて、そんな陳腐な表現――けれど確かにそれ以外表現しようのない感覚。
 わたしにはそれらをすべて隠しとおす自信がある。
「でもさ、あんまり連絡とらなくなったよな」
「誰が」
「俺と日菜子」
 そりゃもう社会人になったんだから、しょっちゅう連絡なんてしてられないよ。わたしはそういって、鉄平が開けてくれた缶コーヒーを受けとった。
「おまえは日菜子と連絡とってる?」
「ほとんどとってないよ。飲みに行ったり、遊びに行ったりするときくらい」
 ふと違和感を覚えて、わたしは黙った。もしかすると、鉄平も同じ違和感を覚えていたかもしれない。
 
 わたしたち三人は、大学を卒業して三者三様の道を歩きはじめたのだ。もう今までのように、同じフィールドに立つことはない。
 あのころは朝から晩まで、ほとんど三人が同じようなスケジュールだった。けれどもう、わたしたちはそれぞれの生活を手に入れた。連絡をとらなくなるのも、けっしておかしいことではなかった。連絡をとらないからといって、絆が切れるわけでもない。
 鉄平と日菜子は、あまり連絡をとらなくなった。
 わたしと日菜子も、あまり連絡をとらなくなった。
 わたしと鉄平は――毎日のようにメールをしたり、電話をしたりしていた。覚えた違和感は、それだった。
「…………」
「…………」
 つと鉄平と視線がぶつかる。けっして意味ありげな視線ではなかったけれど、ふたり同じ違和感を覚えていたことに気付いて、思わず笑いあった。
「俺たちもう二十四だぜー。おまえももうオバチャンだよ」
 こん、と鉄平がわたしの頭を軽く小突く。中学生のとき、高校生のときまでは普通にできていたことだった。たぶん日菜子と付き合いはじめてからだ――わたしも鉄平も日菜子への気遣いを覚えて、お互い小突きあったり触れあったり、そんなことは一切しなくなった。
「うるさいってば。そんなら鉄平だってオッサンでしょ」
 鉄平のしっかりとした腕を、思いきり叩いた。日菜子が海外にいるからできたことなのかもしれない。この――昔を懐かしく思い出させるような行為。
「日菜子とより、おまえとのほうが仲良いかもしんないね」
(あ)
 言ってはいけないことを言った、と思った。

 
 気持ちの問題だ。
 気持ちの問題として、わたしたちのあいだには言ってはいけないことが多すぎる。やってはいけないことが多すぎる。
 男と女は不自由だ、と思った。

 ごめん日菜子、と思いながら、日菜子が海外へ行っているあいだ、わたしと鉄平は何度も遊んだ。日菜子がいればけっして座ることのない、鉄平の車の助手席に座る。日菜子がいればけっして触れることのない、鉄平の体温にふと触れる。
 もしもあのとき日菜子が、鉄平への恋心をわたしに打ち明けていなかったら。

 
 ――日菜子の場所に、わたしがいたのかもしれない。



 ◇ ◇ ◇


 
 ――三十一歳、十二月。

 
 わたしは、もうほとんど鉄平たちと会わなくなった。鉄平と日菜子は結婚して、もうひとりの子供がいる。日菜子も仕事で忙しかったし、メールをした感じでは鉄平も忙しくしているようだった。
 鉄平とは、たまに電話をする。
 日菜子への気遣いなのか、単なる暇つぶしなのか、ほとんどが仕事の残業で残っているときの夜中の電話だった。それでもわたしは、鉄平からの着信はけっして無視しない。どんな夜中でも、わたしは起きた。
『最近どう?』
 久しぶりであればあるほど、彼の声を聞くと切なくなった。その切なさで、自分が今でも彼を好きなのだと痛感する。
 たとえ想いが報われなくてもよかったのだ。好きなときに会えて、幼なじみとして付き合えればそれで。けれどわたしと鉄平は、まぎれもなく傍からみれば異性どうしなわけで、当然思うようにはいかない。それがどこまでももどかしく、どこまでも寂しかった。
 こんなことなら、男に生まれたかった――そんなことさえ思った。
 もう一度、中学三年のころに戻してくれたなら。
(日菜子よりも先に、気持ちを伝えるのに……)
『あ、誕生日おめでとう』
「え?」
 思い出したような物言いに、わたしはふと携帯から耳をはなしてディスプレイを見た。午前零時だった。
『おまえもまじでそろそろオバチャンだなー!』
 嬉しそうな声が、向こうから聞こえてくる。変わらない明朗な声。誕生日には、毎年欠かさずおめでとうの電話をくれる。日菜子でさえ忘れてしまうことがあるのに。そんなことがいちいち嬉しくて、わたしはいつまで経っても鉄平から離れられないのだ。
(鉄平。あなたのほうから離れてくれたら、どんなにか楽なのに……)
 わたしからは、離れられない。
 こんなに長い年月――なんて不毛な恋なんだろう。もう三十一歳だ。現実の厳しさも、世間の厳しさも、もうじゅうぶんに知っている。
 わたしたちはもう、あのころの少年少女ではない。
 あのころは出来なかったことが、今は出来るようになった。
 そのかわりに、あのころは出来ていたことが、今は出来なくなった。
 わたしたちは、とても自由でどこまでも不自由な、そんな大人になってしまった。

 
 人生は一度きり。やり直しなんてきかないんだよ。

 いつか大人に聞かされた言葉を、大人になってから身をもって知る。



  ◇ ◇ ◇

 
 ――三十六歳、四月。


 
 日菜子が、交通事故で死んだ。

 四十九日の法要が終わった翌日、わたしは鉄平に誘われて三人が通った高校へ足を向けた。
「懐かし……」
 かつて、三人並んで登校した桜並木の歩道。桜の花びらが、春の強い風にあおられて何度も舞った。
 日菜子の明るい笑顔が懐かしかった。どうでもいいことでにこにこと笑う少女で、誰からも好かれていたのを覚えている。この桜並木に感動して、毎日騒いでいたのも日菜子だった。そんな子だったから、鉄平に対する想いを聞いたとき、素直に邪魔したくないと思ったのだった。
「俺、高校三年のときに二回、日菜子に告られてたんだ」
「……うそ」
 日菜子が鉄平に告白をして、それがOKだったと大喜びしていたのは確か大学一年のときだったはずである。驚いて、わたしは鉄平を見上げた。
「初耳だし」
「初めて言ったもん。日菜子が言うなっつーから」
「やだ、何それ」
「まあ、俺さ。そのとき二回とも日菜子のこと、ふっちゃったから」
 唖然としたわたしの頬に、桜の花びらがぺたりと間抜けにはりつく。それを指先でつまんで、鉄平は困ったように笑ってみせた。





「俺、それよりもずっと前から、おまえのことが好きだったもんでさ」




 “ずっと前から、おまえのことが好きだった”






 不思議と喜びはなかった。
 眩暈がするような、妙な絶望感に襲われていた。
 人生は一度きり。やり直しなんてきかないんだよ。
 いつか大人に聞かされた言葉を、大人になってから身をもって知る。




 鉄平。
 わたしだってずっとずっと前から、あなたのことが好きだったのに。




2007-04-30 18:50:19公開 / 作者:ゅぇ
■この作品の著作権はゅぇさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
花の色はうつりにけりないたづらにわがみよにふるながめせしまに。

の和歌をもともとはベースにしていたら、いつのまにかどっか行きました。どうしたんだろう。最近、伝えたいことがうまく伝えられていない気がします。何か……こう、えれぇ拙いなぁと思いながら。

ごめんなさい。

一番最後、どこまで丁寧に書くべきなのか、どこまで削っていいのか、いまいち分かりませんでした。日菜子が死んだからって付き合って万歳、というわけには……いきませんよねぇ普通。長編が上手ってわけでもないけれど、やっぱり読みきりは苦手です。ブー。
この作品に対する感想 - 昇順
 ブー。これが私にはない、しっとりとウェットってことなのか。お勉強になりますね。人に見せることが出来ない自分の醜さに懊悩して、それでも気丈に振舞えばいいの?(一言で言い表せる時点でしっとりウェットではない気がする)
 アンリ・ド・レニエの言葉が真実なら、私は最愛の人とは恋愛できないな。つくづくそう思うね。ああ愛しの人よ!
2007-04-30 21:11:57【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
 ブー。そうなの、ひとに対して引っかかった点は、つまり自分の課題点でもあるわけ。同じ穴のお犬(意味わかんない)でも「気丈」というのはちょっと違う気がするんです。気丈、っていうふうに読めたなら、そりゃー困った困った、しっぱい!!いつかお犬さまさまを唸らせる恋愛小説を書きたいものですけどねー。うふふ。
2007-04-30 21:33:20【☆☆☆☆☆】ゅぇ
 うん、気丈とは違うなあ。硬質だけれど脆い何か。一言で断言できないモヤモヤ。だから小説として書くべきものだと思うんですね。断言できたらスローガンだし。多分この作品の基を為す或る情感を、いい意味でクリアでなく感知できたと思います。
 一方で体裁がクロニクルであることに、まあ別のやり方もあるかなあと。僕ならば三十六歳の地点に手紙や写真を挿入して過去を回想させる小細工をするかなあ。
 何ていうか、ひとりの人間としてはちっとも褒められたことではないのだけれど、話を作る側としては、自分の情感、こころの蠢きを、悪魔的に利用し尽くす功利性って時と場合によっては求められるとも思うんですねえ。もちろんそれは素直さや質朴さを失うリスクも存在する諸刃の剣ではあると思うのだけれど、豊かな感受性をもうちょっと手練手管で加工してやるのも方法としては有効かなと。
 しかしこの感覚って、ついつい個人的な思い出を蘇らせる触媒になるです(笑) 昔好きだった女の子が結婚したのもわりとショックだったけど、子供を産んだって聞いた時はもっと深刻なショックだったなあというのをつい思い出しちまった。
2007-04-30 22:13:27【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
「一言で断言できないモヤモヤ」それ(笑)むずかしくって、本当に嫌になってしまいます。なるほど手紙や写真、それはいいなと思いました。この場合はでも、手紙はむずかしいな。写真かな。
でも最近つくづく思うのは、バランスって大事だなって。そう思います。頑張ってみます。でも書いてる途中って、わたし技巧とかそういうものが、頭からすこーんっと抜けてしまうみたい。ことごとく書き手に向いてないのかしら。
ちょっぴし切ない思い出を思い出させてしまってごめんなさい。笑)感想ありがとうございました^^
2007-04-30 22:20:19【☆☆☆☆☆】ゅぇ
はじめまして、コーヒーCUPと申します。以後、よろしくお願いします。
作品を読ませていただきました。自分なんかが指摘できる部分はありませんでしたので、感想だけ書かせていただきます。
 三人の関係こそベタなものでしたが、物語の進行の仕方が新しいと思いました。一つの年代を書くのではなく、登場人物たちが年をとるというのが自分には少し斬新な感じでした。
 恋愛小説はめったに滅多に読みませんが、この作品は楽しめました。今まで数冊しか読んだことが無い恋愛小説ですが、その中で一番面白かったです。
 社会人になっても連絡を取り合っていた所が、どこかほほえましかっですし、同時に、お互い未練があるんだろうな、と思いました。最後の一行にグッときました。ではでは。
2007-04-30 23:15:50【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
 ブー。気丈じゃ×か。それならなにがいい? 日和見はどう? 自分に言い訳して、ことの成り行きを見守るだけ。ふたりがうまくいったら私も嬉しい。うまくいかなかったら私にチャンスが巡ってくる。どっちに転んでもハッピだと思い込んで、自分ではなにもしない弱さ。気丈だと強いイメージがあるからね。
 私を唸らせるなら王道ですね。チャンピョンロードを歩いてください。だって、私以上の邪道ってあんまり思いつかないもの。うふふー。がんばってー。
2007-04-30 23:57:02【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
よろしくお願いします^^ありがとうございます、読んでいただいて。ベタでしたよねー!!ほんと、ベタ(笑)書きながら思いました。でもベタなのって、あまり嫌いではありません。書くのがけっこう楽しかったです。物語の進行は、私もう少し場面場面のボリュームを出したほうがいいかなとも思ったんですが、やっぱりバランスがわからなくてこんな感じに。でも楽しめたと言っていただけて嬉しい限りです。ありがとうございました^^
2007-04-30 23:57:37【☆☆☆☆☆】ゅぇ
作品を読ませていただきました。物語などでよくあるシチュエーションだけに各年代ごとの記述をもう少し増やして欲しかったです。主人公の心情がメインとはいえ、日菜子・鉄平の人物造形が薄く感じられました。だけど、主人公の感情はしっかりと伝わってくるんですよねぇ……これだけ簡潔なのにどうしてだろう。ひょっとしてこの簡潔さが感情の純度を高めているのだろうか。だとしたら私が先に書いた感想はてんで見当違いと言うことになるな。物足りなさを感じているのに、これでいいのかもしれないと感じる二律背反な作品でした。
最後の1行は不要な気がしました。これまでずっと感情を吐露しているだけに余計な感じがしました。戯れ言を失礼しました。では、次回作品を期待しています。
2007-04-30 23:57:51【☆☆☆☆☆】甘木
ブー。そう、日和見もしっくりこないんだけど、でも気丈よりはふさわしいと思います。そう、何かすっごく弱いの。でも自分じゃ弱いってことを認めたくないから、「ずっと私は我慢してきた。抑えてきた」って言ってみる。こうやって書いてみると、まったく綺麗でも何でもないなー。このへたれが!!って感じだなー(笑
 王道なんですか(笑)そっかー。王道でいかに愉しませるか?何年かかるでしょう。そうですよね、お犬さま、邪道だもんな……。むむ。がんばりますー^^
2007-05-01 00:00:37【☆☆☆☆☆】ゅぇ
何でこう、タイミングが悪いんだ(笑)
甘木さん>ありがとうございます^^そうそう、それも今レスで書いたばかりだった(笑)もう少し各年代ごとのボリュームを増やしたかった気持ちはありました。最近ほんと、過不足が多くて困ります。日菜子と鉄平が薄いのも、やや考えて――というところはあったんですが、日菜子が死んだところが妙に親友にしてはあっさりしてんな、とも思って気になったんですけど……。
最後の一行は、最初はなかったんです。でもその前で切って終わってしまうのが、どうしても自分でしっくりこなくて、やっと見つけた一文だったのでした。だめかなぁ……。悩む。
2007-05-01 00:03:48【☆☆☆☆☆】ゅぇ
拝読させていただきました.ベタと思ってしまう反面,ほんとは“わたし”ってなんか不幸じゃないかなあ,とも思います.最後の一文と,直前の4行は,なんか相反しているような気がします.それ以前の“わたし”の心情から察しても,“ああ,やっぱりこうなっちゃった”というような感じがします.十何年も前から,不幸(かどうかは不明ですが,楽観的な状況ではないのではないでしょうか)になるとわかっていた,けど,わかっているからといってどうにか回避できるものでもないのかしら,でも,やっぱり最終的にはわたしたちって運命共同体だったのよ,みたいな感じでしょうか.不幸か幸福は別として,“わたし”は『やっぱり』的運命論を見出したのではないでしょうか.一読者はそう感じましたが誤読・付加読みの可能性大ですのでご理解ください.感じたことに「うーむ」と考えあぐねることはできましたが,物語としてどうかといわれると,なにか物足りなさを感じました.“わたし”の感情が優先して,ほかのことがみえなかったように感じます.失礼いたしました.
2007-05-01 23:27:42【☆☆☆☆☆】一読者
志保さんを含む時代がどんどん流れて行くのに、一人称の文体に変化が感じられない――ふとそんな違和感を抱いてしまい、読後、ふと思い当たることがあり、無断でテキストをうちのエディターにコピペさせていただいて、いっきに『わたし』を『志保』に置換してみたところ――どんぴしゃ。ほんの2.3箇所を『わたし』に戻し、一人称にしてはくだけすぎた部分を数箇所三人称らしく整えれば、この作品の時の流れは、ごく自然な流れに感じられました。しかしこうした試みは、主観を客観に反転してしまうことになるので、作者様にしてみれば根本的な部分で不快を感じられるかもしれず、そのせつは深くお詫びいたします。
ストーリー自体に関しましては――うるうるでした。しかしまた、一読者として俯瞰した場合、このエンドは必ずしもアン・ハッピーではないようにも思えるのです。36年の歳月の先には、また36年の歳月が存在するかもしれません。
また、それに関して、個人的に、日菜子の遺した子供のことも気にかかります。志保の感情としてはその子に詳細情報を与えたくないのも理解できるのですが、一読者としては、最後の場にその子が点景として出現したらどうなるか、そしてそのことが、これからも続く志保と鉄平の人生になんらかの形で干渉してこないか、そんな勝手な想像も、してしまいました。
なにか作者様の意図とは離れたところで色々言ってしまった気もするのですが、あくまで自分としては、とても好ましい原石に触れた気がするので、率直に評価させていただきます。
2007-05-02 02:41:30【★★★★☆】バニラダヌキ
作品読ませていただきました。
王道といえば王道ですね。でも素直に楽しめました。僕、王道大好きなので(笑)
最後の一行、僕個人としてはすごくよかったです。人生はやり直しがきかないということをうまく表せていると感じました。
淡々と時間が流れていくことに対しては、物足りなさというよりも時間の儚さを感じました。この作品はこれくらい淡々としているからこそこのなんとも言えない読後感があるのかなぁと。

僕がこうして感想を書いている間も時間は流れてるんですよね。僕も後悔しないように夢を叶えようと思いました。
稚拙ではありますが、これで感想とさせていただきます。
面白かったです
2007-05-02 03:25:41【★★★★☆】紅い蝶
 拝読しました。きれいな文章ですね、読んでいて最後まで楽しんですごせました。
 読み終えて気になる点は、年齢的な差異を感じない事。10年、20年の変化よりも10ヶ月、20ヶ月の変化に思えてしまうようなところです。思うに20歳ぐらいの感覚からの30歳であり、36歳のように思えてしまうのですね。36歳からの20歳と、20歳からの36歳、どちらの方面から書いていくのかによってだいぶ見え方が違ってくるのかなと。この辺は書き方の問題なのかもしれません。
 鉄平はなんというかずるいなーと。こういうのが一番性質が悪い、うん。こういう結婚しても子供みたいなのいるんですよね。うん、この手のは恋愛で終わっていくのが一番。なんだかもてない僕の愚痴みたいになってしまいましたw。
2007-05-02 06:10:20【☆☆☆☆☆】カメメ
一読者さん>ありがとうございます。『やっぱり的運命論』、耳慣れない新しい響き(笑)私はけっしてそれを意図して書いてはいなかったのですが、こうやって感想をいただいてみると「なるほどー」と思います。書き手としてダメダメなのかー。そこまで読んでいただいて嬉しいです。物足りなさを指摘されると痛いですね。わたしの感情がとにかく主だったので、あまりほかのことには目を向けていませんでした。でも短編で充実感を味わってもらえるようにするのは、むずかしい!!がんばります笑

バニラダヌキさん>ありがとうございます。お父さん、そんな仕事で疲れているだろうのに……笑)一人称の文体に変化がみられない、というのは私、基本的なことかもしれないけれどまったくの盲点でした。なーんにも考えてなかった。今23歳の私が、普通に14歳とか17歳とか20歳とかのことを回想して書くのと同じ感覚で書いていたので(笑)でもそんなに変化ってするものなのかなぁ、とも疑問に思ったりします。もう少し歳を重ねれば実感するのかな。
 子供を出してしまうと、そこからまた妙な流れが予測されてしまうようで、それが怖くてやめました。終わり方は悩んだんですけどねー…。私のなかでは、これで志保は鉄平のまえから姿を消す。そんな感じなのでした。

紅い蝶さん>ありがとうございます。王道という言い方は何でこんなにもひとに優しいのだろう、と思います。つまるところ”ベタ”(笑)私も王道大好きです。その王道で、ベタな展開で、どこまで相手を魅了できるか、なんだろうなぁと思い「がんばろう」と決意してから数年。なかなか進歩がございませんで…。最後の一行を気に入っていただけて嬉しいです。あの一行が余計か、余計でないかは人それぞれだと思いますが、私にとっては入れるべくして入れた文章だったので^^ありがとうございましたー!

カメメさん>ありがとうございます。きれいな文章って言っていただけるのがとても嬉しいです。そう、それか!!と思いました。20歳ぐらいからの30歳。それ、たぶん今現在のわたしが、36歳の志保になれていなかったからかな、と思います。とうとう最後まで23の自分を脱却できなかった(涙)自分の意識のなかでは36歳からの20歳、っていう感覚なんですが。むずかしいなぁ。
鉄平は、わたしのなかで好きです。むしろ志保があんまし好きでない(笑
ありがとうございましたー!
2007-05-02 12:16:01【☆☆☆☆☆】ゅぇ
初めまして(?)祟られる者です。。

恋愛物は特に疎い私ですが、とても楽しんで読めました。
一気に何年も経って、取り巻く状況や環境が変わる展開の変化に一喜一憂しておりました。
最後の一文に関しては、私は要らない派です。

個人的な観点で、私はこの『わたし』(主人公)が一番嫌いです。
細かな理由は色々あります。が、大雑把に言うならやはり自己嫌悪だったりしますね。。

これだけ次々に環境が変わり、しかも一つの年代が短いと物足りなさを感じます。
しかしこれに何かを付け足せるだろうかと試行錯誤すると何か難しいと思えました。
しかしこの物足りない感じが良いのかもしれません。御腹一杯よりも。
ローキックも後でじわじわ来るらしいです。

このじわじわ感、物足りない感は次回作への期待に変換させるしか――。
と、いう訳で(ぇ)次回作を御待ちしております。長文乱文失礼致しました。。
2007-05-03 16:24:10【★★★★☆】祟られる者
 普段から「萌え萌え」とか言っちゃってる私ですけれど、キャラ萌えってあまりしません。キャラで読むってどーよ? な立場です。ですけれど敢えて好き嫌いを言うなら、日菜子が嫌いだな。天然とか抜かしつつ、仕組んでるだろ絶対。主人公も、そんぐらい気づいとけよ。
 日和見よりもっと意志の弱い、諦観。これじゃない? ほとんど諦めていたから、日菜子が死んでもガッツポーズができなかったのだね、きっと。
 この諦観って、恋愛への諦観じゃないですよ。友愛も含めた、人生への諦観。バニラダヌキ様はああ言うけれど、次の三十六年の人生も主人公は無為に過ごすだろうなあ。
 そろそろ合格点が欲しい。
2007-05-03 23:00:09【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
祟られる者さん>ありがとうございます。やっぱり物足りなさがあるんですよね。もう少し全体的な量を増やしたほうが良かったのかなぁ。ローキック。がんばります。

お犬さま>仕組んでるて(笑)諦観。いやー私のなかの主人公は、やっぱり何か諦観とも違う気がするんです。でもそればっかりはさ、それを的確に伝えられなかったこちらの未熟さでもあるわけで……。私のなかにある志保のそれは「怯え」のような気がしているのです。怯え100%じゃないけど、怯えの色が濃いかな、と。
2007-05-07 09:28:35【☆☆☆☆☆】ゅぇ
読んでいて、途中からすごく辛くなりました。何だか、えぐられる作品でした。
2007-05-29 14:46:57【★★★★☆】目黒(小夜子)
 表現自体がすごくシンプルで、それがより哀しかったです。あぁ、そういうのってあるよね、あるよね。そんな感じ。日菜子が死んじゃったあとも慟哭みたいなのはなくて、静かさが逆に強いかなしさになってて良かったと思います。全体に、刃物でぐさぐさ刺されるような描写はないんだけど、傷口を針で突かれてるみたいな気持ちになりました。
 上の感想見て思ったんですけど、私は日菜子も志保も鉄平も好きです。みんな凄く良い人で一生懸命で、だから哀しいんだと思います。例え日菜子が志保の気持ちに気付いていたとしても、知らないでいたい弱さや強さはそんなに悪いことには思えないです。
ていうかゅぇさんの切ない系ショート、めちゃめちゃ上手いと思いますよ。王道でも文章や流れが綺麗なので問題なし。
2007-06-05 18:10:27【★★★★☆】夢幻花 彩
計:20点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。